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登録商標「POLO JEANS」無効審決取消請求事件:知財高裁平17(行ケ)10018平成17年5月30日判〈認・審決取消〉〔特許ニュース2005年8月30日号参照〕

〔キーワード〕 
POLOポロ、ジーンズ、ラルフ・ローレン、周知著名性

 

〔事  実〕


 
 被告(ザ ポロ/ローレン カンパニー リミテッド パートナーシップ・米国)は、標準文字による標章「POLO JEANS」を、第25類「ジーンズ製の被服,ジーンズ製のガーター,ジーンズ製の靴下止め,ジーンズ製のズボンつり,ジーンズ製のバンド,ジーンズ製のベルト,ジーンズ製の履物,ジーンズ製の運動用特殊衣服,ジーンズ製の運動用特殊靴」を指定商品として、平成9年9月16日に出願し、平成15年1月17日に設定登録された商標登録第4637721号(本件商標)の商標権者である。
 原告(ポロ・ビーシーエス株式会社・大阪府)は、旧第17類の指定商品について、次の5件の登録商標の商標権者である。(現25類)
(A) 「POLO」:登録第1434359号(昭和47年6月13日出願.昭
  和55年9月29日登録・更新済)=引用商標A
(B) 「図形+Polo」(ロゴ):登録第1447449号(昭和47年4月22日.
  昭和55年12月25日登録・更新済)=引用商標B
(C) 「POLO」:登録第2721189号(昭和56年4月6日出願.平成
  9年5月2日登録)=引用商標C
(D) 「Polo」:登録第4015884号(昭和58年5月11日出願.平
  成9年6月20日登録)=引用商標D
(E) 「PoLo SPORTS」:登録第4041586号(昭和58年5月
11日出願.平成9年8月15日登録)=引用商標E
 そこで、原告は、平成15年7月25日に、本件商標の指定商品中、「ジーンズ製の被服」に係る登録について無効審判の請求をしたところ、特許庁は平成16年7月21日に「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をしたので、原告は不服の審決取消しの訴訟を請求したところ、知財高裁は平成17年5月30日に審決取消の判決をしたのである。
 審決理由の要旨は、次のとおりである。
(1) ポロ競技者の図形と、「Ralph Lauren」、「POLO RALPH LAUREN」の文字とを組み合わせた標章、「Polo」の文字を横長四角形に記載してロゴ化した標章及びポロ競技者の図形と「by RALPH LAUREN」又は「by Ralph Lauren」とを組み合わせた標章は、ラルフ・ローレンがデザインしたファッション商品及びその関連商品を表章する「ポロ」、「Polo」ないし「POLO」として著名になり、それぞれが独立して強い自他商品識別力及び顧客吸引力を獲得し、その周知著名性は、本件出願時はもとより、登録査定時を経て今日に至るまで継続している。
(2) 本件商標は、「ポロジーンズ」及び「ラルフ・ローレンのデザインに係るPOLO(ポロ)」の観念を伴った「ポロ」の称呼を生じるものである。
(3) 本件商標と引用商標とは、「ポロ」の称呼を共通にするけれども、本件商標をその指定商品中の「ジーンズ製の被服」に使用し、取引した場合、取引者及び需要者は、上記(1)の「POLO」の著名性からして「ラルフ・ローレンのデザインに係るPOLO(ポロ)の商品」の観念を伴った「ポロ」と認識する蓋然性が極めて高いというべきであり、かつ、外観上は区別でき、観念上も異なるものといえるものであるから、引用商標がその指定商品に使用されても、商品の出所の誤認混同を生じない非類似の商標というのが相当である。
(4) したがって、本件商標の指定商品中「ジーンズ製の被服」に係る登録は、商標法4条1項11号(以下「本号」という。)に違反してされたものということはできず、同法46条1項の規定によりその登録を無効とすることはできない。

 

〔判  断〕


 
1 原告は,本件商標の指定商品中「ジーンズ製の被服」に係る登録が本号に違反してされたものではないとした審決の認定判断は誤りである(取消事由)と主張するので,以下判断する。
 本号は,「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって,その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」については,商標登録を受けることができない旨規定している。この場合,商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生じるおそれがあるか否かによって決すべきであり,誤認混同を生じるおそれがあるか否かは,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者及び需要者に与える印象,記憶,連想等を考察し,これらに加え,その商品についての取引の具体的な実情に照らし,その商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断すべきものと解される(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
 そこで,引用商標A,C及びそれらの指定商品との対比において,上記の観点から,本件商標の指定商品中「ジーンズ製の被服」に係る登録が本号に違反するものであるか否かについて,以下検討する

