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CAMBRIDGE UNIVERSITY POLO CLUB + 図形事件:東京高裁平成12年(行ケ)430号平成14年10月30日判決(13民)〈審決取消・認容〉
〔キーワード〕 
POLO、POLO図形、RALPH LAUREN、出所の誤信・混同、商標法4条1項15号

 
〔事  実〕

 
1 特許庁における手続の経緯
 原告のケンブリッジ大学は、別添決定謄本別掲本件商標のとおりの構成からなり、指定商品を第25類「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」とする商標登録第4209200号商標(平成6年12月19日登録出願、平成10年11月13日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
 被告補助参加人ザ・ポロ/ローレン・カンパニー・リミテッド・パートナーシップ(以下単に「補助参加人」という。)外1名は、平成11年2月22日、本件商標の商標登録につき登録異議の申立てをした。
 被告特許庁は、同登録異議事件を平成11年異議第90296号事件として審理した上、平成12年10月12日、「登録第4209200号商標の商標登録を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年11月2日、原告に送達された。
2 本件決定の理由
 本件決定は、同別掲引用商標A及び同Bのとおりの構成からなる、横長四角形中に記載された「Polo」の文字とともに「by RALPH LAUREN」又は「by Ralph Lauren」の文字及び馬に乗ったポロ競技プレーヤーの図形の各商標(以下「引用各商標」という。)は、ラルフ・ローレンのデザインに係る被服類及び眼鏡製品に使用する商標として、取引者、需要者間に広く認識されるに至っていたものと認められるところ、本件商標をその指定商品について使用した場合には、これに接する取引者、需要者は、本件商標中の図形部分が馬に乗ったポロ競技プレーヤーであることに着目し、さらに、その「POLO」の文字部分に着目して、引用各商標を含むラルフ・ローレンのデザインに係る馬に乗ったポロ競技プレーヤーの図形及び「POLO」、「Polo」、「ポロ」等の文字が需要者の間に広く知られている商標(以下「ラルフ・ローレンに係るポロ商標」という。)を連想、想起し、その商品がラルフ・ローレン又は同人と組織的、経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように出所について混同を生ずるおそれがあるから、本件商標は、商標法4条1項15号に違反して登録されたものであり、同法43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものとした。
3 これに対し、原告は、特許庁のこの異議申立の決定を取り消す訴訟を東京高裁に提起したのである。

 
〔判   断〕

 
1 ラルフ・ローレンに係るポロ商標の周知・著名性について
(1) 「POLO」、「Polo」又は「ポロ」の語について、百科事典及び辞典類の記載を見る と、昭和37年6月1日平凡社初版第2刷発行の「国民百科事典6」(甲8)には、「4人(室内では3人)ずつのチームがそれぞれ馬上から、先端がT字形になっているマレットというスチックで、木または竹製の直径3.25インチ(約8.25cm)のボールをパスやドリブルで運びながら相手方ゴールに入れることを競う競技。・・・近代スポーツとしては1869年英国の陸軍将校がインドから本国に伝えたのがはじまりである。・・・日本では最近になってごく一部で行われるようになったにすぎない」との記載があり、昭和47年4月25日平凡社初版発行の「世界大百科事典 9」(甲89)及び平成7年7月10日小学館第2版第2刷発行の「日本大百科全書 21」(甲90)にも同様の記載がある。
? また、昭和61年10月6日岩波書店第3版第4刷発行の「広辞苑」(甲9)には、「ペルシア起源の騎乗球技。現今のものは、4人ずつ2組に分れ、1個の木のボールを馬上から長柄の槌で相手方のゴールへ打ち込み合って勝負を争う」との記載があり、昭和49年1月1日自由国民社発行の「現代用語の基礎知識」(甲10)、昭和61年11月集英社発行の「情報・知識・imidasイミダス1987」(甲11)及び平成7年1月1日朝日新聞社発行の「朝日現代用語知恵蔵1995」(甲12)にも、「ポロ」の見出し語の下に、ポロ競技を説明するほぼ同旨の記載がある。
