D-43


2ちゃんねる事件:東京地裁平15()15526 平成16311日判決〈棄却〉
            東京高裁平
16(ネ)2067平成1733日判決〈原判決変更〉

〔キーワード〕

電子掲示板、対談の著作権、転載・引用、閲覧、送信可能化、自動公衆送信、

掲示板運営者

〔事  実〕

 漫画家である原告AことB(以下「原告C」という。)及び出版社である原告株式会社小学館(以下「原告小学館」という。)は,書籍「ファンブック罪に濡れたふたり〜Kasumi〜」(以下「本件書籍」という。)に収録された対談記事について,著作権を共有するところ,被告が運営するインターネット上の電子掲示板「2ちゃんねる」に,上記対談記事が無断で転載されて送信可能化され,自動公衆送信されたことにより,原告らの送信可能化権,公衆送信権が侵害されたと主張し,被告に対し,著作権法112条1項に基づき当該対談記事の送信可能化及び自動公衆送信の差止めを求めるとともに,原告小学館の削除要請にもかかわらず,被告が転載された当該対談記事の削除を怠ったことで原告らに損害が発生したと主張し,被告に対し,民法709条に基づき,損害賠償(訴状送達の日の翌日からの遅延損害金を含む。)を請求している。
 1 前提となる事実関係(証拠により認定した事実については,末尾に証拠を掲げた。)
 
(1) 当事者
 原告Cは,漫画家であり,漫画「罪に濡れたふたり」(以下「本件漫画」という。)を著作した。原告小学館は,出版社であり,本件漫画が連載されている月刊誌「少女コミックCheese!」や本件漫画の単行本等を出版している。
 被告は,インターネット上に「2ちゃんねる」と称する電子掲示板(以下「本件電子掲示板」という。)を開設し,運営している。
 
(2) 本件電子掲示板の特徴
 ア 本件電子掲示板は,300種類以上の個別のテーマの電子掲示板によって構成され,各掲示板には,個別の話題ごとに多数のスレッドと称する連続した書き込みが存在しており,各スレッドに書き込まれた発言には,書き込み日時の古い順に1から番号が付けられている。そして,本件電子掲示板の利用者は,各掲示板の各スレッドにおいて発言を書き込んだり,新しくスレッドを作って発言を書き込むことができるようになっている。なお,スレッドの発言数が所定の数に達すると,当該スレッドは「過去ログ倉庫」と称するコーナーに移されるが,所定の方法をとることで誰でも「過去ログ倉庫」にあるスレッドを閲覧することが可能である。
 イ 本件電子掲示板は,だれでも無料で,インターネットを介して自由に閲覧し,書き込みをするなどして利用することができる。また,本件電子掲示板の利用者が,発言の書き込みをする際には,氏名,メールアドレス,ユーザーID等を記載する必要はない。
 ウ 被告は,本件掲示板における発言の削除について「削除ガイドライン」を定めて運用している。同ガイドラインにおいては,発言の削除を希望する者は,本件電子掲示板にある「削除要請板」ないし「削除依頼板」と称する電子掲示板にあるスレッドに削除要請の旨を書き込む(スレッドがない場合には自ら新たにスレッドを作成して書き込む)という方法によってのみ発言の削除を求めることができることとされている。
 実際の削除については,被告以外に「削除人」ないし「削除屋」(以下「削除人」という。)と呼ばれている特定の利用者が発言の削除を行う権限を与えられている。この「削除人」は,いわゆるボランティアであって,「削除ガイドライン」に従って,本件掲示板における発言を削除することができるが,削除すべき義務や,削除をし,又は,しなかったことについて責任を負わないものと「削除ガイドライン」において定められている。
 
(3) 対談記事の著作等
 ア 原告小学館は,本件書籍を編集,発行し,同書籍は平成14年4月24日ころ,全国の書店で販売が開始された。
 本件書籍は,原告C及びその作品である本件漫画のファンを主要な読者とする書籍であり,B6変形判200頁の書籍に朗読CDが付属した体裁で,書籍部分は,漫画,小説及び原告Cの対談記事などから構成されている。本件書籍に収録された対談記事は,「『罪に濡れたふたり』誕生秘話」(本件書籍34頁から51頁。以下,「本件対談記事1」という。)と題する対談記事と「A
×Eドラマティック対談」と題する対談記事(本件書籍134頁から144頁。以下「本件対談記事2」という。)の2本である(以下,両対談記事を合わせて「本件各対談記事」ということがある。)。
 イ 本件対談記事1は,本件漫画の誕生にまつわるエピソードなどを著者である原告Cが初代編集担当者であったF(以下「F」という。),本件書籍発行当時の編集担当者であったH(以下「H」という。)及び読者代表のG(以下「G」という。)と対談した内容を収録した記事であり,本件対談2は,原告Cと声優として著名なE(以下「E」という。)が,恋・仕事・人生について対談した内容を収録した記事である。
 F及びHは,原告小学館の従業員であり,同人らは原告小学館の従業員の職務として対談を行ったものである。また,G及びEは,本件各記事中の同人らの発言部分に関して同人らが有する著作権を,それぞれ原告小学館に譲渡した。

