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出願商標「角瓶」拒絶審決取消請求事件: 東京高裁平成12(行ケ)265号平成14年1月30日13民判(認 容)〔特許ニュース平成14年3月25日号〕

〔キーワード〕 
ウィスキー、角瓶、標章の同一性、自他商品の識別力、銘柄想起調査

 

〔事  実〕

 

 原告S社は、平成6年5月17日に、「角瓶」の文字商標を、第33類「ウィスキー」を指定商品として出願したところ、拒絶査定を受けたので、指定商品を「角型瓶入りのウィスキー」と補正して審判請求をしたが、不成立の審決を受けた。審決の理由は、本願商標「角瓶」は指定商品の品質、形状を表示するにすぎないので、商標法3 条1項3号に該当するとした。また、出願人が3条2項の適用を受けるために、周知商標を示す多数の証拠を提出したのに対し、これらに見られる「角瓶」の文字態様は、出願商標とは同一であると認められないから、商標法3条2項の適用は受けられないと判断した。
 これに対して不服のS社は、東京高裁に審決取消請求訴訟を起したところ、平成14年1月30日、この請求を全面的に認容する判決を出した。

 

〔判  断〕

 

1 取消事由(商標法3条2項該当性判断の誤り)について
(1) 出願に係る商標が、指定商品の品質、形状を表示するものとして商標法3条1項3号に該当する場合に、それが同条2項に該当し、登録が認められるかどうかは、使用に係る商標及び商品、使用開始時期及び使用期間、使用地域、当該商品の販売数量等並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して、出願商標が使用をされた結果、需要者がなんぴとかの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められるかどうかによって決すべきものであり、その場合に、使用に係る商標及び商品は、原則として出願に係る商標及び指定商品と同一であることを要するものというべきである。そして、同条1項3号により、指定商品の品質、形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標が、本来は商標登録を受けることができないとされている趣旨は、そのような商標が、商品の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品の識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによることにかんがみれば、上記の場合に、使用商標が出願商標と同一であるかどうかの判断は、両商標の外観、称呼及び観念を総合的に比較検討し、全体的な考察の下に、商標としての同一性を損なわず、競業者や取引者、需要者等の第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがないものと社会通念上認められるかどうかを考慮して行うべきものと解するのが相当である。
(2) 原告が、我が国における代表的なウイスキーメーカーであることは公知の事実というべきところ、原告作成の「我ら角瓶党」と題する冊子中の記事、原告従業員作成の報告書の添付資料6及び7、原告作成の「WHISKY BOOK」と題する冊子中の記事(124頁〜125頁 )、昭和52年9月25日株式会社東京経済発行 の大沼和令著「ウイス キー戦争」中の記事(40頁)、平成4年成美堂出版株式会社発行の 「国産ウイスキー&ビールオールカタログ」中の記事(78頁、119 頁)、原告従業員作成の「報告書」、平成5年株式会社講談社発行 の「世界の名酒事典 94年版」、原告発行の「みとくんなはれ サントリーの70年2.」 と題する冊子に転載された昭和28年の広告(118頁右側中段)、同年1月10日付け日本経済新聞掲載の広告、同年2 月28日付け日本経済新聞掲載の広告、同年3月5日付け讀賣新聞掲載の広告、同年4月4日付け毎日新聞掲載の広告、同年12月1日付け毎 日新聞掲載の広告及び平成12年株式会社講談社発行の「世界の名酒事典 2001年版」によれば、本件製品は、原告が昭和12年に販売を開始した商品であり、販売当初は「角瓶」の表示を用いてはいなかったが、容器として角型の瓶を使用していたことから、次第に需要者が本件製品を「角瓶」と呼び慣わすようになり、原告自身においても、遅くとも昭和28年には、広告宣伝中で本件製品を特定するために「角瓶」の表示を用い、また、前掲「ウイスキー戦争」、「国産ウイスキー&ビールオールカタログ」、「世界の名酒事典」等の一般の刊行物においても、本件製品を指称するのに「角瓶」の表記を用いるようになって現在に至っていること、本件製品の販売数量(ただし、姉妹品を含む。)は、昭和25年から平成10年までの49年間の合計が6646万ケース(1ケースは12本)、平成2年から平成10年までは毎年300万ケース前後であったこと が認められ、また、株式 会社電通作成の確認書に記載された本件製品の新聞広告掲載紙及びテレビコマーシャル放映局がほぼ我が国の全域にわたっている ことに照らして、本件製品は全国において販売されていることが推認される。
