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花粉のど飴事件:東京地裁平成14(ワ)10522平成15年6月27日判(認)

〔キーワード〕

独占的通常使用権、専用使用権、商品の普通名称、自社商品識別機能、権利の濫用

〔事  実〕

 この事件は、商標権者から登録商標につき当初、独占的通常使用権の許諾を受け、次いで専用使用権の設定を受けた原告(カバヤ食品株式会社)が、被告(サクマ製菓株式会社)に対し、被告が別紙被告標章目録1ないし3記載の標章(これらを併せて「被告標章」と総称する。)をのど飴に付して販売展示等する行為は、原告の独占的通常使用権ないし専用使用権を侵害すると主張し、専用使用権に基づき販売展示等の行為の差止め及び商品の廃棄を求めるとともに損害賠償(原告が独占的通常使用権者であった期間の分を含む。)を求めた事案である。
 被告は、これに対して、@ 被告標章は登録商標に類似しない、A 被告標章は商品の効能、用途等を普通に用いられる方法で表示するもので、商標権の効力は及ばない(商標26条1項2号)、B 原告が専用使用権の設定を受けるに至った経過等に照らせば、原告の被告に対する権利行使は権利の濫用に当たるなどと主張して、原告の請求を争った。
 訴外(株)信州蜂蜜本舗は、昭和55年12月24日に出願し、昭和59年1月26日に設定登録した「第30類 菓子、パン」を指定商品とした商標登録第1650420号の商標権者である。
 原告は、平成13年8月1日に信州蜂蜜本舗との間で、本件登録商標につき、下記の内容で使用許諾契約(以下「本件使用許諾契約」という。)を締結した。
 使用商標   花粉のど飴
使用商品   キャンディ
使用地域   日本全国
使用期間   平成13年12月1日から2年間
使用権の内容 独占的通常使用権
対価     年額20万円
 (ただし、契約締結日から1か月内に2年分40万円を前払いする。)
 その後、原告は、平成14年4月1日に信州蜂蜜本舗との間で、本件登録商標につき、下記の内容の専用使用権設定契約を締結し、同年4月23日、その登録を受けた。
 地域   日本全国
期間   平成16年1月26日(本件商標権の存続期間満了日)まで
 内容   指定商品中「のど飴及びその他のキャンデー」
 被告は、遅くとも平成13年11月ころから、その包装に別紙被告標章目録1、2を付したのど飴(キャンディー。以下「被告商品」という。)の宣伝を開始し、同年12月ころから、被告商品を販売している。
被告商品のパンフレットには、被告標章1を大書した被告商品の外袋表側の写真と被告標章3が掲載されている。
 本件の争点は、次のとおりである。
(1) 本件登録商標と被告標章とは類似するかどうか。
(2) 被告標章は、「商品の普通名称、効能、用途、使用の時期を普通に用いられる方法で表示する商標」(商標26条1項2号)に該当するかどうか。
(3) 原告が本件登録商標につき専用使用権の設定を受けた経緯などに照らすと、原告の本訴請求は、権利の濫用に当たり許されず、又は、原告が専用使用権の設定を受けたことは信託法11条に違反し無効かどうか。
(4) 原告の損害の内容及び額

 
〔判  断〕

 

1 争点1について
(1) 本件登録商標の構成
 本件登録商標は、漢字2文字の「花粉」をゴシック体活字で縦書1列に記載し、その右側にひらがな「かふん」をゴシック体小活字でふりがな様に添え字として縦書1列に記載してなるものである。
 本件登録商標においては、外観上、大書された漢字「花粉」の部分が見る者の注意をひくものであり、「かふん」の称呼と、「花粉」すなわち「種子植物の雄性の配偶体」の観念を生ずる。
(2) 被告標章の構成等
ア) 被告標章の構成
  被告標章1は黒色の縦帯状の背景に漢字及びひらがなの混在した「花粉のど飴」の文字を太字ゴシック体活字で縦書1列に記載にしたもの、被告標章2は黒色の横帯状の背景に「花粉のど飴」の文字を太字ゴシック体活字で横書1列に記載したもの、被告標章3は「花粉のど飴2」の文字をゴシック体活字で横書1列に記載したものである。
