D-41

 

 

撃GEKI事件:東京地裁平成16(ワ)3173号
平成16年12月15日判決(棄却)

〔キーワード〕 
書の著作物性、応用美術、鑑賞性、周知の商品表示、不正競争行為

〔事  実〕
 原告(有限会社シップス)は、被告(株式会社防衛ホーム新聞社)による被告標章1を包装に付した饅頭(以下「被告饅頭1」という。)、被告標章2を各包装に使用したせんべい(以下「被告せんべい」という。)及び饅頭(以下「被告饅頭2」といい、被告饅頭1、被告せんべいと併せて「被告商品」という。)の販売について、@被告商品の販売は不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当する、A被告せんべい及び被告饅頭2の販売は著作権(複製物の譲渡権)侵害に該当する、と主張して、被告に対し、不正競争防止法3条(被告商品)又は著作権(被告せんべい及び被告饅頭2)に基づく被告商品の販売等の差止め及び廃棄、並びに不正競争防止法4条又は民法709条に基づく損害賠償を求めた。
 争点は次の四点であった。
(1)本件標章は、本件饅頭が原告の販売する商品であることを示す周知な表示であるかどうか。
(2)被告商品の販売は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為となるかどうか。
(3)被告せんべい及び被告饅頭2の販売は、著作権侵害となるかどうか。
(4)原告の被った損害額はいくらか。

