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ルービックキューブ事件: 東京地裁平成9(ワ)12191号.平成12年10月31日判決(一部認容)〈民46〉

〔キーワード〕
商品等表示性、商品の基本的構成態様、技術的機能由来の形態、商標の類否
〔事  実〕
 本事件は、原告T社が被告R社に対し、被告会社が輸入し国内で販売する別紙物件目録(二)ないし(八)記載の回転式立体組合せ玩具(以下、「被告商品」と総称することがある。)は、原告が製造販売し、その形態が原告の商品であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されている別紙物件目録(一)記載の回転 式立体組合せ玩具(以下「原告商品」という。)と形態が類似し、原告商品と混同を生じさせており、被告会社による被告商品の輸入、販売は不正競争防止法2条1項1号に該当する不正競争行為 であるとして、右行為の差止め及び損害賠償を求め、また、被告会社が被告商品に付した別紙被告標章目録(一)ないし(五)記載の標章(以下、「被告標章」と総称することがある。)が、「第24類おもちゃ等」を指定商品とする原告の登録商標と類似しており、商標権侵害に当たるとして、当該標章の使用の差止め及び損害賠償を求め、併せて、被告会社の代表者である被告Sに対し、被告Sはその職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったとして、商法第266条の3第1項に基づき、被告会社と連帯して損害賠償金 を支払うことを求めた事案である。
 原告の商標権とは、(1)文字標章「マジックキューブ」に係る 商標登録第2132553号(平成1年4月28日登録)と(2)文字標章「キューブ」に係る商標登録第883208号(昭和45年12月11日登録)の2件であった。
 本事件において裁判所は、原告主張の第1の不正競争防止法に基く請求を棄却し、第2の商標法に基く請求を認容したのである。
〔争  点〕
1. 原告商品の形態は、原告の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているか。
2. 被告商品は原告商品と類似し、原告商品と混同を生じさせているか。
3. 被告標章の使用は、原告の本件商標権を侵害するか。
4. 原告が被告会社に対して、被告製品の販売等を許諾していたか。
5. 被告Sは、商法266条の3第1項に基づく責任を負うか。
6. 原告の被った損害額。

 

〔判  断〕

 

一. 争点1(原告商品形態の周知商品表示性)について
(一) 不正競争防止法2条1項1号は、「他人の商品等表示」すなわ ち「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の商品等表示を使用等する行為を不正競争行為と規定することにより、周知な商品等表示の持つ出所表示機能を保護するものである。
 商品の形態は、商品の機能を発揮したり商品の美感を高めたりするために適宜選択されるものであり、本来的には商品の出所を表示する機能を有するものではないが、ある商品の形態が他の商品に比べて顕著な特徴を有し、かつ、それが長期間にわたり特定の者の商品に排他的に使用され、又は短期間であっても強力な宣伝広告等により大量に販売されることにより、その形態が特定の者の商品であることを示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には、商品の形態が右条項により保護されることがあるものと解される。
 しかし、商品の形態が当該商品の機能ないし効果と必然的に結びつき、これを達成するために他の形態を採用できない場合には、右形態は、不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表 示」に該当するものではなく、これについては不正競争防止法による保護は及ばないと解すべきである。けだし、右のような機能ないし効果と必然的に結びつく形態は、本来、発明ないし考案として、特許法等の工業所有権法により一定の期間、独占的地位を保障されることを通じて保護されるべきものであるところ、仮に、このような形態について不正競争防止法上の保護を与えるならば、本来、工業所有権法上の所定の期間の経過後は広く社会全体の公有財産に帰属するものとして万人が自由に利用できることになるはずの技術について、特定の者が独占的に支配することを認めることとなり、公共の利益に反するからである。すなわち、仮に、機能ないし効果と必然的に結びつく形態を不正競争防止法による保護の対象とするならば、不正競争防止法2条1項1号が本来的な商品表示として定める「人の業 務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装」のように、商品そのものではない別の媒体に出所識別機能を委ねる場合とは異なって、同法条が目的とする出所の混同の防止を超えて、当該商品に利用されている技術思想そのものについて、特許法等の工業所有権法上の保護を超えた独占的、排他的支配を認めることとなり、技術の自由な利用によりもたらされる産業の発展や商品の自由な流通を阻害する結果となる。
