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登録商標「ポロ競技図形」無効審決取消請求事件:東京高裁知財第4部平16(行ケ)87平成16年9月29日判決(棄却)


〔キーワード〕 

POLO、ラルフ・ローレン、U.S.POLO ASSOCIATION、図形の非類似性、周知・著名性、只乗り・希釈化、誤信、出所の混同、ファッション商品、一般大衆

 

〔事  実〕


 
 原告(ユーエスピーエー プロパティーズ インク)は、別掲(1)のとおりの構成態様の標章を、指定商品を現第34類「喫煙用具、たばこ、マッチ」として、平成5年11月25日に登録出願し、平成9年6月27日に設定登録された登録第4017664号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。
 被告(ザ ポロ/ローレン カンパニー リミテッド パートナーシップ)は、平成14年に本件商標に対して商標登録無効審判の請求をしたところ、特許庁は平成15年10月27日に登録無効の審決をした。その理由を要約すると、次のとおり。
 「要するに,横長四角形中に『Polo』の欧文字を配した標章と「by RALPH LAUREN」(又は「by Ralph Lauren」)の欧文字を組み合わせた標章よりなる商標及び「馬に乗ったポロプレーヤーの図形」。以下「引用商標」という。)は,アメリカのファッションデザイナーとして世界的に著名なラルフ・ローレンのデザインに係る被服等の商品を示すものとして,我が国においては,昭和51年ころから使用され,遅くとも昭和50年代半ばまでには取引者・需要者間に広く認識されるに至り,その当時から,引用商標及びこれを付した商品ブランドは,「ポロ」,「POLO」(「Polo」)と略称されることもあり,ラルフ・ローレンの「ポロ」,「Polo」ないし「POLO」として著名になって,強い自他商品識別力及び顧客吸引力を獲得し,その周知著名性は,その後,本件商標の登録出願時(平成5年11月25日)はもとより,登録査定時(同9年4月10日)を経て今日に至るまで継続しているところ,本件商標は,構成中にラルフ・ローレンのデザインに係る被服類及び眼鏡製品等のファッンョンに関連する商品に使用して著名な「Polo」の文字と同一の綴りからなる「POLO」の文字及び同じく著名なポロプレーヤーの図形と類似するポロプレーヤの図形を有しており,かつ,本件商標の指定商品にはファッション関連分野の商品が含まれているばかりでなく,引用商標が使用されている商品とは取引者・需要者を共通にすることが多いものであること等の事情を総合勘案すると,本件商標を指定商品に使用する場合には,これに接する取引者・需要者が「POLO」の文字及びポロプレーヤーの図形に着目して,ラルフ・ローレンのデザインに係る商品であると連想,想起し,その商品がラルフ・ローレン又は同人と組織的,経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものといわざるを得ず,したがって,本件商標の登録は,商標法4条1項15号に違反してされたものであるから,同法46条1項の規定により,無効とすべきである,というのである。
 

 

〔判  断〕


 
 1 商標法4条1項15号の規定は,周知表示又は著名表示へのただ乗りや当該表示の希釈化を防止し,商標の自他識別機能を保護することによって,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護することを目的とするものであるから,同号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれるものと解するのが相当である。そして,上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商品の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意を基準として,総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。

