G-45

登録商標「Kranzle」無効審決取消請求事件:知財高裁平17(行ケ)10668 平成18126日判決<棄却>

〔キーワード〕

商標法4条1項7号(公序良俗違反),総販売代理店契約,商標

〔事  実〕

 原告(クランツレ・ジャパン株式会社)の本件商標は第7類「高圧洗浄機」・第25類「作業服,ヘルメット」を指定商品として、平成13年12月19日に出願し、平成14年11月15日に設定登録された商標登録第4620432号(本件商標)の商標権であるが、この登録商標に対し被告(イー・クランツレ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング)は登録無効の審判を請求したところ、平成17年8月2日に登録無効の審決がなされた。

 その理由として審決は、日本において,本件商標の登録出願をするためには,ヨゼフ・クランツレ社及び被告(以下,この2社を「ドイツクランツレ社」という。)の同意又は承諾を受けるか,又は商標登録を受けることについての正当な理由があることを要するところ,原告は,これらを欠くのに本件出願をしたのであって,本件出願行為は,著しく社会的妥当性を欠き,また,不正の目的をもってされたものであると認められ,このような登録出願に基づく本件商標の登録は,商標法4条1項7号に違反してされたものであるから,同法46条1項の規定により無効とすべきものであるとした

〔判  断〕

1 本件出願行為の認定の誤りについて
(1) 証拠(甲4〔枝番を含む。以下同じ〕,7〜9,13,17,22,32〜35,37,39,乙1〜5)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア Kranzle標章
() ドイツクランツレ社,すなわち,ヨゼフ・クランツレ社は,高圧洗浄機等のクランツレ製品を製造し,被告は,クランツレ製品にKranzle標章を付して販売している,いずれもドイツ連邦共和国の会社である。
() Kranzle標章につき,ドイツ連邦共和国においては,ヨゼフ・クランツレ社が1989年(平成元年)年11月20日に商標登録を受け,台湾においては,被告が1998年(平成10年)5月1日に商標登録を受けているが,日本においては,商標登録出願をしていなかった。
イ 販売代理店契約
() 原告は,代表者をCとし,資本金を2000万円とし,クランツレ製品の輸入及び販売等を目的として,平成10年8月7日に設立されたが,その際,被告は,資本金の半額である1000万円を出資した。
() 被告は,同年10月,従前からの日本の取引先に対して,「我々は1998年8月7日付けでKRANZLE JAPAN(注,原告)を設立したことをお伝えしたい。そして,今後は,KRANZLE JAPANに注文を出してもらうようお願い致します。価格,納期に関してC氏,あるいはA氏にコンタクトして下さい。」との内容の案内状(甲34)を送った。
() 原告は,信用状を開設して,被告から,継続的に,Kranzle標章を付したクランツレ製品を輸入し,これを日本国内で販売していた。
() Aは,原告において,当初,役員扱いの顧問(対外的には営業本部長)として原告の営業企画などに関与していたが,平成12年9月1日,原告の代表取締役に就任した。
() 出石は,工作機械及び機械工具の製造,販売,輸出入を営む会社であるが,平成12年12月8日,原告との間で,クランツレ製品の売買基本契約を締結し,以後,原告からクランツレ製品を購入するようになった。
ウ 銀行取引停止処分後の紛争
() 原告は,平成13年8月16日,2回目の手形の不渡りを出して,銀行取引停止処分を受けたため,自らが信用状を開設して被告からクランツレ製品を輸入することができなくなった。
() 被告は,同月15日付けで,原告に対し,販売店11社が原告の名において直接被告に対して信用状の開設手続をすることを認める旨の認可状(甲35)を送付した。
() Aは,同月22日,出石の大阪支店を訪れ,当時出石の常務取締役であったD及び大阪支店長のEに対し,原告が手形の不渡り事故を起こした原因及び経過を説明した。
() 原告は,同年9月,出石に対し,原告が銀行取引停止処分を受けて信用状を開設できないので,原告に代わって,出石が信用状を開設してクランツレ製品を輸入してほしい旨依頼するとともに,原告と出石とが共同で,クランツレ製品を販売するための新会社を設立し,その会社に,原告が有するクランツレ製品の販売代理権限を譲渡することを提案し,出石は,同年10月ころ,これに同意した。
() 出石は,同年10月,2回にわたって信用状を開設し,被告からクランツレ製品を輸入するとともに,原告の求めに応じて,30%の手数料を原告に支払ったが,この手数料を支払うことに不満であった。
() 被告は,同年10月25日付けで,Aに対し,「出石の注文は来週出荷します。更に,出石への航空注文も同時に出荷します。出石への追加注文に関しては,今日中にプロフォマ・インボイスをFAXします。緊急に要請された予備品は,来週初めに出荷します。我々は出石の注文に付いて合意した70%の所定の金額について処理を行う。我々は有村からの注文に対しては,Kranzle Japan勘定に対する70%を取ったこと,そして我々は将来これを変更しないことを憶えていてほしい。将来に関して貴方と議論することは,我々側では何の問題もありません。私が11月19日まで事務所にいないことを覚えていてほしい。しかし,何か緊急に起こったら,私の事務所のスタッフが直ちに貴方にコンタクトするでしょう。」との内容の書簡(甲17)を送った。