(二) これを本件についてみるに、前記争いのない事実、証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
(1) 原告は、玩具の製造・販売等を業とする株式会社であるが、昭和55年7月25日ころ我が国において回転式立体組合せ玩具である原告商品(商品名「ルービック・キューブ」)の販売を開始した。
(2) 原告商品の形態は、別紙物件目録(一)記載のとおりである 。すなわち、原告商品は、一辺約5.6センチメートルの正六 面体で、各面が9個のブロックに区分され、各ブロックは表 面が色付けされており、それぞれ左右、前後に360度回転可 能であり、基本状態では各面がそれぞれ赤、青、黄、白、緑、橙の各色にそろえられており、適宜回転させて各面の配色をいったん崩した後、再び各面を同一色でそろえるなどして・・遊ぶパズル玩具であって、その配色の組合せは30億を超え、数学的な解き方を発見する楽しみがあるパズルである。
(3) 原告商品は、もともとハンガリーのエルノー・ルービックによって考案されたものであり、ヨーロッパやアメリカで流行しブームとなった。原告は、これを日本に導入して販売することを企図し、すでにアメリカにおいてルービック・キューブを販売していた同国のアイデアール・トーイ社との間で同社が香港で製造したルービック・キューブを原告が同社から購入して、日本国内で独占的に販売する旨の輸入販売契約を締結した。
(4) 原告は、ルービック・キューブの発売開始に先立ち、昭和55年6月上旬東京晴海で開かれた国際玩具見本市に自社の商品としてルービック・キューブを出品し、同年7月下旬から 右商品を販売することを発表し、そのことは業界紙で報じられ、業界の注目を集めた。原告商品は、発売開始と同時に大人から子供まで広く人気を集めて爆発的な売れ行きを示し、同年3月ころまでには約180万個が販売された。原告は、右発売に際し、ポスターを取扱業者に配ったり、雑誌などに広告を掲載するとともに、店頭で原告商品を実際に手にして触れられる「2分間チャレンジ」という企画を行い、またこのパ ズルを解いた者には認定証を交付することとするなど販売意欲をそそる宣伝を積極的に行った。また、原告商品が爆発的なブームになっていることは、そのパズルゲームとしての難しさ、面白さとともに、新聞、週刊誌などの紹介記事でたびたび報じられ、これらの記事においては、原告商品の写真とともに輸入発売元である原告の名称も記載されていた。このようにして、遅くとも、昭和56年3月ころまでには、原告商 品は、ハンガリー人のエルノー・ルービックの考案にかかる世界的なブームを呼んでいるパズル玩具であって、我が国では原告が輸入販売元となって販売していること、その商品本・体が前記のような形態をしていることは、玩具業者のみなら
ず一般消費者の間にも広く認識されるに至った。
(三)(1) 右認定事実によれば、昭和56年3月ころまでには、原告商品は、原告の販売する商品として日本全国において広く認識されるに至ったものと認められる。
 前述のとおり、商品の機能ないし効果に必然的に由来する形態は不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」に該 当しないと解されるところ、原告商品の基本的構成態様、すなわち「六面体であってその各面が9つのブロックに区分さ れ、各面ごとに他の面と区別可能な外観を呈している」とい・う商品形態は、六面体の各面を9つのブロックに区分し、各 ブロックを適宜回転させて各面の配色をいったん崩した後、再び各面を同一色でそろえるなどして遊ぶパズル玩具であるという原告商品の有する機能ないし効果と必然的に結びついていると認められるから(現に、六面体であり、各面が9つ のブロックに区分された外観を有する回転式立体組合せ玩具について特許出願(特開昭53-46833号)がされているほか、他の様々な形態の回転式組合せ立体玩具についても、我が国及び欧米各国において特許出願がされていることが認められる。)、右基本的構成態様は不正競争防止法による保護の対象となるものではない。したがって、原告商品の形態のうち、その機能ないし効果に必然的に結びついたと評価される右基本的構成態様については、不正競争防止法2条1項1号所定 の「商品等表示」として認められる範囲から除かれると解するのが相当である。