 2 そこで,これを本件についてみる。
 (1) 証拠(甲6,乙8,12ないし14)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
 ア ラルフ・ローレンは,1939年生まれの,アメリカ合衆国を代表するデザイナーの一人である。同人は,そのデザインに係る被服,眼鏡等のファッション関連商品に引用商標を使用してきており,引用商標は,我が国において,本件商標の登録出願がされた平成5年11月25日には,ラルフ・ローレンのデザインに係る被服等のファッション関連商品を表示するものとして,取引者及び需要者の間に広く認識されるに至り,その状態が現在においても継続している。
 イ 株式会社婦人画報社が発行した「MEN'S CLUB」1984年1月号(乙12)には,「アメリカン・デザイナーの雄 ラルフ・ローレン物語」と題する記事が掲載されているが,その中で,「今シーズンデビューしたラルフ・ローレンのホーム・ファーニッシング・コレクションは壁紙から寝具,食器まで包括した意欲的なトータル・ホーム・ルック。」などと,ラルフ・ローレンが新たにインテリア部門のデザインを始めたことが紹介されており,
また,1988年(昭和63年)10月29日付日建流通新聞(乙14)には,「西武百貨店 「ポロ」事業を独立 新商品導入し総合展開」との見出しの付された記事が掲載されているが,その中で,西武百貨店が,100%子会社のポロ・ラルフローレンジャパンを設立し,これを軸にファッション製品に加え,ハンカチ,ナイトウエアなど新しい商品群を導入して,ポロ・ラルフローレンブランドのライセンス事業をトータル展開することが紹介されている。
 なお,研究社が発行した「英和商品名辞典」1990年初版(甲6,乙13)によると,「Polo ポロ」を見出し語とするのは4項目あり,それぞれ「英国の大手菓子メーカー Rowntree Mackintosh Confectionery 製の,小さいドーナツ形のペパーミントキャンディー」,「米国のデザイナー Ralph Lauren がデザインした革製品(バッグなど).New York 市の Polo / Ralph Lauren Leathergoods が製造」,「米国Tennessee 州の Acme Boot Co., Inc. (Northwest Industries, Inc.傘下)製の靴・ブーツ」,「→Polo by Ralph Lauren」との説明がされている。そして,「Polo by Ralph Lauren ポロバイラルフローレン」を見出し語とする項目には,「同氏は,寝室・食卓用リネン・ガラス器・陶器・カトラリー・壁紙など幅広いジャンルの日用品もデザインしている。」との説明がされている。
 ウ 原告は,「United States Polo Association」(米国ポロ協会)の知的財産権の管理部門を担当する下部団体である。
 本件商標は,「U.S.POLO」と「ASSOCIATION」との欧文字を,「U.S.POLO」の文字を上側に,「ASSOCIATION」の文字を下側に環状に記載し,その文字環の中に馬に乗ったポロプレーヤーの図形を配置した結合商標である。

 (2) 以上の事実に基づき検討する。
 ア 我が国の一般国民の通常の英語の理解力に照らすと,本件商標を構成する「POLO」の語はスポーツとしての「ポロ競技」を意味する語であると理解され,また,「POLO」の語以外の語句のうち,「U.S.」が「アメリカ合衆国」を意味し,「ASSOCIATION」が「協会」などを意味する語であると理解されると考えられる。そして,文字環の中に配置された図形は馬に乗ったポロプレーヤーであるから,本件商標からは,「アメリカ合衆国のポロ競技の協会」という観念が生じ得るということができる。
 イ しかし,1個の商標から複数の観念が生じることはしばしばあるのであって,殊に,本件商標が環状に配置された19字からなる外観及び称呼の比較的長い欧文字に図形が組み合わされた商標であることにかんがみれば,
簡易迅速性を重んずる取引の実際において,その一部分だけによって簡略に呼称,観念されることがあり得るといわなければならない。
 本件商標は,引用商標の一部と同一の「POLO」の部分をその構成の一部に含む結合商標であって,その外観,称呼及び観念上,この同一の部分がその余の部分から分離して認識され得るものであると考えられること,引用商標は,ラルフ・ローレンのデザインに係る被服,眼鏡等のファッション関連商品を表示するものとして,我が国における取引者及び需要者の間に広く認識され,その周知著名性の程度が極めて高いものであること,本件商標の指定商品は喫煙用具,たばこ等であって,引用商標が使用されている被服,眼鏡等とは同一ではないものの,少なくとも喫煙用具は,ファッションに関連する分野の商品の一つであるということができること,ラルフ・ローレンは,昭和59年から,壁紙から寝具,食器までをも包括した分野でのデザインを始めたものである
ところ,これらの商品と本件商標の指定商品は生活用品であるから,取引者及び需要者を共通にすることが多い上,需要者が特別な専門的知識経験を有しない一般大衆であって,これを購入するに際して払われる注意はさほど緻密なものではないと考えられること,などの事情に照らすと,本件商標がその指定商品に使用されたときは,その構成中の「POLO」の部分がこれに接する取引者及び需要者の注意を特に強く引くであろうことは容易に予想できるところである。そうすると,本件商標からは,上記のような「アメリカ合衆国のポロ競技の協会」という観念とともに,ラルフ・ローレン若しくはその関与する会社又はこれらと緊密な関係にある営業主の業務に係る商品であるとの観念も生ずるということができる。
 ウ そうであれば,本件商標は,これに接した取引者及び需要者に対し引用商標を連想させて商品の出所につき誤認を生じさせるものであり,商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれがある商標」に当たるといわなければならない。

