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登録商標「ポロ競技図形」無効審決取消請求事件:東京高裁知財第2部、平15(行ケ)564平成16年9月6日判決(認容)


〔キーワード〕 
ポロ競技、図形の非類似性、周知・著名性、商品出所の非混同性、ラルフ・ローレン、USPA

 

〔事  実〕


 
 原告(ユーエスピーエー・プロパティーズ・インク)は、別掲(1)のとおり,馬に乗ったポロプレーヤーがマレットを振り下げてポロ競技をしている黒塗りのシルエット図形の下に「U.S.P.A」の欧文字を配してなり,指定商品を旧別表第20類「家具,畳類,建具,屋内装置品,屋外装置品,記念カップ類,葬祭用具」として,平成4年1月17日に登録出願,平成9年3月19日に登録査定,同年6月6日に設定登録がされた登録第2721956号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。
 被告(ザ・ポロ/ローレン・カンパニー・リミテッド・パートナーシップ)は,平成13年10月29日,本件商標に対し商標登録無効審判の請求をした。特許庁は,同請求を,無効2001−35482号事件として審理し,平成15年8月5日,「登録第2721956号の登録を無効とする。」との審決をした。その理由の要約は、次のとおり。
「本件商標は,構成中に他の構成部分より独立して商品の出所識別力を有する馬に乗ったポロプレーヤーの図形を有し,引用商標(注,馬に乗ったポロプレーヤーがマレットを振り上げてポロ競技をしている図形〔以下「ポロプレーヤーマーク」ともいう。〕からなる同別掲(2)の商標)が有名なデザイナーであるラルフ・ローレンのデザインした商品に使用され,被服等のファッション関連商品について極めて高い著名性を有することを考慮すれば,同図形と引用商標とは類似するものであり,かつ,本件商標の指定商品と引用商標が使用されている商品とは取引者・需要者を共通にすることが多いものであること等の事情が認められ,これらの事情を総合勘案すると,本件商標を指定商品に使用する場合には,これに接する取引者・需要者がポロプレーヤーの図形に着目してラルフ・ローレンのデザインに係る商品であると連想,想起し,その商品がラルフ・ローレン又は同人と組織的,経済的に何等かの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,その商品の出所について混同を生ずるおそれがある」から、本件商標の登録は,商標法4条1項15号の規定に違反してされたものであり,同法46条1項1号の規定により無効とすべきものであるとした。 
 

 

〔判  断〕


 
1 取消事由(商品の出所混同のおそれに関する認定判断の誤り)について
 (1) 審決は,「本件商標を指定商品に使用する場合には,これに接する取引者・需要者がポロプレーヤーの図形に着目してラルフ・ローレンのデザインに係る商品であると連想,想起し,その商品がラルフ・ローレン又は同人と組織的,経済的に何等かの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,その商品の出所について混同を生ずるおそれがある」(審決謄本16頁の「(4)結論」)と認定して,本件商標の登録は,商標法4条1項15号の規定に違反してされたものと判断したところ,原告は,本件商標を指定商品に使用しても,ラルフ・ローレンに係る商品であるかのように商品の出所について混同を生ずるおそれはないとして,審決の認定判断の誤りを主張する。
 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品に使用したときに,当該商品が他人の商品又は役務に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品が当該他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれのある商標,すなわち,広義の混同を生ずるおそれがある商標も含まれる。そして,混同を生ずるおそれの有無は,当該商標と他人の商標との類似性の程度,他人の商標の周知・著名性及び独創性の程度,当該商標の指定商品と他人の業務に係る商品又は役務との関連性の程度,取引者,需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品の取引者,需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(以上につき,最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。そこで,以下,この見地から,原告の上記主張の当否について検討する。
