G-27


登録商標「マンハッタンポーテージ図形」無効審決取消請求事件:東京高裁平14(行ケ)593平成15年11月20日判決(棄却)

〔キーワード〕 
外国周知商標、不正の目的、商標法4条1項19号
〔事  実〕

 
 原告(レジャープロダクツ)は、本件商標を第18類「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、傘、その他」を指定商品として平成6年3月3日に出願し、平成10年1月9日に設定登録した商標登録第4100203号商標の商標権者であった。
 被告(マンハッタン・ポーデージ・リミテッド)は、平成13年10月23日、本件商標は引用標章と外観において類似し、原告により不正の目的をもって登録されたとして、商標法4条1項19号に該当するとして、本件商標の登録無効審判を請求した。
 その結果、審判では被告の主張が通り、原告の登録商標は無効の審決を受けた。 
〔判  断〕

 
 1 原告主張の審決の瑕疵について
 当庁平成14年(行ケ)第514号,第515号事件の審決と本件の審決を比較すれば,事実関係及び証拠において大半の部分について同一ないし類似しているものと認められる。しかし,特許庁の審決作成に当たり,法律上,同種事件の審決ないしその案を参照することが許されないものではなく,当該審判において得られる事実認定やこれに対する法的評価を審決書に記載する際,認定判断が一致する限り,別件の審決書と表現において同一のものとなったとしても,それ自体が違法となるものではない。
 原告主張の事実をもってしては,審決に瑕疵があるということはできず,審決取消事由1は理由がない。

2 引用標章の使用時期と周知性認定の誤りに関する取消事由について
(1) 被告が,1983年(昭和58年)4月に「ウルバリン マウンテン プロダクツ インコーポレーテッド」から「マンハッタン ポーテージ リミテッド」と社名変更したことは弁論の全趣旨によって認められ,以下の審決認定の事実は,原告において争っていない。
@ 被告は,スクール・ダッフルバッグ,フライトバッグ,メッセンジャーバッグ等のバッグの製造,販売を業務とする米国の法人であること,被告は,「使用開始」を1983年(昭和58年)4月25日と記載して,国際分類第18類(ソフトラゲッジ,ショルダーバッグ,バックパック,すべての用途のスポーツバッグ,自転車ウエストポーチ)及び第22類(キャンバスメッセンジャーバッグ)について,米国特許商標庁へ登録出願し,「登録番号;第2075388号」として1997年(平成9年)7月1日に登録を受けたものであること。
A 本件商標の登録出願日(1994年(平成6年)3月3日)前であって,1988年(昭和63年)10月より前に発行し頒布された被告の商品カタログの表紙及び裏表紙には,地色を赤色とする横長長方形図形内の中央部に白抜きした高層ビル群の図形及び該図形の下に,同じく白抜きした「ManhattanPortage」の文字を要部とした標章が表示されており,同カタログ中に掲載された商品には,地色を緑色とする横長長方形図形内の中央部に,白抜きした高層ビル群の図形及び該図形の下に同じく白抜きした「ManhattanPortage」の文字を要部とした標章が付されていること。
B 被告商品は,1987年(昭和62年)1月12日,1988年(昭和63年)1月13日及び同年6月23日(いずれも米国の日付)の3回にわたって,「東京都文京区湯島3−16−10」に所在の「CHENG & SONS CO.LTD.」を通じて日本に輸入されたこと。その各時期の輸入数量は,順に156個,210個及び100個であったこと。
