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レコードジャケット図柄事件: 大阪地裁平成9年(ワ)715号平成11年 9月9日判決(一部認容)
〔キーワード〕 
著作隣接権、図柄の著作権、不正競争

 

〔判示・認定事項〕 


  1. 平成8年改正法により新たに著作隣接権の保護対象となったレコードについて、右改正法の施行日(平成9年3月25日)前に複製する行為、また右施行期日の前後を問わず、施行前複製物を頒布する行為は、いずれも著作隣接権を侵害するものではないと解される。

  2. 原告第二図柄は、演奏家の写真を背景図柄として使用しているのみならず、右上部分に黄色のデザイン化された文字で「JO JONES」と、またその下に赤色のやや小さめの文字で「SEXTET」と題名が表示され、さらに中段右寄りの白色の文字で三列にわたり6名の演奏家の名前等が表記されていて、題名の構成、題名、演奏家名等の表示の配置、背景写真とこれらの位置関係等において、なお思想又は感情を創作的に表現したものであって、美術の範囲に属するもの(著2条1項1号)ということができるから、原告第二図柄は原告Jの創作した著作物であると認められる。

  3. おそくとも本件口頭弁論終結時点においては、被告らは、既に製造されている被告商品のうちの本件第二レコードが、原告Jの有する第二図柄の複製権を侵害する行為によって作成されたものであると認識しているものということができるから、これを将来頒布する行為は、原告Jの著作権を侵害する行為とみなされることとなる(著113条1項2号)。したがって、被告らに対し、被告第二図柄を付した本件第二レコードの販売を差し止める必要性は認められる。

  4. ジャケット図柄は、これが識別標識として需要者の間に広く認識されるに至ったものであるとしても、その識別対象はレコード製造販売者というよりはむしろ特定の音源のレコードそのものであるのが一般的というべきであるところ、そのような識別標識としてのジャケット図柄に関する周知性という事実状態を、需要者の認識を離れて、当事者間の契約により承継し得るものではないと解すべきであり、ジャケット図柄の識別標識としての機能からすれば、このような図柄を当該音源を収録したレコードのジャケットとして用いる限りにおいては、需要者の誤認混同を生じさせるものではないのであって、音源に関する権利の保護と離れて、これを不正競争防止法による保護の対象とする必要性も認められない。

