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ピザ商標“PAPA JOHNS”不使用取消審決取消請求事件:知財高裁平17(行ケ)10095平成171220日判(認容・審決取消)〔特許ニュース2006331日付〕

〔キーワード〕
使用の地域、使用の準備、取引書類、英文ウェブページの広告、英文雑誌の広告、フランチャイジーの募集、不使用の正当な理由、取消予定の商標出願、権利の濫用

〔主  文〕
1 特許庁が取消
2003-30606号事件について平成16810日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を
30日と定める。

〔事  実〕
1.本件は、被告(パパ
ジョンズ インターナショナル インク)の有する本件商標について、原告Xが商標法501項に基づき不使用による商標登録取消しの審判を請求したところ、特許庁が審判請求不成立の審決をしたことから、原告が同審決の取消しを求めた事案である。
2.被告(パパ
ジョンズ インターナショナル インク)は、平成6113日に出願し、平成8930日に設定登録した商標登録第3199279号の商標権者であるところ、原告Xは平成1558日に本件商標に対し、商標法501項に基づき不使用による商標登録取消審判請求をし、同年64日にその予告登録がなされた。
 特許庁は、同請求を取消
2003-20606号事件として審理した結果、平成16810日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。
 審決の要旨は、「本件商標は、審判請求登録前
3年以内に日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても指定商品について使用されていなかったものの、その不使用については、商標権者たる被告は我が国におけるピザに係るフランチャイズ展開について具体的な準備を進めてきており、本件商標について真摯なる使用の意思が認められるから、商標法502項ただし書にいう正当な理由があるとしたものである。」
 これに対し、原告(請求人)は、「使用をしなかったことについて正当な理由があるとしたことは誤りであるから、本件審決は違法として取消されるべきであるとして請求したものである。
.本件商標の内容
 本件商標の内容は、次のとおりである(甲13の2)。

 (指定商品)

  第30類「ピザ」

 

〔判  断〕
1 請求原因
(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本件商標の内容)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
 ところで,審決は,前記のとおり,商標権者たる被告は本件取消審判請求の登録前
3年以内に日本国内において使用しなかったものであるが,その使用をしていなかったことについては正当な理由があるとしたものである。これに対し原告は,本件商標を本件取消審判請求の登録前3年以内に日本国内において使用しなかったものであるとしたことは正当であるが,その使用をしていなかったことについては正当な理由があるとしたことは誤りであると主張し,一方被告は,抗弁として,@本件商標は,指定商品「ピザ」について審判請求登録前3年以内に被告によって使用されている,A仮に被告による使用の事実が認められないとしても,本件商標を日本において使用していないことについては正当な理由がある,B原告による本件取消審判請求は権利濫用である,と主張する。
 そこで,被告の抗弁につき,以下,順に判断することとする。
2 被告による本件商標の使用の有無(抗弁
(1)
(1) 本件商標を表示しての指定商品の提供
ア 被告は,日本におけるフランチャイズ展開の協議のために関連業者が米国を訪れた際には,本件商標を表示した店舗に案内し,ピザ,販売促進品等を提供していると主張する。
イ 証拠(乙
1257)によれば,@被告は,1985年(昭和60年)に創業したピザ販売業者であり,1986年(昭和61年)からフランチャイズ店の展開を開始し,2002年(平成14年)1229日の時点において,被告及びその加盟店のレストランは,被告によるものが,米国に585店舗,英国に9店舗,フランチャイズによるものが,米国(アラスカ及びハワイを除く。)2000店舗,アラスカに3店舗,カナダに7店舗,コスタリカに11店舗,グアテマラに4店舗,ハワイに15店舗,ホンデュラスに4店舗,メキシコに38店舗,プエルトリコに10店舗,サウジアラビアに14店舗,ベネズエラに22店舗,英国に70店舗,合計2792店舗であること,A被告は,1994年(平成6年)から日本における業務拡大の計画を有し,日本の多数のフランチャイジー候補者に対し営業活動を行ってきたこと,Bこれらの営業活動において,2001年(平成13年)111日から同月13日の間,伊藤忠商事の担当者がJETRO NYの担当者及び被告から日本におけるフランチャイズ先の紹介を依頼されたブローカーであるAと共に米国ケンタッキー州ルイスビーレ所在の被告本社を訪問し,施設を見学して被告のピザを試食し,本件商標を付したティーシャツ,マグカップ等の販売促進品等の提供を受けたこと,C同年3月にも,伊藤忠商事及び日本企業の担当者らが上記被告本社を訪問し,同様に施設を見学し被告のピザを試食したこと,D同年4月にも伊藤忠商事の担当者らが上記被告本社を訪問し,その際,被告ピザのサンプルの提供を受けたこと,以上の事実を認めることができる。
ウ ところで,商標の不使用による登録取消の審判請求があった場合,商標法
502項本文は,「前項の審判の請求があった場合においては,その審判請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り,商標権者は,その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない」としているから,同項にいう「使用」は日本国内における使用でなければならないと解するほかない。しかし,上記イに認定した使用は,いずれも米国におけるものであり,日本国内における使用とは認められない。
 被告は,これらの提供がなされたのは海外であるが,日本における事業展開に関するものであれば国内での使用と同視すべきであると主張するが,採用することができない。