(3) 前掲原告従業員作成の報告書に添付された平成9年9月〜平成10年4月に「週刊文春」等の雑誌に掲載した広告(添付資料22〜29) 、平成9年9月30日付け讀賣新聞掲載の広告、同日付け日本経済新聞掲載の広告、同年10月1日付け讀賣新聞掲載の広告、同日付け日本 経済新聞掲載の広告、同月3日付け讀賣新聞 掲載の広告、同日付け 日本経済新聞掲載の広告、同月10日付け讀賣新聞掲載の広告、同日付け日本経済新聞掲載の広告、同月24日付け讀賣新聞掲載の広告 、同日付け日本経済新聞掲載の広告、平成11年2月27日付け毎日新聞 掲載の広告、同年10月11日付け朝日新聞掲載の広告、同月23日付け朝日新聞掲載の広告、昭和34年10月8日付け朝日新聞等掲載の広告 、昭和35年2月8日付け日本経済新聞等掲載の広告、昭和36年6月11 日付け朝日新聞掲載の広告、同年12月2日 付け朝日新聞掲載の広告 、昭和47年12月3日付け大阪讀賣新聞掲載の広告、昭和48年1月1日 付け朝日新聞掲載の広告、昭和52年9月発行の日本経済新聞掲載の 広告、前掲「みとくんなはれ サントリーの70年2.」と題する冊子に転載された昭和28年の広告(118頁右側中段)、同年1月10日付け日本経済新聞掲載 の広告、同年2月28日付け日本経済新聞掲載の広 告、同年3月5日付け讀賣新聞掲載の広告、同年4月4日付け毎日新聞掲載の広告、同年12月1日付け毎日新聞 掲載の広告においては、い ずれも本件製品が「角瓶」の文字によって表されていることが認められ、また、テレビコマーシャルの写真及び原告従業員作成 の陳述書によれば、平成13年2月ころから同年6月ころまで、全国で合計505回放映されたものと認められる本件製品のテレビコマーシャルに おいても、「角瓶」の文字が表されていたことが認められる。そして、これらの「角瓶」の文字の表示は、その表示態様から見て、商標としての使用に当たるものというべきであるから、原告は、上記各広告及びテレビコマーシャルにおいて、本件製品につき「角瓶」の漢字を書してなる商標を使用していたものと認めることができる。 なお、株式会社電通作成の確認書によれば、原告は、平成7年 から平成10年までの間、毎年、本件製品につき新聞、雑誌に広告を掲載し、また、東京、大阪及び名古屋の各民間テレビ局からテレビコマーシャルを放映したことが認められるが、上記認定に係る広告及びテレビコマーシャルに該当するもののほかは、その内容は必ずしも明らかではない。
 被告は、上記テレビコマーシャルの写真につき、審決時までに特許庁に提出されなかった証拠であるから、これをもって審決の違法性を主張することは失当である旨主張するが、審決の説示に照らすと、上記証拠方法によって原告が立証しようとする事実(審決時までの本件製品に係る広告宣伝の内容及び本願商標の使用の態様)に関して、原告は、特許庁における審査ないし審判の段階ですでに主張し、かつ、立証を経てきていることが明らかである。そうとすれば、上記証拠方法が審決時までに特許庁に提出されたものではなかったとしても、上記事実の立証を補強するために、本件訴訟においてこれを提出することは許されるところであるから、被告の上記主張は採用することができない。
(4) ところで、上記(3)の新聞、雑誌の広告及びテレビコマーシャ ルにおいて使用された商標に係る「角瓶」の文字中には、厳密には本願商標と書体が同一ではないもの及び縦書きで書されているものが存在し、さらに、縦書きのもののうちには、「角」と「瓶」の各字の間隔が本願商標よりも広いものも存在する。
 しかし、本願商標は、さして特徴のない太字の活字体による「角瓶」との2字の漢字を左横書きに書してなるだけの態様であり、その構成中に、他の要素は全く存在しない。そして、このことに、漢字の左横書きが日本語における通常の表記方法であることを併せ考えると、本願商標の外観には、看者の目を惹き、その印象に残るような特徴的な要素は何ら見当たらないということができる。
 他方、上記の本願商標と厳密には書体が同一ではない「角瓶」の文字も、平成11年2月27日付け毎日新聞掲載の広告に表示されたも のを除き、通常の活字体による書体からなるものであり、上記毎日新聞掲載の広告における「角瓶」の文字も、字の傾き等はやや異なるものの全体としては本願商標と近似する書体によってなるものと認められ、商標法3条2項に関する商標審査基準が出願商標と使用商標の同一性を欠く場合の一例としている、草書体と楷書体又は行書体との間におけるような大きな書体の相違があるわけではない。また、漢字の縦書きが左横書きと並んで日本語における通常の表記方法であることは明らかであり、さらに、「角」と「瓶」の字間が本願商標よりも広い「角瓶」の文字の表示も、その字間の広さが表示上特徴的といえるほど広いわけではない。したがって、これらの商標に係る文字の表示態様は、本願商標の上記の構成態様と対比して、外観上、取り立てていうほどの相違点と認めることはできないのであり(上記商標審査基準が縦書きと横書きの相違を同一性を欠く一つの場合として例示する点は、本件においては妥当しない。)、また、これらの商標と本願商標とが称呼及び観念を共通にするものであることは明らかである。
 そうとすれば、外観、称呼及び観念を総合的に比較検討し、全体的に考察した場合には、上記のとおり本願商標と厳密には書体が同一ではない文字、縦書きで書された文字及び「角」と「瓶」の字間が本願商標よりも広い文字による表示に係る商標も、本願商標と商標としての同一性を損なうものではなく、競業者や取引者、需要者等の第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがないものと社会通念上認められるから、使用商標が出願商標と同一である場合に当たるものというべきである。
