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立体商標「ヤクルト容器」拒絶審決取消請求事件: 東京高裁平成12(行ケ)474号平成13年7月17日18 民判(棄却)

〔キーワード〕 
収納容器、商品の形状、立体商標、自他商品の識別性、意匠権の消滅、周知性

 

〔事  実〕

 

1. 原査定は、「本願商標は、その指定商品との関係よりすれば、多少デザインが施されてはいるが特異性があるものとは認められず、通常採用し得る形状の範囲を超えているとは認識し得ないので、全体としてその商品の形状(収納容器)の一形態を表したものと認識させる立体的形状のみよりなるものといわざるを得ないから、これをその指定商品について使用しても、単に商品の包装(収納容器)の形状を普通に用いられる方法をもって表示するにすぎないものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。」として、本件出願を拒絶したものである。
2. 審決の理由
 立体的形状からなる商標であっても、商品又はその包装の形状をもって構成されるものについては、本来的又は直接的には他の知的財産制度で保護されるものであることなど、平面的な商標とは明らかに異なるものであるため、商標法においては、立体商標制度導入に当たって、商標法第4条第1項第18号等が設けられ、また、前掲工業所有権審議会答申でも、「・・・指定商品やその容器の形状そのも のの場合には不登録とする運用を厳しくすること・・・」としている (答申31頁参照)。
 そして、商品又はその包装の形状であっても、使用により自他商品の識別力を取得する場合があり、そのときには、識別力を認めて登録することは前示のとおりである。
 原告は、「本願商標は、永年使用の結果、自他商品を識別する機能を具有するに至っているものであるから、商標法第3条第2項の規定が適用されるべきである。」旨主張し、原審査において参考資料第1号ないし第8号(枝番を含む。)を提出し、さらに、審判において同第9号ないし第16号(枝番を含む。)を提出した。
 そこで、原告提出の各参考資料について検討するに、原告が本願商標の使用に係る実績として提出した参考資料第2号ないし第5号(枝番を含む。)は、その資料中に記載されている本願商標と同一と認められる収納容器には、いずれも「ヤクルト」の文字が表示されているものである。
 商品等の形状に係る立体商標が、商標法第3条第2項に該当するものとして登録を認められるのは、原則として使用に係る商標が出願に係る商標と同一の場合であって、かつ、使用に係る商品と出願に係る指定商品も同一のものに限られると解される。
 しかして、本願商標と使用商標の異同はおくとしても、前示のとおり、収納容器の形状は、本来それ自体の持つ機能を効果的に発揮させたり、あるいは、その美感を追求する等の目的で選択されるものであって、本来的(第一義的)には、商品の出所を表示し自他商品を識別する標識として採択されるとはいえないものであり、その識別機能を果たすものとしては文字、図形又は記号等が適しているため、専らこれらが自他商品の識別標識として採択、使用されていることは顕著な事実であること及び前示認定のとおり、本願商標に係る形状が収納容器の一形態を表示するにすぎないものであることからすれば、前記参考資料中の商品「乳酸菌飲料」は、「ヤクルト」の文字商標により識別されているというべきである。
 また、参考資料第7号の1ないし54は、公的機関や同業組合等により証明がなされているものではあるが、その証明書が「証明願」を表題とする一枚の用紙のみであるため、証明者が安易に署名、押印をしたのではないかという疑問及び証明書に記載の文面からみて、果たして証明者が本願商標(収納容器の形状)自体が立体商標として自他商品識別機能を有するに至っているとの認識に基づいて証明したものであるか否かの疑問を否定し得ないものであり、さらに、「本件商標に係る収納容器の形状のみを見て原告の業務に係る商品であるとの認識を示した者が82.9%である。」旨の主張の根拠とする参考資料第16号は、「ヤクルト容器アンケート」と題するものであるが、他社が乳酸菌飲料の収納容器として採用している類似の容器(例えば、参考資料第14号)との比較がなされていないことやアンケート中に「ヤクルト」「ヤクルト以外の商品」の文言の記載が認められ、アンケート対象者がその文言に誘導された可能性も否定できないことから、前記参考資料はにわかには採用し難い。
 以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する ものであって、同法第3条第2項の要件を具備するものとも認められないから、登録することはできない。
3. 原告の主張
(1) 商標法3条1項3号について
 原告が昭和40年9月15日、本願商標と同一の容器の形状につき包 装用容器を意匠に係る物品として意匠登録出願した後、昭和43年7 月1日に販売を開始した当時、同一ないし類似の形状の包装用容器 は他に全く存在しなかった。
 原告は、昭和40年春、新幹線のスマートな流線型車輌のデザイン設計などで知られる高名な剣持勇デザイン研究所に対し、保健飲料「ヤクルト」の新容器のデザインを依頼し、原告が採用した容器の「形状」は、結果として、過去に、他に全く見られなかった独特なものとなった。その要点は、以下の3点に集約される。
 第1に、瓶の中程、真中より稍上部に丸みを帯びた「くびれ」を付したこと。
 第2に、「飲み口」の形状を「哺乳瓶の吸い口」の形状としたこと。
 第3に、「くびれ」によって、円筒部分の直径を大きくし、視覚上(見かけ)の大きさが小さく見えない形状となっていること。
 原告は、この形状について昭和40年9月15日意匠登録出願し、昭 和50年7月9日に登録第409380号意匠権を得るに至った。同様の他社の意匠、例えば、登録第344239号、同407639号、同第430575号の意匠登録出願はすべて、原告製品が販売された昭和43年より後の昭和44年以降である。
 原告は、上記意匠登録出願から3年弱経過した昭和43年7月1日に 、その形状の容器「くびれ瓶」に乳酸菌飲料を入れた商品の販売を開始した。その当時、上記意匠登録出願に係る形状と同一若しくは類似の形状の容器は市場に皆無であった。
 原告は、昭和53年5月から6月にかけて、上記意匠に加えて、一連の類似意匠登録出願等をした。これらによって、この種形状は昭和43年原告が市場で発売開始当時からユニークなものとして評判となり、乳酸菌業界では、「著しく特異な形状」として認識されるにいたり、市場独占のゆるぎない地位を長年月にわたり保持し続けた。昭和53年の類似意匠登録出願はあくまで、それまで10年余りにわたって培われてきた独占的地位を強化する目的でなされた。
 本願商標の形状の市場における優位性はゆるぎないもので、本願商標の形状は、強い識別力を有している。
(2) 意匠法との関係について
 審決は、「意匠法等により保護されている形状等について重ねて又はその権利消滅後商標登録することにより保護することは知的財産制度全体の整合性に不合理な結果を生ずることとなる」と判断したが、誤りである。
 現行法は、商標権と意匠権とで一部に重複することがあり得ることを念頭において、両者間の調整規定として、商標法第29条及び意匠法第26条を設けている。両法条の規定は、商標権と意匠権とが併存することがあることを前提としているが、意匠権消滅後に立体商標が存続し得るし、新たに、立体商標が登録されても何らおかしくない。要は、意匠権の対象となり得る美感を有する形状であれば、意匠法で保護されるのであり、立体商標の対象となり得る形状であれば、意匠権の存否とは全く無関係に、商標法で保護されるのである。

