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出願商標「カリフォルニアこまち」拒絶審決取消請求事件:東京高裁平成12(行ケ)1号.平成12年9月21日判決(棄却)〔18民部〕

〔キーワード〕

地名結合商標、出所識別機能

〔事  実〕

 原告は、平成8年12月10日、第30類「米」を指定商品として、標 章「カリフォルニアこまち」についての商標登録出願をしたところ、旧33類「粉類、その他本類に属する商品」を指定商品とした昭和63年5月26日に設定登録された商標登録第2049806号に係る標章「こまち/小町」の登録商標が引用され、これと類似するとして、商標法4条1項11号の適用を受けて拒絶査定された。
 そこで、原告は不服の審判請求をしたところ不成立となったので、審決取消訴訟を請求したのである。
 原告が争った取消事由の要点は2つあった。第1は、両商標は称呼,観念において別異であること、第2は、地名が結合して登録された商標の例は多数あるのに、審決は単に「事案が違う」としか記載せず、明確な理由を示していないことにあった。

 

〔判  断〕

 

1 取消事由1について
(1)(ア) 本願商標の構成が「カリフォルニアこまち」の文字を横書し、指定商品を第30類の「米」とするものであること、これに対し、引用商標が「こまち」の文字と「小町」の漢字を上下2段に書してなり、指定商品を旧第33類「粉類、その他本類に属する商品」とするものであること、本願商標の構成中の「カリフォルニア」の文字は片仮名であり、「こまち」の文字は平仮名であるから、視覚上、それぞれの文字部分に分離して看取されるものであることは、当事者間に争いがない。
(イ) そして、両者に共通する「こまち」の文字部分について、乙第1号証(株式会社三省堂発行、新明解国語辞典・第5版)及び弁論の全趣旨によれば、「こまち」の語は、美人の代表とされた小野小町の再来の意として、「(その町で評判の)美しい娘、小町娘」を意味するものとして、一般に広く知られているものであることが認められる。
 また、弁論の全趣旨によれば、この「こまち」という語は、昔から地名などを冠して使われることが多く、その場合、一般的には、「当該地で評判の美しい娘」という一連の意味合いが自然に生じて不可分一体の語句として理解され得るものであると認めることができる。
 しかし、本願商標の構成中の「カリフォルニア」の文字部分についてみると、カリフォルニアがアメリカ合衆国太平洋岸の州であり、我が国との関係が密接であること、カリフォルニア州において農作物の栽培も盛んであり、同州で栽培される米をカリフォルニア米と称していることについては争いがなく、乙第2号証ないし第9号証及び弁論の全趣旨によれば、「カリフォルニア」の語は、我が国と極めて密接な関係のあるアメリカ合衆国の州名を表すものとして周知であるところ、カリフォルニア州で生産された米が「カリフォルニア米」と称されて我が国にも輸入され、市場に出回っていることは広く知られており、「カリフォルニア」は、海外における米の産出地として著名となっていることが明らかである。そして、我が国のマスコミにおいて、例えば、「おいしいアメリカ」と題する記事で、カリフォルニア米のあきたこまちを使ったジャンバラヤを取り入れた日本の駅弁が紹介されるなどしている(1997年8月1日付日本経済新聞、乙第9号証)。
 他方、本願商標の構成中の「こまち」の文字についてみると、「こまち」あるいは「小町」の語は、本願商標の指定商品である「米」の著名な品種である「あきたこまち」の例にみられるように、日本の地名を冠して一連の語として使用されることが多いのに対し、本願商標のように、外国の地名と組み合わされて使用される例はいまだ乏しいことは顕著な事実である。
 原告は、本願商標「カリフォルニアこまち」から「カリ フォルニアで評判の美人」あるいは「カリフォルニアの美しい娘」なる一連の観念のみが生ずるものと主張するところ、なるほど、地名と「こまち」との組合せからなる本願商標に接した場合、原告主張の上記のような観念を想起することもあり得るものと推認することができる。しかし、上記説示のとおり、外国の地名と「こまち」とが組み合わされて使用される例は極めて少ないこと、及び我が国においても「カリフォルニア米」が広く知られていることなどから、指定商品である「米」との関係では、本願商標の「カリフォルニア」の文字部分から米の産出地である「カリフォルニア州」を想起するか、「カリフォルニア産の米」すなわち「カリフォルニア米」そのものを想起する場合も少なくないものと認められ、原告が主張するように本願商標からは「カリフォルニアで評判の美人」あるいは「カリフォルニアの美しい娘」なる一連の観念のみが生するものと認めることはできない。
(ウ) 以上によれば、本願商標をその指定商品の「米」について使用した場合、それに接する需要者、取引者は、本願商標の構成中の「カリフォルニア」の文字について、海外における著名な米の産出地であるカリフォルニア州を表示したものと理解するか、カリフォルニア米を想起する場合が少なくないであろうから、単に産地、品質を表示するものとして出所識別機能を欠いており、その指定商品の識別の標識としては、「こまち」の文字部分に着目して、これより生ずる「コマチ」の称呼をもって商品の取引に当たることが多いであろうことを推認することができる。
(エ) したがって、本願商標は、その構成文字の全体を読んだ場合の「カリフォルニアコマチ」の称呼を生ずる他に、「こまち」の文字部分より、単に「コマチ」の称呼、「小町娘」の観念をも生ずるものと認められ、本願商標と引用商標とは、「コマチ」、「小町娘」の称呼、観念を共通にする類似の商標であり、かつ、本願の指定商品は引用商標の指定商品中に包含されているから、本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の認定、判断には誤りがない。
(2) 原告は、「地名」と「こまち」あるいは「小町」の文字が結合された過去の登録例を挙げ、本願商標について、これら登録例と区別して拒絶される理由は見当たらない旨主張している。
 しかし、原告提示の各登録例に係る商標中の「地名」は、いずれも日本の地名である点で、外国の「地名」である本願商標の構成と異なるものであり、前記(1)のとおり、「こまち」あ るいは「小町」の語は、日本の地名を冠して一連の語として使用されることが多いのに対し、本願商標のように、外国の地名と組み合わされて使用される例はいまだ乏しく、一般的であるとはいえないこと、また、カリフォルニア州は海外における米の著名な産出地であることからすれば、日本の地名に「こまち」あるいは「小町」の文字が組み合わされた場合は、「当該地で評判の美しい娘」の意味合いが自然に生じ、かかる意味合いから一体不可分の語句として理解され、一体的に称呼、観念されることが容易に推測されるのに対して、本願商標がその指定商品の米に使用された場合には、それに接する需要者、取引者は、前記(1)のとおり、本願商標の構成中の「カリフォルニア 」の文字について、単に、海外における著名な米の産出地であるカリフォルニア州又はカリフォルニア米を表示したものと理解するにとどまり、その商品の識別の標識としては、むしろ「こまち」の文字部分に着目して、これより生ずる「コマチ」の称呼をもって商品の取引に当たることも多いと推認されるから、原告主張の登録例の存在は、前記(1)の判断を左右するもの ではなく、原告主張の登録例について「本件とは事案を異にする」とした審決に誤りはない。
(3) 以上のとおり、原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2について
 前記1のとおり、本願商標と原告が主張する登録例とが「事案を異にする」とした審決の判断に誤りはないところ、審決の理由中において、商標登録出願に係る商標の登録の可否について説示するに当たって、当該商標と審判の請求人が指摘する過去の登録例における商標の構成が異なる場合に、どの程度その認定、判断の異同等について記載するかについては、その審判体の裁量に広く委ねられており、特段の事情がない限り、その説示の仕方が簡略であることが直ちに審決を取り消すべき違法性に結びつくものではないというべきである。
 そして、本件における審決の理由の全体の記載内容及び本願商標と原告主張の登録例の商標の構成の差異を総合すると、本願商標と原告主張の登録例について、「事案を異にする」とした審決には違法な点は認められないというべきであり、その理由の不備を主張する原告の審決取消事由2も理由がない。

