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塩味茹枝豆冷凍品事件:東京地裁平成14年(ワ)6241号平成15年2月26日判決(棄却)<民29>

〔キーワード〕 
特許法29条2項、公知公用発明、容易創作性、権利濫用

 

〔事  実〕

 

 原告(日本水産株式会社)は、発明の名称を「塩味茹枝豆の冷凍品及びその包装品」について、平成5年5月20日に出願し、平成10年9月25日に設定登録した特許第2829817号に係る特許権の特許権者である。
 この特許権の「特許請求の範囲」中、訂正された請求項1による構成要件は次のとおり。請求項は全部で5つあったが、本件で保護を求めた特許権は請求項1に関してであった。
 @ 豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、
 A 豆の中心まで薄塩味が浸透している
 B 緑色の維持された
 C ソフト感のある
 D 塩味茹枝豆の冷凍品。
 被告(株式会社ニチロ)は、被告製品を業として輸入し、販売している。
 被告製品は,本件発明の技術的範囲に属すると原告は主張した。  
 争点は次のとおり。
(1) 本件特許権には,新規性の欠如,進歩性の欠如,訂正要件違反による,無効理由が存在することが明らかといえるか。
(2) 損害額はいくらか。

 

〔判   断〕

 

1 進歩性欠如による無効理由の有無について
(1) ノースイ製品と本件発明の対比
ア ノースイ製品の構成
 証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
 (ア) ノースイ製品の販売等
 a ノースイは、平成元年ころから、台湾において、日星冷凍食品股有限公司(以下「日星冷凍」という。)及び台湾三井物産有限公司と共に、解凍後湯通しをしなくてもそのまま食べられ、塩味を付した新しい茹枝豆の冷凍品の開発を始め、平成2年ころ、ニュー・ロング・ブランチング製法により、ノースイ製品を開発した。
 ノースイのニュー・ロング・ブランチング製法は、日星冷凍所有のスチーム・ブランチャーを用いるものである。スチーム・ブランチャーとは、入口側を低く、出口側を高くした円筒形の装置であり、円筒体内には、同軸にらせん状の回転式輸送羽根が設けられている。枝豆は、円筒体の低い方から円筒体内に投入され、まず、円筒体の低い側の底部に貯まった食塩水により熱水ブランチング処理され、次いで、らせん状の回転式輸送羽根により円筒体内を上方に輸送される過程で、加熱スチームの噴射によるスチーム・ブランチング処理がされる。 
 b ノースイは、平成2年12月ころから、ノースイ製品の試験的な輸入を始め、平成3年度には、約300トンのノースイ製品を直接又は輸入代行の委託等の方法で輸入し、「塩あじえだまめ」という商品名で発売した。
 また、ノースイは、ノースイ製品の販売と同時に、ノースイ製品と同じニュー・ロング・ブランチング製法で製造した冷凍茹枝豆を、「塩ゆでえだまめ」という商品名で国内発売した(以下、ノースイ製品と併せて「ノースイ製品等」ということがある。)。
 c 平成3年8月12日付けの「冷凍食品新聞」には、「ノースイは・・『塩ゆでえだまめ』(500c)、『塩あじえだまめ』(1`c)の2品を今秋から本格販売する。」「『塩ゆでえだまめ』は、もぎたての新鮮な枝豆を産地で厳選し、おいしさを逃さない新製法で加熱処理しており、流水で解凍するだけで食べられるのが特長。」「『塩あじえだまめ』は、新製法で加熱処理し、塩あじをつけているので、自然解凍するだけで利用できる。」との記事が掲載された(乙4)。また、同月13日付けの「冷食タイムズ」には、ノースイ製品及び「塩ゆでえだまめ」について、「ノースイは、解凍するだけで食べられる冷凍枝豆”ニュー・ロング・ブランチング枝豆”(台湾産)を今春からテスト販売している・・・従来のロングブランチング枝豆はサッと湯通しする必要があったが、スチーム・ブランチャーで完全調理しているため、解凍するだけ。味付け済みの”塩味”は自然解凍でそのまま、味付けしていない”ゆで枝豆”は流水解凍後に軽く塩をふりかけるだけ。」との記事が掲載された(乙5)。
