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登録商標「ポロ類似図形」取消審決取消請求事件:知財高裁平成17(行ケ)10230号
平成17年4月13日判(認容)〔特許ニュース2005年7月29日号〕

〔キーワード〕 
商標法4条1項15号、他人業務の商品・役務との混同のおそれ、一般需要者の注意力、ラルフ・ローレンのポロ図形

 

〔事  実〕


 
被告(ポログランドジャパン株式会社)は、本件商標について、第25類を指定商品として平成6年2月4日に出願し、平成10年8月14日に設定登録した商標登録第3369985号の商標権者である。
 原告(ザ ポロ/ローレン カンパニーリミテッド パートナーシップ)は、本件商標は商標法4条1項15号に違反して登録されたものとして、登録無効の審判を請求したが、特許庁は平成16年6月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。
 本件は、原告が、審決は本件商標と引用商標との類似性及び取引の実情についての判断を誤ったことにより、誤った判断をしたとして取り消しを求めた事案である。
 審決の理由は、要するに次のとおりである。
 本件商標は、猿が、必ずしも特定し得ない動物に乗り右腕を後上方にのばしている図形よりなるものであり、他方、別紙商標目録記載2の商標登録第2691725号商標(以下「引用商標」という。)は、ポロ競技者が疾駆する馬に乗りマレットを後上方に振り上げている図形よりなるものであるところ、両図形は、その表現方法、構図、描かれている対象において顕著な差異を有しているものであるから、全体として視覚的印象、記憶が全く別異のものとして看取されるものというべきであり、引用商標の周知著名性、ワンポイントマークとして使用される等の取引の実情等を考慮しても、本件商標がその指定商品に使用された場合、取引者、需要者が直ちに引用商標を連想、想起するものとはいえず、その商品が原告又は原告と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれはないから、本件商標は、商標法4条1項15号に違反して登録されたものではない、とするものである。

 

