D-37

 

 

住宅の著作物事件:大阪地裁平14(ワ)1989.6312平成15年10月30日判(一認)

〔キーワード〕 
住宅の著作物、美術性・芸術性、グッドデザイン賞、形態模倣、写真の著作物
〔事  実〕
 第1事件は、原告(積水ハウス株式会社)が、@原告建物は建築の著作物(著10条1項5号)に該当し、原告は原告建物の著作権者であるところ、後記の被告建物は原告建物を複製又は翻案したものであるとして、被告(株式会社サンワホーム)に対し、著作権法112条1項、2項に基づき、被告建物の建築等の差止め、及び被告建物の玄関側写真の掲載されたパンフレットの廃棄を請求するとともに、民法709条に基づき損害賠償を請求し、また、A被告建物は原告建物の商品形態を模倣したものである(不競2条1項3号)として、被告(株式会社サンワホーム)に対し、不正競争防止法4条に基づき損害賠償を請求した事案である。
 第2事件は、原告が、原告写真は写真の著作物(著10条1項8号)に該当し、原告は原告写真の著作権者であるところ、被告写真は原告写真を複製又は翻案したものであるとして、被告に対し、著作権法112条1項、2項に基づき、被告写真の印刷、複写及び同写真を掲載した印刷物の配布の差止め及び被告写真のデータ等の廃棄を求めるとともに、民法709条に基づき損害賠償を請求した事案である。
 原告は、その開発に係る高性能コンクリート外壁材「ダインコンクリート」を採用した高級注文住宅「グルニエ・ダイン」を企画開発し、同シリーズ中の郊外住宅地対応モデルである「グルニエ・ダインJX」の設計を行い、「グルニエ・ダインJX」シリーズ中の住宅として、平成10年4月25日から、別紙原告住宅目録記載の玄関側外観を有する「大屋根インナーバルコニータイプ」の高級注文住宅(以下「原告建物」という。)を原告の工場で建築し、販売を開始した。
原告は、全国の住宅展示場に原告建物を建築の上、展示し、また「グルニエ・ダインJX」のカタログに原告建物の写真を掲載した。
「グルニエ・ダインJX」を含むグルニエ・ダインシリーズは、平成10年10月、通商産業省選定の平成10年度グッドデザイン賞を受賞した。
被告は、次のとおり、別紙イ号物件目録記載の玄関側外観を有するモデルハウス(以下「被告建物」という。)を建築の上、展示している。
被告は、被告建物の玄関側を撮影した写真を掲載した「百年耐久・檜の家」又は「百年耐久住宅・檜の国」なる名称のパンフレットを少なくとも3種類作成するとともに、チラシや新聞広告を作成し、上記各展示場を始めとする全国の展示場の来訪者や新聞購読者などにこれらを配布している。
 原告は、木造住宅「シャーウッド」(木造軸組)シリーズを販売しているところ、その最高級品「エム・グラヴィス ベルサ」の建物を原告工場で写真撮影し(別紙原告写真@表示の写真)、その写真をコンピュータ・グラフィックス(CG)出力処理した別紙原告写真A表示の写真(以下「原告写真」という。)を作成した。
原告は、平成13年4月1日から「エム・グラヴィス ベルサ」の販売を開始した。「エム・グラヴィス ベルサ」のカタログには原告写真が掲載されている。
被告は、別紙被告写真表示の写真(以下「被告写真」という。)を掲載した「木曽檜の家 お客様の家見学会」と題するチラシ(以下「本件チラシ」という。)を作成し、平成14年3月23日、同月24日に長野県松本市内の松本女鳥羽会場(完成現場)、松本県(あがた)会場(構造現場)で開催される見学会に来訪させるため、少なくとも松本市内で発行された5万部の新聞に本件チラシを折り込んで配布した。
また、被告は、上記松本県会場及び豊科町会場(構造現場)での見学会のために、平成14年6月22日、被告写真を掲載した「木曽檜の家 大工さんのいる構造完成見学会」と題する新聞広告(以下「本件新聞広告」という。)を、発行エリアが長野県松本市等21市町村、発行部数が6万6400部の地方新聞に掲載した。
原告は、平成13年7月27日、上記(3)ア記載の行為が著作権侵害行為あるいは不正競争行為であるとして、被告に対し、被告建物の展示及び販売の中止等を求めたが、被告はこれに応じなかった。
本件の争点は、次のとおりである。
〔第1事件〕
(1) 被告建物の建築、販売、展示は、原告建物に関する原告の著作権を侵害する行為に該当するか。
ア 原告建物は、建築の著作物(著10条1項5号)に該当するか。
イ 被告建物は、原告建物を複製又は翻案したものか。
(2) 被告建物は、原告建物という商品の形態を模倣したもの(不競2条1項3号)といえるか。
(3) 原告の損害
〔第2事件〕
(4) 被告写真の利用行為は、原告写真に関する原告の著作権を侵害する行為に該当するか。
ア 原告写真は、写真の著作物(著作権法10条1項8号)に該当するか。
イ 被告写真は、原告写真を複製又は翻案したものか。
(5) 原告の損害
[主  文]

 

1 被告は、別紙被告写真表示の写真を、印刷、複写してはならない。
2 被告は、別紙被告写真表示の写真を掲載したチラシその他の印刷物を配布してはならない。
3 被告は、別紙被告写真表示の写真、そのデータ及び同写真を使用したチラシその他の印刷物を廃棄せよ。