(5) 「サントリー」が、出所表示機能を有する原告の代表的かつ著名なハウスマークであること(審決謄本5頁10行目〜11行目)は当 事者間に争いがないところ、上記(3)の新聞、雑誌の広告及びテレ ビコマーシャルにおいて使用された商標に係る「角瓶」の文字中には、「サントリー」の文字に連続して表されていると認められるもの及び「サントリーウ井スキー」の文字に連続して表されていると認められるものが存在する。
 そして、審決は、上記のような表示につき、「『角瓶』の文字は、請求人(注、原告)の代表的な出所表示機能を有する著名なハウスマークである『サントリー』と常に結びついて使用されているものといわなければならない。してみると、『角瓶』という表示は、それ単独で多くの銘柄のウイスキーの中の特定のウイスキーを示す商標として使用されているということができない」(審決謄本5頁10行目〜15行目)と認定判断し、被告は、「角瓶」の文字よりなる 本願商標が独立して取引の目的となり得るような態様で使用されてきたということはできない旨主張する。
 しかし、上記新聞、雑誌の広告及びテレビコマーシャルにおいて使用された商標のうち、上記に挙げたもの以外は、表示の形態として、必ずしも「角瓶」の文字が「サントリー」の文字と連続し、又は一体の商標と認められる程度に近接して表されているわけではなく、したがって、それらの「角瓶」の文字は「サントリー」の文字と結びついて使用されているということはできない(なお、同一広告中の隔離した位置に「サントリー」等の文字があるからといって、それだけでこれらの文字と結びついて使用されているということができないことは明白である。)から、審決の上記「ハウスマークである『サントリー』と常に結びついて使用されている」との説示はそれ自体誤りというべきであるが、その点はおくとしても、上記の「角瓶」の文字が「サントリー」又は「サントリーウ井スキー」の文字に連続して表されていると認められる形態のものであっても、以下のとおり、「角瓶」の文字よりなる本願商標が使用されているものというべきである。
 すなわち、一般に、それ自体で出所表示機能を有する商標であっても、具体的な使用の態様においては、他の文字と連続して表示されることがないとはいえず、当該他の文字が当該商標に係る商品又は役務の出所を示す著名なハウスマークである場合でも、そのようなことがしばしばあることは、例えば自家用車や家電製品等の場合を考えれば明らかである。そして、このような場合に、常に、ハウスマークと結合して一体化した商標が使用されているのであって、当該商標自体の使用に当たらないと見るのは不合理であることが明らかであり、結局、そのような態様における使用が、ハウスマークと結合して一体化した商標の使用に当たるか、当該商標自体の使用に当たるかは、当該商標がハウスマークと連続又は近接しないで表示されることも相当程度あるかどうか、あるいは、当該商標の使用者自身が、例えばハウスマークと結合して一体化した構成の商標について登録出願をする等、むしろ、ハウスマークと結合して一体化したものを一個の商標として扱うような積極的な行為に及んでいるかどうか等の事実に基づき、その点についての使用者及び取引者、需要者の認識いかんに従って、これを決するのが相当である。
 そこで、本願商標についてこの点を検討するに、上記(3)の新聞 、雑誌の広告及びテレビコマーシャルにおいて使用された商標に係る「角瓶」の文字のうちには、上記のとおり、「サントリー」又は「サントリーウ井スキー」の文字に連続して表示されているものが存在する反面、平成9年9月30日付け讀賣新聞掲載の広告、同日付け日本経済新聞掲載の広告、同年10月1日付け讀賣新聞掲載の広告、 同日付け日本経済新聞掲載の広告、同月3日付け讀賣新聞掲載の広 告、同日付け日本経済新聞掲載の広告、同月10日付け讀賣新聞掲載の広告、同日付け日本経済新聞掲載の広告、同月24日付け讀賣新聞掲載の広告、同日付け日本経済新聞掲載の広告、平成11年2月27日 付け毎日新聞掲載の広告、同年10月11日付け朝日新聞掲載の広告、同月23日付け朝日新聞掲載の広告、昭和34年10月8日付け朝日新聞 等掲載の広告、昭和35年2月8日付け日本経済新聞等掲載の広告、昭和36年6月11日付け朝日新聞掲載の広告、同年12月2日付け朝日新聞掲載の広告、前掲「みとくんなはれ サントリーの70年2.」と題する冊子に転載された昭和28年の広告(118頁右側中段)、同年1月10日付け日本経済新聞掲載の広告、同年2月28日付け日本経済新聞掲 載の広告及び同年4月4日付け毎日新聞掲載の広告並びに平成13年2 月ころから同年6月ころまで、全国で合計505回放映されたものと認められる本件製品のテレビコマーシャルにおいては、「角瓶」の文字が、特段、「サントリー」等の文字と連続又は近接することなく表されており、そのような使用の態様も少なくはないものと認められるのみならず、「サントリー」等の文字と連続して表されているものであっても、昭和47年12月3日付け讀賣新聞掲載の広告、昭和48年1月1日付け朝日新聞掲載の広告及び昭和52年9月発行の日本経済新聞掲載の広告においては、「角瓶」の文字部分が四角形の枠で囲まれ、また、昭和28年3月5日付け讀賣新聞掲載の広告及び同年12月1日付け毎日新聞掲載の広告においては、「角瓶」の文字部分が括 弧で囲まれていて、いずれも「角瓶」の文字部分と「サントリー」又は「サントリーウ井スキー」の文字部分とを区分し、一体化することを妨げるような表示態様とされている。