 (4) 本件対談記事の転載と削除要請
 ア 別紙転載文章目録の投稿日欄記載の各発言日に,各発言番号欄記載の発言(以下,これらの発言をまとめて「本件各発言」という。)が,本件電子掲示板の「みんなうんざりだって
A」と題するスレッド(以下「本件スレッド」という。)上に書き込まれたが,これらの発言は直ちに送信可能化され,実際に各発言後に本件スレッドにアクセスした者に対して自動公衆送信された。
 その後,平成14年8月ころ,本件スレッドの発言数が所定の数に達したことから,本件スレッドは「過去ログ」に移された。
 イ 本件各発言には,別紙転載文章目録の発言内容欄記載の各文章(以下,これら文章をまとめて「本件各文章」という。)が記載されているところ,本件各文章は,本件各対談記事を順番に転記したものであり,別紙転載文章目録の「本件書籍の表現との対比」欄記載のとおり,一部の文章に本件各対談記事と異なる表現が見られるものの,転記の際の略記,あるいは転記漏れないし転記ミスの範囲にとどまるものである(甲1,2,弁論の全趣旨)。
 ウ 原告小学館の従業員である「少女コミックCheese!」編集長I(以下,「編集長I」という。)は,平成14年5月9日,被告に宛ててファクシミリにより,また,平成14年5月10日には電子メールにより,本件各発言の掲載が著作権侵害であると警告し,本件各発言の速やかな削除を要請した。
 これに対し,被告は,同月12日に「削除依頼板へおねがいします。」とのみ記載された返信の電子メールを編集長I宛てに送信した。
 上記返信の電子メールに対し,編集長Iは,再度,同月13日に,電子メールで速やかな対処を求める旨の要請を行った。これに対しても,被告は上記同様に「削除依頼板へおねがいします。」とのみ記載された返信の電子メールを編集長I宛てに送信した。

 

