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Tシャツ並行輸入事件:東京地裁平15(ワ)3396平成15年6月30日判(一認)〔特ニ11150号〕

〔キーワード〕

真正商品の並行輸入、税関の禁制品認定手続、差止請求権不存在確認請求、輸入・販売

〔事  実〕

 被告(株式会社ボディーグローブ・ジャパン)〈専用使用権者〉の親会社の米国法人ボディー・グラブ・インターナショナル・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー(以下、BGIという)は、旧17類被服その他本類に属する商品について、昭和57年6月18日に出願し、昭和61年12月24日に設定登録された商標登録第1921224号に係る本件商標(別紙商標目録2)の商標権者である。
(1) 被告は、平成10年12月11日、本件商標権について、地域を日本全国、期間を平成18年12月24日まで、内容を指定商品全部として、専用使用権の設定を受け、平成11年2月1日にその登録がなされた。
(2) マレーシアにおいて、前記BGIによって、本件商標と同一又は類似のマレーシア商標が、ティーシャツ、ポロシャツを指定商品として商標登録されている。マレーシア法人であるビージーマーケティング(以下、BGMという)は、BGIとのライセンス契約により、ティーシャツ及びポロシャツにマレーシア商標を付して、これをマレーシア国内で製造販売することの許諾を得ている。
(3) 原告は、平成14年4月ころ、マレーシア商標の付されたティーシャツ及びポロシャツ2279枚を輸入しようとした。これに対して、東京税関大井出張所長は、同年6月3日、上記各商品について、関税定率法21条4項に基づき禁制品認定手続を開始した(上記の各商品を以下「本件商品」と総称する)。しかし、東京税関大井出張所長は、平成15年5月6日、本件商品は関税定率法21条1項5号に掲げる貨物に該当しない旨の認定をした。
 本件商品の商品下げ札のホログラムシールには、“USA APPROVED”との表示がある。
本件は、別紙商標目録1記載の各商標(以下、マレーシア商標と総称する)の付されたティーシャツ及びポロシャツを輸入した原告が、マレーシア商標と同一又は類似の商標についての商標権の専用使用権者である被告に対して、上記商品の輸入は真正商品の並行輸入であるから違法性が阻却されるとして、同商品の輸入及び販売を差し止める権利を有しないことの確認を求めた事案である。

 
〔判  断〕

 

