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インディアンモーターサイクル事件:東京地裁平成8年(ワ)14026号平成14年8月22日中間判決(民46)〔認容〕/平成15年12月26日判決〔棄却〕

〔キーワード〕

中間判決、商標権の効力、意匠権の効力、専用権・禁止権、登録商標に類似する商標の効力、商標法51条による登録取消、権利の濫用

〔事  実〕

 本件は、1950年代以前に米国で人気を博していたオートバイメーカーに由来の「インディアン」という名称のブランドの使用をめぐる紛争である。
原告のT社は、平成3年11月5日に出願し平成6年3月31日に商標登録した商標登録第2634277号の文字商標「インディアンモーターサイクル」の商標権者である。
 原告は、被告S社及び被告I社に対し、被告標章目録1〜7記載の各標章をジャケット等に付して使用する行為は、原告の有する前記商標権の侵害に当たると主張し被告標章の使用等の差止めと損害賠償を請求した。
 そこで争点は、(1)被告標章1〜7は本件登録商標と類似するか、(2)被告標章4〜7は被告商標権の専用権の範囲内にあるか、(3)被告商標には明らかな無効事由があり、被告らが被告標章の使用は被告商標権の専用権の範囲内であると主張することは権利の濫用にあたり許されないか、その他であった。
〔中間判決の主文〕
1.別紙被告標章目録1ないし7記載の各標章は、いずれも別紙原告商標目録記載の商標に類似する。
2.別紙被告標章目録4記載の標章は、被告の商標権(登録第271099号)の専用権の範囲に属するが、同目録5ないし7記載の各標章は、いずれも同商標権の専用権の範囲に属さない。
〔中間判決〕
争点(1)について
商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標が外観、観念、称呼等によって取引者、需要者等に与える印象、記憶、連想等を総合して全体として考察すべきものであるところ、本件登録商標は、片仮名文字「インディアンモーターサイクル」を横一列に並べた構成のもので、「インディアンモーターサイクル」の称呼及びこれに対応する観念「インディアン(北米原住民)+モーターサイクル(自動二輪車)」を生ずる。
そこで、以下、本件登録商標と標章1ないし7との類否を、順次検討する。
類否の検討に当たっては、基本的には商標を全体的に観察して対比判断すべきであるが、商標の特定部分が見る者の注意を引き、その部分が存在することによって商標の識別機能が認められるときは、全体的観察と並行して商標を機能的に観察して、中心的な識別力を有する部分である要部を抽出して対比判断することも必要となる。結合商標の類否判断に当たっても、全体的観察が基本となるが、結合した各構成部分の大きさや体裁あるいは相互の結合の強弱等により、一部の構成部分が要部となったり、各構成部分が格別に要部となることもあり、これらの場合には要部を抽出しての対比判断を行うこととなる。
 標章1は、別紙被告標章目録1記載のとおり、北米原住民の横顔を模した図の髪飾り部分に筆記体欧文字「Indian」が配され、同図の下段に大きめの活字体欧文字「MOTORCYCLE」を、さらにその下段に非常に小さな活字体欧文字「Established 1901」を、それぞれ配した構成からなる。
 このうち、最下段の活字体欧文字「Established 1901」は目をひき難い配置となっている上、「1901年に設立された」との意味を表すもので、自他識別力を有するものではない。北米原住民を模した上記図及びその中に配された「Indian」の文字は、中心部分に大きく配置され、見る者の目をひく部分であるが、同図の下にこれとほぼ同じ横幅をもって、かなり大きな字体で「MOTORCYCLE」が配されており、「Indian」と結びついて識別力を有することがあり得ると考えられるから、同標章からは、「インディアン」の称呼及び「北米原住民」の観念のほか、「インディアンモーターサイクル」の称呼及び「インディアン(北米原住民)+モーターサイクル(自動二輪車)」の観念をも生ずる。
 したがって、上記「インディアンモーターサイクル」の称呼及び「インディアン(北米原住民)+モーターサイクル(自動二輪車)」の観念は、本件登録商標から生ずる称呼及び観念と同一であるから、標章1は、本件登録商標と類似するものと認められる。
 標章4は、別紙被告標章目録4記載のとおり、@羽根飾りと地肌部分が着色された、羽根飾りを冠した右向きのインディアンの横顔の図形、Aその中に配した特徴ある筆記体欧文字「Indian」、及びBその下部に小書して配された特徴ある筆記体欧文字「Indian Motocycle Co., Inc.」から構成されている。したがって、上記のインディアン横顔図形の着色の点以外は、被告商標と同一の構成である。