イ) 被告標章の使用態様
 被告は、遅くとも平成13年12月ころから、平成14年春夏商品として、のど飴(キャンディー)である被告商品を販売しているところ、被告商品における被告標章の使用態様は、次のとおりである。
  被告商品は、のど飴(キャンディー)を1個ずつ個別に小袋に個包装した上で、これを所定の数量大袋に入れた袋詰めとして販売されているところ、個包装の小袋の表側中央部に黒色ないし濃茶色の縦帯が描かれ、この帯部分に白のゴシック体活字で被告標章1が表示されている。また、小袋を収納する大袋には、表側中央に黒色ないし濃茶色の縦帯が描かれ、この帯部分に白のゴシック体活字で被告標章1が表示され、裏側上部に黒色ないし濃茶色の横長の長方形が描かれ、この長方形部分に白のゴシック体活字で被告標章2が表示されている。また、被告が作成して取引者に対して配布している平成14年春夏用商品のカタログには、被告商品を示す名称として被告標章3が記載されている。
ウ) 被告標章の要部
 被告商品がのど飴であることに照らせば、被告標章のうち「のど飴」の部分は、標章の付された当該商品の内容、属性を示す普通名称であるから、自他商品識別機能を有しない部分である。また、被告標章3のうち末尾の「2」は、数字であって、商品名の末尾に付された場合には、通常、続編ないし改良製品等であることを示すものであり、それ自体としては自他商品識別機能を有するものではない。
  他方、被告標章のうち「花粉」の部分については、被告商品の属する、のど飴ないしキャンディーの分野において、通常、商品の原材料や効能・用途を意味する語ということはできない。
  そうすると、被告標章においては、「のど飴」ないし「のど飴2」の部分を除いた「花粉」の部分が自他商品識別機能を有する部分として、見る者の注意をひく部分というべきである。
  上記のとおり、被告標章においては、「花粉」の部分をもって要部ということができる。
(3) 本件登録商標と被告標章の類否
ア) 本件登録商標においては、漢字で「花粉」と縦1列に大書した部分が商標中の大きな部分を占め、右側に小文字でふりがな様にひらがな「かふん」を記載した部分と比べて、見る者の注意を引く部分と認められる。
  他方、前記のとおり、被告標章は、縦書き1列又は横書き1列に「花粉のど飴」ないし「花粉のど飴2」と記載したものであり、これらのうち要部である「花粉」の部分は、被告標章1、2においては活字の形状やそれが白抜文字である点で異なり、また、被告標章2、3においては、横書1列に記載されている点で異なるが、いずれも「花粉」の文字の記載がある点において本件登録商標と共通である。 
 そして、被告標章においては前記のとおり「花粉」の部分が自他商品識別機能を有する要部というべきところ、当該部分は、本件登録商標と称呼及び観念が同一である。
 上記によれば、被告標章は、本件登録商標と外観において類似し、その要部の称呼、観念が同一であるから、いずれも本件登録商標に類似するものというべきである。
イ) この点に関して、被告は、@ 被告標章においては「花粉」の部分と「のど飴」の部分が同一の大きさ及び書体で、等間隔で配列されているから、「花粉」の部分と「のど飴」の部分とに分離してとらえるべきではなく、「花粉のど飴」という一体のものとして把握すべきである、A このような理解によれば、被告標章からは「花粉症に効くのど飴」ないし「花粉症対策用のど飴」という観念が生ずるなどと主張する。
 しかし、商標の要部の認定に当たっては外観のみを基準とすることはできないところ、本件においては、前記のとおり被告標章のうち「のど飴」の部分は自他商品識別機能を全く備えない部分であるから、「花粉」の部分に自他商品の識別機能を認めざるを得ないものであり、また、被告標章が外観において「花粉」以外の部分が特に見る者の目をひくような構成となっているわけでもないから、「花粉」の部分を被告標章の要部と認める上で妨げとなるものでもない。