〔判  断〕
1 争点(1)について
 まず,本件標章が本件饅頭が原告の商品であることを示す周知な商品等表示であるか否かの点について判断する。
(1) 事実認定
 前記争いのない事実に証拠(甲1ないし6,9,10,19,69,70,乙1ないし10,12ないし14,17,19,20,23,25。枝番号の記載は省略する。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
ア 本件饅頭の製造に至る経緯
(ア) 原告は,平成8年12月6日に設立された光洋商事の完全子会社である。光洋商事の代表取締役社長は,原告代表者であるAの母親であり,Aは,光洋商事の専務取締役を兼務している。光洋商事及び原告は,ともに土産物や記念品を販売することを主な業務としている。
(イ) 被告は,昭和48年から防衛庁及び自衛隊の関係者向けに,「防衛ホーム」新聞を毎月2回(1日と15日)発行しているほか,同新聞の号外を不定期に発行し,これを防衛庁及び自衛隊の関連施設の売店で販売している。
(ウ) 被告の代表者であるCとAは,平成13年11月ころ,原告が被告の作成したカレンダーを販売したことから知り合った(甲69,70)。
(エ) Aは,被告(C)に対し,平成14年12月7日,光洋商事作成の「オリジナル饅頭製作のご案内」と題する書類等を持参し,東京都庁限定販売の「東京都庁おまんじゅう」(乙4)や「日本武道館まんじゅう」などの例を挙げながら,饅頭本体に野菜等の天然色素を使用して文字や絵柄を印刷するオリジナル饅頭を被告の商品として製造販売することを提案した(乙3)。なお,この提案は,Aが光洋商事の企画として被告に持ちかけたものであった。
(オ) 被告は,Aの上記提案を受け,「防衛ホーム」新聞を販売している防衛庁及び自衛隊の売店でオリジナル饅頭を販売しようと考え,Aに対して,オリジナル饅頭の製造を委託する意思がある旨を伝えた。そして,被告は,平成14年12月中旬ころからオリジナル饅頭の菓子箱の包装紙及び饅頭本体に付する絵柄のデザインの検討を始め,被告の専属データ作成者であるDが,饅頭本体に付する絵柄として戦車,戦艦,戦闘機を素材とした3種類の絵柄(乙5),及び菓子箱の包装紙として,外周部を迷彩柄とし「陸海空おまんじゅう」との商品名を記載したデザイン(乙8)を作成し,被告はこれらのデザインをAに送付した。これに対し,Aは,中央に被告がウェブページで使用している戦闘機,戦車及び戦艦の写真(乙1)を配し,「国の誉れ」との商品名を記載したデザインを被告に送付した(乙9)。なお,包装紙に被告のウェブページ上の上記写真を使用することは,被告の取締役であるBが発案したものであった。
(カ) Aは,饅頭本体の絵柄の印刷に使用できる天然色素が限定されていることなどから,被告から送付された上記饅頭本体の絵柄の配色や細部を若干修正する必要が生じたため,平成15年1月下旬ころ,Bに対し,その旨連絡し,修正の了解を得た(乙6,7)。しかし,上記修正は,微調整の範囲に止まり,本件饅頭の饅頭本体の絵柄は,Dが作成した上記絵柄と実質的に同一のものである(甲2,10,乙5)。
(キ) Dは,Aに対し,平成15年1月中旬ころ,饅頭本体の絵柄及び包装紙のデザイン案をメールによって送信した。これに対し,A(光洋商事の肩書付き)は,Bに対し,同月22日,上記絵柄及びデザインを受け取った旨の返信のメールを送信したが,その追記として「饅頭ネーミング「撃」弊社では好評です。「撃」陸上,海上,航空バージョンで是非行きましょう。」と記載した(乙23)。
(ク) Aは,被告に対し,平成15年2月4日,「オリジナル饅頭について」と題する書簡を送付した(乙10の1)。同書簡は,原告名義で作成されており,オリジナル饅頭の注文書と包装紙決定案が同封されていた。包装紙案の表面のデザインは,本件饅頭のものと同一であるが,裏面の責任票の販売者欄には,「株式会社光洋商事N」と記載されていた(乙10の2)。また,注文書のあて先は,原告とされていた(乙10の3)。なお,本件饅頭の包装紙裏面の責任票の販売者欄には,「有限会社シップスN」と記載されている(甲1)。
イ 本件饅頭の販売状況等
(ア) 被告は,原告に対し,平成15年2月10日,前記注文書によって本件饅頭を2000箱注文した。その後,同年12月まで,被告は原告に対し,前記注文書によって本件饅頭を合計1万9718箱注文し,これらの一部を販売促進用の見本品としたほか,防衛庁及び自衛隊の関連施設の売店23店舗で販売した。
 被告の注文により,自衛隊の売店等に納品された本件饅頭の数量は,以下のとおりであった。(甲6,乙25)
平成14年
 2月 700箱
 3月 1290箱
 4月 740箱
 5月 760箱
 6月 300箱
 7月 380箱
 8月 1808箱
 9月 1580箱
10月 5020箱
 1月 3140箱
12月 4000箱
(イ) Aは,被告に対し,平成15年2月下旬ころ,被告を原告の取扱製品の販売代理店とすることを定める売買基本契約書(代理店用)(甲17)及び本件饅頭の売買取引に関する覚書(代理店用)(甲18)の案を交付した。その後,A(光洋商事の肩書付き)は,Bに対し,同月27日,本件饅頭の納品についてメールを送信したが,その際,上記契約書等によって契約を進めたい旨書き添えた(乙12)。しかし,被告は,原告の販売代理店となる意思がなかったので,上記売買基本契約書及び覚書の締結を拒否した。
(ウ) A(光洋商事の肩書付き)は,被告に対し,平成15年3月11日,本件饅頭の納入価格,サービス品の提供,販売促進用のサンプル個数,蝋見本等に関する被告の要望に対する回答を記載した書簡をファクシミリにより送信した。(乙13)。
(エ) A(光洋商事の肩書付き)は,Bに対し,平成15年4月14日,本件饅頭の売り場用ポスターのファイルを添付し,その旨添え書きをしてメールを送信した。そのポスターには,本件饅頭の包装紙表面の絵柄,饅頭本体に印刷する絵柄などとともに,「自衛隊限定販売」,「新商品情報」,「自衛隊オリジナル饅頭 撃」などと大きく書かれ,「販売元:(株)防衛ホーム新聞社」と被告名が記載されていた。(乙14)
(オ) フジテレビ系列で平成15年9月10日に放映されたテレビ番組「トリビアの泉」の中で,自衛隊でしか買えない饅頭として,本件饅頭が紹介された。また,同番組で取り上げられたムダ知識(トリビア)をまとめた書籍「トリビアの泉」第4巻にも,本件饅頭が掲載された。(甲3ないし5)
(カ) 被告は,平成15年9月18日,商標「撃(げき)」について,指定商品を第30類「菓子及びパン」,第33類「日本酒」として商標登録出願をした。(乙17)
(キ) 光洋商事は,被告に対し,平成15年9月26日,本件饅頭の絵柄の印刷に使用するフィルムの製造工場が改装工事を行うため,フィルムの生産を同年10月20日から同年11月末日まで一時中止する旨のメールを送信した。(乙20)
(ク) 被告は,平成15年11月,包装紙の標章を本件標章から被告標章1に変更した被告饅頭1の販売を開始した。Aは,被告に対し,同月14日,被告饅頭1の販売の中止を求めたが,被告はこれを拒否した。
(2) 判断
