F-11

 

キャッチフレーズ風商標権侵害事件:東京地裁平16(ワ)8092平成17年12月21日判(一認)〔特許ニュース2006年2月14日号〕

〔キーワード〕
漫画雑誌の表紙,題号,商標の類否判断の基準,雑誌の売上げ額,広告収入

〔事  実〕
 1.本件は、いずれも出版業を営む商標登録第4703152号に係る商標権の商標権者である原告(鰍ヤんか社)が、被告(樺|書房)に対し、被告発行の漫画雑誌の表紙に、別紙被告標章目録1記載の(1)ないし(5)の各標章、別紙被告標章目録2記載の標章、および別紙被告標章目録3記載の(1)ないし(4)の各標章を付した漫画雑誌を販売してはならないとの請求をするとともに、@2874万円及びこれに対する平成16年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え、A1848万円及び内金1748万円に対する平成16年8月27日から、内金100万円に対する平成17年10月6日から各支払済みまでの年5分の割合による金員を支払え、との請求をした事案である。
2.原告が有する商標権とは、商標登録第4703152号に係る別紙商標目録記載のとおりのもので、平成15年3月10日に出願し、平成15年8月22日に設定登録された第16類「雑誌等」を指定商品としたものである(本件商標)。
3.被告が出版し販売した漫画雑誌1について、本件雑誌1(1)は平成15年10月12日号、本件雑誌1(2)は平成15年12月8日号、本件雑誌1(3)は平成16年1月13日号、本件雑誌1(4)は平成16年3月1日号、本件雑誌1(5)は平成16年4月13日号を発行した。
 被告標章1の態様は、本件雑誌の発刊の都度,自体,色彩,背景等が異なることから、
本件雑誌1(1)には被告標章1(1)、
本件雑誌1(2)には被告標章1(2)、
本件雑誌1(3)には被告標章1(3)、
本件雑誌1(4)には被告標章1(4)、
本件雑誌1(5)には被告標章1(5)、
と表示しているのはそのためである。
 また、被告標章2を使用した漫画雑誌2は、平成16年5月から出版し販売している。
 被告標章3を使用した漫画雑誌3は、平成15年10月から出版し販売している。
4.争点は次のとおりである。
(1)商標の類似性
(2)商標的使用の有無
(3)差止請求の可否
(4)損害の発生の有無とその額

〔判  断〕
1 争点(1)(商標の類似性)について
(1) 本件商標と被告標章1との類否
ア 外観
(ア) 本件商標
 本件商標は,別紙商標目録記載のとおり,四隅の角に小さな円みを持たせたやや横長の黒地の長方形内に,「本当にあったH(エッチ)な話」の語を,白抜きの太い文字で,上下2段に分けて,上段に「本当にあった」部分を,下段に「H(エッチ)な話」部分を配置したものである。上段の「本当にあった」部分は,左端から大きく横書きで「本当」と表示し,その右側に「本当」の約2分の1の大きさ,太さの文字で「にあった」を上下2段に分けて,上段に「に」を,下段に「あった」を配置することにより表示したものである。下段の「H(エッチ)な話」部分は,左端に「本当」の約1.5倍の大きさの文字で「H」と表示し,「H」の横棒の中に黒字で「エッチ」と表示し,その右側に「な」を「本当」の約0.6倍の大きさ,太さの文字で表示し,その右側に「話」を「本当」の約1.2倍の大きさの文字で表示したものである。いずれの文字も,角張ったものが用いられている。
(イ) 被告標章1
a 被告標章1(1)ないし(3)