 同標章は、@上記着色の点以外はインディアン図形と同一の図形、Aインディアンロゴ及びBモトサイクルロゴから構成される結合商標であるが、外観上は、一見して見る者の目をひく上記@、及びこれに特徴ある字体で中央に配された同Aを組み合わせた部分(ロゴ入りインディアン図形)が、識別力の高い要部であると考えられるところ、この部分からは、「インディアン」の称呼及び「北米原住民」の観念を生ずる。また、上記B(モトサイクルロゴ)については、上段のロゴ入りインディアン図形と視覚上分離して見て取ることができる上に、その構成に照らし、前者が後者の付記的部分にとどまるとはいえず、両者を常に一体不可分に認識すべき格別の理由もないから、この部分も独立して自他識別機能を果たし得るものと考えられる。しかるところ、〈Co., Inc.」の部分は、一般に株式会社等の法人組織を指す英文表記「Company Incorporated」の略語として知られ、かつ、しばしば用いられるものであるから、モトサイクルロゴは、全体として会社名を表したものと認識でき、このような場合、「Co., Inc.」を除いた「Indian Motocycle」の部分だけが認識・把握され、取引上通用することも十分あり得る。
 これらを総合すると、同標章からは、「インディアン」はもちろんのこと、「インディアンモトサイクルシーオーインク」、「インディアンモトサイクルカンパニーインク」の称呼のほか、「インディアンモトサイクル」の称呼を生じ、またオートバイで山道や原野を走る競技が「モトクロス」ないし「モトクロスレース」と一般に称される、「モト/Moto」が「モーター/Motor」の簡略語として通用している実情から、「北米原住民」の観念のほか、「『インディアンモトサイクル』という名称のオートバイ(自動二輪車)を扱う会社」及び「インディアン(北米原住民)のオートバイ(自動二輪車)」の各観念を生ずる。
 したがって、上記「インディアンのオートバイ」の観念は、本件登録商標から生ずる観念と同一である。
 さらに、上記「インディアンモトサイクル」の称呼は、本件登録商標から生ずる「インディアンモーターサイクル」の称呼と一部相違するものの、「インディアン」と「サイクル」の各部分は共通し、相違部分についても、「モ」と「モー」は長音を伴っているか否かの違いにすぎず、また「ト」と「ター」も長音の有無の差はあるものの、同じタ行に属する音であるから、相違点はそれほど大きいものとはいえず、一連に称呼するときは、全体の音感・音調が近似するものである。したがって、上記2つの称呼は互いに類似する。
 以上によれば、標章4は、本件登録商標に類似すると認められる。
争点(2)について
商標法36条、37条1項は、商標権に基づく禁止権は登録商標の類似範囲に及ぶ旨を規定する。他方、同法25条は、「商標権者は、指定商品について登録商標の使用をする権利を専有する。」と規定するが、意匠法23条が「意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。」と規定しているのと対比すると、商標権者の使用権は登録商標のみを対象とし、登録商標と類似する範囲に及ぶものではない。
 そこで、以下、標章4ないし7について、被告商標権の専用権の範囲にあるかどうかを、順次検討する。
 標章4は、着色の点以外はインディアン図形と同一の図形、インディアンロゴ及びモトサイクルロゴを組み合わせてなり、その構成はインディアン図形の着色の点以外は被告商標のそれと同一である。
 とすれば、標章4から生ずる称呼及び観念は、被告商標から生ずる称呼及び観念と全く同一であり、外観は、上記着色の点だけが異なるものの、羽根飾りの部分と地肌の部分に着色したことが、見る者に異なる印象を与えるものとは認められないから、同標章は、被告商標と同一のものといえる。
 したがって、標章4は、被告商標権の専用権の範囲内にあるものと認められる。
 ところが、商標権者の使用権は登録商標のみを対象とし、登録商標と類似する範囲に及ぶものではないところ、標章5ないし7は、被告商標と外観、称呼及び観念において相違する部分を有するから、これらをもって、被告商標権の専用権の範囲内にあるものということはできない。
 以上のとおり、標章4は、被告商標権の専用権の範囲内にあると認められるが、標章5ないし7は、いずれも同範囲内にあるとは認められない。したがって、標章5ないし7に関する被告の登録商標使用の抗弁には理由がない。

〔論  説〕

1."中間判決"というと、「青色発光ダイオード」の特許権の帰属と報酬をめぐる発明者の中村修二氏と特許権者の日亜化学(株)との間の事件判決(平14.9.19)で有名になったが、当該審理において事件の全部又は一部を完結する"終局判決"とは違い、審理中に生じた実体上又は訴訟上の争点を解決し、審理を整理する判決である。争点について、中間判決ではなく終局判決の理由中で判断することも可能であるが、その選択は裁判長の裁量に委ねられている。類似する2つの商標権の"Indian"の使用をめぐり、平成14年8月22日に言い渡された中間判決は、前記発光ダイオード事件の中間判決よりやや前であるが、同じ東京地裁民事46部から出された。
