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立体商標「筆記具」拒絶審決取消請求事件:東京高裁平成11(行ケ)406号.平成12年12月 21日判決(棄却)〔18民部〕

〔キーワード〕 
立体商標、筆記具の形状の範囲、商品の機能・美感、自他商品の識別力

 

〔事  実〕

 

 原告K社は、平成9年4月1日、別紙記載の本願商標を、「第16類  鉛筆,ボールペン,その他の筆記用具」を指定商品として、立体商標の出願をしたところ、拒絶査定を受けたので不服の審判請求をした。しかし、次のような理由によって請求は成り立たず、との審決がなされた。
「立体商標は、商品若しくは商品の包装又は役務の提供の用に供する物(以下「商品等」という。)の形状も含むものであるが、商品等の形状は、本来それ自体の持つ機能を効果的に発揮させたり、あるいはその商品等の形状の持つ美感を追求する等の目的で選択されるものであり、本来的(第一義的)に商品・役務の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として採択されるものではない。
 商品等の形状に特徴的な変更、装飾等が施されていても、それは商品等の機能、又は美感をより発揮させるために施されたもので あって、全体としてみた場合、商品等の機能、美感を発揮させるために必要な形状を有している場合には、これに接する取引者、需要者は当該商品等の形状を表示したものであると認識するにとどまるというのが相当である。
 商品等の形状は、同種の商品等にあっては、その機能を果たすためには原則的に同様の形状にならざるを得ないものであるから、取引上何人もこれを使用する必要があり、かつ、何人もその使用を欲するものであって、一私人に独占を認めるのは妥当でない。
 そうとすれば、商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状である場合はともかくて、商品等の形状と認識されるものから成る立体的形状をもって構成される商標については、使用をされた結果、当該形状に係る商標が単に出所を表示するのみならず、取引者、需要者間において当該形状をもって同種の商品等と明らかに識別されていると認識することができるに至っている場合を除き、商標法3条1項3号に該当し、商標登録を受けることができないものと解す べきである。」

 

〔判  断〕

 

