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立体商標「チョコレート」拒絶審決取消請求事件:東京高裁平成13年(行ケ)418号平成14年7月18日判決(13民)〔請求棄却〕

〔キーワード〕 
立体商標の意義、商品の立体的形状、機能的形態、意匠的(美感的)形態、識別標識機能、使用による識別性

 

〔事  実〕


 
 原告ゴールドケン・ジャージー・リミッテッド(外国会社)は、平成9年10月27日に本願商標を第30類に属する商品を指定し、立体商標として出願したところ、商標法3条1項3号を適用されて拒絶理由通知を受けた。そこで、指定商品を「チョコレート」と補正するとともに、商品出所の周知性について6件の証拠を提出した。しかし、本願商標は、その指定商品との関係よりすれば、商品の形状(収納容器)の一形態であることを容易に認識させる立体的形状を普通に用いられる方法の範疇をもって表示しているものだから、これをその指定商品について使用しても、単に商品の包装の形状を表示するにすぎず、周知の商品とも認められないとして拒絶査定された。また、不服の審判事件においても前記拒絶査定は覆ることはなかったので、出訴した。
 原告は、審決の取消事由として、(1)審決の立体商標制度の理解の誤り、(2)商標法3条1項3号(商品の包装容器の形状等)の該当性の判断の誤り、(3)商標法3条2項(自他商品の識別力)の該当性の判断の誤り、を挙げて争った。
 このうち、もっとも重要なカギとなる(3)について、原告は識別力を具備する商標であることを立証する証拠を提出して次のように主張した。
 原告は、本願商標を付した商品を、昭和60年から日本に輸出し、近畿日本ツーリスト、東急観光等の旅行会社、空港の専門店、朝日エアポートサービス等の土産物店、佐渡金山等の観光名所の土産物店で販売している。
 また、一般消費者向けとして、大丸、三越等の有名デパートにおける売場、直営店、通信販売等での販売をしている。
 原告は、旅行者の発行するパンフレットに本願商標を掲載するなどの形で宣伝広告を行っている。その費用は、平成7年に4208万8000円、平成8年に4059万1000円、平成9年に4302万4000円、平成10年に5815万3000円、平成11年に5555万5000円、平成12年に4962万3000円である。
 また、諸外国に商標登録をしていることを立証して次のように主張した。
 本願商標と同一の商標は、チョコレートを指定商品として、スイス、アメリカ国で登録され、また、マドリッド協定に基づく国際登録が、アルジェリア、ドイツ、アルメニア等40カ国を指定国として登録されている。このことからも、本願商標が、原告商品について、本来的に識別性を有することは明らかである。
 この点について審決は、出願に係る商標が登録要件等を具備しているか否かは、当該出願に係る国の法令及びその国の商品取引の実情等に照らして判断がなされるべきで、諸外国の登録制度とわが国のそれとが同一のものと解釈しなければならないとする事情はないと判断したのに対し、原告はこの判断はパリ条約の規定の解釈を誤るものである。
 条約は、本国において正規に登録された商標は、この条で特に規定する場合を除くほか、他の同盟国においても、そのままその登録を認められかつ保護されると定め、「この条で特に規定する場合」として、同条Bにおいて、「1.第三者の既得権を害する場合、2.識別性を有しない場合、3.公序良俗に反する場合」を定めている。「この識別性を有しない場合」とは、「当該商標が商品の普通名称や商品の産地、品質等を示す語、記号又は図形で構成されている標章であって、使用により識別性を取得することができない標章のみからなる場合」と解されていると主張した。
 原告は、スイス国において現実に営業をしており、スイス国は原告の本国となる。本願商標は、このように原告の本国となるスイス国において登録されている。
 したがって、仮に、本願商標が、日本の法律によれば識別性に欠けるとしても、使用により識別性を獲得し得るものであり、パリ条約の規定により、登録され保護される資格があると主張した。
 

 