〔事  実〕
1.原告Jは、スペインのレコード会社であるF社の経営者であり、原告F社は、レコードの輸入及び輸出販売を目的とする会社である。
 被告V社は、レコード原盤の企画、製作及び販売等を目的とする会社であり、被告T社は、音楽録音物等の企画、製作、販売及び輸出入等を目的とする会社である。
2.本件は、別紙レコード目録記載の各レコード(以下「本件各レコード」といい、同目録記載一ないし四のレコードをそれぞれ「本件第一レコード」ないし「本件第四レコード」という。本件訴訟において、「レコード」という場合、特に断らない限りコンパクトディスク(CD)を含むものとする。)に別紙原告第一ないし第四ジャケット目録記載の各図柄(以下、それぞれ「原告第一図柄」ないし「原告第四図柄」といい、これらを併せて「原告各図柄」という。)のジャケットを付して、Fレーベルで製造、販売しているとする原告らが、本件各レコードに別紙被告第一ないし第四ジャケット目録記載の各図柄(以下、それぞれ「被告第一図柄」ないし「被告第四図柄」といい、これらを併せて「被告各図柄」という。)のジャケットを付して製造、販売していた被告らに対し、本件各レコードの著作隣接権、原告第二図柄の著作権及び不正競争防止法(2条1項1号)に基づ いて、被告商品の製造、販売の差止、損害賠償等を請求している事案である。
〔争  点〕
一 著作隣接権に基づく請求(原告Jに関し、本件各レコードについて)
二 著作権に基づく請求(原告Jに関し、原告第二図柄について)
三 不正競争防止法に基づく請求(原告らに関し、本件各図柄について)
四 信用回復措置の必要性
〔判  断〕
一 争点一(本件各レコードの著作隣接権)について
1 争点一1(著作隣接権の保護範囲)について
(一) 著作権法改正の経緯 
(1) 平成6年法律第112号「著作権法及び万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律の一部を改正する法律」(以下「平成6年改正法」という。)により、著作権法8条4号が改正され、レコードでこれに固定されている音が最初に世界貿易機関の加盟国において固定されたものについて、現行著作権法の施行時、すなわち昭和46年1月1日以降に録音固定されたものに限って、新たに著作隣接権による保護が与えられることとなり(右保護対象の限定は、平成8年法律第117号による改正前の著作権法原始附則2条3項2号で、「この法律の施行前にその音が最初に固定されたレコード」については、新著作権法中著作隣接権に関する規定を適用しないと規定されたことによる。)、同改正規定は平成8年1月1日に施行された(同改正法附則1条、平成7年政令第40号)。
(2) その後、平成8年法律第117号「著作権法の一部を改正する法律」(以下、「平成8年改正法」という。)により、現行著作権法原始附則2条3項は削除され、レコードの著作隣接権は、世界貿易機関の加盟国に係るレコードについても、その音を最初に固定した時に始まり、その日の属する年の翌年から起算して50年間、保護の対象とされることとなり(著作権法101条2号)、同改正法は、平成9年3月25日に施行された(同改正法附則1条、平成9年政令第23号)。
(二) ところで、平成8年改正法により新たに著作隣接権の保護の対象となったレコードで右改正法施行前に作製された複製物(以下「施行前複製物」という。)の取扱いについて、著作権法上は明示的に規定されていないが、これらのレコードは右改正法施行までは著作隣接権に関し自由利用に供されていたものであるから、その施行期日前の複製、頒布行為について著作隣接権侵害の問題は生じ得ないのは明らかであり、また、施行期日後に施行前複製物を頒布する行為も、著作権法113条1項2号にいう「著作隣接権を侵害する行為によって作製された物を頒布する行為」に該当しないから、同規定により著作隣接権を侵害する行為と見なされる余地はなく、その他、施行前複製物の頒布を著作隣接権侵害に当たると解する根拠は見当たらない。
 そうすると、平成8年改正法により新たに著作隣接権の保護の対象となったレコードについて、右改正法の施行期日前に複製する行為、また、右施行期日の前後を問わず、施行前複製物を頒布する行為は、いずれも、著作隣接権を侵害するものではないと解される。
(三)(1) 本件各レコードに録音されている音は、1954年から1960年にかけて、それぞれ米国において固定されたものであり、米国は世界貿易機関の加盟国であるから、本件各レコードの著作隣接権は、平成8年改正法により新たに著作隣接権の保護の対象となったものである。
 したがって、平成8年改正法施行期日(平成9年3月25日)前の本件各レコードの複製行為及び施行前複製物の頒布行為は、いずれも本件各レコードの著作隣接権を侵害するものではないということになる。
(2) 丙第2号証及び被告V代表者本人尋問の結果によれば、被告Vは、平成8年12月末日以降、被告商品を製造しておらず、また、被告らは、平成9年2月13日以降、被告商品の販売を中止していることが認められる。
 したがって、被告らによる過去の被告商品の製造、販売行為は、本件各レコードの著作隣接権を侵害するものではない。
2 争点一4(差止めの必要性)について
(一) 1で判断したところから明らかなように、被告らの過去の被告商品の製造、販売は、本件各レコードの著作隣接権(これが何人に帰属するかはひとまず措くこととする。)を侵害するものではない。しかし、被告らが今後本件各レコードを複製する場合には、本件各レコードの著作隣接権を侵害することになる。
