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HP上の記事見出し事件:東京地裁平14(ワ)28035平成16年3月24日判(棄)

〔キーワード〕 
HP記事見出し、著作物性、複製、タグ
〔事  実〕
 本件は、原告(読売新聞東京本社)が、
@被告(デジタルアライアンス)は原告の著作物である記事見出しを無断で複製するなどして、原告の著作権を侵害している(主位的主張)、
A原告の記事見出しに著作物性が認められないとしても、その無断複製などの行為は、不法行為を構成する(予備的主張)、
と主張して、被告に対し、記事見出しの複製等の差止等及び損害賠償を求めた事案である。
被告は、ヤフーが運営するヤフーサイト上に表示される「Yahoo!ニュース」の最新の記事見出し及びその記事のウェブページのURLを参考にして、ライントピックスサービス登録ユーザのライントピックスに表示されるSWFファイルのデータ、すなわち被告リンク見出し及びそのリンク先ウェブページのURLを定期的に更新している。これにより、ライントピックスサービス登録ユーザのライントピックスに、更新された被告リンク見出しが表示されることになる。また、被告リンク見出しのリンク先ウェブページ(URL)は、「Yahoo!ニュース」の記事のウェブページとなり、被告リンク見出しをクリックすると、リンク先の「Yahoo!ニュース」の記事のウェブページが別ウィンドウで開く。
 被告は、被告サイトにおいて、被告リンク見出しを表示している。この被告リンク見出しも、ライントピックスサービス登録ユーザのホームページにおいて、ライントピックスに表示されるものと同様、「Yahoo!ニュース」の記事のウェブページにリンクしており、被告リンク見出しをクリックすると、リンク先の「Yahoo!ニュース」の記事のウェブページが別ウィンドウで開く。
 原告とヤフーは、平成13年8月20日、原告がヤフーに対し、ヨミウリ・オンラインの主要なニュースを有償で使用許諾することなどを内容とする契約を締結した(甲13)。この契約に基づき、「Yahoo!ニュース」には、YOL見出しと同一の記事見出しが表示されており、同記事見出しをリンクボタンとして、ヨミウリ・オンラインのYOL記事のウェブページにリンクし、YOL記事と同一の記事が表示される。なお、「Yahoo!ニュース」には、原告のYOL見出し以外に、他の報道機関の記事見出しも表示されており、それらの記事見出しも、提供先の各報道機関のニュースサイトにおける記事本文のウェブページをリンク先としたリンクボタンとされている。
争点は、次の3点である。
(1) (主位的主張)
 被告サイト上に被告リンク見出しを掲出させる等の被告の行為は、原告がYOL見出しについて有する著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するか。
(2) (予備的主張)
 被告サイト上に被告リンク見出しを掲出させる等の被告の行為は、原告に対する不法行為を構成するか。
(3) 損害額はいくらか。

 

[判  断]
  1 はじめに
 原告は、主位的主張において、被告の下記各行為を著作権侵害であると主張する。すなわち、@被告は、他のウェブサイト上に被告リンク見出し(原告が配信しているヤフーの運営に係るヤフーサイトのニュース記事見出しと、ほぼ同一のものである。)を表示させる制御情報を表すHTMLのタグを作成し、同タグに係るデータを、ライントピックスサービス登録ユーザに、被告サーバーから、インターネットを通じて送信し、ライントピックスサービス登録ユーザは、上記データをダウンロードし、被告サービスにおいて指定された手順を踏むことにより、そのウェブサイト上に、被告リンク見出しを掲出させることができるというサービスを提供しているが、被告の上記タグに係るデータの送信行為、A被告は、被告サイトにおいても、上記被告リンク見出しを掲出しているが、被告の記事見出しの掲出行為、のいずれもが著作権侵害行為であると主張する。
 そこで、原告が著作権侵害の保護の対象として保護を求めている「YOL見出し」が、そもそも著作物であるといえるか否かについて、まず検討することとする。
2 YOL見出しの著作物性の有無について
