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「ポパイ」著作権侵害第3事件:東京地昭和59年(ワ)10103号平成2年2月19日判(一部認容)(1)、東京高平成2年(ネ)734号平成4年5月14日判(棄却)(2)、最高平成4年(オ)1443号平成9年7月17日判(上告認容)(3) 

原告(被控訴人・被上告人):キング・フィーチャーズ・シンジケート・インク、ザ・ハースト・コーポレーション、(有)アメリカン・フィーチャーズ 
被告(控訴人・上告人):(株) 松 寺
〔事  実〕
1. 原告らは、第1に「ポパイ」の漫画の著作権に基づく請求、第2に「POPEYE」ロゴの著作権に基づく請求、第3に不正競争防止法に基づく請求をした。
 ここでは、第1の著作権に基づく請求についてのみ見るが、原告キング・フィーチャーズは、1.被告図柄(一)ないし(六)は、本件漫画の主人公であるポパイのキャラクターの著作物を複製したもの、2.仮に、キャラクターそのものを著作物と認めえないとしても、被告図柄(一)、(二)、(四)、(六)の絵は、本件漫画におけるポパイの絵を複製したもの、と主張した。
2. 被告ポパイは、被告図柄(二)ないし(四)を付した腕カバーを販売し、被告松寺は、被告図柄(五)または(六)を付したネクタイを販売していた。被告大阪三恵は、被告松寺と被告ポパイに対して本件商標の使用を許諾していた。

 

〔東京地裁の判決〕

 

1. 「ポパイ」のキャラクターとは、本件漫画の主人公であるポパイに一貫性を持って付与されている姿態、容貌、性格、特徴等であって、「著作物」の定義規定にいう思想又は感情を構成する重要な要素ではあるが、本件漫画の表現自体ではなく、それから抽出された思想又は感情にとどまるものであるから、思想又は感情を「表現したもの」ということはできず、著作物と認めることはできない。キャラクターを著作物とすることは、著作物の要素の一つである思想または感情自体を著作物として保護するということを意味し、右規定に反する結果を招来する。
 これを別の側面からみるに、ポパイのキャラクターが本件漫画の著作物とは別個の著作物として成立するとするならば、ポパイのキャラクターは、本件漫画の創作的な表現とは別個の創作的な表現として存在しなければならないことになるが、原告キング・フィーチャーズのいうポパイのキャラクターとは、本件漫画の主人公であるポパイがどのような人物であるかを説明したにすぎず、それ自体、創作的な表現として存在するものではないから、本件漫画と離れて別個の著作物を構成するものとみることはできない。したがって、ポパイのキャラクターが本件漫画とは別個の著作物であることを前提とする原告キング・フィーチャーズの主張はその前提を欠き、採用することができない。
 この点に関して、原告キング・フィーチャーズは、本件漫画は、長期間連載され、その間に多数の絵が描かれているのであるが、多数の絵が関連性なく描かれるのではなく、その登場人物の姿態、容貌、性格等が一貫性を持って描かれるのであるから、本件漫画には、その登場人物についてキャラクターが表現されているから、キャラクターは著作物たり得るものである旨主張するが、本件漫画は、その登場人物についてキャラクターが抽出されるとしても、ポパイのキャラクターをもって本件漫画の著作物とは別個の著作物を構成するものと認めえないから、原告キング・フィーチャーズの右主張は採用の限りでない。
 また、原告キング・フィーチャーズは、ポパイの名称もキャラクターの一態様として保護されるべきであると主張するが、ポパイのキャラクターをもって本件漫画とは別個の著作物を構成するものと認めえない以上、右主張も採用しえない。 2. 被告図柄(一)、(二)、(四)及び(六)における絵は、本件漫画の主人公であるポパイを表わしたものであることが明らかであるから、本件漫画のどの画面のポパイの絵であるかを特定するまでもなく、本訴漫画のポパイの絵を複製したものと認めるのが相当である。
 被告らは、原告キング・フィーチャーズは、本件漫画について具体的な画面を特定して、本件漫画の複製権侵害をいうべきである旨主張するが、被告図柄(一)、(二)、(四)及び(六)の絵は、本件漫画の主人公であるポパイを表したものであることが明らかであって、本件漫画の主人公であるポパイの絵を複製したものと認められるから、それ以上に本件漫画について具体的な画面を特定して主張する必要はない。