ア 本件標章の示す商品主体
 前記(1)認定の事実に基づき,本件標章が原告の商品等表示であるか否かについて,判断する。
(ア) 前記のとおり,本件饅頭の製造販売については,光洋商事のAが被告に対して提案したものであったが,Aの提案内容は,被告のオリジナル饅頭を製造販売するというものであったこと,被告は,Aの提案を受けて,自社のオリジナル饅頭の販売を決意し,その製造を委託する意思がある旨をAに伝えたこと,本件饅頭は,饅頭本体に天然色素を用いて絵柄を印刷するところに特徴があるが,その絵柄のデザインは,被告において考案したものであること,菓子箱を包む包装紙のデザインについても被告が検討し,表面の中央に被告のウェブページの写真を用いること,外周を迷彩柄とすることは被告の提案に係るものであり,また,「撃」という商品名についても被告が発案したものであること,本件饅頭は平成15年2月から販売されたが,被告が注文した数量しか製造されず,その販売もすべて被告を通じて行われたこと,本件饅頭の販売当初にAが被告に送付した売り場用ポスターには,販売元として被告名が記載されていること等の事実に照らすならば,本件饅頭は被告の商品として企画され,その製造が光洋商事又は原告に委託されたものと認めるのが相当であるから,本件標章は,被告の商品であることを示す商品等表示であると解するのが相当である。
(イ) これに対し,原告は,本件饅頭の販売について,被告は原告の独占的な販売代理店にすぎず,本件饅頭は原告の商品であるから,本件標章は原告の商品等表示である旨主張する。
 しかし,被告が本件饅頭の独占的な販売代理店であったことを窺わせる客観的な証拠はなく,かえって,前記のとおり,被告は,本件饅頭の製造に当たり,饅頭本体の絵柄や包装紙のデザインの検討を主導的に進め,最終的に被告の提案に係る部分が多く採用されていることから,被告は商品内容自体を決定する立場にあったといえること,Aが被告に対して,被告を原告の販売代理店とする旨の契約書案(甲17)を交付したのに対し,被告がその締結を拒否し,その後はAも契約締結の件を放置していること等の事実に照らせば,被告と原告との間において,被告が原告の販売代理店となる旨の契約がされたと認定することはできない。
 したがって,原告の上記主張は採用できない。
(ウ) また,原告は,本件饅頭について,饅頭本体の絵柄及び包装紙のデザインを決定したのは原告であり,本件標章も原告が考案したものであると主張し,原告代表者の陳述書(甲12,13,66)にはその旨の記載がある。
 しかし,饅頭本体の絵柄については,Dの作成した絵柄(乙5)に対してAが行った修正(甲12)は,印刷に使用できる色素の制約による微調整にすぎない。また,包装紙のデザインのうち,本件標章について,原告代表者は,甲13,66において,本件標章の作成手順を説明しており,確かに,原告代表者の説明する手順によって,本件標章の字体を作成することができる。しかし,これは,その手順によれば,そのような字体の作成ができることを意味するに止まり,このことから直ちに原告代表者が「撃」という商品名を考案したとまでは認めることはできない。
 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(エ) なお,前記のとおり,本件饅頭の包装紙裏面の責任票の販売者欄には「有限会社シップスN」と記載されているが,Aが被告に対して送付した包装紙のデザインの決定案には「株式会社光洋商事N」と記載されていたこと,これを上記のとおり変更することについて,原告が被告に対して連絡等をしたことを認めるに足りる証拠はなく,原告が被告に無断で上記記載を変更したものと推認できること,責任票の記載は,本件饅頭が食品であるため,その安全性の確保等の関係で表示されるものであり,被告が光洋商事又は原告に本件饅頭の製造を委託していたことからすれば,責任票の記載が直ちに商品主体としての販売者を表示しているとはいえないこと等の事実に照らすならば,上記責任票の記載は,本件饅頭が被告の商品であるとする前記認定を左右するとはいえない。
(オ) 以上のとおりであるから,本件標章は,本件饅頭が被告の商品であることを示す商品等表示である。
イ 本件標章の周知性
 上記のとおり,本件標章は,被告の商品等表示であるから,この点で既に原告の不正競争防止法に基づく請求は理由がないが,念のため,本件標章の周知性の有無についても判断する。
(ア) 原告は,@本件饅頭は,防衛庁及び自衛隊の関連施設の売店で限定販売されたにもかかわらず,平成15年2月から12月までの間に合計1万9718箱販売されており,その販売数は驚異的に多いこと,A高視聴率番組である「トリビアの泉」で紹介されたこと,Bアンケート結果(甲29,40,42)から,本件標章は,自衛隊員のみならず,一般消費者の間においても周知であった旨主張する。
(イ) 前記のとおり,本件饅頭は,平成15年2月から販売開始されたが,同年12月までの間に見本品とされたものを除き,約1万9000箱が小売販売されている。原告は,その後も本件饅頭を被告を通さずに販売した旨主張するが,その数量,時期等についての主張立証はない。このように本件饅頭の販売数は約11か月という販売期間を考慮すると,かなり少ないものである。この点,原告は,上記販売数を驚異的な数量であると主張し,証拠(甲7,25,38,39などいずれも陳述書)には上記主張に沿った記載がある。しかし,それらの記載は,もともと販売数が少ない商品と比べて本件饅頭の販売数が多いと述べているだけであり,絶対数が上記程度にすぎないことからすれば,原告の上記主張は採用できない。
(ウ) また,本件饅頭は,平成15年9月10日にフジテレビ系列で放映された番組「トリビアの泉」で紹介されたことがあり,前記(1)イ(ア)認定のとおり,その後の同年10月から12月までの販売数は,それ以前の販売数よりも増加している。しかし,甲6によれば,同年10月から12月までの間の販売数の約75パーセントは,特定の売店(朝霞駐屯地広報センターSAKURA)のものであり,本件饅頭の取扱店が全体として販売数を増加させたとはいい難い。
 さらに,本件饅頭の宣伝広告については,売店でポスターを掲示したこと,被告が発行する新聞「防衛ホーム」の号外に3回広告を掲載したこと(乙16)が認められるが,その他に宣伝広告をしたことを認めるに足りる証拠はない。
 なお,アンケート結果については,調査対象,方法等が統計的見地から適正なものであることを認めるに足りる証拠がないから,採用できない。
(エ) 以上の事実に加え,本件饅頭は,防衛庁及び自衛隊の関連施設の売店でのみ販売されていたが,全国にそのような施設は約400か所あり(乙18),そのうち本件饅頭が販売された売店は二十数店舗にすぎないこと等の事実も併せ考慮すれば,原告の上記主張は採用することができず,本件標章は,一般消費者はもとより,自衛隊関係者の間においても周知であったとは認められないというべきある。
ウ 小括
 以上のとおり,本件標章は原告の商品等表示であるとは認められず,また,周知な商品等表示であるとも認められない。
 したがって,原告の不正競争防止法に基づく請求は,理由がない。

