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登録商標「Car-Lion」無効審決取消請求事件:東京高裁平成12(行ケ)71号.平成12年9月16日 判決(棄却)〔13民部〕

〔キーワード〕

職権審理、商標の類似

 

〔判示・認定事項〕 

  1. 商標登録無効審判手続においては、不答弁ないし不出頭に係る擬制自白の規定(民訴159条)は準用されていない(商 標56条1項、特151条〜153条)以上、被請求人(被告)が答 弁をしなかったとしても、審判手続上、請求人(原告)の主張する商標登録の無効理由の判断が不要となるものではな い。殊に、請求人(原告)の主張している商標登録の無効理由が商標法4条1項11号に該当するというものであれば、同号に定める類否判断は、法的判断事項に属するから、審判官がそれについて実質的に判断しなければならないことは当然であって、同号の該当性について実質的な審理判断を行った審決に違法はない。
  2. 同書体による「Car」の欧文字と「Lion」の欧文字とを ハイフン記号で結合させたものであり、視覚上一体的に看取できる構成態様であるということができ、また、これから生じる「カーライオン」との称呼は格別冗長とはいえず、一気一連に称呼し得ると認められる。観念上も、「Car」の部分と「Lion」の部分に統一的な観念が生じるとは認めがたい から、「Car」の部分から「自動車」の観念が、「Lion」 の部分から「ライオン」の観念がそれぞれ生じるものではなく、全体として不可分一体の造語として認識され、特段の観念を生じるものではないと認められる

〔事  実〕

 被告は、本件商標の商標登録第4085717号について、第9類「電気通信機械器具、電子応用機械器具及びその部品」を指定商品とした登録商標「Car-Lion」の商標権者である。
 原告は、引用商標の商標登録第2709360号について、旧第11類 「電気磁気測定器、電気通信機械器具、電子応用機械器具」を指定商品とした登録商標「ライオン/LION」の商標権者である。
 そこで、原告は、被告の前記登録商標は、原告の前記登録商標に類似するとして、商標法4条1項11号違反を理由の登録無効審判を特許庁に請求した。
 しかし、特許庁は平成11年12月22日、審判請求は成り立たないとの審決をしたので、原告は審決取消の訴訟を提起した。

 

〔判  断〕

 

1 取消事由1(職権審理の違法)について
 被告(被請求人)が、原告の請求に係る本件商標の登録無効審判手続において、答弁書を提出せず、何らの主張立証活動をしなかったことは当事者間に争いがない。
 しかし、商標登録無効審判手続においては、不答弁ないし不出頭に係る擬制自白の規定(民訴159条)も準用されていない(商 標56条1項、特151条〜153条)以上、被告(被請求人)が答弁をしなかったとしても、審判手続上、原告(請求人)の主張する商標登録の無効理由の判断が不要となるものではない。殊に、原告(請求人)の主張している商標登録の無効理由が商標法4条1項 11号に該当するというものであれば、同号に定める類似の有無の判断は、法的判断事項に属するから、審判官がそれについて実質的に判断しなければならないことは当然であって、同号の該当性について実質的な審理判断を行った審決に違法はない。
 なお、審決中には、職権審理を行う理由を説明する部分があるが、請求人による無効理由の主張立証がなされている以上、その当否の判断を行うことは職権探知主義とは直接関係のないことであって、その部分の説示は不適切であるものの、実質的な審理判断を行う必要があることを述べているにすぎないから、違法とすべき誤りとはいえない。また、審決は、原告(請求人)の主張に係る無効理由(引用商標との類似)について、職権証拠調べ等による新たな証拠を援用して判断したものでもないから、原告(請求人)に再反論の機会を与えることなく判断したとしても、何ら違法ということはできない。
 よって、取消事由1に係る原告の主張は理由がない。
2 取消事由2(類否判断の誤り)について
 本件商標の構成態様は、別添審決書写し別紙(1)のとおり、同 書体による「Car」の欧文字と「Lion」の欧文字とをハイフン 記号で結合させたものであり、視覚上一体的に看取できる構成態様であるということができ、また、これから生じる「カーライオン」との称呼は格別冗長とはいえず、一気一連に称呼し得ると認められる。観念上も、「Car」の部分と「Lion」の部分に統一 的な観念が生じるとは認めがたいから、「Car」の部分から「自動車」の観念が、「Lion」の部分から「ライオン」の観念がそ れぞれ生じるものではなく、全体として不可分一体の造語として認識され、特段の観念を生じるものではないと認められる。
 以上のとおり、本件商標は、全体として一体不可分のものとして称呼され、観念されると解される。この点、原告は、「Car」は自動車に係る用途を示すものとして弱い識別力しか持たず、商標としての要部は「Lion」にあると主張するが、「Car」の部 分に比べて「Lion」の部分に強い識別力があるとも認められず 、「Lion」の部分が看者の目を惹くとも認められないから、 「Lion」の部分が本件商標の要部であるとは認められない。
 以上のとおり、本件商標中「Lion」の部分が要部であること を前提として引用商標との類似をいう原告の主張は理由がないから、これと同旨の審決の判断に誤りはないというべきである。