  d ノースイ製品の平成3年5月6日当時の「塩あじえだまめ」の包装袋(乙9の31)には、「塩あじを付けてありますので自然解凍するだけでお使いいただけます。・・・お急ぎの場合は、ザルに取り流水で1〜2分解凍し、水切りしてください。その際は、お好みに応じて塩をふりかけて下さい」と記載され、また「塩ゆでえだまめ」の包装袋(乙9の30)には、「<1>凍ったままのえだまめをザルに入れ、流水で1〜2分解凍してください。<2>ザルごと水切りし、塩をふりかけてください。」と記載されていた。
(イ) ノースイ製品等の製造方法に関連する文書
 a ノースイの社員であり、ノースイ製品等の開発担当者であったXが、平成3年4月25日付けで作成した「製造工程図」(乙9の12)には、ノースイ製品等の製造工程について、いずれも、鞘付き枝豆を、食塩水でのブランチング工程を経た後に、シャワー水及び(又は)水槽による一次冷却工程、チルド水をフローさせることによる二次冷却工程を経て、その後、搬送、選別等の工程を経た後に凍結させる旨が記載されている。
 b ノースイが、台湾におけるノースイ製品の開発を担当した台湾三井物産有限公司のY(台湾農水産業産業股有限公司の董事長でもある。)から取得した情報に基づいて、平成3年5月20日付けで、税関に対して提出した「事前教示に関する照会書」(乙9の15の1)の照会貨物の製法等の記載欄には、「製法 『加工工程書』を添付しています、(9%の食塩水は塩味をつけるものです。)」「用途 『おつまみ』として解凍してそのまま食用に供す。」との記載が、同照会書添付の「枝豆の加工工程のこと」と題する書面(乙9の15の2)には、「塩あじえだまめ」(ノースイ製品)のブランチング条件は、「93℃〜95℃の9%の食塩水で4分ブランチング」である旨、また、「塩ゆでえだまめ」のブランチング条件は、「93℃〜95℃の2%の食塩水で4分ブランチング」である旨が、それぞれ記載されている。なお、ブランチング時間とは、スチーム・ブランチャーによる枝豆の処理時間、すなわち熱水ブランチング処理とスチーム・ブランチング処理に要した時間の合計を意味する。
 c ノースイが、平成3年4月1日付けで作成したノースイ製品及び「塩ゆでえだまめ」についての「冷凍野菜規格書」(乙9の11)には、「食感」の欄に「解凍するとそのまま喫食できるよう加熱したもの」、「塩分濃度」の欄に「塩ゆで 2% 塩あじ 9%」と、それぞれ記載されている。
 d Yが、平成3年4月12日、ノースイの担当常務に対して、送付したファックス文書(乙9の14)には、新商品として宣伝する際のノースイ製品の特徴に関して、「枝豆の一大改革 冷凍枝豆の実践品が出来ました。」「特長 @解凍するだけですぐ食べられます。誰にも出来る流水或は自然解凍にて手間を掛けずいかなる所でもすぐおいしく食べられます。A解凍後長時間変色しません。誰がいつ見ても鮮やかな色で解凍後10時間色が変わりません。B食感が完璧です。誰にも好まれる特定のやわらかさで、枝豆の甘味が生きて食べ始めたら止められない。」という点を強調する旨の提案内容が記載されている。
 e ノースイの加工食品部社員であるZが、平成3年5月10日付けで作成した「台湾出張報告書」(乙9の37)には、「ロングブランチングは当社が開発した差別化商品であるが、最近では、他社の追随が有りロングブランチングがレギュラー化している為、更に付加価値を高めたニューロングブランチング(塩ゆでスチームブランチング)、ニューロングブランチングスペシャル(塩味つきスチームブランチング)の開発を行ない、価格競争に巻き込まれない製品を作り上げた。」、「この商品の特徴は、ゆでる手間を省いた自然解凍して食べられる塩味つき枝豆です。」、「製造方法の特徴は、加圧式スチームブランチャーを使用している為枝豆自体が持っている旨味を逃さない製造方法をとっています。」と記載されている。