〔判  断〕


 
1 商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(最判平成12年7月11日民集54巻6号1848頁)。
2 本件商標と引用商標の構成
(1) 引用商標は,別紙商標目録記載2のとおり,帽子と被服を身にした一騎のポロプレーヤーが,疾走する馬に乗り,ポロ競技用のスティック(マレット)を斜め上方に構えている姿を斜め前方から表し,全体をシルエット風に黒色で描かれている図形から成るものである。
(2) 本件商標は,別紙商標目録記載1のとおり,白毛で覆われているかのように細かい線で描かれた正体不明の4つ足の動物の後頭部に,黒く塗られた猿とおぼしき動物がしがみついており,その頭部付近から意味不明の部分が斜め上方に向かって伸びているという図形から成るものである。
 審決は,本件商標の図形について,「猿が必ずしも特定し得ない動物に乗り右腕を後上方にのばしている」と認定し,被告は,「猿が山羊に乗っている」図形であると主張しているが,4つ足の動物を山羊と見ることはかなり困難であるし,これにしがみついている動物も,「猿だといわれればそのように見えなくはない」といった程度のものであり,一見して猿であるとまで認識できるというものではない。また,審決が「右腕を後上方にのばしている」と認定した部分も,左腕との対比においてその位置や長さの点で右腕を伸ばしているとみることは必ずしも自然ではなく,帽子様のものにも見えるなど,判別し難いものである。要するに,本件商標は,それ自体だけを見ると,実在する特定のものを表現したものとは解することができず,これを創作した者がいかなるものを表現しようとしたのかは必ずしも理解し難いというべきである。
3 引用商標の周知著名性
(1) 証拠によれば,次の事実を認めることができる。
ア ラルフ・ローレンは,1939年(昭和14年)生まれのアメリカの服飾等のデザイナーであるが,1968年(昭和43年),ポロ・ファッションズ社を設立し,ネクタイ,スーツ,セーター,靴,かばん等のデザインを手がけるなどファッション関連の商品についてトータルな展開を図り,1970年(昭和45年)と1973年(昭和48年)の2回にわたり,アメリカのファッション界で最も権威があるとされる「コティ賞」を受賞するなど高い評価を受け,さらに,1974年(昭和49年)に,映画「華麗なるギャツビー」の主演男性俳優の衣装のデザインを担当し,アメリカを代表するデザイナーとしての地位を確立すると共に,世界的に知られるようになった。ラルフ・ローレンのデザインに係る一群の商品には,「Polo」の文字と共に「by RALPH LAUREN」などの文字のほか,ラルフ・ローレンのトレードマークとして引用商標と同じ図形が使用されている。
イ 我が国においては,西武百貨店が,使用許諾を受けて,昭和52年ころから,ラルフ・ローレンのデザインに係る商品の販売等を開始し,全国各地の店舗で販売されるようになり,昭和62年におけるポロ・ラルフローレンブランドの小売販売高は約330億円となり,ラルフ・ローレンのデザインに係る商品は,引用商標などと共に,各種雑誌等において一流ブランドの商品として紹介されてきた。
ウ 平成元年ころから,我が国で,「ポロ」の偽ブランド商品が出現し,摘発される事件が発生し,これを報道した平成元年5月19日付け「朝日新聞」には,「「ポロ」の偽 大量販売 「Polo(ポロ)」の商標で知られるラルフローレンブランド・・・米国の「ザ・ローレン・カンパニー」社の商標・デザインで西武百貨店が日本での独占製造販売権を持っている「Polo」の商標と,乗馬の人がポロ競技をしているマーク」,平成4年9月23日付け「読売新聞」には,「アメリカの人気ブランド「ポロ」(本社・ニューヨーク)のロゴ「ポロ・バイ・ラルフ・ローレン」」,平成5年10月13日付け「読売新聞」には,「ポロ競技のマークで知られる米国のファッションブランド「POLO(ポロ)」」,という各記事が掲載されているように,引用商標を含むラルフローレンの標章は,「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標の名で知られ,一流ブランド品としてのAのデザインに係る商品と共に,我が国の需要者の間に定着していた。
エ また,平成4年,6年ないし8年に,原告は,繊研新聞紙上に,引用商標を大きく示し,「このポロレイヤーマークは,ラルフローレンがデザインした製品だけに使える商標です。」と付記した広告を出している。
(2) 以上認定の事実によれば,我が国において,引用商標は,その略称である「Polo」,「ポロ」の各文字標章と共に,ネクタイ,スーツ,セーター,靴,かばん等のファッション関連の商品について,ラルフ・ローレンのデザインに係る商品に付される商標ないしブランドとして広く知られ,強い顧客吸引力を取得するに至っていることが認められるのであって,本件商標の出願(平成6年2月4日)前に,既に需要者の間で周知・著名な商標となっていたということができる。そして,平成11年6月8日付け「朝日新聞」の「偽ブランドの販売で元社長に有罪判決」との記事において,「・・・昨年2月,・・・米国ブランド「ポロ」などのマークが入った偽物のセーターやポロシャツ」と記載されているように,平成10年当時においても,「ポロ」ブランドの顧客吸引力に着目して「偽ポロ」商品を販売する者がいたなど,引用商標を含む「ポロ」標章の著名性は,本件商標の出願時以後も,その登録査定時を経てその後に至るまで継続しているということができる。
4 商標の使用の形態等に関する取引の実情
 証拠によれば,引用商標は,スポーツシャツ,ベスト,パジャマ,靴下などについて,刺繍などによるいわゆるワンポイントマークとして付されていることが多いこと,また,引用商標だけでなく,他の著名な図形商標も,同様の商品などにワンポイントマークとして付されていることが多いことが認められ,また,証拠によれば,被告は,平成14年ころ,引用商標に類似したワンポイントマークを付したボタンダウンシャツを東京都内で販売し,原告から商標権侵害である旨の警告を受けていることが認められる。