 (2) 引用商標に関連する前提事実について
 まず,審決が他人の業務に係る商品に使用されている表示として挙げている引用商標(ポロプレーヤーマーク)及びそれが使用される商品に関する前提事実は,以下のとおりである(当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨によって認められる。)。
 ア 被告は,アメリカ合衆国ニューヨーク州所在のリミテッド・パートナーシップであり,同国のファッションデザイナーとして世界的に著名なラルフ・ローレンのデザインに係る商品を,関連会社やライセンシー及び販売店を通して世界的な規模で販売している。我が国においては,昭和51年に,西武百貨店が被告とライセンス契約を結び,ラルフ・ローレンのデザインに係る男性用衣料品の取扱いを開始したのを皮切りに,婦人用衣料,ファッション関連商品等についてもラルフ・ローレンのデザインに係る商品が被告のライセンシー,販売店等を通じ,全国の有名デパートや専門店等において販売されるようになり,今日に至っている。
 イ ラルフ・ローレンのデザインに係るファッション関連商品には,文字商標として,横長四角形中に「Polo」,「POLO」の欧文字を配した標章(以下「POLO標章」ともいう。),「POLO」,「Polo」の文字と「by RALPH LAUREN」,「by Ralph Lauren」の文字とを組み合わせた標章(以下「ポロ/ラルフローレン標章」ともいう。),図形商標として,引用商標(ポロプレーヤーマーク)などが使用されてきた。これらの商標を付した商品は,ラルフ・ローレンの「ポロ」,「POLO」(Polo)(単に「ポロ」,「POLO」等と略称されることもある。)ないし「ポロ/ラルフ・ローレン」のブランド名で,需要者の間で高い人気を博しており,引用商標(ポロプレーヤーマーク)を含めた上記各標章は,そのブランド名と共に,おそくとも本件商標の登録出願時(平成4年1月17日)より前に,ファッション関連商品の分野において,取引者,需要者の間で周知・著名となっており,その周知・著名性は,登録査定時(平成9年3月19日)を経て今日まで継続している(なお,ファッション関連商品の分野における「ポロ」,「POLO」ブランドの周知・著名性に関して,これを認めた多数の審決例及び判決例があることは,当裁判所に顕著な事実である。)。
 (3) 本件商標と引用商標との類似性の程度について
 ア  本件商標は,馬に乗ったポロプレーヤーがマレットを振り下げてポロ競技をしている黒塗りのシルエット図形と,その下に配した「U.S.P.A」の欧文字とから構成される結合商標である。他方,引用商標は,馬に乗ったポロプレーヤーがマレットを振り上げてポロ競技をしている図形(ポロプレーヤーマーク)のみから構成される図形商標である。
 両商標間の類似性の評価に関し,原告は,本件商標は,構成中の図形部分と文字部分とが一体として認識されるものであり,その図形部分だけを取り出したものをもって取引が行われることはないから,本件商標の構成中の図形部分を分離して引用商標と対比すべきではないと主張する。しかし,本件商標は,構成中の馬に乗ったポロプレーヤーの図形と「U.S.P.A」の文字部分とを別々に上下に配した構成であって,その外観上,図形部分と文字部分とが分離されないような態様で構成されているものではなく,また,図形部分と文字部分とが不可分のものとして一つの観念を形成しているものでもないから,両部分は,これを分離して観察することが取引上不自然と考えられるほど不可分一体に結合しているということはできない。また,「U.S.P.A」は,その文字のみによっては意味が不明であり,我が国において,特定の企業,団体等の名称を示す略称として知られていると認めるに足りる証拠もないから,本件商標は,「U.S.P.A」の文字部分を除いた図形部分のみによっても認識され,図形部分が分離して認識されて自他商品の識別標識として機能することもあるものというべきである。