イ 上記認定した事実を基礎にして、ノースイ製品と本件発明を対比する。
(ア) 一致する点
 ノースイ製品が、@塩味が付された「塩あじ」枝豆として開発され、その旨報道されていたこと、Aそのブランチング工程においては9%食塩水が用いられており、これはレギュラー・ブランチング製品(0.2から0.5%食塩水でブランチングした従来製品。甲9の1の2)や「塩ゆでえだまめ」のブランチングの食塩濃度と比べて格段に高い濃度であること、Bノースイ製品と同時期に発売された「塩ゆでえだまめ」の包装袋には、喫食前に塩をふりかけるよう指示が記載されているのに対して、ノースイ製品の包装袋には、塩味を付けてあるため自然解凍するだけで使える旨記載されていること、Cノースイ製品は「塩あじえだまめ」の商品名で、平成3年度だけで約300トン製造、販売されているが、その間消費者からその味付けに関して苦情等の問題が生じた形跡は窺われないこと等の事実経緯に照らすならば、ノースイ製品は、単に莢の表面に塩水が付着していただけではなく、莢の内部にまで塩が浸透して、食した際に塩味が感じられる製品であり、構成要件Aを備えていたものと認められる。
 また、ノースイ製品の開発経緯、平成3年当時に作成された各文書の記載内容、ノースイ製品に関する報道、包装袋の記載内容、ノースイ製品の輸入量によれば、ノースイ製品は、構成要件C、Dを備えていたものと認められる。
 以上のとおり、ノースイ製品と本件発明は、構成要件A、C、Dにおいて一致する。
(イ) 一致するとまでは認められない点
 他方、ノースイ製品は、以下のとおり、構成要件Bを備えていたとまでは認められない。すなわち、
 a 「実験報告書」(乙9の32)には、株式会社ニチレイが、台湾の日星冷凍のスチーム・ブランチャーを用いて、平成3年当時のノースイ製品の製造条件(94℃、9%の食塩水で、4分間ブランチング)どおりの条件で製造した冷凍茹枝豆を分析したとする結果、また、「試験報告書」(乙9の33の1)には、財団法人日本食品分析センターが同実験により製造された冷凍茹枝豆を分析した結果、がそれぞれ記載され、これらによれば、再現実験により得られた冷凍茹枝豆は、構成要件Bを備えているとの結論が示されている。
 b しかし、上記認定のとおり、平成3年当時のノースイ製品の製造方法の詳細については、上記ア(イ)b認定の文書記載の製造条件が示されるいる点を除いて、ブランチングの各処理の時間配分、ノースイ製品製造当時のブランチャーの詳しい構造、回転数等は明らかではない。また、ノースイ製品の開発に関わったノースイ社員Xの陳述書(乙9の4)には、「新製品・冷凍塩味茹枝豆『New L/B』又は『N.L.B』は、解凍後、そのままで、緑色を維持しながら、塩味が感じられるソフト感のある製品とするために、スチームブランチャーによる処理条件を微妙に調整する必要がありました。具体的には、・・・熱水の温度、塩分濃度及び滞留時間等の調整、加熱加圧スチームの温度(圧力)、噴射量、滞留時間等の調整について微妙な工夫が必要でした。」との記載があること、また、原告が提出する実験報告書(甲7の7)によっても、熱水ブランチング及びスチーム・ブランチングの時間配分に応じて、豆に浸透する塩分濃度に差異が生じていることからすれば、熱水ブランチングとスチーム・ブランチングの時間配分やスチームの温度(圧力)、噴射量等は、「豆の中心まで塩分が浸透している」との構成を備えるか否かという点に影響を及ぼす条件であると認められる。
 c そうすると、平成3年当時のノースイ製品の製造工程のうち、このような条件が明らかでない以上、上記再現実験が、当時のノースイ製品の製造方法を再現した実験であるということはできず、「実験報告書」及び「試験報告書」記載の試験結果をもって、ノースイ製品が「豆の中心まで薄塩味が浸透している」という構成を備えていたとまでは認めることができない。
(2) 容易想到性の有無
ア 事実認定
