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登録商標「あおばの森」不使用取消審決取消請求事件:東京高裁平15(行ケ)350平成16年1月27日判決(認容/取消)

〔キーワード〕 
商品区分、消臭剤、薬剤、化学剤、法の目的

 

〔事  実〕


 
 原告(エーオーエーアオバ)は、平成5年6月1日に第5類「薬剤」を指定商品として、標章「あおばの森」の文字を横書きした商標登録出願をし、平成8年4月30日に設定登録をした商標登録第3140165号商標の商標権者である。
 被告(石原産業)は、平成13年4月20日、原告を被請求人として商標法第50条に基く本件登録商標の不使用取り消しの審判を請求したところ、「登録を取り消す」との審決がなされた。
 審決理由は次のとおり。
 「平成4年3月25日発行の特許庁商標課編「商品及び役務区分解説」(発明協会発行)によれば,商品区分第5類の「薬剤」に属するものとして区分されている薬剤は,いずれも薬事法に定義する医薬品,医薬部外品に該当する薬品,あるいは農薬であることが認められることから,商品区分第5類の「薬剤」とは,取引者・需要者の間で医薬品,医薬部外品,農薬として取り扱われて取引の対象になっている薬品を意味するものと解するのが相当である。そこで,これを本件についてみるに,本件に係る全証拠によっても被請求人の使用商品が薬事法の許可,厚生大臣からの薬品又は医薬部外品の許可を受けていることを窺わせるものはない。しかも,使用商品は,アミノ酸,天然植物エキス,葉緑素等からなる,無機又は有機の工業製品であり,消臭を目的とするものであるから,「薬剤」というよりはむしろ,商品区分第1類の化学剤に属するものというべきである。・・・してみれば,本件商標は,・・・本件審判の請求登録前3年以内に日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても,その指定商品について使用されていたものということはできない。したがって,本件商標の登録は,商標法第50条の規定により,取り消すべきものである。」と認定し判断した。

 

〔判  断〕


 
 1.商品区分第5類「薬剤」の解釈について
 審決は,「商品区分第5類の「薬剤」に属するものとして区分されている薬剤は,いずれも薬事法に定義する医薬品,医薬部外品に該当する薬品,あるいは農薬であることが認められることから,商品区分第5類の「薬剤」とは,取引者・需要者の間で医薬品,医薬部外品,農薬として取り扱われて取引の対象になっている薬品を意味するものと解するのが相当である。」と判断した。
 本件商標の指定商品である第5類「薬剤」は,平成3年商標法改正に伴い平成4年4月1日から施行された商品区分に係るものである。特許庁商標課編「商品及び役務区分解説」(発明協会平成4年3月25日発行)には,第5類「薬剤」の注釈として,「この類には,主として薬剤及び他の医療用剤を含む。」との記載に続き,「この類には,特に,次の商品を含む。・・・防臭剤(身体用のものを除く。)」と記載され,また,「この類には,特に,次の商品を含まない。・・・身体用防臭剤(第3類)」と記載されている。
 防臭剤としては,第5類「薬剤」に属する「防臭剤(身体用のものを除く。)」のほかに,「身体用防臭剤」と「工業用防臭剤」とがあり,前者は,第3類「洗浄剤及び化粧品」に分類され,後者は,商標法施行規則第3条の別表には掲げられていないものの,その用途が工業用であることから登録審査実務上,第1類「工業用,科学用又は農業用の化学品」に分類されている。
 商品区分第5類「薬剤」に含まれる商品である「防臭剤(身体用のものを除く。)」には,「くつ用防臭剤」,「エアゾール式スプレータイプの室内用芳香防臭剤」,「家庭用防臭剤(身体用のものを除く)」,「自動車用消臭・防臭剤」,「自動車用防臭剤」等のように,薬事法上の医薬品,医薬部外品にも,農薬取締法上の農薬にも,明らかに該当しない商品が含まれるものとされ,現実に「くつ用消臭剤,くつ用防臭剤,くつ用脱臭剤」,「エアゾール式スプレータイプの室内用芳香防臭剤」あるいは「自動車用消臭・防臭剤」が第5類「薬剤」として出願され,登録されている。このように,審査に当たっては,医薬品,医薬部外品,農薬以外の商品で,上記のような防臭剤は,第5類「薬剤」に分類され,登録されている。
 商標法の商品分類は,商品の混同を防止し商標使用者の業務上の信用と需要者の利益を保護するという商標法の目的に即して,取引市場の実情を考慮した商品分類を採用している。これに対して,薬事法は,医薬品や医薬部外品につき,それぞれの特質に応じ,「品質,有効性及び安全性の確保」(薬事法1条)という見地から適切な規制を加えることを目的として,「医薬品」や「医薬部外品」の概念を定めている。このように,法の目的に応じて分類をする目的ないし観点も異なる以上,商標法上の第5類「薬剤」の分類区分と薬事法上の「医薬品」・「医薬部外品」の区分とが必ず合致しなければならないと解する理由はない。商標法上の「薬剤」が薬事法上は「医薬品」や「医薬部外品」でないとして扱われることがあっても,何ら差し支えないというべきである。
 身体用のものを除いた防臭剤は,その商品の用途,商品の性質,商品の販売形態,商品の使用方法等から見て,第1類「工業用,科学用,又は農業用の化学品」に含まれるものでないものは,それが薬事法上の「医薬品」や「医薬部外品」でないものであっても,第5類「薬剤」中の「防臭剤(身体用のものを除く。)」に含まれるものと解すべきである。