(2) 他方、平成3年研究社第3刷発行の「英和商品名辞典」(乙23)には、「POLO ポロ」の見出し語の下に「⇒Polo by Ralph Lauren」との記載があり、「Polo by Ralph Lauren ポロバイラルフローレン」の見出し語の下に「米国のデザイナーRalph Lauren(1937−)がデザインした紳士物衣料品。通例Poloと略されて呼ばれる。・・・Poloのデザインも・・・Ivy Leagueルックを基にした、英国調のクラシックな雰囲気の服が多い。同氏は、・・・1976年に紳士服でCoty賞を受賞、翌年には婦人服で受賞。・・・R. Laurenは1974年の映画The Great Gatsby(「華麗なるギャツビー」)の衣装を担当して、人気が急上昇した」との記載が、平成11年1月10日小学館第2版第7刷発行の「ランダムハウス英和大辞典」(乙24)には、「polo」の見出し語の下に「3《商標》ポロ:米国のRalph Laurenデザインによるバッグなどの革製品。4ポロ⇒POLO BY Ralph Lauren」との記載があり、「Polo by Ralph Lauren」の見出し語の下に「《商標》ポロバイラルフローレン:米国のR. Laurenデザインのメンズウエア」との記載がある。
(3) また、昭和53年7月20日講談社発行の「男の一流品大図鑑」(乙6)には、ラルフ・ローレンに係るポロ商標を掲げた「ラルフローレン」ブランドの紹介として、「1974年の映画『華麗なるギャツビー』・・・で主演したロバート・レッドフォードの衣装デザインを担当したのが、ポロ社の創業者であり、アメリカのファッションデザイン界の旗手ラルフ・ローレンである」、「30歳になるかならぬかで一流デザイナーの仲間いりをはたし、わずか10年で、ポロ・ブランドを、しかもファッションデザイン後進国アメリカのブランドを、世界に通用させた」との記載が、昭和58年9月28日サンケイマーケティング発行の「舶来ブランド事典『’84ザ・ブランド』」(乙7)には、ラルフ・ローレンに係るポロ商標を掲げた「ポロ」ブランドの紹介として、「今や名実ともにニューヨークのトップデザイナーの代表格として君臨するラルフ・ローレンの商標。ニュートラディショナル・デザイナーの第一人者として高い評価を受け、世界中にファンが多い」、「マークの由来 ヨーロッパ上流階級のスポーツのポロ競技をデザイン化して使っている。彼のファッションイメージとぴったり一致するため彼のトレードマークとして使用しているもの」との記載が、昭和55年4月15日洋品界発行の「月刊『アパレルファッション店』別冊1980年版『海外ファッション・ブランド総覧』」(乙8)には、「ポロ・バイ・ラルフローレン」について、「若々しさと格調が微妙な調和を見せるメンズ・ウェア『ポロ』ブランドの創立者。栄誉あるファッション賞“コティ賞”をはじめ彼の得た賞は数知れず、その実力をレディス・ウェアにも発揮。新しい伝統をテーマに一貫しておとなの感覚が目立つ。アメリカ・ファッション界の颯爽とした担い手」との紹介のほか、「〈販路〉西武百貨店、全国展開〈導入企業〉西武百貨店〈発売開始〉51年」等の記載があることが認められる。
? そして、これと同趣旨の記載は、昭和54年から昭和60年までの間に発行された雑誌である、@昭和54年5月講談社発行の「世界の一流品大図鑑’79年版」(乙12)、A昭和55年11月15日講談社第2刷発行の「世界の一流品大図鑑’80年版」(乙15)、B同年12月婦人画報社発行の「MENS'CLUB1980年12月号」(乙16)、C昭和59年9月25日ボイス情報発行の「ライセンス・ビジネスの多角的戦略’85」(乙9)及びD昭和60年5月25日講談社発行の「流行ブランド図鑑」(乙18)等にも認められるところである。