 原告は、本件商標と類似するマレーシア商標が付された本件商標権の指定商品に含まれるティーシャツ及びポロシャツ(本件商品)を、本件商標の我が国における商標権者及び専用使用権者の許諾を得ずに輸入している。そこで、本件商品の輸入及び販売(以下両行為を併せて「輸入」という場合がある。)が適法であるか否かについて検討する。
1 事実認定
 前記前提となる事実、証拠並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。
(1) 被告は、平成10年12月11日、本件商標権について、商標権者であるBGIから、地域を日本全国、期間を平成18年12月24日まで、内容を指定商品全部として、専用使用権の設定を受け、平成11年2月1日、その旨の登録を受けた。他方、BGMは、本件商標の商標権者であるBGIとの間でライセンス契約を締結し、ティーシャツ及びポロシャツにマレーシア商標を付して、これをマレーシア国内で製造販売することの許諾を得た。本件商品は、BGMがマレーシアにおいて製造、販売したものである。
(2) 原告は、平成14年4月ころ、マレーシアの法人であるチーフリソースイズ社から本件商品を輸入しようとしたが、東京税関大井出張所長は、同年6月3日、本件商品について、関税定率法21条4項に基づき禁制品認定手続を開始した。しかし、同所長は、平成15年5月6日、本件商品は本件商標権を侵害しないことを理由として、本件商品は関税定率法21条1項5号に掲げる貨物に該当しない旨の認定をし、これにより、原告は、本件商品を輸入することができた。
(3) 本件商品のうち、ティーシャツには織ネーム、裾、胸の部分に、ポロシャツには織ネーム、左胸、背中肩の部分に、それぞれマレーシア商標が付されている。
 また、本件商品には、商品下げ札2枚が付されており、そのうちの1枚の表側には、青色のモノトーンの波の写真、マレーシア商標、“California Lifestyle”及び“since 1953USA.”の各文字、直径約14ミリメートルの円形のホログラムシール等が印刷され、同ホログラムシールには、直径約9ミリメートルの円、左掌の図形、“BODYGLOVE”及び“USA APPROVED”の各文字が、光の角度によって浮き出て見えるように印刷されている。
2 判断
(1) 上記認定した事実を基礎として、原告が本件商品を輸入することが、いわゆる真正商品の並行輸入として実質的違法性を欠くといえるかについて検討する。
 商標法は、商標登録制度を設け、商標権者に登録商標を、指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という場合がある。)に独占的に使用する権能を付与している。このように、登録商標権者のみに対して、登録商標の使用を許す法制度が設けられたことにより、商標権者は、第三者が当該登録商標と同一又は類似の商標を使用することによって生ずる商品ないし役務の出所の混同を阻止できるという本来的な目的を達成することができる。需要者の立場からは、商品ないし役務に使用された登録商標を見ることによって、その出所を識別することができることになる。すすんで、商標権者は、登録商標権に付与された独占的な使用権能、すなわち、第三者が当該登録商標と同一又は類似の商標を、指定商品等に使用することを阻止し、また、自己のライセンシーが当該登録商標を使用して製造する商品や提供する役務の質を管理することのできる権能を有効に活用することを通して、自己の出所に係る商品ないし役務の品質の維持や、そのような品質管理を実施した結果として商標権者自身の信用の維持を、事実上図ることができる。需要者の立場からは、商標権者がそのような管理をする限りにおいて、当該商品ないし役務に使用された登録商標を見ることによって、商標権者の出所に係る商品ないし役務の品質を識別することができることになる。
 ところで、商標権者以外の第三者が、我が国における商標権に係る商品と同一の商品について、その登録商標と同一又は類似の商標を付したものを輸入する行為は、形式的には、商標権を侵害することになる。
 しかし、そのような商品の輸入行為であっても、当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者によって付されたものであり、当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は同一人と同視し得るような関係がある場合には、そもそも当該商標は我が国の登録商標と同一の出所を表示するものと評価されるのであるから、およそ出所の誤認混同を避ける必要性がないという意味で、商標権侵害としての実質的な違法性を欠くといえる。なぜなら、当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一視できる場合であると解される以上、当該商品の出所が、そのいずれであるかは、商標法の趣旨に照らして、特段の事情のない限り、保護に値する利益とはいえないからである。