 また、証拠によれば「SPA!」、「ぴあ」といった情報誌において、平成10年ころから花粉症対策の商品としてマスクや点眼薬等のほか、キャンディー(のど飴)やガムなどの菓子類を、手軽に花粉症対策を行うことのできる機能性食品として紹介する記事が掲載され、その後現在まで、毎年、花粉症の季節である2月や3月ころに発売される情報誌に、「花粉シャット」、「花粉本舗」といった標章を付した花粉症対策用の飴など種々の商品が掲載されていることが認められるが、「花粉のど飴」の語が、「花粉症に効くのど飴」ないし「花粉症対策用のど飴」を意味する1個の独立した語として一般的に使用されていたことまでは認めることができない。
 さらに、証拠によれば、平成14年8月ころから、花粉症罹患者を対象としたウェブサイト上において、「花粉のど飴」の語が「花粉症対策用のど飴」の意味で用いられた例があり、花粉症罹患者がウェブサイト上の掲示板に「花粉のど飴」の語を同趣旨で用いた文章の書き込みをしている例が存在することが認められる。しかしながら、他方、証拠によれば、全世代を通じてのスギ花粉症の罹患率は15〜16%にとどまるものであることが認められるものであり、これらの事情に照らせば、「花粉のど飴」の語が「花粉症対策用のど飴」を意味するものであると一般的に認識されているとまでは認められない。
 したがって、「花粉のど飴」を一体としてとらえて本件登録商標との外観、称呼、観念の類否を判断するべきであるとの被告の主張は、採用できない。
  さらに、被告は、「花粉○○」の構成からなる標章で、商標登録がなされているものが存することをもって、本件登録商標と被告標章との非類似を主張しているが、被告の掲げる「花粉○○」という登録商標は、いずれも「○○」に当たる部分に、「にミント」、「の季節」、「STOP」、「ブロック」、「あめのち晴れ」、「注意報」、「警報」、「前線」という、それだけでは意味をなさず、「花粉」という語と結びついて一定の意味を生ずる語か、あるいは対象商品の内容等とは無関係な語が置かれている。したがって、これらの登録商標が存するとしても、「花粉」の語に続いて対象商品それ自体である「のど飴」の語が付されている被告標章について、本件登録商標と類似するとの判断が妨げられるものではない。
2 争点2について
前記1(3)イにおいて認定のとおり、「SPA!」、「ぴあ」等の情報誌において、平成10年ころから花粉症対策の商品としてキャンディー(のど飴)やガムなどの菓子類が、手軽に花粉症対策を行うことのできる機能性食品として紹介する記事が掲載され、その後現在まで、毎年、花粉症の季節である2月や3月ころに発売される情報誌に、「花粉シャット」、「花粉本舗」といった標章を付した花粉症対策用の飴など種々の商品が掲載されていることが認められ、また、平成14年8月ころから、花粉症罹患者を対象としたウェブサイト上において、「花粉のど飴」の語が「花粉症対策用のど飴」の意味で用いられた例が存在することが認められるが、「花粉のど飴」の語が、「花粉症に効くのど飴」ないし「花粉症対策用のど飴」を意味する語として、一般的に認識され、使用されているとまでは認めることができない。
また、前記1(2)アにおいて認定した被告標章の使用態様に照らせば、被告標章1、2は、被告商品の大袋の表側中央部及び裏側上側のそれぞれ目につく部分に大書されているものであって、「普通に用いられられる方法で表示する」ものということもできない。
上記によれば、被告標章(「花粉のど飴」)ないしそのうちの「花粉」部分が、「指定商品の普通名称、効能、用途等を表示する商標」(商標26条1項2号)に当たるとする被告の主張(抗弁)は、採用できない。
3 争点3について
(1) 前記の当事者間に争いのない事実に証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
ア) 原告は、平成12年、平成13年の春期商品として、「花粉注意報キャンディ」を販売していた。