4 被告は、原告に対し、金40万円及びこれに対する平成14年7月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告の第1事件の請求及び第2事件のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、第1及び第2事件を通じて、これを10分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
7 この判決は、第1ないし第4項に限り、仮に執行することができる。

 

[判  断]
  1 第1事件について
(1) 争点(1)(被告建物の建築、販売、展示は、原告建物に関する原告の著作権を侵害する行為に該当するか)ア(原告建物は、建築の著作物(著10条1項5号)に該当するか)について
ア 上記第2、1の争いのない事実等と証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告は、平成9年ころから、原告の開発に係る高性能コンクリート外壁材「ダインコンクリート」を使用した軽量鉄骨2階建て高級注文住宅「グルニエ・ダイン シリーズ」の企画開発に着手した。
「グルニエ・ダイン シリーズ」には、「都市部の様々な法的条件をクリアし、空間を大きく生かす都市型住宅」であって150u程度の敷地を前提とする「グルニエ・ダインUX」、「昭和40〜50年代の都市近郊のニュータウンで大量に供給された、比較的形状の整った住宅地(200u程度)の建替の潜在的需要」に対応する「グルニエ・ダインNEO」、「郊外のゆとりある敷地(250u程度)をターゲットに、日本的な感性を生かした深い軒の陰影美や水平ラインを強調した穏やかなデザイン」を持つ「グルニエ・ダインJX」がある。
 「グルニエ・ダインJX」の企画においては、「日本的感性を大切にした邸宅感のあるニューモデルを提案」し、「従来、日本の住宅が持つ和感性を継承、進化させ、当社(原告)独自のダインコンクリート外壁で構成することで、現代性を附加、従前の和風住宅の枠にとらわれない新しい日本の家として企画する」ことが「デザイン意図」とされた。
(イ) 原告建物は、「グルニエ・ダインJX」のうちの、片流れ大屋根、インナーバルコニーを有するタイプである。
原告建物の玄関側外観は、原告の中国・九州営業本部が和風建築の技法を採り入れた6種類の外観デザインを制作し、「好きな家、住んでみたい家」「売れそうな家」「新商品の顔になる家」という観点から行ったアンケート調査(平成9年7月実施)において、最も点数の高かったものである。
原告は、原告の工場において原告建物を建築し、平成10年4月25日から、原告建物を含めたグルニエ・ダインシリーズの販売を開始した。
 原告建物は、被告建物が建築された平成11年8月までに、「グルニエ・ダインJX」のカタログのトップページに掲載されるなどして全国に宣伝広告され、また、モデルハウスとして全国の展示場でも展示された。
(ウ) 原告建物の外観は次のようなものである。
 原告建物は、片流れ大屋根と切妻屋根を組み合わせ、2階にはインナーバルコニーを、1階には軒下テラスを配し、濃灰色の陶器瓦と自然石の小端積みをデザインモチーフにした白色のダインコンクリート壁によってモノトーンのコントラストを醸し出している、和風建築の2階建て個人住宅である。
 原告建物を正面側(玄関側)から見ると、右側に大きく葺き下ろす片流れ大屋根、左側に葺き下ろす切妻屋根、左側に葺き下ろす切妻屋根に90度交差する形で正面に葺き下ろす2階の上屋屋根、1階の下屋屋根が配されている。2階の上屋屋根は、原告建物正面左側に建物横幅の約3分の1程度、1階の下屋屋根は、原告建物正面左端から建物横幅の約4分の3程度に至っている。原告建物正面右側には、2階に台形状の窓が1か所、1階に長方形の窓が1か所あり、地面近くから大屋根付近まで勾配破風サッシ(濃灰色)に囲まれることにより、一体となっているように見える。原告建物1階正面中央やや右寄り部分は、左右に比べて前方に突出しており、その部分とその上の2階に窓が1か所ずつあり、2階にある窓の方が1階にある窓よりも若干幅が狭く、高さも半分程度である。原告建物2階正面左側は、右側や中央よりも後退しており、2階には中央に袖壁のあるインナーバルコニーが、1階には軒下の広い下屋屋根の下にテラスがそれぞれ配置されている。また、1階下屋屋根の左端軒下には、壁が配されている。原告建物正面左側は、1階が中央寄りに扉が褐色で片開きの玄関、左寄りには高さのある大きな窓が1か所配置されており、2階には袖壁を挟んで、1階よりも小さな窓が2か所配置されている。
 原告建物の背面側には、2階には窓が4か所、1階には窓が6か所配置されている。背面側の右端はかなり後退し、背面側の中央には他と比べて突出した部分がある。原告建物背面側の屋根は、正面側から見える上屋屋根、下屋屋根とともに切妻屋根を構成する屋根のほか、中央に建物全体の横幅の約3分の1程度の幅を有する下屋屋根が配置されている。
原告建物の右側面には、大屋根部分に窓が1か所、壁部分に窓が3か所配置されている。
 原告建物の左側面には、2階に窓が2か所、1階には横格子が1か所配置されている。上屋屋根と下屋屋根の葺き下ろし長さがほぼ同じであり、また、下屋屋根の頂点の位置が上屋屋根の頂点の位置よりも正面側に配置されている。