 これらの事実によれば,本件商標が,その指定商品であるセーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,靴下等の被服類の商品分野において使用される場合には,ワンポイントマークとして表示される可能性が高いものということができる。
 また,本件商標が使用される商品であるセーター類,ワイシャツ類等の商品の主たる需要者は,老人から若者までを含む一般の消費者であり,必ずしも商標やブランドについて詳細な知識を持たない者も多数含まれていることに加え,商品の購入に際し,メーカー名などについて常に注意深く確認するとは限らず,小売店の店頭などで短時間のうちに購入商品を決定するということも少なくないことは,経験則に照らして推認するに難くないところである。
 本件商標についての混同のおそれの有無の判断は,上記のような取引の実情における需要者の注意力及びワンポイントマークとして使用される可能性をも十分考慮に入れて,検討されるべきである。
5 混同を生ずるおそれの有無について
(1) 別紙商標目録記載2のとおり,本件商標における4つ足の動物は,白毛様のもので,その頭部,胴体部及び脚部が太く描かれており,これにしがみついている猿とおぼしき動物も,引用商標のようなポロ競技をしている様子にはみえない点で,引用商標とは相違しているものであり,両商標を対比すると,各商標の視覚的印象が別異のものであるということもできる。
 しかしながら,本件商標の全体的な構図をみると,その4つ足の動物は,引用商標の馬と同じく左向きの形で,足の位置・長さや頭部の向き,右前脚が少し「く」の字に折れている点など各部位の配置が引用商標とほぼ同じであり,また,引用商標のポロ競技者の左足の先端に相当する位置に,白毛の動物の腹部の出っ張り部分があるほか,猿とおぼしき動物の頭の位置,傾斜した姿勢が引用商標のポロ競技者のそれと類似し,さらにその動物の頭部付近から斜め上方に向かって伸びている部分は,引用商標のスティック(マレット)と太さは異なるものの,その位置,角度などが符合しているなど,本件商標の全体的な配置,輪郭は,引用商標と高い類似性を示しているものということができる。
 そして,本件商標がワンポイントマークとして使用される場合を考えると,そのようなワンポイントマークは,比較的小さいものであり,マーク自体に詳細な模様や図柄を表現することは実際上容易ではないから,例えば,ポロシャツに刺繍するときは,正体不明の4つ足の動物の白毛部分の細かな線や猿とおぼしき動物の顔等を写実的に描くことはかなり困難であり,むしろその図形の輪郭全体が見る者の注意を惹き,内側における差異が目立たなくなることが十分に予想されるのであって,その全体的な配置,輪郭が引用商標と類似していることから,ワンポイントマークとして使用された場合の本件商標は,引用商標とより類似してくるとみるのが相当である(なお,本件商標それ自体が何を表現しているのか必ずしも理解し難いことや,引用商標の馬に対応する動物の足の形や位置,ポロ競技者の振りかざしたスティック(マレット)に対応する猿とおぼしき動物の頭部付近から斜め上方に向かって伸びた部分など,その全体の配置や輪郭が不自然に引用商標に似たものとなっていることからすると,あえて引用商標とその輪郭を似せることにより,類似のワンポイントマークとして使用する意図があるのではないかといわれてもやむを得ないものがあるといわざるを得ず,本件商標は,上記のような引用商標とより類似した態様で使用されるおそれが強いということができる。)。
(2) そうすると,前記のとおり,本件商標はワンポイントマークとして使用される可能性が高いこと,本件商標が使用される商品であるセーター類,ワイシャツ類等の商品(指定商品第25類)の主たる需要者が,商標やブランドについて詳細な知識を持たない者を含む一般の消費者であり,商品の購入に際し,メーカー名などを常に注意深く確認するとは限らないことなどの実情や,引用商標が我が国においてポロブランドとして極めて高い周知著名性を有していることなどを考慮すると,本件商標が,特にその指定商品にワンポイントマークとして使用された場合には,これに接した需要者(一般消費者)は,それが引用商標と全体的な配置,輪郭が類似する図形であることに着目し,本件商標における細部の形状や模様などの相違点に気付かずに,当該商品をラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に密接な関係がある者の業務に係る商品であるかのように,その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。
(3) 被告は,本件商標と引用商標とでは,「主題」や「描法」の点で決定的に相違しており,また,着想や全体的構成の点でも軌を一にするといえないとし,両商標の非類似性が明白であるから,ワンポイントマークとして使用された場合であっても,出所の混同を生じさせることはないと主張する。
 しかし,本件商標それ自体が何を表現しているのか必ずしも理解し難いことは前記のとおりであるが,たとえそれが被告主張のような主題,着想のものであり,また,その描法や全体的構成の点で引用商標と相違するとしても,その全体的な構図,輪郭が引用商標と客観的に類似したものとなっており,これをワンポイントマークとして使用した場合,一般消費者の注意力などをも考慮すると,出所の混同を生ずるおそれがあることは前記のとおりであって,被告主張のような主観的な意図やワンポイントマークにおいて注目を惹きにくい細部の描法等の点は,上記判断を左右するものとはいえない。
(4) 以上のとおり,本件商標は,本件商標の出願当時及び登録査定当時において,他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるものというべきであり,商標法4条1項15号に該当するものというべきである。したがって,これと異なる認定判断に基づいて,本件商標が同号に違反して登録されたものではないとした審決の判断は誤りである。
6 したがって,原告が主張する取消事由は理由があり,審決は取消を免れない。