 他方、被告は、平成13年春夏商品として「花粉のど飴」の名称の商品を販売していたが(ただし、商品に付されている標章は被告標章と字体が異なる。)、平成13年12月ころから、平成14年春夏商品として被告商品を販売している。
イ) 原告は、平成13年7月12日、「Kabaya/花粉のど飴」につき商標登録出願をした。その出願手続の代理人はB弁理士であった。
ウ) 原告は、平成13年8月1日、信州蜂蜜本舗との間で、本件登録商標につき商標権者である同社から独占的通常使用権の許諾を受ける旨の契約を締結した。
エ) 信州蜂蜜本舗は、被告に対し、平成13年11月22日、被告が販売を準備している商品(被告商品)が本件商標権を侵害する旨の代理人(前記B弁理士)作成の警告書(以下「信州蜂蜜本舗からの警告書」という。)を送付した。
オ) 原告は、平成13年12月ころ、「花粉注意報」の後継商品として「花粉のど飴」(原告商品)の販売を開始した。
カ) 被告は、信州蜂蜜本舗に対し、平成14年1月11日、同社からの警告書に対する回答として、被告商品における「花粉のど飴」の表示は本件商標権を侵害しない旨の回答書を送付した。その後も、被告と信州蜂蜜本舗との間で、被告商品が本件商標権を侵害するかどうかについて書面による意見の応酬があったが、最終的に同年3月19日ころに交渉が決裂した。
キ) 信州蜂蜜本舗は、原告による「Kabaya/花粉のど飴」の商標登録出願(上記イ)に対して、平成14年2月27日、特許庁長官あてに刊行物等提出書と共に本件登録商標の商標登録原簿及び商標公報を提出し、原告の出願に係る上記商標と本件登録商標は類似するので、商標法4条1項11号により、その出願は拒絶されるべきであると主張した。
 これに対し、特許庁審査官は、平成14年3月6日、「Kabaya/花粉のど飴」の商標については、この出願に係る商標が、商標構成中に「のど飴」の文字を有しており、これを本願指定商品中「のど飴」以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがある(商標4条1項16号)との理由で、「Kabaya/花粉のど飴」の商標登録出願を拒絶する旨の拒絶理由通知書を発した(本件登録商標と同一又は類似することは拒絶理由として掲げられていない。)。
ク) 原告は信州蜂蜜本舗との間で、平成14年4月1日、本件登録商標につき原告が専用使用権の設定を受ける旨の契約を締結し、原告の専用使用権は同年4月23日設定登録された。
 原告代理人B弁理士は、同月24日、「Kabaya/花粉のど飴」の商標登録出願を取り下げた。
ケ) 原告代理人弁護士は、平成14年4月30日、被告に対し、被告商品を販売する行為は原告の独占的通常使用権を侵害する旨の警告書を発送し、この警告書は同年5月1日被告に到達した。
 その後、原告は同年5月20日、本訴を提起した。
(2)ア) 権利濫用の主張について
前記(1)で認定した事実によれば、原告は、商品名として「花粉のど飴」を用いることを前提として、「Kabaya/花粉のど飴」の商標登録出願をしたが、その過程で本件登録商標の存在を知り、本件登録商標の商標権者である信州蜂蜜本舗との間でライセンス取得の交渉を行い、当初独占的通常使用権の許諾を受け、次いで専用使用権の設定を受けて、被告に対して警告書を送付し、その後、本件訴訟を提起したものである。このような経緯に照らせば、原告の本訴提起は、本件登録商標の商標権者から正当な権利を取得しての権利行使であって、権利の濫用と認めることはできない。
上記によれば、原告の本訴提起が権利濫用に当たるとの被告の主張(抗弁)は、採用できない。
イ) 信託法11条違反の主張について
 原告は、被告の信託法11条違反の主張は、口頭弁論を終結する段階に至ってこのような主張をするものであり、時機に後れたものとして却下すべきであると主張する。
 確かに、被告の上記主張は、弁論準備手続終結後、弁論終結が予定されていた第5回口頭弁論期日において初めて主張されたものであり、時機に後れて提出されたものというべきであるが、被告の上記主張は、以下のとおりこれまでの審理の結果により容易に判断できるから、訴訟の完結を遅延させるものではない。そこで、上記主張については、これを却下することなく、判断を示す。