〔東京地裁の判断〕

 1 争点(1)(本件各発言における本件各対談記事の転載は著作権法32条にいう引用に当たるか)について
 被告は,本件各発言の書き込みをした者(以下「本件発言者」という。)が発言の書き込みに際して本件各対談記事を引用することは,著作権法上許された引用の範囲にあると主張する。
 著作権法32条1項にいう「引用」とは,紹介,参照,論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうところ,上記引用に当たるというためには,引用を含む著作物の表現形式上,引用して利用する側の著作物と引用されて利用される側の著作物を明瞭に区別して認識することができ,かつ,両著作物の間に前者が主,後者が従の関係があると認められる場合でなければならないと解される。
 これを本件についてみるに,前記の「前提となる事実関係」(前記第2,1)に証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,本件対談記事1は本件書籍の18ページ分,本件対談記事2は本件書籍の11ページ分をそれぞれ占めるものであること,本件各発言においては,本件各対談記事がほぼそのまま掲載されていること,本件各発言は,「ファンブックの対談とかうぷしてほしいという人が多ければうぷしますよ〜。やめてほしいという人が多ければしませんので
‥‥‥」「うpきぼん」などという書き込みの後に「随分時間が経ってしまいましたが,ファンブックの対談うぷします。結構な量になるので,一気に全部ではなく何回かにわけます」との書き込みがされ,それに続けて掲載されたものであることが認められる。
 上記認定の事実によれば,本件各発言を閲覧した者は,本件各文章を独立した著作物として鑑賞することができるのであり,本件発言者がその発言の書き込みにおいて本件各対談記事の内容を転記したのは,本件発言者らが創作活動をする上で本件各対談記事を引用して利用しなければならなかったからではなく,本件各対談記事を閲覧させること自体を目的とするものであったと解さざるを得ない。
 したがって,本件各発言においては,その表現形式上,本件各対談記事の転載部分が従であるとはいえない(むしろ,本件各対談記事の転載部分が主であるということができる)から,本件発言者がその発言の書き込みに際して本件各対談記事の内容を転載した行為が,著作権法上許された引用に該当するということはできない。
 以上のとおり,被告の主張は採用することができない(なお,被告は,スレッドを一体としてみれば,本件各対談記事の引用部分が従であるという趣旨の主張もしているが,本件のような電子掲示板に,発言者が自由に書き込みをしているような場合には,書き込みごとに独立した著作物と解すべきであるから,被告の上記主張も採用することができない。)。
 2 争点
(2)(原告らは,被告に対して,別紙転載文章目録記載の各発言の自動公衆送信又は送信可能化の差止めを請求することができるか)について
  ア 原告らは,本件各発言が著作権侵害を構成するものである以上,本件電子掲示板を設置,運営し,削除について最終的な権限及び責任を有する被告に対して,本件各発言の自動公衆送信又は送信可能化の差止めを請求することができると主張する。しかし,以下に述べるとおり,原告らの上記主張を採用することはできない。
 著作権法112条1項は,著作権者は,その著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる旨を規定する。同条は,著作権の行使を完全ならしめるために,権利の円満な支配状態が現に侵害され,あるいは侵害されようとする場合において,侵害者に対し侵害の停止又は予防に必要な一定の行為を請求し得ることを定めたものであって,いわゆる物権的な権利である著作権について,物権的請求権に相当する権利を定めたものであるが,同条に規定する差止請求の相手方は,現に侵害行為を行う主体となっているか,あるいは侵害行為を主体として行うおそれのある者に限られると解するのが相当である。けだし,民法上,所有権に基づく妨害排除請求権は,現に権利侵害を生じさせている事実をその支配内に収めている者を相手方として行使し得るものと解されているものであり,このことからすれば,著作権に基づく差止請求権についても,現に侵害行為を行う主体となっているか,あるいは侵害行為を主体として行うおそれのある者のみを相手方として,行使し得るものと解すべきだからである。この点,同様に物権的な権利と解されている特許権,商標権等についても,権利侵害を教唆,幇助し,あるいはその手段を提供する行為に対して一般的に差止請求権を行使し得るものと解することができないことから,特許法,商標法等は,権利侵害を幇助する行為のうち,一定の類型の行為を限定して権利侵害とみなす行為と定めて,差止請求権の対象としているものである(特許法101条,商標法37条等参照)。著作権について,このような規定を要するまでもなく,権利侵害を教唆,幇助し,あるいはその手段を提供する行為に対して,一般的に差止請求権を行使し得るものと解することは,不法行為を理由とする差止請求が一般的に許されていないことと矛盾するだけでなく,差止請求の相手方が無制限に広がっていくおそれもあり,ひいては,自由な表現活動を脅かす結果を招きかねないものであって,到底,採用できないものである。
  イ これを本件についてみるに,前記の「前提となる事実関係」(前記第2,1)に記載の各事実に弁論の全趣旨を総合すると,被告は本件電子掲示板を設置,運営する者であるが,本件電子掲示板は300種類以上の個別のテーマの電子掲示板から構成され,各個別のテーマの電子掲示板の中に多数のスレッドが存在していること,本件電子掲示板は公衆の用に供されている電気通信回線(インターネット)を介して無料でだれでも利用することができ,発言をしようと思う者は自由にスレッドに書き込みを行うことができるものであること,書き込まれた発言は直ちに機械的に送信可能化され,被告は送信可能化前に書き込みの内容をチェックしたり,改変したりすることはできないこと,本件各発言も,利用者たる本件発言者が本件スレッドに書き込んだものが機械的に送信可能化され,自動公衆送信されたものであること等の事情が認められる。
 上記の各事実に照らせば,本件各発言について送信可能化を行って本件各発言を自動公衆送信し得る状態にした主体は本件発言者であって,被告が侵害行為を行う主体に該当しないことは明らかである。
 そうすると,原告らは,被告に対して本件各発言の送信可能化又は自動公衆送信の差止めを請求することはできないものというべきである。
  ウ この点に関する原告らの主張は必ずしも明らかではないが,現に著作権等の侵害が行われている場合,あるいは行われるおそれの高い場合に,権利を侵害された者において侵害行為を行った主体に対する差止請求を行うことが容易ではない一方で,幇助者の行為が著作権等の侵害行為に密接な関わりを有し,かつ幇助者が被害の拡大を容易に防止することができる立場にあるような場合には,当該幇助行為を行う者は著作権等の侵害主体に準ずる者として,著作権法112条1項に基づく差止請求の相手方になり得ると主張するものと解されないではない。しかしながら,このような主張を採用することができないことは,上記アにおいて説示したとおりである。
 原告らは,また,本件電子掲示板の利用者が発言の書き込みをする際に,氏名,メールアドレス等を記載する必要がなく匿名で行うことができること,著作権侵害の発言について削除要請があっても必ずしも削除されるとは限らず,書き込みをした本人であってもスレッドに掲載された発言の削除を行うことは許されていないことといった本件電子掲示板の特徴に照らすと,被告に対して差止請求を認めなければ著作権侵害に対する救済を欠くことになり,不当であるなどとも,主張する。
 しかし,まず,著作権侵害に限らず,匿名で権利侵害を行っている者に対して差止請求を認めるべきかどうか,認めるとしてどのような方法で差止めを可能ならしめるかは,基本的には立法政策の問題であって,電子掲示板における表現において,匿名での権利侵害行為がなされたからといって,侵害の主体ということができない電子掲示板の設置者ないし自動公衆送信装置の設置者に対して,特段の法規上の根拠も要することなく,差止請求権を行使することができると解することは,到底できない。殊に,憲法上自由な表現活動が保障されている下においては,表現活動に対する抑制行為は厳に謙抑的であることが求められるものであり,このような点に照らしても,原告らの主張するところは,差止請求の相手方を解釈によって無制限に拡張することにつながるもので,到底採用することができない。