 (3)ア 原告は,本件商標は全体として一つの識別標識として認識されるものであるから,本件商標の文字部分中の「POLO」の部分のみが単独で取り出されて着目されることはないこと,本件商標の図形部分と引用商標の図形部分とが類似していないこと,付加部分があることを考え併せると,出所について混同を生ずるおそれはなく,現に混同を生じていない旨主張する。
 確かに,本件商標の図形部分と引用商標の図形部分とは,馬の向き,ポロプレーヤーの姿勢,ポロプレーヤーが持つマレットの位置,ボールの有無等において差異があり,また,本件商標の文字部分は,「POLO」の語以外の語句が付加されているのであって,前記のとおり,本件商標からは「アメリカ合衆国のポロ競技の協会」という観念も生じ得るところである。
 しかし,本件商標は,本件商標が環状に配置された19字からなる外観及び称呼の比較的長い欧文字に図形が組み合わされた商標であって,全体として一個不可分の既成の概念を示すものとは認められないから,本件商標から「アメリカ合衆国のポロ競技の協会」という観念が生じ得るものであるとしても,それのみが生じると考える合理的な根拠はない。そして,引用商標の周知著名性の程度など上記(2)イに判示したところに照らすと,本件商標の図形部分と引用商標の図形部分とに差異があり,かつ,本件商標の文字部分に「POLO」の語以外の語句が付加されていたとしても,本件商標に接する取引者及び需要者は,本件商標中の構成のうちでも,特に「POLO」の文字部分に着目すると考えられるのであって,そうであれば,出所について混同を生ずるおそれがあるといわなければならない。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。

 イ 原告は,本件商標中の文字部分は,原告の上部団体である「U.S.POLO ASSOCIATION」を表示する,いわゆるハウスマークであり,100年以上も活動を続けている実在の団体の名称であって,このような出所表示部分が存在する場合にまで,商品の出所について混同が生じるとは考えられない旨主張する。
 しかし,本件商標が特定の団体の名称を表示するものとして我が国において広く認識されていることを認めるに足りる証拠はないから,本件商標が「U.S.POLO ASSOCIATION」を表示するハウスマークであると認識する者がいるとしても,本件商標に接する取引者及び需要者が,本件商標を「U.S.POLO ASSOCIATION」のハウスマークとしてのみ認識するとは考え難い。原告の上記主張は,その前提を欠き,採用することができない。