 被告標章1(1)ないし(3)は,やや横長の長方形(ただし,左上部分が鋸歯のような形状で上方に盛り上がっている。)内に,「本当にあったHな話がてんこ盛り!」の語を,上下2段に分けて,上段に「本当にあった」部分を,下段に「Hな話がてんこ盛り!」部分を配置したものである。上段の「本当にあった」部分は,左端から大きく横書きで「本当」と表示し,その右側に「本当」の約2分の1の大きさ,太さの文字で「にあった」を上下2段に分けて上段に「に」を,下段に「あった」を配置することにより表示したものである。下段の「Hな話がてんこ盛り!」部分は,左端に「本当」の約1.7倍の大きさの文字で「H」と表示し,その右側に「な話がてんこ盛り!」の語を,上下2段に分けて,上段に「な話が」部分を,下段に「てんこ盛り!」部分を配置したものである。「な話が」部分は,一連の横書きで,「な」及び「が」を「本当」の約0.8倍の大きさ,約2分の1の太さの縦長の文字で表示し,その間に「話」を「本当」とほぼ同じ大きさの文字で表示したものであり,「てんこ盛り!」部分は,一連の横書きで,「本当」の約2分の1の大きさの文字で表示したものである。「H」及び「話」のみ角張った文字が用いられ,その他は角が丸みを帯びた文字が用いられている。
 また,被告標章1(1)及び(3)は黒地に白抜き文字で表示され,被告標章1(2)は白地に薄黒色の文字で表示されている。
 さらに,被告標章1(1)は,いずれの文字も縁取りがされており,被告標章1(2)及び(3)は,「H」及び「話」の文字にのみ縁取りがされている。
b 被告標章1(4)
 被告標章1(4)は,「本当にあったHな話がてんこ盛り」の語を,上下2段に分けて,上段に「本当にあった」部分を,下段に「Hな話がてんこ盛り」部分を配置したものである。上段の「本当にあった」部分は,左端から「本当」と表示し,その右側に「本当」の約0.6倍の大きさの文字で「に」と表示し,その右側に「本当」と同じ大きさの文字で「あった」と表示したものである。下段の「Hな話がてんこ盛り」部分は,左端に「本当」の約1.8倍の大きさのやや左に傾いた文字で「H」と表示し,その右側(ごく一部が重なっている。)に「本当」の約2分の1の大きさの文字で「な」と表示し,その右下(ごく一部が重なっている。)に「本当」の約1.2倍の大きさの文字で「話」と表示し,その右側に「がてんこ盛り」の語を,上下2段に分けて,上段に「てんこ」部分を,下段に「が」,「盛り」部分を配置したものである。「てんこ」部分は,一連の横書きで,「本当」の約0.7倍の大きさの文字で表示したものであり,「が」,「盛り」部分は,左側に「本当」の約2分の1の大きさの文字で「が」と表示し,その右側に「本当」の約0.7倍の大きさの文字で「盛り」と表示したものである。これらの文字は,長方形の枠内に納められているのではなく,文字の形に沿った白地の枠で囲まれている。
c 被告標章1(5)
 被告標章1(5)は,「本当にあったH(えっち)な話がてんこ盛り」の語を,白抜きの文字で,上下2段に分けて,上段に「本当にあった」部分を,下段に「Hな話がてんこ盛り」部分を配置したものである。上段の「本当にあった」部分は,左端から大きく横書きで「本当」と表示し,その右側に「本当」の約2分の1の大きさ,太さの文字で「にあった」を上下2段に分けて上段に「に」を,下段に「あった」を配置することにより表示したものである。下段の「H(えっち)な話がてんこ盛り」部分は,左端に「本当」の約2倍の大きさの文字で「H」と表示し,「H」の横棒の中に黒字で「えっち」と表示し,その右側に「な」を「本当」の約2分の1の大きさ,太さの文字で表示し,その右側に「話」を「本当」の約1.5倍の大きさの文字で表示し,「話」の下に「本当」の約0.4倍の大きさの文字で一連の横書きで「がてんこ盛り」と表示したものである。「H」は角が丸みを帯びた文字が用いられ,その他は角張った文字が用いられている。
