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登録商標「エドウィン図形標章」無効審決取消請求事件:東京高裁平成16(行ケ)85 平成16年10月20日判(棄却)

 
〔キーワード〕 
バックポケット・ステッチ,商標の類似,商品出所の混同(広義の混同)

 

〔事  実〕


 
原告(エドウィン)の本件登録商標は、第25類「被服,等」を指定商品として、平成12年9月22日に出願し、平成13年7月13日に商標登録第4490954号として認定登録された商標権である。
 これに対し、被告(リーバイス)は、平成15年2月3日に登録無効審判を請求したところ、特許庁は登録無効の審判をしたので、原告は審判の取消を求めた事案である。
 被告は、本件商標は商標法4条1項11号および15号に違反して登録されたものと主張し、自社の(1)登録第1592525号商標(引用商標1)と、(2)登録第2205094号商標(引用商標2)を引用した。 

 

〔審決理由の要旨〕


 
 審決は,商標法4条1項11号違反の点について検討し,本件商標と引用商標1及び引用商標2とは,互いに類似するとはいえないとして,同条項に違反するとはいえないと判断した。
 審決は,商標法4条1項15号違反の点について検討し,概ね以下のとおり説示して,本件商標は,商標法4条1項15号に違反して登録されたものというべきであると判断した。
 (a) 審決は,証拠(業界紙,書籍及び雑誌等)により,次のとおり認定した。
 「証拠には,引用商標1の形状と酷似したバックポケットの形状(判決注:以下,審決を引用する場合を含め,『被告バックポケットの形状』という。)が掲載されていることが認められる。…被告バックポケットの形状は,商品『ジーンズパンツ』を含む本件商標の指定商品の取引者・需要者の間で,広く認識され,これが現在においても継続しているものと推認し得るものである。なお,本件証拠によっては,被告バックポケットの形状が著名となっているとまでは認定し得ない。」
 (b) 審決は,最高裁平成12年7月11日第3小法廷判決の判示を引用した上,出所混同のおそれについて,概ね次のとおり認定判断した(なお,審決中の「請求人」,「被請求人」の表示は,本訴における「被告」,「原告」に読み替えて引用する。)。
 「本件商標の指定商品は,…『被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴』であり,一方,被告の使用に係る被告バックポケットの形状は,…ジーンズパンツに係るものであることから,これら商品は,同一あるいは互いに極めて関連性の深い商品といえるものである。
 しかして,…バックポケットのステッチの形状についてみるに,左右対象の二つのアーチ形状を採択しているのは,被告,原告,帝人ワオ(…)であり,他社のステッチは,これらとは顕著な差異を有することが認められる。 
 そこで,本件商標と引用商標1の形状について対比するに,本件商標と引用商標1の形状は,…互いに類似するものではないものの,これらの両ステッチは,ともに二重の破線をもって,五角形の外周部左右両辺からバックポケットの中央部に向かって形成され,これが中央部で下向きに形成されており,両ステッチ部分の形状をおおまかに観察すれば,互いに近似する形状であり,この点において,両者は構成の軌を一にするといえるものである。 
 一方,両者におけるアーチ形状のステッチ中央部の相違は,前記した両者の近似性を凌駕するほどの顕著なものとは認められない。 
 そして,被告バックポケットの形状は,…商品被服,とりわけジーンズパンツの取引者・需要者の間で広く認識され,周知となっており,他方,原告の本件商標,あるいは,そのステッチ部分が周知・著名となっているとの証左はない。 
 また,本件商標の指定商品は,引用商標1あるいは被告バックポケットの形状が商品「ジーンズパンツ」に使用された結果,それが獲得している周知性の範囲内の商品といえるものである。 
 そうとすれば,本件商標を,その指定商品に使用するときには,これに接する需要者は,引用商標1あるいは被告バックポケットの形状を連想・想起し,当該商品が被告の取り扱う商品であると誤信するか,又は,被告との間に密接な関係を有する者の業務に係る商品であると誤信することで,その商品の出所について広義の混同を生ずるおそれがあるというべきである。」
 (c) 審決は,次のように説示して,原告の主張を排斥した。
 「原告は,ジーンズ業界においては,バックポケットはブランド名等が大きく表記された革ラベルや紙ラベルと共に使用されており,需要者は,当該ラベルに大きく表記されたブランド名で商品の出所を識別することが一般的であり,原告のジーンズも例外ではなく,かかる取引実情や,ジーンズを消費者が実際に購入する際には試着を行い店員の説明を聞き慎重に購入するのが一般的であること等からしても,商品の出所混同のおそれはないことは明らかであると主張している。
 確かに,本件商標には,「SOMETHING」の文字が,引用商標1には,「LEVI'S」の文字が含まれており,両文字が,原告及び被告の商標として知られているものとしても,本件については,アーチ形状のステッチにおいて,本件商標が,他人の業務に係る商品と広義の混同を生ずるおそれがある商標と認められるものであり,上記した各文字部分の存在をもって,両商標間の広義の混同のおそれを否定することはできない。」