2.このように裁判所は、別紙被告標章目録1ないし7記載の各標章は、いずれも原告商標と類似することは明らかであると認定した。
  もっとも、本件商標権の侵害を理由とする差止請求及び損害賠償請求については、これらの請求権の存否及びその内容を最終的に確定するためには、なお引き続き、争点(3)ないし(7)についての審理を行う必要があるとして中間判決となった次第である。
  被告に商標登録があっても権利侵害となると認定されることになるだろうこの事案では、権利の効力について、商標権の効力は意匠権の効力と違っていることが明らかにされている。即ち、商標権には専有的効力はあっても、専用権は登録商標についてだけであって(商標25条)、登録商標に類似する商標にはない。類似の商標が有する効力は、類似の商標を他人が使用することを禁止する禁止権だけである(商標37条)。これに対して意匠権の効力は、登録意匠及びこれに類似する意匠についても専用権と禁止権とを含む専有的効力がある(意匠23条)。しかし、同じ類似の範囲を有する2つの権利において、このような不統一な立法は妥当であるとは思われない。それとも、意匠権にあっては特許権と同様に、創作の保護法という観点からの配慮が立法上あったと解することができる。
  しかし、このようなことは本件の場合には実はどうでもよく、標章4を含む被告の全登録商標は原告の登録商標と類似する商標であると認められたのだから、無効理由があると認定されたようなものであるが、その認定は争点(3)の問題として終局判決まで残されたことになる。
  なお、中間判決に対しては不服の控訴はできない。

 
〔終局判決〕

 

1 争点1(標章1ないし7が,原告商標に類似するか)について
 中間判決の第4,1記載のとおりであるから,これを引用する。同記載のとおり,標章1ないし7は,いずれも原告商標に類似するものと認められる。
2 争点2(標章4ないし7に関する登録商標使用の抗弁の成否)について
(1) 争点2ア(標章4ないし7が,被告商標権の専用権の範囲内にあるか)について
 中間判決の第4,2記載のとおりであるから,これを引用する。同記載のとおり,標章4は,被告商標権の専用権の範囲に属するが,標章5ないし7は,いずれも同商標権の専用権の範囲に属しない。
(2) 争点2イ(被告商標権の効力)について
 第3,3(5)記載のとおり,中間判決がされた後の平成15年6月12日,同日付け最高裁の上告不受理決定により,被告商標の登録を無効とすべき旨の審決が確定した。
 したがって,被告商標権は,初めから存在しなかったとみなされるものであり(商標法46条の2第1項本文),上記(1)の判断にかかわらず,被告の登録商標使用の抗弁には理由がない。
 3 争点3(原告の請求は,権利の濫用に当たるものとして許されないか)について
(1) 第3記載の前提となる事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の各事実が認められる。
@ オリジナル・インディアン社は,1901年にアメリカ合衆国マサチューセッツ州スプリングフィールドで設立され,1923年に「インディアン・モトサイクル・カンパニー」に商号を変更したオートバイのメーカーである。
 同社は,「INDIAN MOTOCYCLE」(インディアン・モトサイクル)と略称され,1950年代以前,ハーレー・ダビッドソンと並ぶアメリカ合衆国を代表するオートバイメーカーとして知られていた。同社の用いるインディアンロゴ,ヘッドドレスロゴ,インディアン図形,活字体「INDIAN」及び左向きインディアン図形等は,オリジナル・インディアン社の製造販売するオートバイに付された商標として,米国はもとよりヨーロッパや日本でも周知であった。
 オリジナル・インディアン社は,1953年に操業を停止し,その後1959年に解散した。「Indian」ブランドのオートバイは,一部の同好者に根強く愛好されていたが,同社は既に解散し,同社の名称を用いた活動も30年以上にわたって行われなかったので,1990年当時,「Indian」(インディアン)ないし「Indian Motocycle」(インディアン・モトサイクル)の商標は,商品の出所識別機能をほとんど失っていた。
A 訴外Bは,「Indian」ブランドのオートバイの製造販売を再開すること,及び,インディアンロゴ,ヘッドドレスロゴ等を使用した「Indian」ブランドの商品に関するライセンスビジネスを展開することを企図して,1990年(平成2年)6月ころ,かつてオリジナル・インディアン社が存在したマサチューセッツ州スプリングフィールドにインディアン・モトサイクル・カンパニー・インク(米国インディアン社)を設立した。