(二) そこで、被告らが将来、本件各レコードを複製した上で頒布するおそれがあるかを検討する。
 前記1(三)(2)で認定したとおり、被告Vは、平成8年改正法施行期日前に被告商品の製造、販売を中止している。乙第7号証及び第8号証によれば、被告らが被告商品の製造、販売が許諾を受けた適法なものであるとの主張の根拠として提出する被告VとI社との間の契約書には、契約の存続期間は平成9年12月末日までとされていることが認められ、仮に被告らの許諾を受けたとする主張が事実であったとしても、既に許諾期間は経過していること、前記のとおり本件各レコードの著作隣接権が平成9年3月25日以降は著作権法による保護の対象となり、新たに本件各レコードを複製する行為が本件各レコードの著作隣接権を侵害するものとなったこと、被告らもそのことを認識していることを考え併せれば、被告らが、本件各レコードを今後新たに複製して販売するおそれがあると認めることはできない。
 そうすると、原告Jが本件各レコードの著作隣接権を有しているか否かを判断するまでもなく、右原告が被告らに対し、本件各レコードの著作隣接権に基づいて、本件各レコードの製造、販売の差止めを求める部分については理由がないとい
わざるを得ない。
二 争点二(原告第二図柄の著作権)について
1 争点二1(著作物性・権利濫用)について
(一) 甲第1号証の1、3、甲第6号証の1、2、第12号証の1、2、第27号証、検甲第3号証、原告S代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告第二図柄は、原告Jが独自に作成したものであることが認められる。
 被告らは、原告第二図柄は創作性を欠き、原告Jの著作物ではないと主張する。そこで検討するに、前掲甲第6号証の1、2及び検甲第3号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告第二図柄の背景図柄は、楽器(ドラム)を前にした演奏家(本件第二レコード収録曲の演奏家のリーダーであるドラマーのJ写真であること、右写真の著作者は原告Jではないことが認められるが、前掲各証拠によれば、原告第二図柄は、演奏家の写真を背景図柄として使用しているのみならず、右上部分に黄色のデザイン化された文字で「JOJONES」と、また、その下に赤色のやや小さめの文字で「SEXTET 」と題名が表示され、さらに、中段右寄りに白色の文字で三列にわたり6名の演奏家の名前等が表記されていることが認められ、題名の構成、題名、演奏家名等の表示の配置、背景写真とこれらの位置関係等において、なお、思想又は感情を創作的に表現したものであって、美術の範囲に属するもの(著作権法2条1項1号)ということができるから、原告第二図柄は原告Jの創作した著作物であると認められる。
(二) 被告らは、原告第二図柄は写真家の著作権、演奏家の肖像権を侵害するものであって、これに基づく請求は権利濫用であると主張する。
 しかし、(一)で認定判断したとおり、原告第二図柄それ自体が著作物であるところ、仮にこの著作物に他人が著作権を有する写真が許諾なく使用されていたとしても、著作権法の観点からは、原著作物を翻案したものとして二次的著作物(著作権法2条1項11号)として原著作物の著作権に服することがあるとしても(同法28条)、当該二次的著作物の著作権者が二次的著作物の複製権に基づいて差止めを請求することがただちに権利濫用となるものではない。
 また、原告第二図柄の利用行為が写真の被写体である演奏家の肖像権を侵害するものであるか否かは本件全証拠によっても明らかでなく、この点を措くとしても、右の点は原告第二図柄の作成者である原告Jと演奏家本人との関係で処理されるべき問題であって、被告らの原告第二図柄の複製、頒布を正当化する根拠となるものではなく、また、原告第二図柄の著作権に基づく請求が権利濫用になるものではないと解するのが相当である。
 したがって、被告らの主張はいずれも採用することはできない。
2 争点二2(許諾)について
 被告らは、本件各レコードの複製、頒布についてE社から許諾を受けた米国法人I社から、複製、頒布の再許諾を受けていると主張する。
 しかし、原告第二図柄は、原告Jが作成したものであることは前記認定のとおりであり、E社が原告第二図柄の複製、頒布につき何らかの権限を有すると認めるに足りる証拠は存しないから、被告らの主張に理由がないことは明らかである。
3 争点3(差止めの必要性)について
 前記一1(三)(2)及び一2(二)で認定判断したとおり、被告Vは、平成8年12月末日以降、被告商品を製造しておらず、被告らは、平成9年2月13日以降、被告商品の販売を中止しており、さらに、本件各レコードを今後新たに複製して販売するおそれがあるとは認められない。
 しかし、右の販売中止時点において既に製造していた被告商品のうちの本件第二レコードの処分につては、本件全証拠によっても明らかでない。これらは、施行前複製物であって、前記のとおり、その販売行為は本件第二レコードの著作隣接権を侵害するものではなく、被告らが主張するI社との間の許諾期間が既に経過していることを考慮に入れたとしても、なお、被告らが将来これらを販売するおそれはあるというべきである。
 そして、遅くとも本件口頭弁論終結時点においては、被告らは、右の既に製造されている被告商品のうちの本件第二レコードが、原告Jの有する原告第二図柄の複製権を侵害する行為によって作成されたものであると認識しているものということができるから、これを将来頒布する行為は原告Jの著作権を侵害する行為とみなされることとなる(著作権法113条1項2号)。