(ア) 甲8(陳述書)の「実験結果」には、「9%の食塩水に枝豆を投入し、その後93℃から95℃の間に維持されるように火力を調節しながら、4分間枝豆を茹でた(すなわち、熱水ブランチングをする。)場合には、豆の中心部の塩分濃度が、0.21%±0.05となる」ことが記載され、同濃度は後記のとおり枝豆における塩味の閾値と近接した値である。また、甲9(報告書)には、長時間茹でると色調がくすむ(緑色の程度が低くなる)が、短時間茹でた場合には、色調が維持されることが記載されている。
(イ) 乙6(平成2年8月20日発行の「輸入商品の分類実務」)には、「味付えだ豆(冷凍)」の表題の下に、「(商品説明)」として、「本品は、さや付きのえだ豆をブランチングした後、さや付きのまま調味料に漬け込み(48時間)、豆そのものに調味液を浸透させた上、冷凍したものである。調味液は、しょう油、味りん、食塩、グルタミン酸ナトリウム、かつおエキス等で調整されたものである。」との記載があり、「(参考)味付きえだ豆製造工程」として、原料を、「水洗」、「ブランチング」、「冷却・水切」、「調味液漬込み」、「水洗」、「袋詰真空包装」、「冷凍・出荷」の順に処理する工程が図示されている。
 これによれば、本件発明の出願当時、さや付き枝豆の豆そのものに調味液を浸透させる方法として、ブランチング後、調味液に漬け込むことは周知の技術であったと認められる。
(ウ) 乙8(被告による「短時間塩水浸漬試験」の実験結果)によれば、枝豆を2分間熱水ブランチング処理した後、20%冷塩水に約15秒間浸漬し、これを−30℃で冷凍、自然解凍(室温で1時間放置)した場合、豆中心の食塩含量は0.27%であったこと、甲9(大阪府立大学農学生命科学研究科青果品質保全学研究室教授Wの実験結果)によれば、枝豆500gを100℃の熱湯1.25lに投入して再沸騰後1.5分茹で、次いで100秒間蒸煮(スチーム)し、流水冷却をした後、20%塩水に75秒間かきまぜながら浸漬した場合、豆の中心部における塩分濃度は0.804%であること、これらの塩分濃度は、いずれも、人間が枝豆において塩味が感じられる閾値(塩味が識別できるか否かの境目となる最小の刺激の数値で、一定の条件で多数の人が味わったときに半数の人が塩味を感じる濃度)として示されている塩分濃度約0.2ないし0.25%(甲7の6)又は0.23ないし0.32%(乙9の32資料5、資料A)を超えているか、ほぼ近いことが認められる。上記事実に照らすと、乙6のように、枝豆をブランチングした後に高濃度の味付液に浸漬した場合には、ブランチング条件(熱水及びスチーム・ブランチング処理か、熱水ブランチングのみか、またその時間割合)に関わりなく、豆の中心部にまで薄い塩味が浸透するものと認定することができる。
イ 容易想到性に関する判断
 上記認定した事実を基に、容易想到性の有無を判断する。
 ノースイ製品と本件発明とを対比すると、両者は、「豆の薄皮に塩味が感じられ、緑色の維持され、ソフト感のある、塩味茹枝豆の冷凍品」であるという構成において共通し、ただ、ノースイ製品は、塩味の程度に関して「豆の中心まで薄塩味が浸透している」という構成を充足しているか確認できないという点が相違する。
(ア) しかし、そもそも、スチーム・ブランチャーを用いて「豆の薄皮に塩味が感じられる」という構成を有している枝豆(ノースイ製品)に基づいて、さらに、「豆の中心まで薄塩味を浸透」させた枝豆に想い到ることは、塩味の浸透の程度の差にすぎないのであるから、さして困難を伴うものではないというべきである。また、ブランチングをする際の食塩水における塩分濃度、加熱時間、加熱温度等を適宜調整し、組み合わせることによって、緑色を維持しながらもそのような構成を達成できることは、格別の証拠の検討をするまでもなく、健全な社会通念ないし経験則上明らであるということができるから、本件発明出願当時の当業者にとって容易であったものといえる。