 被告らは、被告図柄(一)、(二)、(四)及び(六)の絵は、いずれも原告らが証拠として提出した本件漫画におけるポパイの図柄、姿態とも、外観上相違しており、ポパイの絵の再製ということはできない旨主張するが、たとえ被告図柄(一) 、(二)、(四)及び(六)の絵が、原告らが証拠として提出した本件漫画におけるポパイの図柄、姿態と外観上相違するところがあるとしても、被告図柄(一)、(二)、(四)及び(六)の絵は、本件漫画の主人公であるポパイの絵を表したものであり、本件漫画の主人公であるポパイの絵を複製したものと認められるから、被告らの右主張も、採用の限りでない。
3. 別紙第一目録(三)及び(五)によれば、被告図柄(三)及び(五)には、「ポパイ」又は「POPEYE」の文字の記載があり、右文字は本件漫画の主人公であるポパイの名称を意味するものであるが、本件漫画の主人公であるポパイの名称は、単にそれだけでは思想又は感情を創作的に表現したもの、すなわち著作物ということはできないから、被告図柄(三)及び(五)は、著作物を複製したものということはできず、被告らが被告図柄(三)及び(五)を付した商品を販売した行為は、本件著作権侵害を構成しないものというべきである。
4. 被告らは、本件著作権の保護期間は、別紙保護期間計算書のとおり、あと僅かである旨主張するが、本件漫画は、1929年1月17日から現在に至るまで、連続して著作され、新聞紙等に継続的に連載されいるのであるから、その保護期間は、新聞等に連載された各漫画ごとに、個別に起算されるべきものであるところ、被告らは、1959年1月17日に新聞に掲載された別紙第二目録(二)記載の漫画を基準にして本件漫画の保護期間を計算するものであり、計算の基準を誤るものといわざるをえない。したがって、原告キング・フィーチャーズの本訴請求は、権利の濫用として許されないとの被告らの主張は、採用するに由ないものといわざるをえない。
5. 原告キング・フィーチャーズの本件著作権に基づく被告大阪三恵及び被告ポパイに対する被告図柄(一)、(二)、(四)を付した腕カバーの販売の差止め及び 右腕カバーからの被告図柄(一)、(二)、(四)の抹消並びに被告大阪三恵及び被告松寺に対する被告図柄(六)を付したネクタイの販売の差止め及び右ネクタイからの被告図柄(六)の抹消請求は理由がある。
6. 原告マガジンハウスは、本件ロゴタイプは著作物である旨主張するが、別紙第二目録(三)によれば、本件ロゴタイプは、「POPEYE」の文字を丸みのある字体にし、かつその文字に白抜きのハイライト(光が当たったように見え、立体性を強調する手段)を付したものであることが認められるが、ポパイ又は「POPEYE」の名称自体は、著作物として保護しえないものであることは説示するとおりであり、また本件ロゴタイプは、丸みのある字体にし、かつ、その文字に白抜きのハイライトを付したものであって、文字に装飾という美的表現を施したものではあるが、書の著作物のように、専ら鑑賞の対象として美を表現しようとするいわゆる純粋美術ではなく、「POPEYE」の文字の意味するところを伝達するための手段としての実用的なものと認められるから、文学,芸術,美術又は音楽の範囲に属するものということはできず、したがって本件ロゴタイプは著作権法にいう著作物と認めることはできない。原告マガジンハウスは、文字にハイライトを付したのは、鑑賞を目的とするからであって、書や花文字に著作物性が肯定されているように、本件ロゴタイプも、著作物として保護されるべきである旨主張するが、本件ロゴタイプは書のように専ら鑑賞用の意図をもって創作されたものではなく、あくまで文字自体の意味するところを伝達するための手段としての実用的なものと認められるから、書のように美術の著作物ということはできず、したがって原告も右主張は採用することができない。
〔東京高裁の判決〕
1. 附帯控訴人主張に係るポパイのキャラクターに著作権が発生するというためには、当然のことながら、キャラクターが著作権2条1項1号の要件を充足し、著作物に該当することが必要である。右法条は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、芸術、美術は音楽の範囲に属するものをいう。」としているところ、附帯控訴人主張に係るポパイのキャラクターは、本件漫画の主人公であるポパイに作者が一貫して付与し、また作者の創作意図が個々の具体的な漫画を超えたいわばポパイ像とでもいうべきものをいうものと解される。したがって、かかる意味でのポパイ像それ自体が、一定の「思
想又は感情」を内容とするものであることは、前記の主張自体に照らして肯認することができる。
