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出願の分割・指定商品の補正事件:東京高裁平15(行ケ)83平成15年10月7日判〈認容・審決取消〉、最高裁平16(行ヒ)4 平成17年7月14日一小判〈原判決破棄・自判、被上告人請求棄却〉

〔キーワード〕 
出願分割の効果、指定商品・役務の補正の効果、遡及効、商標法10条、68条の40第1項

 

〔事  実〕


 
 本願商標「eAccess」の出願人(イー・アクセス株式会社)は、平成12年2月9日、第35類(甲役務群)、第37類(乙役務群)、38類(丙役務群)及び第42類(丁役務群)について、別紙記載の役務を指定役務として商標登録出願をしたところ、特許庁は平成13年3月5日付で拒絶理由を通知した。これに対し、出願人は手続補正書によって、第35類(甲役務群)を指定役務から削除する補正をしたが、特許庁は同年6月1日拒絶査定をした。
 そこで、出願人は査定不服の審判請求をしたところ、特許庁は平成15年1月21日請求不成立の審決をしたが、その理由は、先願に係る他人の登録商標と類似し、指定商品も同一又は類似であるから、商標法4条1項11号に該当するとのことであった。
 出願人(原告)は、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し、提起後の平成15年3月11日に、商標法10条1項に基づいて本件出願の指定役務の一部である丁役務群を指定役務とする新たな商標登録出願(分割出願)を行い、本件出願の指定役務を乙役務群と丙役務群に減縮することを内容とする手続補正書を提出した。
 出願人(原告)はさらに、同年6月2日、商標法10条1項に基づいて、本件出願の指定役務の一部である乙役務群(「建築一式工事」を除く。)および丙役務群を指定役務とする新たな商標登録出願(分割出願)を行い、本件出願の指定役務を「建築一式工事」に減縮することを内容とする手続補正書を提出した。
 出願人(原告)は、本件出願は、本件訴訟提出後、上記分割出願に伴う補正によって、指定役務が減縮されたから、本件審決は、指定役務を誤った結果、類似判断を誤ったものであると主張した。

 

〔東京高裁の判断〕


 
 原審は,次のとおり判断して,被上告人の請求を認容した。
(1) 商標法10条1項の定める要件を充足している限り,分割出願がされることによって,原出願の指定商品及び指定役務(以下「指定商品等」という。)は,原出願と分割出願のそれぞれの指定商品等に当然に分割される。それゆえ,原出願の指定商品等について,分割出願の指定商品等として移行する商品等が削除されることは,分割出願自体に含まれ,別個の手続行為を要しない。
 出願に係る商標の指定商品等が分割出願によって減少したことは,審決取消訴訟の審理及び裁判の対象がその限りで当然に減少したことに帰するから,審決取消訴訟では,残存する指定商品等について,審決時を基準にして,審理及び裁判をすべきことになる。
(2) 本件出願の指定役務は,本件訴訟提起後に2回にわたって行われた分割出願の結果,「建築一式工事」となっており,そうであるとすると,本願商標と先願に係る他人の登録商標とは,指定役務が同一又は類似であるとはいえないから,本願商標について商標法4条1項11号に該当するとした本件審決の判断は,結果として誤りであり,本件審決のうち「建築一式工事」を指定役務とする部分は,違法として取り消されるべきである。本件審決のその余の部分は,上記2回の分割出願によって,その効力を失っている。