(エ) 和風建築として人気のある数寄屋風住宅には、水平構造、切妻屋根(寄棟、方形造り、入母屋造りなどとの組合せや、複数の切妻屋根の中心をずらした組合せなどの場合もある。)、緩い屋根勾配、広く深い軒や庇といった建築技法が一般に用いられる(乙第8号証)。
 片流れ大屋根、これと交差する切妻屋根、緩い屋根勾配、水平構造、広く深い軒等による陰影、2階部分のインナーバルコニー、テラスといった要素を有する和風の一般住宅が、モデルハウスや個人住宅として多数存在する(乙第2号証の2ないし4、第4、第5号証、第11号証、第13号証、第14号証の1、2)。
(オ) 昭和32年に通商産業省によって創設された「グッドデザイン商品選定制度」(通称Gマーク制度)を母体とする、我が国唯一の総合的デザイン評価・推奨制度として、「グッドデザイン賞」という制度がある。財団法人日本産業デザイン振興会は、毎年ある一定数の「デザインが優れたものごと」を選び、その選ばれた物(商品・施設)に対して「グッドデザイン賞」を授与している。グッドデザイン賞の目的は、「商品の良質化により国民生活の向上、産業の発展及び輸出貿易の振興を図るため(中略)グッド・デザインを選定公表する」こととされ、審査基準には、「良いデザインであるか」「優れたデザインであるか」「未来を拓くデザインであるか」という3点が挙げられている。「良いデザインであるか」については、「美しさ」「誠実」「独創的」「機能・性能」「使いやすさ」「安全への配慮」「魅力」などの10の要素が検討され、一定水準以上にあると判断されたものが受賞対象とされる。
原告は、平成10年、品目名を「工業化住宅」、ブランド・型式を「グルニエ・ダインシリーズUX、NEO、JX」、商品コンセプトを「高品質・高耐久、邸別敷地配慮、居住性能の向上、生活空間提案」、デザインのポイントを「オリジナル外壁、立地環境別シルエット」として、グッドデザイン賞に応募した。
 財団法人日本産業デザイン振興会は、平成10年10月、「グルニエ・ダインシリーズUX、NEO、JX」に、平成10年度のグッドデザイン賞を授与することを決定した。なお、受賞はグルニエ・ダインシリーズに対するものであり、その理由は「どんな敷地条件、ライフスタイルに対しても一定の水準を満たす適応性の高さと、現代的なオーソドックスさを持っている点が評価」されたことによる。
イ(ア) 著作権法は、同法にいう著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義し(同法2条1項1号)、著作物の例示中に「建築の著作物」を挙げている(同法10条1項5号)。
 著作権法により「建築の著作物」として保護される建築物は、同法2条1項1号の定める著作物の定義に照らして、美的な表現における創作性を有するものであることを要することは当然である。したがって、通常のありふれた建築物は、著作権法で保護される「建築の著作物」には当たらないというべきある。一般住宅の場合でも、その全体構成や屋根、柱、壁、窓、玄関等及びこれらの配置関係等において、実用性や機能性のみならず、美的要素も加味された上で、設計、建築されるのが通常であるが、一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性が認められる場合に、その程度のいかんを問わず、「建築の著作物」性を肯定して著作権法による保護を与えることは、同法2条1項1号の規定に照らして、広きに失し、社会一般における住宅建築の実情にもそぐわないと考えられる。一般住宅が同法10条1項5号の「建築の著作物」であるということができるのは、一般人をして、一般住宅において通常加味される程度の美的要素を超えて、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような芸術性ないし美術性を備えた場合、すなわち、いわゆる建築芸術といい得るような創作性を備えた場合であると解するのが相当である。
(イ) 上記アの認定事実によれば、原告建物は、和風建築において人気のある、その意味では日本人に和風建築の美を感じさせるということができる、切妻屋根、陰影を造る深い軒、全体的な水平ラインといった要素や、インナーバルコニー、テラス、自然石の小端積み風の壁といった洋風建築の要素を、試行錯誤を経て配置、構成されていると認められるから、実用性や機能性のみならず、美的な面でそれなりの創作性を有する建築物となっていることは否定できない。また、原告建物は、建築会社である原告内において、専門的な知識、経験を有する複数の者が関与して、試行錯誤を経て外観のデザインが決定されたものであり、その意味で、知的活動の成果であることも疑いないところである。
 しかしながら、現代において、和風の一般住宅を建築する場合、上記のような種々の要素が、設計・建築途上での試行錯誤を経て、配置・構成されるであろうことは、容易に想像される。本件のように、建築会社がシリーズとして企画し、モデルハウスによって、一般人向けに多数の同種の設計による一般住宅を建築する場合、当該モデルハウスの建築物が、一般人をして、一般住宅が備える程度の美的な創作性を感得させることはあっても、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得させ、美術性や芸術性を認識させることは、一般的に、極めてまれなことといわざるを得ない。