(2) 本件商標を付した取引書類の頒布
ア 被告は,フランチャイジーの開拓営業過程において,下記@ないしIのとおり本件商標の付された指定商品のカタログを日本国内の取引先に手渡し,また,本件商標の付された年次報告書を,ピザ及び飲食物提供に関するフランチャイズの規模,状況及び業務方針の説明のために手渡したと主張する。
               記

「@ JETRO NY200010月)

A 伊藤忠商事(200012月/20011月)

B アリアケジャパン(20011月)

C パシフィックアライアンス(20011月)

D プラザクリエイト(20021月/2月)

E アクアネット(200271日)

F ジャストプランニング(2002826日)

G ストロベリーコーンズ(20021018日)

H 西洋フードシステム(200323日)

I オリックスアルファ(2003422日)」

イ 確かに,証拠(乙1257)によれば,被告は,日本におけるフランチャイズ展開のための営業活動として,上記ア@ないしIの時期に,上記@ないしBについては米国を訪れた相手方に対し,本件商標と社会通念上同一と認められる商標の付された指定商品のカタログ(本訴乙6・審判乙12),同商標の付された年次報告書(本訴乙1・審判乙1)を,ピザ及び飲食物提供に関するフランチャイズの規模,状況及び業務方針の説明のために手渡したことが認められる。

ウ しかし,上記@ないしBは,いずれも米国において手渡されたものであり,上記(1)ウと同様の理由により,日本国内における使用とは認められない。また,上記CないしEについても,これが日本国内において手渡されたことを認めるに足りる証拠はない(商標法502項によれば,これらの事実を被請求人たる被告が証明する責任があると解される。)。
 加えて,上記@ないしIにおいて頒布されたカタログ(乙
6)及び年次報告書(乙1)は,日本おけるフランチャイズ展開のために行われたものであって,被告の会社自体の宣伝,フランチャイズ事業の方法・条件等の説明を行うものであると認められる。そして,被告は,日本国内において指定商品である「ピザ」を生産・販売したことはなく,日本の需要者は被告のピザの提供を受けることができないのであるから,上記カタログ及び年次報告書が商標法238号の「取引書類」に該当するとしても,その頒布は,指定商品である「ピザ」に関するものであるとは認めることができない。