(2) 証拠によれば,「Manufacturers of th JOHN PETERS」と題する商品カタログに,その表紙及び裏表紙に地色を赤色とした横長長方形内の中央部に,白抜きで描かれた高層ビル群の図形が描かれ,その図形の下部に同じく白抜きで書された「ManhattanPortage」の文字を要部とする次の標章が表示されていることが認められる。
 このカタログには,引用標章とほぼ同じものとみられる標章(ただし,地色は緑色で,ManhattanPortageの文字の下に別の文字が白抜きで付されている。この文字は判読できない。)が付されているバッグの商品が掲載されている(型番1200〜1202,1304〜1307,1403S,L,1404,1405)。このカタログが本件商標の登録出願前である1988年(昭和63年)10月以前に発行,頒布されたものであること自体は,原告も争っていない。上記の「JOHN PETERS」は被告代表者のPを表すものであるから,このカタログが被告が販売している商品についてのものであることは明らかである。
 そして,証拠によれば,1986年(昭和61年)にエベレスト登山を果たした登山隊は被告の援助を得ていたが,白抜きで描かれた高層ビル群の図形の下にManhattanPortageの文字が白抜きで書されたバッグを登山メンバーが示しているカラー写真について,被告はそのカタログに使用する権限が与えられたこと,アメリカで刊行された1985年(昭和60年)8・9月号の雑誌「SHOWCASE」には,緑地に白抜きで描かれた高層ビル群の図形が描かれ,その図形の下部に同じく白抜きで書された「ManhattanPortage」の文字が書された標章を付したバッグが,被告の広告として掲載され,同様の図形と文字からなる標章による被告のバッグの広告は,1986年(昭和61年)よりも前から雑誌「SHOWCASE」に掲載されていたこと,同誌の発行部数は1987年(昭和62年)において1万5000部であったこと,が認められる。
(3) なお,証拠のカタログの表紙等に記載された前記標章は,引用標章及び米国登録第2075388号商標と,同デザインの高層ビル群の下に描かれた同じ文字デザインに係る「ManhattanPortage」の文字が存するものとして構成の軌を一にするものであって,社会通念上同一の範囲の商標と認められるものである。したがって,被告が米国登録第2075388号の登録出願をするに際し,「使用開始」を1983年(昭和58年)4月25日と記載したについては,少なくともカタログ記載の時期に関してみれば,虚偽の事実に基づいたものと認めることはできない。
 原告は,引用標章が本件商標登録出願日より前に使用されていた事実はないと主張するが,引用標章は,上記米国登録商標やカタログ表紙等に記載のある標章の中核となるものであり,被告は,1983年(昭和58年)にそのデザイン作成をデザイナーに依頼したと主張しているものである。前認定のように,上記米国登録商標やカタログにおける標章が1983年(昭和58年)あるいは1988年(昭和63年)の10月以前に使用されていた事実を認めることができる以上,これらの中核をなす引用標章もそのころに使用されていたものと認めることができるのであり,原告の主張は理由がない。
(4) 以上(1)〜(3)の認定事実によれば,引用標章は,本件商標の登録出願前には,少なくとも米国内のバッグ類を取り扱う業界及び当該商品の需要者の間で広く認識されていたとの審決の認定判断に誤りはない。なお,引用標章が付されるバッグ等はいわゆる旅行通に好まれるものであることが認められ,大量生産されるものではないと推認することができる。したがって,前記「SHOWCASE」のような,相当部数発行されているアイテム紹介誌に引用標章と図形を共通にし文字も基本的な部分において共通する商標が付されている商品が紹介されている以上,引用標章が付されるバッグ等の販売個数の多寡について認定するまでもなく,引用標章は米国内において周知となっていたものと認めるべきものである。