 もっとも,発言者からの削除要請があるにもかかわらず,ことさら電子掲示板の設置者が,この要請を拒絶して書き込みを放置していたような場合には,電子掲示板の設置者自身が著作権侵害の主体と観念されて,電子掲示板の設置者に対して差止請求を行うことが許容される場合もあり得ようが,そのような事情の存在しない本件において,被告に対する差止請求を認める余地はない。
 ちなみに,平成14年5月27日に施行された特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)3条2項においては,特定電気通信役務提供者(本件被告も,これに該当するものと解される。)において,「当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき」(同項1号),又は権利を侵害されたとする者から侵害情報等を示して送信防止措置を講じるよう申出があり,当該特定電気通信役務提供者から発信者(本件においては本件発言者)に意見照会をした場合において,「当該発信者が当該照会を受けた日から7日を経過しても当該発信者から当該送信防止措置を講じることに同意しない旨の申出がなかったとき」(同項2号)のいずれかの場合には,情報の不特定の者に対する送信(著作権法にいう送信可能化及び自動公衆送信を含むものと解される。)を防止する措置を講じたことにつき,発信者に対して損害賠償責任を負わない旨が規定されている。本件スレッドにおける発言の書き込みの送信可能化及び自動公衆送信も同法にいう「特定電気通信」に該当するものと解されるから,同法施行後に被告が送信防止の措置を講じた場合においては,上記規定が適用となる余地はある。もとより,同項の規定は,特定電気通信役務提供者のとった措置について発信者に対する損害賠償責任が生じない場合を規定しているだけで,特定電気通信役務提供者に対して送信防止措置をとるべき義務を課しているものではないが,前記「前提となる事実関係」(前記第2,1)及び上記アにおいて認定した事実の下では,上記のプロバイダ責任制限法3条2項各号に規定するいずれの場合にも該当せず,送信防止措置を講じたことにつき同規定により発信者に対する損害賠償責任が免責される場合には当たらないものと解される。この規定の趣旨は,本件においても尊重するのが相当であるところ,上記のとおり送信可能化又は自動公衆送信の防止のための措置をとったことにつき発言者からの責任追及を受けるおそれなしとしない状況の下において,被告に送信可能化又は自動公衆送信を止めるべき信義則上の義務があったということもできない。
  エ 以上のとおり,被告に対して,本件各発言の送信可能化及び自動公衆送信の差止めを求める原告らの請求はいずれも理由がない。
 3 争点
(3)(被告は,本件各対談記事の削除を行わなかったことにより,原告らに対して損害賠償責任を負うか)について
  ア 前記2において認定説示のとおり,本件において,被告は著作権を侵害した者に該当しないのであるから,被告による著作権侵害を理由とする原告らの請求は理由がない。
  イ 原告らは,仮に,被告自身が著作権を侵害した者に該当しないとしても,遅くとも平成14年5月10日に編集長Iからの削除要請が行われた後においては,被告は,本件各発言を削除すべき条理上の作為義務を負っていたにもかかわらず,過失によりこれを怠ったもので,損害賠償義務を負うと主張する。
 しかしながら,インターネット上において他人の送信した情報を記録し,公衆の閲覧に供することを可能とする設備を用いて,電子掲示板を開設・運営する者や,ウェブホスティングを行う者(以下「電子掲示板開設者等」という。)は,基本的には,他人が送信した情報について媒介するという限度で情報の伝達に関与するにすぎない。
 したがって,電子掲示板開設者等は,他人が行った電子掲示板への情報の書き込み,あるいはウェブページ上における表現行為が,著作権法上,複製権,送信可能化権,公衆送信権の侵害と評価される場合であっても,電子掲示板開設者等自身が当該情報の送信主体となっていると認められるような例外的な場合を除いて,特段の事情のない限り,送信可能化又は自動公衆送信の防止のために必要な措置を講ずべき作為義務を負うものではない。
 これを本件についてみるに,編集長Iが平成14年5月10日に被告に対して行った削除要請は,電子メールで「私は小学館少コミCheese!の編集長をしているIと申します。2ちゃんねるの少女漫画サイトの『うんざりだって
A』で小社刊の『ファンブック 罪に濡れたふたり〜kasumi〜』の18ページにわたる座談会ページの全文が公開されており,これは明らかに著作権侵害ですので,すみやかに削除をお願いいたします。」という内容を述べるにとどまるものであり,その後に被告からの返答を受けて同年5月13日に行われた再度の要請においても「削除依頼板へ,というご返事をいただきましたが,私の申し上げたことに対するお答えとして,筋が違うと思います。さらに5月10日以降,現在までに,704〜707で座談会の続きが公開され,また,720〜725,728〜748において,もうひとつの対談記事も11ページ分全文が公開されています。」という内容を述べるにとどまるものである。これらの電子メールによる要請だけでは,真正な著作権者からの申告かどうかも明らかでなく(上記各電子メールの差出人は「I」となっているが,同電子メール上,「I」と原告C,E,H及びGとの関係は全く不明である。),同電子メールの内容も,具体的に著作物の内容を示した上でどの部分が著作権侵害かを特定して申告するものでもなく,仮に被告が,同電子メールによる権利侵害との申告を軽信して,著作権侵害かどうかの判断を誤って過剰に発言を削除した場合には,かえって,書き込みをした者から非難されるおそれがあること,自由な表現活動を保障する観点から他人の表現行為について第三者が介入することには慎重さが求められるべきであることも考慮するならば,この程度の内容の電子メールを受け取ったからといって,被告において権利侵害の事実を知っていたか,あるいはこれを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があったということはできず,送信可能化又は自動公衆送信の防止のために必要な措置を講ずべき特段の事情があったとは認められない。ちなみに,前記のプロバイダ責任制限法3条1項においては,特定電気通信(上記のとおり本件スレッドにおける発言の書き込みの送信可能化及び自動公衆送信も,これに含まれるものと解される。)による情報の流通により他人の権利が侵害された場合において,特定電気通信役務提供者(上記のとおり本件被告も,これに該当するものと解される。)は,当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき(同項1号),あるいは,特定電気通信役務提供者において情報の流通を知っていた場合であって,当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき(同項2号)のいずれかの場合に該当する場合でなければ,権利侵害によって生じた損害について損害賠償責任を負わない旨が規定されている。本件においても,被告が条理上の作為義務を負うものかどうかを判断するに当たっては,この規定の趣旨を尊重するのが相当であるが,上記に認定したとおり,被告において,原告らの権利侵害の事実を知っていたということはできないし,権利侵害の事実を知ることができたとも認められないのであって,同規定の下においても,被告が原告らに対して損害賠償責任を負い得る場合には当たらないものというべきである。
 したがって,本件の事実関係の下においては,そもそも,被告に本件各発言の送信可能化及び自動公衆送信を防止すべき作為義務があったと認めることはできないし,被告に過失があったと認めることもできない。
  ウ 以上のとおり,原告らの損害賠償請求は,いずれも理由がない。