2 本件商標(平成9年9月16日登録出願,指定商品・別表第25類「ジーンズ製の被服,ジーンズ製のガーター,ジーンズ製の靴下止め,ジーンズ製のズボンつり,ジーンズ製のバンド,ジーンズ製のベルト,ジーンズ製の履物,ジーンズ製の運動用特殊衣服,ジーンズ製の運動用特殊靴」,平成15年1月17日設定登録)は,「POLO JEANS」の欧文字を標準文字で表してなるものであるところ,「POLO」の文字と「JEANS」の文字が一文字分の間隔をおいて一体として表されているものの,「JEANS」の文字が,「ジーンズ」の称呼を生じ,丈夫な細綾織りの綿布又はそれで作った衣服等を意味する普通名詞であり(広辞苑第5版参照),指定商品である被服の品質や材質を表示するものとして,ファッション業界で慣用される文字となっていることは,公知の事実であるから,本件商標を「ジーンズ製の被服」に使用した場合,これに接した取引者及び需要者は,通常,「JEANS」の文字部分は,その商品の品質や材質等を表す普通名詞として認識し,「POLO」の文字部分を自他商品の識別機能を果たすものとして認識するものと解される。その意味で,本件商標において自他商品の識別機能を果たす要部は,「POLO」の文字部分にあると解される。
 一方,引用商標A(昭和47年6月13日登録出願,指定商品・旧別表第17類「ネクタイ,その他本類に属する商品,但し,ポロシャツ及びその類似品ならびにコートを除く」,昭和55年9月29日設定登録,平成2年9月20日及び平成12年4月18日更新登録),C(昭和56年4月6日登録出願,指定商品・旧別表第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」,平成9年5月2日設定登録)は,正に「POLO」の文字のみからなるものであり,本件商標の要部と対比すると,称呼,外観において同一であるということができる。
 また,「POLO」の語が,主として英国及び旧英国領の諸地域等において行われている馬上球技を示す普通名詞であること,襟付の半袖のカジュアル衣料を示すポロシャツの語が,本来ポロ競技の選手が着用したことにちなむもので,今日,広く各国において普通名詞として用いられていることも,公知の事実であり,本件商標の要部と引用商標A,Cとは,いずれも,取引者及び需要者に,ポロ競技ないしその略称であるポロの観念を生じさせるものと認められる。
 そうすると,本件商標と引用商標A,Cとは,称呼,外観及び観念において類似するというべきである。