 訴外Bによる「インディアン」ブランド復活に向けた動きは,米国の一般紙である「The Daily News」1991年(平成3年)7月1日号及び「USA TODAY」同月5日号で報じられた。
 上記報道の約4か月後の平成3年(1991年)11月5日,原告は,片仮名からなる原告商標「インディアンモーターサイクル」を商標登録出願した。
B 他方,「インディアン」ブランドの将来性に着目した訴外Aは,平成4年(1992年)2月6日,被告商標を商標登録出願し,さらに平成5年6月3日,被告サンライズと合弁して被告インディアンを設立した。
 平成5年(1993年)7月24日付け繊研新聞及び同日付け日経流通新聞において,被告インディアンの設立,並びに,「Indian」ブランド商品の輸入及びライセンスビジネスの展開等が報じられたが,これらの記事においては,「Indian」ブランドは,同年11月の時点で既に米国ではブームを呼んでおり,日本でも「ブーム着火は時間の問題」とされていた。
C 被告インディアンは,平成5年秋ころから,米国インディアン社の製造にかかるジャケット,Tシャツ,帽子,バッグ等の輸入販売を行った。これらの商品には,インディアンロゴ及びヘッドドレスロゴ等が付されていた。また,同被告は,平成6年1月から平成7年2月にかけて,ヤングメンズカジュアルの分野で有名な全国展開の専門店において配布されている月刊誌「DICTIONARY」に定期広告するなど,「Indian」ブランドの宣伝に努めた。この広告においても,インディアンロゴ及びヘッドドレスロゴが使用されていた。
 被告サンライズは,上記米国インディアン社の製品の輸入販売を継続する一方で,平成6年に訴外マルヨシとサブライセンス契約を締結した。訴外マルヨシは,同年5月に展示会を行い,上記契約に基づく被告商標の使用を開始し,インディアンロゴ及びヘッドドレスロゴ等を付したバッグを販売するなどした。
D すると,原告は,平成6年9月21日に,インディアン図形,インディアンロゴ及び活字体英文字「MOTOCYCLE」を組み合わせた商標並びに左向きインディアン横顔図,インディアンロゴ及び活字体英文字「MOTOCYCLE」等を組み合わせた商標を登録出願した。
 また,原告は,平成7年5月ころから,(ア)インディアンロゴ,(イ)インディアンロゴ及び活字体英文字「MOTOCYCLE」を組み合わせた商標,(ウ)インディアンロゴ,左向きインディアン横顔図及び英文字筆記体「Motorcycle Co.」を組み合わせた商標等,いずれもインディアンロゴを主体に構成された商標を付したジャケット,シャツ,帽子等の輸入,製造販売及び広告を開始した。
E 被告インディアンは,上記原告のインディアンロゴ等の使用に対し,被告商標が登録される前,平成7年6月30日付け「警告書」をもって,英文字「Indian」等の使用は,既に登録査定を受けた被告商標の登録により生じる商標権の侵害に当たり,原告が上記使用を継続する場合には,民事・刑事上の責任を追及するつもりである旨通知した。
 これに対し,原告は,出願中の被告商標は登録されるべきものではないと考えており,設定登録された場合には,直ちに無効審判を申し立てるつもりであるとともに,原告の方でも,被告商標の使用が原告商標権を侵害することを理由に,被告インディアンに対して法的措置を取るつもりである旨文書で回答した(弁論の全趣旨)。
F 原告は,上記のやり取りの後も,インディアンロゴ等を含む標章を付したジャケット等の製造販売及び広告を継続した。証拠上認められる,原告による原告商標等の使用の態様は,以下のとおりである。
 (ア) 「モノ・マガジン」1997年(平成9年)1月号には,ジャンパーに関する広告に原告商標が付されている一方で,襟ネームにインディアンロゴを含む英文字筆記体及び図形からなる結合標章を付したジャンパーの写真が掲載されている。
 (イ) 「ポパイ」1995年(平成7年)6月号には,ジャンパーに関する広告にインディアンロゴを大書して左向きインディアン図形等と組み合わせた標章が付されている一方で,英文字筆記体「Indian Motorcycle」を付した帽子の写真が掲載されている。
 (ウ) 「ファインボーイ」1995年(平成7年)7月号には,ブルゾン等に関する広告に原告商標が付されている一方で,左胸にインディアンロゴを付したシャツ等の写真が掲載されている。
 (エ) 「ファインボーイ」同年9月号には,プルオーバー等に関する広告に原告商標が付されている一方で,インディアンロゴを含む英文字標章を付した帽子等の写真が掲載されている。
 (オ) 「ファインボーイ」同年10月号には,ジャンパー等に関する広告に原告商標が付されている一方で,インディアンロゴを含む英文字筆記体の標章「Indian Motocycle」を付したジャンパーの写真が掲載されている。