2 争点(3)について
(1) 本件標章の著作物性
ア 原告は,本件標章はAが作成した著作物であり,職務著作の規定により,原告がその著作権を取得した旨主張する。
 著作権法2条1項1号は,著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定し,さらに同条2項は,「この法律にいう『美術の著作物』には,美術工芸品を含むものとする。」と規定している。これらの規定は,意匠法等の産業財産権制度との関係から,著作権法により著作物として保護されるのは,純粋な美術の領域に属するものや美術工芸品であって,実用に供され,あるいは産業上利用されることが予定されている図案やひな型など,いわゆる応用美術の領域に属するものは,鑑賞の対象として認められる一品製作のものを除いて,特段の事情のない限り,これに含まれないことを示しているというべきである。
イ 本件標章は,@当初から本件饅頭の商品名を示すものとして作成され,包装紙に商品名を表示する態様で使用されている(甲1)から,正に産業上利用される標章であること,A別紙標章目録記載のとおり,漢字の「撃」に欧文字の「GEKI」を一部重ねたものであるが,「GEKI」は「撃」の音読みをゴシック体の欧文字でローマ字表記したものにすぎず,「撃」部分も,社会通念上,鑑賞の対象とされる文字と解するのは相当でないことから,本件標章は,著作物とは認められない。
(2) 小括
 したがって,原告の著作権に基づく請求は,理由がない。
 なお,原告は,被告商品の販売が不正競争行為に該当せず,また,著作権侵害にも該当しないとしても,被告は,原告の販売代理店であったにもかかわらず,原告の商品である本件饅頭の人気にフリーライドするため,被告商品を販売したのであり,このような被告の行為は,取引界における公正かつ自由な競争として許される範囲を著しく逸脱し,それによって原告の法的利益が侵害されたから,不法行為を構成するとも主張する。しかし,本件饅頭について,被告が原告の販売代理店であったとは認められないから,原告の上記主張は前提を欠く。原告の上記主張は採用できない。