3 被告は,取引の事情を考慮すれば,本件商標を指定商品中「ジーンズ製の被服」に使用しても,取引者及び需要者が引用商標A,Cに係る商品と誤認混同を生じることはないと主張する。
(1) 被告の「POLO」標章の周知著名性について
ア 証拠及び弁論の全趣旨を併せれば,次の事実が認められる。
(ア) 被告は,その主要な構成員である世界的に著名なデザイナーであるラルフ・ローレンがデザインした被服,眼鏡,フレグランスその他のファッション関連商品を関連会社やライセンシー等を通じて世界的な規模で製造,販売している。現在,ラルフ・ローレンのデザインに係るファッション関連商品には,「Polo Ralph Lauren」の文字からなる標章,「Polo」の文字を横長四角形中に記載してロゴ化したPolo(編注;Poloの文字の周りが四角形で囲われている)と「by RALPH LAUREN」の文字とを結合した標章,ポロ競技者の図形とPolo(編注;Poloの文字の周りが四角形で囲われている)と「by RALPH LAUREN」(又は「by Ralph Lauren」)の文字とを結合した標章(以下「被告標章」という。)等が付されている。
(イ) 昭和53年7月20日講談社発行の「男の一流品大図鑑」には,ラルフ・ローレンのデザインに係る被告標章を掲げた「ラルフ・ローレン」ブランドの紹介がされており,それには「1974年の映画『華麗なるギャツビー』は,現代アメリカの混迷と退廃に対する痛烈な警鐘にもなっていた。この映画で主演したロバート・レッドフォードの衣装デザインを担当したのが,ポロ社の創業者であり,アメリカのファッションデザイン界の旗手ラルフ・ローレンである」(184頁),「30歳になるかならぬかで一流デザイナーの仲間いりをはたし,わずか10年で,ポロ・ブランドを,しかもファッションデザイン後進国アメリカのブランドを,世界に通用させた」(同頁)との記載があり,昭和55年5月25日講談社発行の「世界の一流品大図鑑」('80年版)には,紳士服の項に「『POLO』ポロ(アメリカ)」として,「アメリカン・トラディショナル・ファッションの総本山ブルックス・ブラザーズで独自の服飾感覚をみがきながら,ニューヨーク大学に学んだラルフ・ローレン。知性と感性が躍動する都会的デザインが,シェイプ・アップされたからだに,フィットします。」(131頁)との記載が,また,眼鏡の項目に「『POLO』ポロ(アメリカ)」として,「ニュートラディショナルの旗手ラルフ・ローレンのデザインフレーム」(201頁)との記載がある。
 次に,昭和58年9月28日サンケイマーケティング発行の「舶来ブランド事典'84 ザ・ブランド」には,被告標章を掲げた「ポロ」ブランドの紹介がされており,それには,「今や名実ともにニューヨークのトップデザイナーの代表格として君臨するラルフ・ローレンの商標。ニュートラディショナル・デザイナーの第一人者として高い評価を受け,世界中にファンが多い」,「マークの由来 ヨーロッパ上流階級のスポーツのポロ競技をデザイン化して使っている。彼のファッションイメージとぴったり一致するため彼のトレードマークとして使用しているもの」(208頁)との記載があり,昭和55年4月15日洋品界発行の月刊「アパレルファッション店」別冊1980年版「海外ファッション・ブランド総覧」には,「ポロ・バイ・ラルフ・ローレン」について,「若々しさと格調が微妙な調和を見せるメンズ・ウェア『ポロ』ブランドの創立者。栄誉あるファッション賞“コティ賞”をはじめ彼の得た賞は数知れず,その実力をレディス・ウェアにも発揮。新しい伝統をテーマに一貫しておとなの感覚が目立つ。アメリカ・ファッション界の颯爽とした担い手」(281頁)との紹介が記載されているほか,「〈販路〉西武百貨店,全国展開 〈導入企業〉叶シ武百貨店〈発売開始〉五十一年」(195頁)等の記載がある。
 昭和59年1月婦人画報社発行の「MEN'S CLUB1984年1月号」にも上記各記載と同趣旨の記載がある。
(ウ) 昭和59年9月25日ボイス情報発行の「ライセンス・ビジネスの多角的戦略'85」には,被告がポロ・バイ・ラルフ・ローレンのブランドを我が国において西武百貨店にライセンスしていること,ライセンス開始年度は昭和51年であること(223頁)が記載されている。
 西武百貨店は,ラルフ・ローレンのデザインに係る商品及びこれに付す被告標章の周知を図るべく新聞広告するなどして,積極的に上記商品の販売活動を行った。西武百貨店がこのように宣伝販売活動に努めた結果,被告標章を付した商品の小売りベースでの売上げはハイペースで増加して行き,昭和61年にはその年商は約170億円を超えるに至った。
 また,西武百貨店は,昭和63年,同社で展開してきたポロ・ラルフ・ローレン事業を分離・独立させ,100%子会社である株式会社ポロ・ラルフローレンジャパンを設立し,同会社が被告標章を付した商品のブランドの管理をするようになった。被告標章を付した商品の小売りベースでの売上げはその後の増加の一途をたどった。
(エ) 昭和50年代,「ポロ」の商標の使用については,被告の前身であるザ・ポロ・ローレン・カンパニーと原告の前身である丸永衣料(昭和60年1月21日に公冠販売と商号を変更)との間に引用商標Aの使用をめぐって紛争が存在した。ザ・ポロ・ローレン・カンパニーは,昭和56年ころ,西武百貨店を介して,丸永衣料に対し,引用商標A及びBの使用の許諾に関する話合いを申し入れ,これをきっかけとして交渉が行われた結果,昭和62年1月1日,ザ・ポロ・ローレン・カンパニーと公冠販売(旧商号・丸永衣料)との間に上記引用商標について通常使用権を設定する旨の本件使用許諾契約が締結された。原告は,公冠と公冠販売が有していた「POLO」ブランドの管理を行うため,両会社が出資して平成元年3月に設立され,平成10年には引用商標を含む一連の「POLO」関連商標に係る商標権を公冠販売から譲り受け,被告との間の引用商標A及びBに関する本件使用許諾設定契約上の地位も承継し,現在に至っている。
(オ) 平成元年5月19日付け朝日新聞夕刊には,「『ポロ』の偽 大量販売」との見出しの下に,「昨年2月ごろから,米国の『ザ・ローレン・カンパニー』社の・・・『Polo』の商標と,乗馬の人がポロ競技をしているマークをつけたポロシャツ,トレーナーなど1万4000枚を全国の1万人に売っていた疑い」との記事が記載され,平成11年9月9日付け日本経済新聞朝刊には,「渋谷区神宮前の同社店舗で,団体職員の女性(27)に『ポロ』ブランドの偽物セーター1枚を2900円で販売したほか,・・・同区内の会社事務所と同店内に同ブランドの偽物ベストなど計約1900枚を販売目的で所持していた疑い」との記載がある。
イ 上記認定の事実及び弁論の全趣旨によれば,被告標章,すなわち,「Polo Ralph Lauren」の文字からなる標章,「Polo」の文字を横長四角形中に記載してロゴ化したPolo(編注;Poloの文字の周りが四角形で囲まれている)と「by RALPH LAUREN」とを組み合わせた標章,ポロ競技者の図形とPolo(編注;Poloの文字の周りが四角形で囲まれている)及び「by RALPH LAUREN」(又は「by Ralph Lauren」)とを組み合わせた標章等は,アメリカのファッションデザイナーとして世界的に著名なラルフ・ローレンのデザインに係るファッション関連商品を表示するものとして,我が国においては,昭和51年ころから使用されるようになり,昭和50年代半ば以降には取引者及び需要者間に広く認識されるに至っていたこと,当時から上記標章は「ポロ」,「POLO」(「Polo」)と略称されることもあり,昭和62年1月の本件使用許諾契約の締結を経て,上記標章及びこれを付した商標ブランドは,ラルフ・ローレンの「ポロ」,「Polo」ないし「POLO」として著名になり,強い自他商品識別力及び顧客吸引力を獲得していたものであり,その周知著名性は,その後,本件出願時を経て今日に至るまで継続していることが認められる。
