G-24

 
 

立体商標「角瓶ボトル」拒絶審決取消請求事件:東京高裁平14(行ケ)581平成15年8月29日判(棄)

〔キーワード〕 
立体商標、物品の形状デザイン、自他商品の識別力、使用による識別力

 

〔事  実〕


 
 G−13において私は、“角瓶”の文字について、サントリーが「角型瓶入りのウイスキー」を指定商品として出願したところ、特許庁は拒絶の審査・審決をしたが、東京高裁では審決が取り消され、証拠により使用による自他商品の識別力が認められるとして商標法3条2項の規定が適用された事件を紹介した。
今回は、サントリーが“立体商標”の登録制度が導入施行された平成9年4月1日に、「ウイスキー」を指定商品として出願したボトルの形状デザインに対する商標登録出願事件を紹介する。特許庁は、平成12年10月6日に拒絶査定を、平成14年9月24日に請求不成立の審決をしたが、その理由について、これを指定商品「ウイスキー」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、全体としてウイスキーの包装(収納容器)の形状を表示するにすぎないものと理解するにとどまり、自他商品の識別標識とは認識し得ないものと判断するのが相当であるから、商標法3条1項3号に該当し、またその指定商品について使用された結果、自他商品の識別標識としての機能を有するに至っているとすることはできず、同条2項の適用により登録を受けることができる商標にも当たらないから、商標登録を受けることができないとした。
これに対し、原告は、審決の取消事由として、第1に商標法3条1項3号に該当すると判断したことの誤り、第2に同法3条2項に該当しないと判断したことの誤りについて反論した。この事件で原告側は、特許庁において提出していた消費者に対するアンケート調査の報告書を提出し、これによって商標法3条2項の適用を主張した。
審決は、本願商標について、縦長の直方体の立体的な全体形状は、液体等を収納する容器そのものを表したものであり、容器の四方側面に施された線と面で構成される切り欠け状の模様は、商品の機能(持ち易さ)、美感を効果的に高めるための範囲内のものにすぎないから、これをその指定商品(ウイスキー)に使用しても、取引者・需要者は、全体としてウイスキーの包装の形状を表示するにすぎないと理解するに止まり、自他商品の識別標識とは認識し得ないと判断したことに対し、原告は、本願商標は、亀甲模様が施された角張った瓶形という独特な瓶の形状によって、それ自体自他商品の識別力を有していると主張した。 

 