 そうすると、原告商品の有する形態のうち、その機能ないし効果と必然的に結びついている部分である右基本的構成態様を除く形態については、原告の販売する商品であることを示す商品等表示として広く認識されるに至ったということができる。すなわち、原告商品の色彩、形状の大きさ、素材等は、原告商品の有する機能ないし効果に由来するものではないといい得るので、原告の販売する商品であることを示す商品等表示として周知性を獲得したということができる。
(2) 原告は、原告商品の形態のうち、右基本的構成態様についても、原告の商品等表示として周知であり、原告商品の色彩、形状の大きさ等と同様に、技術的機能に由来するものではないと主張し、その主張の根拠として、回転式立体組合せ玩具の中でも、六面体以外の形状を有する玩具や、六面体の形状を有するが、その各面が九つ以外の数のブロックに区分されている玩具が存するとして、この点に関する証拠を提出する。しかし、原告の主張する右六面体以外の形状を有する玩具及び六面体の形状を有するが、その各面が九つ以外の数のブロックに区分されている玩具は、いずれも、回転式立体組合せ玩具という同一の範疇に属するとはいえ、原告商品とは別個の構造の玩具というべきであり、そうした別個の種類の商品が存在することをもって、原告商品の右基本的構成態様が原告商品の機能ないし効果と必然的に結びついているという認定を妨げることはできない。原告の主張は、採用できない。
二. 争点2(原告商品と被告商品との類否及び混同のおそれの有無)について
 前判示のとおり、原告商品の形態のうち基本的構成態様の部分については不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」たり 得ないところ、仮に、原告商品の形態のうち右基本的構成態様の部分を除いた形態について獲得された周知性が現在も維持されているとしても、原告商品の形態のうち右基本的構成態様を除いた具体的構成態様について被告商品と対比すれば、被告商品は、その表面にキャラクターが付されていたり(イ号ないしハ号、ホ号ないしト号商品)、各面の配色が異なっていたり(ニ号商品)、六面体の一辺の長さが異なったりしており(ニ号、ホ号、ト号商品)、表面の模様、色彩、形状の大きさ等の点において原告商品と類似するものではないことが明らかである(原告は、被告商品は原告商品と類似すると主張するが、原告の主張は、原告商品の有する基本的構成態様についても周知商品表示に当たることを前提とした主張であるから、その前提を欠き、失当であるというほかはない。)。
 そうすると、原告商品の形態のうち基本的構成態様の部分を除いた形態について、獲得された周知性がなお現在も維持されているか否かを判断するまでもなく、原告の不正競争防止法に基づく差止請求及び損害賠償請求はいずれも理由がないというべきである。
三. 争点3(本件商標権の侵害の成否)について
 本件登録商標と被告標章が類似することは、当事者間に争いがない。
 被告らは、ニ号、ホ号、ト号各商品はキーホルダーであって、特許庁の類似商品審査基準によれば第14類に当たるところ、本件商標権の指定商品は第24類のおもちゃ等であるから、商品として類似関係にないと主張する。
 しかし、商品の類否は、特許庁の審査基準における区分を参酌しつつも、本来的には、商標の付された具体的な商品の品質・形状・用途・取引の状態等から観察し、取引上の通念によって出所の混同が生じるか否かにより判断されるべきであるところ、前記争いのない事実及び証拠によれば、被告商品の形状は、六面体であって一辺が約3.0センチメートルの大きさのある立方体であり 、「ミニキューブ解法の手引き」と題する文書が添付されていることが認められ、これらよりすれば、ニ号、ホ号、ト号各商品は、色合わせを楽しむことができるやや小さめの回転式立体組合せ玩具を単にキーホルダー形式としたものであることが明らかであって、取引上キーホルダー形式の回転式立体組合せ玩具が他の回転式立体式組合せ玩具と全く区別して取り扱われていることを認めるに足りる証拠もない。右によれば、ニ号、ホ号、ト号各商品は、いずれも回転式立体式組合せ玩具というに妨げないというべきであって、本件登録商標の指定商品である「おもちゃ」に属するか、少なくとも類似する商品というべきである。被告らの主張は、採用できない。