(4) さらに、ラルフ・ローレンに係るポロ商標を模倣したいわゆる偽物ブランド商品に関して、平成4年9月23日付け読売新聞東京版朝刊(乙19)には、「今年は五月に、アメリカの人気ブランド『ポロ』(本社・ニューヨーク)のロゴ『ポロ・バイ・ラルフ・ローレン』に酷似したマークのTシャツを販売していた大阪の業者が、不正競争防止法違反容疑で逮捕・・・」との記事が、平成5年10月13日付け読売新聞大阪版朝刊(乙20)には、「ポロ球技のマークで知られる米国のファッションブランド『POLO(ポロ)』の製品に見せかけた眼鏡枠を販売・・・」との記事が、平成11年6月8日付け朝日新聞夕刊(乙21)には、「米国ブランド『ポロ』などのマークが入った偽物セーターやポロシャツ約36000枚を販売目的で所持し、商標権を侵害した」との記事が掲載されていることが認められる。
(5) なお、昭和61年10月6日岩波書店第3版第4刷発行の「広辞苑」(甲77)及び平成5年4月10日婦人画報社第2版発行の「男の服飾事典」(乙28)によれば、ポロ競技に際してプレイヤーが着用する襟付き半袖シャツは、古くから「polo shirt」、「ポロシャツ」と称されており、現在では「2つまたは3つボタンのあきで、頭からかぶって着る襟付き半袖シャツ」を表す普通名称になっていることが認められるが、ポロシャツが「POLO」、「Polo」又は「ポロ」と略称されていることを認めるに足りる的確な証拠はない。
(6) 以上の認定事実を総合すれば、「POLO」、「Polo」又は「ポロ」の語は、元来は乗馬した競技者により行われるスポーツの名称であり、我が国においては、ほとんど競技としては行われていないが、馬に乗って競技するスポーツ競技であること自体は広く知られているものであることが認められる。他方、ラルフ・ローレンに係るポロ商標は、米国のファッションデザイナーとして世界的に著名なラルフ・ローレンのデザインに係るファッション関連商品に付されるものとして、我が国においては、昭和51年ころから使用されるようになったこと、そのブランドは、我が国のファッション関連商品の取引者、需要者の間で、「Polo by RALPH LAUREN(ポロ・バイ・ラルフローレン)」、あるいは単に「Polo(ポロ)」の略称で、ポロプレーヤー図形とともに、広く知られるようになり、遅くとも昭和50年代後半までには、強い自他商品識別力及び顧客吸引力を発揮する周知・著名な商標となり、その周知・著名性は、本件商標の登録出願時(平成6年12月19日)を経て登録査定時(平成10年6月5日、甲2)に至るまで継続していたことも認められる。
(7) 原告は、ラルフ・ローレンに係るポロ商標の周知・著名性を否定する根拠として、「POLO」の文字からなる商標が、様々な分野で商標登録がされ、現実に使用されていたこと、「POLO」、「Polo」又は「ポロ」の語は、衣料品の分野においてはポロシャツを示す普通名称として、また、一般的にもポロ競技を示す用語として用いられていることを主張する。ポロシャツが「POLO」、「Polo」又は「ポロ」と略称されているとはいえないことは上記のとおりであるが、「POLO」、「Polo」又は「ポロ」の語が、スポーツ競技の一つであるポロ競技を示す普通名詞であって、ラルフ・ローレンに係るポロ商標中に用いられている「Polo」の文字も、ポロ競技に由来するものであることは、その文字部分とともに使用されているポロプレーヤー図形や前掲乙7の記載から明らかであるから、このような本来的に普通名詞に由来する「Polo」の文字の性格からして、その有する商品の出所表示機能がある程度減殺されていることは否めない。しかし、このことを考慮に入れても、上記認定事実からすれば、なおラルフ・ローレンに係るポロ商標が単に「Polo(ポロ)」とも略称されるものとして、我が国のファッション関連商品の取引者、需要者の間で広く認識されていたことを認定することができるというべきであるし、さらに、ラルフ・ローレンに係るポロ商標中に用いられているポロプレーヤー図形が、それ自体としても、ラルフ・ローレンに係る出所識別標識として上記の取引者、需要者の間で広く認識されていたことも明らかである。
? また、原告は、ポロ・ビーシーエス株式会社が被服等を指定商品とする「POLO」の登録商標を有し、その商品が販売されていることを主張するが、ポロ・ビーシーエス株式会社の「POLO」商標については、甲65〜68等によっても、ラルフ・ローレンに係るポロ商標の周知・著名性の成立及び継続を阻害するものであることを認めるに足りない。
2 商品の出所混同のおそれについて