〔判  断〕

1 取消事由1(商標法4条1項15号の適用範囲に関する解釈の誤り)について
 商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきであって(最高裁平成12年7月11日第3小法廷判決・民集54巻6号1848頁),上記に掲げた個々の事情ごとに峻別して悉無律的にその存否を判断するのではなく,個々の事情ごとにその程度を検討した上,最終的にこれらを総合して「混同のおそれ」の有無を決すべきものである。すなわち,「混同を生ずるおそれ」の要件の判断においては,当該商標(本件商標)と他人の表示(引用商標1)との類似性の程度が商標法4条1項11号の要件を満たすものでないにしても,その程度がいかなるものであるのかについて検討した上,他人の表示(引用商標1)の周知著名性の程度や,上記諸事情に照らして総合的に判断されるべきものである。また,周知著名性については,「混同を生ずるおそれ」の有無を判断する上で,周知性と著名性とを峻別して検討する必要性は通常考えられないから,特段の事情がない限り,周知著名性を一体としてその程度を検討すれば足りるものというべきである。
 そうすると,審決が,本件商標と引用商標1とを非類似とし,引用商標1の形状と酷似した被告バックポケットの形状が著名であるとはいえないとしながら,周知著名性の程度やその他の諸事情を検討し,結論として,同条項への該当性を認めたとしても,そのこともって直ちに違法というべきものではない。また,同条項の該当の要件として,周知では足りず,著名であることを要すると解することもできない。
 以上のとおりであるから,この点に関する原告の主張は,採用の限りではない。
 2 取消事由2(商標法4条1項15号における出所混同の認定判断の誤り)について
 (1) 原告は,審決の誤りは別件東京高裁判決の不当な影響があるといい,被告も本件審決に至る経緯として,別件の紛争について述べる。そこで,本件に関係する限度で,この点をみておくと,前記事案の概要として記載した事実のほか,証拠(乙3,4)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
 (a) 本件被告は,本件原告に対し,平成8年に,不正競争防止法に基づき,本件原告の使用する標章(東京地裁平成12年6月28日判決 添付の別紙2「被告(注:本件原告)標章目録(一)」及び「同(二)」に記載の標章。本判決添付の別紙2「別件の原告標章目録(一)」及び「同(二)」に同じ。以下「別件の原告標章」という。)の使用差止め等を求める訴訟を提起した。
 上記訴訟では,別件の原告標章が,上記地裁判決添付の別紙2「原告(注:本件被告)標章目録(一)」及び「同(二)」に記載の標章(本件の引用商標1にほぼ同じ。以下「別件の被告標章」という。)との関係で,不正競争防止法違反に当たるかどうかが争点となった。
 (b) 東京地裁は,平成12年6月28日に上記請求を認容する判決を言い渡した。同判決は,別件の被告標章は,周知となっているとした上,別件の被告標章と別件の原告標章とは,類似すると認定した。その理由として,@ジーンズのバックポケットに付されたステッチであること,A左右二つのアーチからなること,B左右二つのアーチは線対称であること,Cそれぞれのアーチは,ほぼ平行な二本の曲線からなること,D二本の曲線は,両端部分から中央部分に向かって,円弧を描くようにして次第に下降し,中心部で交差していることなどの共通点が挙げられた。そして,別件の被告標章は,別件の原告標章と比べて,両端部分と中央部分との高低差が大きいこと,別件の被告標章は,二本の曲線が中央部で互いに交差し,中央部にひし形の図形を形成しているのに対し,別件の原告標章は,そのような図形がないなどの点で相違するとの本件原告の主張は,わずかな点にすぎず,多くの共通点に照らして,類似との結論を左右するものとはいえないとして,排斥された。そして,同判決は,両標章による誤認混同のおそれを肯認して,本件被告の請求を認容した。
 (c) 本件原告は,同判決に対して控訴を提起するとともに,平成12年9月22日本件商標の出願をした。