 のみならず、上記の証拠、すなわち甲8、9によれば、塩分濃度が9%の食塩水で、4分間、茹でさえすれば、豆の中心部まで相当程度に塩分が達し、しかも、鞘の緑色は維持されていることが認められる。この事実に照らすならば、ブランチングの際の塩分濃度を高くしたり、加熱時間を長くしたり、加熱温度を高めたりすれば、緑色を維持しながらも「豆の中心まで薄塩味が浸透している」という構成を容易に達成することができたことは、証拠上も認めることができる。
(イ) また、乙6には、調味液の説明として、「しょう油、味りん、食塩、グルタミン酸ナトリウム、かつおエキス等で調整」する旨の記載がある。上記記載に照らすならば、ブランチング後に他の成分を加えない純粋の食塩水に浸漬させて、豆に塩味を浸透させるということは、当業者にとって容易に想到できる事項であると解され、この点を考慮すれば、塩味の浸透の程度をどのようにするかについては、塩水濃度や浸漬時間等、浸漬する際の条件を適宜調整することができるのであるから、ノースイ製品のようにブランチングをした枝豆に、このような周知の技術を適用して「豆の中心まで薄塩味を浸透」させることは、当業者が容易に想到することができたものと解することもできる。なお、この点について、原告は、乙6の技術分野は「漬物」に関するものであり、乙6は、本件発明における「新鮮な茹で枝豆の莢の鮮やかな色調と風味を維持する」という技術的課題をおよそ前提としておらず、本件発明とは技術的分野が異なるから、引用例たり得ないと主張する。しかし、乙6は、ブランチングした枝豆を、食塩を含む調味液に漬けた後に冷凍することにより、味付冷凍枝豆を製造する方法に関する記載であり、本件発明とは、「ブランチングをした味付け済みの冷凍茹枝豆」に関する発明であるという点で差異がなく、同一の技術分野に属するものということができる。この点の原告の主張は理由がない。
ウ 以上によれば、本件発明は、本件出願前に日本国内において公然知られ、また、公然実施をされた発明であるノースイ製品及び周知慣用手段に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということができる。
(3) したがって、本件発明は、法29条2項により、特許を受けることができないものであり、本件特許は、法29条2項に違反してされたものであることが明らかであるから、本件請求は、権利の濫用に当たるものとして許されない。
2 結論
 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。よって、主文のとおり判決する。
〔研  究〕
1.この特許権侵害差止め等事件にあっては、被告から同時に特許庁に特許無効審判を請求していたが、平成15年2月20日に特許無効の審決がなされた。判決言渡しはその1週間後にあったが、審決の出た時点ではすでに判決の結論も理由も決定していたから、問題はないが、タイミングからすると、裁判所と審判部との間に打合せがあったかも知れない。

2.判決は、被告が出願前の事実上公知の事実を、多くの証拠を提出することによって証明したことから、裁判所を説得することができたといえる。
 本件特許権は、前記のような比較的簡単で当り前のような構成要件から成るクレームであったから、被告側の立証も比較的楽であったのだろう。「塩味が感じられ」とか「豆の中にまで薄塩味が浸透している」とかいう味覚に関する主観的な表現であっても、このような表現を裏付けるための数値データが明記されている場合には、受入れられるのだろうか疑問なしとしない。

3.判決は、本件特許権には特許法29条2項に違反して成立したものであることを理由に、本件請求は権利濫用に当たると認定したが、無効理由があると認定したことと実質的に同じである。
 その後の新聞報道によると、原告は控訴を断念したが、無効審決に対する取消請求訴訟はしたという。しかし、もしこれが事実であるならば、何と矛盾したことを原告はしているのかと言いたい。けだし、侵害訴訟において一審判決は本件特許には無効理由がある旨を判示しているのだから、この判決が確定することは審決取消請求訴訟においても請求棄却になることは目に見えているからである。したがって、実益のないことをあえて原告はしているように思われてならない。

[牛木理一]