 したがって、原告Jが被告らに対し、被告第二図柄を付した本件第二レコードの販売を差止める必要性は認められる。
三 争点三(不正競争)について
1 争点三1(周知性)について
(一)F・レーベルによる製造、販売と周知性の取得について
 本件全証拠によっても、原告各図柄が、原告J又はF社の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたと認めるには足りない(原告らは、原告商品を製造、販売するのは原告Jであると主張するが、前記第二の二3に掲げた各証拠によれば、原告商品の製造、販売元がF社であることは明らかというべきである。この場合に、原告Jが同社の表示の周知性を主張して不正競争防止法に基づいて差止等を請求できるかという問題が別個に存するが、この点は必要性がないので、ここでは判断せず、原告J又はF社の表示とし、以下論を進めることとする。)。
 甲第15号証、第18号証の1、2、甲第23号証及び原告S代表者本人尋問の結果によれば、原告商品の日本国内での販売数量は、レコードとCDを合わせて、本件第一レコードは4000枚程度、本件第二レコードは2000枚程度、本件第三レコードは3000枚程度、本件第四レコードは4000枚程度であること、原告商品のうち、本件第一、第四レコードは、F社のカタログや雑誌に掲載されたことが認められるが、ジャズレコードの市場規模は本件全証拠によっても明らかでなく(原告S代表者は本人尋問において3000枚程度売れれば「クリーンヒット」であり、輸入盤では1000枚程度であると供述し、被告V代表者は本人尋問において、1万枚から2万枚程度で「クリーンヒット」であると供述するが、これらを裏付ける資料は存しない。)、また、F社のカタログに掲載されている原告第一、第四図柄は、数百枚のジャケットのうちの一枚ないし二枚にすぎない。かえって、乙第1号証、第2号証によれば、スイングジャーナル1972年(昭和47年)11月号に日本コロムビア株式会社が販売する、原告第一図柄とほぼ同一の図柄のジャケットを付した本件第一レコード及び原告第三図柄とほぼ同一の図柄のジャケットを付した本件第三レコードが、スイングジャーナル1992年(平成4年)6月号には、日本フォノグラム株式会社が販売する原告第一図柄とほぼ同一の図柄のジャケットを付した本件第一レコードがそれぞれ掲載されていることが認められることからすれば、原告各図柄が商品表示主体としての原告JあるいはF社を示すものとして需要者の間に広く認識されていると認めるに足りる証拠は存しないといわざるを得ない。
 ところで、ジャケット図柄が商品表示として需要者に与える意味について検討すると、ジャケット図柄は各レコードにより異なるものであり、また、原告S代表者本人及び被告V代表者本人尋問の各結果によれば、ジャケット図柄の使用権原は、その図柄が用いられたレコードの音源に関する権利の譲渡、使用許諾に付随して取引されるのがレコード製作者の取引慣行となっていることが認められる。右事実によれば、ジャケット図柄が商品の識別標識としての機能を有することがあるとしても、その識別対象は、営業主体すなわちレコードの製造販売者ではなく、むしろ、レコードに収録された楽曲や演奏家、ひいては特定の音源のレコードそのものとみるべきであって、いわば題名と類似する機能を果たすのが通常であると考えられる。したがって、名盤として音楽ファンに知られたレコードの復刻盤の製造販売者が廃盤レコードと同一の図柄のジャケットを付してレコードを製造、販売し、かつ、これを宣伝広告したとしても、需要者は廃盤レコードと同一の音源のレコードが復刻されたものと認識するにとどまるのが通常であって、それを超えて、当該ジャケット図柄が復刻盤レコードの製造販売者の商品を表示するものとして需要者の間に周知となることが一般的であるとはいえない。本件において、原告各図柄が復刻盤の音源との結びつきを超えて、製造、販売元の識別標識として需要者に広く知られるに至るような特段の事情があったことを認めるに足りる証拠はない。
 なお、原告らは、Fレーベルが有名であるとして、そこから原告各図柄の周知商品表示性が導かれるかのような主張をするが、レーベル自体が有名であることと、当該ジャケット図柄の識別標識としての機能は別個のものと考えるべきであり、その機能につては右に述べたとおりであるから、原告の右主張を採用することはできない。
(二) また、原告Jは、本件各レコードの原盤権をE社から譲り受け、これとともにジャケット図柄の利用権原も譲り受けたから、原告Jは、E社のもとで形成された周知性を正当に承継したと主張する。
 しかし、前記(一)で述べたとおり、ジャケット図柄は、これが 識別標識として需要者の間に広く認識されるに至ったものであるとしても、その識別対象はレコード製造販売者というよりはむしろ特定の音源のレコードそのものであるのが一般的というべきであるところ、そのような識別標識としてのジャケット図柄に関する周知性という事実状態を、需要者の認識を離れて、当事者間の契約により承継し得るものではないと解すべきである。そしてまた、先に述べたようなジャケット図柄の識別標識としての機能からすれば、このような図柄を当該音源を収録したレコードのジャケットとして用いる限りにおいては、需要者の誤認混同を生じさせるものではないのであって、音源に関する権利の保護と離れて、これを不正競争防止法による保護の対象とする必要性も認められない。
 したがって、原告JがE社のもとで形成された周知性を承継したとする主張を採用することはできない