 

〔東京高裁の判決〕

〔主  文〕

1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は,「2ちゃんねる」と題するホームページ(アドレス http:-/www.2ch.net)の「過去ログ倉庫」(アドレス http:-/comic.2ch.net/gcomic/kako/1014/10149/1014993777.html)における原判決別紙転載文章目録の発言内容欄記載の各発言を自動公衆送信又は送信可能化してはならない。
(2) 被控訴人は,控訴人XことXに対し,45万円及びこれに対する平成15年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人は,控訴人株式会社小学館に対し,75万円及びこれに対する平成15年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 控訴人らのその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審を通じ,3分の2を被控訴人の負担とし,その余を控訴人らの負担とする。
3 この判決の1
(1)ないし(3)は,仮に執行することができる。

〔判  断〕

1 前提事実の要約
 まず,前記引用に係る原判決の「前提となる事実関係」に基づき,本件の前提事実を要約すると,次のとおりである。
(1) 当事者
 控訴人Xは,漫画家であり,「罪に濡れたふたり」と題する一連の漫画本を著作した。控訴人小学館は,出版社であり,漫画「罪に濡れたふたり」が連載されている月刊誌「少女コミックCheese!」や漫画「罪に濡れたふたり」の一連単行本等を出版している。
 被控訴人は,インターネット上に「2ちゃんねる」と称する本件電子掲示板を開設し,運営している。
(2) 本件電子掲示板の特徴
ア 本件電子掲示板は,テーマごとに300種類以上の電子掲示板によって構成され,各掲示板には,話題ごとに多数のスレッドと称する連続した書き込みが存在しており,各スレッドに書き込まれた発言には,書き込み日時順に番号が付けられている。そして,本件電子掲示板の利用者は,各掲示板の各スレッドにおいて発言を書き込んだり,新しくスレッドを作って発言を書き込むことができるようになっている。スレッドの発言数が所定の数に達すると,当該スレッドは「過去ログ倉庫」と称する保管場所に移されるが,所定の方法によって,だれでも「過去ログ倉庫」にあるスレッドを閲覧することが可能となっている。
イ 本件電子掲示板は,何人も,無料で,インターネットを介して自由に閲覧し,書き込みをすることができる。本件電子掲示板の利用者が,発言の書き込みをするには,氏名,メールアドレス,ユーザーID等の記載の必要はない。
ウ 被控訴人は,本件掲示板における発言の削除について「削除ガイドライン」を定めて運用している。同ガイドラインにおいては,発言の削除を希望する者は,本件電子掲示板にある「削除要請板」ないし「削除依頼板」と称する電子掲示板にあるスレッドに,削除要請の旨を書き込む(スレッドがない場合には自ら新たにスレッドを作成して書き込む)という方法によってのみ発言の削除を求めることができるとされている。
エ 実際の削除については,被控訴人以外に「削除人」ないし「削除屋」と呼ばれる特定の利用者が発言の削除を行う権限を与えられている。この「削除人」は,ボランティアであって,「削除ガイドライン」に従って,本件掲示板における発言を削除することができるが,削除すべき義務や,削除をし,又はしなかったことについて責任を負わないものと「削除ガイドライン」において定められている。
(3) 対談記事の著作等
ア 控訴人小学館は本件書籍を編集,発行し,同書籍は平成14年4月24日ころ全国の書店で販売が開始された。
 朗読CD付き200頁の本件書籍は,控訴人X及びその作品である漫画「罪に濡れたふたり」のファンを主要な読者とする書籍であり,漫画,小説及び控訴人Xの対談記事などから構成されている。本件書籍に収められている対談記事として,「『罪に濡れたふたり』誕生秘話」(本件書籍34〜51頁。本件対談記事1)と題する対談記事と「X
×Bドラマティック対談」と題する対談記事(本件書籍134〜144頁。本件対談記事2)とがある。
イ 本件対談記事1は,漫画「罪に濡れたふたり」の誕生にまつわるエピソードなどを著者である控訴人Xが,初代編集担当者であったC,本件書籍発行当時の編集担当者であったD及び読者代表のEと対談した内容を記載したものであり,本件対談記事2は,控訴人Xと,声優として著名なBが,恋・仕事・人生について対談した内容を記載したものである。
 C及びDは,控訴人小学館の従業員であり,控訴人小学館の従業員の職務として対談を行ったものである。また,E及びBは,本件各記事中の同人らの発言部分に関して同人らが有する著作権を,それぞれ控訴人小学館に譲渡した。
(4) 本件対談記事の転載
ア 原判決別紙転載文章目録の投稿日欄記載の各発言日に,各発言番号欄記載の本件各発言が,本件電子掲示板の「みんなうんざりだって
X」と題する本件スレッド上に書き込まれたが,これらの発言は直ちに送信可能にされ,各発言後本件スレッドにアクセスした者に対して自動公衆送信された。その後,平成14年8月ころ,発言数が所定の数に達したことから,本件スレッドは「過去ログ」に移された。
イ 本件各発言には,原判決別紙転載文章目録の発言内容欄記載の本件各文章が記載されている。
 すなわち,本件対談記事1につき,
@平成14年5月3日からの連続11回にわたる書き込み,A5月5日における連続9回にわたる書き込み,B5月7日における連続10回にわたる書き込み,C5月12日における連続4回にわたる書き込み,本件対談記事2につき,D平成14年5月13日における,連続6回にわたる書き込み,飛んで1回の書き込み,更に飛んで別の連続18回にわたる書き込み,以上である。
ウ 本件各文章は,本件各対談記事を順番に転記したものであり,原判決別紙転載文章目録の「本件書籍の表現との対比」欄記載のとおり,一部の文章に本件各対談記事と異なる表現が見られるものの,転記の際の略記,転記漏れないし転記ミス,あるいは重複記載の範囲にとどまっている。
(5) 削除要請
 控訴人小学館の従業員である「少女コミックCheese!」編集長Aは,平成14年5月9日に被控訴人にあてたファクシミリにより,また,平成14年5月10日には電子メールにより,本件各発言の掲載が著作権侵害であると警告し,本件各発言の速やかな削除を要請した。
 
上記電子メールに対し,被控訴人は,同月12日に「削除依頼板へおねがいします。」とのみ記載した返信電子メールを編集長Aあて送信した。
 上記返信電子メールに対し,編集長Aは,再度,同月13日に電子メールにより,速やかな対処を求める旨の要請を行った。これに対しても,被控訴人は,「削除依頼板へおねがいします。」とのみ記載した返信の電子メールを編集長Aあてに送信した。
2 被控訴人による著作権侵害について
(1) 自己が提供し発言削除についての最終権限を有する掲示板の運営者は,これに書き込まれた発言が著作権侵害(公衆送信権の侵害)に当たるときには,そのような発言の提供の場を設けた者として,その侵害行為を放置している場合には,その侵害態様,著作権者からの申し入れの態様,さらには発言者の対応いかんによっては,その放置自体が著作権侵害行為と評価すべき場合もあるというべきである。以下,本件の事実関係に即してこれをみてみる。本件発言の前後の発言内容は,甲2及び弁論の全趣旨による認定である。
(2) 前記1(4)イの@の発言の直前の発言(甲2の番号602)には,本件対談記事1の内容を書き込んだ発言者と同じ「492」の名前で,「随分時間が経ってしまいましたが,ファンブックの対談うぷします。結構な量になるので,一気に全部ではなく何回かにわけます。改行は適当な所で。XX先生,初初代担当,今今の担当,読読者代表」との内容の発言(書き込み)がある。ここで「うぷします」とあるのが,「upする」(書き込む)の意味であることは明らかである。この番号602の発言は,番号492の発言の中に,「ファンブックの対談とかうぷしてほしいという人が多ければうぷしますよ〜。やめてほしい人が多ければしませんので・・。」とあるのを受けたものである。
 前記
@の一連発言の直後には,本件発言者とは別の者と思われる「花と名無しさん」と名乗る者が,「対談ウプおつかれさま。非常におもしろかった!!」と発言し(番号615),本件対談記事1を書き込んだ「492」と称する者がそれに続いて,「二重カキコスマソ。ファンブックの対談,まだまだあります。連続書き込みやりすぎるとアクセス規制うけるんで時間たったら続きうぷします。」と書き込んでいる(番号616)。
 
