F-1

 

商標「ELLE」事件: 東京地裁平成8(ワ)2303号.平成10年10月 30日判決(認容)〔日経デザイン1999年3月号〕

〔キーワード〕 
商標の機能、商標の要部、登録商標の使用の態様、社会通念上の同一性

 

〔判示・認定事項〕 

一 原告登録商標と被告標章との類似性
  1. 被告標章一「ELLE Marine」を見る一般消費者は、被告標章一のうち「ELLE」の部分こそが、商品の出所表示機能を有する部分と理解するから、これが要部であり、本件登録商標と被告標章一の要部を対比するに、その称呼「エル」で同一であり、その外観字体異なるいずれも「ELLE」であり類似しているから、被告標章一は、本件登録商標と類似すると認定した。
  2. 被告標章二「ELLE MARINE」は、頭文字の「E」と「M」が、その他の文字に比べ大きいが、被告標章二の要部も「ELLE」の部分であり、本件登録商標と被告標章二の要部を対比するに、その称呼「エル」で同一であり、その外観は字体は異なるがいずれも「ELLE」であり類似しているから、被告標章二は本件登録商標と類似す ると認定した。
  3. 被告標章三「ELLE MARINE」は、先頭の「E」と最後の「E」の各文字を他の文字に比し約2倍の大きさとし、「LLE MARIN」の部分の上下にそれぞれ一本の横直線を引き、この2本の直線と左右2つの「E」文字により、他の文字を囲むように配置したが、被告標章三の「ELLE」は原告商標と同じ綴りであることを考慮すると、被告標章三の要部も「ELLE」の部分であり、本件登録商標と被告標章三の要部とを対比するに、その称呼「エル」で同一であり、その外観は、字体は異なるがいずれも 「ELLE」であり類似しているから、被告標章三と類似と認定した。
二 被告登録商標の使用 
  1. 商標権は、指定商品について当該登録商標を独占的に使用ことができることを内容とものだから、被告が被告標章を使用する態様が自己の被告商標の使用と認められるような場合、そのような使用態様に対し、原告の有する本件商標権の禁止的効力が及ばないことはいうまでもないから、原告は本件商標権に基づき、そのような被告標章の使用行為に差し止めることできないと判示した。
  2. 被告標章の使用態様が、本件商標権の禁止的効力を排除し得るような被告登録商標の使用と認められるか否かについて検討すると、一般に、商標権者が、登録商標を使用する場合には、必ずしも登録商標と全く同じ商標を用いるとは限らず、商品の種類・性質に応じて、また消費者の趣向や流行等に合わせて、創意工夫して使用ことが行われている等の諸事情を総合的に考慮すれば、被告が使用標章が被告登録商標と全く同一でなくとも、取引の実情に鑑みて社会的通念上同一と認識されるものであれば、原告の本件商標権に基づく差止請求は許されないというべきであると判示した。
  3. そこで被告標章と被告登録商標との異同について判断した。