(三) よって、原告Jの不正競争防止法に基づく請求は、いずれもこれを採用することはできない。
2 争点三4(原告Sの請求の可否)について
 原告Sの不正競争防止法に基づく請求は、前記のとおり原告Jの請求に理由がなく、また、原告各図柄がSの商品表示として需要者の間に広く認識されていると認めるに足りる証拠もないから、その余の点を判断するまでもなく理由がない(なお、原告Sは、本訴において、被告らの不正競争行為によって自己の営業上の利益を侵害され、又はそのおそれがあると主張している者であるから、当事者適格自体は肯定できる。)。
四 争点四(信用回復措置の必要性)について
 不正競争防止法7条の規定に基づく原告らの請求は、被告らの不正競争行為の存在という前提を欠き、これを認めることはできない。また、著作権法115条は、著作者人格権を侵害された場合の名誉回復等に関する規定であることは、その規定の文言上明らかであるが、原告らは、本訴において著作者人格権侵害の主張をしていないから、これを認める余地はない。
五 よって、原告Jの請求は、主文第一項の限度で理由があり、原告Jのその余の請求及び原告Sの請求はいずれも理由がない(仮執行宣言を付すのは相当でないから、これを付さないこととする。)。
〔研  究〕
1. レコードジャケットに表現されている図柄が著作物であり、それが著作権を取得しているものか否かがまず争われた事件であるが、裁判所はそれを認めた。その理由として判決は、図柄を構成している背景写真、デザイン化された文字、題名の表示、6名の演奏家の名前の表記などによる位置関係から、これを思想又は感情を創作的に表現したもので、美術の範囲に属するものと解し、「原告第二図柄」は原告J創作の著作物と認定した。
 しかし、看者によっては、換言すれば、裁判官によっては、この程度の図柄では美術的鑑賞に耐え得るものではないからとして、著作物性を否定する者もいるかも知れない。それほど、個々の裁判官の考え方には巾があることを認めざるを得ないし、紙一重という場合もあろう。
 しかし、本件図柄に著作権の成立を認めたことは、この程度の作品でも美術の著作物と認定できることが証明されたことになるから、こんごCDやレコードのジャケット又はケースにおける図柄に著作物性が認められ、著作権を取得しているものもあることを関係者は認識しておくべきであろう。そして、こんごこのようなものにも、美術性の高い作品が生まれることを期待したい。
2. 裁判所は、原告が選択的に求めたジャケットの図柄についての不正競争防止法による保護には否定的であった。
 その図柄が識別標識として需要者に広く認識されることになっていたとしても、その識別対象は特定の音源のレコードそのものであって、レコードの製造販売者ではないから、その図柄を当該音源を収録したレコードのジャケットとして用いる限りは、需要者の誤認混同を生じさせる者ではなく、音源に関する権利の保護と離れて、これを不競法によって保護する必要性は認められない
と考えたことは、疑問である。
 けだし、被告が被告第二図柄を表現したジャケットを用いたレコードを販売すれば、それと同一図柄のジャケットを用いている原告第二図柄と誤認混同を起こし、結果として原告の営業上の利益を害することになるからである。
 なお、判決は「音源に関する権利」という新しい権利概念を創作したが、こんごの研究の対象になろう。

[牛木理一]