Aの一連発言の2つ前の発言(番号623)には,「>492ほんっとありがとう。しかも忠実に・・・。」との書き込み部分があり,Aの発言の冒頭(番号625)に「対談うぷ続きです。ファンブックで脱字?と思われる箇所がいくつかあったのですが,そのままうぷします。」との導入の下,対談の書き込みが続いている。
 
Aの一連発言の後には,「いやいや,>492。ほんとにありがとう。これ書き写すだけで大変だろうに・・・。」と,「花と名無しさん」と名乗る者による書き込みがある(番号636)。
 なお,前記
Dの書き込み名義は「花と名無しさん」となっている。これが,上記の「花と名無しさん」と同一人か,あるいは「492」を名乗る者と同一人かは明らかではない。
(3) 本件各発言は,「みんなうんざりだってX」と題する本件スレッドにおけるものであり,その最初の発言には,「「罪に濡れたふたり」Cheeseにて只今,連載中! みんなでうんざり語りましょう。・・・」とあり,前記(2)に摘示した発言内容からすると,本件各発言は,これを一読するだけで,「ファンブック」すなわち本件書籍の対談記事を,著作権者の許諾なくほぼそのまま転載したものであることが,極めて容易に理解されるのであり,本件掲示板を開設し運営している被控訴人にとっても,本件各発言が,その内容自体によって,公刊された書籍のかなりの頁部分をそのまま転載したものであり,デッドコピーとして著作権侵害になるものであることを容易に理解し得たものといわざるを得ない。
 そして,編集長Aが,会社名,肩書,そして電話番号ファックス番号を明記した上,出版社として著名な控訴人小学館の代理人又は使者として,被控訴人に対し,ファクシミリで著作権侵害通知をし,ファクシミリでしたのと同一内容の通知を電子メールでもしており(通知内容には,小学館刊行の「ファンブック 罪に濡れたふたり〜
Kasumi〜」の18頁にわたる座談会頁の全文が公開されていることの指摘がある。甲3,4),被控訴人としては,本件各発言につき,著作権者から著作権侵害であることの通知を受けている。さらに,控訴人ら代理人弁護士伊藤真は,内容証明郵便により,本件各対談記事が著作権侵害に該当するとの警告書を,被控訴人が当時住民登録していた東京都北区のマンションあてに差し出し,これは平成14年7月17日被控訴人方に配達されている(甲7,8及び弁論の全趣旨)。
(4) インターネット上においてだれもが匿名で書き込みが可能な掲示板を開設し運営する者は,著作権侵害となるような書き込みをしないよう,適切な注意事項を適宜な方法で案内するなどの事前の対策を講じるだけでなく,著作権侵害となる書き込みがあった際には,これに対し適切な是正措置を速やかに取る態勢で臨むべき義務がある。掲示板運営者は,少なくとも,著作権者等から著作権侵害の事実の指摘を受けた場合には,可能ならば発言者に対してその点に関する照会をし,更には,著作権侵害であることが極めて明白なときには当該発言を直ちに削除するなど,速やかにこれに対処すべきものである。
 本件においては,上記の著作権侵害は,本件各発言の記載自体から極めて容易に認識し得た態様のものであり,本件掲示板に本件対談記事がそのままデジタル情報として書き込まれ,この書き込みが継続していたのであるから,その情報は劣化を伴うことなくそのまま不特定多数の者のパソコン等に取り込まれたり,印刷されたりすることが可能な状況が生じていたものであって,明白で,かつ,深刻な態様の著作権侵害であるというべきである。被控訴人としては,編集長Aからの通知を受けた際には,直ちに本件著作権侵害行為に当たる発言が本件掲示板上で書き込まれていることを認識することができ,発言者に照会するまでもなく速やかにこれを削除すべきであったというべきである。にもかかわらず,被控訴人は,上記通知に対し,発言者に対する照会すらせず,何らの是正措置を取らなかったのであるから,故意又は過失により著作権侵害に加担していたものといわざるを得ない。
 被控訴人は,一人で数百にものぼる多数の電子掲示板を運営管理し,日々,刻々とこれに膨大な量の書き込みが行われるため,すべての書き込みに目を通すことは到底不可能であるから,個々の著作権侵害の事実を把握することはできない,と法廷で繰り返し強調していたが,仮に被控訴人の主張することが事実であったとしても,著作権者等から著作権侵害の事実の通知があったのに対して何らの措置も取らなかったことを踏まえないままにこのように主張するのは,自らの事業の管理態勢の不備をいう意味での過失,場合によっては侵害状態を維持容認するという意味での故意を認めるに等しく,過失責任や故意責任を免れる事由には到底なり得ない主張であるといわざるを得ない。
 以上のとおりであるから,被控訴人は,著作権法112条にいう「著作者,著作権者,出版権者・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に該当し,著作権者である控訴人らが被った損害を賠償する不法行為責任があるものというべきである。なお,著作権者が発言者に対して著作権侵害に係る発言の削除の要請をするのが容易であるならば,掲示板の運営者が著作権侵害をしていると目すべきでないこともあり得ようが,本件掲示板においては,発言者の実名,メールアドレスなどの発信者情報を得ることはできず,本件各発言の削除要請が容易であるとは到底いうことができない。
 この点に関連し,被控訴人は,本件掲示板の発信者は,IPログから追跡可能であると主張する。被控訴人の主張は,IPアドレスの記録によって発信者が特定できるとの趣旨と理解できるが,IPアドレスによって特定されるのは当該発言がいずれのプロバイダーから発信されたかにとどまり,発言者までの特定は当該プロバイダーが厳格に管理している個人情報を得て初めて可能になるものであることは,公知の事実である。被控訴人の上記主張をもってしても,被控訴人の著作権侵害による責任についての上記判断を左右することができない。
 また,被控訴人は,本件掲示板の運営者として,削除依頼は削除依頼掲示に記載すべきものとするガイドライン(甲9)を設定しており,これ以外の方法による削除要請を受理しなくともよいかのごとく主張するが,これは,被控訴人が一方的に取り決めた通告方法にすぎず,本件掲示板に何ら特別な関係を持たない控訴人らに法的な効力を及ぼすことはできない。被控訴人は,少なくとも,著作権者と称する者から通知があった場合には,その通知者が連絡を取れる実在の者であることが明らかに分かり,かつ,当該発言を読んで明らかに著作権侵害の可能性が高いと判断されるときには,発言者にその旨を通知して対応策を問い合わせる必要がある。なお,被控訴人は,ファクシミリや電子メールを読んでおらず,内容証明郵便も家族が受領して自らは見ていないと主張するが,信用することができない。仮に,被控訴人が上記のとおり一人による事業で管理態勢が不十分であるため,自己に対する電子メールや内容証明郵便も読むことができないのが事実であるとしても,これによって,不法行為責任等の判断において被控訴人が有利に評価されることはあり得ない。
 さらにまた,被控訴人は,著作権が侵害された本件書籍の送付を受けていないこと(弁論の全趣旨)から,著作権侵害の確認をすることができなかったと主張するが,上記のとおり,本件各発言の内容のみから,本件書籍が実際に刊行されたこと及びその内容がどのようなものであるかを容易に知ることができたのであるから, 被控訴人が本件書籍の提示を受けていないとしても,著作権侵害の責めを免れるものではない。
  