 イ そこで,まず,本件商標の図形部分と引用商標とを外観について対比すると,両者は,走る馬に乗ったポロプレーヤーがマレット(長柄の槌)を操作している様を表したものであるという点においては共通する。しかし,その共通性は,馬,マレット及びこれを操作する馬上のポロプレーヤーという多分に抽象的なレベルにとどまり,図形としての表現態様という観点から見るときには,馬の向き,馬及びポロプレーヤーの姿態,マレットの位置等,多くの点で異っている。すなわち,引用商標においては,馬は左向きに疾駆する状態で描かれ,馬上のポロプレーヤーは,上半身をややそり気味にして右手に持ったマレットを斜め後方(図の右上方向)に振り上げているのに対し,本件商標の図形部分においては,馬は右向きに描かれ,馬上のポロプレーヤーは,馬を制御しながら下向きにかがみ込む姿勢でマレットを振り下げて馬の足下の玉を打とうとしている。特に,引用商標においては,プレーヤーの上半身から右上に延びて長く描かれたマレットが図形全体に縦長の印象を与えるとともに,前足を蹴り上げて疾駆する馬の姿態と相まって,強い躍動感をもたらしているのに対し,本件商標の図形部分においては,ポロプレーヤーは上半身を下に向けており,マレットも下向きで,馬の4本の足の間に挟まれるように描かれていることが特徴的である。
 本件商標の図形部分と引用商標との間に見られる上記のような違いは,両図形が与える印象を全体として異なったものとしており,見る者に異なる印象,記憶を生じさせるものというべきである。
 ウ 次に,称呼及び観念についてみると,本件商標の図形部分は,ポロ競技をよく知る者にとってはそこに表現されたものが英国に発祥するスポーツのポロ競技をするプレーヤーであることを感得させる態様のものであるが,その表現は,長柄の槌を持った人が馬上にいる姿をシルエットのみによって表わしたというものであり,我が国におけるポロ競技の認知度を考慮すると,本件商標の図形部分からは,スポーツとしてのポロ競技に関連したものという程度の漠然とした観念が生ずることはあり得るとしても,直ちに特定の称呼や商品の出所を識別させる程度に具体性を持った観念が生ずると認めることはできない。一方,引用商標も,その周知・著名性を考慮の外に置いて,図形として見たときには,スポーツとしてのポロ競技という程度の観念を生じさせるものにすぎない。したがって,本件商標の図形部分と引用商標との対比において,称呼及び観念は,両者の類似性を評価する要素としては捨象して差し支えないものというべきである。
 そうすると,本件商標は,その図形部分を取り出して引用商標の「ポロプレーヤーマーク」と対比観察し,時と所を異にして観察した場合でも,図形部分において引用商標と類似するということはできず,また,本件商標は,図形部分と「U.S.P.A」の文字とからなるものであるから,これを全体として見ると,本件商標と引用商標とは非類似の商標というべきである。
 エ ところで,審決は,本件商標の図形部分と引用商標の図形との間に,馬の向き,ポロプレーヤーが持っているマレットの位置,ボールの有無等において差異があっても,引用商標の著名性をも併せ考慮すれば,本件商標と引用商標とは類似性が高い商標である(審決謄本14頁最終段落〜15頁第1段落)と判断している。しかし,両商標が互いに類似するものでないことは,前示のとおりであり,この点に関する審決の判断は,是認することができない。
 もっとも,両商標の類似性が高いとした審決の判断は,引用商標の周知・著名性を考慮すると,馬に乗ったポロプレーヤーの図形という点で引用商標と共通する本件商標の図形部分から,連想によって,引用商標やラルフ・ローレンの「ポロ」ブランドが想起され,引用商標を使用した商品について,ラルフ・ローレンに係る商品であるかのような誤信を生じさせるという趣旨であると解することができる。しかし,この点は,商標間の類似性の問題というよりは,むしろ,引用商標の周知・著名性や使用される商品の関連性等の個別具体的な事情の下で生ずる連想,想起に基づく商品の出所混同の可能性の問題と考えるべきである。そこで,以下,項を改めて,これらの点について検討することとする。
 (4) 引用商標の周知・著名性について
 ア ファッション関連商品における引用商標(ポロプレーヤーマーク)を含めた「POLO標章」及び「ポロ/ラルフローレン標章」の周知・著名性は,上記(2)のとおりである。
 しかしながら,ラルフ・ローレンに係る商品に使用されている上記各標章における「POLO」,「Polo」ないし「ポロ」の語は,英国を発祥地とするポロ競技に由来するもので,ポロ競技のプレーヤーが着用するシャツが「ポロシャツ」と称されることもあるなど,それらの語自体としては,普通名称と認められるものである。また,引用商標(ポロプレーヤーマーク)は,ポロ競技をしているプレーヤーと馬の様子を写実的な筆致でやや単純化して表現したものであって,その図形自体としてそれほど独創性が高いものとはいえず,図形が想起させる「ポロ」ないし「ポロ競技」の観念も,それ自体としては一般的なものということができる。したがって,ファッション関連商品において引用商標(ポロプレーヤーマーク)が有する高い識別力,顧客吸引力は,標章自体が有する外観や観念の独創性ないし特異性に由来するというものではなく,むしろ,引用商標がラルフ・ローレンのデザインに係る「ポロ」ブランドの商品に使用され,「ポロ」ブランドの著名化とともに,ラルフ・ローレンの「ポロ」を表示するマークとして定着し,広く知られるようになったという事実によってもたらされたものであるということができる。