(3) ウェブページによる広告
ア 被告は,平成
81220日から現在に至るまで,ウェブページによって指定商品であるピザ及びピザの提供に関する広告を行っている(乙89)と主張する。
イ 確かに,証拠(乙
8924)によれば,被告は,インターネットのウェブページ(本訴乙8・審判乙3,本訴乙9・審判乙4)において,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を表示してピザに関する広告を行い,フランチャイジーの募集を行っていること,上記ウェブページには日本からもアクセスが可能であること,上記ウェブページは,日本の検索エンジン「MSNサーチ」,「アップル・エキサイト」等において「papajohns」,「papa john's」の語で検索した場合に直ちに検索できる(本訴乙24・審判乙56)ことが認められる。
ウ しかし,上記ウェブページは,米国サーバーに設けられたものである上,その内容もすべて英語で表示されたものであって,日本の需要者を対象としたものとは認められない。上記ウェブページは日本からもアクセス可能であり,日本の検索エンジンによっても検索可能であるが,このことは,インターネットのウェブページである以上当然のことであり,同事実によっては上記ウェブページによる広告を日本国内による使用に該当するものということはできない。
 被告は,電磁的方法による広告に関する商標法改正は,商標の「使用」にこれが含まれることを明確にするためのものであり,同改正法施行前の広告行為にも当然に適用されると主張する。確かに,ウェブページによる広告は,平成
14年法律第24号により改正された商標法238号のいう,「広告」を「内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」に該当するものということができる。しかし,同行為を日本国内による使用に該当するものということができないことは上記のとおりであるから,被告の上記主張は理由がない。

(4) 雑誌による広告
ア 被告は,ニューズ・ウィーク等の世界的に著名な雑誌に本件商標を付して商業広告を出しており,これらが日本において頒布されていることは明白であるから,これは,商品若しくは役務に関する広告に該当し,商標法
238号の「使用」に該当すると主張する。
イ 証拠(乙
1017)によれば,被告は,ニューズ・ウィーク200333日号(本訴乙10・審判乙25),同310日号(本訴乙11・審判乙26),同327日号(本訴乙12・審判乙27)及び同324日号(本訴乙13・審判乙28),インターナショナル・フランチャイジング2000年夏号(本訴乙14・審判乙29),コマーシャル・ニュース・ユー・エス・エー200010月号(本訴乙15・審判乙30)及び同20023月号(本訴乙16・審判乙31)並びにリテイル・アジア20039月号(本訴乙17・審判乙32)に,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を表示してピザに関する広告を行い,フランチャイジーの募集を行っていることが認められる。
ウ しかし,上記雑誌は,日本国内において頒布されたとしても,日本国内で発行されたものとは認められない上,その内容もすべて英語で表示されたものであって,日本の需要者を対象としたものとは認められない。
 加えて,上記雑誌の広告は,フランチャイズ展開のために行われたものであって,被告会社自体の宣伝,フランチャイズ事業の広告であると認められる。そして,被告は,日本国内において指定商品であるピザを生産・販売したことはなく,日本の需要者は被告のピザの提供を受けることができないのであるから,上記雑誌の広告は,指定商品であるピザに関し日本国内においてなされた広告であるとは認めることはできない。
 したがって,上記雑誌による広告は,商標法
238号の「使用」に該当するということはできない。
(5) 以上に検討したところによれば,本件商標は,指定商品「ピザ」について審判請求の登録前3年以内に日本国内において被告によって使用されたと認めることはできない。

3 「正当な理由」の有無(抗弁(2)