 原告建物は、前記認定によれば、通常の一般住宅が備える美的要素を超える美的な創作性を有し、建築芸術といえるような美術性、芸術性を有するとはいえないから、著作権法上の「建築の著作物」に該当するということはできない。
ウ(ア) 原告は、原告建物に審美性や芸術性があることの裏付けについて、原告建物がグッドデザイン賞を受賞したことを挙げる。
 グッドデザイン賞の趣旨、受賞の経緯は、前記ア(オ)のとおりである。しかるところ、平成10年グッドデザイン賞住宅部門審査委員長(東京理科大学工学部建築学科教授)C作成の「積水ハウス・グルニエダインJXのデザインについて」と題する書面の「Gマーク工業化住宅の審査の視点」の項には、「平成10(1998)年のGマーク審査において、当該住宅のデザインについては、一般的なデザインの良さという観点のほかに、新規性(在来構法の住宅や従来の工業化住宅他社製品にはないデザインが、一定水準以上で実現されていること)、独自性(現代の我が国の住宅デザインに相応しい独自の提案が望まれる。)、再現性(Gマークの対象である工業化住宅においては、建築家の設計による個々の住宅や、系列化された特有のデザイン傾向を持たない在来構法の個々の住宅とは異なった、一定のスタイルと水準が保たれるという「デザインの再現性」が求められる。)の視点から審査を行った。グルニエダインJXを含めた積水ハウス・グルニエダインシリーズについては、いくつかのタイプのデザイン傾向を一式として審査した。それぞれのタイプ相互にはデザインの指向性に違いがあるが、上記の視点からGマークに相応しいと判断した。特にグルニエダインJXは、伝統的和風建築とは異なり、かつ洋風デザインとも異なる独自の提案を持ち、現代における種々の機能・性能上の要求に対応し、かつ我が国の気候・風土・伝統をも反映するような『現代和風住宅のプロトタイプ』を確立したと言うに相応しい、優れたデザインであると思われる。」旨が記載されている。
 また、1998年度グッドデザイン賞イヤーブック、ウェブサイトコピーの「グルニエダインシリーズUX、JX、NEO」の項には、「どんな敷地条件、ライフスタイルに対しても一定の水準を満たす適応性の高さと、現代的なオーソドックスさを持っている点が評価されました。」と記載され、その「商品概要」の欄には、「首都圏の建て替え需要向けに、外装材の質感や耐久性、居住性の向上を図って開発された工業化住宅。オーソドックスな屋根型シルエットの、立地環境別の対応モデル(UX:市街地対応モデル、NEO:都市近郊住宅地対応モデル、JX:郊外住宅対応モデル)を基本に、個別の敷地や家族の生活要件に細やかに対応した邸別設計が可能なシステム商品である。ホルムアルデヒドの発生を防ぐためにクロス接着剤のゼロホルマリン化を図るなど、環境と人に優しい住宅を追求した。」と記載されている。
 以上によれば、グッドデザイン賞の選定に当たっては、美しさ、新規性、独自性など、審美性、芸術性に関連する要素が考慮されることは否定し得ず、また、従来の建築様式との対比の点において、原告建物のデザインに、純然たる和風建築でも洋風建築でもない独自の要素があることが認められる。しかし、他方で、一般に、グッドデザイン賞の選定に当たっては、単に外観の美しさだけではなく、工業製品としての機能や、同じ外観の製品の大量生産が可能か否かという工業製品の生産性に関わる事項(「再現性」等)も相当程度考慮されていることが認められる。特に上記のグッドデザイン賞イヤーブック、ウェブサイトコピーの記載によれば、本件受賞の大きな理由として、多様な敷地条件やライフスタイルに適応した設計が可能なシステム商品であるという機能面が強調されており、美感に関しては、商品概要の欄に「オーソドックスな屋根型シルエット」という抽象的な指摘があるにとどまる。
 また、本件のグッドデザイン賞の受賞は、JXだけではなく、UX、NEOという異なった形態の住宅を包含するグルニエダインシリーズに与えられたものであり、これらのシリーズ中の各形式の住宅の形態は、外壁や屋根の色、屋根の傾斜など、共通した点があるものの、建物の形態としては、基本的な部分が大きく異なるといえるものも含まれており、このことからも、本件受賞は、機能面が極めて重視されていることが推認される。
 したがって、グッドデザイン賞の受賞から、原告建物に美術性、芸術性が具備されていると認めることはできない。
(イ) 原告商品企画部担当者作成の「創作建築物としてのJXの独自性について」と題する書面には、「JXでは、それに和感性を取り入れ、下屋に囲まれたインナーバルコニーに、切妻の片流れ空間と、袖壁構成を組合せ、程よい広さ、心地いい空間を造ることを狙いました。それによって、表層デザインとしての要素の組合せにとどまらず、そこに新規性、独自性が表現できると考えます。」、「要は、方法論としての組合せの仕方であり、ありきたりの要素の組合せというのではなく、必然性があり、かつ吟味した要素を組合せることで、間違いなく創作的審美性をもつものと考えます。」と記載され、インナーバルコニーによって原告建物の新規性、独自性、創作的審美性が表現できる旨記載されている。そして、同書面の「全体的な家のバランス、大屋根、葺き降し、水平基調、下屋屋根との組合せで、トータル設計しているわけですが、今回特にこのバルコニー要素をとりあげました。」という記載からは、原告建物を設計する際に、全体のバランス、大屋根の流れ、水平な上屋屋根、下屋屋根との組合せを考慮してインナーバルコニーが設計されたことが推認される。