 信託法11条は、主たる目的として訴訟行為をさせるために財産の管理処分権を移転することを禁止しているが、上記(1)で認定した経緯に照らせば、原告は、自ら「花粉のど飴」の標章を使用するために相当の対価を支払って信州蜂蜜本舗から独占的通常使用権の許諾を得、次いで専用使用権の設定を受けて、実際に上記標章を付した原告商品を販売しているものであり、また、本件訴訟については弁護士である訴訟代理人に委任し、同代理人が口頭弁論期日に出頭して訴訟を追行しているものである。これらの点に照らせば、信州蜂蜜本舗に代わって被告に対する訴訟行為を行うことを主たる目的として、原告が信州蜂蜜本舗から専用使用権の許諾を得たものであるとは到底認められない。
 上記によれば、原告が信州蜂蜜本舗から専用使用権の設定を受けたことが信託法11条に違反し、無効であるとの被告の主張(抗弁)も採用できない。
4 争点4について
(1) 被告商品の販売数量
 被告商品の販売数量については、平成13年12月1日から平成14年5月末日までの間に被告商品27万6515袋(販売金額2903万4090円)を販売したことを、被告が自認しているところ、証拠によれば、被告は、平成13年12月1日から平成14年5月30日までの間に、上記の数量及び金額の被告商品を販売していたことが認められる(同年5月31日については証拠がない。)。
 原告は、原告商品の販売数量等から推測すれば、被告は合計約70万袋の被告商品を販売したものと推測されると主張するが、商品別出荷額一覧表は、被告会社の業務課において、顧客からの注文を受けるつど、顧客名、商品名、注文量、建値、出荷日等をパソコンに入力し、商品管理を行っていたデータをプリントアウトしたものであり、外観上信用できるものであるところ、これによれば、被告商品の販売数量等は上記のとおりと認められるもので、本件においては、被告が上記数量を上回る被告商品を販売したことを認めるに足りる証拠は存在しない。
(2) 独占的通常使用権者による損害賠償請求の許否
ア) 通常使用権者は、同人の登録商標の使用に対しては商標権に基づく権利行使をしない旨の合意を商標権者又は専用使用権者(以下「商標権者等」という。)との間で得て、商標権者等に対して当該合意に基づく債権的請求権を有するものであり、独占的通常実施権者は、これに加えて他者に当該登録商標の使用を許諾しない旨の合意を商標権者等との間で得ているものである。
独占的通常使用権者は、商標権者等に対して契約に基づく債権的請求権を有するにすぎないが、商標法は商標権者等に対して登録商標の専用権を保障しており(商標25条、36条)、商標権者等は、契約上独占的通常使用権者に対して当該登録商標を唯一使用し得る地位を第三者との関係でも確保すべき義務を負っているものであるから、独占的通常使用権者は、このことを通じて、当該登録商標を独占的に使用し、これを使用した商品を市場で販売することによる利益を独占的に享受し得る地位にあるものと評価することができる。
 このように独占的通常使用権者が契約上の地位に基づいて登録商標の使用権を専有しているという事実状態が存在することを前提とすれば、独占的通常実施権者がこの事実状態に基づいて享受する利益についても、一定の法的保護を与えるのが相当である。すなわち、独占的通常使用権者が現に商標権者等から唯一許諾を受けた者として当該登録商標を付した商品を自ら市場において販売している場合において、無権原の第三者が当該登録商品を使用した競合商品を市場において販売しているときには、独占的通常使用権者は、固有の権利として、自ら当該第三者に対して損害賠償を請求し得るものと解するのが相当である。そして、この場合、当該第三者が、独占的通常使用権者による当該商品の市場における販売を認識し得る状況にあったものであれば、独占的通常使用権者に対する関係においても、商標法39条により過失が推定されるものと解するのが相当である。
