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出願商標「パームスプリングスポロクラブ」拒絶審決取消請求事件: 東京高裁平成11(行ケ)253号平成12年1月27日18民判(認容)、最高裁平成12(行ヒ)172号平成13年7月6日二小判(破棄、請求棄却)

〔キーワード〕 
ポロ、ポロシャツ、他人業務の商品との混同

 

〔事  実〕

 

 原告(株式会社ヘブンコーポレーション)は、平成4年7月24日、「PALM SPRINGS POLO CLUB」の欧文字と「パームスプリングスポロクラブ」の片仮名文字とを上下二段に横書きした構成よりなり、指定商品を第25類「洋服,コ−ト,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,げた,草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」とする商標 (以下「本願商標」という。)について商標登録出願(平成4年商 標登録願第145378号)をしたが、拒絶査定を受けたので、拒絶査定不服の審判を請求した。
 特許庁は、この請求を平成7年審判第6806号事件として審理した 結果、平成11年6月11日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決 をし、その謄本は平成11年7月7日原告に送達された。

 

〔審決理由〕

 

 審決の理由は、本願商標をその指定商品に使用する場合には、これに接する取引者、需要者は、その構成中の「POLO」、「ポロ」の文字に注目し、周知になっている引用商標(米国の著名なデザイナー「Ralph Lauren」(ラルフ・ローレン)がその取扱いに係る被服等の商品について使用している商標)を連想、想起し、ラルフ・ローレン若しくはザ ポロ/ローレン カンパニー リミテッド パートナーシップ、又はこれらと組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのようにその商品の出所について混同を生ずるおそれがあるから、本願商標は、商標法4条1項15号に該当し、商標登録をすることができないと判断した。

〔高裁の判決理由〕

1. 引用商標の周知性の程度について
 上記認定の事実を総合すると、被告が主張するとおり、引用商標は、昭和55年頃までには、我が国においてラルフ・ローレンのデザインに係る商品に付される商標として取引者、需要者の間に広く認識されるに至り、その強い識別力は現在においても継続しているというべきである。しかし、原告が主張するとおり、本願商標の出願当時、「POLO/ポロ」がポロ競技を意味することは我が国においても広く知られていたところである。
 したがって、本願商標のように結合商標中に「POLO/ポロ」が含まれている場合、当該商標からラルフ・ローレンに係る引用商標を連想するか否かは、上記の引用商標の強い識別力等を前提にして、個別具体的に判断するほかはない。
2. 引用商標の連想の有無について
 (ア) 本願商標は、「PALM SPRINGS POLO CLUB」の欧文字と「パ ームスプリングスポロクラブ」の片仮名文字とを上下二段に横書きした構成よりなるところ、甲19(研究社新英和大辞典)によれば、「PALM SPRINGS」は、世界的に有名な米国カリフォルニア州南東部の都市で、保養地であることが認められる。そして、弁論の全趣旨によれば、本願商標の出願当時、「PALM SPRINGS」は、その正確な位置等はともかく、米国にある保養地として日本においても広く知られていたことが認められる。
 そして、本願商標の出願当時、「POLO/ポロ」がポロ競技を意味することが我が国においても広く知られていたことは、前記のとおりであり、また、「クラブ」が「同じ目的の人々が作った団体」を意味するものと理解されることは明らかである。
 これらの点からすると、本願商標は、その出願当時、その指定商品の取引者、需要者がこれに接した場合、極く自然に、「PALM SPRINGS」にある「ポロ競技のクラブ」を意味するものと認識するものと認められ、ラルフ・ローレンに係る引用商標の周知・著名性を考慮しても、本願商標から、「PALM SPRINGS」にある「ラルフ・ローレンに係るポロ製品の愛好者のクラブ」との観念が生ずるとか、「POLO/ポロ」の部分のみが注目され、直ちに引用商標が連想されるとまで認めることはできない。
 (イ) 被告は、本願商標がポロ競技のクラブを連想させない理由 として、原告の提出に係る米国ポロ協会メンバークラブのリストによっても実在の団体を表したものとは認められない旨主張するが、本願商標がその指定商品の取引者、需要者によって「PALM SPRINGS」にある「ポロ競技のクラブ」と認識されるために、「PALM SPRINGS POLO CLUB」が実在することが不可欠の前提であると解することはできないところ、前記のとおり、本願商標の出願当時、「PALM SPRINGS」は米国にある保養地として日本においても広く知られていたこと、及びポロ競技が貴族的なスポーツとして受け取られていることからすると、「PALM SPRINGS POLO CLUB」が「PALM SPRINGS」にある「ポロ競技のクラブ」を意味するものと認識されるとみることに何ら影響を及ぼすものではないから、被告の上記主張は採用することができない。
 さらに、被告は、本願商標は、19字の欧文字と、13字の片仮名文字といった極めて多い文字を一様な大きさで書してなるものであり、これより生ずる「パームスプリングスポロクラブ」の称呼も、13音より構成されているものであるから、外観及び称呼上冗長といえるものであるから、「POLO/ポロ」の部分が注目される旨主張する。
 しかし、本願商標が、前記説示のとおり、「PALM SPRINGS」にある「ポロ競技のクラブ」を意味するものと認識されるものである以上、全体の称呼等が長いからといって、「PALM SPRINGS」の部分が生産地、販売地の場合のように除かれ、「POLO/ポロ」ないし「POLO CLUB/ポロクラブ」の文字のみが注目されると解することはできず、被告の上記主張は採用することができない。
 (ウ) まとめ
 以上によれば、本願商標をその指定商品に使用する場合に、これに接する取引者、需要者は、その構成中の「POLO」、「ポロ」の文字にのみ注目し、ラルフ・ローレンに係る引用商標を連想、想起するものとまで認めることはできず、この点の審決の認定、判断は誤りである。そして、この点の認定、判断の誤りが審決の結論に影響することは明らかである。