    (1) 被告標章一と被告登録商標とを比較すると、被告登録商標は、欧文字の「ELLE MARINE」の中央下方に小さな文字で片仮名の「エレマリーン」を横書きし、「エレーマリーン」の称呼を生じるのに対し、被告標章一は、欧文字の「ELLE Marine」を横書きしたものであるから、両者は欧文字10字を共通し、「ELLE」と「MARINE」の2語を共通し、観念、称呼は同一といえるが、前者は欧文字の下方に片仮名の「エレマリーン」の文字がなく、肉太の字体であるのに対し、後者欧文字部分ブロック体で、双方の字体が多少異なること、前者「Marine」のうち「arine」の部分が小文字 で、他の文字に比べ小さい文字で構成されていること等、外観において相異から、被告標章一とは被告登録商標と社会通念上同一の商標とはいえない、と認定した。よって、被告ら被告標章一を使用ことは被告登録商標の使用態様であるとは認められないから、原告は被告らに対し、本件商標権に基づき、被告標章一についてその使用の差止めを求めることできるとした。 
    (2) 被告標章二と被告登録商標とを比較すると、被告登録商標は前記のとおりであるのに対し、被告標章二は、欧文字の「ELLE MARINE」を横書きし、「ELLE」と「MARINE」の各頭文字の「E」と「M」をその他の文字より大きい文字で構成したものであるから、両者の観念、称呼同一といえるが、被告標章二は欧文字の下方に片仮名の「エレマリーン」の文字がなく、双方の字体が異なること、文字の大きさ違うことから外観が相違するから、被告標章二と被告登録商標とは社会通念上同一と認識される商標とはいえないと認定した。よって、前記1.と同様の判断をした。 
    (3) 被告標章三と被告登録商標とを比較すると、被告登録商標は前記のとおりであるのに対し、被告標章三は、欧文 字の下方に片仮名の「エレーマリーン」の文字がなく、 双方の字体が異なること、文字の大きさ違うこと、先頭の「E」と最後の「E」の各文字を除いた「LLE MARIN」の部分の上下にそれぞれ1本ずつ横に直線を引き、前後の各「E」の文字と上下の線によって全体を囲むように配置して、デザイン面で独特の工夫を凝らしていること等、その外観において相異するから、被告標章三と被告登録商標とは社会通念上同一の商標であるといえない、と認定した。よって前記1.と同様の判断をした。
  4. 原告は被告の行為に対し、不正競争防止法2条1項2号又は1号に基く不正競争行為を主張したが、裁判所争点のう ち、商標権に基づく請求だけを認め、不正競争防止法に基づく請求については、「その余の点を判断するまでもなく理由がある」として判断しなかった。
〔判決主文〕
一 被告らは、運動靴及びその包装箱に別紙第1標章目録記載の標章を付し、又は、これを付した運動靴を譲渡し、若しくは引き渡してならない。
二 被告M産業株式会社は、運動靴、1本ストッパー付きカジュアルシューズ、2本ストッパー付きカジュアルシューズ及びサンダルぐつに別紙第2標章目録記載の標章を付し、又これを付した運動靴、一本ストッパー付きカジュアルシューズ、2本ストッパー付きカジュアルシューズ及びサンダルぐつを譲渡し、若しく引き渡してはならない。
三 被告M産業株式会社は、運動靴、一本ストッパー付きカジュアルシューズ及び2本ストッパー付きカジュアルシューズに別紙第三標章目録岸の標章を付し、又これを付した運動靴、1本ストッパー付きカジュアルシューズ及び2本ストッパー付きカジュアルシューズを譲渡し、若しくは引き渡してならない。
四 訴訟費用被告らの負担とする。

