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登録商標「株式会社群馬電通」無効審決取消請求事件:東京高裁平成12(行ケ)458号.平成13年2月22日判決(6民部 )(認容)

〔キーワード〕 
著名略称(商号)、地名表示、商号商標

 

〔事  実〕

 

 被告(株式会社群馬電通)は、「株式会社群馬電通」の漢字を横書きにして成り、指定役務を第35類「看板による広告」とする登録第3033477号商標(平成4年9月25日出願、同7年3月31日設定登録。 以下「本件商標」といい、その登録を「本件登録」という。)の商標権者である。
 原告(株式会社電通)は、平成11年3月15日、本件登録商標は商 標法4条1項15号に該当するとして、その登録を無効とすることについて審判を請求し、特許庁は、これを平成11年審判第35118号事件 として審理した結果、平成12年10月17日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。しかし、この審決に不服の原告は、審決取消の訴訟を提起した。

 

〔判  断〕

 

1 本件商標が、原告の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがあるかについて検討する。
(1) 証拠によれば、次の事実が認められる。
(イ) 明治34年7月に日本広告(株)が、明治40年8月に(株)電報通信社が、それぞれ設立され、後者の設立と同時に両会社が合併して(株)日本電報通信社が設立された。(株)日本電報通信社は、昭和11年6 月、通信部門が社団法人同盟通信社に、広告部門が(株)日本電報通信社に、それぞれ統合され、後者は、昭和30年、社名を「株式会社電通」と改称して現在に至っている。これが原告である。原告の平成3年におけ る資本金は46億800万円、平成9年におけるそれは549億2960万円であ る。
(ロ) 原告は、戦前に、通信業と広告業を兼務していた時代、積極的な営業活動を展開し、売上高日本第1位を達成した。業務内容が広告業のみとなってからも売上高日本第1位の座を維持し、戦後の業績をみると、常に日本の広告費の5分の1強から4分の1を下らなかった。昭和48年には、その売上高で世界第1位となり、現在でも世界第1位の座を維持している。原告の売上高は、平成元年には1兆円を超えている。
(ハ) 原告は、社内において、遅くとも大正6年ころには、自社の略 称として「電通」の名称を使用するようになり、昭和25年ころには、本社及び支社の看板に「電通」、「DENTSU」の文字を使用し、本社ビル、自社の出版物、広告懸賞論文の募集等に自社を表すものとして「電通」の名称を使用し、昭和30年には、前記のとおり、商号を「株式会社電通」に改称するに至った。
(ニ) 原告は、本件商標の登録出願がなされた平成4年9月当時、組織、事業活動ともに大規模なものとなっており、この状態は現在に至るまで続いている。
 原告は、平成7年には、全国の支社を分離して、5つの地域法人 ((株)電通東日本、(株)電通西日本、(株)電通九州、(株)電通北海道、(株)電通東北)を設立し、地域に密着した営業体制とし、新聞、雑誌、テレビ、ラジオをはじめとする多様な広告媒体によって広告業務を営んでいる。また、原告の平成12年11月現在における国内の関連会社は、(株)電通東日本、(株)電通西日本、(株)電通九州、(株)電通北海道、(株)電通東北、(株)電通沖縄、(株)アド電通東京、(株)アド電通大阪、(株)アド電通(名古屋)、(株)アド電通(北海道)、(株)電通EYE、電通ヤング・アンド・ルビカム(株)、電通サドラー・アンド・ヘネシー(株)、(株)インピリック電通、(株)電通パブリックリレーションズ、(株)電通リサーチ、(株)電通テック、(株)電通音楽出版、(株)電通国際情報サービス、(株)サイバー・コミュニケーションズ、(株)シー・エー・エル、(株)電通ドットコム、(株)ミュージック・ガリ、(株)ビーツーアイ、(株)電通キャスティング アンド エンタテインメント、(株)電通恒産サービス、(株)電通マネジメント・サービス等である。その他、上記主要な関連会社である(株)電通東日本、( 株)電通西日本、(株)電通九州、(株)電通北海道、(株)電通東北は、 その傘下に支社あるいは営業所を有し、それぞれが独自の広告業務を行っている。
(2) 上記認定の事実によれば、原告は、本件商標の登録出願がなされた平成4年9月当時、世界第1の売上高を有する広告会社で、その事業の範囲は広く日本全国に及び、また、遅くとも昭和25年ころから平成4年まで、約42年間にわたり「電通」及び「DENTSU」 の文字を使用して営業活動を営んでいたことが認められ、同事実によれば、「電通」の略称は、原告の業務を表示するものとして、本件商標の登録出願前に、取引者・需要者間に広く認識され、全国的に著名となっていたことが認められる。そして、このような取引の実情の下においては、「電通」の略称は、原告及び原告の業務を想起させる機能を持つに至り、現在に至っているということができる。