 上記のとおり,被告の「POLO」標章が周知著名性を有することからすれば,本件商標を付した「ジーンズ製の被服」に接した場合,少なくとも一部の取引者及び需要者は,本件商標の要部である「POLO」の文字からラルフ・ローレンのデザインに係る商品を想起するものと考えられる。しかしながら,称呼,外観において同一である一個の商標から二個以上の観念を生じることのあることは経験則に照らして明らかであり,また,上記2判示のとおり,「POLO」の語が,主として英国及び旧英国領の諸地域等において行われている馬上球技を示す普通名詞であること,襟付の半袖のカジュアル衣料を示すポロシャツの語が,本来ポロ競技の選手が着用したことにちなむもので,今日,広く各国において普通名詞として用いられていることが,公知の事実であることからすると,他の一部の取引者及び需要者は,「POLO」の語が本来有する意味合いから,ポロ競技やその略称であるポロを想起するものといわなければならない。
 そうであれば,被告の「POLO」標章が周知著名性を獲得していることを考慮に入れても,本件商標と引用商標A,Cとは,本件商標の指定商品の一つである「ジーンズ製の被服」に使用する場合についてみれば,称呼,外観,観念において紛らわしい関係にあることに変わりはなく,その商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準としてみれば,取引者及び需要者が両者を見誤る可能性は否定できないというべきである。
ウ 被告は,被告の「POLO」標章は高い周知著名性を有するものであり,このことに引用商標A,Cの周知性が低いことを併せ考えた場合,本件商標を付した商品に接した取引者及び需要者が,原告の出所に係る商品であると誤認する可能性はまずないものといってよく,このような場合にまで商標の類似性を認めるのは妥当性を欠くと主張する。
 しかしながら,登録商標について通常使用権が設定されている場合において,当該登録商標が,上記通常使用権に基づきその使用をしている者の業務に係る商品を表示するものとして広く取引者及び需要者に認識され,周知著名性を獲得することは十分あり得ることであるが,そのような状況が生じているからといって,直ちに,当該登録商標と外観,称呼,観念において類似する当該登録商標を要部とする標章を指定商品に使用しても,実際には商品の出所につき誤認混同が生じる蓋然性がないか又は極めて低いとして,両者は類似しないと判断するのは相当でない。当該登録商標とその通常使用権者の使用する上記のような標章とが,外観,称呼,観念において類似し,これらを特定の指定商品に使用した場合,その通常の取引の実態を考慮に入れた一般的・抽象的なレベルにおいて,商品の出所につき誤認混同を生じるおそれがあると認められる以上,本号における商標の類否判断において,両者は類似すると判断すべきである。なぜなら,これと異なる解釈を採れば,商標法が先願登録主義を採用し,先願に係る他人の登録商標と抵触する同一又は類似の商標の登録を認めないものとし,そのことによって,登録商標につき商標権者の専用権(商標法25条)及び禁止権(同法37条)を保障しているにもかかわらず,その権利性を稀釈化ないし弱体化することになり,上記商標制度に沿わない結果を招来するからである。
 上記アに認定した事実によれば,被告が使用する,「Polo」の文字を横長四角形中に記載してロゴ化したPoloの標章,Poloと「by RALPH LAUREN」とを組み合わせた標章,ポロ競技者の図形とPolo及び「by RALPH LAUREN」(又は「by Ralph Lauren)を組み合わせた標章は,昭和50年代半ば以降に取引者及び需要者間に広く知られるようになり,それらの標章は「ポロ」,「POLO」(「Polo」)と略称さることがあったこと,原告の前身である丸永衣料と被告の前身であるザ・ポロ・ローレン・カンパニーの間には引用商標Aの使用をめぐって紛争が存在したが,昭和62年1月,ザ・ポロ・ローレン・カンパニーが,公冠販売(旧商号・丸永衣料)との間の本件使用許諾契約に基づき,引用商標A及びBについて通常使用権の取得し,その後,上記契約上の地位が原告と被告に承継され,この間に,西武百貨店が積極的な販売宣伝活動を行った結果,被告の上記標章及びこれを付した被告の商品ブランドはラルフ・ローレンの「ポロ」,「Polo」ないし「POLO」として著名になり,その著名性が維持されてきたことが認められるのである。このような経過に照らしてみれば,取引者及び需要者が,「POLO」の文字を,その著名性からして,「ラルフ・ローレンのデザインに係るPOLO(ポロ)の商品」の観念を伴ったものとして認識する蓋然性が高い反面,引用商標A,Cの周知性が低いというだけで,本件商標と引用商標A,Cとは,本件商標の指定商品中「ジーンズ製の被服」に使用する場合でも,商品の出所につき誤認混同の生じるおそれがないとし,両者の類似性を否定するのは相当でないというべきである。
 被告の上記主張は採用することができない。
(2) 被告は,本件商標に係るポロジーンズは,被告のカジュアルラインの一つとして,平成9年下期から日本での展開が開始されたものであり,本件登録出願当時,本件商標は我が国において周知性を獲得していたと主張する。
 しかしながら,被告は,その関連会社やサブライセンシー等を通じて宣伝及び販促に努めた結果,ポロジーンズラインの商品は,平成9年の約13億円を皮切りに,現在では年間約30ないし40億円の売上を達成していると主張するものの,本件出願がされたのは平成9年9月16日であり,仮に被告主張の上記事実が認められるとしても,そのことだけでは,本件商標が本件出願時に我が国において周知性を獲得していたということはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(3) 被告は,被告のポロジーンズラインの商品は,取引者及び需要者の間で,現実に,本件商標そのものである「POLO JEANS」又は「ポロジーンズ」として取引されており,そこには引用商標との誤認混同は一切ないと主張する。
 しかしながら,前記2において説示したとおり,本件商標をその指定商品の一つである「ジーンズ製の被服」について使用する場合,取引者及び需要者は,本件商標を構成する「JEANS」については,これを当該商品の品質,材質を表示する普通名詞として認識するのが通常であると考えられるのであって,本件商標が「ポロジーンズ」と一体的に称呼されるとしても,自他商品の識別機能を有するのは「POLO」の部分であると考えられる。
 そして,本件商標の要部が「POLO」として把握される以上,本件商標と引用商標A,Cとは,「ジーンズ製の被服」に使用する場合には,称呼,外観,観念において紛らわしい関係にあり,取引者及び需要者に誤認混同を生じさせるおそれがあるといわざるを得ない。
(4) 被告は,原告は「POLO JEANS」なる商標を使用した商品を製造販売していないから,取引者及び需要者が「POLO JEANS」を原告の商標と認識することはまずなく,この点からも取引者及び需要者が本件商標を付した商品を原告の出所に係る商品であると誤認する可能性はないと主張するが,この主張が理由のないものであることは,前記(3)の説示から明らかというべきである。
(5) 被告は,本件使用許諾契約においては,原告は自己の「POLO」商標をブリティッシュ・カントリー・スピリットラインの商品について使用するものとし,被告の「POLO」商標と不当に混同を生ぜしめるような方法で当該商標を使用してはならないことが定められており(5条),この契約条項により,引用商標A,Cについては,そのまま単独で使用されることはなく,必ず「BRITISH COUNTRY SPIRIT」の文字が併記されているから,本件商標を付した商品に接した取引者及び需要者が,原告の出所に係る商品を想起することはあり得ないと主張する。
 しかしながら,証拠によれば,本件使用許諾契約には被告主張の契約条項が存在することが認められるが,その内容は,一般の取引者及び需要者の知り得ない事項であり,引用商標A又はBが「BRITISH COUNTRY SPIRIT」の文字と併記されて使用されることを考慮に入れても,上記の契約条項を知らない一般の取引者及び需要者にとって,本件商標と引用商標A,Cとは,本件商標の指定商品の一つである「ジーンズ製の被服」に使用する場合についてみれば,称呼,外観,観念において紛らわしい関係にあることに変わりはなく,商品の出所につき誤認混同の生じる可能性を否定することはできないというべきである。
(6) 以上のとおり,被告の主張はいずれも理由がない。

