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出願商標「ビタシー」拒絶審決取消請求事件:東京高裁平15(行ケ)380 平成16年3月9日判決(認容・審決取消)


〔キーワード〕 
造語性,自他商品の識別力

 

〔事  実〕


 
 米国人の原告(ドクター・マティアス・ラス)は、標章「Dr. Rath's Vita-C」を「薬剤,医療用ビタミン及びミネラル,ビタミン・アミノ酸・ミネラル及び痕跡元素を主成分とする栄養補助食品(医療用のものを除く),食餌療法用物質(医療用のものを除く。),すなわちアミノ酸及び痕跡元素」を指定商品として、平成13年1月15日に国際登録し、わが国にも商標登録出願をした。
しかし、本願商標は、商標登録第1681986号に係る「ビタシー」(引用商標)に類似するとして拒絶査定を受け、また審判も成立しなかったから、出願人(原告)は審決取消の訴訟を請求した。

 

〔判  断〕


 
1 当裁判所も、審決が認定するとおり、本願商標に接した取引者・需要者が、少なからず、これを、「Dr. Rath's」と「Vita-C」とに分離して把握するものと認める。その理由は、基本的には審決が説示したとおりである。この点について、補足すると、以下のようにいうことができる。
(1) 空白(スペース)により区切られた「Rath's」と「Vita」、「-」(ハイフン)で区切られた「Vita」と「C」とでは、語同士のつながりは、後者の方がより強い(また、後記のとおり、「Vita-C」の部分は、薬剤等に用いられる場合、ビタミンCを想起させる傾向が強い、と認められる。)。これに、「Dr. Rath's」が、「ラス博士(医師)の」の意味を持つものとして、一つのまとまりを有すると一般的に認識される語であることを併せ考慮すると、通常の取引者・需要者は、本願商標を、「Dr. Rath's」と「Vita-C」とに分離して把握する、と優に認めることができる。
(2) 例えば、原告の名前である「Dr. Rath」ないしその主唱する医学理論が、日本において周知となり、その理論ないしこれに基づく商品群が「Dr. Rath's Vita」として周知となっている等の事情があれば、これが一つのまとまりとして理解し把握される、と認める余地はある。
 しかし、本件全証拠によっても、そのような特段の事情を認めることはできない。
2 しかし、本願商標中の「Vita-C」が、いわゆるハウスマークに付加される個別商標として、単独で自他商品の識別力を有する、と認めることはできない。
(1) ビタミン類、あるいはその一種としてビタミンCが存在すること、一定の用法に従ってそれらを摂取することが健康に有益であることは、昨今の健康に対する関心の高まりもあって、日常よく話題にされる、周知のことがらである。現実に、ビタミンないしビタミンCは、薬剤等、人が摂取して用いる製品において広く用いられているものと認められる。
 ビタミン類を含んでいる薬剤等で、その標章が、「ビタミン」の文字全部を含んでおらず、「ビタ」の文字とその他の文字の組合せからなるもの(「ビタソート」、「ビタロング」等)は、多数存在すると認められる。その中には、「ビタE錠」の名称を持ち、かつビタミンEを含有するものもある。
 薬剤そのものないし薬剤に含まれる成分で、ビタミン以外に、ビタミンとあまり遜色のない程度に周知著名であり、かつ「ビタ」ないし「ビタシー」などと呼称ないし略称されるようなものが存在するとは、本件全証拠によっても認めることができない。
(2) 以上からは、薬剤等に付される標章で「ビタ」の文字が含まれるものに接した取引者・需要者は、一般的に、「ビタ」は「ビタミン」を表象しており、主成分等として「ビタミン」を含有するか、少なくともこれと何らかの関連性のあるもの(ビタミンの吸収を促進する等)、と認識するものと認められる。
 また、前記のとおり、ビタミンCは周知の物質であり、薬剤等、人の健康に関連する商品で、人が摂取して使用する商品において広く用いられているものであるから、ビタミンを想起させる「ビタ」と、「C」ないしその音である「シー」が組み合わされれば、通常の取引者・需要者は、「ビタミンC」を想起するものと認められる。