(3) 本件商標が、「株式会社群馬電通」の漢字を横書きにして成り指定役務を第35類「看板による広告」とする登録商標であることは、当事者間に争いがない。
 本件商標のうちの「電通」の文字は、原告の著名な略称である「電通」と外観、称呼において共通であることが認められる。「株式会社」が法人の種類を表し、「群馬」の文字が群馬県を表すことはいうまでもないところであるから、結局、本件商標は、著名な略称である「電通」と同じ文字を含むことにより、この文字部分が、取引者・需要者に対して、役務の出所の標識として強い印象を与えるものと認められる。したがって、本件商標の「株式会社群馬電通」の文字に接した取引者・需要者は、例えば、「群馬電通」の語句が一体不可分のものとしてしか把握され得ないような特殊な事情でもない限り、その文字の意味内容に照らし、「群馬県に所在する電通」の意味に理解することが少なくないことが明らかである。そして、本件全証拠によっても、上記のような特殊な事情を見出すことができない。
 原告の著名な略称である「電通」が使用される役務が広告業であることは、前述したとおりである。一方、本件商標の指定役務は、「看板による広告」であるから、役務において共通していることは明らかである。
 以上によれば、被告がその業務に本件商標を使用したときには、当該役務が原告又はその関連会社の取扱いに係る役務であるかのように誤解され、役務の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
(4) 被告は、本件商標は、被告の名称からなる商号商標であり、その略称の「群馬電通」が一体として主要部を形成している旨主張し、審決も、簡易迅速を旨とする取引の経験則に照らすと、本件商標の「株式会社群馬電通」の文字のうち、法人格を表す「株式会社」の部分が省略され、また、格別の事情がないかぎり法人格を表わす部分以外の名称全体をもって取引に資されるのが通常であるから、本件商標は「群馬電通」が一体となった略称であると認定している。
 確かに、「群馬電通」の商標が、限られた地域において、一定期間使用されていれば、被告を「群馬電通」という一体の略称でのみ把握する取引者・需要者もある程度出現することにはなるであろう。しかし、「群馬電通」の一体性は、その限度で認められるだけである。「群馬電通」の語句は、「電通」が原告の著名な略称であることを抜きにしても、社会通念に照らしてみれば、元来、「群馬」と「電通」という独立した意味内容を有する二つの語を結び付けたものとして把握され、認識されることが明らかであり、文字としても不可分一体のものとなりにくい語句なのである。まして、前述のとおり、「電通」が原告の著名な略称であることからすれば、上記一部の者を除いた一般の取引者・需要者が、本件商標に接すれば、その役務が原告又はその関連会社の取扱いに係る役務であるかのように誤解し、役務の出所について混同を生ずるおそれがあることは明らかである。
 審決の上記「格別の事情がないかぎり法人格を表わす部分以外の名称全体をもって取引に資されるのが通常である」との判断は、限られた地域の一部の取引者・需要者のみを念頭におき、この一部の者を除いた一般の取引者・需要者を考慮に入れないものであって、失当というほかない。
(5) 被告は、被告その他の電柱広告を業務とする広告会社が、日本電信電話公社の外郭団体である財団法人電気通信共済会の指示または提案により、「電通」の文字を含む商号を採用したうえ、永年にわたり、日本全国において広く、特定の地名又は地域名と「電通」の文字を一部に有する商標を使用してきたのであるから、被告が本件商標をその指定役務に使用しても、その役務が原告又は原告と何らかの関係がある者の業務に係る役務であるかのように、役務の出所について混同を生じさせるおそれはない旨主張する。
 しかし、「群馬電通興業株式会社」あるいは「株式会社群馬電通」、「東北電通興業株式会社」、「株式会社茨城電通」、「神奈川電通広告株式会社」、「城南電通株式会社」等の標章が、どの地域で、どれだけの期間、どのようにして使用されてきたのかについては、全く主張立証がない。
 仮に、上記標章が、一部の地域で、一定期間、広告に使用されて、その結果、例えば「群馬電通」、「東北電通」、「茨城電通」、「神奈川電通」、「城南電通」といった語句を一体としてのみ把握する者が存在するに至っているとしても、そのことは、一般の取引者・需要者が混同するのを妨げる事情とはなり得ない。

〔研  究〕

 この判決は、特許庁が現在でも、商号商標の内容をよく考えることなく甘い判断で登録していることへの警告である。「電通」それ自体の著名性を考えるならば、登録主体が「電通」とは無関係な者である以上、「他人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標(商標4条1項15号)として拒絶して然るべきである。また、もし類似する役務を行っている者であれば、商標法4条1項10号の適用も十分可能であろう。

[牛木理一]