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登録商標「リーバイス・ポケット図形」無効審決取消請求事件:東京高裁平成11(行ケ)166号.平成 11年12月15日判決(棄却)〔13民部〕

〔キーワード〕

図形標章、ヒップポケットの五角形状、横断二重破線、商品の誤認、商品出所の混同

 

〔判示・認定事項〕 

  1. ジーンズについては、原告・被告を含むジーンズメーカー10社がいずれも、ジーンズの背面後部に位置するヒップポ ケットを、上部が水平で左右両辺が下方に垂直かやや窄まりながら垂下し、その下端が内側に折曲又は湾曲して下部を形成し、その下部の中心には頂点を有する左右対象の五角形又はこれに極めて近似した形状としており、その内側周囲を二重のステッチによって縫い付けているもので、この共通する五角形又はこれに極めて近似した形状の内側に設けられたステッチのデザインは、各ジーンズメーカーによって異なっているものであるから、審決が、「ジーンズを取り扱う業界においては、ジーンズのヒップポケットが実線とその内側に実線に沿って二重の破線を配した左右相対の五角形の外形をしており、その内側のステッチデザインがメーカーによって異なることが認識されているものといえるし、前記五角形の図形に接する取引者、需要者は、それがジーンズ以外の商品について使用されたとしても、それをヒップポケットの形状を表した図形と認識し理解するというのが相当である。」と判断したことに誤りはない。
  2. 各ジーンズメーカーに共通する五角形又はこれに極めて近似した形状を実線により形成し、その実線の内側に沿って二重の破線を配した図形において、その内部に二重破線等により工夫を凝らした様々な模様を形成したものが、本件商標の属する指定商品を取り扱う多くのメーカーによって、商標登録され、あるいは商標登録出願されているものと認められるから、審決が、「この種業界においては、前記五角形の外形そのものは、ありふれたものであり、自他商品識別力がないか又は極めて弱いものであって、その内部に表された形状が自他商品識別の際の重要な要素になるものといわなければならない。」と判断したことにも誤りはない。
  3. 図形を主とする商標の類否判断において、当該商標の属する指定商品の分野における多数の商標登録又は商標登録出願により既にありふれた形状となっている部分と、工夫を凝らした様々な模様を形成した部分とが認められ、図形上、両者を分離して認識することが可能である場合、後者の部分を看者の注意を惹く要部として把握し、この点を重視してその類否判断を行うことは当然であり、これを非難する原告の主張には理由がない。
  4. 本件商標及び引用商標の属する指定商品の分野において、前記五角形の外形がありふれた形状であるのに対し、その内側の部分が、工夫を凝らして形成された要部と認められる以上、その部分における上記の差異は、商標全体の印象に大きな影響を及ぼすものといわなければならず、その結果、両商標は、看者にとって外観上別異のものと認識される。
  5. 五角形の外形を上下二分する横断二重破線が、本件商標では、大部分が直線であって、中央の湾曲部分もその曲がり度合いがわずかであり、全体として直線状のものと強く印象づけられるのに対し、引用商標では、その二重破線の全体が曲線で形成され、左右に2つの湾曲状態であることが明瞭に認 識できるから、両商標が別異のものと看取される。
  6. 本件商標と引用商標とは、相紛れるおそれのない別異のものであり、また、ジーンズを取り扱うこの種業界において、前記五角形の外形よりむしろその内部に表された形状が、自社商品の識別上、重要な要素を占めるものと認められるか ら、審決が、「本件商標をその指定商品について使用して も、これに接する取引者、需要者が請求人又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如くにその出所について混同するおそれはない」と判断したことに誤りはない。

〔事  実〕

 被告(株式会社ビッグジョン)は、別紙「1.本件商標」のとおりの構成よりなり、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品とする登録第2716443号商標(昭和63年2月25日登録出願、平成8年 9月30日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である 。
 原告(リーバイ・ストラウス・アンド・カンパニー)は、平成 9年12月2日、被告を被請求人として、本件商標につき登録無効の審判の請求をした。
 特許庁は、同請求を平成9年審判第20434号事件として審理した上、平成11年1月19日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審 決をし、その謄本は同年2月10日、原告に送達された。