(1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに、当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれ、上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知・著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものである(最高裁平成13年7月6日第二小法廷判決・裁判集民事202号599頁、同平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。そこで、この見地から、本件商標をその指定商品に使用した場合に、これに接する取引者、需要者において、その商品がラルフ・ローレン又は同人と上記のような一定の関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信し、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるか否かについて判断する。
(2) 本件商標は、別添決定謄本別掲本件商標のとおりの構成からなり、横向きの馬にまたがりマレットを振り上げ疾走するポロ競技中の競技者の黒塗りの図形を上段に表し、その下に「C.U.P.C.」、「CAMBRIDGE UNIVERSITY」及び「POLO CLUB」の欧文字を3段に表してなるものであって、ポロプレーヤー図形部分に、「C.U.P.C.」の語と、「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の語、引用各商標の「Polo」の欧文字を全部大文字で表した「POLO」の語及び「CLUB」の語とを組み合せてなる結合商標である。本件商標の文字部分は、やや小振りの太字体をもって「C.U.P.C.」の部分が4字、いずれも通常の印刷書体による同大の欧文字をもって「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の部分が19字、「POLO CLUB」の部分が8字、合計31字からなり、これより順に「シーユーピーシー」、「ケンブリッジユニバーシティ」、「ポロクラブ」の称呼を生じ、「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の文字部分からは、「ケンブリッジ大学」の観念を生じ、「POLO CLUB」の文字部分からは「ポロ競技クラブ」との観念を生ずることが認められる。
? 他方、引用各商標は、別添決定謄本別掲引用商標A及び同Bのとおりの構成からなり、いずれも、横長四角形中に記載された「Polo」の欧文字とともに「by RALPH LAUREN」(引用商標A)又は「by Ralph Lauren」(同B)の欧文字からなる部分及び前向きの馬にまたがりマレットを振り上げ疾走するポロ競技中の競技者の図形部分からなるものである。
(3) ところで、ケンブリッジ大学が、オックスフォード大学と並び英国の由緒ある著名な大学であることは当裁判所に顕著であるところ、同大学について、百科事典類の記載を見ると、平成7年7月10日小学館第2版第2刷発行の「日本大百科全書8」(甲113)には、「Cambridge University イギリスの、伝統と由緒ある大学。起源は12世紀にさかのぼることができるといわれる・・・1318年教皇ヨハネス22世が、全キリスト教国に通用する学位の認定をこの大学に承認したことにより、名実ともに一流の大学に発展した。ルネサンス期には新学問の一中心として栄えたが、これは人文主義者エラスムスの来講に負うところが大きい。・・・17世紀後半にはニュートンの指導のもとでとくに数学の研究が進み、大学の名声はひときわ高まった。・・・〔現状〕現在のケンブリッジ大学の規模や体制は、とくに過去1世紀の間の急速な拡張と発展によって形成されたものである。1982年現在、学生数は12680人・・・で、100年間に約六倍も増加した。約1000人の教授陣が、20の学部facultyと50以上に及ぶ学科departmentに細分化された学問分野において、教育・研究を担当している。オックスフォード大学と同様、学寮制をとり、現在30の学寮(collegeまたはhallとよばれる)が存在している。・・・1960年代から新しい大学が次々と設置されつつあるなかで、ケンブリッジ大学はオックスフォード大学と並んで、依然としてイギリスのもっとも伝統的な大学として、その威信を誇っている」との記載があり、昭和52年5月15日平凡社初版第1刷発行の「国民百科事典−5」(甲112)、昭和47年4月25日同社初版発行の「世界大百科事典 28」(甲114)、昭和37年6月1日同社初版第2刷発行の「国民百科事典2」(甲115)にもほぼ同様の記載があり、また、平成12年11月14日集英社第1刷発行の「まんがこども大百科」(甲121)には、「ケンブリッジ」の見出し語の下に「イギリス東部、ロンドンの北約80キロメートルにある大学都市。ケンブリッジ大学がある」との記載がある。