(1) 審決は,「被請求人は,本件審判請求の登録前3年以内の期間内に,日本での業務拡大のために日本のフランチャイズ候補者に対し営業活動を行っており,日本でのピザ店舗展開に興味を持っていた伊藤忠社員に本件商標と社会通念上同一といえる商標が付された被請求人の会社概要,フランチャイジー用パンフレット等を手渡し,さらに同社員が被請求人会社及びそのレストランを訪問しピザの提供を受けたほか,被請求人の日本でのマスター・フランチャイジーとなることに興味を有していたプラザクリエイト,アクアネット,ジャストプランニング,ストロベリーコーンズ,西洋フードシステム等の日本企業と日本でのフランチャイズ展開に係る交渉を継続していたことが認められる。また,直接日本を対象としたものではないとしても,被請求人は,自己が開設するインターネットのウェブページや「Newsweek」等の雑誌にフランチャイジー募集の広告を行っていたこと,日本からも被請求人の日本での事業計画について問い合わせがあったことが認められる。そして,フランチャイズ産業の他国進出においては,マスター・フランチャイジーを捜すのが通例であるところ,資格・資力のあるマスター・フランチャイジーを捜し契約を締結することは困難を伴い一定の時間を要することが認められる」(審決19頁第4段落)との認定事実を基に,「以上を総合勘案すると,被請求人は,本件審判請求の登録前3年以内の期間内に,我が国におけるピザに係るフランチャイズ展開について具体的な準備を進めていたことが明らかであり,本件商標について真摯なる使用の意思が認められるものである。かかる場合は,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図るという商標法の目的に照らし,被請求人が本件商標を我が国において使用していないことについて正当な理由があるものとすべきである」(同最終段落)と判断したものである。
(2) しかし,商標法502項ただし書の「正当な理由」があるというには,商標権者において登録商標を使用できなかったことが真にやむを得ないと認められる特別の事情が具体的に主張立証される必要があると解するを相当とするところ,上記(1)の審決の認定事実によっては商標権者の責めに帰することのできない特別の事情があったと認めることはできず,また,他に上記特別の事情が存したことを認めるに足りる証拠もない。
(3) この点につき,被告は,本件のように商標権者が外国人であり,かつ,世界第3位もの規模を誇る大規模フランチャイズチェーンである場合(乙1,乙2)は,商標権者が日本人である場合,又は商標権者がフランチャイズ形式を前提としない企業である場合よりも,商標の使用に多大な困難の伴うことは明白であり,そのような場合には個別事情に応じた弾力的な基準が設けられるべきである,そして,被告は,少なくとも平成125月以降は,日本におけるマスター・フランチャイジーの発掘活動を熱心に行っており,それにもかかわらず,日本におけるマスター・フランチャイジーの発掘・契約に至らなかったのは,当時,既に米国をベースとする大規模ピザチェーン(「Pizza Hut」及び「Domino's Pizza」)が既に日本市場に参入していたこと,被告のマスター・フランチャイジーとしてふさわしい経験・資力を有している日本企業の絶対数が少なかったこと等,被告の責めに帰すことのできない事情が存在した,などと主張する。
 しかしながら,我が国の商標法は,商標権者による商標の現実的使用を重視している(
31項柱書,50条)ことからすると,同法502項にいう「正当な理由」とは,前述したように,商標権者において登録商標を使用できなかったことが真にやむを得ないと認められる特別の事情がある場合に限られると解すべきところ,被告の上記主張は,企業たる被告の内部事情にすぎず(被告がその経営判断により本件商標を日本国内において使用することは十分に可能であった),これをもって前記特別の事情と認めることはできない。したがって,商標権者である被告が上記のように外国企業であっても,本件商標の指定商品である「ピザ」について本件商標を使用することができないことにつき「正当な理由」があったと認めることはできない。