 イ 以上のとおり,引用商標(ポロプレーヤーマーク)は,ファッション関連商品の分野においては周知・著名性が認められるものであるが,ファッション関連商品以外の,被告が「ホームファニシング商品」と称する一群の商品の分野における周知・著名性については,これを認めるに足りる的確な証拠がない。
 この点に関し,被告は,ラルフ・ローレンのデザインに係る商品は,ファッション関連に限らず,カーテン等のインテリア関連商品,寝具,食器等の日用品,壁紙などの住宅関連用品を含む,ホームファニシング商品にまで及んでおり,それらの商品は,全国の有名百貨店,有名小売店等において販売され,多大な売上げを上げていると主張する。確かに,被告提出の証拠(乙6〜12,15−1〜7,乙16)によれば,デザイナーであるラルフ・ローレンは,1980年(昭和55年)にホームファニシング商品と称する一群の商品のデザインを手掛けるようになり,それらの商品は,現在,我が国においても,各地の有名デパート等において販売されていることが認められる。しかしながら,ラルフ・ローレンのデザインに係るホームファニシング商品の我が国における販売状況を示す証拠として被告が提出した乙6〜8の「RALPH LAUREN HOME COLLECTION」と題するカタログ(乙6は発行時期不詳,乙7は1992年〔平成4年〕秋号,乙8は1996年〔平成8年〕春号)及び乙9の「RALPH LAUREN FURNITURE」と題するカタログ(1996年〔平成8年〕号)は,いずれも英語版であって,そのうち,乙6及び乙8にのみ,最終頁に日本語による説明及び価格表が付されているところ,価格表の下には小文字で「日本展開予定の商品です。ショップにより未扱いの場合もありますが,ご了承下さい。」と注記されていることが認められる。そうすると,提出された証拠から見る限り,ラルフ・ローレンのデザインに係るホームファニシング商品の我が国における販売は,乙7の英語版カタログの発行時期と推測される平成4年より前に遡ることはなく,また,乙8のカタログの最終頁に記載された「日本展開予定」等の注記に照らすと,平成8年ころにおいても,比較的限られた店舗において販売されるにとどまっていたものと推認される。
 さらに,上記カタログ(乙6〜9),有名デパートのウェブサイトの平成16年7月21日付けの検索結果(乙15−1〜7)及び雑誌「Hanako」平成12年9月13日号(乙16)によれば,ラルフ・ローレンのデザインに係るホームファニシング商品は,「RALPH LAUREN HOME COLLECTION」,「ラルフローレン ホーム」,「ラルフローレン ホーム コレクション」などと銘打って販売されていることが認められ,また,被告自身,インターネット上のショッピングモール「楽天市場」においてラルフ・ローレンのデザインに係るホームファニシング商品を「ラルフローレン」のキーワードで検索している(乙10)から,それらの製品は,「RALPH LAUREN」をブランド名として前面に押し出し,「RALPH LAUREN」の表示を使用して販売されていることが明らかである。被告が提出した証拠からは,POLO標章や引用商標(ポロプレーヤーマーク)が「RALPH LAUREN HOME COLLECTION」に属するホームファニシング商品に付されているかどうかは明らかではなく,少なくとも乙6〜9のカタログに掲載された商品の写真中にPOLO標章や引用商標(ポロプレーヤーマーク)は見当たらない。
 以上のとおり,証拠上認定される,我が国におけるラルフ・ローレンのデザインに係るホームファニシング製品の販売状況に照らすと,引用商標(ポロプレーヤーマーク)が,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,ファッション関連商品以外のインテリア関連商品や寝具,食器等の生活用品,壁紙などの住宅関連用品等の商品の分野においてまで周知・著名性を獲得していたということはできない(なお,上記説示は,「ポロ」や「RALPH LAUREN」のホームファニシング商品の分野における周知・著名性の有無について言及するものではない)。
 (5) 商品の出所混同のおそれの有無について