? 次に、辞典の記載を見ると、平成14年1月10日三省堂第10版発行「初級クラウン英和辞典」(甲122)には、「Cambridge」の見出し語の下に「・・・Cambridge University ケンブリッジ大学→英国でオックスフォード大学と並んで古い大学」との記載が、研究社昭和59年第5版第8刷発行の「新英和大辞典」(甲120)には、「Cambridge University」の見出し語の下に「・・・ケンブリッジ大学・・・1281年創立;現在29のcollegeから成る」との記載がある。
? また、平成11年6月2日付け日本繊維新聞(甲73〔本件商標に関する紹介パンフレット〕中に転載)には、「英国ウエア紹介 ブリティッシュスタイルの正統求めて・・・大学生活をエンジョイ ケンブリッジの気風・・・大学自体はオックスフォードと並んで古く・・・オックスフォードは学問そのものを目的にする傾向が強いが、ケンブリッジの方はむしろ理論を実生活に応用する面に力点を置く。オックスフォードの出身者はしたがって学者・教育者、医者、官僚、裁判官などが多い。一方ケンブリッジの卒業生は政治家、実業家、弁護士、会計士などの道へ進むケースが主流・・・英国全体では両校OBは“オックスブリッジ”と呼ばれ、最高教育を受けたものとしてそれなりの地歩を占めている」との記事が掲載されていることが認められる。
 以上によれば、ケンブリッジ大学は、我が国においても、古くから、英国の伝統と由緒ある大学として著名であり、その著名性は本件商標の登録出願時(平成6年12月19日)及び登録査定時(平成10年6月5日)においても同様であったことが明らかである。
(4) そうすると、本件商標の構成中、「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の文字部分は、上記認定のとおり、我が国においても著名な、英国の伝統と由緒ある大学の名称であり、本件商標の中央にバランス良く配され、その文字構成中に占める割合が最も大きいところから、他の部分に比べて、看者の注意をひく程度が著しく強く、商品の出所表示機能が強い部分であると認められる。
この点について、被告及び補助参加人は、「CAMBRIDGE」の語は、大学教養程度の英語であって、それほど親しまれたものとはいえず、かつ、その語頭である「CAM」の文字を語頭に持つ英語は、「ケン(ken)」ではなく、「キャン(kam)」と読まれる方が一般的であるから、本件商標の需要者が「CAMBRIDGE」の文字を直ちに「ケンブリッジ」と読み、本件商標全体から「ケンブリッジ大学ポロクラブ」を即座に認識することは多くないとも主張する。確かに、平成3年2月10日小学館第2版第21刷発行の「プログレッシブ英和中辞典」(乙33)には、「Cambridge」の見出し語には「*」印が付され、これは「大学教養程度」の単語を意味するものであるとされている。しかし、上記認定のとおり、平成14年1月10日三省堂第10版発行の「初級クラウン英和辞典」(甲122)には、「Cambridge」の見出し語の下に「Cambridge University ケンブリッジ大学→英国でオックスフォード大学と並んで古い大学」との記載があるところ、その「はしがき」からは、同辞典が中学生用の英和辞典であることが認められる。加えて、「CAMBRIDGE」に続く「UNIVERSITY」の語が「大学」を意味する親しみやすい平易な英語であることは当裁判所に顕著であるところ、上記のとおり、ケンブリッジ大学は我が国においても著名な大学であり、「CAMBRIDGE」を「ケンブリッジ」と読むことは特異な読み方ではないことをも考慮すれば、「CAMBRIDGE」と「UNIVERSITY」の文字相互の結び付きは、それを分離して観察することが取引上甚だ不自然と思われるほどに不可分的に結合しているというべきであって、本件商標の指定商品の一般的な取引者、需要者において、「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の文字部分から、「ケンブリッジ大学」の観念を想起し、「ケンブリッジユニバーシティ」の称呼を生ずるものと認めて妨げはない。