(1) 著作権法による保護の対象となる著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることが必要である(法2条1項1号)。「思想又は感情を表現した」とは、事実をそのまま記述したようなものはこれに当たらないが、事実を基礎とした場合であっても、筆者の事実に対する評価、意見等を、創作的に表現しているものであれば足りる。そして、「創作的に表現したもの」というためには、筆者の何らかの個性が発揮されていれば足りるのであって、厳密な意味で、独創性が発揮されたものであることまでは必要ない。他方、言語から構成される作品において、ごく短いものであったり、表現形式に制約があるため、他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合には、筆者の個性が現れていないものとして、創作的な表現であると解することはできない。
(2) 上記の観点から、YOL見出しの著作物性の有無について判断する。
ア 原告は、YOL見出しは、YOL記事の内容が理解できるように創意工夫されたものであり、事項の選択、展開の仕方、表現の方法等に創作性がある旨主張する。そこで、まず、原告において挙げた具体例に基づいて、YOL見出しに著作物性があるか否かを検討することとする。
(ア) 中学生が飛び降り自殺した事件に関する記事見出しについて
a YOL見出し及びYOL記事は、次のとおりである。
YOL見出し
「いじめ苦?都内のマンションで中3男子が飛び降り自殺」
YOL記事
「東京都板橋区内のマンションで今月11日夜、東京学芸大付属竹早中学校(文京区)に通う3年の男子生徒(15)が飛び降り自殺していたことが分かった。男子生徒は両親に、学校でいじめに遭っていることを打ち明けていたといい、警視庁板橋署は、男子生徒がいじめを苦に自殺したとみている。
調べによると、男子生徒は同日午後9時ごろ、板橋区内のマンション下の通路に倒れているところを発見された。14階の非常階段踊り場に男子生徒の手提げカバンが残されていたが、遺書はなかった。男子生徒はこの日、学校へ行くと言い残して自宅を出たまま、登校していなかった。」
b YOL見出しの「都内のマンションで中3男子が飛び降り自殺」の部分は、東京都内のマンションで中学3年生の男子が飛び降り自殺をしたとの事実を、ごく普通の表現方法で記述したものである。また、「いじめ苦?」の部分は、YOL記事中の「警視庁板橋署は、男子生徒がいじめを苦に自殺したとみている。」と記述された部分を前提として、自殺原因が「いじめ苦」であるか否か断定できないことを示すため「?」を付記したものであって、慣用的な用法であるといえる。上記YOL見出しは、ありふれた表現であるから、創作性を認めることはできない。
(イ) 喫煙に関する記事見出しについて
a YOL見出し及びYOL記事は、次のとおりである。
YOL見出し
「「喫煙死」1時間に560人」
YOL記事
「世界保健機関(WHO)は15日、世界で年間490万人が、喫煙が原因で死亡しているとの推計を発表した。世界で1時間に560人、1日で1万3400人がたばこを原因とする肺ガンや結核などのため死んでいる計算になる。以下略」
b YOL見出しの「喫煙死」の部分は、喫煙が原因で死亡した事実や人数を指す表現であり、このような表現は「過労死」「事故死」などと同様にありふれたものである。YOL見出しの「1時間に560人」の部分は、YOL記事中の「1時間に560人の人が喫煙が原因で死亡している」と推計されるとの事実を記述したものにすぎない。以上のとおり、上記YOL見出しは、ありふれた表現であるから、創作性を認めることはできない。
(ウ) マナー本の海賊版を書いた医大教授に関する記事見出しについて
a YOL見出し及びYOL記事は、次のとおりである。
YOL見出し
「マナー知らず大学教授、マナー本海賊版作り販売」
YOL記事
「高知医科大(高知県南国市)の基礎医学系教授(63)が、出版元や編集者の許可を得ずに医師のマナー本を複製し、学生に販売したとして、同医科大は16日、この教授を戒告処分にした。以下略」
b YOL見出しの「大学教授、マナー本の海賊版作り販売」の部分は、YOL記事中の「大学教授がマナー本の海賊版を作って販売した」という事実を、ごく普通の表現方法で記述したものである。また、YOL見出しの「マナー知らず」の部分は、マナーという語句を、語句の先頭に配し、「マナー本・・・」と対句のように用いた表現方法であるが、このような対句的表現は、一般にしばしば使われる方法であって、格別な工夫であると評価することはできない。上記YOL見出しは、全体として、ありふれた表現であるから、創作性を認めることはできない。
(エ) ホームレスの男性が銃撃された事件に関する記事見出しについて
a YOL見出し及びYOL記事は、次のとおりである。
YOL見出し
「ホームレスがアベックと口論?銃撃で重傷」
YOL記事
「22日午前3時ごろ、東京都品川区大崎1の店舗兼ホテルの2階テラスにあるベンチで、ホームレスの男性(43)が右肩を短銃で撃たれ、座り込んでいるのを巡回中の警備員が見つけた。銃弾は貫通しており、男性は重傷。現場には薬きょうと弾丸1発が落ちていた。