 もっとも、同法38条1項ないし3項の規定は、商標権者等が登録商標の使用権を物権的権利として専有し、何人に対してもこれに基づく権利を自ら行使することができることを前提として、商標権者等の権利行使を容易ならしめるために設けられた規定であるから、独占的通常使用権者の損害についてこれらの規定を類推適用することはできない。したがって、独占的通常使用権者は、第三者の侵害行為と相当因果関係にある範囲の損害につき、その賠償を請求することができるにとどまるものと解するのが相当である。
イ) 本件においては、前記当事者間に争いのない事実(第2、1(2)イ)のとおり、原告は、平成13年8月1日、信州蜂蜜本舗との間で、本件登録商標につき使用許諾契約を締結したものであるところ、同契約書においては、商標権者である信州蜂蜜本舗は、原告に対して、原告が使用する商標の態様を「花粉のど飴」と指定し、使用商品を「キャンディ」として通常使用権を許諾しているが(同契約書第1条)、商標権者は、前記使用商品(キャンディー)においては、本件登録商標を第三者に使用許諾しない旨が定められている(同第5条)から、原告は、本件登録商標につき、独占的通常使用権者であったと認めることができる。
 そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成13年12月から、本件使用許諾契約に従い、「花粉のど飴」の商標を付したのど飴(キャンディー。原告商品)を自ら販売していたものであり、原告商品と被告商品とは同内容の商品として市場において競合していたものと認められる。
 しかしながら、証拠及び弁論の全趣旨によれば、春日井製菓は、平成14年初めころから「花粉のど飴」の標章を付したのど飴(キャンディー)を販売していたところ、信州蜂蜜本舗は、原告との間の上記使用許諾契約(第5条)に違反して、遅くとも平成14年4月までに、春日井製菓に対して、50万円の使用料で、同年8月末日まで本件登録商標の使用を許諾し(このことは、原告自身が訴状15頁において自認している。)、これに基づいて春日井製菓は「花粉のど飴」の標章を付したのど飴(キャンディー)を市場において販売していたことが認められる。そうすると、原告は商標権者との間で本件登録商標につき独占的通常使用権の許諾を受ける旨の契約を締結したものの、同契約による許諾期間において、実際には本件登録商標は競業他社に対しても使用許諾され、同社により本件登録商標を付した商品が市場において販売されていたのであるから、本件においては、原告は、商標権者等から唯一許諾を受けた者として本件登録商標を付した商品を市場において販売していたということはできない。
 前述のとおり、独占的通常使用権者に固有の損害賠償請求権を認めるにしても、それは独占的通常使用権者が契約上の地位に基づいて事実上本件登録商標の使用権を専有しているという事実状態が存在することを前提とするものであるところ、本件においては、原告はこのような前提を欠くものである。したがって、このような原告が独占的通常使用権の侵害を理由として損害賠償を請求することは許されない。
ウ) 上記によれば、独占的通常使用権の侵害を理由とする原告の損害賠償請求は既に理由がないものであるが、加えて、本件においては、被告が被告商品を市場において販売したことにより、相当因果関係の範囲内において原告が被った損害を確定することも不可能であるから、この点からしても、原告の上記請求は理由がない。
 すなわち、証拠及び弁論の全趣旨によれば、@平成14年春期市場より前において、「花粉」と他の文字列との組合せからなる標章を付したのど飴(キャンディー)として、「花粉あめのち晴れ」、「花粉本舗」、「花粉クールアップタイム」、「花粉にミントガム」、「瞬間花粉STOP!」、「花粉退治」、「花粉注意報」といった商品が販売されていたこと、A平成14年春期市場においては、前同様の商品として、株式会社扇雀飴本舗の「花粉クールアップタイム」、ライオン菓子株式会社の「シュガーレス花粉対策キャンディー」、「花粉本舗」、株式会社リボンの「花粉大作戦」などが販売されていたほか、「花粉のど飴」の標章を付したのど飴(キャンディー)として、原告商品、被告商品に加えて、春日井製菓の「花粉のど飴」、「ノンシュガー花粉のど飴」、株式会社オレンジゼリー本舗の「花粉のど飴」が販売されていたことが認められる。