(4) 以上検討したところによれば,被告が本件商標を日本において使用していないことについて商標法502項ただし書の「正当な理由」があるということはできない。
4 権利濫用の有無(抗弁
(3)
(1) 被告は,原告による本件取消審判請求は,被告を害することを目的としてなされたものであり,権利濫用に該当すると主張し,その理由として,@原告は,本件取消審判請求と同日(平成1558日)付けで前記内容の乙23商標について商標登録出願を行っているが,乙23商標と本件商標は,両立しない関係にあり,仮に原告の本件取消審判請求が認められ,かつ,上記出願が認められれば,被告は本件商標と同一の商標を指定商品「ピザ」ないし「飲食物の提供」で登録することはできなくなるところ,原告は,自らの登録商標の保全,自らの業務の維持,保全につき何ら積極的な利益をもたらさない本件取消審判請求を行っていること,A他方,原告による本件取消審判請求及び上記新たな商標登録出願が認められれば,被告は多大な打撃を被ることは確実であること,B原告がこれらのことを認識して本件取消審判請求・商標登録出願を同一日に行っていることからすれば,原告に,被告の日本市場参入を不当に阻止しようとする目的があること,Cしたがって,原告による本件取消審判請求の申立ては,被告が有する本件商標に化体された信用にただ乗りするフリーライドを意図したものであるといわざるを得ないこと,等を挙げる。
(2) 証拠(甲2023,乙1923)によれば,@原告は,昭和60年ころから,「PAPA Jon's」の商標を使用してチーズケーキを製造・販売するようになり,昭和61225日,京都市を本店所在地として,喫茶,欧風料理の飲食業,洋菓子及びサンドイッチ類の製造販売等を業とするカーメル社を設立し,京都市上京区烏丸通上立売東入ル相国寺門前町等の「PAPA Jon's」の商標を使用する店舗でケーキ店を営んでいること,Aカーメル社は,いずれも「PAPA Jon's」の構成を含み,指定商品を第30類「菓子及びパン」とする登録第4251306号商標(平成9616日出願,平成11319日登録。乙19)及び登録第4324338号商標(平成9616日出願,平成111015日登録。乙20),指定商品を第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,香辛料,即席菓子のもと」とする登録第4333124号商標(平成101022日出願,平成111112日登録。乙21)及び登録第4368033号商標(平成101022日出願,平成12317日登録。乙22)の各登録商標を有していること,B原告は,本件取消審判請求と同日(平成1558日)付けで前記乙23商標について商標登録出願を行ったこと,以上の事実を認めることができる。
(3) 上記認定の事実によれば,原告による本件取消審判請求は,原告の乙23商標についての商標登録出願の障害となる本件商標を排除するために行われたものと推認することができる。しかし,商標登録の出願をする者が,その障害となる先行登録商標を排除するために,その不使用取消審判請求をすること自体は何ら違法ということはできず,また,商標登録出願の際に指定商品又は役務に係る使用を現実に行っていることを必要とするものでもないから,上記事実をもって本件取消審判請求を権利濫用に当たるとすることはできない。そして,被告は日本国内において指定商品であるピザを生産・販売したことがないことは上記のとおりであるところ,本件商標が日本国内において取引者・需用者に広く知られ信用を獲得するに至っていたとは認めるに足りる証拠はないから,原告による本件取消審判請求が被告が有する本件商標に化体された信用にただ乗りするフリーライドを意図したものであると認めることもできない。
 したがって,原告の本件取消審判請求を権利濫用ということはできない。

5 結論
 以上のとおり,本件商標は,指定商品「ピザ」について審判請求登録前の
3年以内に被告によって使用されていたとの事実を認めることはできず,被告が本件商標を日本において使用していないことについて正当な理由があるということもできず,また,原告による本件審判の請求は権利濫用であるということもできない。したがって,原告の本件取消審判請求を不成立とした審決は違法というほかなく,取消しを免れない。
 よって,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。

〔論  説〕
.特許庁の審決は、本件商標を被告(商標権者等)が、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において、指定商品について使用されていなかったことについて、ピザのフランチャイズ展開の具体的な準備を進めて来て使用の意思が認められるから、商標法50条2項但し書に規定する「正当な理由」があると認定した。そして、審決が認定した理由はそのまま高裁においては、被告の抗弁として主張された。
 しかし、高裁は、審決のそのような理由では、登録商標の不使用の「正当な理由」とはならないと認定し、原告の請求を認容するに至った。以下、その理由について検討する。
.被告による使用についての抗弁
1)本件商標を表示した指定商品の提供
 これは、米国において認められる事実であり、日本国内において認められる使用の事実ではないから、採用できないと認定したが、そのとおりである。
2)本件商標を付した取引書類の頒布
 これは、指定商品のカタログや同商標を付した年次報告書などの取引書類は、米国において訪問者に手渡されたものであるから、日本国内における使用とは認められないと判断された。