3 不正目的の不存在に関する主張について
(1) 審決が,不正の目的の有無を認定判断するに際して認定した事実(審決の理由の要点(3)−1の事実(ただし,そこにおける(g)中,原告が販売開始した商品に付された商標が,「ビル群の図形」及び「ManhattanPassage」の文字を白抜きしたものを要部とするものであることを除く。))について,原告は争っていない。
(2) 上記原告の争わない審決の理由の要点(3)−1中の各事実によれば,原告の代表取締役であったAは,本件商標の登録出願前である1988年(昭和63年)10月には,引用標章の存在を知る立場にあったことが認められる。
 そして,Aの陳述書,宣誓供述書並びに弁論の全趣旨によって検討するに,1988年(昭和63年)10月当時,被告とAとの間には,被告商品の取引について詳細な話合いがあり,その結果,原告ないしAが被告から被告商品を買い受けることなどについて基本的な意見が一致した(原告もこれを「基本的合意」と称しており,契約が成立したとはいわず,契約書の作成は後日に行うこととされたと供述している。)ものの,被告商品について原告ないしAが日本における独占販売権を取得することについて何ら確定的な合意は成立していなかったものと認められる。
 また,かばん業界に精通している者であると自認するAは,被告商品の評判についてかなりの程度において認識していたものと推認されるところ,原告が,別件Portage結合商標及び別件図形商標,さらには本件商標の登録出願をしたことについて,Pなど被告関係者に通知したことを認めるべき証拠はない。
 原告ないしAは,Pからの1988年(昭和63年)11月3日付けの書簡の受領によって,被告との商品取引が成立しないと察知したことから,被告商品に類似するかばん類を,1989年(平成1年)3月27日付けの注文書により,韓国において製造させ,これら商品に赤地のラベルに白抜きで表した「ビル群の図形」及び「Manhattan/Passage」の文字を要部とする商標を使用して販売したものと認められるのである。上記書簡を原告ないしAが受領した日は明確に認定することができないが,時期の近接性からみて,上記書簡の受領が,昭和63年11月8日の別件Portage結合商標の登録出願の契機になった可能性も否定することができない。
 原告ないしAが被告商品を自ら日本に輸入しようとしていたものであることも,原告代表取締役であったAは,本件商標の登録出願当時,引用標章が,被告商品について使用され,米国国内のかばん類の取引者,需要者の間に広く認識されているの存在を知りながら,引用標章と酷似する本件商標を登録出願することについて,被告の承諾を得ないで無断で行ったと認めることの裏付けとなるものである。Aが別件Portage結合商標及び別件図形商標の登録出願をした行為には,米国内で広く認識されているに至っていた標章を使用する許諾を得ていないことを認識しつつ,日本でこれと外観において(別件Portage結合商標の登録出願については称呼においても)類似する本件商標の登録出願をしたものとして,そこには不正の目的があったというべきである。
 そして,本件商標は,別件Portage結合商標と,「Manhattan」の文字構成及び文字デザインにおいて酷似し(しかも,「Portage」と「Passage」の文字部分も,頭文字の「P」と,末尾3文字「age」とにおいて共通している。),別件Portage結合商標及び別件図形商標とは,一見してエンパイアステート・ビルあるいはクライスラー・ビルと思わせるビルを中央左部に配し,明らかにニューヨークマンハッタンの高層ビルと認識させる輪郭線だけによるビル群のロゴを描くなど,ビル群の図形においても共通していることからすると,本件商標の登録出願の登録出願をした点も,上記二つの別件商標の登録出願と同様に不正の目的があったというべきである。原告は,独自に本件商標の文字及び図形を採択したと主張し,Aの陳述書及び宣誓供述書にはその旨の記載があるが,上記別件商標の登録出願までの経緯に照らし,採用することができない。
(3) 被告は,引用標章を日本国内において登録出願することについて関心を示さなかったが(この事実について,被告は明らかに争わない。),このことは,米国国内でかばん類に使用する引用標章と酷似する別件各商標と更に酷似する本件商標の登録出願が,被告に無断で行われたことに影響を及ぼすものではない。なお,原告の代表者であったAの陳述書及び宣誓供述書において,Pが,被告商品の商標登録を日本でしなくとも,実際に使用している以上、商標に関する権利は保持しているはずである旨Aに発言した趣旨の記載がある。Pがこのような発言をしたとしても,その趣旨は,被告商品の商標に関する権利は,被告自身で保持し管理することを前提にしたものと理解することができる。同陳述書及び供述書には,Pが本件各商標登録出願を原告が行うことを承諾した旨の記載もあるが,被告が強く争っている事実であり,被告代表者のPのこの点に関する供述書の記載部分に照らし,客観的な裏付けを欠くものとして採用することができない。
 原告は,突然正当な理由もなく一方的に,Pの1988年(昭和63年)11月3日付けの書簡で被告商品の納入を受けられないことの通告を受けたと主張する。しかし,たとえPから原告ないしAに対し納得のいく説明がなかったにせよ,結局において,被告商品の原告及びAに対する供給の合意が成立しなかった以上,そして,引用標章と酷似する商標の登録出願について被告の承諾が得られていない以上,原告の上記主張事実が認められるとしても,本件商標の登録出願が,被告に無断で行われたとの認定が動くものではない。
(4) よって,本件商標の登録出願行為には,不正の目的があったとした審決の判断に誤りはない。
論  説
1.商標法4条1項19号は、出願商標の不登録事由の最後に規定されている新事由の一であるが、この19号に似ているのが10号の規定である。
 10号は、日本国内において周知の他人の商標について、商品又は役務が類似するものについて使用する場合に適用されるが、19号は、日本国内又は外国において、商品又は役務の類否を超えて標章自体が周知の場合に、不正の目的をもって使用するものに対して適用される。
 ところが、無効審判によって登録無効を請求する第三者には、10号該当の事由のあるときは、不正競争の目的で商標登録した場合に限って5年間の除斥期間は適用されないが、19号該当の事由では、「不正の目的をもって使用するもの」を要件としているから、最初から5年の除斥期間の適用はなく、何時でも無効審判を請求できる。

2.ところで、本件は取引関係にあった原告と被告間にあって、被告から取引中止の通告を受けた原告が、被告に無断でわが国特許庁に商標登録をしたことが事の発端となった。原告(本件商標権者)は、被告の引用商標の周知性を十分認識していたし、それを無断で商標登録したことは、不正の目的があったと認定されてもやむを得ないといえるから、本件の審決及び判決の判断は妥当であるといえる。 

3.なお、当方で取扱った商標権の登録無効審判及び審決取消訴訟事件において、商標法4条1項10号が適用されて登録無効となった事例があるので、G−18(商標MOSRITE)を参照されたい。

[牛木理一]