 そして,控訴審係属中である平成13年6月6日に上記出願につき登録査定を受け,同年7月13日に設定登録がされた。
 (d) 東京高裁は,上記控訴事件につき,平成13年12月26日に上記地裁の差止認容判決を維持するとの判決を言い渡し,同判決は確定した。
 同判決は,両標章の類似性について,次のように判示した。
 「両者は,ジーンズのバックポケットに付されたステッチであって,バックポケットの外周近くで概ねその形状に沿って五角形を形成する2本の線の部分と,バックポケット左右の各辺からその内部に形成された2本の曲線の部分とからなるものであって,バックポケット内部に形成された部分は,バックポケットの左右各辺からバックポケット横方向中央にかけての部分に,それぞれがほぼ平行な2本の曲線からなるアーチが左右一つずつ,計二つ形成され,それが横方向中央において結合する形状からなり,上記左右の各アーチは,バックポケット横方向中央に想定される縦軸について線対称であるという基本的な構成態様において共通である。また,両標章は,細部の形状において,バックポケット内部の左右のアーチが,いずれもバックポケット左右の各端部から横方向中央部分に向かって,最初はわずかに上昇するものの,すぐに下降し,バックポケット横方向中央部において結合する位置が,左右の各端部の位置よりも低くなっている点,バックポケット外周に沿う2本の線が,上辺及び下方の2辺に沿う部分においてはほぼ平行であるものの,左右各辺に沿う部分においては,2本の線の間隔が上方で下方よりも広がっているという点でも共通性を有するものである。」
 そして,同判決は,バックポケット内部の二つのアーチの曲率の差異,バックポケット横方向中央部において結合する位置と左右の各端部の位置の高低差の差異,二つのアーチがバックポケット横方向中央部において結合する位置における形状の差異,バックポケット外周のうち左右各辺に沿う2本の線の上方の間隔の広がり具合の差異をも考慮し,両標章は類似するものと認めた。そして,判決は,誤認混同のおそれを肯認した。
 (e) 被告は,平成15年2月3日,本件商標登録の無効を主張して,本件審判を請求した。
 (2) 本件商標と引用商標1(被告バックポケットの形状)との類似性の程度(原告主張の近似性)について
 (a) 本件商標は,別紙1の@本件商標として掲げたとおりのものであり,引用商標1は,別紙1のA引用商標1として掲げたとおりのものである。
 審決は,これらの商標の構成につき,次のとおり認定した。
 「本件商標の構成は,…左右対称の野球のホームベース状の五角形を実線で描き,その各辺の内側に沿って二重の破線を配し,この五角形図形の中央部分に欧文字の「S」字状の図形を描き,その左右に該五角形図形を上下に二分するように二重の破線をもって,アーチ形状の図形を描き,この五角形図形の上辺の右内側部分に,黒塗り四角形を配し,この図形内に「SOMETHING」の文字を書してなるものである。これに対して,引用商標1の構成は,…左右対称の野球のホームベース状の五角形を実線で描き,その各辺の内側に沿って二重の破線を配し,この五角形図形を上下に二分するように二重の破線をもって,左右二つのアーチ形状の図形を描いてなり,この五角形図形の左辺の左外側部分に,縦長の四角形を配し,該図形内に縦書きで「LEVI'S」の欧文字を書してなるものである。」
 証拠によれば,上記認定は是認し得るものである。そして,両者を対比すれば,本件商標と引用商標1の形状は,ステッチがともに二重の破線をもって,五角形の外周部左右両辺からバックポケットの中央部に向かって形成され,これが中央部で下向きに形成されており,両ステッチ部分の形状をおおまかに観察すれば,互いに近似する形状であって,この点において,両者は構成の軌を一にするといえるとした審決の認定も,是認し得るものである。
 なお,原告は,本件商標及び引用商標1の各文字部分に対応する称呼が生ずると主張するが,本件商標及び引用商標1の構成に照らせば,特段の称呼が生じるものとは認め難く,この点が類似性の程度の認定に直ちに影響するものとはいえない。