4 前記2及び3で検討した結果によれば,本件商標と引用商標A,Cとは,称呼,外観及び観念において類似しており,このことに加え,本件商標の指定商品中「ジーンズ製の被服」と引用商標A,Cの指定商品とは重複し,その需要者は通常は特別の専門知識を有するものでない一般消費者であることをも考慮すれば,本件商標と引用商標A,Cとは,本件商標の指定商品中「ジーンズ製の被服」に使用する場合,商品の出所につき誤認混同を生じるおそれがあると認められる。したがって,本件商標の指定商品中「ジーンズ製の被服」に係る登録は,本号に違反してされたものというべきであり,これと異なる審決の判断は誤りといわざるを得ない。

5 以上の次第で,原告主張の取消事由は理由があり,審決は取消しを免れない。よって、本件請求は理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。
〔論  説〕
1.全く第三者の立場にある筆者は、本事件の判決を1回通読しただけでは、その審決取消請求事件の真意がわからなかった。しかし、商標「POLO」をめぐっては、わが国においては複雑な背景が存在しているようだということがわかったので、本事件で無効対象となっている本件商標と、引用されている各登録商標の公報と登録原簿を入手して見て驚いたのである。
 わが国において商標の嵐を吹かせているラルフ・ローレンの「POLO」の前に、すでに「POLO」の商標登録をしていた個人が京都市にいたのであった。筆者はかつて、故ジェィムス・ディーンが有するパブリシティの権利の保護管理を遺族から委託されているインディアナポリスの会社からの依頼によって調査した、「JAMES DEAN」の氏名をめぐるわが国会社による商標権の多さに驚いたことを思い出した。しかし、本件「POLO」の場合はそれとは大部違っている。
 その商標権とは、判決が採用した引用商標(A)に係る商標登録第1434359号であり、昭和47年6月13日に出願し、その出願公告日は昭和52年12月13日、設定登録日は昭和55年9月29日という、異常なまでに遅延した後の発生であった。指定商品の記載を見ると、「第17類ネクタイ,その他本願に属する商品、但し,ポロシャツ及びその類似品並にコートを除く。」とある。
 この引用商標(A)に係る商標権は、前記京都市の個人から、昭和58年12月19日に大阪府の丸永衣料(株)(後日、公冠販売(株)と商号変更)に移転し、平成10年4月27日に東京都(後日、大阪市に住所変更)のポロ・ビーシーエス(株)に移転し、この会社が本件商標に対する無効審判の請求人(原告)であった。
 この引用商標(A)の商標権には、指定商品中、「ネクタイ及びマフラー」について、「本商標権の存続期間に同じ。(但し期間の終期は平成22年9月29日迄)」として、平成12年12月21日に、京都市の(有)アイジーオーが専用使用権を設定登録した。
 また、引用商標(A)に対しては、登録無効の審判請求や不使用取消の審判請求が出ていたが、いずれも不成立若くは却下の審決、又は取下げとなっていた。
 なお、引用商標(A)が引用商標(B)(C)らと異なる点は、指定商品の記載が但し書きで、「ポロシャツ及びその類似品を除く」としている点である。けだし、旧第17類でも現25類でも、特許庁の商品審査基準では「ポロシャツ」は普通名称として例示されており、「シャツ類」については特定人に「ポロ」や「POLO」の文字を商標として専有させることは不当だからである。
 