 

〔判  断〕

 

1 審決の理由中、本件商標が、別紙図2「1.本件商標」のとおりの構成よりなり、第17類「被服、布製身回品、寝具類」とすること、引用商標1が、同別紙図1「2.引用商標」のとおりの構成よりなり、引用商標2が、同別紙図1「3.引用商標」のとおりの構 成よりなり、両商標が、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)、布製身回品(他の類に属するものを除く)、寝具類(寝台を除く)」を指定商品とすること、本件商標と引用商標とが「既成の称呼及び観念を生ずるものともいえない」(審決書15頁5〜6行)ことは、いずれも当事者間に争いがない。

2 取消事由1(外観上の類否判断の誤り)について
(1) 本件商標と引用商標とが、「いずれも実線とその内側に実線に沿って二重の破線を配した左右相対の五角形の外形とその外形を上下に二分するように横断する二重破線を配した図形からなるものである」(審決書13頁9〜12行)ことは、当事者間に 争いがない。
 ところで、商品広告雑誌である「ホットドッグ・プレス」の昭和57年4月10日付け抜粋(審決甲第9号証本訴甲第11号証)によれば、細綾織りの綿布製のズボン、すなわち、ジーンズについては、原告・被告を含むメーカー10社がいずれも、ジーンズの背面後部に位置するヒップポケットを、上部が水平であり、左右両辺が下方に垂直かやや窄まりながら垂下し、その下端が内側に折曲又は湾曲して下部を形成し、その下部の中心に頂点を有する左右対象な五角形又はこれに極めて近似した形状としており、その内側周囲を二重のステッチによって縫い付けているものと認められ、この共通する五角形又はこれに極めて近似した形状の内側に設けられたステッチのデザインが、各ジーンズメーカーによりそれぞれ異なっているものと認められる。
 そうすると、審決が「ジーンズを取り扱う業界においては、ジーンズのヒップポケットが実線とその内側に実線に沿って二重の破線を配した左右相対の五角形の外形をしており、その内側のステッチデザインがメーカーによって異なることが認識されているものといえるし、前記五角形の図形に接する取引者、需要者は、それがジーンズ以外の商品について使用されたとしても、それをヒップポケットの形状を表した図形と認識し理解するというのが相当である。」(審決書13頁19行〜14頁4行 )と判断したことに誤りはないといわなければならない。
 また、図3に示すように、前記第17類を指定商品とする登録第1673824号商標 (審決及び本訴乙第1号証)、登録第2316134号商標(同第2号 証)、登録第2453240号商標(同第3号証)、登録第2687273号 商標(同第4号証)、登録第2687281号商標(同第5号証)、登 録第2687282号商標(同第6号証)、登録第2694387号商標(同 第7号証)、登録第2694989号商標(同第8号証)及び登録第 2719186号商標(同第9号証)並びに平成3年政令第299号による改正後の商標法施行令の区分による第25類を指定商品とする登録第3171115号商標(同第10号証)、登録第3186518号商標(同第11号証)、商公平8-53909号公報(同第12号証)商公平 8-73770号公報(同第13号証)商公平8-53910号公報(同第 14号証)及び商公平8-73774号公報(同第15号証)によれば、前記の各ジーンズメーカーに共通する五角形又はこれに極めて近似した形状を実線により形成し、その実線の内側に沿って二重の破線を配した図形において、その内部に二重破線等により工夫を凝らした様々な模様を形成したものが、本件商標の属する指定商品を取り扱う多くのメーカーによって、商標登録され、あるいは商標登録出願されているものと認められる。
 そうすると、審決が、「この種業界においては、前記五角形の外形そのものは、ありふれたものであり、自他商品識別力がないか又は極めて弱いものであって、その内部に表された形状が自他商品識別の際の重要な要素になるものといわなければならない。」(審決書14頁9〜13行)と判断したことにも誤りは ないものといわなければならない。