〔判   断〕


 
1.確かに、商品等の形状は、二次的には商品の出所を表示する機能をも併有し得るから、商品等の形状が商品等の機能又は美感をより発揮させるため施されたものであることから、直ちに、他の同種商品との自他商品識別力が否定されず、登録出願された立体商標の形状が同種商品において従来にない特異な形状をしており、その形状が他の同種商品と識別可能であるとしても、それだけでは当該商標が記述的商標であることは否定されないのであって、指定商品に係る商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である以上は、記述的商標として登録を受けることができない。
 本願商標は、全体形状が、縦長の直方体の上部に首状部を、最上部に口部を設けた液体を収容する容器の形状であり、その4側面には、上面の肩部から下方にかけて表面に亀甲型を浮き彫り状に施し、4側面に表された亀甲型の各中央部分は、肩部から下方にかけては亀甲部をなくし、上部と下部を各々上下に山形形状にした縦長の6角形に切り欠き、その切り欠かれた部分の中央部分に、正面に当たる部分は縦長の楕円形を表した表面模様を、背面に当たる部分は縦長のひし形を表した表面模様を施してなるものである。
 平成13年11月20日講談社発行の「世界の名酒事典2002年版」、新聞記事データベース情報「G-Search」の平成6年5月11日付け朝日新聞東京朝刊13頁及び同平成14年11月25日付け朝日新聞大阪地方版26頁によれば、ウイスキーの包装(収納容器)である瓶として、全体形状が、縦長の直方体の上部に首状部を、最上部に口部を設けた形状のものは多数存在し、また、包装容器の表面に浮き彫り状の模様を施したものも多数存在することが認められるところ、亀甲模様自体は、ありふれた模様であるから、本願商標を構成するウイスキー瓶の特徴は、ウイスキー瓶としての機能をより効果的に発揮させたり、美感をより優れたものにするなどの目的で同種商品が一般的に採用し得る範囲内のものであって、ウイスキー瓶として予測し難いような特異な形状や特別な印象を与える装飾的形状であるということはできない。
 したがって、本願商標は、その指定商品であるウイスキーに使用された場合、指定商品の取引者、需要者は、ウイスキー瓶の形状そのものと認識するにとどまるというべきであるから、本願商標は、指定商品の包装の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として、記述的商標に当たる。
 原告は、本件製品に本願商標に係る形状を採用した理由は、当初より自他識別力を発揮することを目的としたためで、審決が認定するように商品の機能(持ちやすさ)や美感(見た目の美しさ)を効果的に際立たせるためではないと主張する。
 しかし、審決の上記説示は、原告が本願商標を採用した理由について述べたものではなく、商品の機能(持ちやすさ)や美感(見た目の美しさ)を効果的に際立たせるための範囲内のものとして、上記のとおりウイスキー瓶として予測し難いような特異な形状や特別な印象を与える装飾的形状であるということはできないことについて述べたものであることが、その記載から明らかであるところ、原告が本願商標を採用した理由は、本願商標が記述的商標に該当するとの上記判断を何ら左右するものではないから、原告の上記主張は当を得ない。
 また、原告は、本件製品の「角瓶」との名称は、需要者の間で自然発生的に用いられるようになったもので、同名称は、本願商標の形状である「角型の瓶」あるいは「角張った瓶」に由来するものであることを理由に、本願商標に係る形状は自他商品識別力を有すると主張する。
 しかし、本件製品の「角瓶」との名称が需要者の間で自然発生的に用いられるようになったものであり、同名称が本願商標の形状に由来するものであるとしても、このことから、「角瓶」との名称が、需要者の間に周知になり、自他商品識別機能を果たすようになったとしても、本願商標の形状自体が、直ちに自他商品識別機能を有するということはできず、判断を左右しない。
 したがって、審決が、本願商標が商標法3条1項3号に該当する自他商品の識別力のない普通名称であると判断したことに誤りはない。
2.使用による識別力の取得の可否について、判決は次のように認定した。
(1) 出願に係る商標が、指定商品に係る商品等の形状を表示するものとして商標法3条1項3号の記述的商標に該当する場合に、それが同条2項に該当し、登録が認められるかどうかは、使用に係る商標及び商品等、使用開始時期及び使用期間、使用地域、当該商品等の販売数量等並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して、出願商標が使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められるかどうかによって決すべきものであり、その場合に、使用に係る商標及び商品は、原則として出願に係る商標及び指定商品に係る商品等と同一であることを要する。