〔研 究〕

1. 本願商標と引用商標とは、いずれも「米」を指定商品とした点では共通していたが、その標章は後者が単に「こまち/小町」であったのに、前者はその生産地を明記した「カリフォルニアこまち」であったから、商標の有する出所表示機能からいえば、前者は後者に対して出所が明らかであり、その商品を見て需要者は彼此の米を混同することはないといえる。
 商標の使命は、自他商品の識別機能の発揮にあるとする考え方からすれば、「カリフォルニア」は米国カリフォルニア州を指すから、その地名を除外して「こまち」だけを標章の要部と認定し、これと引用商標の「こまち/小町」と対比するという分析は不可であり、普通に使用されている全体の表示態様によって対比すべきである。
 とすれば、需要者には、前者の商標はカリフォルニア産米、後者の商標は国産米という区別ができるから、市場における混乱は起こらないはずである。
 ちなみに、旧33類には、「新潟小町」・「越路小町」・「越後小町」・「阿波小町」・「信濃小町」その他枚挙にいとまのないほどの数の「××小町」の登録例があることは、正に市場において出所の混同がないことを意味するだろう。それにしても、わが国で著名な「秋田小町」の登録商標が検索上は見当たらないのはどうしたのだろうか。
 したがって、このような場合に「こまち」を標章の要部と認定する考え方は、特許権や意匠権に対する侵害論における議論と共通するものといえるから、妥当とはいえない。
 にもかかわらず、商標は類似すると考えるのは、商標の使用や機能を無視した形式論である。ということは、形式的には類似するとしても、実質的に混同しない以上は、類似する商標と判断すべきではないと考えるのである。
 もっとも、この場合、出願人が団体(農協など)ではなく私企業であり、「カリフォルニアこまち」なる標章を「米」について専有させることは穏当ではないという問題は残るから、標章自体には自他商品の識別力はあるにしても、その権利主体が一私企業となることについては公序良俗違反(商標4条1項7号)となるお それがあるといえる。その意味でも、本件商標に対する拒絶理由には再考の余地があるといえよう。
2. ところで、審判事件においては、当事者がその主張を有利に導くために、過去の登録例を引用することがあるが、これに対し審決は、単に「本件とは事案を異にするから」として切り捨て、その理由を何にも説示しないことが多い。しかし、このような主張のある場合には、なぜ事案が違うというのかについての理由を説明しないのは、国民に対し行政府の不親切のそしりを蒙れないし、審決取消訴訟を誘発する原因の一つになっているといえる。その意味では、本判決は審決のあり方について一応の示唆を与えたといえるだろう。

[牛木理一]