(3) 本願商標中、「Vita-C」の部分が、一つのまとまりとして認識されることは、前記のとおりである。そして、この「Vita-C」からは、一般的なローマ字読みないしアルファベットの発音から、「ビタシー」の称呼が自然に生じる。
 このことと、 前記(1)及び(2)の認定とを併せ考慮すると、本願商標が、薬剤(とりわけビタミン剤)に付された場合、「Vita-C」の部分から「ビタシー」の称呼を生じ、取引者・需要者は自然に「ビタミンC」を想起する、と認められる(なお、「Vitamin」という英語自体、日本においてもよく知られているか、少なくとも取引者・需要者がこれを「ビタミン」と音読することは容易であると認められるから、「Vita-C」の文字自体を、「Vitamin C」の略語であると認識することも、また容易であると認められる。)。
 ビタシーが、特定の意味を有さない造語であり、記述的なものではない、とする被告の主張は、採用できない。
(4) 薬剤等において、ビタミンCは広く用いられている、ありきたりの成分であるから、これを表象すると認められる「ビタシー」は、これを付された製品が実際にビタミンCを含むか否かにかかわらず、ビタミンCというありきたりの成分を含んでいることを表す一種の記述的標章と自然に認識され、それ以上にとりたてて取引者・需要者の注意を引くことはない、と認められる。
 また、「ビタシー」という称呼が、「ビタミンC」の略語として理解される限り、これは、単に「ミン」の文字・音を省略しただけのものであり、「ビタシー」の構成や音が、とりたてて特異であるとか、造語性の高いものということはできない。
 本願商標中、「Vita-C」の部分だけが、「ビタシー」の称呼をもって取引の場で用いられることが絶無とまではいえないにしても、それが、称呼を通してありきたりの成分である「ビタミンC」を想起させてしまうこと、「ビタシー」の称呼自体、「ビタミンC」の、格別特異性のない単なる略称と認識されることからは、本願商標から「ビタシー」の称呼が生じ、それだけが現実の取引の場で用いられる場合ないしそのように用いる取引者・需要者が、商標法の解釈上無視できないほど多数である、と認めることはできない。
(5) 他方、「Dr. Rath's」の部分は、被告も主張するとおり、「ラス博士(医師)の」の意味であると一般的に認識され、これが、薬剤等に用いられるときは、ラス博士(医師)が推奨する、あるいはその何らかの理論に基づく商品である、と認識され得ると認めることができる。そうだとすると、これが、「Vita-C」と結び付いた本願商標に接した取引者・需要者は、例えば、「ラス博士が推奨する、ビタミンCを主成分とする(少なくとも含有する)何らかの薬剤等」などと認識し、これにより他の出所と区別することになる、と認められる。
 以上のとおりであるから、本件で提出されている証拠に基づく限り、本願商標「Dr. Rath's Vita-C」は、「Dr. Rath's」の部分が、自他商品の識別力を発揮する、ということができる。
(6) したがって、「Vita-C」から生じる「ビタシー」の称呼のみが取引において使用されることも少なくないとの前提に立って、本願商標と引用商標が類似するとした審決の結論は、誤りであるという以外にない。

論  説

1.引用商標の「ビタシー」は、第1類を指定商品とする標章であるから、この文字表示を見た通常の知識を有するわが国の需要者は、「Vitamin C」や「ビタミンC」の略称を直に理解するであろうから、この文字標章自体は自他商品の識別力を欠如していると解されても不思議ではない。この引用商標の場合は、昭和41年6月7日出願であるから、当時は造語的文字表示といえたかも知れないが、設定登録は昭和59年4月20日であったことは、この間、紆余曲折があったことが予想される。
 これに対し、本願商標の場合は、その商品出所を文字表示上において明確にしている「Dr. Rath's Vita-C」の標章から成るものであるから、特許庁の審査・審判の考え方は完全に誤りといえる。
 東京高裁の理由及び結論は、本願商標の有する自他商品の識別力の存在を十分把握して考えているから、妥当である。

[牛木理一]