 (カ) 「ポパイ」1996年(平成8年)3月号には,Tシャツに関する広告に原告商標が付されている一方で,インディアンロゴを含む英文字筆記体「Indian Motocycle」及び図形を組み合わせた標章を付したTシャツや,英文字活字体「Indian Motorcycle」及び図形を組み合わせた標章を付したTシャツの写真が掲載されている。
 以上から分かるとおり,原告は,平成7年6月ころから平成9年1月ころにかけて,原告商標の指定商品に属するジャンパー等に関する広告に,同商標「インディアンモーターサイクル」及びこれと社会通念上同一の範囲にあると認められる英文字「Indian Motorcycle」を使用したものと認められる。
 しかしながら,片仮名からなる原告商標を実際に需要者に提供される商品に付した事実は認めることができない。また,英文字活字体「Indian Motorcycle」からなる標章については,前記第3,4(2)記載のとおり,これと実質的に同一と認められる英文字標章「INDIAN MOTOR CYCLE」が,被告商標と全く同じ構成の先願商標と類似することを理由に,特許庁で拒絶査定を受け,拒絶査定不服審判請求,請求不成立の審決及び審決取消訴訟の提起を経て,平成12年12月21日付けの東京高裁判決により,これを登録しない旨の上記特許庁の審決が確定している。
 その一方で,原告は,インディアンロゴを含む多数の標章を実際に商品に付して使用しており,その中には,自ら登録する原告商標から生じる「インディアンモーターサイクル」の称呼ではなく,被告商標から生じる「インディアンモトサイクル」の称呼を生じる英文字筆記体「Indian Motocycle」の使用(上記(オ))も含まれている。
G 訴外Aは,平成7年9月29日に被告商標が登録されると,同年10月16日,被告商標権を被告インディアンに譲渡した。
 被告インディアンは,そのころ,被告サンライズを介して被告西澤とライセンス契約を締結し,被告西澤は,平成7年から平成8年にかけて,雑誌広告を掲載し,展示会を催すなど,同被告の製造販売する革製レザージャケット等の広告宣伝に努めた。
 そのころ,被告らは,原告が,平成8年の秋冬シーズンから,インディアンロゴを付したレザージャケット等の製造販売を開始するとの情報を入手し,被告インディアン及び訴外Aは,平成8年5月21日,原告らに対する商標権侵害差止等の訴えを提起した(東京地方裁判所平成15年8月28日判決・同庁平成8年(ワ)第9391号事件)。
 これに対し,原告は,同年7月22日,被告らに対する本件訴訟を提起した。また,インディアンロゴ及び活字体英文字「MOTOCYCLE」を組み合わせた商標,インディアンロゴ及び英文字筆記体「Motorcycle」を組み合わせた商標等,インディアンロゴを主体に構成された商標を付したジャケット,シャツ,帽子等の販売を継続した。
H 原告は本件訴訟提起に先立つ平成8年7月19日,英文字活字体「INDIAN MOTOR CYCLE」を商標登録出願した(ただし,これについては,上記Fで触れたとおり,被告商標と全く同じ構成の先願商標と類似することを理由に,これを登録しない旨の特許庁の審決が既に確定している。)。また,その後も,左向きインディアン横顔図(登録第4145016号)等の多数の関連商標を商標登録出願した。
I 平成8年9月,被告インディアンは,被告商標権の侵害を理由に,原告を債務者として,インディアンロゴを主体とした英文字及び図形を組み合わせた合計9つの商標の使用差止を求める旨の仮処分を申し立て(東京地方裁判所平成8年(ヨ)第22126号),同年12月にこれを認容する旨の決定がされた。
 しかるに,原告は,上記仮処分決定の後も,インディアンロゴ,同ロゴとほぼ同一の書体の筆記体英文字「Indian/Motorcycle」(上下2段)及び「Indian Motorcycle」等を付して使用した革製ジャケットやTシャツなどの製造販売,広告等を継続した。また,平成9年1月に左向きインディアン横顔図等からなる結合商標を登録出願し,同年3月には,インディアンロゴ及び「Motorcycle」を上下2段に配した商標を登録出願した。
J 第3,1(4)記載のとおり,特許庁は,平成15年3月28日,原告は,片仮名の原告商標「インディアンモーターサイクル」を有するところ,あえて英文字「Indian」や「Motocyle」を指定商品に用い,登録商標である原告商標と同一の商標ではなく,類似する商標を故意にその指定商品に使用し,他人の業務にかかる商品と混同を生じさせているものであるとして,商標法51条1項の規定に基づき,原告商標の登録を取り消す旨の審決をした。