a) 本件製品は、原告が昭和12年に販売を開始した商品であり、販売当初は「角瓶」の表示を用いてはいなかったが、容器として角型の瓶を使用していたことから、次第に需要者の間で本件製品を「角瓶」と呼び慣わされるようになり、原告自身においても、遅くとも昭和28年には、広告宣伝中で本件製品を特定するために「角瓶」の表示を用い、また、一般の刊行物においても、本件製品を指称するのに「角瓶」の表記を用いるようになって現在に至っている。
b) 本件製品のウイスキー瓶には、昭和12年の発売開始より現在まで、主として、立体的形状は、本願商標と同一と認められるものが使用されているが、その表面楕円形部には、口部を除く瓶全高の約2分の1の大きさの楕円形黄色地に金色の縁取りがされたラベル(以下「表面ラベル」という。)が、肩部には、弦を上向きにした丸みを帯びた三日月形黄色地に金色の縁取りがされたラベル(以下「肩部ラベル」という。)が、裏面ひし形部には、ひし形黄色地のラベル(以下「裏面ラベル」という。)が、それぞれ貼付されている(以下、「使用に係る本件ウイスキー瓶」という。)。表面ラベルは、発売当初においては、ラベル上に上から順に、「向かい獅子マーク」、その下に「SPECIAL」「VERY RARE OLD」「SUNTORY」「Liqueur Whisky」「KOTOBUKIYA LTD」と表示されていたが、その後、遅くとも昭和34年には、「VERY RARE OLD」「SPECIAL」「向かい獅子マーク」「SUNTORY」「Liqueur Whisky」「KOTOBUKIYA LTD」と表示されるようになり、遅くとも昭和47年ころには、「GENUINE QUALITY」「SPECIAL」「向かい獅子マーク」「SUNTORY WHISKY」「SUNTORY LTD」と表示されるようになり、平成元年ころからは、「SPECIAL QUALITY」「Est.1899」、原告の社章である「響マーク」「SUNTORY WHISKY」「SUNTORY LTD」と表示されるようになり、現在に至っている。肩ラベルは、現在のものには、上から「ウイスキー」、綴りの判別し難い筆記体の欧文字等が表示され、裏面ラベルは、現在のものには、バーコード等の表示がされているが、両ラベルの詳細な構成は証拠上判別することができず、その変遷の経緯等も証拠上明らかでない。
c) 本件製品のウイスキー瓶には、本願商標と同一と認められる立体的形状のもののほか、本願商標とは明らかに異なる立体的形状のものも存在する。
d) 本件製品の販売数量(ただし、「白角」「味わい角瓶」等の姉妹品を含む。)は、昭和12年から平成9年までの61年間の合計が6000万ケース(1ケースは12本)を超え、平成元年から平成3年までは毎年200万ケース以上、平成4年から平成9年までは毎年300万ケース以上であり、また、本件製品は全国において販売されている。そして、原告は、本件製品の販売開始以降、新聞、雑誌、テレビ、交通広告等、多くの媒体において、継続して広告活動を行ってきているところ、本件製品の広告の多くには、瓶の形状が表示されている。
(2) そこで、本願商標と使用に係る本件ウイスキー瓶を対比すると、両者の立体的形状は、同一と認められる範囲内のものである。しかし、本願商標にあっては、立体的形状のみからなるのに対し、使用に係る本件ウイスキー瓶には、透明なガラス瓶の表面楕円形部に表面ラベルが、肩部に肩部ラベルが、裏面ひし形部に裏面ラベルが付され、これらはいずれも黄色地の目立つものであり、特に表面ラベルには、上から順に、ラベル全高の約5分の1、全幅の2分の1の大きさの金色の「向かい獅子マーク」(発売当初から平成元年ころまで)又は「響マーク」(平成元年ころから現在まで)、ほぼラベル全幅の装飾された大きく太めの書体で、冒頭の「S」「W」を赤色に、他を黒色又は青色にした「SUNTORY」(発売当初から昭和47年ころまで)又は「SUNTORY WHISKY」(昭和47年ころから現在まで)の欧文字、黒色ないし濃紺色の活字体で「KOTOBUKIYA LTD」(発売当初から昭和47年ころまで)又は「SUNTORY LTD」(昭和47年ころから現在まで)の欧文字が表示されている。
 また、表面ラベルの上記平面標章部分は、上記のとおり変遷が認められるものの、表面ラベルの形、大きさ及び楕円形黄色地に金色の縁取りがされている点は同一であると認められ、さらに、「向かい獅子マーク」又は「響マーク」、「SUNTORY」又は「SUNTORY WHISKY」の欧文字及び「KOTOBUKIYA LTD」又は「SUNTORY LTD」の欧文字は、全体の配置、色彩、デザイン等はほぼ同一の印象を与えるものと認められる。そして、ウイスキー瓶として、全体形状が、縦長の直方体の上部に首上部を、最上部に口部を設けた形状であるものは多数存在し、また、包装容器の表面に浮き彫り状の模様を施したものも多数存在することが認められる。
 亀甲模様自体は、ありふれた模様であること、本願商標を構成するウイスキー瓶の特徴は、ウイスキー瓶としての機能をより効果的に発揮させたり、美感をより優れたものにするなどの目的で同種商品が一般的に採用し得る範囲内のものであって、ウイスキー瓶として予測し難いような特異な形状や特別な印象を与える装飾的形状であるということはできないから、使用に係る本件ウイスキー瓶の立体的形状それ自体は、独立して、自他商品識別力を有するものではないばかりか、表面ラベルの平面標章部分を含む全体的な構成中において、立体的形状の識別力は相対的に小さい。