(ウ) 本件商標と,被告標章1(1)ないし(3)及び(5)の外観を比較すると,全体を上下2段に分けて,上段に「本当にあった」部分を,下段にその余の部分を表示した点,上段の「本当にあった」部分については,左端から大きく横書きで「本当」と表示し,その右側に「本当」の約2分の1の大きさの文字で「にあった」を上下2段に分けて上段に「に」を,下段に「あった」を配置することにより表示した点,下段の部分については,「H」を全体で最も大きな文字で表示し,その右側に「な」及び「話」を配置し,「な」を「H」及び「話」より小さな文字で表示した点において共通している。また,本件商標と,被告標章1(4)の外観を比較すると,全体を上下2段に分けて,上段に「本当にあった」部分を,下段にその余の部分を表示した点,下段の部分については,「H」を全体で最も大きな文字で表示し,その右側に「な」及び「話」を配置し,「な」を「H」及び「話」より小さな文字で表示した点において共通している。
 本件商標と被告標章1とは,用いられている文字の字体(角の丸み等)や色,縁取りの有無,「てんこ盛り!」という語の有無などの点で,異なる点はあるが,言語及び文字の配置により,「本当にあったHな話」部分が看者の目を引くように表示され,また,当該部分の文字の配置が同一又はほぼ同一であって,「本当」,「H」,「話」の文字が大きく表示され,とりわけ,「H」の部分が最も強調されている点などで共通していることから,取引者・需要者に与える印象を同じくするものである。
 したがって,本件商標と被告標章1の外観は,類似するというべきである。
イ 称呼
 本件商標からは「ほんとうにあったえっちなはなし」の称呼が,被告標章1からは「ほんとうにあったえっちなはなしがてんこもり」の称呼が生じる。
 本件商標と被告標章1の称呼を比較すると,本件商標から生じる称呼の全部は,被告標章1から生じる称呼に含まれており,両者は,被告標章1の末尾に「がてんこもり」が付加されている点において相違するにすぎないから,本件商標と被告標章1とは,称呼が類似するというべきである。
ウ 観念
「Hな」とは,「性に関する言動が露骨な」,「性的にいやらしい」という意味を有する語であり,「てんこ盛り」とは,「食器に食物(特に飯)をうず高く盛ること」,「山盛り」という意味を有する語であることが明らかである。
 したがって,本件商標からは,「本当にあった性的にいやらしい話」といった観念を生じ,被告標章1からは,「本当にあった性的にいやらしい話が非常に多くある」といった観念を生じる。
 本件商標と被告標章1の観念を比較すると,被告標章1から生じる観念は,本件商標から生じる観念を含み,それに量の観念が付加されているにすぎないから,本件商標と被告標章1とは,観念が類似するというべきである。
エ 取引の実情
 そうすると,本件商標と被告標章1とは,外観,称呼,観念が類似するものと認められるところ,被告は,取引の実情により出所の誤認混同が生じないと主張するので,以下検討する。
 証拠(甲3の1・2,甲4の1の1・2,甲4の2の1・2,甲4の3の1・2,甲4の4の1・2,甲4の5の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,原告雑誌及び本件雑誌1は,いずれも成人男性向け漫画雑誌であり,成人男性を需要者とするという実情があるものと認められるが,成人男性であれば,「がてんこ盛り」というわずかな付加的記載の有無によって,本件商標と被告標章1とを識別し,両者を混同することがないものと認めるべき合理的理由はないから,被告の上記主張を採用することはできない。
 また,被告は,原告雑誌や本件雑誌1と同趣旨で発行されている本案系雑誌は,いずれも表紙の視覚的構成が近似しており,需要者は混同することなく題号を識別して商品の選択をしているという実情があると主張する。
 しかし,表紙の視覚的構成が近似する雑誌がある中で,需要者が混同することなく題号を識別して商品の選択をしていると認めるに足りる証拠はなく,これは客観的根拠を欠く被告の憶測にすぎない上,原告雑誌や本件雑誌1の需要者が通常人よりも高い注意力を有して当該雑誌を選択しているとも認められないから,被告の主張を採用する余地はない。