(5) したがって,被控訴人は本件各発言を本件掲示板上において公衆送信可能状態に存続させあるいは存続可能な状態にさせたままにしている者として,著作権侵害の不法行為責任を免れない。
3 差止めの必要性
 前記のとおり本件各発言は自動公衆送信されていたものである。現在のところは,本件掲示板に掲載されておらず,一般人に対し自動送信される状態にないが(弁論の全趣旨),これは,被控訴人が本件各発言の公開を保留しているにすぎず(原審被控訴人準備書面1),将来送信可能化される可能性のあることは明らかであるから,本件各発言の自動公衆送信又は送信可能化について控訴人らが請求する差止請求は理由がある。
4 損害について
(1) 弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができ,これに反する証拠はない。
ア 本件書籍は,控訴人X及びその作品である本件漫画のファンを主要な読者とする書籍であり,本件各対談記事は,その性質上漫画家である控訴人Xの個性が発揮されていること,本件各発言は,本件書籍が発売された平成14年4月下旬からほどない平成14年5月3日から掲載が開始されたもので,本件対談記事を全文転載しているものであること,他方,控訴人小学館は,本件書籍の本件各対談記事,書き下ろしの漫画などが書店で立ち読みされないように,フィルムで包装する態様で本件書籍を出荷していた。
イ 本件書籍は,本体価格940円で,平成14年4月24日に書店で販売が開始されたものであり,その実売は数万部であった。
ウ 本件スレッドには,4か月余りで1000件弱の書き込みがあり,その後も,継続して控訴人Xに関する独立したスレッドが存在していること,したがって,これらスレッドにアクセスした者は本件各発言のある本件スレッドにもアクセスした可能性が高いこと,本件各発言は,本件電子掲示板の中の控訴人Xに係る本件スレッドに掲載されたものであり,控訴人X及び本件漫画のファンの多くが,書き込み(発言)をしないで本件掲示板にアクセスして本件各発言を読んだものである一方で,複数回にわたって本件掲示板にアクセスした場合も存する。
(2) これらの事実に,平成14年5月3日から被控訴人が本件各発言の公開を留保していると主張した平成16年1月19日(原審被控訴人準備書面1の受付日)までの間に,8か月余り経過していること,インターネット情報が一般に拡散しやすく,直接アクセスした者から本件各発言が広まった可能性を否定できないこと,したがって,直接間接に本件各発言に接することができた者はかなりの数に上ると推認されること,他方で,相当多数のアクセスが本件掲示板にあったとしても,300円の著作物使用料が徴収されるのであれば,掲示板閲覧者の中にはこれを支払ってまではアクセスしない者も多いものと推認できること,などを総合勘案し,編集長Aが被控訴人にあてて前記ファクシミリを送信して以降,本件各発言にアクセスがあった件数を3000件と認定した上,週刊誌「サンデー毎日」がファクシミリによるバックナンバー記事提供サービスの情報料を記事1回当たり300円としていること(甲14の1,2)にかんがみ,本件対談記事の著作物使用料を200円と認めた上で,各控訴人が被った損害額を算定するのが相当である。
 なお,本件対談記事1は,控訴人X,控訴人小学館の従業員のCとD,そして読者代表としてEの4名によるものであり,控訴人X以外の著作権については,職務著作あるいは著作権の譲渡により控訴人小学館に帰属していることから(甲10〜12),本件対談記事1の著作権は4分の1が控訴人Xに,その余の4分の3が控訴人小学館に帰属しているものと認められる。
 また,本件対談記事2は,控訴人XとBの2名によるものであるが,Bは控訴人小学館に著作権を譲渡しているので(甲13),本件対談記事2の著作権は控訴人Xと控訴人小学館に,それぞれ2分の1の割合で帰属しているものと認められる。
 そうすると,次の計算式により,本件著作権侵害により被った損害額は,控訴人Xについて45万円であり,控訴人小学館について75万円と認めるのが相当である。
  (計算式)
   
@ 控訴人X関係
       本件対談記事1について
        200円
×3000件×1/4= 15万円
       本件対談記事2について
        200円
×3000件×1/2= 30万円
                    合計  45万円
   
A 控訴人小学館関係
       本件対談記事1について
        200円
×3000件×3/4= 45万円
       本件対談記事2について
        200円
×3000件×1/2= 30万円
                    合計  75万円

 