 これに加え、一般の刊行物においても、平成5年11月15日株式会 社時事通信社発行の「'94〜'95全洋酒情報事典 蒸留酒」のように、本件製品を「サントリーウイスキー 角瓶」と指称するものもあるものの、前掲「ウイスキー戦争」及び「国産ウイスキー&ビールオールカタログ」のように、単に「角瓶」との表記を用いて本件製品を指称するもの、あるいは「世界の名酒事典 94年版」及び「世界の名酒事典 2001年版」のように、「サントリー角瓶」との表記と単なる「角瓶」との表記を併用するものも存在する。
 他方、原告において、「角瓶」の文字とハウスマークである「サントリー」等の文字とを結合して一体化した「サントリー角瓶」等の商標の登録出願をしたこと、その他、原告自身が、そのようなハウスマークと結合して一体化したものを一個の商標として扱うような積極的な行為に及んでいることを認めるに足りる証拠はない。
 以上の各事実を総合して考慮すれば、原告自身においてはもとより、ウイスキーについての取引者、需要者においても、本願商標はそれ自体が単独で使用されるものと理解し、たとえハウスマークである「サントリー」等の文字と「角瓶」の文字とが連続して表示されている態様であっても、ハウスマークと結合して一体化した「サントリー角瓶」等の構成よりなる商標が使用されているのではなく、「角瓶」の文字からなる本願商標自体が使用されていると認識するものと認めるのが相当である。
 したがって、上記(3)の新聞、雑誌の広告及びテレビコマーシャ ルにおいて使用された商標は、「角瓶」の文字が「サントリー」又は「サントリーウ井スキー」の文字に連続して表示されている態様のものも含めて、「角瓶」の文字よりなる本願商標が、標章として独立して指定商品「角型瓶入のウイスキー」に使用され、自他商品識別機能を備えるに至ったものと認められる。
(6) 株式会社社会調査研究所作成の「角瓶」についての「銘柄想起調査結果報告書」には、平成10年7月25日〜27日に、東京及び大阪 において、20〜50代男性各100名を対象とし、「角瓶」の文字から 想起される商品、メーカー等を質問して実施した銘柄想起調査の結果が記載されており、これによれば、調査地、年齢を通算して87パーセントの者が想起する商品をウイスキーと、また77パーセントの者が想起するメーカーを原告と回答したことが認められ、この結果に照らせば、本願商標は、かなり強い自他商品識別力を有することが推認される。
 上記調査につき、審決は、「調査の内容、その結果の分析方法が不明であり、集計が100%を越えているものもある」(審決謄本5頁5行目〜6行目)との否定的な判断を加えており、また、被告は、調査実施時期に照らして審判の証拠として用いるために行われたものと推認されるから、目的に一定の恣意がある調査というべきであり、さらに、調査結果において、「角瓶」の文字から連想する商品の種類が、「なし」との回答を別にすれば、すべて「酒類」であったことから、事前に「酒類」という暗示が被調査者に与えられた上で行われた可能性があって、調査結果の信用性は必ずしも高いものとはいえない旨主張する。
 しかし、同調査を担当した株式会社インテージ(旧商号・株式会社社会調査研究所)のA作成の報告書によれば、同調査の内容、結果の分析方法はこの種の統計調査の通常の手法に従ったものであること、集計値が100パーセントを超えるのは1パーセント未満の端 数の処理の影響であることが認められ、その100パーセントを超え る数値も数ポイント以内であることを併せ考えれば、上記審決の否定的判断は根拠に乏しいものといわざるを得ない。また、上記調査が審判の証拠に用いるために行われたからといって、それだけで調査結果に恣意が介在し、信用性に疑問があるということができないことは明らかであり、さらに、「角瓶」の文字から連想する商品の種類がすべて酒類であったとしても、直ちに不自然ということもできない。
 したがって、上記調査結果の信用性に疑いを差し挟む被告の主張も採用することはできない。
(7) 以上の各事実を総合すれば、本願商標と同一と認められる商標が、原告により、遅くとも昭和28年ころから審決時に至るまで、新聞、雑誌の広告及びテレビコマーシャル等において、相当量が販売されている本件製品につき我が国のほぼ全域にわたって多数回使用されており、その使用の結果、需要者において、上記商標が使用された本件製品が原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至っているものと認めることができる。
 このような事実に照らして、審決が、「『角瓶』の文字は、請求人(注、原告)の代表的な出所表示機能を有する著名なハウスマークである『サントリー』と常に結びついて使用されているものといわなければならない。してみると、『角瓶』という表示は、それ単独で多くの銘柄のウイスキーの中の特定のウイスキーを示す商標として使用されているということができない」(審決謄本5頁10行目 〜15行目)、「『角瓶』の文字についても・・・本願商標と使用に係る標章とは同一であることは、認められない」(同頁23行目〜30行目)と認定判断したことは誤りというべきであり、この瑕疵が審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は違法として取消しを免れない。
2 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適 用して、主文のとおり判決する。