 


[論  説]
  1.本件において原告は、被告が販売した饅頭の包装に使用した標章が、原告が販売する商品の周知な表示と混同を起す不競法2条1項1号の不正競争行為に当たると主張し、また併せて前記標章は著作物であるから、著作権(複製物の譲渡権)侵害に当たると主張した事案であったが、ここでは争点(3)である後者の主張に対する裁判所の考え方について論ずることにする。

2.判決によれば、著作権法2条1項と同2項の規定は、「意匠法等の産業財産権制度との関係から、著作権法により著作物として保護されるのは、純粋な美術の領域に属するものや美術工芸品であって、実用に供され、あるいは産業上利用されることが予定されている図案やひな型など、いわゆる応用美術の領域に属するものは、鑑賞の対象として認められる一品製作のものを除いて、特段の事情のない限り、これに含まれないことを示しているというべきである。」と判示した。
 そして、判決は「包装紙に商品名を表示する態様で使用されているから、正に産業上利用される標章であること、A別紙標章目録記載のとおり、漢字の「撃」に欧文字の「GEKI」を一部重ねたものであるが、「GEKI」は「撃」の音読みをゴシック体の欧文字でローマ字表記したものにすぎず、「撃」部分も、社会通念上、鑑賞の対象とされる文字と解するのは相当でないことから、本件標章は、著作物とは認められない。」と認定したのである。

3.しかし、このような認定は果たして妥当だろうか。私は不当であると考える。その理由の一端を次に述べる。
 東京地裁の今日現在における「美術の著作物」に関する考え方には、進歩の跡が全く見られない。量産品に複製(使用)するために創作した「書」は、現行の著作権法が保護対象としない非著作物だと考えている。しかし、このような考え方に対しては、今日でも色褪せることなく燦然と輝いている長崎地裁佐世保支部の「博多人形」事件に対する次の考え方によって対処したい。(昭47(ヨ)53号昭和48年2月7日決)
 「著作権法の対象となる著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものでなければならないが、前記認定のとおり本件人形『赤とんぼ』は、同一題名の童謡から受けるイメージを造形物として表現したものであって、検甲第1号証によれば姿体、表情、着衣の絵柄、色彩から観察して、これに感情の創作的表現を認めることができ、美術工芸的価値としての美術性も備わっているものと考えられる。
 また、美術的作品が、量産されて産業上利用されることを目的として製作され、現に量産されたということのみを理由としてその著作物性を否定すべきいわれはない。さらに、本件人形が一方で意匠法の保護の対象として意匠登録が可能であるからといっても、もともと意匠と美術的著作物の限界は微妙な問題であって、両者の重畳的存在を認め得ると解すべきであるから、意匠登録の可能性をもって著作権法の保護の対象から除外すべき理由とすることはできない。したがって、本件人形は著作権法にいう美術工芸品として保護されるべきである。
 前記認定のとおり、本件人形の複製、販売の権利すなわち著作権は、すでに申請外の2人の著作者から譲渡を受けた債権者に帰属しているのであるから、債権者の承諾なく本件人形を複製し、販売している債務者らの行為は、債権者の著作権を侵害する違法なものである。そして、右侵害行為が現に継続していることは、前記認定のとおりであって、債権者においてこの差し止めを求める緊急性、必要性も疏明される。」
 また、東京地裁では「動書」事件というものがあり、「本件書は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、知的、文化的精神活動の所産ということができる。知的、文化的精神活動の所産といいいうるか否かは、創作されたものが社会的にどのように利用されるかとは必ずしも関係がないというべきであるから、創作されたものが実用目的で利用されようとも、そのことは著作物性に影響を与えるものではない」と、原告の書体を書の著作物と認定し、かく判示しているのである。(東京地判昭和60年10月30日)
 このような過去の裁判例から見ると、今なお、応用美術論に終始しかつ鑑賞性にこだわった考え方を東京地裁がしていることは、時代錯誤の観がしてならないのである。

[牛木理一]