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出願商標「ユービック」拒絶審決取消請求事件:東京高裁平15(行ケ)445 平成16年1月26日判決(棄却)

〔キーワード〕 
類似商標の取得方法、交渉期間

 

〔事  実〕


 
 原告(ユービック・インク)は,平成8年8月20日,「UBIQ」の欧文字を横書きした構成からなる商標(以下「本願商標」という。)について,商標法施行令1条別表の第9類「コンピュータ用回路基板,集積回路,その他の電子回路(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路を除く。),電子計算機(中央処理装置,スマートカード発行者がスマートカードを初期化及び個人用に加工するために使用するプログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープ・磁気カード・光磁気ディスク,その他の電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープ・磁気カード,光磁気ディスクその他の周辺機器を含む。),これらとセット販売されるマニュアル,その他の電子応用機械器具及びその部品,電気通信機械器具」を指定商品とし,同年2月20日米国においてした商標登録出願に基づくパリ条約4条による優先権を主張して,商標登録出願をしたところ,特許庁は,これについて,拒絶査定をした。
 そこで,原告は,平成12年4月6日,拒絶査定不服審判の請求をしたところ,特許庁は,平成15年5月27日,次の理由により、「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
(1) 引用商標
 登録第1693728号商標は,「U−BIX」の欧文字を横書きした構成からなり,昭和45年7月31日に登録出願,第11類「電子写真複写機」を指定商品とし,同59年6月21日に設定登録,その後,平成6年11月29日に商標権存続期間の更新登録がされたものである。
 登録第2696371号商標は,「ユービックス」の片仮名文字及び「UBIX」の欧文字を上下二段に書した構成からなり,昭和59年6月28日に登録出願,第11類「電子応用機械器具,その他本類に属する商品」を指定商品として,平成6年9月30日に設定登録がされたものである。
 登録第2696372号商標は,別紙に示すとおりの構成からなり,昭和59年7月26日に登録出願,第11類「電子応用機械器具,その他本類に属する商品」を指定商品として,平成6年9月30日に設定登録がされたものである。

(2) 判断
 本願商標と引用各商標とは,外観を考慮し,かつ,観念について比較することができないとしても,称呼において相紛らわしい類似する商標と判断するのが相当である。
 また,本願商標の指定商品は,引用各商標の指定商品と同一又は類似するものと認められる。
したがって,本願商標は,商標法4条1項11号に該当する。 

 

