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登録商標「ポロ図形」無効審決取消請求事件:東京高裁平成11(行ケ)254号.平成12年1月27日判決(認容・審決取消)〔13民部〕

〔キーワード〕

職権探知、審判手続の違背

 

〔判示・認定事項〕 

  1. 特許庁は、審判手続において、職権で証拠調べをすることができるが、その場合、必ずその結果を当事者等に通知して意見を申し立てる機会を与えなければならない。
     弁論の全趣旨によれば、特許庁は、本件の審判手続において、引用刊行物のうち乙第2号証ないし第4号証、乙第6号証ないし第11号証について職権により証拠調べをしながら、審判長は、その結果を当事者である原告に通知して意見を申し立てる機会を与えなかったことが認められる。
  2. 審判手続上の瑕疵は、審決の結論に影響を及ぼさないことが明らかであると認めさせる特別の事情がない限り、審決取消事由となるものと解すべきであるところ、審決は、職権証拠調べをすることによって、ラルフ・ローレンのデザインに係る一群の商品に引用使用商標ないし引用商標が用いられていたこと、引用使用商標ないし引用商標が「ポロ」の略称でも呼ばれていたこと等を認定し、これを前提に、本件商標が商標法4条1項15号に該当するとの結論に達したのであり、上記証拠の有無が審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかである以上、前記特別の事情に該当する事実と認めることはできない。

〔事  実〕

 原告(審判被請求人)は、旧第17類の指定商品について商標登録第2718785号商標 ( 本件商標)の商標権者であったが、被告(審判請求人)が請 求した登録無効審判事件において、審判は、被告提出の証拠以外の多くの証拠を職権で調査し、これらも合わせて引用して登録無効の審決をした。
 これに対し、原告は、審決がその結論を導くために引用した証拠のうち、審判官が職権探知した証拠については、原告に職権証拠調べの結果を通知せず、意見を申立てる機会を与えられなかったことは、本件商標の登録が有効か無効かの判断の根幹に係る事実について、当事者である原告に関与させずに一方的に審理を進めて結論を導き出したことは、手続違背の違法があると主張した。
 原告はまた、商標の認定の誤りと混同のおそれの判断の誤りについても主張したが、高裁は、第1の手続違背についてのみ判断し審決を取り消した。

 

〔判  断〕

 