〔最高裁の判断〕

 商標法10条1項は,「商標登録出願人は,商標登録出願が審査,審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に限り,2以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を1又は2以上の新たな商標登録出願とすることができる。」と規定し,同条2項は,「前項の場合は,新たな商標登録出願は,もとの商標登録出願の時にしたものとみなす。」と規定している。また,商標法施行規則22条4項は,特許法施行規則30条の規定を商標登録出願に準用し,商標法10条1項の規定により新たな商標登録出願をしようとする場合において,もとの商標登録出願の願書を補正する必要があるときは,その補正は,新たな商標登録出願と同時にしなければならない旨を規定している。
 以上のとおり,商標法10条は,「商標登録出願の分割」について,新たな商標登録出願をすることができることやその商標登録出願がもとの商標登録出願の時にしたものとみなされることを規定しているが,新たな商標登録出願がされた後におけるもとの商標登録出願については何ら規定していないこと,商標法施行規則22条4項は,商標法10条1項の規定により新たな商標登録出願をしようとする場合においては,新たな商標登録出願と同時に,もとの商標登録出願の願書を補正しなければならない旨を規定していることからすると,もとの商標登録出願については,その願書を補正することによって,新たな商標登録出願がされた指定商品等が削除される効果が生ずると解するのが相当である。
 商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決(以下「拒絶審決」という。)に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について補正がされたときには,その補正は,商標法68条の40第1項が規定する補正ではないから,同項によってその効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはなく,商標法には,そのほかに補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずる旨の規定はない。そして,拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合にも,補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずるとすると,商標法68条の40第1項が,事件が審査,登録異議の申立てについての審理,審判又は再審に係属している場合以外には補正を認めず,補正ができる時期を制限している趣旨に反することになる(最高裁昭和56年(行ツ)第99号同59年10月23日第三小法廷判決・民集38巻10号1145頁参照)。
 拒絶審決を受けた商標登録出願人は,審決において拒絶理由があるとされた指定商品等以外の指定商品等について,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願をすれば,その商標登録出願は,もとの商標登録出願の時にしたものとみなされることになり,出願した指定商品等の一部について拒絶理由があるために全体が拒絶されるという不利益を免れることができる。したがって,拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について願書から指定商品等を削除する補正がされたときに,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることを認めなくとも,商標登録出願人の利益が害されることはなく,商標法10条の規定の趣旨に反することはない。
 以上によれば,拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について願書から指定商品等を削除する補正がされたときには,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはなく,審決が結果的に指定商品等に関する判断を誤ったことにはならないものというべきである。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,論旨は理由がある。
 そうすると,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人の請求は理由がないから,被上告人の請求を棄却することとする。

〔論  説〕

1.商標法10条2項は、1項に基づき2以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の場合、その一部について「分割」して新たな出願をしたときは、もとの商標登録出願の時にしたものとみなすとする規定であるから、他人との間に先後願の争いがある場合には有利な扱いがされることになる。しかし、この分割による指定商品又は指定役務を含む新出願が行われると、残された旧出願の「補正」の結集、残存する指定商品又は指定役務はあくまでも補正後のものであるから、旧出願の出願時に補正されたものとみなされることはあり得ない。つまり、出願についての「分割」と「補正」とを混同してはならないのである。
 そのように考えることは、最高裁昭和59年10月23日判決を引用するまでもなく、商標法68条の40には10条2項のごとき例外規定もないことと併せて、理の当然というべきである。
 今回の最高裁判決は、上告人(特許庁)が指摘した東京高裁によるこのような法令違反を喝破したものとして妥当である。即ち、「拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に、商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ、もとの商標登録出願について、願書から指定商品等を削除する補正がされたときには、その補正の効果が商標登録出願時にさかのぼって生ずることはなく、審決が結果的に指定商品等に関する判断を誤ったことにはならないものというべきである。」
2.出願人(原告)が分割出願した第42類については、商標登録第4753792号として平成16年3月5日に設定登録され、第37類及び第38類については、商標登録第4753830号として平成16年3月5日に設定登録されているが、平成12年2月9日出願の原出願(商願2000−9907号)は第37類「建築一式工事」については未決状態である。
3.東京高裁が、第3の上告理由となる「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反」をしたことを最高裁は認め、原判決を破棄して自判し、被上告人(出願人)の請求を棄却する判決をしたことは珍しいことである。

[牛木理一]