() 一方,Dは,同年11月初めころ,被告代表者Bに対し,「クランツレ製品の日本での販売展開に尽力されたクランツレジャパン社,社長A氏と出会い,私はクランツレ社の製品の品質に最大の関心を持って販売の決意を致しました。クランツレジャパン社の指導において販売を開始いたしました。しかしながら不幸にもクランツレジャパン社はご承知の通り,L/Cの開設が不可能な結果になりました。私と()出石はA氏と共に継続してクランツレ製品の販売を日本国内にて販売する新会社を設立する合意をいたしましたが,私と()出石,新会社(NIPPON KRANZLE)は貴社と継続的な信頼,友好関係を基本にしたビジネスを希望しております。私及び()出石は2つの点で事業開始にあたり懸念を抱いております。1つは貴殿とA氏との友好関係は承知いたしておりますが。残念ながら貴殿と直接対話の機会も無く未だ友好関係の確認が無い事。2つはKranzle Japan Co.Ltd及び社長A氏個人そして元社長F氏と貴殿との権利関係,及び金銭的な貸借関係が存在しているかに付いてです。私と()出石の希望はA氏をパートナーとし,新会社設立に対し貴殿及びI Kranzle GMBHより日本でのExclusive Agentとして承認を得て事業を始める事です。以上の件についてご返信をお待ちいたしております。新会社の概要は既にA氏よりご案内の事と存じますが,別紙添付いたします。出きるだけ早い機会に貴殿とお会いできます事を希望いたしております。」との内容の書簡(乙5)を送った。
() Bは,上記書簡に対し,Dに対し,同年11月19日,「初めに貴方の堅実に日本でのビジネスを展開することに興味を持ちました。10年後を見つめたビジネスパートナーをほしかったところです。」「クランツレジャパン社について率直にお話しします。特に金融関連に非常に不満足です。多額の未払い金があり取引の停止をするつもりです。日本クランツレの設立は結構ですが,A氏は営業としてだけで経営に参画させることは勧めません。この意味を理解してください。」との内容の書簡(甲37)を送った。
() これと前後して,出石は,被告からクランツレ製品を輸入しても,原告の関与を拒絶し,現金を支払えば荷物を渡すなどと言うようになり,Aと面談して,原告も共同で新会社を設立する話を白紙に戻す意向を伝えた。
() 被告の代表者Bは,平成14年1月30日,出石に対し,「日本クランツレ(社長 D)に対しジョセフ・クランツレ社製品の日本総代理店の設立を承認します。日本クランツレ社2002年3月21日創立を前提に()出石に対し同社開設まで輸入権を承認します。」との書簡(乙3)を送り,出石と被告の間で,設立予定の日本クランツレをクランツレ製品の日本総販売代理店とし,日本クランツレが設立されるまでは出石がクランツレ製品を輸入することを承認する旨の合意をした。
() 平成14年9月2日,クランツレ製品の輸入販売を目的として日本クランツレが設立され,Dが代表取締役に就任した。被告は,同月24日,日本クランツレとの間で,日本クランツレがKranzle標章を付したクランツレ製品を独占的に日本国内において輸入,販売することができる旨の総代理店契約(乙4)を締結した。
エ 商標登録出願に係る紛争
() Dは,平成13年12月14日,個人名義で,赤と青の色彩を加えたKranzle標章と同一の商標について指定商品を第7類「工業用高圧洗浄機,工業用掃除機」とする商標登録出願をしたが,平成14年6月21日発送で,特許庁から,当該商標が,ドイツクランツレ社が高圧洗浄機について使用し,上記商標登録出願前より取引者及び需要者間に広く認識されているKranzle標章と同一又は類似であり,商標法4条1項10号,11号及び15号に該当する旨の拒絶理由通知を受け,同年10月16日,拒絶査定を受けた。
() Aは,平成13年12月19日,Kranzle標章そのものである本件商標について,個人名義で本件出願をしたが,平成14年3月12日付けで,上記()と同様の拒絶理由通知を受け,同月29日,本件出願について,原告を承継人とする旨の出願人名義変更届を提出した。審査官は,同年6月28日付けで,原告に対し,上記と同様の拒絶理由とともに,ドイツクランツレ社が本件商標の商標登録出願について同意又は承諾する旨の書面を提出すれば,原告において商標登録を受けることができる旨を通知した。
() 原告は,上記の同意又は承諾を証する書面であるとして,原告の登記簿謄本,上記イ()の案内状及び上記ウ()の認可状を提出し,同年11月15日,本件商標について商標登録を受けた。
() 原告は,平成15年2月10日,Bを相手方として,神戸地方裁判所に,競業避止義務違反及び背任行為に基づく損害賠償を求める訴え(神戸地方裁判所平成15年()第314号)を提起し,次いで,同年5月14日,出石及び日本クランツレを相手方として,同裁判所に,本件商標に係る商標権に基づき差止及び損害賠償を求める訴え(同裁判所平成15年()第1119号)を提起した。
