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登録商標「ゾンボーグ」無効審決取消請求事件:東京高裁平成14年(行ケ)198号平成14年10月16日判決(3民)<棄却>

〔キーワード〕 
VOGUE、著名商標、出所の混同、非造語(普通名詞)、需要者の決定力

 

〔事  実〕


 
 通常、需要者間に広く認識されている他人の商標は、出願しても、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標となるから、登録されないのが原則である。
 被告(株)円谷プロダクションは、片仮名文字「ゾンボーグ」を第28類に属する商品を指定して、平成10年4月15日に商標登録出願をし、平成11年6月18日に商標登録第4285636号として設定登録を受けたところ、原告コンド・ナスト・アジア・パシフィック・インク(米国)は、わが国でも周知著名なファッション雑誌「VOGUE」の商標を有する会社であるが、被告の登録商標「ゾンボーグ」に対して、類似する商標であるからと登録無効審判の請求をしたところ、不成立に終ったので、不服の審決取消請求訴訟を起した。
 そこで、本件商標「ゾンボーグ」は、商標法4条1項15号の規定する「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」といえるか否かが争点となった。

 

〔判  断〕


 
1. 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。そして、「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度、商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。
2. これを本件について見ると、次のとおりである。
?(1) 本件商標と引用商標及び「ボーグ」との類似性の程度
?ア. 証拠(甲8から12、13から52の各(1)(2)、53から63、66)及び弁論の全趣旨によれば、「VOGUE」は、流行やファッションを意味するフランス語に由来する英語の普通名詞であるところ、その片仮名表記としては、「ヴォーグ」と「ボーグ」の2通りがあるものの、わが国では、「ヴォ」と「ボ」の発音を明確に区別することが困難であるために、「ボーグ」という片仮名表記が用いられることが多く、ファッション雑誌「VOGUE」誌の片仮名表記としても、新聞や辞書等においては、「ボーグ」が用いられることが多かったことから、「ボーグ」は、本件商標の出願前ないし登録査定時において、わが国における流行の被服、靴、鞄及び時計等の服飾品の取引者及び需要者の間で、ファッション雑誌「VOGUE」誌の片仮名表記として広く認識されていたことが認められる。
 この点、本件商標は、「ボーグ」という片仮名部分をその構成の一部に含むところ、「ゾン」という片仮名部分に、顕著な出所表示力があるわけではなく、また、引用商標の連想を阻害する要素があるわけでもないことに照らすと、本件商標においては、「ボーグ」という部分に、取引者及び需要者の注意を引きやすい要素があるというべきである。
? ?したがって、本件商標と引用商標との間には、称呼、観念において類似しているところがあると一応いうことができ、また、本件商標と引用商標の片仮名表記である「ボーグ」との間には、称呼、外観、観念において類似しているところがあると一応いうことができる。
イ.しかし、本件商標は、その構成の一部に引用商標である「VOGUE」という部分を含むわけではないから、本件商標と引用商標との間には、外観において明確な相違がある。
 また、本件商標は、片仮名文字で5時から成る外観及び称呼がごく短い商標であり、同じ書体、大きさの標準文字で等間隔に表されていて外観上まとまりよく一体的に看取し得るばかりでなく、「ゾン」という片仮名部分が独立して何らかの意味を有するものとは看取し難いことに照らすと、簡易迅速性を重んじる取引の実際において、本件商標について、わざわざ「ゾン」という片仮名部分と「ボーグ」という片仮名部分の2つに区分し、「ボーグ」という片仮名部分のみによって簡略に表記ないし称呼される必然性は、乏しいというべきであるから、本件商標と引用商標との間の称呼の類似、本件商標と引用商標の片仮名表記である「ボーグ」との間の称呼及び外観の類似は、いずれも限定的なものというべきである。
 さらに、本件商標については、上記のとおり、独立した何らかの意味を有するものとは看取し難い「ゾン」という片仮名部分が、「ボーグ」という片仮名部分に結合しており、しかも、外観上まとまりよく一体的に看取し得るものであるため、全体として、特定の観念を持たない造語との印象も有しているのに対し、引用商標及び引用商標の片仮名表記である「ボーグ」については、「VOGUE」が上記のとおり、流行やファッションを意味するものであるため、流行やファッションという特定の観念を有しているというべきである。しかも、わが国における外来語の片仮名表記においては、当該外来語中の子音が「B」であるか、「V」であるかに応じて、意識的に、「ボ」と「ヴォ」とを使い分けることがあるため(甲8から10、12)、「ボーグ」からは、「B」で始まる欧文字列の外来語を片仮名表記したものではないかとの想像が生じうるのみならず、証拠(甲66、乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、改造人間等が登場する子供向けテレビ番組等における改造人間等の名付けの方法として、著名な「サイボーグ(CYBORG)」という既成語のイメージを活かして、「ボーグ(BORG)」の文字の前に他の文字を結合させて造語を形成することがしばしば行われているものと認められることに照らすと、本件商標の中の「ボーグ」という片仮名部分は、「サイボーグ」という既成語の中の「ボーグ」という部分に由来するとも観念しうるところである。したがって、本件商標と引用商標及びその片仮名表記である「ボーグ」との間の観念の類似は、限定的なものというべきである。