 ウ 原告は,引用商標が周知著名性を獲得しているのは,「被服,眼鏡」等のファッション関連商品であるところ,本件商標の指定商品である「喫煙用具(貴金属性のものを除く。),たばこ,紙巻きたばこ用紙,マッチ」は,ファッション関連商品といえるものではなく,これについて,引用商標は周知著名性を獲得していないから,本件商標がその指定商品に使用されても,商品の出所について混同を生じることはない旨主張する。
 しかし,上記(2)イに判示したように,本件商標の指定商品である喫煙用具,たばこ等は,引用商標が使用されている被服,眼鏡等とは同一ではないものの,少なくとも喫煙用具は,ファッションに関連する分野の商品の一つであるということができるのであり,また,ラルフ・ローレンは,昭和59年から,壁紙から寝具,食器までをも包括した分野でのデザインを始めているところ,これらの商品と本件商標の指定商品は生活用品であるから,取引者及び需要者を共通にすることが多い上,特に需要者についていえば特別な専門的知識経験を有しない一般大衆であって,これを購入するに際して払われる注意はさほど緻密なものではないと考えられる。しかも,乙9及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成14年春ころには,サブライセンシーを通じて,ライターに引用商標のうちの図形部分を付して販売していることが認められる。以上の事情を併せ考えると,引用商標が周知著名性を獲得しているのが「被服,眼鏡」等のファッション関連商品であるとしても,本件商標がその指定商品に使用されたときは,これに接する取引者及び需要者において,出所について混同を生ずるおそれがあるといわなければならない。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。

 エ 原告は,本件商標中の文字部分は,「米国ポロ協会」という団体名を表示する語であり,「POLO」の文字は必要不可欠な構成部分の一部であって,いわゆる「既成語の一部」と判断されるべきであり,また,本件商標と引用商標との間で実際に出所の混同は生じていないのであって,「出所の混同のおそれのないことが明白なもの」であるから,第3の1(4)記載の商標審査基準のただし書きに該当する旨主張する。しかし,既に判示したように,本件商標が特定の団体の名称を表示するものとして我が国において広く認識されていることを認めるに足りる証拠はなく,本件商標に接する取引者及び需要者が,本件商標を「米国ポロ協会」という団体名としてのみ認識するとは考え難いから,「POLO」の文字が必要不可欠な構成部分の一部であるとしても,上記商標審査基準のただし書きにいう「既成語の一部」に当たるということはできない。
 また,既に判示したところから明らかなように,上記商標審査基準のただし書きにいう「出所の混同のおそれのないことが明白なもの」に当たるということもできない(なお,本件商標に接する取引者及び需要者において,出所について現に混同を生じていないことを認めるに足りる的確な証拠もない。)。原告の上記主張は,採用することができない。
 原告は,審査基準及びWIPOの指針では,著名な図形商標について,類似する範囲にまで保護が拡大されるというような特別の取扱いは示されていない旨主張する。しかし,既に判示したように,本件商標に接する取引者及び需要者は,本件商標中の構成のうちでも,特に「POLO」の文字部分に着目し,これにより,引用商標を連想して商品の出所につき誤認すると認められるのであって,著名な図形商標について,類似する範囲にまで保護を拡大するというのではないから,原告の上記主張は,採用の限りでない。

 3 結論
 以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由は理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。

論  説

 1.この事件で対象となった本件商標は、別掲(1)に見られるとおり、マレットを下向きにしたポロ競技の図形態様とこの図形を取り巻く「U.S.POLO ASSOCIATION」の英文字との結合標章から構成され、当該商標にはその商品出所の名称が明確に表示されているのであり、引用商標がたとえ周知著名でファッション性のある商品に使用されるものであったとしても、引用商標はもともと周知のポロ競技における一図形であり、創作性の弱い図形態様であってみれば、本件商標は前記G-32事件と同様な理由の説示によって、出所の混同を起こすことはないといえるから、商標法4条1項15号に該当する商標ではないと判断されてよかった事案であったと思う。
  この判決を見ると、部を構成する判事らの世界観の違いと全体を見る心眼の広狭のようなものが感じられる相反する判決である。
  いずれの判決も上告されるであろうから、最高裁によって統一的な考え方が示されるであろうが、最高裁はすでに、「PALM SPRINGS POLO CLUB」事件で非類似の判断をしている(G-11参照)。
2.商標について、同時期に、東京高裁の二部で相反する類否判断がなされたことは珍事であるが、かって、「セロハンテープ・ホールダー」の意匠をめぐる査定系審決取消訴訟で、類否の相反する判断がなされたことを思い出した次第である。

[牛木理一]