 

〔判  断〕

 

1. 商標法第3条第1項第3号の該当性について
 当裁判所も、本件出願の査定がその理由で示しているように、「本願商標は、その指定商品との関係よりすれば、多少デザインが施されてはいるが特異性があるものとは認められず、通常採用し得る形状の範囲を超えているとは認識し得ないので、全体としてその商品の形状(収納容器)の一形態を表したものと認識させる立体的形状のみよりなるもの」と判断するものである。原告は、本願商標の形状は著名なデザイナーに依頼して完成し、これと同様の形状につき意匠登録がされたと主張するが、この主張事実も、本願商標の指定商品「乳酸菌飲料」との関係からみて、多少デザインが施されているものの、その商品の収納容器について採用し得る形状の範囲を超えているものとは認識し得ないとの上記判断と矛盾するものではなく、上記判断を覆すに足りるものではない。
 本願商標は、指定商品である「乳酸菌飲料」の容器に関するものである。そこで、飲料に係る商品の容器の形状に係る立体商標についてみるに、このような容器の形状は、容器自体の持つ機能を効果的に発揮させたりする等の目的で選択される限りにおいては、原則として、商品の出所を表示し、自他商品を識別する標識を有するものということはできない。原告は、本願商標につき、「瓶の中程、真中より稍上部に丸みを帯びた「くびれ」を付したこと、「飲み口」の形状を「哺乳瓶の吸い口」の形状としたこと、「くびれ」によって、円筒部分の直径を大きくし、視覚上(見かけ)の大きさが小さく見えない形状となっていること」において、容器の形状が独特なものであると主張するが、これらの点を考慮しても、本願商標の指定商品である「乳酸菌飲料」の一般的な収納容器であるプラスチック製使い捨て容器(甲第4号証=本件審査における原告の平成10年5月20日付け意見書の参考資料第2号その2参照)の製法、用途、 機能からみて予想し得ない特徴が本願商標にあるものと認めることはできない。その他、本願商標が、商品の出所を表示し、自他商品を識別する標識を有するものであることに関する事実関係を認めるべき証拠はない。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するとした審決の判断に誤りはない。
2. 商標法第3条第2項の該当性について
 上記1に判断したところを前提にし、また、本件出願当時、既に本願商標の立体形状と同様に「くびれ」のある収納容器が原告以外の業者の乳酸菌飲料等の製品に多数使用されていたことが推認される点(甲第15号証、乙第6号証及び弁論の全趣旨)、他方、原告の商品である乳酸菌飲料「ヤクルト」について、その収納容器に「ヤクルト」の文字商標が付されないで使用されてきたことを認めるに足りる証拠はない点などをも併せ考えると、原告が主張するように、本願商標と同様の飲料製品が販売されたのは原告製品よりも後のことであることを斟酌してみても、原告の商品「ヤクルト」の容器が、その形状だけで識別力を獲得していたと認めるのは困難である。
 なお、乙第5号証の3によれば、原告が本願商標と同じ平成9年4月1日に出願した立体商標は、本願商標と同一と認められる収納容 器の形状とその下部円筒部に付された「ヤクルト」の文字商標とからなるものであるが、この立体商標は平成10年8月28日に登録され ていることが認められる。
 原告が審判で提出した参考資料について判断している審決の判断部分(審決の理由の要点(2)−5)における説示(そこに示されて いる参考資料は、本訴においては甲第4号証中の参考資料に対応する。)も支持することができる。そこに説示されている以外に、本願商標につき商標法第3条第2項に該当することを裏付けるべき事実関係を認めるべき証拠はなく、本願商標につき商標法第3条第2項の適用を否定した審決の誤りをいう審決取消事由も理由がない。
3. 判断のまとめ
 原告のその余の主張を斟酌してみても、「本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するものであって、同法第3条第2項の要件を 具備するものとも認められないから、登録することはできない。」とした審決の判断に誤りがあるということはできない。

