D-4

 

 

イラスト漫画事件: 東京地裁平成10年(ワ)29543号.平成11年6月14日判決(棄却)〔民47部〕

〔キーワード〕 
著作物、イラスト、キャラクター

 

〔判示・認定事項〕 

 著作権法上の著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であるから、原告主張の本件キャラクターは、1.ないし6.の諸特徴を有する表現であるから、それは当該人物イラストから離れた抽象的概念ないし画風というべきもので、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものといえないから、本件キャラクターは著作物ということはできない。

 

〔事  実〕

 

 原告(T社)は、デザイン、イラストの企画制作、広告文案の作成及び広告用ビデオ、フィルム、ポスター、カタログ等の企画、製作等を業とする会社である。
 被告(A社)は、ローン提携販売に係る購入者に対する融資、割賦、購入あっせん等を業とする会社であり、別紙目録一及び二の人物を描いたイラストを、新聞広告及び広告宣伝用ポケットティッシュのパッケージに使用している。
 本件は、原告はTが制作した多数の人物を描いたイラストに共通して表現されている独創性・同一性・統一性のある「諸特徴」を有するキャラクターについての著作権の譲渡を受けていたが、被告イラストの使用は原告の有するキャラクターの著作権を侵害すると主張し、その使用の差止めと著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。原告が本件キャラクターの無断使用によって被った損害は、400万円を下らないと主張した。
 なお、原告が主張した本件キャラクターの前記諸特徴の内容とは次の表現をいう。
1. 円もしくは楕円形で描かれている「顔の輪郭」の表現
2. 正円もしくは正円に近い楕円形で輪郭が描かれ、黒目(瞳)部分が目全体のうち過半を占め、黒目部分の位置を右にするか左にするかで視線の向きを一つの方向に定め、かつ、顔全体のなかで大きなスペースを占める「目」の表現
3. 円弧の下部の一部分と直線で形作られ、半円よりやや小さい「口」の表現
4. 円弧の上部の一部分と直線で形作られている「眉」の表現
5. 「鼻」を描かない表現
6. 前記の「顔の輪郭」「目」「口」「眉」が全体的にほぼ一定の面積的バランスを保って配置されている表現
〔判  断〕
一 本件キャラクターが著作権法上の著作物に当たるかどうかについて判断する。
 著作権法上の著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)とされているところ、原告の主張する本件キャラクターは、Tが制作した多数の人物イラストに共通して表現されているところの前記第三の一1(一)1.ないし6.の諸特徴 を有する表現というものであり、仮にそのような表現が存在するとしても、それは当該人物イラストから離れた抽象的概念ないし画風というべきものであって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないから、本件キャラクターをもって著作物ということはできない。
 原告は、本件キャラクターは漫画等のキャラクターと異なる特徴を有するから著作物として保護されると主張するが、本件キャラクターに原告の主張するような特徴があるとしても、本件キャラクターが抽象的概念ないし画風というべきでものであって、具体的表現そのものでないことに変わりはないから、本件キャラクターをもって著作物ということができないとの右判断を左右することはない。
二 以上の次第で、その余の点につき判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がない。
 なお、原告は、本件口頭弁論終結後の平成11年4月26日、別紙著作物目録記載のイラストレーション(以下「原告イラスト」という。)を予備的に被侵害著作物として主張することを理由に口頭弁論再開の申立てをした。本件訴訟の経過を見るに、原告は、第一回口頭弁論期日(平成11年2月12日)において、被告から原 告の主張する被侵害著作物は原告イラストであるのか、原告イラストから離れた人物絵のキャラクターであるのか明確にされたいと求められたこと、これに対し、原告代理人は、原告の主張する被侵害著作物は原告イラストではなく、本件キャラクターである旨の平成11年3月23日付準備書面を提出し、これを第二回口頭弁 論期日(平成11年4月23日)において陳述し、更に口頭でも同旨の陳述をして原告イラストについての著作権侵害を主張するものではない旨明言し、弁論が終結されたこと、以上の経過が当裁判所に顕著な事実として認められ、このような本件訴訟の経過に照らすと、本件口頭弁論終結後に原告イラストを被侵害著作物として追加して主張させるために本件口頭弁論を再開する必要はないものというべきである。
〔研  究〕
1. 判決理由の後半を読むと、第1回口頭弁論期日に被告から原告に対し、原告の主張する被侵害著作物は、イラストなのか、人物絵のキャラクターなのかの釈明を求められたのに対し、原告は、後者である旨を陳述していた事実があった。そうであれば、これだけでも原告の敗訴は見えていたといえよう。けだし、わが国著作権法が保護しようとしている著作物とは、現実に表現されているものそれ自体をいうのであるから、われわれが通常呼んでいるキャラクターは、それが後記するシリーズ・キャラクターであろうと,オリジナル・キャラクターであろうと、絵(図画)(本件でいうイラスト)そのもの以外の何ものでもないのである。
 したがって、本件においては、原告が求めた著作権法で保護するキャラクターについての考え方には誤解があったといえる。だから、その点を初回に被告によって問い質されたのである。
2. ところで、原告のこのような誤解を生む原因となっているのはもし裁判例を事前に検討しているとすれば、「サザエさん」事件の判決における次のような説示に影響されているものと思われる。