 しかし、著作物というためには、「思想又は感情」が単なる内心に止まるものでは足りず、外面的な表現形式をとっていることが必要であるが、附帯控訴人主張に係るポパイのキャラクターなるものは、個々の具体的なポパイ漫画それ自体ではなく、これらの個々の漫画を通じて主人公ポパイに著作者が付与しようとした特定の観念それ自体であるというべきであるから、これが個々具体的な漫画とは別個の外面的な表現形式をとっているものということはできない

2. エルジー・クライスラー・シーガーは、1919年からニューヨーク・イブニング・ジャーナルに漫画「シンブル・シアター」の連載を開始した。その1929年1月17日掲載の漫画にポパイを脇役的存在として登場させたが、1932年になって初めて、ポパイを、基本的に正直で、忠実で善悪の区別を絶対的に信じ、人間に対する真の愛情を有するという特徴を備えた人物として明確に描き、以来、かかる特徴を有する人物としてのポパイがシンプル・シアターの主人公として登場することとなり、かくして、ここにポパイ像が確立されたとの事実が認められるところ、かかるポパイの人物像成立の経緯をみても、附帯控訴人指摘のポパイの人物像は、個々の具体的な漫画を通して次第に確立されたものであって、これが個々の具体的な漫画を離れ、これとは別個の創作性を有する表現形式として存在するものでないことは明らかである。
 したがって、附帯控訴人主張に係るポパイのキャラクターなるものとは、ポパイの個々具体的な漫画を離れて、これとは別個の創作性を有する外部的表現形式として存在するということはできないから、著作権法2条1項1号の要件を 充足していないといわざるを得ないものというべきであり、この点に関する附帯控訴人の主張は採用できない。
3. ポパイの名称も前記キャラクターの一態様として著作権法上保護されるべきであるとする附帯控訴人の主張は、その前提において既に失当であるから、これが採用できないことは明らかである。
4. 著作物の複製とは、既存の著作物に依存し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうものと解すべきである(最高裁昭和53年9月7日第三小法廷判決、民集32巻6号1145頁参照)ところ、右図柄と〈証拠〉を対比すれば、同図柄が原著作物である本件漫画における主人公のポパイの有する容貌ないし姿態の極めて個性的な特徴をすべて具備しており、ポパイ漫画を知っているものであるならば誰でも、右図柄を一見すれば、これが本件漫画の主人公であるポパイを表現したものであることを、直ちに覚知することができるものであることは明らかである。したがって、図柄(六)が本件漫画の主人 公ポパイの絵を覚知させるものであることについては疑問の余地がなく、かつ図柄(六)が本件漫画の主人公であるポパイの絵に依拠するものであることは、同図柄がポパイの有する容貌ないし姿態の極めて個性的な特徴点をすべて具備していることから優に推認することができ、また控訴人においてもこれを明らかに争わないところである。そうすると、図柄(六)は、本件漫画の主人公ポパ イの絵の複製に当たるというべきである。
 この点について、控訴人は、本件漫画の複製であるというためには、本件漫画中の具体的な画面を特定する必要があると主張するが、著作権法にいう複製の要件は、原著作物に依拠し、原著作物の内容及び形式を知覚させるに足りるものを再製したこと、すなわち、原著作物と同一性のある著作物を再製したことを主張、立証すれば足りるのであって、原著作物の特定の画面を特定することまで必要とするものではない(かかる事柄は、右複製における同一性の要件の主張立証上における単なる間接事実の問題にすぎないものというべきである。)から、控訴人の右主張は独自の主張であって、採用できない。
5. 控訴人は、図柄(六)は、附帯控訴人らが本件訴訟において証拠として提出した本件漫画におけるポパイの絵と異なると主張するが、著作権法における複製の要件は、原著作物に依拠し、これと同一性を有するものを作成すれば足りるものであって、完全に同一であることまで要するものではないところ、図柄(六)が原著作物である本件漫画におけるポパイの絵と同一性を有することは前述したとおりであるから、控訴人の右主張も採用できない。