 しかし、前記ア(エ)掲記の証拠によれば、2階の屋根の交わる部分の下に、下屋に囲まれたインナーバルコニーがある例、2階のインナーバルコニーに袖壁がある例、和風住宅にインナーバルコニーがある例は、従前から通常の住宅建築に存在したことが認められ、また、インナーバルコニーの存在が建物の外観において重要な要素を占めている例が少なくないことが認められ、従前の住宅建築においても、インナーバルコニーの大きさ、位置、上屋屋根及び下屋屋根との関係等が、全体のデザインの中で適正に位置付けられるように設計されていたものと推認される。そうであるとすれば、原告建物のインナーバルコニーと全く同じインナーバルコニーが従前存在しなかったとしても、原告建物のインナーバルコニーは、従前から存在した通常の住宅建築のインナーバルコニーの延長上にあるものと認められ、その存在によって原告建物に美術性、芸術性があることを根拠付けるものではないというべきである。
(ウ)a 建築家である岐阜県立情報科学芸術大学院大学教授A作成の鑑定書は、原告建物の審美性について詳細に検討し、外観の特徴として、棟から大きく葺き下ろされた切妻型の屋根の存在、深い軒、いくつかの複合した屋根が作り出す奥行き、屋根のプロポーション、開口部のデザイン、プレキャストコンクリートによる壁の表情、軒下の空間構成、2階部分のインナーバルコニーにより軒下に変化を与えるデザイン等を指摘して、原告建物の特徴が、「和的なるものと現代性の共存」あるいは「新しい生活感覚をもった和的な生活感情と現代的な生活の融合」であり、「日本的な印象を作り出しているデザインだが、それは決して単なる和風住宅のデザインとはことなり、デティールや素材にわたってモダンな要素デザインを融合させ、両者は不釣合いにぶつかることなく見事にバランスされている点で、優れた審美性をみたしたデザインであると言える。」と述べている。
 しかし、前記ア(エ)掲記の証拠によれば、甲第32号証の1の鑑定書が指摘する、棟から大きく葺き下ろされた切妻型の屋根、深い軒、複合した屋根により作り出される奥行き、陶器瓦の屋根、直線的なけらばのデザイン、モノトーンに近い色使い、壁構造の開口部、開口部周りの厚みを感じさせる処理、表面に凹凸のあるプレキャストコンクリートを使用していること、屋根の傾斜とともに建物全体において水平方向の安定性が強調されていること、軒下に柱を立てて奥行きを作り出していること、2階にインナーバルコニーを設けて軒下に変化を与えていることなどは、従来の住宅建築において普通に見られたデザインや処理であり、従来の住宅建築においても、これらを含む様々な要素を組み合わせ、デザインが完成されてきたことが認められる。そして、従来の住宅建築においても、バランスを考慮して、これらの要素を見栄えよく配置するためのデザインには意が払われてきたものである。原告建物におけるこれらの要素の組合せ方は、それと全く同じものが過去に存在しなかったとしても、従前の住宅建築に比して特段変わったものということはできず、むしろ、過去の通常の住宅建築の延長上にあるものというべきである。また、西洋的なものと和風のものを統合したという点についても、前掲の証拠によれば、我が国の最近の住宅建築においては、純粋に和風又は洋風の建築はむしろ少なく、両者の様式を折衷しているものが少なくないことが認められるから、その点を考慮しても、原告建物に美術性、芸術性があるものとは認めることができない。そうであるとすれば、前記鑑定書によっても、原告建物に美術性、芸術性があることが認められるとはいえない。
b また、前記鑑定書においては、建物の横方向の寸法と高さとの関係、屋根と軒の高さ、大きな壁面の構成などを補助線を用いて分析した上で、「建築の立体構成を美しい比例でコントロールすることは、建物内部の平面の設計(部屋の配置)と無関係ではなく、大変複雑な設計プロセスを要することは自明であり、決して偶然こうなったというものではない。」とされている。
 甲第25号証及び上記記載によれば、原告建物の設計に当たって、建物内部の部屋の配置を整え、住宅としての機能を確保した上で見栄えの良いモデルを作り出すために複雑なプロセスを経ており、その過程で、屋根、壁、窓、バルコニーなど様々な構成要素の適正な配置を決めるために、バランスやシルエットなどが考慮されていることが推認される。
 しかし、前記ア(エ)掲記の証拠によれば、完成した原告建物を既存の通常の住宅建築と比較した場合、原告建物にそれらとは異なって美術性、芸術性が備わっているものとは認められないから、原告建物の設計において上記のような考慮がされているとしても、その故に、原告建物に美術性、芸術性が備えられていると認めることはできない。
エ 以上によれば、原告建物は著作権法上の「建築の著作物」とはいえない。第1事件のうち、著作権侵害を理由とする原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。
(2) 争点(2)(被告建物は、原告建物という商品の形態を模倣したもの(不競2条1項3号)といえるか)について