目撃者などの話によると、同日午前3時前、現場近くの路上で男女がどなり合う声が聞こえた。男性は男女2人組と言い争いになった末に撃たれたと見られる。以下略」
b YOL見出しの「ホームレスが・・・銃撃で重傷」の部分は、「ホームレスが銃撃で重傷を負った」との事実を、ごく普通の表現方法で記述したものである。また、「アベックと口論?」の部分は、YOL記事中の「男性は男女2人組と言い争いになった末に撃たれたと見られる。」との部分を前提として、銃撃の原因が「口論」であるか否か断定することを避けるため「?」を付記したものであり、慣用的な用法であるといえる。上記YOL見出しは、ありふれた表現であるから、創作性を認めることはできない。
(オ) 公務員の男性を拉致して現金を奪った男女3人が逮捕された事件に関する見出しについて
a YOL見出し及びYOL記事は、次のとおりである
YOL見出し
「男女3人でトンネルに「弱そうな」男性拉致」
YOL記事
「東京都新宿区の路上で今年7月、横浜市の公務員男性(28)が連れ去られ、現金などが奪われ、山梨県内のトンネルで解放される事件があり、警視庁捜査一課と四谷署は22日までに、山梨県石和町、職業不詳B容疑者(30)とアルバイト店員の女(19)ら男女3人を強盗傷害と逮捕監禁などの疑いで逮捕した。調べに対し3人は、「弱そうに見えたので襲った」などと供述。余罪をほのめかしており、同課で追及している。」
b YOL見出しの「男女3人でトンネルに・・・男性拉致」の部分は、「男女3人がトンネルに男性を拉致したという事実」を、ごく普通の表現方法で記述したものである。また、YOL見出しの「弱そうな」の部分は、YOL記事中の「調べに対し3人は『弱そうに見えたので襲った』などと供述」との記述から、被疑者が警察で供述した言葉をそのまま使用したものであって、格別な工夫であると評価することはできない。上記YOL見出しは、全体として、ありふれた表現であるから、創作性を認めることはできない。
(カ) スポーツ飲料を盗んだ7人組が逮捕された事件に関する記事見出しについて
a YOL見出し及びYOL記事は、次のとおりである。
YOL見出し
「スポーツ飲料、トラックごと盗む…被害1億円7人逮捕」
YOL記事
「スポーツドリンクなどを積んだ大型トラックを車両ごと盗んだとして、埼玉県警捜査3課と春日部署などの合同捜査班は23日までに、同県岩槻市徳力、不動産業手伝いC被告(27)(窃盗罪で公判中)ら6人を窃盗容疑で逮捕、1人を同容疑で指名手配した。また、同県川口市西青木、会社役員D容疑者(65)を盗品等有償譲り受け容疑で逮捕した。以下略」
b YOL見出しの「スポーツ飲料、トラックごと盗む」の部分も「被害1億円7人逮捕」の部分も、いずれも事実を、ごく普通の表現方法で記述したものである。上記YOL見出しは、全体として、ありふれた表現であるといえるから、創作性を認めることはできない。
(キ) 拉致事件関連の記事見出しについて
a YOL見出し及びYOL記事は、次のとおりである。
YOL見出し
「E・Fさん、赤倉温泉でアツアツの足湯体験」
YOL記事
「一時帰国して新潟県・妙高高原に滞在中の北朝鮮拉致被害者、Eさん(45)とFさん(46)の夫婦は23日午前、足だけを湯に浸す赤倉温泉の「足湯公園」を訪れ、高原の秋を満喫しながら旅の疲れをいやした。スーツ姿の2人は、靴下を脱ぎ、ズボンをたくし上げて、足首のあたりまで湯につかり、敷き詰められた小石を踏みしめて、「気持ちいい」と声を上げていた。午後には、Eさんが、幼いころから家族でたびたび遊んだ「池の平温泉スキー場」などを巡る。」
b YOL見出しの「E・Fさんが赤倉温泉で・・・足湯体験」の部分は、事実をごく普通の表現方法で記述したものである。また、「アツアツの」の部分は、「お湯が熱い」と「二人の仲が熱い」ということを掛けた修飾語であるが、格別な工夫であると評価することはできない。上記YOL見出しは、全体として、ありふれた表現であるから、創作性を認めることはできない。
 前記ア(ア)ないし(キ)で検討したとおり、原告が創作的表現の具体例として挙げたYOL見出しは、いずれも客観的な事実を記述したものであるか、又はこれにごく短い修飾語等を付加したにすぎないものであって、創作的表現とは認められない。
イ 以上の検討を踏まえた上で、YOL見出し一般について判断する。