6. 控訴人は、言語的著作物と絵画的著作物の両方の性質を兼ね備える漫画におけるキャラクターの著作権の発生根拠は、絵画的著作物の具体的絵画に求められるべきであるとの観点から、既に第一回の漫画で表示された絵画的著作物にキャラクターとしての共有特徴を備えた絵画(原画)が表示されている以上、第二回以降の刊行物において、単に手足の動かし方などに多少の変更を加えた絵画が描かれたとしても、単なる変形にすぎず、新たに著作権が発生するものではないとし、本件においても1.水兵帽をかぶし、2.水兵服を着、3.口にマドロスパイプをくわえ、4.腕に錨の入れ墨を有するというポパイの共有特徴は、既に1929年1月17日の第一回掲載漫画の3コマ目ないし5コマ目の公表されたポパイの絵画に表示されているから、この日をポパイのキャラクターの著作物としての公表日とすべきであり、そうすると、本件漫画のポパイのキャラクターの著作権は既に保護期間が満了している、と主張する。
 絵画と言語の組合せからなる漫画は、両者が不可分一体な有機的関係をもって結合した形態において、初めて著作者の特定の思想、感情を創作的に表現するところの一表現形式であり、このことは、本件漫画においても、〈証拠〉を見れば一見して明らかとなるところである。したがって、かかる絵画表現と言語表現が不可分の有機的結合関係にある漫画における著作権保護の対象は、両者の結合した有機的一体をなした表現形式としての個々具体的な漫画に求められるべきであり、控訴人主張のように、絵画と言語とが有機的結合関係にある漫画から、それぞれの表現手段を分離抽出して、著作権法における保護の対象を各表現手段毎に別々に論ずることはできないものというべきである。
7. 確かに、控訴人主張に係るポパイの容貌、姿態における共有特徴なるものは、〈証拠〉によれば、既に控訴人指摘の漫画に現れているものということができるが、だからといって、かかる共有特徴を有する主人公ポパイが登場する右以外の漫画における言語と絵画との有機的結合に著作物性がないとすることはできない。
8. 以上の見地からすると、本件漫画については、少なくとも、一連の完結形態を有するものとして発表された漫画毎に著作権が発生するものと解すべきであるから、その保護期間の起算日は、右一連の完結形態を有する漫画が発表された時が著作権法56条1項の「公表の時」に当たるものと解し、右発表の時か ら起算すべきものとするのが相当であるところ、本件漫画が少なくとも1989年4月28日の時点においても継続して著作、出版されていることは既に認定したとおりであるから、いまだ主人公ポパイの登場する本件漫画の著作権の保護期間が満了していないことは明らかであるというべきである。
 控訴人は、控訴人主張のように解さないと、ポパイのキャラクターについては永遠に保護期間が満了しないという不都合が生ずると主張するが、ポパイのキャラクターを表現する漫画が永遠に継続して発表されるものでないことは明らかであるし、創作性を有する漫画が継続して発表されている以上、その保護期間が満了しないのは当然のことであって、これをもって不都合とすることはできない。したがって、控訴人の前記保護期間満了を理由とする本件漫画の著作権の消滅の主張はその前提において独自の見解に立脚するものであって、到底採用できるものではない。
9. 控訴人による著作権の時効取得の抗弁に対する判断についての紹介は、省略する。
〔最高裁の判決〕
上告理由第一点に対して
1. 上告人(被告)は、次のように主張して争った。
1. 本件漫画は法人著作であり、昭和4年(1929年)1月17日に公表された第一回作品の著作権の保護期間は、平成2年5月21日の経過をもって満了した。
2. キャラクターが独立の著作物であるとすれば、本件におけるポパイのキャラクターも法人著作であり、その著作権の保護期間は本件漫画に最初にポパイが登場した第一回作品の公表時から起算すべきであるから、前記日の経過によって満了した。
3. 本件漫画につき、連載に係る各回の漫画ごとに著作権が成立し、その保護期間も個別に各公表時から起算するとしても、第一回作品の後に新聞、単行本に連載ないし掲載された漫画(以下「後続作品」という。)の著作権は、後続作品において新たに付与された創作性のある部分についてしか主張することができない。
4. 本件では、既に第一回作品において主人公ポパイの特徴を備えた絵が表示されており、後続作品に表示されているポパイの絵はその複製にすぎず、本件図柄一は後続作品において新たに付与された創作性のある部分を含むものではないから、後続作品の著作権に基づいて上告人の本件図柄一の使用の差止めを求めることもできない。
2. 原審(控訴審)は次のように判断して、被上告人キング・フィーチャーズの本件漫画の著作権に基づく、本件図柄一に対する差止請求を認容した。
1. ポパイのキャラクターが本件漫画を離れて別個の著作物であるということはできない。
2. 本件図柄一は本件漫画の主人公ポパイの絵の複製に当たる。