ア 不正競争防止法2条1項3号は、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為を不正競争とするものであるところ、ここにいう「商品の形態」とは、流通に置かれる当該商品全体の形態を指すものと解すべきである。もちろん、商品の中には、外観上の一部に商品の形態の特徴の全部があり、他の部分は商品の形態の特徴上意味を持たないようなものもあり得るが、居住用の建物に関しては、玄関側の外観のみの特徴をもって建物全体の特徴であるとし、正面外観を「模倣」の判断基準とすることはできない。
原告は、商品の一部の形態であっても、その形態が意匠の要部のように商品形態を特徴付ける重要な役割を果たしているときには、当該部分の形態をもって「商品の形態」と評価することができ、注文住宅の場合は、外観、特にその商品としての表示が常になされ、消費者がその個性や特徴を判断する玄関側の外観が「商品形態」であり、玄関側の外観が決まればそれ以外の面は玄関側の外観から導かれる形態か、同種の商品が通常有する形態に該当するにすぎないと主張する。
 しかし、建物において玄関側(正面)外観が最も注目されることは否定できないとしても、そのことは、購入しようとする者にとって背面や両側面、全体的な構成等が当該商品の形態として無意味であるということにはならない。また、玄関側(正面)外観によって、背面や両側面の形態が必然的に定まったり、通常有する形態となるものとはいえない。
イ そこで、上記観点から、形態模倣の有無について検討する。
(ア) 上記第2、1の争いのない事実等と証拠によれば、次の事実が認められる。
a 原告建物の形態等
 原告建物の構成及び玄関側外観は、上記(1)ア(ウ)に述べたとおりである。
b 被告建物の形態等
被告建物は、片流れ大屋根と切妻屋根を組み合わせ、2階にはインナーバルコニーを配し、濃灰色の瓦と白色の壁によってモノトーンのコントラストを醸し出している、和風建築の2階建て個人住宅である。
 被告建物を正面側(玄関側)から見ると、右側に大きく葺き下ろす片流れ大屋根、左側に葺き下ろす切妻屋根、左側に葺き下ろす切妻屋根に90度交差する形で正面に葺き下ろす2階の上屋屋根、1階の下屋屋根が配されている。2階の上屋屋根は、被告建物正面左側に建物横幅の約3分の1程度、1階の下屋屋根は、被告建物正面左端から建物横幅の約3分の2程度に至っている。被告建物正面右側には、2階に台形状の窓が1か所、1階に長方形の窓が1か所あり、地面近くから大屋根付近まで勾配破風サッシ(濃灰色)に囲まれることにより、一体となっているように見えるようになっているほか、更に右側1階部分に長方形の窓が1か所配置されている。被告建物1階正面中央(全体のやや右寄り)は、その両側から壁が前方へ突出してその中央部が開口していて、奥に玄関があり、その上の2階に窓がある。2階の窓は1階の玄関より幅広い。また、1階の玄関は、扉が黒色の観音開きになっている。被告建物正面左側は、右側と比べて若干突出しており、1階には袖壁を挟んで、幅も広く高さも高い窓が2か所配置されているが、テラスはない。被告建物正面左側2階には中央に袖壁のあるインナーバルコニーがあり、袖壁を挟んで1階の窓よりも幅も狭く高さも低い窓が2か所配置されている。
 被告建物の背面側には、2階には窓が3か所、1階には窓が4か所配置されている。背面側の左端がやや後退し、右側には勝手口が配置されている。被告建物背面側の屋根は、正面側から見える上屋屋根、下屋屋根とともに切妻屋根を構成した屋根のほか、建物全体の横幅いっぱいに下屋屋根が配置されている。
被告建物の右側面は、大屋根が手前に向かって葺き下ろし、その左端部は直線状であるが、右端部は入り組んでおり、大屋根部分に窓が1か所ある。1階は平坦な壁面で、窓が4か所配置されている。
 被告建物の左側面は、2階に窓はなく、1階には窓が4か所配置されている。上屋屋根と比べ、下屋屋根の葺き下ろし長さの方が長く、また、双方の屋根の頂点がほぼ同位置にある。
(イ)a 原告は、原告建物の玄関側の外観(原告商品形態)の特徴を被告建物の玄関側の外観(被告商品形態)が有していることをもって、商品形態の模倣の根拠としており、玄関側(正面)以外の部分の形態の同一性については主張していない。しかし、前述のとおり、被告商品が原告商品の商品形態を模倣したか否かの判断に当たっては、玄関側(正面)の外観だけではなく、それ以外の部分の外観も考慮に入れて、全体として形態の同一性を判断すべきである。そして、原告建物と被告建物を、玄関側(正面)以外の面で対比すると、各面の外観に現れる屋根と壁面の形状、屋根の大きさ、窓の個数・配置・大きさ等において、顕著に相違しており、少なくとも、玄関側以外の外観上は、原告建物と被告建物の形態が同一ないし実質的に同一といえるほどに酷似しているとはいえないことが明らかである。
b 次に、原告建物と被告建物の玄関側(正面)の外観を比較すると、なるほど、原告が主張するように、@玄関に向かって右側に大屋根を大きく葺き下ろし、A下屋屋根に接して2階のサッシ窓を設けるとともに、B地面近くから屋根の付近までの勾配破風サッシを配してアクセントを加え、C反対側には、面積の少ない上屋屋根と軒の深い面積の広い下屋屋根を葺き、D下屋屋根と一体感をもたせた中央に袖壁を設置したインナーバルコニーを配し、E下屋屋根の軒下にはテラスを配している点では、原告建物と被告建物は共通しているといえる。