2.一方、本件商標とは、ラルフ・ローレンが関係する会社の出願にかかる「POLO JEANS」で、指定商品を「ジーンズ製の被服」とすることは、被服中の一商品である「ポロシャツ」と類似する商品と見られることになるから、商標法3条1項3号又は6号に該当する識別力のない商標となるかも知れない。
 しかし、請求人(原告)は、本件商標に対し商標法3条1項で攻めた場合、被請求人(被告)が「POLO」は本来3条2項に該当する商標であることを立証するとすれば不利となるかも知れないと考え、自ら専有せる引用商標(A)(B)(C)らによって商標法4条1項11号に該当することで攻めた方が有利かつ説得力があると考えたのかも知れない。(この点は、専ら筆者の憶測である。)
 審決は、案の定、被請求人の会社名やデザイナー名や図形などのセリブリティ性を引き合いに出し、引用商標らとは外観上も観念上も区別できるものと考えたが、しかしこれは無理というものである。本件商標は、会社名やデザイナー名や図形などが付記されているものでない標準文字だけの「POLO JEANS」であるから、審決のような考え方は明らかに誤りというべきだろう。
 判決は、審決のこの無理論を見抜いており、原告(請求人)が引用主張した他人の登録商標と類似するとの商標法4条1項11号の適用に集中した考え方を是とし、請求を認容したものと思われる。