オ まとめ
 以上のとおり,本件商標と被告標章1とは,外観,称呼及び観念のいずれにおいても類似しており,また,取引の実情を考慮しても,出所の誤認混同を生じるおそれを少なくする事情があるとはいえない。したがって,被告標章1は,本件商標に類似するものと認められる。
(2) 本件商標と被告標章2との類否
ア 外観
 本件商標の外観は,上記(1)ア(ア)のとおりである。被告標章2は,「実際にあったエロ話がてんこ盛り!」と等大,等間隔で一連に横書きしたものである。
 本件商標と被告標章2の外観を比較すると,両者は,言語,字体及び文字の配置により,取引者・需要者に与える印象を異にし,外観が異なるというべきである。
イ 称呼
 本件商標からは「ほんとうにあったえっちなはなし」の称呼が,被告標章2からは「じっさいにあったえろばなしがてんこもり」の称呼が生じる。
 本件商標と被告標章2の称呼を比較すると,両者は,「にあった」の部分において共通し,「はなし」と「ばなし」が類似するにすぎないから,本件商標と被告標章2とは,称呼が相違するというべきである。
ウ 観念
 本件商標からは「本当にあった性的にいやらしい話」といった観念を生じる。また,「エロ」とは,「好色的」,「扇情的」という意味を有する語であるから,被告標章2からは,「実際にあった好色的な話が非常に多くある」といった観念を生じる。
 本件商標と被告標章2の観念を比較すると,「本当にあった」と「実際にあった」とはほぼ同一の観念であり,「性的にいやらしい」と「好色的な」とは類似の観念であり,それに加えて,被告標章2には「がてんこ盛り!」という量の観念が付加されているにすぎないから,本件商標と被告標章2とは,観念が類似するというべきである。
エ 取引の実情
 被告標章2は,本件雑誌2の表紙上,同雑誌の題号「まんが快援隊」の上部に,題号の文字の約5分の1程度の大きさの文字で表示されているものにすぎず(乙12),看者が表紙から受ける印象及び注目度において,被告標章2の占める割合は,題号やその他の表紙上の表示に比較して,極めて小さいものである。
オ まとめ
 以上のとおり,本件商標と被告標章2とは,観念が類似するものの,前記外観及び称呼において相違しており,取引の実情を併せ考慮すると,同一又は類似の商品に使用されたとしても,原告商標と被告標章2との間で出所の誤認混同を生じるおそれは認められない。したがって,被告標章2は本件商標に類似するものとは認められない。
(3) 本件商標と被告標章3との類否
ア 外観
 本件商標の外観は,上記(1)ア(ア)のとおりである。
 被告標章3(1)及び(3)は,「H」と「話」を同じ大きさの大きな文字で横に並べて表示し,「H」の横棒の中にやや右上がりで「エッチ」と表示し,「H」と「話」の中間にハート形の図の中に入った「な」を「H」の約3分の1の大きさ,太さの文字で表示し,「H」の左側に縦長の長方形の枠をやや左側に傾けて配置し,その枠の中に「本当に出会った」の語を縦書きで左右2段に分けて,右段に「本当に」部分を,左段に「出会った」部分を配置し,「本当に」部分は「H」の約3分の1の大きさ,太さの文字で,「出会った」部分は「H」の約6分の1の大きさの文字で表示したものである。各文字は角が丸みを帯びており,「H」及び「話」は,いずれも,縁取りがされている。
 被告標章3(2)及び(4)は,「本当に出会ったH(エッチ)な話」の語を,上下2段に分けて,上段に「本当に出会った」部分を,下段に「H(エッチ)な話」部分を配置したものである。上段の「本当に出会った」部分は,左右2段に分けて,右段に「本当に」を幅の長い文字で縦書きで表示し,左段に「出会った」を縦書きで表示したものである。下段の「H(エッチ)な話」部分は,「H」と「話」を同じ大きさの大きな文字で縦に並べて表示し,「H」の右の縦棒の中に右上から左下に向かって「エッチ」と表示し,「H」と「話」の中間にハート形の図の中に入った「な」を「H」の約3分の1の大きさの文字で表示したものである。