このように、「花粉」の文字を含む標章を付された多数の競合商品が、原告商品及び被告商品に先行して販売され、あるいは同時期に販売されていたものであり、また、これに加えて、前記のとおり本件登録商標を付した原告商品が平成13年12月に初めて発売されたものであることに照らせば、本件登録商標は、それ自体として強い商品出所識別機能を有するものではなく、また、特定の商品につき長期間継続的に使用されたことを通じて市場における信用ないし顧客吸引力を備えたものということもできない。上記のような競合商品の存在及び本件登録商標の自他識別力の脆弱性に加えて、さらに、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告商品は原告商品と同等の内容であり、かつ内容量も同じ(70g)であるにもかかわらず、小売価格において原告商品(200円)よりも25%も安い価格(150円)で販売されていたというのであるから、被告商品は小売価格が低廉であることにより消費者に好んで購入されたと推測される。
 上記の各事情を総合すれば、被告が被告商品を市場において販売したことにより、原告商品の売上に何らかの不利益な影響が生じたことが推測されるとしても、被告の行為と相当因果関係のあるものとして原告がどれだけの原告商品の売上を失ったのかを確定することは到底不可能である。
エ) 上記によれば、原告が本件登録商標につき独占的通常使用権者であった期間について、独占的通常使用権の侵害を理由として損害の賠償を求める請求は、理由がない。
(3) 専用使用権者としての損害賠償について
 原告は、平成14年4月23日、本件登録商標につき指定商品中「のど飴及びキャンデー」の範囲において専用使用権設定登録を受けたものであり、本件において、同日から同年5月末日までの期間について被告の被告商品の販売により専用使用権を侵害されたとして損害賠償を求めている。
 前記のとおり、被告は、平成13年12月から平成14年5月30日までの間に被告商品27万6515袋(販売金額2903万4090円)を販売したものであるところ、証拠によれば、このうち平成14年4月23日から同月5月30日までの期間においては、7988.7袋(販売金額83万8820円)を販売したことが認められる(4月分については日割計算)。
 また、被告商品の販売による利益については、証拠及び弁論の全趣旨によれば、@原告と被告は共に菓子の製造販売を主たる目的とし、創業から50年以上を経過した老舗企業であり、全国的にその社名が知られている点において共通すること、A原告と被告は共にのど飴(キャンディー)を製造販売していること、B原告商品の販売価格(建値140円)から原価計算書に記載の製造原価(原料費、材料費、製造変動費、製造固定費)及び販売・一般管理費を控除して得られた利益の率は15%を下らないこと、C被告商品の原料費、包材費及び製造工賃を合計した金額は、原告商品の製造原価と比べてそれほど差がないことが、それぞれ認められることからすれば、被告商品の販売による利益の額を原告商品の利益率から推定することには合理的な理由があり、被告が特段の反証を行っていない本件においては、被告商品の販売による利益率は原告の利益率と同じく15%を下らないと認めるのが相当である(この点につき、被告は、被告商品の販売によっては利益どころか損失が生じている旨を主張するが、これをうかがわせる証拠は提出されていない。)。
 上記によれば、被告は、平成14年4月23日から同月5月30日までの期間、被告商品を販売することにより12万5823円の利益を得たことが認められるが(計算式83万8820円×0.15=12万5823円)、前記のとおり、本件登録商標が強い商品出所識別機能を有するものではなく、また、市場における信用ないし顧客吸引力を備えたものということもできないことに照らせば、上記利益についての被告標章の寄与率は、5%と認めるのが相当である。