 ただし、上記のような場合であっても、我が国の商標権者が、前記の商標権の独占権能を活用して、自己の出所に係る商品独自の品質ないし信用の維持を図ってきたという実績があるにもかかわらず、外国における商標権者の出所に係る商品が輸入されることによって、そのような品質ないし信用を害する結果が現に生じたといえる特段の事情があるときは、例外的に、当該商品が外国の商標権者を出所とするものであるか、我が国の商標権者を出所とするものであるかを識別すべき利益が生じ、この利益は保護に値するといって差し支えない。
 以上総合すると、登録商標と同一又は類似の商標を付した商品を輸入する行為は、当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者によって付されたものであり、当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一視できるような関係があれば、原則として、商標権侵害としての実質的な違法性を欠くといえるが、上記のような場合であったとしても、我が国の商標権者が、自己の出所に係る商品の品質ないし信用の維持を図ってきたという実績があり、外国における商標権者の出所に係る商品が輸入されることによって、そのような品質ないし信用の維持を害する結果が現に生じたといえる特段の事情があるときは、商標権侵害を構成するというべきである。
(2) 本件において、この点を考察する。
 本件商品はBGMによりマレーシアにおいて製造されたものである。そして、前記のとおり、本件商品を製造したBGMは、本件商標の商標権者であるBGIとの間でライセンス契約を締結し、同契約によりティーシャツ及びポロシャツにマレーシア商標を使用することの許諾を得たこと、マレーシア商標は本件商標と同一ないし類似していることから、マレーシア商標の商標権者と本件商標の商標権者とは同一人であるか、実質的に同一人と同視できるものと推測される。
 したがって、マレーシア商標が付された本件商品を輸入する原告の行為は、いわゆる真正商品の並行輸入として実質的な違法性を欠く。また、本件全証拠によるも、後記(3)及び(4)のとおり、マレーシア商標が付された本件商品が輸入されることによって、BGIの出所に係る商品の品質ないし信用の維持を害する結果が現に生じたと認めることはできない。
(3) 被告は、本件商品には、“USA APPROVED”との表示がされた商品下げ札が付されているが、BGIはBGMに対して、このような表記がされることを許諾したことはないから、BGMは、BGIから許諾された範囲を超えた態様でマレーシア商標を使用していることになり、本件商品の輸入は、実質的な違法性を欠くとはいえない旨主張する。しかし、被告の主張は、以下の理由により失当である。
 まず、商標の出所表示の観点から考察する。本件全証拠によっても、BGIとBGMとの間で締結されたマレーシア商標の使用許諾に関するライセンス契約において、BGMが、その製造する商品に、“USA APPROVED”との表示を付加することを禁止する旨の合意があったと認めることはできないので、被告の主張は、そもそもその前提を欠く。そして、仮に、被告の主張するような付加的な表示を禁止する旨の合意があったとしても、商標とは別に、アメリカ合衆国承認という趣旨の“USA APPROVED”という付加的な表示をすることを禁止する旨の合意は、商品の出所を識別するために何らかの意味を有する合意であるとは解しがたいことに照らすならば、たとえ、被告商品については“Japan Approved”との表示が付されていたという事情が存在することを前提にしたとしても、“USA APPROVED”との表示を付加した本件商品の輸入は、本件商標の出所表示機能を害することにはならないから、商標権侵害としての実質的な違法性を欠くのであって、その余の点を判断することなく、被告の主張は理由がないことになる。
 なお、商標の品質ないし信用維持の観点からも、念のため考察する。仮に、BGIとBGMとの間において、被告の主張するような付加的な表示を禁止する旨の合意があったとしても、そのような合意は、商品に対する品質を管理するために何らかの意味のある合意と解することはできない。たとえ、仮に、被告商品に限り、“Japan Approved”との表示が付されることにより、需要者が同表示によって、何らかの流通経路に関する区別をすることがあったという事実が存在することを前提としても、なお、BGMが、そのような合意に違反して、“USA APPROVED”との表示を付加した本件商品を販売し、原告がこれを購入して、我が国に輸入する行為が、BGIの出所に係る商品の品質ないし信用維持を害する結果を生じせしめる行為と評価することはできない。
(4) 被告は、@BGIとBGMとの間のライセンス契約においては販売地域の取決めがあること、A本件商品は、原告の発注に基づき、原告が日本で販売するために製造されたものであり、原告は本件商品をBGMから直接購入したことを前提として、上記の販売地域制限条項に違反するから、本件商品を輸入する原告の行為は、実質的な違法性を欠くとはいえない旨主張する。しかし、被告の主張は、以下の理由により失当である。