 本件商標と被告標章3の外観を比較すると,両者は,言語,字体及び文字の配置により,取引者・需要者に与える印象を異にし,外観が異なるというべきである。
イ 称呼
 本件商標からは「ほんとうにあったえっちなはなし」の称呼が,被告標章3からは「ほんとうにであったえっちなはなし」の称呼が生じる。
 本件商標と被告標章3の称呼を比較すると,15文字の音を共通にし,「あった」の前に「で」があるか否かが相違するにすぎないから,本件商標と被告標章3とは,称呼が類似するというべきである。
 被告は,「で」は,語頭にある破裂音であり,その有無は称呼において大きな違いをもたらす旨を主張するが,本件商標と被告標章3とは,前記のとおり,全体の称呼を比較した場合の共通性が大きく,差異はわずかなものにすぎないから,被告の主張を採用することはできない。
ウ 観念
 本件商標と被告標章3の相違点は,「あった」と「出会った」が異なるのみであり,「あった」は「存在した」との意味,「出会った」は「遭遇した」という観念が生じ,後に続く「Hな話」について主観的に述べるものか,主観的な場合に限られないかの違いがあるものの,実際に生じた事実を示すという点での差異はなく,「本当にあったHな話」全体から生じる観念と,「本当に出会ったHな話」全体から生じる観念とでは,大差がない。
 したがって,本件商標と被告標章3の観念は類似する。
エ 取引の実情
 そうすると,本件商標と被告標章3とは,称呼,観念が類似するものと認められるところ,被告は,取引の実情により出所の誤認混同が生じないと主張するので,以下検討する。
 証拠(甲3の1・2,甲9の1・2,甲10の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,原告雑誌及び本件雑誌3は,いずれも成人男性向け漫画雑誌であり,成人男性を需要者とするという実情があるものと認められるが,成人男性であれば,「本当にあったH(エッチ)な話」という本件商標と「本当に出会ったH(エッチ)な話」という被告標章3とのわずかな相違を認識して,両者を混同することがないものと認めるべき合理的理由はない上,原告雑誌や本件雑誌3の需要者が通常人よりも高い注意力を有しているとも到底認められないから,被告の上記主張を採用することはできない。
オ まとめ
 以上のとおり,本件商標と被告標章3とは,外観は類似しないものの,称呼及び観念が類似し,また,取引の実情を考慮しても,出所の誤認混同を生じるおそれを少なくする事情があるとはいえない。したがって,被告標章3は,本件商標に類似するものと認められる。
(4) 以上のとおり,被告標章1及び3は,本件商標に類似するものと認められるが,被告標章2は,本件商標に類似するものとは認められない。
2 争点(2)(商標的使用の有無)について
 本件雑誌1(1)ないし(4)においては,本件雑誌1の題号である「まんが快援隊」は,本件雑誌1の表紙の右上部に記載されているが,いずれも他の文字,写真又は絵の陰に隠れて判読が困難である。これに対し,被告標章1(1)ないし(4)は,本件雑誌1の表紙の左上部に表示され,被告標章1の占める部分の大きさは,題号の占める部分の大きさとほぼ同程度であり,さらに,題号より前面に押し出されて需要者に強い印象を与える構成となっている。また,本件雑誌1(5)においては,被告標章1と本件雑誌1の題号である「まんが快援隊」とが共通の横長の長方形の枠の中に表示され,被告標章1が占める部分の大きさと本件雑誌1の題号が占める大きさとはほぼ同程度となっているから,題号と同等の表示であるとの印象を受ける構成となっている。
 したがって,被告標章1は,出所を表示する機能を果たす態様で用いられているものであり,商標として使用されているものと認められる。