〔最高裁の判決理由〕

1. 原審の上記判断は是認することができない。その理由は,以下のとおりである。
 (1) 本号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。
 そして,上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)。
 (2) これを本件について見ると,次のとおりである。
ア 本願商標は,その外観上,4個の英単語及びこれに対応する片仮名文字から成るものであって,引用商標と同一の「POLO」,「ポロ」の語と,「PALM」,「パーム」,「SPRINGS」,「スプリ ングス」及び「CLUB」,「クラブ」の語とを組み合わせた結合商標である。また,本願商標は,全体として一個不可分の既成の概念を示すものとは認められないし,欧文字で19字,片仮名文字で14字から成る外観及び称呼が比較的長い商標であるから,簡易迅速性を重んずる取引の実際においては,その一部分だけによって簡略に表記ないし称呼され得るものであるということができる。
イ 引用商標は,ラルフ・ローレンのデザインに係る被服等の商品を示すものとして,我が国における取引者及び需要者の間に広く認識されているものであって,周知著名性の程度が高い表示である。もっとも,「POLO」,「ポロ」の語は,元来は乗馬した競技者により行われるスポーツ競技の名称であって,しかも,「ポロシャツ」の語は被服の種類を表す普通名詞であるから,引用商標の独創性の程度は,造語による商標に比して,低いといわざるを得ない。
 しかし,本願商標の指定商品は洋服等であって,引用商標が現に使用されている商品と同一であるか又はこれとの関連性の程度が極めて強いものである。また,このことから,両者の商品の取引者及び需要者が共通することも明らかである。しかも,本願商標の指定商品が日常的に消費される性質の商品であることや,その需要者が特別な専門的知識経験を有しない一般大衆であることからすると,これを購入するに際して払われる注意力はさほど高いものでないと見なければならない。すると,本願商標の本号該当性の判断をする上で,引用商標の独創性の程度が低いことを重視するのは相当でないというべきである。
ウ 本願商標を構成する「POLO」,「ポロ」の語以外の語句のうち,「PALM SPRINGS」,「パームスプリングス」がアメリカ合衆国にある保養地の名称として知られていること,「CLUB」,「クラブ」が同好の者が集った団体を意味する日常用語であることからすれば,本願商標から「パームスプリングスにあるポロ競技のクラブ」という観念が生じ得ることは,原判決の判示するとおりである。
 しかし,1個の商標から複数の観念が生ずることはしばしばあり得るところ,引用商標の周知著名性の程度の高さや,本願商標と引用商標とにおける商品の同一性並びに取引者及び需要者の共通性に照らすと,本願商標がその指定商品に使用されたときは,その構成中の「POLO」,「ポロ」の部分がこれに接する取引者及び需要者の注意を特に強く引くであろうことは容易に予想できるのであって,本願商標からは,上記の観念とともに,ラルフ・ローレン若しくはその経営する会社又はこれらと緊密な関係にある営業主の業務に係る商品であるとの観念も生ずるということができる。
 (3) 以上のとおり,本願商標は引用商標と同一の部分をその構成の一部に含む結合商標であって,その外観,称呼及び観念上,この同一の部分がその余の部分から分離して認識され得るものであることに加え,引用商標の周知著名性の程度が高く,しかも,本願商標の指定商品と引用商標の使用されている商品とが重複し,両者の取引者及び需要者も共通している。