() 被告は,同年2月17日,本件商標に係る登録が商標法4条1項7号,10号,15号に該当するとして登録異議の申立てをしたが,同年10月14日,当該商標登録を維持する旨の決定がされたため,被告は,平成16年2月2日,本件無効審判請求をした。
(2) 原告は,上記(1)ウの()及び()の認定に関し,被告代表者Bの出石に対する平成14年1月30日付け書簡(乙3)及び被告と日本クランツレ間の同年9月24日付け総代理店契約(乙4)について,いずれも真正に成立したものであることは争わないものの,作成者である被告とDあるいは日本クランツレが,被告の主張に合わせるように,日付を遡らせて作成したものである旨主張するが,本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。
 原告は,上記主張の根拠として,乙3については,上記
(1)()のとおり,Dが商標登録出願をしたが拒絶理由通知を受けたこと,上記(1)()の訴訟に提出されておらず,本件において,初めて提出されたことなどを挙げ,乙4については,同エ()のとおり,Dが商標登録出願をしたが拒絶理由通知を受けたこと,同エ()の神戸地方裁判所平成15年()第1119号事件において初めて提出されたことなどを挙げるが,いずれも上記認定を左右するに足りない。
 かえって,上記
(1)()ないし()によれば,Dから,原告の信用状態について照会を受けた被告代表者Bが,平成13年11月,原告は多額の未払金があって被告が原告に不満を持っており,原告との取引を停止する意向であることを伝え,Dが,Aに対して,原告と共同で新会社を設立する話を白紙に戻す意向を伝えているのであり,以上の経過からすれば,被告とDあるいは日本クランツレとの間で,乙3及び乙4に記載されている作成日付の時期に,それぞれの書面が作成されたものとみるのが自然かつ合理的である。
(3) 上記(1)の認定の事実によれば,原告は,平成10年10月,被告との間で,クランツレ製品の輸出入及び国内販売を目的として販売代理店契約を締結し,Kranzle標章を付したクランツレ製品を輸入販売をしていたこと,原告は,平成13年8月,銀行取引の停止処分を受けたため,信用状を開設できなくなったので,出石に対し,原告に代わって信用状を開設してクランツレ製品を輸入するよう依頼するとともに,原告が有するクランツレ製品の販売代理権限を譲渡することにより,共同してクランツレ製品を販売するための新会社を設立することを提案したところ,出石はこれに同意したこと,その後,Dは,同年11月,被告代表者Bから,原告は多額の未払金があって被告が原告に不満を持っており,原告との取引を停止する意向であることを知ったこと,出石は,原告との新会社設立に関する合意を破棄した後,平成14年9月,原告及びAを除外して日本クランツレを設立し,総代理店としてクランツレ製品の輸入,販売に係る独占的権利を与えられたこと,Aは,出石が原告との上記合意を破棄した直後の平成13年12月に,個人名義で本件出願をし,Aの商標登録を受ける権利の承継人である原告において平成14年11月に商標登録を受け,その後,原告が,Bに対して競業避止義務違反及び背任行為に基づく損害賠償訴訟,出石及び日本クランツレに対して本件商標の使用差止等訴訟を提起したことが認められる。
 ところで,Kranzle標章は,ドイツクランツレ社(ヨゼフ・クランツレ社及び被告)のいわゆるハウスマークであり,第三者はドイツクランツレ社の承諾を得ることなく商標登録を受けることができるものではなかったところ,上記
(1)()のとおり,原告は,被告に無断で,被告の販売代理店であることを示す資料のみをもって,ドイツクランツレ社の同意又は承諾があるとして本件出願行為をし,本件商標の商標登録を受けたものであり,ドイツクランツレ社のKranzle標章を剽窃したものというべきである。
 そして,その目的は,本件商標の排他的効力により,日本でのKranzle標章の使用の独占を図ることによって,出石や日本クランツレによるクランツレ製品の日本国内における輸入,販売を阻止しようとしているのであるから,不正の目的をもって登録出願をしたことは明らかというべきである。
 したがって,本件商標の登録出願の経緯には著しく社会的妥当性を欠くものがあり,その商標登録を認めることは,商取引の秩序を乱し,ひいては国際信義に反するものであって,到底容認し得ないものというべきである。
2 本件商標の登録を受けることについての同意又は承諾の看過について
 原告は,原告が,被告において資本金の50%を出資して日本における現地法人として設立された会社であり,商号も「クランツレ・ジャパン」という被告の日本法人であることを示す名称を含むものとなっており,設立当初から,本件商標を使用してきたことなどを挙げて,被告は,日本において,原告が本件商標を登録することを当然の前提としていたものというべきであり,書面による同意又は承諾はなくとも,上記の事実を総合的に判断すれば,被告の同意又は承諾があったのと同視し得る状況が存在した旨主張する。
 しかしながら,上記1
(1)イ認定の事実によれば,原告と被告とがした合意は,原告において,被告とは独立した法人として,被告の輸出,販売の営業を補助し,継続的に,Kranzle標章を付したクランツレ製品を輸入し,これを日本国内で販売するということであって,それ以上のものではない。