 

〔事  実〕

 

1 原告(アシェット・フィリパキ・プレス・ソシエテ・アノニム)は、第22類のはき物、かさ等の全商品を指定して昭和55年12月26日に出願し、平成1年4月25日に公告し、平成1年12月25日に設定登録した商標登録第2193941号の商標権の商標権者であったと ころ、被告(M産業株式会社)は、第22類の全商品を指定して原告よりも1日早い昭和55年12月25日に出願し、昭和58年2月15日に公告し、昭和61年6月27日に設定登録した商標登録第1874483号の商標権の商標権者であり、平成8年10月30日に更新登録もしていた。
 しかるに被告の登録商標に対しては、原告は平成8年9月30日に商標登録の取消審判を請求した(審判平8-1486号)。
 被告(M)被告標章一、二、三を、被告(M株式会社)被告標章一をそれぞれ運動靴等に付して販売した。
 これに対して原告被告は、被告らに対し、1.主位的に、被告らの被告標章にかかる行為は、原告の前記商標権を侵害ものであると主張して、商標法37条及び36条に基づいて、2.二次的に被告(M)の被告標章二・三に係る行為は不競法2条1項2号 に該当し、3.三次的には、被告らの被告標章に係る行為は同法2条1項1号に該当と主張して、同号3条1項に基いて、譲渡等 の差止めを求めた。
〔争  点〕
 (一) 被告標章は、本件登録商標に類似するか。
 (二) 被告標章の使用は、被告登録商標の使用に当たるか否か。
2 不正競争防止法に基づく請求について
 (一) 原告商標は、著名性ないし周知性を取得したか。
 (二) 被告標章は、原告商標に類似するか。
 (三) 被告標章の使用は、被告登録商標の使用に当たるか否か。
〔判  断〕
一 商標権に基づく請求について
1 争点1(一)(本件登録商標と被告標章との類似性)について
(一) 本件登録商票は、欧文字の「ELLE」を横書きし、「LL」の下方に、欧文字よりも小さめの片仮名の「エル」を横書きしたものである。右「ELLE」は、縦長の欧文字で構成されており、各欧文字の横線の右端部分に縦方向に拡大されたひげあり、また、各欧文字の縦線は、横線に比べて太いという特徴ある。本件登録商標からは、「エル」の称呼を生じる。
(二) 他方、被告標章一は、欧文字の「ELLE Marine」を横書きしたものであり、「ELLE」の部分は縦長の欧文字であり、各欧文字の横線の右端部分に縦方向に拡大されたひげがあり、各欧文字の縦線は、横線に比べて太い。また、「Marine」のうち小文字の「arine」部分は、他の文字に比べ小さい文字で構成されている。
 このように、被告標章一は「ELLE」の語が先頭にあり、「Marine」の語との間に空白あること、「ELLE」を構成する各文字は全体が大文字であり、その字体が本件登録商標の欧文字部分と共通の特徴を有していること、 「ELLE Marine」は一つの熟語としてまとまったものでなく、「ELLE」と「Marine」とが別々の単語として認識されるものであること、更に、後記のとおり原告商標著名であり、「ELLE」は原告商標と同じ綴りであることを考慮すると、一般消費者は被告標章一のうち、「ELLE」の部分こそが、商品の出所表示機能を有する部分であると理解するものと認められる。そうすると、被告標章一の要部は「ELLE」の部分であると認められる。
 そこで、本件登録商標と被告商標一の要部とを対比するに、その称呼は「エル」であって同一であり、本件登録商標の欧文字部分と被告標章一の要部の外観は、字体は異なるがいずれも「ELLE」であって類似している。したって、被告標章一と類似する。
(三) 被告標章二は、欧文字の「ELLE MARINE」を横書きしたものであり、「ELLE」及び「MARINE」の各頭文字である「E」及び「M」が、その他の文字に比べ大きい文字で構成されている。
 被告標章二についても、「ELLE」の語が先頭にあり、「MARINE」の語との間に空白あること、「ELLE MARINE」は、「ELLE」と「MARINE」とが別々の単語として認識されるものであること、後記のとおり原告標章著名であり、「ELLE」は原告商標と同じ綴りであることを考慮すると、(二)と同様、被告標章二の要部も「ELLE」の部分であると認められる。
そこで、本件登録商標と被告二の要部とを対比するに、その称呼は「エル」であって同一であり、本件登録商標の欧文字部分と被告標章二の要部の外観は、字体は異なるがいずれも「ELLE」であって類似する。したがって、被告標章二は本件登録商標と類似する。
(四) 被告標章三は、欧文字の「ELLE MARINE」を横書きし、先頭の「E」の文字と最後の「E」の文字を他の文字に比べ約2倍の大きさとし、先頭の「E」の文字と最後の「E」の文字を除いた「LLE MARIN」の部分の上下に、それぞれ1本ずつ横方向に直線を引き、上下2本の直線と左右2つの「E」の文字により、他の文字を囲むように配置したものである。
 被告標章三についても、「ELLE」の語が先頭にあり、「MARINE」の語との間に空白あること、「ELLE MARINE」は、「ELLE」と「MARINE」とが別々の単語として認識されるものであること、後記のとおり原告商標が著名であり、「ELLE」は原告商標と同じ綴りであることを考慮すると(二)と同様、被告標章三の要部も「ELLE」の部分であると認められる。
 そこで、と本件登録商標と被告標章三の要部とを対比するに、その称呼「エル」であって同一であり、本件登録商標の欧文字部分と被告標章三の要部の外観は、字体は異なるがいずれも「ELLE」であって類似する。したがって、被告標章三は本件登録商標と類似する。