 原告は、ジーンズのヒップポケットの形状には、五角形の下側部分が円弧状であるもの、五角形の縦と横のバランスが異なるもの、ポケットの外周の内側に二重破線をデザインとして利用していないものなどがあり、本件商標及び引用商標における五角形の部分が、直ちに「ありふれたもの」、あるいは「識別力の弱いもの」とはいえないと主張する。
 確かに、ジーンズのヒップポケットの形状を、特に些細な点にまで注意して観察すれば、原告主張のような形状のものも認められるが、その基本的な構成態様はいずれも、前示のとおり、上部が水平であり、左右両辺が下方に垂下し、その下端が内側に折曲又は湾曲して、その下部の中心に頂点を有する左右対象な五角形又はこれに極めて近似した形状を有するものであり、多数のジーンズメーカーにおいてその内側周囲を二重のステッチによって縫い付けているものと認められる以上、そのような構成を採用する本件商標及び引用商標のようなヒップポケットの形状において、前記五角形の部分が、看者に強い印象を与えるものでないことは明らかであり、この部分の有する自他商品識別力が弱いものであることも当然といえるから、原告の主張を採用する余地はない。
 また、原告は、外周の二重破線部分とその「内部に表された形状」とは、同じ色と太さの破線、かつ二重の波線間の間隔もほぼ同じものからなり、それら両者の配列が、一体としたデザインとして認識される以上、「内部に表された形状」が要部であり、「実線とその内側に実線に沿って二重の破線を配した左右相対の五角形」が付加的な部分として分離する必要性・合理性はないと主張する。
 しかし、図形を主とする商標の類否判断において、当該商標の属する指定商品の分野における多数の商標登録又は商標登録出願により既にありふれた形状となっている部分と、工夫を凝らした様々な模様を形成した部分とが認められ、図形上、両者を分離して認識することが可能である場合、後者の部分を看者の注意を惹く要部として把握し、この点を重視してその類否判断を行うことは当然であり、これを非難する原告の主張に理由がないことは明らかである。
 以上の認定事実等に照らして、原告の、前記五角形の「内部に表された形状」の位置及びこれが五角形全体の中で占める割合を重視した全体のイメージが非常に重要であるとの主張、従前の特許庁における登録異議の申立てについての決定において、五角形の形状も含む全体としての構成に同一性があることが理由とされていたとの主張が、いずれも採用できないことは明らかといわなければならない。
(2) 本件商標と引用商標とが、「いずれも前記五角形の形状を基調とするものであるが、その五角形の外形を上下二分するように横断する二重破線を配した形状において、本件商標は大部分が直線であり、中央で湾曲している部分もその曲がり度合いがわずかで、しかも交差することなく下方部分が離れているのに対し、引用商標全体が曲線になっており、中央部において左右両方向からの曲線の末端が交差し、その交差部分に小さな三角形を配置した如き形状をしているという差異」(審決書14頁14〜22行)を有していることは、当事者間に争いがない。
 そして、前記のとおり、本件商標及び引用商標の属する指定商品の分野において、前記五角形の外形がありふれた形状であるのに対し、その内側の部分が、工夫を凝らして形成された要部と認められる以上、その部分における上記の差異は、商標全体の印象に大きな影響を及ぼすものといわなければならず、その結果、両商標は、看者にとって外観上別異のものと認識されることが明らかである。
 原告は、本件商標において看者の印象に残るのが、二重の破線が並行しながら、五角形の両端中段部から中心部に向かって下方になだらかな曲線を描いているというイメージであり、引用商標との相違点である、破線の交差点において下方部分が離れている点や、破線の両端3分の2が直線であるという点は、全体の印象の中で非常に小さなものにすぎないと主張する。
 しかし、前示争いのない事実のとおり、五角形の外形を上下二分する横断二重破線が、本件商標では、大部分が直線であって、中央の湾曲部分もその曲がり度合いがわずかであり、全体として直線状のものと強く印象づけられるのに対し、引用商標では、その二重破線の全体が曲線で形成され、左右に2つの湾 曲状態であることが明瞭に認識できるから、両商標が別異のものと看取されることが明らかであり、この点に反する上記原告の主張は、これを採用することができない。