 原告は,上記のとおり,被告の販売代理店として,被告の輸出,販売の営業の補助をしているのであるから,その範囲でKranzle標章を使用することができるのは当然であり,被告が資本金の50%を出資して設立した会社であることも,台湾においては被告自身が商標登録を受けているのに,日本においてそれがされていない事情も,上記合意の内容を越えて,被告において,原告が本件商標の登録を受けることを容認していたことをうかがわせるものとはなり得ない。
 原告は,商号が「クランツレ・ジャパン」を含むものとなっていることをもって,ドイツクランツレ社の日本法人であることを示す名称であるというところ,原告と被告との法律関係が商号によって左右されるものでもない。「ドイツクランツレ社の日本法人」がいかなる意味で使用されているのか必ずしも明らかでないが,上記認定のとおり,原告は被告の販売代理店であって,少なくとも,ドイツクランツレ社の日本支店,営業所等といったものでないこと,また,実質的にドイツクランツレ社と一体視し得るようなものでもないことは,明らかである。
 したがって,本件商標の登録を受けることについて被告の同意又は承諾があったのと同視し得る状況が存在した旨の原告の主張は,採用することができない。
3 本件商標の登録を受けることについての正当な理由の看過について
(1) 原告は,原告が,被告の日本法人として,被告の50%出資により設立されたという経緯,原告が,クランツレ製品の日本における唯一の総販売代理店として,クランツレ製品そのもの及びKranzle標章を日本に広く周知させたという事実等を挙げて,被告は,原告設立当初から,原告による本件商標登録を当然のこととして同意しており,本件出願時にも登録時にも,その同意は継続していたと考えるのが合理的である旨主張する。
 しかし,原告が挙げる事実から,被告が原告設立当初から原告による本件商標登録を当然のこととして同意していたとの結論を導くことはできない。
 原告がドイツクランツレ社自身と同視し得るような立場にいないことは,上記2のとおりである。
 また,原告が,クランツレ製品の日本における唯一の総販売代理店として,クランツレ製品そのもの及びKranzle標章を日本に広く周知させたといえるかどうかは,証拠上必ずしも明らかとはいえないが,仮に,原告主張のとおり,原告の営業によって,Kranzle標章を日本に広く周知させることに貢献したとしても,それは,被告の営業の補助者としての功績であって,そのことで,Kranzle標章をハウスマークとして使用する事業者としての地位と同視し得るものではない。
 なお,原告は,原告が被告に対して訴訟を提起し,被告と原告の間で紛争が生じる時点まで,本件商標の登録について被告から異議が出されていなかったという事実をも根拠の一つとして挙げるが,これは,被告が原告による本件商標登録を当然のこととして同意していたかどうかとは無関係である。
(2) 原告は,設立以来,クランツレ製品の日本における総販売代理店として,クランツレ製品の販売事業において,継続して本件商標を使用してきたものであり,将来設立されるであろう競業者から,自己の本件商標使用による販売事業を侵害されないよう防御するのは,むしろ当然のことであると主張する。
 しかし,ここで問題となるのは,原告が,将来設立されるであろう競業者から,自己の本件商標使用による販売事業を侵害されないよう防御する権利があるかどうかではない。将来設立されるであろう競業者との間の対立,確執があり得るからといって,その手段として,被告に無断で,被告の販売代理店であることを示す資料のみをもって,ドイツクランツレ社の同意又は承諾があるとして本件出願行為をし,商標登録を受けることが正当化されるものではない。
(3) その他,本件全証拠を検討しても,本件出願の登録査定時(平成14年10月18日)において,被告が,原告による本件商標登録を当然のこととして同意していたことを認めるに足りない。
 したがって,原告が本件商標の登録を受けることについて正当な理由があったものとはいえないとした審決の認定に誤りはない。
4 商標法4条1項7号の解釈の誤りについて
 原告は,商標法4条1項7号は,公益的事由により禁止される商標を定めたものであり,私益的な事情によるものは,商標法4条1項7号の予定するところではない旨主張する。
 しかし,上記1
(3)に判示したとおり,原告は,不正の目的をもって,被告に無断で,被告の販売代理店であることを示す資料のみをもって,ドイツクランツレ社の同意又は承諾があるとして本件出願行為をし,本件商標の登録を受けたものであるから,本件商標の登録出願の経緯には著しく社会的妥当性を欠くものがあり,その商標登録を認めることは,商取引の秩序を乱し,ひいては国際信義に反するものであって,到底容認し得ないものとなっているのであり,原告の主張するような単なる私益的な事情によるものということはできない。
 したがって,本件商標の登録が商標法4条1項7号に違反してされたものであるとした審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張は,採用することができない。
5 以上によれば,原告主張の取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。