?(2) 引用商標及び「ボーグ」の周知著名性及び独創性の程度
ア.上記争いのない事実等(2)のとおり、引用商標は、コンドナスト社によって明治25年アメリカ合衆国ニューヨークで創刊されたファッション雑誌「VOGUE」誌の題号として、世界的に有名であり、わが国においても、流行の被服、靴、鞄及び時計等の服飾品の取引者及び需要者の間において、広く認識されているものであって、周知著名性が高く、また、上記(1)ア認定のとおり、「ボーグ」は、わが国における流行の被服、靴、鞄及び時計等の服飾品の取引者及び需要者の間で、引用商標の片仮名表記として広く認識されていたものであるから、引用商標及びその片仮名表記である「ボーグ」は、いずれも周知著名性が高いというべきである。
イ.しかし、上記(1)アのとおり、「VOGUE」は、流行やファッションを意味するフランス語に由来する英語の普通名詞であるから、引用商標の独創性の程度は、造語による商標とは異なり、相当程度低いといわざるを得ない。
?(3) 本件商標の指定商品と原告又はその関連会社の業務に係る商品との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情等
ア.本件商標の指定商品は、上記争いのない事実等(1)のとおり、「おもちゃ、人形」等であるところ、証拠(甲81〜93の各(1)(2))及び弁論の全趣旨によれば、色や柄の斬新なヨーヨーの流行、携帯電話に付けるキャラクター人形等の普及、着替人形の普及やフィギュア(大人向けのキャラクター人形)の流行等に伴い、おもちゃや人形を所持又は携帯することがファッションの一部と認識される場合が生じるようになっていること、また、テレビ番組に登場する人気キャラクターのコスチュームを再現した子供向けの服飾品がおもちゃ売り場で販売されていることの各事実が認められるから、本件商標の指定商品である「おもちゃ、人形」等については、ファッションに関連する場合があるというべきである。
 これに対し、原告又はその関連会社であるアドバンス社の業務に係る商品は、上記争いのない事実等(2)のとおり、ファッション雑誌「VOGUE」誌であるところ、証拠(甲94)及び弁論の全趣旨によれば、ファッション雑誌「VOGUE」誌は、流行の被服、靴、鞄及び時計等の服飾品に加え、ファッションに関連する雑貨等を取り扱う場合のあることが認められる。
 したがって、両者の商品の間には、ファッションという用途又は目的において、関連性が認められる場合があるというべきである。
 また、このことから、両者の商品の取引者及び需要者についても、共通する場合があるというべきである。
 しかも、本件商標の指定商品である「おもちゃ、人形」等が日常的に消費される性質の商品であることや、その需要者が特別な専門的知識経験を有しない一般大衆であることからすると、これを購入するに際して払われる注意力はさほど高いものではないと見なければならない。
イ.しかし、本件全証拠をもってしても、本件商標の指定商品である「おもちゃ、人形」等を所持又は携帯することが、一般的に、ファッションの一部であると認識されるようになっているとまでは認められず、また、服飾品がおもちゃ売り場で販売されることが、上記のような子供向けの特殊な服飾品を超えて、一般的な販売形態になっているとまでは認められないことに照らすと、本件商標の指定商品である「おもちゃ、人形」等とファッション雑誌「VOGUE」誌との間のファッションという用途又は目的における関連性は、相当程度弱いものというべきである。
 また、このことから、両者の商品の取引者及び需要者についても、共通性は、相当程度弱いものというべきである。
3. 以上によれば、確かに、本件商標と引用商標及びその片仮名表記である「ボーグ」とは、称呼、外観及び観念において類似しているところがあると一応いうことができ、また、引用商標とその片仮名表記である「ボーグ」については、いずれも高い周知著名性を有しているというべきであり、さらに、本件商標の指定商品である「おもちゃ、人形」等とファッション雑誌「VOGUE」誌との間には、ファッションという用途又は目的において、関連性が認められる場合があるというべきである。しかも、両商品の取引者及び需要者についても、共通する場合があるというべきであり、加えて、本件商標の指定商品である「おもちゃ、人形」等を購入するに際して払われる需要者の注意力はさほど高いものではないと見なければならない。
 しかし、他方、本件商標と引用商標及びその片仮名表記である「ボーグ」との間の上記類似の程度は、限定的というべきであり、また、引用商標の独創性は、相当程度低いといわざるをえず、さらに、本件商標の指定商品である「おもちゃ、人形」等とファッション雑誌「VOGUE」誌との間のファッションという用途又は目的における関連性の程度は、相当程度弱いというべきであり、しかも、両商品の取引者及び需要者の共通性の程度も、相当程度弱いというべきである。したがって、これらの各事情を総合的に考慮するならば、本件商標が、これに接した取引者及び需要者に対し、引用商標を連想させて商品の出所につき誤認を生じさせるということはできないというべきであり、また、その商標登録を認めた場合に、引用商標の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招くという結果が招来されるということもできないというべきである。
 そうすると、本件商標は、商標法4条1項15号に規定されている「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には該当しないというべきである。