 他方,第3,3(5)記載のとおり,その後の平成15年6月12日付け最高裁の上告不受理決定により,被告商標の登録が無効である旨の審決が確定した。
K ちなみに,原告は,米国映画「BIG WEDNESDAY」の中で用いられて有名になった商標「BEAR SURF BOARDS」につき,まず片仮名商標「ベアーサーフボード」を出願して登録を受けた上,「BEAR SURF BOARDS」に図形を組み合わせた商標を出願し,拒絶査定を受けたにもかかわらず,かかる結合商標を使用する正規のマスターライセンシーである訴外サクラインターナショナルに対し,商標権侵害を理由とする訴訟を提起した。
 また,原告は,上記のほかにも,米国のカジュアルスポーツ系のブランドで,商社トーメンの系列会社がライセンシーである「O'NEILL」,米国のビールメーカーであるバドワイザーの主力商品名の1つである「BUD LIGHT」,米国ラスベガスに古くからあるスターダストホテルに由来する「STARDUST」,米国の著名な小説家の固有名詞「MARK TWAIN」,その小説の主人公の固有名詞「TOM SAWYER」,米国国旗の名称であり,米国国防総省の機関紙名でもある「STARS AND STRIPES」など,海外の著名なブランドないし固有名詞に関連する商標を多数出願している。
 (2) 上記の事実関係を前提に,権利濫用の抗弁の成否について検討する。
 本件で提出されたすべての証拠によっても,被告らが主張するように,米国インディアン社が,「インディアン」ブランドにつき,オートバイのみならず,アパレル,アクセサリー等広範な商品についての正当な出所として,社会的に認知された事実を認めることはできない。かえって,(1)@で認定したとおり,1990年当時,「インディアン」ないし「インディアン・モトサイクル」の名称は,商品の出所識別機能をほとんど失っていたものと認められるから,インディアンロゴ等の商標が,原告商標の出願時及び査定時において,1901年に設立されたオリジナル・インディアン社の著名な略称及び商標であったとは認められないし,米国インディアン社の商標として著名ないし周知であったとも認められない。また,原告商標は平成3年11月5日に出願され,平成6年3月31日に登録されたが,他方,被告らが実際に被告商標の使用を開始したのは,同年5月ころであったと認められる((1)C)ことからすれば,原告商標の出願及び登録の各時点で,被告商標が被告インディアンの商品の出所を表す商標として周知となっていた事実も,認められないというべきである。
 しかしながら,原告は,最も代表的な米国の一般紙である「The Daily News」及び「USA TODAY」において,「インディアン」ブランド復活の動きが報じられた時から約4か月経過した平成3年(1991年)11月5日に,原告商標を出願している。また,出願中の平成5年(1993年)7月24日,繊研新聞及び日経流通新聞の記事により,被告インディアンの設立や,「Indian」ブランド商品の輸入及びライセンスビジネスの展開等が報道され,「Indian」ブランドは,同年11月の時点で既に米国でブームを呼んでおり,日本でも「ブーム着火は時間の問題」と報じられ,ブランドビジネスの専門業者として,このような状況を知らなかったはずはないのに,平成6年3月31日に原告商標の登録を受けても,自ら登録商標及びこれと実質的に同一の範囲にある商標を使用することはしなかった。また,被告サンライズが訴外マルヨシと被告商標に関するサブライセンス契約を締結し,訴外マルヨシが平成6年5月ころから実際に被告商標等を付したバッグの販売を開始しても,商標権者としてこれに対応することもしなかった。その一方で,被告らによるインディアンロゴを主体とする各種商標(被告商標を含む。)の使用開始と歩調を合わせるかのように,平成6年9月21日に,インディアン図形,インディアンロゴ及び活字体英文字「MOTOCYCLE」を組み合わせた商標並びに左向きインディアン横顔図,インディアンロゴ及び活字体英文字「MOTOCYCLE」等を組み合わせた商標を登録出願したほか,原告商標の登録から1年以上経過した平成7年5月ころから,(ア)インディアンロゴ,(イ)インディアンロゴ及び活字体英文字「MOTOCYCLE」を組み合わせた商標,(ウ)インディアンロゴ,左向きインディアン横顔図及び英文字筆記体「Motorcycle Co.」を組み合わせた商標等,いずれもインディアンロゴを主体に構成された商標を付したジャケット,シャツ,帽子等の輸入,製造販売及び広告を開始した。