証拠及び弁論の全趣旨によれば、@YOL見出しは、その性質上、簡潔な表現により、報道の対象となるニュース記事の内容を読者に伝えるために表記されるものであり、表現の選択の幅は広いとはいえないこと、AYOL見出しは25字という字数の制限の中で作成され、多くは20字未満の字数で構成されており、この点からも選択の幅は広いとはいえないこと、BYOL見出しは、YOL記事中の言葉をそのまま用いたり、これを短縮した表現やごく短い修飾語を付加したものにすぎないことが認められ、これらの事実に照らすならば、YOL見出しは、YOL記事で記載された事実を抜きだして記述したものと解すべきであり、著作権法10条2項所定の「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」(著作権法10条2項)に該当するものと認められる。
 以上を総合すると、原告の挙げる具体的なYOL見出しはいずれも創作的表現とは認められないこと、また、本件全証拠によるもYOL見出しが、YOL記事で記載された事実と離れて格別の工夫が凝らされた表現が用いられていると認めることはできないから、YOL見出しは著作物であるとはいえない。
ウ 原告は、YOL見出しは、YOL記事と一体のものとして、著作物性を肯定すべきであると主張する。
 仮に、原告が、YOL見出しを含むYOL記事全体について、著作権法上の保護を求めるのであれば、YOL見出しを含むYOL記事全体につき、著作物であるか否かを判断すべきであるといえる。そして、この点を肯定できる場合は多いといえよう。しかし、そのような主張を下にした場合、YOL記事全体と被告リンク見出しとの間には、実質的な同一性は認められないので、結局保護は図られないことになる。
 本件においては、原告は、著作権法上の保護を求めている対象につきYOL見出しであると主張する以上、YOL見出しについて、著作物性の有無を判断すべきであるから、著作物性の有無について、YOL記事と一体で判断すべきであるとする原告の主張は採用できない(なお、YOL見出しは、タイトル、表題、インデックス、案内として作成されたもので、その利用目的が異なること、見出し部分と記事部分とは明確に区別がつくこと等の理由から、YOL見出しの著作物性の有無を判断に当たり、YOL記事全体を基準とする原告の主張は、相当であるとはいえない。)
(3) 以上に認定判断したとおり、YOL見出しは著作物であるとは認められないから、被告がライントピックスの被告リンク見出しとしてYOL見出しを掲出させることが原告の著作権侵害となるとの原告の主張は理由がない。
2 不法行為の成否について
 原告は、YOL見出しが著作物と認められないとしても、YOL見出しを複製する等の被告の行為は、不法行為を構成する旨主張する。
 しかし、YOL見出しは、原告自身がインターネット上で無償で公開した情報であり、前記のとおり、著作権法等によって、原告に排他的な権利が認められない以上、第三者がこれらを利用することは、本来自由であるといえる。不正に自らの利益を図る目的により利用した場合あるいは原告に損害を加える目的により利用した場合など特段の事情のない限り、インターネット上に公開された情報を利用することが違法となることはない。そして、本件全証拠によるも、被告の行為が、このような不正な利益を図ったり、損害を加えたりする目的で行われた行為と評価される特段の事情が存在すると認めることはできない。したがって、被告の行為は、不法行為を構成しない。原告のこの点についての主張は理由がない。
3 結語
よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。
[論  説]
1.原告は、原告が提供している新聞記事の「YOL見出し」は著作物であると主張したことに対し、裁判所は、事実を基礎とした記事であっても、
 そこに筆者による評価や意見等が創作的に表現してあれば著作物足り得ると説示している一方、ごく短いものや表現形式に制約があるため他の表現が想定できない場合や表現が平凡かつありふれたものは、筆者の個性が現れていないものと説示した。そして、この観点から、YOL見出しの著作物性の有無について判断した結果、前記(ア)〜(キ)の「YOL見出し」は、それぞれありふれた表現であり、創作性を認めることはできないから、著作物とはいえないと認定した。
確に、事実を報ずるだけの新聞等の記事の場合、それを読者に伝達するための「見出し」は端的に事実についてであり、筆者の個性が創作的に発現することは困難であるから、原告の主張には無理があるというべきである。したがって、原告の主位的主張に対する判決の判断は妥当といえる。

2.原告の予備的主張に対する判決は、「YOL見出し」が原告自身がインターネット上で無償で公開している情報であるから、著作権法によって原告に排他権が認められない以上、第三者がこれを利用するのは自由であると認定し、被告の複製行為は不法行為を構成しないと判断したが、この判断は妥当といえる。

[牛木理一]