〔研  究〕

1.本件において、原告は自らのファッション雑誌「VOGUE」の名称が周知著名であることを理由に、被告登録商標の標章態様の「ゾン」+「ボーグ」を追及したが、その使用商品との関係および"VOGUE"の普通名称性(非造語性)によって、商品の取引者・     需要者の共通性は弱いと考え、被告商標は原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれはない商標と認定されたことには、再考の余地があると思う。
 "VOGUE"は英和辞典を開けば、"流行"という訳語があるものの、"fashion"と違い、日本語化した英語とはいいにくいし、そもそも雑誌の表題として著名な名称であることは誰もが認めるところである。したがって、問題は、その意味を詮索するよりも、2つの商標の全体を見ての類似性のなさを判断する方が妥当といえただろう。
 商標法4条1項15号の規定は、同条項の10号や11号の適用のない商品や役務を超えた周知著名な商標を、そのフリーライドから阻止することを目的としている規定であるが、本件の場合、被告商標「VOGUE」や「ボーグ」だけの標章からではなく、頭に「ゾン」という意味不明な語が付加されていることによって15号の適用は困難と考えられる。
2.筆者は、判決言渡し当日、代理している審決取消訴訟事件の口頭弁論があったので、法廷の前まで行ったが、マスコミのカメラマンの数の多さに驚いた。マスコミにとって、原告,被告のどちら側に関心が向いていたのか不明だが、「VOGUE」対「円谷プロ」という登録商標の有効性をめぐる審決取消訴訟とは、珍しい事件である。
私事で恐縮だが、1980年に『商品化権』という名の著書を出版するにあたり、"Vogue"ポスターの商品化(例えばタオル)問題に関心があったので、いろいろ資料を集めた中に、"Vogue Poster Book Introduced by Dian Vreeland"という大版の本があった。1911年〜1927年頃に発表されたポスターはすべてすばらしい絵であり、純粋美術作品である。
ここに紹介するポスターには、"The Fine Arts That Produce The Fashionable Beauty Of Today"というメッセージが表示されている(Nov.15,1911THE VOGUE CO. CONDE NAST. Pres)。このような作品は、著作権法によって保護されるのは当然である。

[牛木理一]