 被告は,題号は必ず裏表紙(背表紙)にも表示されているから,裏表紙(背表紙)の表示を見れば,被告標章1がキャッチコピーであることは容易に判別できる,と主張する。
 しかし,本件雑誌1の需要者が,裏表紙(背表紙)を確認し,題号を判別してから購入するのが通常であるとする合理的根拠は認められず,かえって,被告標章1が毎号ほぼ同じ位置(表紙の左上部)に付されていること,本件雑誌1の裏表紙(背表紙)に表示された題号部分の大きさが被告標章1の大きさに比して非常に小さいことを考慮すれば,本件雑誌1の需要者が,被告標章1も題号と同等のものと認識しているものと推認され,被告の上記主張は採用することができない。
3 争点(3)(差止請求の可否)について
 本件訴訟は,訴え提起の当初においては,被告標章1のみが対象とされて差止請求及び損害賠償請求がなされており,被告は,平成16年6月15日付第1準備書面において,被告標章1の使用を停止した旨を述べたものの,同年7月23日,被告標章3を付した本件雑誌3を販売したことから,原告により,同年8月13日付「請求拡張の申立」において,被告標章3を付した漫画雑誌の販売の差止請求及び本件雑誌3の販売を原因とする損害賠償請求が追加されることとなった。さらに,被告は,平成17年9月,本件商標権の侵害となるか否かが問題となり得る標章を付した漫画雑誌の販売を新たに開始したものと認められる(甲11)。そして,被告は,本件訴訟において,被告標章1及び3が本件商標権を侵害する旨の原告の主張を争っている。
 このような事実に照らすと,被告が,将来においてもなお,被告標章1及び3を使用し,原告の商標権を侵害するおそれは,依然として存在すると認められる。
4 争点(4)(損害の発生の有無及びその額)について
(1) 本件雑誌1及び3の販売実績
 証拠(乙16,17)によれば,被告が本件雑誌1の販売によって得た利益は1981万3215円であり,被告が本件雑誌3の販売によって得た利益は942万円であることが認められ,この認定に反する証拠はない。
(2) 被告標章1及び3の寄与率
商標権は,特許権・実用新案権等の他の工業所有権と異なり,何らかの創作的価値を製品自体に付与するものではなく,商標に化体された営業上の信用を意味するものである。一般に,商標権侵害においては,侵害者の利益が当該登録商標の顧客吸引力のみによって達成されていることはむしろ稀であり,侵害者の商品自体の内容や侵害者の営業努力等の事情が相まって利益を上げているというのが,通常である。そして,雑誌の売上げは,一般に,雑誌自体の内容に大きく影響されるものであり,雑誌の内容は,まず,表紙や目次,あるいは個別の記事に掲載された記事の見出し等により判断されるものである。このことは,原告雑誌や本件雑誌1及び3においても変わるところはないのであって,原告雑誌や本件雑誌1及び3が,雑誌自体の内容によらずに購入されるといった取引の実情が存在することを認めるに足りる証拠はない。
 また,証拠(甲3の2)によれば,原告雑誌は月1回発行される雑誌であって,平成16年4月号の原告雑誌が通巻第7号であることが認められるから,原告雑誌の創刊号は平成15年10月号であると推認することができ,原告雑誌が特に販売部数の多い雑誌であることを認めるに足りる証拠はないから,本件商標が,原告雑誌の販売を通じ市場において確固たる信用ないし顧客吸引力を備えたものということはできない。
 そうすると,本件において,被告が本件雑誌1及び3の販売により得た利益についての被告標章1及び3の寄与率は,10%と認めるのが相当である。
(3) 被告標章1の使用による損害
 上記(1)及び(2)によれば,被告が被告標章1を使用したことによって得た利益は,198万1321円(1981万3215円×10%=198万1321円。円未満切り捨て)と認めるのが相当であり,原告は,これらと同額の損害を被ったものと推定される(商標法38条2項)。