2.本件商品の商品区分の認定の誤りについて
 本件商品は,びん詰めあるいはスプレー容器入りの,室内用の消臭剤であり,その容器の前面には,本件商標が大きく表示されるとともに,「純植物性消臭液」との表示も付されている。また,本件商品の容器の前面下部には「118種類の草木から抽出した天然植物エキスが原料です。無公害で安全強力な全く新しいタイプの消臭液です。」と表示されており,その成分は,100%混合植物抽出液から成るものである。
 本件商品のパンフレットとしては,@「アオバのご紹介」と題するもの(1997年10月及び1998年10月作成)と,A「あおばの森 純植物性消臭液」と題するもの(平成5年5月作成)とがある。@のパンフレットでは,原告が取り扱っている主要な商品の紹介の一部として,本件商品についても,「環境製品」との表題の下に「豊かな自然を蘇らせるための優れた製品」として紹介している。Aのパンフレットでは,本件商品を詳しく紹介している。そして,後者のパンフレットにおいては,「118種の植物から生まれた,ヒトに,地球に優しい無公害消臭液。」,「あらゆるニオイを消し去る"あおばの森"は118種もの植物から有効成分を抽出して作られた純植物性消臭液です。」,「松・モミ・イラクサ・ヒノキ・・・などなど,118種の植物を原料として,空気還元法により,悪臭の元となる有害物質を分解,臭気そのものを無臭物質に変えてしまいます。さらに,酸性とアルカリ性,無機質と有機質などの複合悪臭物質をも同時に除去。従来の化学薬品,微生物では考えられなかった効果と安全性の高い,まったく新しい無害,無公害の消臭液が誕生しました。」と本件商品の説明がなされ,その上で,「ご家庭の居間,寝室,書斎,台所,トイレはもちろん,オフイス,美容院,病院,ペットショップ,薬局,工場など,さわやかな気分で過ごしたいあらゆる生活空間に"あおばの森"をどうぞ。」とその用途の説明がなされている。
 原告は,登録された会員に上記各パンフレットを送付して,通信販売の方法により本件商品を販売したり,登録店を通し一般の消費者にも本件商品を販売したりしている。これらの取引者・需要者が,上記の各パンフレットの記載から,本件商品が天然植物エキスを原料とした家庭用の消臭剤であると認識することは明らかである(上記パンフレットには,オフイス,美容院,病院,ペットショップ,薬局,工場などでも本件商品を使用し得るとの記載がある。しかし,これは,家庭の生活環境と同様の「さわやかな気分で過ごしたいあらゆる生活空間に」本件商品を使用し得るとの趣旨であり,本件商品が工場等で工業用に使用する化学剤ないし化学的製品であるとの意味ではないことが明らかである。)。
 以上のとおり,本件商品は,100%混合植物抽出液から成る,一般家庭の居間,寝室,書斎,台所,トイレ用の消臭液であり,オフィスその他の建物用にも使用し得るものとして,上記のように通信販売又は登録店を通じて一般消費者に販売されるものであるから,取引者・需要者は,これを,身体用のものではない,家庭用の防臭剤として認識するものであり,「工業用,科学用及び農業用の化学品」として認識するものではないことが明らかである。
このように,本件商品は,第5類「薬剤」に分類される「防臭剤(身体用のものを除く。)」に含まれるものである。原告が本件商標を本件商品に使用していることは前記のとおりであるから,審決の前記判断が誤りであることは明らかである。