 ア 上記のとおり,本件商標と引用商標(ポロプレーヤーマーク)とは類似するものとはいえず,また,引用商標は,ホームファニシング商品の分野においてまで周知・著名となっていたものとはいえないから,ホームファニシング商品の分野における引用商標の周知・著名性に基づく商品の出所混同のおそれを認めることはできない。
 そこで,進んで,ファッション関連商品の分野における引用商標(ポロプレーヤーマーク)の周知・著名性に基づいて,本件商標をその指定商品に使用したときに,ラルフ・ローレンに係る商品であるかのように誤信されて商品の出所混同が生ずるおそれがあるか否かを検討する。
 イ 今日,ファッション関係のデザイナーが,ライフスタイルを提案し,あるいは生活全般をトータルにコーディネートするという見地から,ファッション関連以外の商品にデザインの領域を広げ,家具,インテリア用品,寝具,テーブルウエア等々,様々な商品をデザインし,販売する例があることは,よく知られたことである。このことは,デザイナーのラルフ・ローレンについても例外ではなく,同人がカーテン,クッション,寝装品,リネン類,食器等,生活全般にわたる多様な商品をデザインし,販売していることは,我が国の雑誌等にも紹介されている(乙11)。そうすると,我が国においてラルフ・ローレンのデザインに係る商品を表示するものとして周知・著名なPOLO標章,ポロ/ラルフ・ローレン標章,引用商標(ポロプレーヤーマーク),あるいは,これらに類似する標章がファッション関連以外の商品について使用された場合,それらの商品が,ラルフ・ローレンに係る商品のいわば延長線上にあると考えられるものであるときには,商品の出所混同の可能性がないとはいえない。本件商標の指定商品である旧別表第20類「家具,畳類,建具,屋内装置品,屋外装置品,記念カップ類,葬祭用具」の中には,ラルフ・ローレンがデザインしても不自然ではないと考えられる商品や,現に「ラルフ・ローレン ホーム コレクション」として販売されている商品が含まれる。
 しかしながら,本件において,ラルフ・ローレンに係る商品に使用される各種標章のうち,引用商標(ポロプレーヤーマーク)は,ホームファニシング商品の分野においてまで周知・著名であるとはいえない上,「ポロプレーヤーマーク」自体の独創性,特異性によって識別され周知・著名化したというよりは,むしろ,ラルフ・ローレンの「ポロ」(ポロ/ラルフローレン)ブランドに使用されるマークとして上記ブランド及びデザイナーのラルフ・ローレンの名とともに周知・著名となったこと,ラルフ・ローレンに係るホームファニシング商品は,「RALPH LAUREN」をブランド名として前面に押し出し,「RALPH LAUREN」の表示を使用して販売されていることなどの諸事情を総合考慮すると,引用商標とは非類似の図形に「POLO」(ポロ)や「RALPH LAUREN」(ラルフ・ローレン)とは全く別の欧文字「U.S.P.A」(ユーエスピーエー)を組み合わせてなる本件商標を付した商品が,ラルフ・ローレンに係る商品と誤信されて商品の出所の混同を生ずる可能性は極めて低いというべきである。
 ウ これに対し,被告は,本件商標の構成中の「U.S.P.A」の語は,「United States Polo Association」(全米ポロ協会)の略称であることが我が国において知られているものではなく,上記協会の存在すら我が国において知られているものではないから,出所識別機能を発揮し得ない部分であり,引用商標の周知・著名性を考慮すれば,本件商標の構成中に「U.S.P.A」の文字があっても,商品の出所混同が生ずるおそれはあると主張する。
 しかしながら,商標の構成中に2ないし4文字程度の大文字の欧文字を組み合わせた文字表記が存在する場合には,これが何らかの名称を頭文字で表した略称であると理解する余地があり,その文字表記自体としては意味が明確でなかったり,特定の出所を積極的に表示しているとはいえない場合であっても,当該文字表記の存在が,図形部分から特定の出所が連想されることを打ち消すように機能する場合があるというべきである。
 これを本件についてみると,引用商標(ポロプレーヤーマーク)は,ラルフ・ローレンの「ポロ」ブランドないしデザイナーのラルフ・ローレンと密接に結び付いたものとして著大な識別力を獲得するに至ったと認められるものであるから,本件商標のように,引用商標とは外見の異なる非類似の図形に,ラルフ・ローレンの「ポロ」や「ラルフ・ローレン」を想起させる余地のない「U.S.P.A」の欧文字を,ゴシック体で,図形に比肩する大きさで表示してなる結合商標については,その出所として「U.S.P.A」の名称ないし略称を有する業務主体が認識されるかどうかはともかく,ラルフ・ローレンの「ポロ」や「ラルフ・ローレン」への連想が妨げられ,少なくともラルフ・ローレンではない商品の出所が認識されることになることは明らかというべきである。