 また,原告は,被告インディアンからの平成7年6月30日付け「警告書」に文書で応答した後も,証拠上,少なくとも平成9年1月ころまで,インディアンロゴ等を含む標章を付したジャケット等の製造販売や広告を継続したが,(1)Fで認定したとおり,その主な使用の態様は,雑誌広告に原告商標「インディアンモーターサイクル」を使用したほか,指定商品に属するジャンパー等にこれと社会通念上同一の範囲にあると認められる英文字「Indian Motorcycle」を使用したというものである。原告商標は,雑誌広告等の上で活字になったにとどまり,現実に需要者に提供される商品について,同商標が付されて使用された事実を認めることはできない。また,上記「Indian Motorcycle」については,これと実質的に同一と認められる英文字商標「INDIAN MOTOR CYCLE」が,被告商標と全く同じ構成の先願商標と類似することを理由に,これを登録しない旨の特許庁の審決が既に確定している(第3,4(2))ことから分かるとおり,原告商標よりもむしろ当時出願中であった被告商標との類似性が強いと認められる商標である。その一方で,原告が現実に使用したのは,原告商標よりも被告商標との類似の程度が強いと認められるインディアンロゴを含む多数の標章であり,その中には,自ら登録する原告商標から生じる「インディアンモーターサイクル」の称呼ではなく,被告商標から生じる「インディアンモトサイクル」の称呼を生じる英文字筆記体「Indian Motocycle」を含むものも存在する(上記(1)F)。このような行為は,自ら原告商標を登録し,かつ,被告インディアンらが使用する被告商標等の存在を知りながら,あえてその登録商標と同一の範囲ではなく,類似の範囲にある商標を指定商品について使用し,被告インディアンの業務にかかる商品と混同を生じさせたものと評価されてもやむを得ない。このことは,これと同趣旨の判断をして,商標法51条1項の規定に基づき,原告商標の登録を取り消した特許庁の審決の存在からも,裏付けられるというべきである。
 さらに原告については,被告らが指摘するとおり,米国映画「BIG WEDNESDAY」の中で用いられて有名になった商標「BEAR SURF BOARDS」につき,まず片仮名商標「ベアーサーフボード」を出願して登録を受けた上,「BEAR SURF BOARDS」に図形を組み合わせた商標を出願し,拒絶査定を受けたにもかかわらず,かかる結合商標を使用する正規のマスターライセンシーである訴外サクラインターナショナルに対し,商標権侵害訴訟を提起した事実,及び,このほかにも,@米国のカジュアルスポーツ系のブランドで,商社トーメンの系列会社がライセンシーである「O'NEILL」,A米国のビールメーカーであるバドワイザーの主力商品名の1つである「BUD LIGHT」,B米国ラスベガスに古くからあるスターダストホテルに由来する「STARDUST」,C米国の著名な小説家の固有名詞「MARK TWAIN」,Dその代表作(小説)の主人公の固有名詞「TOM SAWYER」,E米国国旗の名称であり,米国国防総省の機関紙名でもある「STARS AND STRIPES」など,海外の著名なブランドないし固有名詞に関連する商標を多数出願している事実が認められるのであって,上述した原告商標の出願・登録の経緯,原告商標の実際の使用態様及び被告らとの紛争の経緯に,上記「ベアーサーフボード」に関する商標登録等の各事実を併せ考えれば,原告は,自ら登録商標を使用するよりも,むしろ類似の商標を使用する他者に対して権利行使し,そのことによって経済的利益を得ることを主な目的として,原告商標を出願し,その登録を得たものというべきである。
 以上のとおり,原告は,業界紙において「ブーム着火は時間の問題」と報じられる状況にあった平成6年3月31日に原告商標の登録を受けたが,自ら登録商標及びこれと実質的に同一の範囲にある商標を使用することはせず,被告らのライセンスビジネスが開始し,訴外マルヨシが被告商標を付したバッグの製造販売を開始した後の平成7年5月ころになって,原告商標よりもむしろ被告商標との類似の程度が強いと認められるインディアンロゴを含む多数の商標を使用し始めたものであって,このような商標の使用は,あえて原告商標と同一の範囲ではなく,類似の範囲にある商標を指定商品について使用し,被告インディアンの業務に係る商品と混同を生じさせたものと評価されてもやむを得ない。原告商標の実際の使用状況,他の著名ブランドに関わる原告の商標出願の実態等をも併せ考えれば,原告は,自ら使用するよりも,むしろ類似の商標を使用することが見込まれる者に対して権利を行使し,経済的利益を得ることを主たる目的として原告商標を出願・登録し,現に類似の商標を使用する被告インディアンらに対し,権利を行使しようとするものであって,本件の事実関係にかんがみれば,かかる商標権の行使は,権利の濫用に当たるものとして許されないというべきである。
(3) 原告の主張について