3.今回の知財高裁の判断は、あくまでも本件商標が標準文字から成る態様の標章に対するものであるから妥当といえる。しかし、この文字に図形が付加された態様の標章であれば、その要部は図形の方となるから、その図形について他人が類似する態様の商標を出願したり、使用すれば、「POLO」の標準文字が表示されていたとしても、拒絶になったり、侵害になったりする場合が起るだろう。
 その審決取消しの事例としては、次のものが見られる。
(1) 東京高裁(3民部)平15(行ケ)371平成16年2月25日判(認
容・取消)=本願商標「図形のみ」→登録成立(商標法4条1項11号不適用)→G−30
(2) 東京高裁(知財2部)平15(行ケ)564 平成16年9月6日判(認容・取消)=本件商標「図形+U.S.P.A」→登録成立(商標法4条1項15号不適用)→G−32
(3) 東京高裁(知財4部)平16(行ケ)87平成16年9月29日判(棄却)=本件商標「図形+U.S.POLO ASSOCIATION」→登録無効成立(商標法4条1項15号適用)→G−34
(4) 知財高裁(3部)平17(行ケ)10230平成17年4月13日判(認容・取消)=本件商標「図形のみ」→登録無効成立(商標法4条1項15号適用)→G−38
 「POLO」をめぐるこれらの高裁判決に対しては、いずれも上告されているかどうか不明であるけれども、今や最高裁判所で統一した法理論を確立するようにしてもよい事案だろう。

[牛木理一]