1 取消事由1、2(商標法3条1項3号関係)について
(1) 本願商標は、指定商品を「鉛筆、ボールペン、その他の筆記用具」として、別紙のとおりの立体的形状のみから成る立体商標として登録出願されたものであるところ、証拠及び弁論の全趣旨に照らすと、取引者、需要者が本願商標に係る形状に接した場合、最下部が細い筆記用の芯部分で、その上の中間部は指で挟み持つことのできる丸い棒状の支持部分となっており、上部は平板で幅広に拡大していて、その中央部は紙片等を挟み得るほぼ長方形のクリップ状になっていることを認識することができ、簡便な鉛筆又はボールペンという筆記用具が一般的に有するものとして予想し得る形状の特徴を備えているものと感得することができるものと認められる。そして、その形状は、全体としてまとまりがよくスマートな印象を与え、主としてゴルフスコアカード記入用等の筆記用具として用いられる鉛筆又はボールペンであることを推認させるものとなっている。
 本願商標に係る立体的形状は、このようにまとまりがよくスマートな印象を与え、それなりの特徴を有するものであるものの、簡便な鉛筆又はボールペンという筆記用具の用途、機能から予測し難いような特異な形態や特別な印象を与える装飾的形状等を備えているものとは認められず、取引者、需要者にとっては、本願商標から、これらの筆記用具が一般的に採用し得る機能又は美・感を感得し、筆記用具の形状そのものを認識するにとどまるものと認められ、その形状自体が自他商品の識別力を有するものと認めることはできない。
(2) そして、本件全証拠によるも、「本願商標は、前記認定のとおり、筆記用具の形状の特徴を備えたものであり、後部を平たいクリップ状としたのは、紙片等を挟みやすく、落ちにくくする等の機能を効果的に発揮させるために採択されたとみるのが相当であり、それが直ちに本願商標に関し自他商品の識別性に影響を与えるとは認め難く、需要者もまた、筆記用具の形状の範囲のものと認識するにすぎないとみられるものである。」とした審決の判断を覆すべき事実関係を認めることはできない。したがって、本願商標は、その指定商品である鉛筆、ボールペン、その他の筆記用具の形状の域を出るものではなく、指定商品の物の形状の範囲を出ないと認識する形状のみから成る立体商標にすぎないというべきであり、指定商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみから成る商標に該当する。
(3) よって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当するとした審決の判断に誤りはなく、取消事由1、2は理由がない。
2 取消事由3(商標法3条2項関係)について
(1) 甲号証は、別紙の本願商標の図示をそのまま引用して、本願商標が付された筆記具を、1.製造販売者である原告から平成5年5月21日から平成9年5月20日までの期間に毎年16万個ないし34万個購入したこと、2.平成5年には、上記図示に表された商標は、原告 の製造販売に係る商品「筆記具」について広く知られており、引き続きその度合が高まりつつ現在に至っていること、3.遅くとも・・・年には、上記図示に表された商標は、原告の製造販売に係る 商品「筆記具」について広く一般に知られていたこと(・・・の年 については、各証明書によって昭和56年から平成9年まで各別の 記載がある。)、などの事実評価についての卸売業者の証明書であるが、その形式は、原告が上記事項を記載したものに「上記の通りであることを証明する。」というものになっているものであって、上記2.、3.の総合的な判断を要する事実評価については客観的に記載されているものと直ちに認めることはできない。甲号証にも、上記3.と同様の事実評価を証明するゴルフ用品販売業者と思われる会社担当者の証明記載があるが、同様、原告が記載したものに証明する形式となっており、そこに記載の事実評価を直ちに採用することはできない。
(2) 上記1.の販売個数については他にこれを覆すべき証拠もないので、そこに記載のとおりの相当数の個数の筆記具が、原告により本願商標を付して製造販売されたものと推認されるが、他方、甲号証によれば、原告により製造販売された本願商標に係る形状の鉛筆には、表に「OKAYA」「Pegcil」裏に「JAPAN」「pegcil」との表示が付され、ボールペンには表に「OKAYA」「Pegcil」裏に「JAPAN」と表示されていることが認められる。しかし、原告が本願商標を付して製造販売した鉛筆やボールペンで、「OKAYA」 「Pegcil」の文字標章が付されていないもの、すなわち、本願商標のみが付された筆記具が製造販売されたことを認めるべき証拠はなく、また、これらの文字標章が識別標章として格別の機能を有するものではないとすべき理由は見いだし難い。
 甲号証には、上記の鉛筆、ボールペンは、本願商標を付した筆記具として広く認識されているとの記載部分があるが、本願商標の立体形状が、前判示のとおり、指定商品である筆記用具としての物の形状の範囲を出ないものであることを前提にしてみると、本願商標に係る形状の鉛筆やボールペンでこれらの文字標章が付されないものが、原告の製造販売に係るものであると広く認識されていたものとはにわかに認め難く、他に、そのような事実関係を認めるべき客観的な証拠はない(取消事由3の(5)で原告が挙 示する甲号各証をもってしても、これを認めるに足りるものではない。)。
 したがって、原告の製造販売に係る鉛筆やボールペンに使用されてきた標章のうち、本願商標の立体的形状のみが独立して自他商品の識別力を有しているものということはできないから、本願商標が使用により自他商品の識別機能を有するに至ったものと認めることはできない。
(2)-1 よって、本願商標は商標法3条2項に該当しないとした審決の認定、判断に誤りはなく、取消事由3も理由がない。

〔研  究〕

1. 立体商標の登録制度がわが国商標法に導入されようとしていた審議時に、商品の形状に自他商品の識別力が発揮されるような特異性が認められるものであるならば、意匠法による保護対象となる意匠であっても、商標法によって保護することができるのか、という議論があった。両法の保護領域は明確に区別すべきであるという主張は、その権利の存続期間が大きく異なることを実際的な理由の一つとしていたが、本質的には物品が発揮する機能や美感に重要点をおいて創作した形状ないし形態について、もし商標法による保護を要求するのであれば、自他商品の識別力を発揮しているという周知性を立証することを条件とすべきである、と筆者などは論じたものである。
 この立体商標の登録制度は、いわば商品表示性を有する商品形態が周知性と混同性の要件をクリアした場合、不正競争防止法によって保護されるとした従来の不正競争行為の禁止類型に属するものを、商標法の登録制度によって客観的に確認しておくという、一歩前進した制度を導入することを意味していた。
 このような理論的背景をもって誕生した立体商標制度であるから、特許庁における商標の審査が慎重かつ消極的になるのは当然であり、物品の形状のみから成る商標の出願に対しては、商標法3条2項による周知性の立証がなされない限り、登録しない方向に審査がシフトされているのはやむを得ないのである。
 したがって、通常の出願で立体商標まがいのものが登録されている例は、商品の形状に何らかの識別力のある文字が表示されている場合が殆んどのようである。
2. そこで、本件において原告は、商標法3条2項の適用を求めていくつかの証明書等を証拠に提出していたが、審決も判決もその信憑性を疑ったのである。その理由の一つに、卸売業者発行の証明書が「上記の通りであることを証明する。」という、原告が予め作成記載したものを単に証明する形式のものでは、事実評価の信憑性が疑わしいことから採用されなかった点がある。
  商標法3条2項の適用を受けて登録されるために必要な証拠方法については、特許庁発行の「審査基準」に発表されているから、これに忠実に従うべきであろうが、困難な作業ではある。

[牛木理一]