 ところで,原告は,原告商標の採択・登録出願の経緯に関し,日本での購入手段すら定かでない米国発行の一般紙など購読しておらず,「The Daily News」1991年7月1日号及び「USA TODAY」同月5日号の各記事は見ていない,原告商標採択のきっかけは,米国ヴィンテージバイクの愛好グループから,彼らのバイクジャケットの製作を依頼されたことであり,彼らの勧めにより同ジャケットを市販商品化すること及び商標名を「インディアンモーターサイクル」とすることを決定し,1991年(平成3年)11月5日に原告商標を商標登録出願したものであると主張する(第5,3(原告の主張)(4))。
 しかしながら,原告のような海外の著名ブランドに関する商標を数多く取り扱う専門業者は,需要者のニーズの動向をいち早く察知するため,海外のブランドビジネスの動きに日々注意を払い,情報の収集と分析に努めているのが実情であるから,このような原告が,最も一般的な米国一般紙である「The Daily News」や「USA TODAY」の上記各記事を見ていないなどということは,上記取引の実情に照らし,信用しがたい。また,原告は,上記原告商標採択の経緯を裏付ける証拠として,原告常務取締役(当時)Cの陳述書及び雑誌記事を提出するが,これらは文書としての性質上,いずれも原告側の認識にのみ基づき記載されたものであって,客観性に乏しく,原告主張のとおりの経緯を認めるには足らない。
 また,原告は,被告らが実際に被告商標等の使用を開始したのは,平成7年(1995年)10月〜11月に,被告西澤が英国製の革製ジャケット,パンツを輸入販売して以後のことであり,原告による「インディアン」ブランドの使用開始よりも後のことであるから,このような使用開始時期の前後関係や,原告による広告実績等に照らせば,平成7年(1995年)暮れころにおいては,さしたる実績のない被告らに比べ,むしろ原告の使用によるものとして「インディアン」ブランドは周知であり,少なくとも,被告らが原告よりも先に同ブランドの使用を開始し,その時点でこれを市場に浸透させたとか,周知性を獲得していたなどという事実はないと主張する(第5,3(原告の主張)(5))。
 原告商標の出願及び登録の各時点において,被告商標が被告インディアンの商品の出所を示す商標として周知であったといえないことは前記のとおりであるが,前記(1)Cで認定したとおり,証拠上,平成6年5月ころには,被告サンライズとサブライセンス契約を締結した訴外マルヨシが,被告商標,ヘッドドレスロゴ及び左向きインディアン図形等を付したバッグの販売を開始したと認められる。そうすると,被告らが実際に被告商標等の使用を開始したのは,平成7年(1995年)10月〜11月に,被告西澤が英国製の革製ジャケット,パンツを輸入販売して以後のことであることを前提とする原告の上記主張は,そもそもその前提において誤っている。証拠上認められる事実関係を前提にすると,被告らによる被告商標やインディアンロゴの使用により,「インディアンブランド」が市場においてある程度知られるに至った後に,被告商標やインディアンロゴに類似する標章の使用を開始したのは,むしろ原告の方であると認められるのは前判示のとおりである。原告の上記主張を採用することはできない。
 4 結論
 以上のとおり,別紙「被告標章目録」1ないし7記載の各標章は,いずれも原告商標と類似すると認められるものの,本件事実関係の下においては,原告の請求は,権利の濫用に当たるものとして許されない。
 そうすると,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。よって,主文のとおり判決する(なお,前記第2,3記載のとおり,平成14年8月22日付け中間判決は,@ 別紙「被告標章目録」1ないし7記載の各標章は,いずれも別紙「原告商標目録」記載の商標(原告商標)に類似する,A 別紙「被告標章目録」4記載の標章は,被告が有する商標権(登録第2710099号)の専用権の範囲に属するが,同目録5ないし7記載の各標章は,いずれも同商標権の専用権の範囲に属しない旨の判断を主文で示したものであるから,本判決の認定・判断は,中間判決の拘束力に抵触するものではない。)。
〔論  説〕
1.本件については、商標の類否問題について、類似するとの中間判決が平成14年8月22日に出ていたが、その後、状況が変化し、本件登録商標に対し、特許庁は平成15年3月28日に商標法51条(故意・類似商標の使用・他人の商品・混同)によって登録取消の審決をした。この審決は現在、東京高裁に係属中であるが、取消される蓋然性が高いことから、東京地裁は本件商標権に基づく権利行使は濫用に当たると判断し、請求棄却となったのである。
  ただ、地裁がすでに判断した被告商標が、原告の登録商標と類似するとの中間判決の判旨に変わりはないから、終局判決は中間判決の拘束力に抵触するものではないとした。
2.本件商標が登録取消の審決を受けたことによる将来における商標権の消滅を理由とした商標権行使の権利濫用の判決は、「MOSRITE」事件(F-4)において証明済みである。

[牛木理一]