〔論  説〕

1.本件商標の標章態様と引用商標の標章態様とを対比して見ると、標章全体のプロポーションは同じではあるが、具体的な表現形式は違うものであることがわかる。これを著作権法的に解すれば、アイディア(着想)は模倣していても、具体的な表現形式が違うから、著作権侵害にはならないということになる。この場合の判断主体は、著作者であって一般需要者ではない。

2.さて、本件は、商標の類否判断が、特許庁審判部と知財高裁とでは分れた事案で、しかもその適用条文は登録商標との類否の場合に適用される商標法4条1項11号ではなく、15号であったから注目される。
 裁判所はまず、15号の規定が適用される場合について、最高裁平成12年7月11日判決を引用した。この判例は、15号の適用は、他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性や独創性の程度、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途、目的における関連性の程度、商品等の取引者・需要者の共通性その他取引の実情などを考慮し、当該商標の指定商品等の取引者・需要者の普通の注意力を基準として、総合的に判断されるべきだと説示する。
(1)第1に、引用商標の周知著名性については、多くの甲号証から、ファッション関連の商品について、ラルフ・ローレンのデザインに係る商品に付される商標として広く知られ、強い顧客吸収力を取得するに至っていることを認め、本件商標の出願前すでに需要者間に周囲・著名な商標となっていたと認定した。
(2)第2に、商標使用の形態等に関する取引の実情については、被告は平成14年頃に、原告から商標権侵害の警告を受けていた。また、セーター類やシャツ類の主たる需要者は、老人から若者までを含む一般の消費者であり、商標について必ずしも詳細な知識を持たない者も多く含まれ、メーカー名などを注意深く確認するとは限らないし、小売店頭では短時間のうちに購入商品を決定することも少なくない、との実情を明らかにした。
(3)第3に、混同を生ずるおそれの有無について、本件商標と引用商標とは視覚的印象は別異のものと認定はしたが、引用商標と本件商標とは、全体的な配置、輪郭は高い類似性を示していると認定した。さらに、判決は本件商標について全体の配置や輪郭が引用商標のそれと似ていることは不自然なことであるから、あえて引用商標のそれと似せる意図が存したと認定した。
 したがって、裁判所は、本件商標は引用商標との間に一般消費者の注意力からは出所の混同を生じさせるおそれがあると認定した。

3.周知著名な商標の場合は、それが登録になっているものであろうとなかろうと、審判・訴訟の現場では、10号や11号ではなく、15号であっても可能としているようだ。しかし、15号は、10号や11号に規定するものを除く、と規定していることを考えると、これらの規定に該当する商標については、まず10号や11号が適用されるべきことになる。
 即ち、10号は同一又は類似の商品や役務の範疇に属する周知の商標と同一又は類似の商標に対して適用し、11号は同一又は類似の商品や役務の範疇に属する登録商標と同一又は類似の商標に対して適用するから、15号が適用されるのは、それらの商標以外の、同一又は類似の商品や役務の範疇に属さない周知の商標の場合に限ると解すべきだ。ということは、商品や役務の壁を超えて周知かつ著名な商標については、広く出所の混同を生ずるおそれがある場合があることから、そのような商標を保護することは需要者の保護に通ずるになるという論理である。
 したがって、同一又は類似の商品の範疇に属する原告商標に対しては11号の適用が妥当であって、15号の適用は妥当性を欠くのではないかという疑問が、商標法の実務者から出るだろう。
 それとも、裁判所は、被告商標に係る標章態様が原告商標のそれと類似すると断定するには抵抗を覚えたのだろうか。全体的な構図や輪郭が類似するとは、正にアイディアの共通性をとらえていることになるからだ。いずれにせよ、まだ検討の余地がある事案のように思われる。
 これまでにラルフ・ローレンの「ポロPOLO」の図形標章がからんだ審決取消訴訟事件には、次のようなものがあるから、これらの事案との比較検討を総合的にしてみると面白いだろう。
@東京高裁平11(行ケ)254平成12年1月27日判(認)
A東京高裁知財2部平15(行ケ)564平成16年9月6日判(認)
B東京高裁知財4部平16(行ケ)87平成16年9月29日判(棄)
 なお、本件被告が有する登録商標第4637721号に係る「POLO JEANS」に対し、ポロ・ビーシーエス株式会社(原告)が請求した登録無効審判に対して出した特許庁の「請求不成立」の審決に対する取消訴訟において、知財高裁は審決取消の判決を平成17年5月30日にしていることは注目に値する。これについては来月号において取り上げてみる。

[牛木理一]