 (b) 原告は,ステッチ中央部における結合の有無の点で相違することを主張する。
 確かに,別紙1の@本件商標とA引用商標1とを対比すれば,後者が結合しているのに対し,前者のアーチ形状のステッチ(内部破線)は,結合していない。しかし,本件商標のアーチ形状のステッチを仔細に見分すれば両者が結合していないとわかるのであるが,アーチ形状のステッチの中央部に前記のように欧文字の「S」字状の図形が描かれていることから,看者に対し,左右に分かれたアーチ形状のステッチの間を欧文字の「S」字状の図形が結んでいるかのような印象を与えるものである。なお,「S」が「SOMETHING」の頭文字であるとの原告の説明を聞けば,そのように首肯し得るが,両者の「S」の字体が異なっており,しかも,「S」がアーチ形状のステッチに挟まれる形で存在することから,図形(模様)のようにも見えてしまうのであって,仔細にみれば,左右のアーチ形状のステッチと「S」との表示は,結合はしていないが,看者に対して,上記のように一連の繋がりのあるものとの認識を与えることは否定できない。その結果,引用商標1のアーチ形状のステッチと似たものと受け止められる可能性が大きいと認められる。
 (c) 原告は,上記中央部の「S」と「ダイヤモンドポイント」との相違をも主張する。
 確かに,本件商標の中央部には欧文字の「S」字状の図形があり,引用商標1の中央部には,「ダイヤモンドポイント」と呼ばれている別紙1のA引用商標1のような形状の構成となっていることが認められる。
 原告は,「S」について,「SOMETHING」の頭文字であり,「SOMETHING」ブランドの卓越した著名性と相まって,需要者に強烈な印象を与えると主張する。そして,バックポケットの中央に何らかの1個の文字を象徴的に付することは斬新で画期的であるとも主張する。
 しかし,前判示のとおり,「S」が「SOMETHING」の頭文字であるとの原告の説明を聞けば,そのように首肯し得るが,ジーンズパンツの需要者及び取引者が単に本件商標に接した場合に,「S」が「SOMETHING」の頭文字であると理解するのは必ずしも容易ではないこと(「S」の一文字が「SOMETHING」ブランドの略称ないしマークであるとして広く知れ渡っていることを認めるに足りる証拠もない。),また,「SOMETHING」の「S」と中央にある「S」とは,字体が異なっていること,さらに,図形というべき左右のアーチ形状のステッチに挟まれて,単独で存在する「S」の表示は,看者にとって,文字であると必ずしも判然とわかるものではなく,図形(模様)のようにも見えてしまうことなどに照らせば,原告の主張するように,「S」の部分が需要者に強烈な印象を与えるものとは認められない。
 一方,引用商標1の「ダイヤモンドポイント」は,被告の使用するバックポケットのステッチにおける特徴的な形状の一部ではあるが,その部分は決して大きくはないことも考えれば,上記「S」との差異は,看者に与える印象としてもそれほど強くはないと認められる。
 なお,原告は,「S」を付すことの斬新性をいうが,通常は,工程上ないしコストの上から文字を付することがないというものであって,この点は,商標の類似性の程度に関する認定に格別影響を与えるものではない。
 (d) 原告は,アーチ形状のステッチ(破線)の曲がりの度合いの相違も主張する。
 確かに,本件商標と引用商標1とでは,曲がりの度合いに差異が認められる。しかし,両者のアーチ形状のステッチ(破線)は,2重の平行の破線により,五角形の外周部左右両辺からバックポケットの中央部に向かって形成され,これが中央部で下向きに形成されており,中央部を垂直に通る直線を基準としてほぼ左右対称となっているものである点では,共通しており,やや曲がりの角度に差異が認められるにすぎない。
 なお,原告は,左右対称の2つのアーチ状のステッチは,他社のバックポケットでも使用されていると主張するが,後記のとおり,引用商標1のステッチの形状は,被告の商品を連想させるものとして周知著名性の高いものであり,本件商標の登録出願及び登録査定の当時において,被告を示す識別表示としての機能が失われていたことを認め得る証拠はないのであるから,原告主張の事実をもって,直ちに,本件商標と引用商標1との類似性を否定すべきことにはならない。