 「漫画の登場人物自体の役割、容ぼう、姿態など恒久的なものとして与えられた表現は、言葉で表現された話題ないしは筋や、特定の齣における特定の登場人物の表情、頭部の向き、体の動きなどを超えたものであると解される。しかして、キャラクターという言葉は、右に述べたような連載漫画に例をとれば、そこに登場する人物の容ぼう、姿態、性格等を表現するものとしてとらえることができるものであるといえる。」
 しかし、被告は、原告がキャラクターとは本件漫画に即していうと、漫画に登場する人物の図柄,役割,名称,姿態などを総合した人格とでもいうべきものであると主張したことに対し、被告の本件行為は、本件漫画の登場人物の、原告が主張するようないわゆるキャラクターを再製したものではないから、被告の本件行為は、それ自体原告が本件漫画について有する複製権の侵害を構成するということはあり得ない、と反論した。そして、被告は、原告が被告の本件行為が本件漫画についての複製権の侵害であると主張する以上、端的に本件漫画のどの部分について、どのような複製権を侵害をしたのかを具体的に主張すべきであり、抽象的なキャラクター理論をもって著作権侵害の主張は認められるべきではない、と主張したのである。
 被告のこのような反論及び主張は、原告が次のように主張していたことに対するものであった。
 「本件漫画中には、サザエ、カツオ及びワカメ等の頭部画が描かれているため、被告の本件行為を、本件漫画中、特定の日の新聞に掲載され特定の齣をそのまま引き写したものであると判断することは困難であるが、本件頭部画の内容から明らかなとおり、本件漫画から、サザエ、カツオ及びワカメの頭部に表現されたキャラクター(character)を再製したものであり、それ自体複製権の侵害を構成するものというべきである。ここにいうキャラクターとは、本件漫画に即していうと、漫画に登場する人物の図柄、役柄、名称、姿態などを総合した人格とでもいうべきものである。漫画の登場人物の姿態、特に、登場人物の顔面を含んだ頭部には、その人物の特徴が描出されているのであって、これは漫画の生命たるものに外ならず、そこには、著作者の思想感情が、創作的に具現されているのである。そこで、著作者の思想感情の創作的表現としての漫画の登場人物の頭部に表現されたキャラクターを、その著作権者に無断で複製する行為は、当該漫画の著作権者が有する当該漫画についての複製権の侵害を構成するものというべきである。その場合、本件漫画中の特定の一個の頭部画の複製であるということがいえないとしても、一般普通人によって、当該漫画中の登場人物の頭部を描出したものであるということ、すなわちその同一性が誤認されれば十分であると解すべきである。本件において被告が複製した各頭部画は、何人にも、これらが原告著作の漫画『サザエさん』に登場するサザエ、カツオ、及びワカメの頭部を画いたものであることを即座に且つ明瞭に認識せしめるに足りるものであり、また、被告自らもそのような意図をもって複製したものであることは、被告観光バスが『サザエさん観光』の愛称を公募のうえ使用していた事実に徴して明らかである。被告の本件行為は、右趣旨において、原告の本件漫画について有する複製権を侵害するものである。」
 しかし、裁判所は、連載漫画の登場人物であるキャラクターについて前記のように定義した後、本件頭部画については、「誰がこれを見てもそこに連載漫画『サザエさん』の登場人物であるサザエさん、カツオ、ワカメが表現されていると感得されるようなものである。つまり、そこには連載漫画『サザエさん』の登場人物のキャラクターが表現されているものということができる。ところで、本件頭部画と同一又は類似のものを漫画『サザエさん』の特定の齣の中にあるいは見出し得るかもしれない。しかし、そのような対比をするまでもなく、本件においては、被告の本件行為は、原告が著作権を有する漫画『サザエさん』が長年月にわたって新聞紙上に掲載されて構成された漫画サザエさんの前説明のキャラクターを利用するものであって、結局のところ原告の著作権を侵害するものというべきである。」
 同判決の説示で重要な点は、被告が観光バスの車体に本件頭部画を描示した行為を、「キャラクターを利用するもので、結局のところ、原告の著作権を侵害するものというべきである。」と判断していることである。つまり、原告が被告の行為を本件漫画の複製権侵害と主張したことに対し、被告が本件漫画のどの部分をどのようにして複製したのか具体的に明らかにすべきであるとの反論を汲み取り、判決は、複製権の侵害であるとは断定しなかったのである。その意味で、連載漫画の登場人物(キャラクター)をいわゆる複製以外の手段によって再製した場合には、その使用についての法的理論構成が難しいものとなってくる。
3. ところで、商品化利用のための漫画キャラクターには大別して、シリーズキャラクターとオリジナルキャラクターとがあり、「サザエさん」の場合は前者、本件の場合は後者である。前者のキャラクターは、商品化に使用する場合にはキャラクターの持つ「パブリシティ・バリュー」を付加価値として使用することができるから、ロイヤリティは比較的高いけれども、後者のキャラクターを使用する場合は無名であるから、ロイヤリティは比較的低い。けだし、シリーズキャラクターには著作権に加えてパブリシティの権利が存するのであるのに対し、オリジナルキャラクターが有するものは著作権だけであるからである。
 したがって、本件キャラクターと称するイラストの場合は、単に1個の図画(イラスト)の著作物に対する著作権侵害の有無を考えればよいのである。
 すると、被告使用の目録一、二の人物の図画は、原告創作の図画の複製物ではないから、著作権侵害はないと容易に結論することができるのである。* 
 なお、オリジナルキャラクターとは商品化のために特に創作された図画であるが、成功した典型例は「ハロー・キティ」である。

[牛木理一]

* 裁判所としても、このように考えた判決をしたかったかも知れないが、原告の主張がキャラクターにこだわったことから、前記判示事項のようになり、その余の点について判断するまでもなく、本訴請求は理由がないとしたのであろう。