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JUVENTUS事件: 東京地裁平成8(ワ)5748号.平成12年3月23日判決(棄却)

〔キーワード〕
商標の使用、商標の機能、権利の濫用

 

〔判示・認定事項〕 

  1. 被告商品のジャンパーの胸部分や背部分の「JUVENTUS」の文字の大きな表示は、商標としての使用といえるし、この判断は、被告商品にその製造販売主体を示す別の表示があっても変わりない。
  2. 原告による権利行使は、正義公平の理念に反し、国際的な商標秩序に反するから、権利の濫用となる。
〔事  実〕
 原告N社は、標章「JUVENTUS」について、昭和58年1月12日に、旧第17類を指定商品として出願し、昭和60年7月29日に設定登録した商標登録第1795328号(商標権一)および旧第21類を指定商品として出願し、昭和60年6月25日に設定登録した商標登録第1777332号(商標権二)の商標権者であった。
 原告は、IF社に対し、本件商標権一について通常使用権を許諾し、本件商標権二について専用使用権を設定し、同社はさらにF株式会社等の国内企業に対し、再許諾をした。
 F社は、イタリアのプロサッカーチームに「JUVENTUS」の標章(ロゴ、エンブレム等)を繊維製品に使用することを、同チームから許諾を得たK社(イタリア企業)から再許諾を得ているB社(イタリア企業)からさらに許諾を得ていた。また、IF社は、│同チームの標章を、繊維製品以外の商品に使用することについて│、同チームから許諾を受けるとともに、繊維製品中、ハンカチ、下着、帽子、鞄等に使用することについて、フェニックス社から│再許諾を受けていた。
 このようにして、IF社とF社「JUVENTUS」チームの標章を付した商品を、同チームのオフィシャルグッズとして日本国内で製造、販売していた。
 被告NS社は、被告標章一、二を付した商品を平成4年12月9日頃イタリアから輸入し日本国内で販売していた。
 この事件の争点は次の2点であった。
1.被告標章は商標としての使用となるか。
2.原告の商標権行使は、権利の濫用となるか。

 

〔判  断〕

 