(5) ラルフ・ローレンに係るポロ商標は、単に「Polo(ポロ)」とも略称される周知・著名性を有していることは上記説示のとおりであるところ、本件商標の構成中に、ラルフ・ローレンに係るポロ商標の一つである引用各商標の「Polo」の欧文字を全部大文字で表した「POLO」の文字部分を含むことは上記のとおりであり、簡易迅速性を重んずる取引の実際においては、比較的長い構成文字からなる商標の場合に、その一部分だけによって簡略に表記ないし称呼されることがあること、本件商標の指定商品は、ラルフ・ローレンに係るポロ商標が付された商品と共通する日常的に消費される性質のファッション関連商品であって、その需要者がこれを購入するに際して払う注意力もさほど高いものではないことは当裁判所に顕著である。しかし、「POLO」は、本来的に普通名詞に由来するもので、商品の出所表示機能がある程度減殺されていることは上記のとおりである上、本件商標の「POLO」の文字部分は、引用各商標の「Polo」の文字部分のように明りょうな黒枠で囲まれた横長四角形中にデザイン化された太字体で、かつ、当該欧文字のみが際立った形で記載されたものではなく、いずれも通常の印刷書体による同大の欧文字をもって構成された「CAMBRIDGE UNIVERSITY POLO CLUB」の全文字27字中の4文字にすぎず、また、全体の文字の配置も引用各商標のものとは明らかに異なるから、強い自他商品識別力を有する「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の文字部分との対比において、「POLO」の文字部分の自他商品識別力は商標全体の中に埋没し、それのみが看者の注意をひいて略称としての「ポロ」の称呼、観念を生ずるものとは認め難い。また、ラルフ・ローレンに係るポロ商標中のポロプレーヤー図形が、それ自体として、ラルフ・ローレンに係る出所識別標識としての周知・著名性を有していることは上記説示のとおりであるが、本件商標のポロプレーヤー図形は、馬及びポロ競技者を横から見た姿を表したもので、マレットの頭部を左上の方向にかざし、全体を黒く塗りつぶしたシルエットであるのに対し、ラルフ・ローレンに係るポロ商標の一つである引用各商標のポロプレーヤー図形は、馬及びポロ競技者をほぼ正面から見た姿を表したもので、マレットの頭部は右上の方向にかざし、図形全体に明暗の陰影をつけたやや縦長のものであって、外観上、両ポロプレーヤー図形は異なった印象を与えるものである。もっとも、馬に乗ったポロ競技者を表している点で観念において類似するところはあるが、それとても「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の文字部分が有する上記の強い自他商品識別力とは比べるべくもない。したがって、本件商標は、その指定商品を含むファッション関連商品の取引者、需要者がこれに接した場合に、「CAMBRIDGE UNIVERSITY」が称呼及び観念において一体のものとして「ケンブリッジ大学」を意味するものと認識するのが通常であると認められる。
(6) 被告及び補助参加人は、ケンブリッジ大学が我が国においてよく知られた大学であるとしても、「CAMBRIDGE UNIVERSITY POLO CLUB」の文字が意味する「ケンブリッジ大学のポロ競技クラブ」は、我が国において知られているものとはいえず、また、競技としてのポロは、我が国においてほとんどなじみのないものであることからすれば、本件商標に接する取引者、需要者は、下段に表された「POLO」の文字部分から、「POLO」、「Polo」又は「ポロ」と認識されているラルフ・ローレンに係るポロ商標を、また、ポロプレーヤー図形部分の特徴(棒状のものを振り上げている騎乗の人物)からも、同商標を連想、想起し、ラルフ・ローレンと何らかの関連がある者の業務に係る商品であると認識し、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあると主張する。しかしながら、ケンブリッジ大学のスポーツクラブは50以上に上り、その大多数は100年以上の歴史を有し、「CAMBRIDGE UNIVERSITY POLO CLUB」(略称C.U.P.C.)