1 取消事由1(審判手続の違法)について
(1) 商標法56条において準用する特許法150条1項は、「審判に関しては、当事者若しくは参加人の申立により又は職権で、証拠調をすることができる。」と、同条5項は、「審判長は、第1項又は第2項の規定により職権で証拠調又は証拠保全をしたときは、その結果を当事者及び参加人に通知し、相当の期間を指定して、意見を申し立てる機会を与えなければならない。」と規定しているから、特許庁は、審判手続において、職権で証拠調べをすることができる。しかし、その場合、必ず、その結果を当事者等に通知して意見を申し立てる機会を与えなければなら ない。
 弁論の全趣旨によれば、特許庁は、本件の審判手続において、引用刊行物のうち乙第2号証ないし第4号証、乙第6号証ないし第11号証について職権により証拠調べをしながら、審判長は、その結果を当事者である原告に通知して意見を申し立てる機会を与えなかったことが認められる。
 審決が、引用商標の周知性のみならず、これを含む引用使用商標の周知性など、他の事実をも認定し、この認定を根拠に、本件商標が商標法4条1項15号(審決は、同法4条1項10号は問題にしていない。)に該当するとの結論を導いたものであることは、審決の理由自体で明らかである。そしてまた、審決が上記認定を行うに当たって、引用刊行物のうち乙第2号証ないし第4号証、乙第6号証ないし第11号証が、証拠として必要不可欠であったことも、審決の理由自体で明らかである。
 そうすると、本件審判手続には瑕疵があり、その瑕疵は、審判の結果である審決の結論に一般的にみて影響を及ぼすものであったものというべきである。このような場合には、審決の結論に影響を及ぼさないことが明らかであると認めさせる特別の事情がない限り、審決取消事由となるものと解すべきである(最高裁判所第1小法廷昭和51年5月6日判決判例時報819号35頁参照)。
(2) そこで、次に、上記特別の事情の有無について検討する。
 まず、審決が、その結論を導くために引用した証拠のうちから、乙第2号証ないし第4号証、乙第6号証ないし第11号証を除いた証拠、すなわち、昭和53年7月20日株式会社講談社発 行の「男の一流品大図鑑」(甲第16号証)、昭和63年10月29日付け日経流通新聞(乙第5号証)、昭和56年5月25日株式 会社講談社発行の「世界の一流品大図鑑'81年版」(乙第 12号証)によれば、「アメリカ合衆国在住のデザイナーであるラルフ・ローレンは1967年に幅広ネクタイをデザインして注目され、翌1968年にポロ・ファッションズ社(以下「ポロ社」という。)を設立、ネクタイ、シャツ、セーター、靴、カバンなどのデザインをはじめ、トータルな展開を図ってきた。1971年には婦人服デザインにも進出し、「コティ賞」を1970年と1973年の2回受賞したのをはじめ、数々の賞を受賞した。1974年に映画「華麗なるギャツビー」の主演俳優ロバート・レッドフォードの衣装デザインを担当したことから、アメリカを代表するデザイナーとしての地位を確立した。」(審決書13頁20行〜14頁8行)との事実、「我が国においては西武百貨 店が昭和51年にポロ社から使用許諾を受け同52年からラルフ・ローレンのデザインに係る紳士服、紳士靴、サングラス等の、同53年から婦人服の輸入、製造、販売を開始した」(審決書14頁20行〜15頁2行)との事実、メガネについて「POLO」、 「ポロ」、「Polo」、「ポロ(アメリカ)」、「ポロ/ラルフ・ローレン(アメリカ)」等の表題の下に紹介されているとの事実(審決書15頁13行〜18行参照)は、認め得るものの、審決認定の事実のうち、ラルフ・ローレンのデザインに係る上記認定の商品以外の商品に引用使用商標ないし引用商標が用いられていたかどうか、引用使用商標ないし引用商標が「ポロ」の略称で呼ばれていたかどうかなどの事実は、上記証拠からは明らかではない。審決は、上記証拠のほか、乙第2号証ないし第4号証、乙第6号証ないし第11号証についての職権証拠調べをすることによって、ラルフ・ローレンのデザインに係る一群の商品に引用使用商標ないし引用商標が用いられていたこと、引用使用商標ないし引用商標が「ポロ」の略称でも呼ばれていたこと、それらがいつのことであったか等を認定し、これを前提に、本件商標が商標法4条1項15号に該当するかどうかを検討し、該当するとの結論に達したことは、審決の記載自体で明らかである。
 そうすると、審決が、乙第2号証ないし乙第4号証、乙第6号証ないし第11号証がなくとも、上記結論に達したとすることはできなかったことになるから、上記証拠の有無が審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかである。
 その他、本件の全資料によっても前記特別の事情に該当する事実をそ認めることはできない。
(3) 被告は、原告が、審判手続中、平成9年10月1日付け審判事件答弁書において「甲第9号証、甲第10号証及び甲第11号証は、いずれもポロプレーヤーマークが著名性を証する証拠として提出している。審判請求人の主張のように、引用商標が、その指定商品について永年使用し、本件の登録出願前より請求人の業務に係る商品を表示するものとして周知著名であることを認めるが」と記述していることを根拠に、原告は引用商標の著名性を認めているから、特許庁が行った職権証拠調べは確認的なものであり、原告にその結果を通知せず、陳述の機会を与えなかったとしても、引用商標の周知性の認定の結果に影響を及ぼさない旨主張する。
 しかしながら、審決は、本件商標につき、周知の他人の商標との同一性又は類似性を要件とする商標法4条1項10号に該当するか否かを問題にすることなく、甲第16号証、乙第5号証、第12号証のほか、乙第2号証ないし第4号証、乙第6号証ないし第11号証についての職権証拠調べをすることによって引用商標の周知性以外の事実をも認定したうえ、他人の業務に該当する商品又は役務との混同のおそれを要件とする同法4条1項15号に該当するか否かを検討したものであり、原告が、上記答弁書で認めていたのは「引用商標が、その指定商品について永年使用し、本件の登録出願前より請求人の業務に係る商品を表示するものとして周知著名であること」のみであって、審決の認定した上記事実の一部を認めていただけである。被告の主張は採用できない。

〔研 究〕

 審判官が、審判請求人が提出した以外の証拠を、職権によって探知して収集することは適法であるが、そのような場合は、審判被請求人に新しい証拠を通知し、それに対する意見を求めることは、登録無効という対世的効力のある判断をしなければならない審判事件においては当然であるし、そのことは最高裁昭和51年5月6日判決において判示されいるところである。
 このような審判部における新しい証拠の発見についての通知は、審判請求人にもなされるのだろうか。審決の意外性を解消するためには、職権探知した全証拠は審判請求人にも開示すべきであろう。

[牛木理一]