そうすると、被告の行為により専用使用権を侵害されたことによって原告の被った損害は、6291円(計算式:83万8820円×0.15×0.05=6291円)と推定される(商標38条2項)。
(4) 弁護士費用相当額について
 原告が本訴の提起を原告訴訟代理人に委任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の性質、請求の内容、審理の経過その他諸般の事情を総合勘案すれば、本件においては弁護士費用のうち50万円をもって、被告の侵害行為と相当因果関係のある損害と認める。
(5) 損害額についてのまとめ
 前記(1)ないし(4)によれば、平成13年12月1日から平成14年5月末日までの間に被告が被告商品を販売したことにより原告が被った損害額に関しては、原告が独占的通常実施権者であった期間(平成13年12月1日から平成14年4月22日まで)については損害賠償請求を認めることができないが、専用実施権者であった期間(同月23日から同年5月末日まで)については商標法38条2項により6291円と認められる。また、損害に含まれる弁護士費用相当額は50万円と認められる。
 本件においては、原告は、損害賠償金につき訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金(民法所定の年5分)を請求しているところ、記録によれば、訴状送達の日の翌日は平成14年5月25日であり、前記乙第79号証によれば、同年4月23日から同年5月25日までの商標法38条2項の損害額合計は5636円(日割り計算)となるから、これに弁護士費用相当額50万円を加えた合計額50万5636円については同日以降の遅延損害金請求は理由があり、同月26日から同月30日までの同法38条2項の損害額合計は655円となるから、同額については侵害行為の後である同日以降の遅延損害金請求の限度で理由がある。
5 結論
 以上によれば、原告の本訴請求のうち、差止請求については、原告の専用使用権の範囲である「のど飴その他のキャンデー」に被告標章を付すことの差止め等を求める限度で理由がある。すなわち、被告標章をのど飴その他のキャンデー又はそれらの包装に付すことの差止め(主文第1項)、包装等に被告標章を付したのど飴その他のキャンデーの販売等の差止め(同第2項)、のど飴その他のキャンデーの商品広告に被告標章を付すことの差止め(同第3項)並びに被告標章を付したのど飴その他のキャンデー又はそれらの包装及び商品広告の廃棄(同第4項)を求める限度で理由がある。また、損害賠償請求については、50万6291円及びうち50万5636円に対する平成14年5月25日から、655円に対する同月30日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由がある(同第5項)。 
〔論  説〕
1.被告商標の「花粉のど飴」中の「花粉」は、商品「のど飴」の品質、原材料、効能などを表示する普通名称的な言葉(文字)ではないかとは、誰もが思うのではあるまいか。そのような名前の付いている飴は、花粉症に効能があると解する者も、花粉を混合した健康食品的効能があると解する者もいよう。
  しかし、裁判所は、標章「花粉」に、商標法3条1項3号に規定するような不登録理由はないというお墨付きを与えている。
2.「独占的通常使用権」と「専用使用権」の法的効力の違いは、商標権者自身は、前者の契約では使用することは可能だが、後者の契約では使用することは不可能であるという点である。したがって、第三者の侵害行為に対する訴追は、専ら専用使用権者によって行われることになるが、本件の場合もそうであった。
  「独占的通常実施権」の法的性質は、あくまでも通常実施権の一態様にすぎないものであるから、特許庁においてはそのような内容の記載をする通常実施権の登録は認められていないことは、私の古い経験で承知している。
 

[牛木理一]