 ちなみに,「U.S.P.A」の頭文字で表される「United States Polo Association」(全米ポロ協会)は,1890年に設立され,国際オリンピック委員会の公認を受けた国際ポロ競技の統括団体である国際ポロ連盟の傘下にあって,米国各地でポロ競技のトーナメントを開催するなど,現に活動している実在の団体であり(甲2−1,甲8,9),また,原告はポロ競技に対する一般の意識を高めるとともに,上部団体である全米ポロ協会に帰属する商標等からライセンスの収益を上げること等を目的として設立された法人であると認められ(甲18),原告による本件商標の登録が著名な「ポロプレーヤーマーク」へのフリーライド等を目的としてされたものであることをうかがわせる事情は存在しない。
 エ 以上によれば,ファッション関連商品の分野における引用商標の周知・著名性を考慮に入れても,本件商標を指定商品に使用したときに,当該商品が,ラルフ・ローレン又は同人と密接な営業上の関係若しくは同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であるかのように誤信され,商品の出所混同が生ずるおそれがあるということはできないから,その出所混同のおそれを肯定した審決の認定は誤りであるといわなければならない。
 そして,上記判断は,審決が指摘するように(審決謄本15頁下から第2段落),一般的に,生活関連用品について消費者が有する注意力はさほど高いものではないことを考慮しても,左右されないというべきである(なお,ラルフ・ローレンのデザインに係るホームファニシング商品が,生活全般のトータルコーディネートというコンセプトの下に展開されていることからすると,それらの商品の購入者は,生活用品全般について,こだわりを持った商品選択をする需要者層であると考えられる。そうとすれば,ラルフ・ローレンのデザインに係る「ポロ」ブランドを商品選択の基準とする需要者においては,商標に対する注意力が,日常用品,生活用品一般についての消費者の注意力よりも高いと考えられるのであって,この点を考慮すれば,引用商標とは外観,印象の異なるポロプレーヤーの図形に「U.S.P.A」の欧文字を組み合わせてなる本件商標を指定商品に使用したときに,その商品がラルフ・ローレンに係る商品と誤信され,商品の出所の混同を生ずる可能性は,一層低いといわざるを得ない。)。

論  説

1.この事案は、特許庁の審査においては、旧第20類の商品区分で登録された商標(ポロ競技図形+U.S.P.A)が、登録無効審判において登録を否定され無効となったことに対する東京高裁の判断である。
  本コーナーの、審決取消訴訟部門ではすでに、G−2、G−11、G−21の3件の判決例を紹介しているが、本件は一見、G−11G−21に属するような事案である。
  原告は商標法4条1項15号を適用して無効を主張していたが、同条項の10号に該当する場合とは異なることを教えている事案である。両方とも、他人の業務に係る商品を表示する商標として需要者間に周知なものとなっていたとしても、商品出所の混同を起こすおそれがない商標の場合には、15号の適用はないということは、商品が同一又は類似の範囲にある場合には10号の適用があり、その範囲を超えている場合には15号の適用となることを意味する。
  本件の場合にあっては、本件商標に係る指定商品は旧第20類に属する家具などであることから、引用商標であるラルフ・ローレンの図形商標が旧第17類に属する被服などから、さらに前記家具類(ホームファンシング製品)の分野に及んで周知・著名性を獲得していたとはいえない、と裁判所は認定し、本件商標を前記15号の規定に該当する混同を起こすおそれのある商標ではないと判断したことは妥当である。
2.本件商標は、図形自体のほかに「U.S.P.A.」なる略称表示が付記されていたから、全体として見て出所の混同を起こすおそれはないと認定されたが、図形自体も、周知のポロ競技を、具体的に図形化した態様が、マレットを上方に振りかざしているか、下方で打とうとしているかの差異によって非類似と認定された。
  このような理由から考えると、ラルフ・ローレンの「ポロ競技」の図形のみでは、それに関するすべての図形を類似すると認めることはできないし、他の略称や名称が付記されてあれば、たとえポロ競技の図形標章であっても、すべて類似する商標とは認められないことが明らかになったといえる。

[牛木理一]