〔研 究〕

1. 商標法56条1項で準用する特許法151条では、確かに民事訴訟法159条は準用されていない。この民訴法の規定は、被告(被請求 人)が原告(請求人)の主張した事実を争うことを明らかにしていない場合は、その事実を自白したものとみなすという擬制自白の規定である。民訴法の同条文が準用されていないのは、審判の審理における職権探知主義の所以であろう。
 審決は、職権審理を行う根拠として、「審理の公正かつ透明性を担保するため」というが、審決は、被告(被請求人)の意思や立場とは無関係に、あたかも利害関係人であるかのように、原告(請求人)の主張に対して反論することは、特許庁の判断が求められている事案とはいえ、不公正であり、透明な手続とはいえないだろう。たとえば民訴法159条が準用されていなくても、行政 審判事件においても、当事者主義、弁論主義の原則を事実上導入した審理がなされてもよいのではないだろうか。
 被告が審判手続において全く答弁しなかったのは、本件商標が登録無効となることを事実上容認していたものと解さざるを得ないのである。
2. 東京高裁における審決取消訴訟とは、特許庁における事実認定の誤りの有無を判断するほか、特許庁が法令違反の審決をしたかどうかを判断するものであるから、前記のような判断がなされてもやむを得ないかも知れないが、問題は当事者系の審判事件における職権の自由な介入の是非である。
 本件のように、請求人(原告)の主張に対して被請求人(被告)が全く答弁をしていないということは、客観的に見れば、被請求人としては登録無効になったとしても、問題にならない商標という考えがあったものと思われるから、このような場合は、特許庁としてもその辺の事情を推察考慮して判断すべきではなかろうか。本件のような場合の職権探知主義の履行は、果たして被請求人の利益になるのだろうか、疑問である。
 本件は登録無効審判請求事件であるが、当事者系のこのような事案において、被請求人が主張もしない事項について、職権という権限を使って独自の判断をしても保護しなければならない法益は一体何んであろうか。特に公益性の要求という第三者的立場が客観的に認められるものでなければ、権限の濫用といわれるおそれがある。
 審判事件においては、このような職権主義が通用するのであれば、不使用取消審判(商標50条)や不正使用取消審判(商標51条)の各事件においても、当事者が主張立証しない事項について、同様に職権審理が通用することになり、審判官が職権で探知した事実に基いて、取消の審決をすることも合法的であることになる。
3. 「LION/ライオン」と「Car-Lion」の標章上の類否判断で、判決は、指定商品との関係において、「Lion」部分と「Car」 部分との間に、前者がより強い識別力をもっていることを否認したが、果してそうだろうか。しかも両語部分は、「ハイフン」で結ばれている各独立語であるから、この標章からは単に「Lion 」の語のみが、「Car」から区別されて称呼、観念される標章でもあるということができる。
 したがって、標章の類否についての本件判決の認定、判断は偏見に基くものといわざるを得ないのである。

[牛木理一]