〔論  説〕

1.この事件は、1つの外国商標のわが国特許庁への登録をめぐって、わが国の個人と法人が複雑に絡み合った事案ではあるが、簡単にいえば、外国法人(ドイツ国)(被告・審判請求人)が使用している商標(ハウスマーク)を付した製品をわが国に輸入して販売する総販売代理店契約をした日本法人(原告)は、その商標を自社の名義でわが国特許庁に出願し登録することは契約条項に含まれていない以上、その登録行為は違法であると判断した特許庁の審決は正当であることを高裁が確認したものである。
 日本法人の立場はドイツの親会社が資本金の50%を負担していたとしても、それは商標権の主体とは関係のないことであり、高裁の認定によれば、日本法人が特許庁で登録した際に、原告は被告の販売代理店であることを示す資料だけを提出し、あたかも被告の同意又は承諾があったような主張をした行為は、被告会社の標章を剽窃するという不正な目的をもって登録出願をしたことになるから、このような出願の経緯は著しく社会的妥当性を欠き、その商標登録は商取引の秩序を乱し、ひいては国際信義に反する行為であって容認できないとした。

2.高裁の説示は、事実に対する分析力と理非を明らかにする批判力とが抜群に優れているから、当事者に対して説得力がある。即ち、原告は被告の販売代理店であって、ドイツクランツレ社の日本支店や営業所等といった一体視し得るものでないと認定し、仮に原告が営業によって当該商標をわが国に周知にすることに貢献したとしても、それは単に被告の営業の補助者としての行為であるから、これを当該標章をハウスマークとして使用する事業者としての地位と同視することはできないと判断したのである。
 審決が認定した事項も、商標法4条1項7号の適用であってみれば、判決のそれとはほぼ同じであろうが、判決の理由説明は詳細かつ説得力があるといえる。

3.こういう事案に対しては、商標法4条1項7号のほかに最近では19号もあるから、この規定の適用も可能であったと思うが、そのためには被告(審判請求人)は多量の証拠を収集し提出しなければならない手数を考えると、7号の適用の方で実務的には有効であったかも知れない。

 

牛木 理一