しかし、他方、原告建物と被告建物のそれぞれの玄関側(正面)の外観は、次のような点で異なっている。
@ 原告建物においては、下屋屋根が建物の左端から建物全体の約4分の3に至るまで続いているのに対し、被告建物は、下屋屋根が建物の左端から建物全体の約3分の2程度までに止まっている。このため、原告建物では水平基調が強調されることになるが、被告建物ではそれほどでもない。
A 原告建物においては、正面右側に地面近くから大屋根付近まで破風勾配サッシがあり、また中央やや右側の1階と2階に1か所ずつ窓があり、しかも1階の窓よりも2階の窓の方が幅が狭い。これに対し、被告建物は、正面右側に地面近くから大屋根付近まで破風サッシがあるほか、その右側1階に更に長方形の窓が配置されており、また、中央やや右側の1階には玄関が、2階には窓が配置され、1階の玄関よりも2階の窓の方が幅が広い。このため、原告建物は縦のラインが強調されるが、被告建物ではそれほどでもない。
B 原告建物では、左側1階が中央部より後退しており、その分下屋屋根の軒が深く、かつテラスが配置されることになる。これに対し、被告建物では、左側1階が、右側や中央玄関位置よりやや突出しており、下屋屋根の軒がさほど深くなく、テラスも配置されていない。また、この結果、原告建物では軒の作る陰影美が認められるが、被告建物ではそのような陰影美を認めることはできない。
 このように、原告建物と被告建物の玄関側(正面)外観は、下屋屋根のスペース、窓の配置や大きさ、玄関の位置、壁面の出入りの具合い、軒の深さ、テラスの有無等の違いがあり、印象も異なったものとなっている。
 多摩大学経営情報学部教授B作成の鑑定書においては、(1)右側の片流れ大屋根の傾斜角度、(2)右側の片流れ大屋根、左側の切妻屋根、左側の上屋屋根、左側の下屋屋根、左側の下屋屋根に一体化して組み込まれたインナーバルコニー、左側の下屋屋根と一体感をもたせた袖壁によって2つに分割配置された壁の組合せ及び配置の数値上の対比、(3)大屋根と葺き下ろしからなる片流れ大屋根及び左側の上屋屋根にかかわる水平的モジュールの構成と、インナーバルコニーと袖壁にかかわる水平的モジュールの構成によって構成される建築物の水平的な骨格構造、(4)下屋屋根とバルコニーと袖壁にかかわる垂直的モジュール並びに水平的モジュールによって構成される建築物の垂直的・水平的な骨格構造などの類似性等に基づいて、原告建物と被告建物の正面の形態の基本的な商品形態及びその骨格構造の同一性又は類似性を指摘している。しかし、前記のとおり、原告建物と被告建物には、その印象を大きく異にする重要な要素において相違があり、上記鑑定書は、それらの相違点を検討することなく、類似点のみを挙げて類似性を肯定しているものであるから、その結論を採用することはできない。
したがって、原告建物と被告建物とは、それぞれの玄関側(正面)の外観においても、実質的に同一といえるほどに酷似しているとはいえない。
ウ 以上のとおり、原告建物と被告建物は、その外観において相違があり、形態が同一ないし実質的に同一であるとはいえないから、被告建物が原告建物を模倣した商品であると認めることはできない。
(3) よって、その余の点を判断するまでもなく、原告の第1事件の請求はいずれも理由がない。
2 第2事件について
(1) 争点(4)(被告写真の利用行為は、原告写真に関する原告の著作権を侵害するか)ア(原告写真は、写真の著作物(著10条1項8号)に該当するか)について
ア 上記第2、1の争いのない事実等と証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
原告は、平成13年4月1日から、原告の木造住宅「シャーウッド」(木造軸組)シリーズの最高級品である「エム・グラヴィス ベルサ」の販売を開始した。「エム・グラヴィス ベルサ」の販売に際して、「焼き物の風合いをもつ新陶版外壁を採用、木の良さを強調したこだわりの邸宅」をキャッチフレーズにしていた。
原告は、原告工場において「エム・グラヴィス ベルサ」の住宅を建築していたが、「エム・グラヴィス ベルサ」のカタログを作成し、同カタログに掲載する目的で、同建物を被写体とする写真を撮影することにした。原告は、撮影に際し、上記「エム・グラヴィス ベルサ」のキャッチフレーズに沿い、しかも原告のイメージを損なわず、かつ顧客誘引力あるものとなるよう、構図や光線の照射方法を選択、決定し、調整した上で、撮影した。ただし、撮影された写真は、工場内で建築された状態の建物そのものを被写体としていたため、地面がむき出しとなっている、建築材が置いてある、別の建物も写っているなど、未だカタログに掲載できるような写真とはなっていなかった。そこで、原告は、これを更にカタログ等に掲載するにふさわしいように、かつ上記キャッチフレーズに沿うように、不要なものを消去し、玄関先、バルコニー、テラスなどに樹木等を配し、建物周辺にも敷石や樹木等を配するなどのCG出力処理を施した。その結果が原告写真である。