 そして,本件の事案の性質,請求の内容,審理の経過その他諸般の事情を総合考慮すると,本件においては,弁護士費用のうち30万円をもって,本件商標権の侵害行為である被告標章1の使用行為と相当因果関係のある損害と認める。
 これらの合計は,228万1321円である。
(4) 被告標章3の使用による損害
 上記(1)及び(2)によれば,被告が被告標章3を使用したことによって得た利益は,94万2000円(942万円×10%=94万2000円)と認めるのが相当であり,原告は,これらと同額の損害を被ったものと推定される(商標法38条2項)。
 そして,本件の事案の性質,請求の内容,審理の経過その他諸般の事情を総合考慮すると,本件においては,弁護士費用のうち15万円をもって,本件商標権の侵害行為である被告標章3の使用行為と相当因果関係のある損害と認める。
 これらの合計は,109万2000円である。
(5) 被告の主張について
 被告は,本件雑誌1の広告収入は,被告が発行する漫画雑誌に広告が掲載されるというイメージ効果と,担当社員の営業活動に基づくものであり,被告標章1の使用とは関係がないから,本件商標権侵害による損害の算定の基礎とすべきではないと主張する。
 しかし,雑誌に掲載される広告についての広告収入は,特段の事情のない限り,雑誌の販売部数によって左右されるのが通常であると解されるから,被告標章1の使用と本件雑誌1の売上げによる収入との間に相当因果関係が認められる以上,被告標章1の使用と本件雑誌1の広告収入との間にも相当因果関係が認められるというべきである。そして,本件雑誌1及び3の場合,その広告収入が当該雑誌の売上げと関わりなく設定されたような特段の事情を認めるに足りる証拠はないから,被告の上記主張は,理由がない。
 また,被告は,本件雑誌1への広告掲載の営業は,その雑誌の表紙の内容などが判明していない状況で広告主が広告の掲載に応じるものであることを理由として,広告収入を損害の算定の基礎とすべきではないと主張する。
 しかし,本件雑誌1の広告収入が,すべて当該雑誌の表紙の内容などが判明していない状況で確定されたものと認めるに足りる証拠はなく,前記のとおり,本件雑誌1の売上げを介して被告標章1の使用と広告収入との間には相当因果関係が認められるから,この点に関する被告の主張も,採用することができない。
(6) 小括
 上記(1)ないし(5)によれば,被告による本件商標権の侵害行為により原告が被った損害は,337万3321円であると認められる。
第4 結論
 以上によれば,原告の請求は,被告標章1を付した漫画雑誌及び被告標章3を付した漫画雑誌の販売の差止め並びに337万3321円及び内金228万1321円に対する訴状送達の日の翌日である平成16年4月17日から,内金94万2000円に対する請求拡張の申立(平成16年8月13日付)送達の日の翌日である平成16年8月27日から,内金15万円に対する原告の準備書面?(平成17年9月30日付)送達の日の翌日である平成17年10月6日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるので,その限度でこれを認容することとし,その余は棄却することとして,主文のとおり判決する。

〔論  説〕
1.本件登録商標に係る標章は、文字部分だけを抽出すると、一つの文章ないしキャッチフレーズのように見えるが、一定の囲い枠の中におさまったロゴ風の標章であることから、商標法3条1項に抵触するおそれがあることが避けられたと思われる。この点について、被告は別に争わなかったようである。
 さて、本件は、被告が使用している漫画雑誌の題号は、本件雑誌1の題号の「まんが快援隊」が表紙の右上部に記載され判読が困難な態様であるのに対し、以下の文字標章は同じ大きさであるとともに題号より前面に押し出されて強い印象を与えている。