〔研  究〕

1. 筆者は、この事件判決のことを朝日新聞の見出しで最初に見たとき、ウィスキーの「角瓶」についての“立体形状”が商標として登録されることになったのかと驚いたが、「角瓶」という漢字名称が商標登録の対象だと記事を読んでわかってさらに驚いた。それほど、この商標「角瓶」の高裁判決は、商標の実務者に大きな衝撃を与えたのである。
2. 出願商標が、その指定商品との関係から、当該商品の品質,形状などを表示するものとして商標法3条1項3号に該当する場合に、 同条2項によって、使 用された結果、需要者が何人かの業務に係る 商品であることを認識することができるものについては、そのような商標でも自他商品の識別力が具備されて いることを理由に商標登録を受けることができる場合がある。米国法でいうセカンダリー・ミーニングが与えられた商標の保護である。
 本件商標の場合は、特許庁における審判時にもまた審決取消訴訟時にも、数多くの周知の証拠資料を提出した功績が高裁では認められ、商標法3条2項が適用されたといえよう。調査会社を使用しての調査には多くの時間と費用がかかったであろうが、その努力を高裁は高く評価したといっても過言ではなかろう。
3. 商標法3条2項に規定する要件について最大の問題は、出願商標と使用商標との同一性であり、特許庁の審査基準はかなり厳しい。その場合でも、両文字標章が全く同一であることは必要でないが、類似といわれる態様に変更されていることは許されないという。実質的同一性の範疇のものと認識されるならば許されるというのが、本件判決の考え方である。判決は、「競業者や取引者,需要者等の第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがないものと社会通念上認められる」範囲のものであれば同一と認められるという。
 この考え方は、図形や記号についても同様のことがいえるが、結局、ケースバイケースで判断するしかないといえよう。
4. そこで、S社の「角瓶」の形状について、「ウィスキー」を指定商品として立体商標としての登録は可能かという問題が次に出てくる。あの「角瓶」のデザインがかつて意匠登録されていたかどうか不明であるが、全面に特殊な凹凸模様が表現されているものであるから、自他商品の識別力はあるようにも思われる。しかし、「角瓶」なる文字が併記されていなければ、物品の形状だけでは困難だろうと思われる。意匠権が消滅した後の商標権による保護の問題とあわせて、皆さんに考えていただきたいテーマである。

[牛木理一]