3. 本件漫画については、連載に係る各回の漫画ごとに著作権が成立し、その保護期間も個別に各公表時から起算すべきものであるから、第一回作品の著作権の保護期間が平成2年5月21日の経過をもって満了しても、後続作品には著作権の保護期間が満了していないものがある。
4. 第一回作品において主人公ポパイの特徴を備えた絵が表示されていても、後続作品のうちいまだ著作権の保護期間が満了していない漫画の著作権に基づいて上告人の本件図柄一の使用の差止めを求めることは許される。
3. しかし、原審判断のうち4.の部分は是認することができない。その理由は次のとおり。
1. 著作権法上の著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもので」(同法2条1項1号)とされており、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が、反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。けだし、キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないからである。したがって、一話完結形式の連載漫画においては、著作権の侵害は各完結した漫画それぞれについて成立し得るものであり、著作権の侵害があるというためには連載漫画中のどの回の漫画についていえるのかを検討しなければならない。
2. このような連載漫画においては、後続の漫画は、先行する漫画と基本的な発想、設定のほか、主人公を始めとする主要な登場人物の容貌、性格等の特徴を同じくし、これに新たな筋書きを付するとともに、新たな登場人物を追加するなどして作成されるのが通常であって、このような場合には、後続の漫画は、先行する漫画を翻案したものということができるから、先行する漫画を原著作物とする二次的著作物と解される。そして、二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である。けだし、二次的著作物が原著作物から独立した別個の著作物として著作権法上の保護を受けるのは、原著作物に新たな創作的要素が付与されているためであって(同法2条1項11号参照)、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分は、何ら新たな創作的要素を含むものではなく、別個の著作物として保護すべき理由がないからである。
3. そうすると、著作権の保護期間は、各著作物ごとにそれぞれ独立して進行するものではあるが、後続の漫画に登場する人物が、先行する漫画に登場する人物と同一と認められる限り、当該登場人物については、最初に掲載された漫画の著作権の保護期間によるべきものであって、その保護期間が満了して著作権が消滅した場合には、後続の漫画の著作権の保護期間がいまだ満了していないとしても、もはや著作権を主張することができないものといわざるを得ない。
4. ところで、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうところ(最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照)、 複製というためには、第三者の作品が漫画の特定の画面に描かれた登場人物の絵と細部まで一致することを要するものではなく、その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りるというべきである、
5. これを本件についてみるに、原審の前記認定事実によれば、第一回作品においては、その第三コマないし第五コマに主人公ポパイが、水兵帽をかぶり、水兵服を着、口にパイプをくわえ、腕にはいかりを描いた姿の船乗りとして描かれているところ、本件図柄一は、水兵帽をかぶり、水兵服を着、口にパイプをくわえた船乗りが右腕に力こぶを作っている立ち姿を描いた絵の上下に「POPEYE」「ポパイ」の語を付した図柄である。これによれば、本件図柄一に描かれている絵は、第一回作品の主人公ポパイを描いたものであることを知り得るものであるから、右のポパイの絵の複製に当たり、第一回作品の著作権を侵害するものというべきである。