も1873年の創設に係り、そのころ英国で始まった近代ポロ競技の創設メンバーの一員であって、現在、英王室のチャールズ皇太子がその総裁を務めている(甲73、117、123)ところ、このような古い歴史と実態を有する「ケンブリッジ大学のポロ競技クラブ」の存在が我が国において知られているものとはいえないとしても、上記認定のとおり、「POLO」、「Polo」又は「ポロ」の語が馬に乗って競技するスポーツ競技の名称であること自体は我が国においても広く知られており、ケンブリッジ大学が著名な大学である以上、同大学に関係したポロ競技のクラブであることは容易に連想、想起し得るところというべきであり、「CAMBRIDGE UNIVERSITY」が商品の出所表示機能の強い部分であるとの上記認定を何ら左右するものではない。また、本件商標とラルフ・ローレンに係るポロ商標中に用いられているポロプレーヤー図形及び同部分をその構成中に有する引用各商標とは外観において類似しないものであること、本件商標は「ポロ」のみの称呼を生ずるものとは認め難いことは、上記のとおりである。そうすると、上記認定のラルフ・ローレンに係るポロ商標の周知・著名性を考慮しても、本件商標は、その指定商品を含むファッション関連商品の取引者、需要者がこれに接した場合、ラルフ・ローレンよりもはるかに古い歴史を有する、英国の伝統と由緒ある大学として著名な「ケンブリッジ大学」を想起するから、そのような大学が、米国のファッションデザイナーにすぎないラルフ・ローレンとの間に、緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にあるものと認識するとは到底認め難いところである。したがって、被告及び補助参加人の上記主張は採用することができない。
(7) 以上検討したところによれば、本件商標の構成中「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の文字部分が看者の注意を強くひき、「POLO」の文字部分及びポロプレーヤー図形部分は、商標全体の中に埋没して看者の注意をひくことはないから、本件商標は、称呼、観念及び外観のいずれにおいてもラルフ・ローレンに係るポロ商標とは類似しないというべきである。このような両商標の類似性の程度、本件商標の構成中の上記文字部分が意味するケンブリッジ大学の顕著な著名性に加え、ラルフ・ローレンに係るポロ商標の周知・著名性の程度、本件商標の指定商品とラルフ・ローレンの業務に係る商品との間の性質、用途又は目的における関連性の程度、商品の取引者、需要者の共通性その他取引の実情などを総合考慮すると、本件商標をその指定商品に使用した場合に、これに接するファッション関連商品の取引者、需要者において、ラルフ・ローレンに係るポロ商標を連想、想起し、その商品がラルフ・ローレン又は同人と緊密な営業上の関係若しくは同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信し、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものということはできず(前掲最高裁平成13年7月6日判決における裁判官福田博の補足意見参照)、これと異なる本件決定の判断は誤りといわざるを得ない。
3 以上のとおり、原告主張の取消事由は理由があり、この誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件決定は取消しを免れない。
? ?よって、原告の請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。
〔研  究〕
1.“ポロ/POLO”+図形をめぐる商標は、第25類「被服」等の商品については、登録商標“POLO by RALPH LAUREN/図形”で代表されるザ・ポロ/ローレン・カンパニー・リミテッド・パートナーシップが専有権者であることが知られていることは、一見これに類似するような登録商標に対しては無効審決が、出願商標に対しては拒絶審決が、そしてこれらの審決取消訴訟においては請求棄却の判決がこれまでにいくつかなされて来た。