 (e) 原告は,本件商標には「SOMETHING」の文字が,引用商標1には「LEVI'S」の文字が含まれることを主張する。
 確かに,両商標には,上記の文字が含まれている。そして,「LEVI'S」の名称の周知著名性が極めて高く,「SOMETHING」もその売上実績(甲86)などに照らせば,女性用ジーンズのブランドとして相当程度の周知著名性を有しているものと認められる。そして,両者の文字部分(タブ)は,それ自体に特徴があるともいい得る。しかし,これらの点を考慮しても,商標全体の構成の中でみれば,文字部分は,面積的にも,看者に与える印象の点でも,それほど大きい部分を占めるものではなく,ステッチを含むバックポケット全体の構成の類似性の判断に占める要素としては強力なものであるとは認められない。
 なお,本件商標における「SOMETHING」の表示は,黒地に白抜きで比較的目につきやすいとはいえるが,上記認定を左右するに足りるものとはいえない。また,原告は,実際の商品においては,「SOMETHING」の文字を付さないで使用している場合がある。原告は,準備書面(二)において,デザイン上の観点から「SOMETHING」の横タブが含まれないバックポケットを使用したジーンズも併せて販売するようになった旨の説明をしているが,そうであれば,原告自身,バックポケットの構成要素として「SOMETHING」の文字部分を重視していないものともいえる。
 (f) 以上によれば,「両者におけるアーチ形状のステッチ中央部の相違は,前記した両者の近似性を凌駕するほどの顕著なものとは認められない。」とした審決の判断は是認し得るものであり,また,後記検討結果をも考慮すれば,審決が「各文字部分の存在をもって,両商標間の広義の混同のおそれを否定することはできない。」とした判断も是認し得るものである。
 そして,本件において,最高裁平成13年7月6日第2小法廷判決における福田博裁判官の補足意見にいう商標法4条1項15号該当性が否定され,商標登録を受けられるとすべき事情が存在するということはできない。
 原告は,類似性の程度に関して種々主張するが,いずれも採用することができない。
 (3) 引用商標1(被告バックポケットの形状)の周知著名性について
 (a) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告は,1853年に設立されたジーンズパンツの草分けとなったメーカーであり,100年以上もの間にわたって,多少のデザインの変化はあるが,基本的に引用商標1に示された構成又はこれに酷似したバックポケットを使用してきていること,被告は,我が国においても,昭和40年代から長年にわたって,男性誌,女性誌を問わず,各種雑誌に広告を掲載し,テレビコマーシャルも放送し,過去10年間において毎年約15億円から29億円をかけて宣伝広告をしていること,各種雑誌記事等においては,被告の商標である「LEVI'S」と並んで,引用商標1の外周五角形形状とその内部の二つのアーチ形状が掲載されていること,被告のジーンズパンツの日本における売上げは,平成7年(前年12月1日から同年11月30日までを会計年度とする売上高,以下同じ。)から平成11年は,250億円を超え,平成12年から平成15年までも,平成13年を除き年間売上高が200億円を超えており,平成13年の年間売上高も200億円近くあること,平成7年から平成15年までの期間における被告のジーンズパンツの売上総数は5千万本を超えていること,これらのジーンズパンツ売上げのうち,大半のジーンズパンツには,引用商標1が使用されていること,被告は,平成11年7月から平成12年5月までの間,全国3箇所において,「リーバイス ヒストリー展」を開催し,当該展覧会のポスター,チラシ及び入場券では,「LEVI'S」との欧文字と,引用商標1が使用された被告のジーンズパンツのバックポケットを16個並べた写真が用いられており,展覧会の延べ入場者数は約3万6千名であったこと,その他,宣伝広告としてではなく,雑誌等の特集によって,引用商標1が用いられた被告の商品が掲載されることもあったことが認められる。