2 争点1(二)(被告登録商標の使用)について
(一) 前記のとおり、被告Mは、被告商標権を有している。商標権は、指定商品について当該登録商標を独占的に使用ことができることを内容とするものであるから、被告Mが被告標章を使用する態様が、自己の被告登録商標の使用と認められるような場合は、そのような使用態様に対し、原告の有する本件商標権の禁止的効力が及ばないことはいうまでもない。したがって、原告は、本件商標権に基づき、そのような被告標章の使用行為については差し止めることはできない。
 そこで、被告標章の使用態様が、本件商標権の禁止的効力を排除し得るような被告登録商標の使用と認められるか否かについて検討するに、一般に、商標権者が登録商標を使用する場合には、必ずしも、登録商標と全く同じ商標を用いるとは限らず、商品の種類・性質に応じて、また消費者の趣向や流行等に合わせて、創意工夫して使用することが行われていること等の諸事情を総合的に考慮するならば、被告Mが使用する標章が、被告登録商標と全く同一でなくとも、取引の実情に鑑みて社会通念上同一と認識されるものであれば、原告の本件商標権に基づく差止請求は許されないものというべきである。
 そこで、右の観点から、被告標章と被告登録商標との異同について判断する。
(二) 被告標章一と被告登録商標とを比較する。
 被告登録商標は、欧文字の「ELLE MARINE」を、 いわゆるブロック体で横書きし、その中央下方に小さな文字で 片仮名の「エレマリーン」を横書きしたものである。被告登録商標からは、「エレマリーン」の称呼を生じる。
 他方、被告標章一は、前記1(二)のとおり、欧文字の「ELLE Marine」を横書きしたものであり、「ELLE」の部分は縦長の欧文字であり、各欧文字の横線の右端部分に縦方向に拡大されたひげがあり、各欧文字の縦線は、横線に比べて太い。また、「Marine」のうち小文字の「arine」部分は、他の文字に比べ小さい文字で構成されている。
 被告標章一と被告登録商標と比較すると、確かに、両者は、欧文字10字を共通とし、「ELLE」「MARINE」の2語を共通としており、その観念、称呼において同一ということができる。しかし、前者は欧文字の下方に片仮名の「エレマリーン」の文字がないこと、前者が肉太の字体であるのに対し、後者欧文字部分がブロック体であり、双方の字体が多少異なること、前者「Marine」のうち「arine」の部分が小文字で、しかも、他の文字に比べ小さい文字で構成されていること等、その外観において相違点が存する。したがって、被告標章一は被告登録商標と社会通念上同一の商標ということはできない。
 よって、被告らが被告標章一を使用ことは、被告登録商標の使用態様であるとは認められず、原告は被告らに対、し本件商標権に基づき、被告標章一についてその使用の差止めを求めることできる。
(三) 被告標章二と被告登録商標とを対比する。
 被告登録商標は前記(二)のとおりであり、他方、被告標章二は前記1(二)のとおり、欧文字の「ELLE MARINE」を横書きしたものであり、「ELLE」及び「MARINE」の各頭文字である「E」及び「M」が、その他の文字に比較し大きい文字で構成されている。
 被告標章二と被告登録商標とを比較すると、確かに、両者は、欧文字10字を共通とし、「ELLE」「MARINE」の2語を共通としており、その観念、称呼において同一ということができる。しかし、被告標章二は欧文字の下方に片仮名の「エレマリーン」の文字ないこと、双方の字体が異なること、被告標章二は、「ELLE」及び「MARINE」の各頭文字である「E」及び「M」が、その他の文字に比較して、拡大されていること等、その外観において相異点が存する。したって、被告標章二は、被告登録商標と社会通念上同一と認識される商標ということはできない。
 よって、被告Mが被告標章二を使用することは、被告登録商標の使用態様であるとは認められず、原告は、被告Mに対し、本件商標権に基づき、被告標章二についてその使用の差止めを求めることできる。
(四) 被告標章三と被告登録商標とを比較する。
 被告登録商標は前記(二)のとおりであり、他方、被告標章三は、前記1(二)のとおり、欧文字の「ELLE MARINE」を横書きし、先頭の「E」の文字と最後の「E」の文字を他の文字に比べ約2倍の大きさの文字とし、先頭の「E」の文字と最後の「E」の文字を除いた「LLE MARIN」の部分の上下に、それぞれ1本ずつ横方向に直線を引き、上下2本の直線と左右2つの「E」の文字とで、他の文字を囲むように配置したものである。
 被告標章三と被告登録商標と比較すると、被告標章三は欧文字の下方に片仮名の「エレマリーン」の文字ないこと、双方の字体が異なっていること、前者は先頭の「E」の文字と最後の「E」の文字を他の文字に比べ約2倍の大きさの文字とし、先頭の「E」の文字と最後の「E」の文字を除いた「LLE MAIRN」の部分の上下にそれぞれ1本ずつ横に直線を引き、
前後の各「E」の文字と上下の線によって全体を囲むように配置して、デザイン面で独特の工夫を凝らしていること等、その外観において相違点が存する。したがって、被告標章三は被告登録商標と社会通念上同一の商標であるとはいえない。
 よって、被告Mが被告標章三を使用することは、被告登録商標の使用態様であると認められず、原告は、被告Mに対し本件商標権に基づき、被告標章三にその使用の差止めを求めることできる。
〔研 究〕
 被告は登録商標「ELLE MARINE/エレマリーン」を専有していたが、現実に使用した標章態様はいずれの標章も登録商標の標章と同一態様のものでなく、被告使用標章の要部は原告登録商標の標章と同一又は類似といえるものであったため、原告の商標権侵害となったのである。
 登録商標を専有していたとしても、実際に使用標章の態様種々の事情から変更場合あるが、両標章間に社会通念上同一性ありと認められるものでなければ、登録商標の使用といえないと考えたの本件判決である。判決明示していないが、本件の場合、被告による登録商標の標章態様の変更の結果、その標章の要部は原告の著名標章と同一の標章態様となったことから、この事実も判断の背景にあったとえよう。この判決は妥当である。
 また、被告のこのような登録商標の変更使用行為は故意になされたものと推定されたことから、原告は被告の登録商標に対し、登録商標の不正使用により原告の商品出所と混同を生ずるに至ったとして、現在商標登録の取消審判を請求している。

[牛木理一]