〔判  断〕


 
1 取消事由1(立体商標制度の解釈の誤り)について
(1) 立体体商標制度は、商品若しくは商品の包装、役務の提供の用に供する物 の立体的形状であって、自己の業務に係る商品又は役務について使用をするものを商標として登録して保護しようとするものであり、商標の持つ自他商品・役務の識別機能を通して、業務上の信用の保護を図るためのものである(商標法2条、3条)。
 商品等の立体的形状は、本来、その機能を効果的に発揮させる、あるいは優れた美感を看者に与えるとの目的で選択されるものであって、商品の出所を表示し、自他商品を識別する標識として選択されるものではなく、これに接する需要者も、そのように理解し、商品の出所を表示するために選択されたものであるとは理解しないのが一般であるということができるから、商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状である場合を除き、基本的に自他商品の識別標識とはならないと解すべきである。
 このことを前提にすると、商標法3条1項3号の商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とは、それに接した需要者が指定商品等の形状そのものの範囲を出ないと認識する商標をいうものと解すべきことになる。なぜなら、前記のとおり、商品等の立体的形状は、第一に商品の機能・美感のために採用されるものであり、これに接する需要者もそのように理解するものであるから、その商品の機能・美感と関係のない特異な形状であるとはいえない形状であって、需要者が指定商品の形状そのものの範囲を出ないと認識するものは、需要者によって、商品の出所を表示するために選択されたものであると理解されないことが一般であるからである
(2) 原告は、立体的形状における機能的形態と、意匠的形態とを区別し、後者においては原則として商標登録を認めていくべきである、と主張する。
 しかし、機能的形態であっても、当該商品等の機能を確保するために不可欠なものを別にすれば(商標法4条1項18号参照)、商品等のどの機能を重視するか、機能をどの程度高めるかで、種々の形態が考えられ、原則的に同一の形態になるということはできない。したがって、一私人による独占の禁止を排除するという理由で、一般的に、機能的形態の登録を意匠的形態より制限すべきであるとすることはできないというべきである。機能的形態は、その実現すべき機能の種類、程度から、意匠的な形態より選択できる幅がより狭いということがあるとしても、それは結局機能的な形態はその機能を離れて特異な形態が取りづらいということに帰着するから、結局、この特異性に着目すれば足りるものである。
 そもそも、立体商標を含め商標を保護する根拠は、それが有する自他商品の識別標識としての機能にある。機能的形態はこの機能を獲得しにくく、意匠的形態は獲得しやすい、という関係があるとは、認めることができない。
 現行の商標法も、立体商標の登録要件について、商品等の機能を確保するために不可欠のものを除き(商標法4条1項18号)、機能的形態か意匠的形態かで区別していない。
(3) 原告は、商品そのものの形状と商品の包装の形状とを区別し、商品の容器又は包装については、商品の機能を発揮させ、美感を高める目的のほか、自他商品の識別のための要素が付加されることもあるから、商標登録の可否について別途の扱いをすべきである、と主張する。
 しかし、形状そのものに着目する限り、結局、前述のとおり、当該形状に自他商品の識別標識の機能を果たし得るような特異性があるか否かが問題となるのであって、一般的に、商品そのものの形状と包装の形状との間にこの点で差異があるか否かを問題としても、実益のあることではないというべきである。
2 取消事由2(商標法3条1項3号の該当性判断の誤り)について
本願商標は、金塊(インゴット)を模した黄金色の六面体より成るものであって、それ自体は極めて簡単な形状、色彩である。
 菓子業界では、一般に、その美感等により需要者に強い印象・記憶を与えて、顧客吸引力を発揮させるため、多種多様な形状・色彩が採られていることは、当裁判所に顕著である。現に商品化されているチョコレートの中にも、金色の包装を施したものもあり、上面が下面より小さい六面体(すなわち、本願商標と同種の六面体)をしたチョコレート菓子も存在する。この両者を組み合わせて、本願商標と同形状、色彩とすることは、この業界に携わる者であれば、極めて容易に思いつくものであると認められ、現に、このような包装の形状を採ったチョコレート菓子も流通している(乙第2号証ないし第4号証)
 したがって、本願商標は、機能又は美感に関係のない特異な形状とはいえず、この種商品の包装等の形状として採用しうる範囲の変更、装飾等であって、需要者が、商品の包装の形状そのものの範囲を出ないと認識する形状ということができる。
 本願商標が、商標法3条1項3号に該当するとした審決の認定判断に誤りはない。
3 取消事由3(商標法3条2項の該当性判断の誤り)について
(1) 商標法3条2項の適用基準
 原告は、使用に係る商標と出願に係る商標との同一性について、平面商標についての同一性判断基準を、立体商標にそのまま適用すべきではない、また、ラベル、デザイン等を取り除いた形状自体が同一性を有しているか否かが、正当な判断基準であると主張する。
 しかし、商標法3条2項該当性の判断において、原則として、登録請求をされた商標そのものが、使用されているか否かを検討すべきことはいうまでもない。需要者が、形状のみならず、そこに付された文字等も見て、自他商品の識別を行うときは、これらが合わせて使用されたとみるべきであるから、使用に係る商標のうち立体的形状のみを比較すべきであるとする原告の主張には理由がない。
(2) 本願商標の使用について
 原告は、本願商標は使用により識別力を獲得したと主張する。この点、原告が、本願商標と同一ないし酷似する形状・色彩を採った商品を、日本国内で販売し、また宣伝していることは確かである。したがって、原告の商品が、日本国内においても、一定程度の知名度を有していることはうかがうことができる。
(甲第9号証しないし第24号証)
 しかし、前記のとおり、本願商標自体は極めて簡単なものであり、それ自体特異性があるとはいえない。また、原告商品には、「GOLDKENN」の文字等が、相当大きく表示されており、商品を手に取った需要者が、これに着目することは容易であると認められるから、本願商標の形状のみが、自他商品の識別標識としての機能を発揮しているともいえない。
 原告の使用に係る形状、色彩の包装が、遠目からも注意を引くということもあることは認められるが、これは、商品(の包装)自体が注意を引くことを意味するにとどまり、同包装の意匠としての価値(これが顧客吸引力の一要素であることはいうまでもないところである。)を根拠づけることにはなり得ても、直ちに、それが自他商品の識別標識としての機能(出所表示機能)を有することに結び付くものではない。(甲第9号証、第24号証)
 本願商標が、使用により自他商品の識別機能を獲得したとは認められない。
(3) 原告は、本願商標が40カ国余りで登録されていると主張する。しかし、日本国内では、使用による識別力を獲得しているとは認められないことは、前記のとおりである。
(4) 原告は、審決には、パリ条約6条のA(1)に反していると主張するが、同条約によっても、日本の商標法により、商標登録の可否を決定する権限が留保されていることは明らかであるから、この点についての原告の主張も理由がない(乙第7号証ないし8号証)。
(5) 以上のとおりであり、本願商標が、商標法3条2項の要件を満たしているとは認められない。
4 結論
 以上検討したところによれば、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他、審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 