〔研  究〕

1. 立体商標として出願された本願商標と同一の包装容器の形態は、昭和40年(1965)9月15日に意匠登録出願され、昭和50年(1975 )7月9日に設定登録された意匠登録第409380号に係る登録意匠と同一の形態から成るものであった。この意匠権は存続期間の満了によって平成2年(1990)7月9日に消滅した。
本願商標の出願は、立体商標制度がわが国商標法に導入施行され た平成9年4月1日であり、指定商品は第29類「乳酸菌飲料」であっ た。
 この経過から推測すると、意匠権者は前記登録意匠の意匠法による保護が消滅した後の保護を、さらに商標法に求めたといえる。
 これに対し、特許庁は、意匠法による保護対象と商標法による保護対象との違いを考え、商品又はその包装の形状であっても、使用によって自他商品の識別力を取得していると認められるならば、商標登録をすると考えているが、これは使用による自他商品の識別性を認めることを第一義とし、その形状自体が本来的に自他商品の識別性を有しているものとは想定していないように思われ、そしてこの考え方を基本的政策としているように思われる。
 けだし、意匠法の保護対象となる意匠は、新規性と創作力を有していれば登録され、15年間の存続期間を独占排他的効力によってエンジョイすることができるのであるから、その意匠自体、当然、容器としての「特異性」を意匠登録出願当時は有していたものと思われるのに、商標登録出願に対してはそれを否定しているからである。
 意匠権者(原告)が意匠登録出願後、15年以上商標登録出願までの間に継続的に特異形状に成る当該容器に係る意匠を全国的に使用して来ていれば、それは「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる」周知の商品形状となっていると推定することができるのであり、またこの事実は特許庁においても、顕著な事実であると解されるから、本件立体商標については、それだけでも商標法3条2項の条件をクリアーしているものと思われる。
2. ところで、筆者は、立体商標登録制度の商標法への導入は、それまでは不正競争防止法によって保護対象としていた商品形態を、商標登録をして商標権を与えるという行政行為によって、客観的かつ積極的に保護するという認知効果を発揮することにあったと考えている。したがって、商品の立体的形状はたとえ商標登録をしていなくても、今までどおり、もし争いがあれば、侵害裁判所において、不正競争防止法による保護を求めることができるのである。
 これを本件容器(立体商標)だけについてみれば、もし将来、同一又は類似の容器が他社によって使用されたならば、「YAKULT」や「ヤクルト」の文字標章が表示されていなくても、「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」として不競法2条1項1号の 適用があり得るであろう。
3. 本件は、意匠権消滅後の商標権の発生という工業所有権間の衝突問題であることは、審決理由に表われているが、もし意匠権が物品の「形状+模様」の結合から成る意匠である場合に、それについての立体商標の登録は可能かどうかが問われてもいるし、また例えば漫画キャラクターの「ポパイ」の絵の著作権の存続期間の満了後に、著作権者が商標登録の出願をした場合に拒絶するのかどうかが問われることにもなる。
 このような問題に直面したときには、筆者は各法律の保護法益がそれぞれ異なるという観点の違いから解決しなければならないし、そのような割り切り方でよいと考える。特許庁の立場は、わが国が立体商標登録制度を導入した理由を、大先輩である米国における同制度の歴史と実務を学ぶことによって、よく理解して考え直すべきではなかろうか。
 したがって、本件に対する特許庁や裁判所の考え方のように、立体商標登録制度の導入の原点に立ち返って考えないような判断は、審理を尽しているとは到底いえないのである。
 本件判決は上告されたというのであるから、上告審判決が注目されるところである。

[牛木理一]


 (1) 拙著「キャラクター戦略と商品化権」270頁参照