 (b) 以上の事実によれば,引用商標1及びこれに酷似した被告バックポケットの形状は,ジーンズパンツの需要者・取引者の間に広く認識されており,著名といえるまでに至っているかどうかはともかく,その周知著名性の程度は,極めて高いものであると認められる。
 (c) 原告は,「LEVI'S」の表示が著名であることによって,需要者は,ステッチの形状には着目ないし意識しないこと,ジーンズの店舗での陳列方式からステッチは見えにくいことなどを種々主張するが,上記認定のとおり,引用商標1及びこれに酷似した被告バックポケットの形状は,需要者に広く知られており,高度の周知著名性を有するのであって,原告主張は,採用の限りではない。
 (4) 原告は,審決が取引の実情について不当に軽視していると主張する。
 検討するに,原告は取引の実情として種々主張するが,ジーンズパンツについて原告主張のような販売形態及び購入形態がいかなる店舗でも例外なくとられているといった特殊な事情があるとは証拠上全く認められず,取引の実情からしても,一般需要者の混同を生ずるおそれを否定することはできない。
また,原告及び被告が現在の日本における二大ジーンズメーカーとして著名であるとしても,上記認定を覆すに足りるものではない。
 (5) 以上のとおりであり,本件商標と引用商標1は,前判示の程度の類似性を有するのであり,引用商標1及びこれに酷似した被告バックポケットの形状の周知著名性の程度が極めて高いものである。そして,引用商標1がデザインとして創作されたものか,自他識別のために創作されたものかは,当事者間に争いがあるものの,いずれにしても,ステッチの形状を含め,機能等の観点から,引用商標1のような形状にならざるを得ないというものではないことでは,争いがない。そうであれば,数々とり得るバックポケットの構成から,引用商標1のような構成を採用したという点では,一定の創作性が認められる。また,本件商標の指定商品が「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」であることは前記のとおりであり,一方,被告の使用に係る被告バックポケットの形状も既に認定したとおり,ジーンズパンツに係るものであるから,両者の商品は,同一あるいは互いに極めて関連性の深い商品といえる。そして,商品等の取引者及び需要者が共通性を有することも明らかである。これらに加え,既に検討した取引の実情などに照らし,取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に本件商標の登録出願時及び登録査定時における混同を生ずるおそれを判断するならば,本件商標をその指定商品について使用したときには,引用商標1又は被告バックポケットの形状が強く連想され,被告ないし被告と関係のある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれがあると認められる。よって,本件商標は,商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」であるというべきである。
 なお,原告は,原告が被告の商標へのフリーライドをしようとすることはあり得ないとの趣旨を主張するが,上記条項は,フリーライドのみならず,ダイリューションなどをも防止する趣旨であると解されるのであるから,仮にフリーライドでないとしても,直ちに,上記条項への該当性が否定されることにはならない。よって,原告の主張は,採用の限りではない。

〔論  説〕

1.本件は、審決においては、原告登録商標は商標法4条12項11号の適用(狭義の混同)では被告登録商標とは非類似と判断されたが、同法4条12項15号の適用(広義の混同)では混同を起すと認定されて無効となっていた。そして、東京高裁においてもその判断が追認された事案である。妥当といえる。
2.なお、両当事者間の関連ある事件として、本ホームページの不競法C1-15を参照していただきたい。

[牛木理一]