 そこで、被告標章は多数あるため、題号となる標章の文字部分をまず整理してみると、これらの標章はいずれも、本件登録商標と全体的な構成態様は共通している。
 @被告標章1(1)〜(3)
  「本当にあったHな話がてんこ盛り!」→類似
 A被告標章1(4)
  「本当にあったHな話がてんこ盛り」→類似
 B被告標章1(5)
  「本当にあったH(えっち)な話がてんこ盛り」→類似
 C被告標章2
  「実際にあったエロ話がてんこ盛り」→非類似
  この表示は、同雑誌の題号「まんが快援隊」の上部に、この文字の5分の1程度の大きさの文字で表示されている。
 D被告標章3
  「本当に出会ったH(エッチ)な話」→類似
2.侵害裁判所は、本件登録商標の文字標章「本当にあったH(エッチ)な話」と前記各被告標章とを、外観,称呼,観念の三基準とともに取引の実情を加味して類否を判断したところ、C被告標章2以外の標章はすべて類似すると判断した。
 しかし、被告標章2については、「観念が類似するものの、前記外観及び称呼において相違し、取引の実情を併せ考慮すると、同一又は類似の商品に使用されたとしても、原告商標と被告標章との間で出所の誤認混同を生じるおそれは認められない。」との理由で、非類似の標章としたが、妥当であろう。しかし、「Hな話」と「エロ話」は外観的には類似しないにせよ、観念的には類似することから、類似と判断される可能性はあったといえる。
 また、被告標章の「てんこ盛り」は付加的表示部分であるから、標章全体には影響を与えていないといえる。
3.被告は、本件雑誌1の題号は「まんが快援隊」であると主張したが、裁判所は、被告標章1の占める部分の大きさは前記題号の占める部分の大きさとほぼ同程度であり、かつ題号より前面に押し出されて需要者に強い印象を与える構成となっていると認定し、被告標章1は出所表示の機能を果たしているから、商標としての使用と認めた。
 ということは、被告標章1は雑誌の題号と同等の存在意義が認められたのである。
4.差止請求の可否において、原告は、訴え提起の当初には被告標章1のみを対象としていたが、途中から、被告標章3についても、「請求拡張の申立」において差止請求と損害賠償請求とを追加した。
 これについて裁判所は、被告が将来においてもなお被告標章1及び3を使用し、原告の商標権を侵害するおそれが依然として存在すると認めたのである。被告は、被告標章3を付した被告雑誌を新たに販売を開始したのだから、原告はこれに対しても争ったのは当然である。
5.損害賠償額の算定について裁判所は、商標権は特許権や意匠権とは異なり、商標に化体された営業上の信用を意味するから、侵害者の利益が当該登録商標の顧客吸引力のみによって達成されていることは稀れで、侵害者の商品自体の内容や侵害者の営業努力等で利益を上げているのが通常であると説示した。本件の場合は、売上げは雑誌自体の内容は表紙や目次、個別の記事の見出し等によって判断されるから、被告が本件雑誌1及び3の販売によって得た利益についての被告標章1及び3の寄与率は10%と認定した。
 しかし、被告は、本件雑誌の広告収入は、被告発行の漫画雑誌に広告が掲載されるイメージ効果と担当社員の営業活動に基づくものであり、被告標章1の使用とは関係がないから、本件商標権侵害による損害賠償による損害の算定の基礎とすべきではないと主張した。
 これに対し裁判所は、雑誌掲載の広告収入は、特段の事情のない限り、雑誌の販売部数に左右されるのが通常であるから、被告標章1の使用と本件雑誌1の売上げによる収入との間に相当因果関係が認められると認定した。しかし、雑誌への広告収入は雑誌の売上げ収入とは別勘定であるから、本件雑誌1の売上げ収入は、「単価×発行部数」で計算される金額でよいのではあるまいか。その意味で、この判決の考え方には疑問がある。

[牛木理一]