〔研  究〕

 商品の立体的形状を商標登録することを可能にしたわが国の立体商標登録制度は、その商品の形状自体に高い創作性が認められ、それによって自他商品を識別する能力を発揮するに至っているものであるならば、登録要件を自発的に具備しているといえることになろうが、それ自体では自他商品の識別力の弱い多くの商品の形状にあっては、長年の使用によって自他商品の識別能力を発揮するに至る登録要件を後発的に具備したものでなければならないだろう。
 本件の立体商標の場合は、それ自体が正にチョコレートという商品のありふれた形状を表現したものといえるから、その形状自体や黄金色の色彩だけでは、自他商品の識別力はないといわれても仕方がない。本件の原告は、出願中に、使用による識別力を発揮するに至った旨の証拠を提出しかつ多額の広告宣伝費を使っている旨を主張したようであるが、商標法3条2項の登録要件を充足するには至らなかった。ということは、実際に使用されていた商品の形状には、文字などが大きく表示されていたから、商品の形状自体が自他商品の識別力を発揮するに至ったという証明にはならないのである。
 したがって、もしこの商品形状に自他商品の識別力を有するような別の図形や文字が付されていれば、商品全体として識別力を発揮することになるから、前記登録要件は自発的に具備していると認められることになる。
 しかし、このような登録商標の要部は、付記された他の図形や文字の方にこそあると解されることになる。

[牛木理一]