〔判  断〕


 
 1 原告は,「原告は,引用各商標の商標権者であったコニカ株式会社との間で,本件審決がされる前である平成15年3月31日,本願商標登録出願により生じたすべての権利を譲渡する旨の本件契約を締結した。したがって,特許庁長官に対する出願人名義変更の届出は未だされていなかったものの,本件契約の締結により,商標法4条1項11号所定の拒絶事由は,既に実質的に解消していた。それにもかかわらず,本件審決は,そのような事情を考慮せず,本願商標が同号に該当すると誤って判断したものである。」旨主張する。
(1) しかし,審決取消訴訟は,既に行われた行政処分である審決が違法であるとしてその取消しを求めるものであるから,裁判所の判断対象は,審決が審決時において違法に行われたか否か,であると解すべきである。
 そして,特許法34条4項は,「特許出願後における特許を受ける権利の承継は,相続その他の一般承継の場合を除き,特許庁長官に届け出なければ,その効力を生じない。」と規定し,商標法13条2項は,商標登録出願により生じた権利に上記規定を準用している。(なお,上記権利承継については,遡及効の定めはなく,その効力が審決時まで遡及する性質のものでもない。)
 これを本件についてみるに,本件審決がされた平成15年5月27日以前に,特許庁長官に対し,本願商標登録出願により生じた権利の譲渡の届出がされていないことは,当事者間に争いがないから,本件審決時において,上記譲渡の効力は未だ生じていないものである。
したがって,本件審決が,本願商標が商標法4条1項11号に該当すると判断するに際して,本願商標登録出願により生じた権利の譲渡に係る本件契約の締結の有無を考慮しなかったことは,相当であり,原告の上記主張は理由がない。
(2) これに対し,原告は,「本件のような場合に違法性判断の基準時を審決時と考えると,出願人に出願手続のやり直しを要求することになるだけで無益である反面,徒らに後願者を利するばかりでなく,我が国も加盟する商標法条約におけるユーザー・フレンドリーの基本的理念にも反する。」旨主張する。
 しかし,本件のような事案において,後願の商標登録出願がある場合には,先願者が再び出願手続を行っても,同一の法的状態に戻らないことが明らかであるから,「出願人に出願手続のやり直しを要求することになるだけで無益である反面,徒らに後願者を利することになる。」ということはできない。また,商標法条約がユーザー・フレンドリーを基本的理念とするからといって,上記(1)記載の商標法等の解釈を変更すべき筋合いでもない。したがって,原告の上記主張は理由がない。
2 また,原告は,「企業合併等の不測の事態が生じたため,出願人名義変更の届出が遅れざるを得なかったにもかかわらず,そのような事情を考慮せずにされた本件審決は,出願人にとって酷にすぎる。」旨主張する。
(1) 争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告は,平成8年8月20日,本願商標登録出願をしたところ,特許庁は,平成10年1月16日,原告に対し,引用各商標に基づき拒絶理由通知をした。
 そこで,原告は,同年5月19日,特許庁に対し,「本願商標を一旦引用商標権者に譲渡し,引用商標権者名義で登録した後に,本願出願人に分離移転することを希望し,引用商標権者と交渉をしております。当該交渉が成立すれば,今般の拒絶理由は解消されるものと存じます。」として,上記交渉の成否が判明するまで審査を猶予するよう求める上申書を提出した。
 その後,原告は,同年12月2日,再度特許庁に対し,「この度,本願商標について引用商標権者名義で登録を受けることに関して同意を得ることができましたが,本願商標の登録後の取扱いについて,引き続き交渉中です。」として,上記交渉が終結し名義変更手続が完了するまで審査を猶予するよう求める上申書を提出した。
イ しかるに,特許庁は,平成11年12月15日,「出願人は,上申書において,引用商標権者と本願の譲渡等につき交渉中である旨述べているが,相当の期間を経過した現在に至るも,何も為されていない。」として,拒絶査定をした。
ウ 原告は,平成12年4月6日,拒絶査定不服審判の請求をした(本件審判事件)後,同年7月13日,上記審判請求についての手続補正書を提出し,「請求人は,...引用商標権者と交渉し,本願を引用商標権者へ譲渡することで大筋の合意に至り,現在,当事者間で契約条項等につき最終的なつめを行っているところです。」として,上記交渉が終結し名義変更手続が完了するまで審理を猶予するよう求めた。
 特許庁は,平成13年9月25日,原告に対し,「現在に至るも,本願について,商標出願人名義変更届の手続がなされていない。よって,これらの点について釈明されたい。...なお,本件に対し,所定の期間内に回答がなされず,或いは審理進行を猶予し得る合理的理由が認められないときは,審理を終結する。」との審尋書を発送し,原告はこれを受領した。
 これに対し,原告は,同年12月25日,特許庁に対し,「出願人が...引用商標の商標権者(コニカ株式会社殿)と交渉しました結果,両者間にて本願商標をコニカ株式会社殿に譲渡し,本願商標の登録後,出願人が本願商標の使用につき許諾を受ける旨の合意がなされております。しかし,使用許諾契約の更新に関する細部について未だ協議中です。」として,上記交渉が終結し名義変更手続が完了するまで審理を猶予するよう求める回答書を提出した。
 また,原告は,平成14年5月15日,特許庁に対し,「引用商標の商標権者...との本願商標のライセンスバック交渉において,登録後の使用許諾契約の細部についての合意に至り,現在契約書作成に着手したところです。当該契約締結次第,本願のコニカ株式会社殿への名義変更手続を行う予定です。」として,名義変更手続が完了するまで審理を猶予するよう求める上申書を提出した。
エ 原告は,ようやく平成15年3月31日にいたり,引用各商標の商標権者であるコニカ株式会社との間で,本願商標登録出願により生じたすべての権利を譲渡する旨の契約(本件契約)を締結した。
オ 特許庁は,平成15年5月13日,原告に対し,本件審判事件の審理を終結した旨の通知をした上,同月27日,本件審決をした。なお,本件審決以前に,原告が特許庁に対し,本件契約締結の事実を通知したことはない。
(2) 以上の事実によれば,原告が特許庁に対し,平成10年5月19日,引用各商標の商標権者との間において,本願商標登録出願により生じた権利の譲渡をめぐる交渉が行われていることを理由に,審査の猶予を求めてから,拒絶査定を経て本件審決に至るまでの約5年間もの長期間にわたり,原告には上記交渉及び名義変更手続のための期間が十二分に与えられたものというべきであり,しかも,本件審決に先立ち,原告は,平成15年5月13日には特許庁から本件審判事件の審理を終結した旨の通知を受けながら,これに対して,本件契約締結の事実を連絡した上で審理の再開を求める等の措置を何ら講じなかったものである。このような事情に鑑みれば,特許庁がこれ以上本件審判事件の審理を猶予することなく本件審決をしたことが,原告にとって酷にすぎるとは到底いうことができず,原告の上記主張は理由がない。

論  説

1.この事件は、原告会社と引用商標会社との交渉がスムーズになされず、5年以上も審判事件が徒過したことが原因で、拒絶査定を確認する審決となったが、これは原告の怠慢と評価されてもやむを得ないであろう。
 原告は外国法人であったことから、時間がかかることはやむを得ないとしても、その代理人がもっとリーダーシップをとって交渉をすすめるようにすべきであり、場合によっては依頼者に交渉打切りのアドバイスをする位の勇気があってよいだろう。

2.出願商標の「UBIQ」(ユービック)が引用商標の「U−BIX」・「ユービックス」に類似する商標であると認定されたことは、同一分類であることから、やむを得ないというべきである。

[牛木理一]