論  説


1.第5類「薬剤」の解釈
 特許庁における商標の審査においては、まず当該商標がいかなる商品や役務を指定して出願しているものなのかを検討するが、その基準は特許庁商標課編「商品及び役務区分解説」に記載された分類表にある。したがって、審決は、商品区分第5類の「薬剤」とは、薬事法に定義する医薬品、医薬部外品に該当する薬品を指すが、被請求人(原告)の使用商品が、薬事法の許可、厚生大臣からの薬品又は医薬部外品の許可を受けていることを、うかがわせるものがないことを主な理由として、「消臭剤」は「薬剤」よりは、第1類の化学剤に属すると認定したが、この認定は誤りであることは、東京高裁によって指摘された。
 東京高裁は、まず防臭剤には、第5類「薬剤」に属する「防臭剤(身体用のものを除く)」のほかに、「身体用防臭剤」と「工業用防臭剤」があり、前者は第3類「洗浄剤及び化粧品」に分類され、後者は別表には掲載されていないが、その用途から第1類「工業用、科学用又は農業用の化学品」に分類されると認定した。
 前記第5類「薬剤」に含まれる商品の「防臭剤(身体用のものを除く)」には、「くつ用防臭剤」、「エアゾール式スプレータイプの室内用芳香防臭剤」、「家庭用防臭剤(身体用のものを除く)」、「自動車用消臭・防臭剤」、「自動車用防臭剤」のように、薬事法上の医薬品、医薬部外品にも、農薬取締法上の農薬にも、明らかに該当しない商品が含まれ、現実に第5類「薬剤」として登録されている例もあると認定した。
 そして、判決は、商標法の商品分類は、商品の混同防止および商標使用者の業務上の信用と需要者の利益を保護するという商標法の目的に即して、取引市場の実情を考慮して採用されているのに対し、薬事法は、医薬品や医薬部外品について、「品質、有効性及び安全性の確保」(1条)の見地からその概念を規定しているから、法の目的や観点が違う以上、両法の商品区分が必ず合致しなければならないと解する理由はないと認定した。そして、商標法上の「薬剤」が、薬事法上は「医薬品」や「医薬部外品」ではないと扱われても、何ら差し支えないことと説示した。
 その結果、身体用のものを除いた「防臭剤」は、その商品の用途、商品の性質、商品の販売形態、商品の使用方法から見て、第1類に含まれるものではなく、また、薬事法上の「医薬品」や「医薬部外品」でなく、第5類「薬剤」中の「防臭剤(身体用のものを除く)」に含まれるものと解したのである。
2.商品区分の認定の誤り
 本件商標に係る商品は室内用の消臭剤であり、その容器の前面に本件商標「あおばの森」が大きく表示されるとともに、「純植物性消臭液」との表示もあり、その成分は100%混合植物抽出液から成る。また、パンフレットには、その用途の説明がなされているし、原告は登録された会員に通信販売の方法で本件商品を販売したり、登録店を通して一般消費者にも販売しているから、本件商品は天然植物エキスを原料とした家庭用の「消臭剤」であると認識できるのは明らかであり、「工業用、科学用及び農業用の化学品」(第1類)と認識するものではないと認定した。
 その結果、審決の判断は誤りであるとして、本件商標の不使用取り消しの審決は取り消され、本件商標の登録は保持されることになった次第である。
3.むすび
 本件において、特許庁では、杓子定規に商品の認定をして、第1類か第5類かを判断をしているのに対し、裁判所では商品の取引形態などを具体的かつ実質的に調査した上で、いずれの区分に属するものかを認定して判断していることの違いを、われわれは認識することができ、後者の判断方法が前者に比しはるかに優れていることを、この判決は証明しているといえる。

[牛木理一]