 筆者が、HPのG−11(2001年8月5日発行)で紹介した「パームスプリングポロクラブ」事件では、この名称の出願商標に対して、特許庁は商標法4条1項15号に該当するとの理由で請求不成立の審決をしたのに対し、東京高裁は前記15号には該当しないとして審決を取り消したが、最高裁は原審判決を破棄して請求棄却の判決をしたという曰く付きの商標である。
2.今回紹介した“POLO”の図形には“C.U.P.C”の略称が表示されているとともに“CAMBRIDGE UNIVERSITY POLO CLUB”という明らかな出所が付記されていたから、看者が見ればこの出願商標は英国のケンブリッジ大学所属のポロクラブであることが明確である。この出願人は、「ザ・ユニバーシティ・オブ・ケンブリッジ」であり、大学そのものとなっている。
 このような出所を明らかにした商標にまで、ラルフ・ローレンの“POLO”+図形の商標権の効力が及ぶと考えることは非常識であろう。商標法4条1項15号とは、10号〜14号に規定する不登録商標には該当しないが、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」については登録しないとする規定である。先に「パームスプリングポロクラブ」事件で、東京高裁は正に15号の規定を適用せず、出所の混同を生ずるおそれはない商標と判断したのであった。これに対し最高裁は、引用商標の周知著名性の高いことと両者の商品が重複しているから、引用商標のもつ顧客吸引力へのフリーライドを生じかねないとして、引用商標自体の独創性の程度の低さは判断を左右しないといして原審判決を破棄した。
 しかし、この中でも外交官出身の福田博判事だけは少数意見として反対し、次のように述べている。
「スポーツ競技の1つであるポロ競技は、主として英国及び旧英領の諸地域等において、今なお行われているものである。また、衣料品の種類を示すポロシャツの語は、本来ポロ競技の選手が着用したことにちなみ、米国の作家スコット・フィッツジェラルドのベストセラー小説「This Side of Paradise」(1920年出版)において初めて使用されたとされており、ポロシャツが若い世代を中心に流行することになったことも知られている(寺澤芳雄編「英語語源辞典」,松村赳=富田虎男編著「英米史辞典」等参照)。そして、ポロシャツという名称は、米国にとどまらず、我が国を含め、広く各国において、普通名詞として用いられている。
 このように、『ポロ』ないし『POLO』、『Polo』の語は、ラルフ・ローレンの商標として使用されてはいるが、語源的には普通名詞なのである。また、ラルフ・ローレンがこれらの語を商標として使用し始めるのに先立って、ポロシャツの語が、ポロ競技の必ずしも盛んでなかった米国において、衣料品の種類を示す名称として広く使用されていたことも明らかである。これらの事情の下においては、『ポロ』ないし『POLO』、『Polo』の商標は、商標の本質的な機能の1つである商品の出所を表示する機能がある程度減殺されていると見るべきである。
 さらに、商標登録出願された商標の中に『ポロ』ないし『POLO』、『Polo』の字句が含まれている場合であっても、『ポロ』ないし『POLO』、『Polo』の語と結合された語がラルフ・ローレン以外の商品の出所を強く連想させるときや、当該商標の構成中にラルフ・ローレンとの関連性を打ち消す表示が含まれているときなどは、商標法4条1項15号該当性が否定され、商標登録を受けられる余地があるというべきである。」
 今回の高裁判決は、この福田意見を全面的に採用し、審決の誤りを認め、審決取消による請求認容の判決をしたのである。筆者は、先の最高裁判決を批判し、福田意見に賛成していた(G-11参照)。
 しかし、この判決は先の最高裁判決に結果的に反することになるから、被告及び被告補助参加人は最高裁に上告するであろう。最高裁は先の判例を、具体的な事案が異なるとして、高裁判決を肯認し、上告棄却の判決をすることになるであろう。
3.手元にある“2003 GUIDE TO THE LICENSING WORLD”Londonを見ていたら、その表紙裏にBHPC GLOBAL LICENSING, INC(USA)の広告があり、そこに、“BEVERLY HILLS POLO CLUB?+横向きのプレーヤーの図形?”から成る標章がライセンス対象のマークとして紹介されている。米国では商標登録されているようであるから、RALPH LAURENのPOLOマークとは類似しないとされたのであろう。

[牛木理一]