争点1.についての判断
 被告標章一は別紙「被告標章目録」一記載のとおり、欧文字で「JUVENTUS」と横書きされたもの、被告標章二は別紙「被告標章目録」二記載のとおり、内部に黒白の縦縞模様が付された縦長の楕円形において上部に欧文字で「JUVENTUS」と横書きされるとともにその下部に王冠と獣からなる紋章が描かれたもので、いずれもイタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS FOOTBALL CLUB」が使用する標章であった。
 被告商品において被告標章は、複数の種類の異なる商品に、いずれも当該商品の最も目立つ位置に付されていること、被告は被告商品を右プロサッカーチームのオフィシャルグッズとして販売していることが認められるから、被告商品において被告標章は、一般消費者に対し一定の出所を指示する態様で用いられているといわざるを得ないから、商標として使用されているものというべきであると裁判所は認定した。
 なお、被告標章が一般消費者に対して装飾的・意匠的な美感に訴える面を有しているとしても、それによって商標自体が有する商品の識別機能が失われるものではなく、また被告商品に被告標章以外にその製造販売主体を示す別の表示があっても、それに よって直ちに被告標章の使用が商標としての使用といえなくなるものではないと判断した。
 この争点1.に対する裁判所の判断は、被告が、「チーム名を表す被告標章は、オフィシャルグッズである被告製品においては、チームとの一体性を表示する一方、デザインとして機能し、その意匠的・意味的効果としての『力強さ』や『スピード』等々を感じさせ、一般公衆の購買意欲を喚起するために表示されているものであり、商標としての自他商品の識別、出所表示及び品質保証機能を有するものではない。被告標章は、商品の最も目立つ位置に置かれ、そのうち多数が商品の前面や背面の大半を覆うような態様で使用されていること、「KAPPA」や「Basic」という著名なメーカーの表示がえり吊りネーム、吊り札等に別途表示されていることなどに照らせば、被告商品における被告標章の使用は、いずれも自他商品の識別、出所表示及び商品保証機能を発揮するものではない。したがって、被告商品に付されている被告標章は、商標として使用されているものではない。」と主張したことに対するものであった。
 その意味で、この判決は、かつて「ポパイ」の絵と「POPEYE」の文字から成る図形がTシャツの胸部に大きく表現されたものが、「ポパイ」のキャラクターの絵と、ポパイとPOPEYEの文字から構成された商標の商標権侵害となるか否かが争われた大阪地裁において、それは意匠的・装飾的使用に当たり、社会通念上、本来の商標としての使用とはいえないとした昭和51年2月24日判決と対立するものである。
争点2.についての判断
 被告標章はいずれも「JUVENTUS」チームの標章であり、同チームがイタリアのK社にその使用を許諾し、K社からその標章使用に関する権利を授与されたイタリアのB社等が、被告標章を付した「商品目録」一及び二記載の商品(ただし、ソックス及びショーツを除く。)を製造・販売している被告商品は、被告がこれを正規の手続を経てイタリアからわが国に輸入して販売しているものである。
 被告標章一は、「被告標章目録」一記載のとおり欧文字で「JUVENTUS」と横書きされたものであり、被告標章二は、「被告標章目録」二記載のとおり、内部に黒白の縦縞模様が付された縦長の楕円形において上部に欧文字で「JUVENTUS」と横書きさるとともにその下部に王冠と獣からなる紋章が描かれたもので、いずれもイタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS FOOTBALL CLUB」が使用する標章である。
 原告代表者が昭和58年1月当時、サッカー愛好者であるとともに度々イタリアに渡航して同国の事情に精通していたこと等の事実関係に、原告商標と被告標章の類似性に争いがないことを併せ考えれば、原告商標は「JUVENTUS」チームの名称に由来するものといわざるを得ず、原告はこれを知った上でその商標登録出願をしたものと認定された。
 原告が、「JUVENTUS」チームからその名称の使用許諾を得たことをうかがわせる証拠がない一方、原告は、わが国において 「Jリーグ」が創設された平成3年以降、自らの事業内容とは関連性のない別の指定商品について、原告商標とほぼ同一の外観を有する商標や、上段に欧文大文字で「JUVENTUS」と横書きされ、下段に片仮名「ユベントス」と横書きされた商標について商標登録出願をしたり、平成6年2月ころIF社から、同チームのグッズを日本で商品化するに当たり、原告商標の使用許諾を得たい旨の申入を受け、同年4月、IF社に対し使用許諾した。
 現在、「JUVENTUS」チームの名称が日本国内で広く知られていることなどの諸事情に照すと、原告は、わが国においてサッカー人気が高まるなか、原告商標が「JUVENTUS」チームの名称に由来するにもかかわらず、商標権が自己に帰属していることを奇貨として、その由来元の同チームから適法に許諾を受けて同チームの標章を使用する者に対し、本件商標権を行使し、その使用を妨げようとしているものである。
 原告によるこのような本件商標権の行使は、正義公平の理念に反し、国際的な商標秩序に反するものといわざるを得ない。したがって、原告の本訴請求は、公正な競業秩序を乱すものとして、権利の濫用に当たる。
原告は、昭和58年当時、わが国においては、イタリアのサッカーチームの名前などはほとんど知られていなかった旨を主張したが、仮に、その当時、「JUVENTUS」チームの名称がわが国では、著名であったとは認められず、原告標章に商標登録を無効とすべき事由があるとまで認められないとしても、原告商標が由来する名称を有するサッカーチームからその名称使用の許諾を得た商品の販売に対して本件商標権を行使することは権利濫用に当たると判断することが妨げられるものではない。
この争点2.に対する判断は、被告が、「サッカーチーム 『JUVENTUS』は、原告商標が出願された昭和58年当時、既に世界的に著名なプロサッカーチームであり、その略称と同一の綴り字からなる原告商標は、他人の著名な略称を含む商標(商標4条1項8号)、他人の業務と混同を生じるおそれのある商標(同条項15号)として無効とされるべきものであること、同チームの著名性に加え、原告代表者が昭和58年当時、業務のために度々イタリアに渡航し、同国の事情に精通していたとともに、熱烈なサッカーファンであって、同チームの存在を知らなかったとは考えられないことなどを勘案すると、原告による原告商標の登録出願は、日本における同チーム関連の商品市場を独占しようとする不正の目的をもってなされた、国際的信義に反する行為といえ、原告商標は、公序良俗に反する商標(同項7号)として無効とされるべきものである。」と主張したことに対するものであった。
〔研 究〕
1. 商品に複数の標章
 被告商品の一つであるジャンバーには、胸部分や背部分には 「JUVENTUS」の文字が大きく表示されているが、判決はこれについて、商標の商品識別機能を失わせるものではないから、商標としての使用といえなくなるものではないと判断した。この判断は、被告商品にその製造販売主体を示す別の表示があっても変わりないという。
 この判断は、同様のケースと思われる「ポパイ」第2事件の大阪地裁昭和51年2月24日判決と対立することになる。この大阪地裁判 決に対しては、渋谷達紀教授は、大阪地裁判決の理論的枠組みによると、その適用が安易に流れる傾向を生む危惧がある、といわれる。また、土井輝生教授は、装飾的に使用されている商標は存在するから、著名商標の商品化が放任されると、商標の出所表示機能や顧客吸引力が弱められるから、大阪地裁の判決が宣言した原則は非常に限定されるべきであるといわれる。
 しかし、著名商標は商品上どのような態様で使用されたとしても商標としての使用といえようが、有名キャラクターの絵は商品上どのような態様で使用されたとしてもキャラクターの絵であって、商標ではない。同じアテンションゲッターとしての機能を果すとしても、本来商標である著名商標と本来商標ではない有名キャラクターの絵とは区別されるべきものである。
 したがって、本来、一つの商品に、出所の識別表示機能を発揮する標章は唯一であるべきであり、複数存在すべきものではない。一つの商品やサービスにとっては、何がその標章であり、何がその非標章であるかの区別は、取引社会の常識(社会通念)によって判断されるであろう。
2. 権利濫用の抗弁
 判決が、原告による本件商標権の行使は、「正義公平の理念に反し、国際的な商標秩序に反する」から、原告の本訴請求を公正な競業秩序を乱し、権利の濫用となると判断したことは妥当である。同一態様の登録商標に対しては、別区分においては拒絶査定されたり、登録無効となっている中で、単に「商標権が自己に帰属していることを奇貨として」、本事件の被告に対し権利行使することは、権利の濫用となると判断したが、もし被告が「JUVENTUS」チームから適法に許諾を受けないで同標章を使用する者である場合には、原告の権利行使はどうなるだろうか。
 判決の趣旨から考えると、本件商標に登録無効事由がないとすれば、原告商標の由来する名称を有するサッカーチームから、その名称の使用許諾を得た真正商品の販売をする者以外の場合は、前記のような設問の場合は、権利濫用論は通用しないようである。
 しかし、大阪地裁「ポパイ」第2事件における判決理由を援用すれば、被告商品における「JUVENTUS」の使用は標章としての使用に当たるものではないから、やはり商標権の効力は及ばないということになるし、同時に原告は他人の著名なマーク(標章)を登録したことを奇貨としている事実から、その権利行使はやはり権利の濫用といわれることになる。
 この地裁判決に対しては控訴されなかった。

[牛木理一]