〔論  説〕

1.インターネット上の電子掲示板「2ちゃんねる」は、被告によって開設され運営されているものではあるが、第三者によってそこに書き込まれる多種多彩にわたる記事については、被告側の責任が及ばない一種の“無法地帯”であることが、この事件の記事転載によって改めて明らかなものとなった。
 まず、そこに書き込まれたものである本件各対談記事の内容の他からの転載は、「引用」の場合に問題となる利用される側と利用する側と区別できるような主従の関係にあるものではなく、単に本件各対談記事を閲覧させることを目的としたにすぎないもの、と地裁は理解した。すると、「2ちゃんねる」に書き込みした発言者の本件各対談記事は、引用に当たるものとは違うから、原告の著作権侵害となることはないと判断された。

2.次に、原告から被告に対して、本件電子掲示板への各発言の自動公衆送信又は送信可能化の差止め請求権の行使ができるかどうかについても、地裁は消極的であった。 「2ちゃんねる」は、インターネットを介して誰でも無料で利用することができ、書き込まれた発言は直ちに機械的に送信可能化され、被告がその内容をチェックしたり、改変することはできず、自動公衆送信されるという事情が存在することを地裁は認めた。 したがって、本件各発言について送信可能化を行って自動公衆送信し得る状態にした主体は本件発言者(姿は見えない者)であって、被告ではないから、被告への差止め請求はできないと判断した。

.原告は、「2ちゃんねる」への匿名の利用者に対して発言の削除を要求する差止請求権の行使を認めなければ、著作権侵害に対する救済を欠き不当であると主張したが、地裁はそれは立法政策の問題であると一蹴した。この場合、被告は侵害行為の主体ではないから、特段の法規上の根拠もなしに差止請求権の行使はできないと解することは当然であろう。
 地裁は、発言者からの削除要請があるにもかかわらず、電子掲示板の設置者がこの要請を拒絶して書き込みを放置したような場合は、電子掲示板の設置者自身が著作権侵害の主体と観念され、設置者に対して差止請求が許容される場合もあろうが、そのような事情は本件の場合にあっては存在しないと判示している。

4.地裁は、新設の「プロバイダ責任制限法」(平成14527日施行)の3条2項の規定をあげ、本件の場合について同規定の適用を試みようとしたが、被告には送信可能化又は自動公衆送信を中止させる信義則上の義務があったということはできないと判示し、原告らの請求をいずれも理由がないと認定したのである。
 また、被告が本件各対談記事の削除を行わなかったことによる原告らに対する損害賠償責任についても、同様の理由によって理由がないと認定された。

5.ところが、高裁では全面的に被告敗訴の判決となった。
 高裁は、著作権者の立場にある原告が、発言の場を提供している掲示板運営者の被告に対し、掲示板への各発言の自動公衆送信又は送信可能可を差止めすることができるか否かについて、これを肯定し、「被控訴人は本件各発言を本件掲示板上において公衆送信可能状態に存続させ、あるいは存続可能な状態にさせたままにしている者」として、著作権侵害の不法責任は免れないと認定した。ということは、書込み自由な掲示板をインターネットに提供している者は、その事実だけで、そこに書き込まれた発言に対しては責任を負うべきであり、免責を主張することはできない立場にあると判示し、原告に対し、自動公衆送信と送信可能可を禁止するとともに、損害賠償額(45万円+75万円)の支払いを命じたのである。
 すると、一見、“無法地帯”に思われていた掲示板でも、その管理運営者である被告の責任を追求することによって、このような分野においてもなお、わが国の法の目が光っていることを明らかにしたといえる。

6.最近の「2ちゃんねる」を見ていると、「のまネコ」という名のキャラクターの絵をめぐって騒動が起きている。
 10月1日付の朝日新聞(38頁)と読売新聞(38頁)によると、「2ちゃんねる」に2000年頃から登場して有名になっているキャラクター「モナ−」に似た猫の絵が、エイベックスのCD「恋のマイアヒ」の宣伝用に「のまネコ」という名のキャラクターで登場したことから、ネット利用者が反発して騒ぎ出した。
 それは、言葉の寄せ合いによって自然発生的に描かれることになった「モナー」という名の猫のキャラクターの絵を見て、それからインスパイアされたという一企業が絵を改変して商品化事業を始めたという問題のようだ。しかし、「モナー」の絵には著作権が発生しているとすれば、他人がその絵と同一又は類似のものを商標として登録したとしても、商標法29条の規定が作用し、商標権者は著作権者の許諾なしには使用することができない。
 かといって、そのキャラクターの絵が類似していなければ、改変の根拠とはならないから、著作権の効力は及ばないことになる。
 また、同一のキャラクターの絵でも名前でも、それについて商標権を取得するためには、42区分ある商品・役務群を各別に指定しなければならないから、その出願費用は高額なものとなる。 CDの音楽制作受託会社が7月に「文字」と「図形」についての商標登録出願をしたことが、騒ぎに拍車をかけたようである。この辺の現況についてはYAHOO!NEWSが、いろいろと伝えている。

7.さらに、「2ちゃんねる」の掲示板はいろいろ悪用されていることでも知られているは、最近の例として、9月28日の新聞が報道している無名の女性の「肖像権」に関する侵害事件の東京地裁9月27日判決が指摘しているところである。それは、銀座を歩いていた女性を無断で写真撮影し、その写真を、日本ファッション協会とコロモ・ドット・コムが運営するファッション紹介のHPに無断掲載したところ、その後第三者が「2ちゃんねる」に、女性の顔を含む全身写真を中傷書き込みとともに転載したという事件である。(朝日新聞9月28日38頁)
 一種の無法地帯の「2ちゃんねる」に、法律の専門家があえて口を出すのは差し控えた方がよいのかも知れないが、こんごこの“無法地帯”を舞台に、著作権や肖像権などをめぐる種々の紛争事件が起る余地が十分あるといえる。
 しかし、個人の基本的人権である「表現の自由」を濫用する行為は、かえって自分の首をしめ、表現の自由の制限強化へと志向させる結果となることを自覚すべきであろう。
 今日のインターネット時代に住むわれわれは、「2ちゃんねる」という交流の場が、将来クローズされないように有意義で思いやりのある発言の場として発展していくことを願うものである。

〔牛木理一〕