 ところで、アメリカ合衆国国民の著作物については、平成元年3月1日以降はベルヌ条約により、それ以前は万国著作権条約によってわが国がこれを保護する義務を負うことから、日本国民の著作物と同様の保護をうけるところ(著6条3号参照)、本件漫画は法人著作であり、その著作権の保護期間は公表後50年であって、昭和4年(1929年)1月17日に公表された第一回作品の著作権の保護期間は、右公表日の翌年である昭和5年1月1日を起算日として、連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律4条1項によるアメリカ合衆国国民の著作権についての3794日の保護期間の加算をして算定すると、平成2年5月21日の経過をもって満了したから、これに伴って、第一回作品の著作権は消滅したものと認められる。
 前記の原審認定事実によれば、本件図柄一は、第一回作品において表現されているポパイの絵の特徴をすべて具備するというに尽き、それ以外の創作的表現を何ら有しないものであって、仮に後続作品のうちいまだ著作権の保護期間の満了していないものがあるとしても、後続作品の著作権を侵害するものとはいえないから、被上告人キング・フィーチャーズは、もはや上告人の本件図柄一の使用を差し止めることは許されないというべきである。
6. したがって、これと異なる見解に立って、後続作品のうちいまだ著作権の保護期間の満了していない漫画の著作権に基づいて上告人の本件図柄一の使用を差し止めることが許されるとして、被上告人キング・フィーチャーズが著作権に基づいて本件図柄一を付したネクタイの販売の差止め及び上告人の所有するネクタイからの同図柄の抹消を求める請求を認容すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、同被上告人の請求中、本件図柄一を付したネクタイの販売の差止め及び上告人の所有するネクタイからの同図柄の抹消を求める部分につき、原判決は破棄を免れない。そして、右部分につき第一審判決を取消して、右部分に関する同被上告人の請求を棄却すべきものである。
上告理由第二点に対して
上告人の本件図柄一の複製権についての取得時効の抗弁は認められなかったが、省略する。
〔研 究〕
1. 最高裁判決は、2つの著作権問題について結論を出した。
 第1は、キャラクター「ポパイ」が登場する連載漫画において、“Popeye The Sailor”のキャラクターの絵が有する著作権の存続期間の始期と終期。第2は、上告人による本件図柄一の複製権の時効取得。
 ここでは、第一の問題の判決についてのみ論ずることにし、第二の問題については割愛する。ただ、最高裁は、原審が、上告人の取得時効の抗弁を排斥したことに対し、これを是認できないとし、場合によってはその抗弁は採用されることもあるとし、著作権についての時効取得の可否についての肯定説と否定説の対立に終止符を打ったといえよう。(4)
2. さて、上申理由第一点に対し、最高裁は、「サザエさん」事件の東京地裁判決の考え方を批判していた小生の説(5)を採用し、被上告人(著作権者)自身が特定した「ポパイ」キャラクターの絵が1929年1月17日に公表した日を存続期間の始期とし、これにわが国著作権法における法人著作権の存続期間に3794日の戦時加算期間を計算して、1990年5月21日を終期と認定したが、妥当である。(著者の説については、前記「ポパイ」第2事件の東京地裁判決に対する「判例時報」152号131頁における判決紹介の冒頭欄で評釈者によって紹介されており、最高裁の判断が待たれるところであると述べられていた。)
3. ところで、最高裁は、キャラクター自体の著作物性は否定しても、「著作権の侵害があるというためには連載漫画中のどの回の漫画についていえるのかを検討しなければならない。」と述べていることは、被上告人(著作権者)は、これまでに連載漫画に登場したキャラクター「ポパイ」の多くの絵の中からコマを特定し、上告人(商標権者)がそれに依拠して商標登録の出願をしたり商品化をしていることを、立証しなければならないことを意味する。
 その結果、最高裁は、「本件図柄一に描かれている絵は、第一回作品の主人公ポパイを描いたものであることを知り得るものであるから、右のポパイの絵の複製に当たり、第一回作品の著作権を侵害するものというべきである。」と認定したのである。
 したがって、最高裁は、キャラクター「ポパイ」の絵を特定し、それによって発生した同絵の著作権の存続期間を計算して満了とし、その後、著作権は消滅していると判断したことは、ごく自然な考え方であるといえる。



注 
(1) 無体裁集22巻1号34頁
(2) 知的裁集24巻2号385号
(3) 民集44巻5号876頁
(4) 牛田利治「キャラクターの保護期間」知財管理vol.48 No.5 p.671
(5) 牛木理一著「商品化権」92頁

[牛木理一]