 まず、本件全証拠によるも、@BGMとBGIとの前記ライセンス契約において、BGMの商品の販売地域がマレーシアに制限されていたと認めることはできないのみならず、また、A前記のとおり、原告は、本件商品をマレーシアの法人であるチーフリソースイズ社から購入したのであり、BGMから直接購入したのではないのであるから、原告の主張はその前提をいずれも欠く。
 そして、仮に、BGMとBGIとの前記ライセンス契約において、BGMの商品の販売地域がマレーシアに制限される旨の合意があったとしてみても、ライセンス契約における販売地域の制限に係る取決めは、通常、商標権者の販売政策上の理由でされたにすぎず、商品に対する品質を管理して品質を保持する目的と何らかの関係があるとは解されない。上記取決めに違反して商品が販売されたとしても、市場に拡布された商品の品質に何らかの差異が生じることはないから、本件商品の輸入によって、BGIの出所に係る商品の品質ないし信用の維持を害する結果が生じたということはできない。
 いずれの理由によっても、原告が本件商品を輸入することが実質的に違法であるとはいえない。
 なお、被告は、原告はBGMにBGIとのライセンス契約における販売地域条項に違反する行為をさせ、正当に認められている総代理店システムを害しているから、本件商品の輸入の違法性が阻却されることはないとも主張する。しかし、そもそも総代理店システムを採用することにより、商標権者が国際的な価格政策を維持できる利益は、商標法上保護に値する利益であると解することはできない。この点の被告の主張は失当である。
3 結論
(1) 以上のとおり、マレーシア商標の商標権者と本件商標権者であるBGIとは同一人ないし実質的に同一人と同視できるものと認められるから、マレーシア商標と本件商標とは同一の出所を表示するものであり、また、マレーシア商標は、BGIから同商標の使用許諾を受けたBGMにより付されたものであり、さらに、BGMの製造に係る本件商品を原告が輸入することによって、BGIの出所に係る商品の品質ないし信用の維持を害する結果が現に生じたといえる特段の事情は存在しないから、本件商品の輸入はいわゆる真正商品の並行輸入として実質的な違法性を欠くというべきである。
(2) 被告は、東京税関大井出張所長により、本件商品は、被告の商標権を侵害するものではないとの認定を受け、輸入が許されたのであるから、本件訴えは訴えの利益がない旨主張するので、この点について検討する。
 確かに、東京税関大井出張所長により、本件商品は、被告の商標権を侵害するものではないとの認定を受け、輸入が許されたのであるから、本件訴えのうち、原告が本件商品を輸入することについて、被告が差止請求権を有しないことの確認を求める部分については訴えの利益がないから、これを却下するのが相当である。
 しかし、関税定率法21条4項に基づく禁制品認定手続における、本件商品が本件商標権を侵害しない旨の東京税関大井出張所長の認定は、被告の本件商標権侵害に基づく本件商品の販売の差止め及び損害賠償請求権の有無には何ら影響しないから、本件訴えのうち、原告が本件商品を販売することについて、被告が差止請求権を有しないことの確認を求める部分については、訴えの利益がないということはできない。
〔論  説〕
 ブランド商品については、それが商標の使用権を有する者によって真正に製造された商品であれば、わが国への並行輸入が違法性を阻却して認められることについては、「パーカー」万年筆事件の大阪地裁昭和45年2月27日判決以来、「ラコステ」事件(東京地裁昭和59年12月7日判)や「BBS」事件(名古屋地裁昭和63年3月25日判)などの判決は、真正商品についての並行輸入を認容することは、わが国司法裁判所においても定着するに至っていることの証しである。
 本件は、被告はわが国で商標権を有している米国法人の日本法人で、本件商標について専用使用権を有していたが、原告が輸入した商品が、マレーシア法人が製造販売したものであったことから、この法人が同国で商標権を有する米国法人から使用許諾を受けていたライセンシーであることは知っていたはずである。しかし、被告をしてあえて争わせたのは、そのようなわが国への輸入,販売の行為が総代理店システムを害することになったからである。
 このような事実を前提として、裁判所は検討した結果、原告のとった行為を2つに分けて考えた。
 第1に、原告による真正商品の輸入行為は、東京税関によって被告の商標権を侵害するものではないとの認定を受けている以上、さらにその確認請求を裁判所にした部分については、訴えの利益がないとして却下した。(この却下は、原告には何の痛痒もなかった。)
 第2に、東京税関による前記認定は、被告による本件商標権侵害に基づく本件商品の販売の差止め及び損害賠償請求権の有無には影響しないから、原告が本件商品を販売することについて、被告が差止請求権を有しないことの確認を求めた部分については、訴えの利益はあるとした。
 真正商品の輸入と販売について、このように分けて訴えの利益の有無を考えた裁判所の判断は、きわめて妥当であるといえる。

[牛木理一]