 したがって、審決が、「これらの差異が全体に与える影響が決して少なくなく、両者は全体として看者に別異の印象を与えるものである。」(審決書14頁22行〜15頁2行)と判断したこ とに誤りはなく、その結果、「両商標は外観において彼此紛れることなく、区別し得るものというのが相当である。」(同 15頁3〜4行)と判断したことにも誤りはない。
3 取消事由2(商品の出所についての混同のおそれ)について
 以上のとおり、本件商標と引用商標とは、相紛れるおそれのない別異のものであり、また、ジーンズを取り扱うこの種業界において、前記五角形の外形よりむしろその内部に表された形状が、自社商品の識別上、重要な要素を占めるものと認められる。
 そうすると、審決が、「本件商標をその指定商品について使用しても、これに接する取引者、需要者が請求人又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如くにその出所について混同するおそれはない」(審決書15頁 19〜22行)と判断したことに誤りはないといわなければならない。
 原告は、本件商標と引用商標における図形の細部に若干の差異はあるものの、その構成が同一であり、両商標を隔離的に全体としてみた場合にこれらの差異は微差にすぎないから、両商標は、外観において相紛れるおそれの高い類似の商標であり、本件商標をその指定商品に使用すると、取引者・需要者が、該商品を原告又は原告と経済的・組織的に何らかの関係がある者の製造販売に係る商品と誤認し、商品の出所の混同を生じるおそれ高いと主張する。
 しかし、両商標の構成が同一であり、両商標を隔離的に全体としてみた場合これらの差異は微差にすぎないとする主張自体が誤りであることは、前示のとおりであるから、原告の上記主張は、その余の点について検討するまでもなく、到底これを採用することができない。
 また、原告は、ジーンズの主要な消費者が、十代を中心とした若年層又はこれらを子供に持つ主婦層等のごく一般の人々であり、商品に対する専門的な知識を有する者ではないから、このような一般消費者が本件商標を見た場合、その外観より原告の商品であると識別し、商品を購入するものと考えられ、両商標の差異を認識するのは、特別な商品知識を持った業者や収集家に限られると主張する。
 しかし、前示のとおり、本件商標及び引用商標における前記五角形の外形が、ジーンズのヒップポケットにおけるありふれた形状であり、その内部に表された形状が自他商品の識別力を有するものと認められる以上、原告の主張する一般の消費者においても、商品を識別するためには、当然、この内部の形状の相違に着目しており、引用商標が付された原告商品に対しても、前記五角形の内部に表された形状が他の商標と異なることを認識し、この認識に基づいて原告の商品であることを識別しているものと推認されるから、本件商標と引用商標の差異を認識するのが特別な商品知識を持った業者や収集家に限定されるものでないことは明らかであり、原告の主張を採用する余地はない。
4 以上によれば、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、審決が、「本件商標は商標法第4条第1項第11号及び同第15号のいずれにも該当しない」(審決書16頁2〜3行)と判断したことは正当であり、他に審決を取り消すべき瑕疵はない。

〔研 究〕

 ジーンズのヒップポケットにみられるステッチラインは、もともとのポケット部分の模様デザインとして縫製されたものと思われるから、その商標登録は、かってパーカーペンのクリップ部分の矢羽根デザインがそうであったように、一種の立体商標といえるものである。したがって、新規性を喪失したり15年間の存続期間が満了したデザインにあっては、商標登録に方向転換することができる。その場合でも、自他商品の識別力を十分具備した創作性のあるデザインであることが要求されると考えるべきであろう。

[牛木理一]