 これらの事情を総合的に判断すれば,本願商標は,これに接した取引者及び需要者に対し引用商標を連想させて商品の出所につき誤認を生じさせるものであり,その商標登録を認めた場合には,引用商標の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招くという結果を生じ兼ねないと考えられる。そうすると,本願商標は,本号にいう「混同を生ずるおそれがある商標」に当たると判断するのが相当であって,引用商標の独創性の程度が造語による商標に比して低いことは,この判断を左右するものでないというべきである。
2. 以上によれば,原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,前記説示によれば,本願商標が本号に該当するとした本件審決に違法はなく,その取消しを求める被上告人の本訴請求は理由がないのでこれを棄却すべきである。
 よって,裁判官福田博の補足意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 裁判官福田博の補足意見は,次のとおりである。
 私は,原判決は本件と同様の事案についての当審の裁判例と相いれず,商標法4条1項15号の解釈適用を誤ったものとして破棄を免れないと思料するが,念のため,次のことを補足しておきたい。
 スポーツ競技の1つであるポロ競技は,主として英国及び旧英領の諸地域等において,今なお行われているものである。また,衣料品の種類を示すポロシャツの語は,本来ポロ競技の選手が着用したことにちなみ,米国の作家スコット・フィッツジェラルドのベストセラー小説「This Side of Paradise」(1920年出版)において初 めて使用されたとされており,ポロシャツが若い世代を中心に流行することになったことも知られている(寺澤芳雄編「英語語源辞典」,松村赳=富田虎男編著「英米史辞典」等参照)。そして,ポロシャツという名称は,米国にとどまらず,我が国を含め,広く各国において,普通名詞として用いられている。
 このように,「ポロ」ないし「POLO」,「Polo」の語は,ラルフ・ローレンの商標として使用されてはいるが,語源的には普通名詞なのである。また,ラルフ・ローレンがこれらの語を商標として使用し始めるのに先立って,ポロシャツの語が,ポロ競技の必ずしも盛んでなかった米国において,衣料品の種類を示す名称として広く使用されていたことも明らかである。これらの事情の下においては,「ポロ」ないし「POLO」,「Polo」の商標は,商標の本質的な機能の1つである商品の出所を表示する機能がある程度減殺されていると見るべきである。
 さらに,商標登録出願された商標の中に「ポロ」ないし「POLO」,「Polo」の字句が含まれている場合であっても,「ポロ」ないし「POLO」,「Polo」の語と結合された語がラルフ・ローレン以外の商品の出所を強く連想させるときや,当該商標の構成中にラルフ・ローレンとの関連性を打ち消す表示が含まれているときなどは,商標法4条1項15号該当性が否定され,商標登録を受けられる余地があるというべきである。

〔研  究〕

1. 不成立とした審決に対し、東京高裁がなした判断は、本件商標の文字標章を構成する言葉を、「PALM SPRINGS」というカリフォルニア州にある有名な地名、「POLO CLUB」というポロ競技の集うク ラブと解し、「パームスプリングスにあるポロクラブ」という観念を出す標章であることから、この名称によってかの著名なラルフ・ローレンゆかりのポロマークを連想するか否かが争点であった。
 高裁はその連想を否定したが、最高裁はこの連想を肯定したから、本件商標の出願は結局は登録されなかった。
2. 特許庁の審査方針は、「POLO」の文字又はポロ競技の図形は、その商品や役務が異なるものであっても、ラルフ・ローレンのポロとして商標法4条1項15号が適用され、その商品又は役務の出所が他人の業務に係る商品又は役務と混同を起こすものと判断することにしている。
 そこに、一石を投じたのが先の高裁判決であったが、この判決理由の考え方の方が、最高裁のそれよりも妥当であると私は考える。したがって、福田裁判官の少数意見は注目に価いする。

[牛木理一]