 これに対し、表面ラベルは、透明なガラス瓶の表面に口部を除く瓶全高の約2分の1の大きさの楕円形黄色地に金色の縁取りがされたものであり、そこには、ラベル全高の約5分の1、全幅の2分の1の大きさの金色の「向かい獅子マーク」又は原告の社章である「響マーク」及び原告の会社名を表すものと認められる「SUNTORY」の欧文字がラベル全幅の装飾された大きく太めの書体で、冒頭の「S」を赤色に、他を黒色又は青色で表示され、ウイスキーの欧文字の冒頭の「W」も赤色で表示されているから、このような平面標章部分は、上記立体的形状に比べて、看者の注意をひく程度が著しく強く、自他商品識別力が強い部分である。
 したがって、本願商標と使用に係る本件ウイスキー瓶とは、その立体的形状は同一と認められる範囲内のものではあっても、両者は、立体的形状よりも看者の注意をひく程度が著しく強く、自他商品識別力が強い平面標章部分の有無において異なっているから、全体的な構成を比較対照すると、同一性を有しない。
 原告は、使用に係る本件ウイスキー瓶は、その亀甲模様が施された角張った瓶形という瓶の形状、立体的形状部分こそが、昭和12年以来65年もの長きにわたって需要者に強い印象、記憶を与え続けてきた最大の識別標識であるというべきであり、需要者は、原告製品を含めた他のウイスキー製品から、瓶の形状により識別しているのであって、ラベル上の「SUNTORY WHISKY」の文字や「響マーク」により識別しているものではないから、平面標章部分よりも立体的形状部分に施された装飾等がその需要者に強い印象、記憶を与えるものというべきであると主張するが、上記認定及び判断に照らし、採用することができない。
(3) 原告は、本件製品の「角瓶」との名称は、需要者の間で自然発生的に用いられるようになったものであり、同名称は、本願商標の形状である「角型の瓶」あるいは「角張った瓶」に由来するものであること、また、調査報告書の調査結果によれば、89%の調査者が本願商標を「ウイスキー」であると回答し、74%が「サントリー」、さらに、65%が「角瓶」「角」(本件製品の略称)及び「白角」(本件製品の姉妹品)のいずれかと回答したというものであって、本願商標は、極めて長年にわたり使用されてきたことによる特別顕著性がある旨主張する。
 しかし、本件製品の「角瓶」との名称が需要者の間で自然発生的に用いられるようになったものであり、同名称が本願商標の形状に由来するものであるとしても、このことから、「角瓶」との名称が、需要者の間に広く認識されるようになり、自他商品識別機能を果たすようになったということはできても、本願商標の形状自体が、直ちに自他商品識別機能を有するということはできないことは、上記のとおりである。また、調査報告書によれば、社会調査研究所が、平成10年7月25日から同月27日までの間、東京都内及び大阪市内において、男性の通行人200人に別紙目録上下段各右側の図とほぼ同一と認められる図を示して連想する、@商品ジャンル(種類)、Aメーカー(製造者)及びBブランド(銘柄)を質問したところ、その回答は、@については、89%がウイスキー、Aについては、74%が「サントリー」、Bについては、29%が「角瓶」、28%が「角」、8%が「白角」であったことが認められる。しかし、調査報告書の対象者は、すべて男性であるところ、本願商標の指定商品の取引者、需要者は男性に限られないから、対象者の選定には適切を欠くものがある。さらに、調査報告書の調査は、上記のとおり瓶の形状を表した図面から連想する商品ジャンル(種類)、メーカー(製造者)及びブランド(銘柄)について質問したものであるから、その回答に当たって、回答者は、同調査の趣旨を推測しながら、正解が何であるかについて熟慮した上で回答したことが推認されるにもかかわらず、対象者の26%が原告を想起しなかった。そして、本願商標の指定商品はウイスキーであり、その需要者には主婦等の一般の消費者が含まれること、酒販店のほかスーパーマーケットの店頭等で大量に販売されることも多く、需要者が短時間のうちに購入商品を決定する場合もまれではないことは当裁判所に顕著であり、需要者がこれを購入するに際して払う注意力もさほど高いものとはいえないことを考慮すれば、上記調査結果は、立体的形状のみからなる本願商標の特別顕著性を認めるに十分ではない。
(4) したがって、本願商標は、その指定商品について使用された結果、自他商品の識別力を獲得し、商標法3条2項の適用を受けることができる商標には当たらないとした審決の判断に誤りはなく、原告の取消事由2の主張も理由がない。

論  説

 出願された立体商標の態様は、正にガラス瓶の形状と模様だけを、表現したものであった。ところが、周知証明のためにアンケートをとったものは、現実に使用されている文字の印刷されたラベルが貼られた瓶の外観態様についてであったから、その不一致の事実が証明力を欠く原因となったのである。
 立体商標について、文字やラベルのない物品の形状自体だけの周知性を立証することの困難と課題が明らかとなったケースであるといえる。

[牛木理一]