3)ウェブページによる広告
 被告は、インターネットのウェブページで、本件商標を表示したピザの広告を行い、フランチャイジーを募集し、これには日本からのアクセスが可能であった。しかし、このウェップページは米国サーバーに設けられたもので、日本の需要者向けのものではないから、この事実によっては前記ウェップページによる広告を日本国内の使用に該当するとは認められないと判断された。

4)雑誌による広告
 被告は、「ニューズ・ウィーク」等の世界的に著名な雑誌に本件商標を付して広告し、これらの雑誌はわが国にも頒布されているから、商標法2条3項8号の「使用」に該当すると主張した。しかし、これらは、被告会社の宣伝とフランチャイズ事業の広告ではあっても、日本国内で指定商品のピザを生産・販売したことはなく、日本の需要者は被告のピザの提供を受けることができない以上、「使用」には該当しないと判断された。
 これらの認定判断は、わが国内における使用事実の可否を考える限り、妥当であろう。

.「正当な理由」についての抗弁
 これについて判決は、「正当な理由」とは、商標権者(被告)において登録商標を使用できなかったことが真にやむを得ないと認められる特別な事情が具体的に主張立証される必要があるのに、そのような主張立証を被告はしていないから、前記特別な事情があったとは認められないと判断された。被告が主張しているようなことは、被告側の内部事情にすぎないから、これをもって特別な事情があったとは認められないと判断された。
 このような理由から、高裁は、被告がわが国において本件商標を使用していないことについて、商標法50条2項但し書の「正当な理由」があるとは認められないと判断した。妥当であろう。

.権利の濫用の抗弁
 原告は、被告の本件商標に対する取消審判請求と同日付けで、本件商標と同一の商標の出願をしたが、このような行為は被告にとっては多大な打撃を被ることになり、被告が予定している日本市場への参入を不当に阻止し、被告が有する本件商標に化体された信用をフリーライドするものだから、原告の行為は権利の濫用となると主張した。
 しかし、これについて高裁は、原告が本件商標に対して取消審判を請求したのは、原告がこれと同一の商標を出願したために、登録の障害となる本件商標を排除する必要があるからであり、違法ではないと考え、原告の行為は権利の濫用には当たらないと認定した。しかし、これのような考えは実務者的に見れば逆である。
 即ち、後発者としての原告は、本件商標と同一又は類似する商標を使用する意図があったからこそ、まず本件商標に対する取消審判を請求したのであり、取消されることを予想して、先願主義の原則から一日でも早くと思い、同日に出願したのである。
 しかし、原告出願の本件商標と同一又は類似する商標が、本件商標の登録取消確定後に確実に登録されることになるかというと、それはまた別の観点から判断されなければならない。即ち、商標法4条1項の不登録事由のいずれにも出願商標は該当しないといえるのか。判決が認定するように、本件商標は日本国内において取引者需要者間に広く知られ信用を獲得するに至っていないといえるのかどうかについて、特許庁の審査は別の評価をすることになろう。ということは、原告の出願商標に対しては、商標法4条1項15号又は19号あたりが適用される可能性があるからである。

.その他
 本件商標は第30類「ピザ」に関するものであるが、同一標章態様では第42類「飲食物の提供」にもあり、また別異標章態様では第30類及び第42類についての登録もあったが、いずれの登録商標に対しても、同一当事者間に、不使用取消審判事件の審決とこれに対する審決取消請求事件の判決がある。知財高裁における判決はいずれも審決の取消であり、判決日は平成17年12月20日である。ちなみに、別異の標章態様に係る登録商標とは、次のものである。

 

 

 

牛木 理一