 被告らは、被告会社においては被告標章を現在使用していないと主張するが、被告会社による右標章の使用が全面的に中止されたことを認めるに足りる証拠はなく、また、被告会社が販売先小売店や消費者に対して右標章の使用を取りやめたことを通知したなどの事実の主張立証もされていないから、原告が被告会社に対して被告標章の使用の差止めを求める利益は失われていないというべきである。
四. 争点4(原告による許諾等の有無)について
 被告らは、被告商品の販売に当たって、原告から許諾があり、原告の商標権侵害に基づく請求は禁反言の原則、取引上の信義則に反する行為であると主張し、証拠中にはこれに沿う部分がある。
 しかし、右各証拠をもっても、ウルトラマンのキャラクターが入った被告商品の形態についてはともかく、被告会社が販売開始に当たり、本件登録商標について原告から具体的に使用許諾等を受けていたと認めることはできず、証拠に照らしても、被告らの主張は、採用できない。また被告らは、原告商品の意匠権者が権利を放棄しているから、原告が本訴における請求をすることは信義則に反すると主張するが、被告らの主張する右事情は、原告が本件商標権に基づく請求をすることの妨げになるものではない。
 したがって、被告会社が被告標章を被告商品に付して使用する行為は、本件商標権を侵害するものと認められるから、本件商標権に基づき被告に対し被告標章の使用の差止めを求める請求は、理由がある。
五. 争点5(被告Sの責任)について
 被告Sが被告会社の代表取締役として被告標章を付した被告商品の販売に関わった行為は、前判示のとおり、本件商標権の侵害に結びつく行為ではあったが、不正競争行為に該当するものではないところ、本件では、被告Sが本件登録商標の存在を知りながらあえて被告標章を被告商品に付して販売したとは証拠上認められず、他に被告Sにおいて取締役の職務の遂行につき悪意・重過失があったと認めるに足りる事情も窺われないから、原告の主張は採用できない。
六. 争点6(損害額)について
(一) 被告会社が被告商品の販売等によって得た純利益の額が、570万8453円であることは、当事者間に争いがない。商標法38条2項によれば、被告会社による本件商標権の侵害によって 原告の被った損害額は、570万円を下らないと認められる。
(二) 被告らは、被告会社は原告の許諾があって販売したものであり、被告会社の販売行為についての原告の過失割合は少なくとも7割と考えられるとして、過失相殺を主張する。しかし、前述したように、本件商標権について原告から具体的に使用許諾等を受けていたと認めることはできない以上、被告らの主張はその前提を欠き、失当である。
(三) 右によれば、原告の被告会社に対する損害賠償請求は、本件商標権侵害を理由として570万円の支払を求める限度で理由がある。
〔研 究〕
 不競法が商品形態を保護するのは、それらが出所識別機能を有する商品等表示に当たる場合があるからであるが、基本的に物品の技術的機能に由来している形態部分は、これを不競法の保護から除外することに積極的な説と消極的な説とが、これまでの裁判例においてもある。
 今回の判決は前者の説を採ったものであるが、物品が果すべき基本的機能に由来する形態が、必然的な技術的形態であると断定することは、代替的な技術的形態の余地がある商品の場合にあってはこの説は採られないことになるから、不正競争行為と判断することができることになる。
 本件判決は、不正競争防止法における商品形態の保護のあり方についての一つの基本的な考え方を、侵害裁判所として説示したものであるが、技術的機能に由来する商品形態除外説に対しては、原告の商品形態が商品の技術的機能に由来していたとしても、その事実を唯一の理由としては請求棄却をせず、その他の成立要件が証明されるならば請求を認容する場合もあり得るところ、以下にはそのような場合に認容した旧不競法1条1号の裁判例を挙げておく。
(1) 「投げ釣り用天秤」事件(東京地判昭和53年10月30日、無体裁 集10巻2号509頁)
(2) 「会計伝票」事件(東京地判昭和61年1月24日、特管別冊判集 昭61.1..19頁)
(3) 「配線カバー」事件(東京地判平成1年12月28日,東京高判平成5年2月25日、無体裁集21巻3号1073頁)
(4) 「封緘具」事件(東京地判平成3年3月25日,東京高判平成4年3月17日、無体裁集24巻1号230頁)
(5) 「パネル接合機」事件(横浜地小田原支判平成5年4月27日)

[牛木理一]