「エム・グラヴィス ベルサ」のカタログには、「積水ハウスの『シャーウッド』は木への愛着から生まれた進化した木造住宅。素材としての木の素質を生かすと同時に、より高い強度と耐久性を備えています。さらに、快適な木造住宅になるために『エム・グラヴィス ベルサ』は新しい木を創造しました。」「大地の素材、柔らかな土肌の感触、焔が創り出す色合い、そのすべてが自然のなせる技。『エム・グラヴィス ベルサ』で採用したオリジナル陶版外壁『ベルバーン』は、焼き物と同じように『土』と『焔』から生まれました。一枚一枚、微妙に異なる表情の変化、時とともに深まる風合いは、まさに焼き物固有の魅力。美しさと個性を際立たせ、木の家にさらに温もりを与えています。先進の技術で、強度や耐久性など、外壁材としての性能も高めました。シャーウッド『エム・グラヴィス ベルサ』。焼き物の持つ独特の味わいと、魅力をそのまま受け継いだ、積水ハウスの新しい木の家です。」との記載のほか、その全体像を示すものとして見開き全面に原告写真が掲載されている。
 原告は、「エム・グラヴィスベルサ」を平成13年4月1日より全国的に販売開始しているから、上記原告写真の撮影・制作は、この販売開始前になされたものと推認される。
イ 以上の事実によれば、原告写真は、被写体の選定、撮影の構図、配置、光線の照射方法、撮影後の処理等において創作性があるものと認められ、原告の思想又は感情を創作的に表現したものとして、著作物性を有するものというべきである。
 被告は、原告写真は被写体の忠実な再現にすぎないから創作性が認められない旨主張するが、上記認定に照らして、その主張は採用することができない。
(2) 同(4)イ(被告写真は、原告写真を複製又は翻案したものか)について
ア 証拠によれば、原告写真と被告写真の比較において、次のようにいうことができる。
(ア) 原告写真と被告写真は、どちらも被写体となる建物を、正面左側の位置から、正面と左側面一部が写るように撮影されている。
(イ) 原告写真と被告写真の被写体となっている建物は、次のような共通点を有する。
a 建物正面左側には2階に寄棟造り様の屋根が、右側には2階に寄棟造り様の屋根と1階に正面に葺き下ろす屋根が存在する。
 建物正面から見て左側は、右側よりも突出しており、1階は高さのある大きな2連窓が配置され、2階は1階よりやや前方に出た位置に2階の高さの約3分の2程度の高さの4連窓が配置されている。
 建物正面から見て右側は、左側よりやや後退し、中央寄り1階に玄関が、2階には更に奥まったところにインナーバルコニーが配置されている。また右寄りは1階部のみが存在し、比較的幅が広く、高さのある大きな窓が配置されている。
 原告写真と被告写真をスキャニングし、原寸でOHPフィルムにて出力したものを重ね併せると、上記寄棟造り様の屋根、建物右側の葺き下ろしの屋根、建物左側1階部分の窓、2階部分の窓、建物右側の玄関、奥まったインナーバルコニー、右端の1階部及びその窓がほぼ一致する。
b 建物左側面には、1階部分に屋根はなく、2階と1階にそれぞれ窓が配置されている。原告写真の建物には、1階に突出した部分とその上の2階部分にバルコニーがあるが、被告写真の建物にはそのような突出部分やバルコニーはない。しかし、原告写真と被告写真のOHPフィルムを重ね併せると、突出部分とバルコニーを除いて、建物正面と建物左側面との接線の位置、正面側の1、2の窓の配置及び大きさなどが、ほぼ一致する。
c 屋根は平坦で、色は濃茶色である。壁は、褐色で、直方体が積み上げられたような外観を呈している。
 上記のような共通点により、原告写真と被告写真の各被写体の建物は、建物の形状、屋根、壁面、窓、玄関、バルコニー等の配置、色彩等を含め、全体として極めてよく似た外観として表示されている。
(ウ) 原告は、平成13年4月1日から「エム・グラヴィス ベルサ」の販売を開始したが、遅くともこのころには原告写真はカタログ等に掲載されるなどしていたことが推認される。
 被告写真は、平成14年3月23日、24日開催の「木曽檜の家 お客様の家見学会」の広告である本件チラシに、あるいは同年6月22日、23日開催の「木曽檜の家 大工さんのいる構造完成見学会」の広告である本件新聞広告に、掲載されている。
イ 以上からすれば、被告写真は原告写真に依拠して原告写真を複製して作成されたものであると認められる。
ウ 被告は、被告写真の被写体である建物の正面左側2階の窓の下の窓枠部分が原告写真の被写体と異なること、被告写真の被写体である建物には建物左側面の張り出しや屋根の上の煙突がないこと、正面2階中央のバルコニーの花の装飾が異なること、全体的な色調が異なることなどを指摘し、その結果、被告写真は原告写真の複製又は翻案に該当しないと主張する。
 しかしながら、被告の指摘は、些細な、格別に意味のない相違にすぎず、しかも、これらの相違点から被告独自の思想又は感情を感得できるようなものではないから、上記認定を覆すものではない。
(3) 争点(5)(原告の損害)について 
ア 上記認定事実によれば、被告は、原告写真を複製して被告写真を作成して原告の著作権を侵害したことにつき、少なくとも過失があったものというべきである。
イ 原告は、著作権法114条1項の規定により、被告が上記著作権侵害行為によって得た利益の額が原告の被った損害の額と推定される旨主張する。しかし、原告が主張するように、被告が被告写真を本件チラシ等に使用した後に、被告の住宅建築数の増加があるとしても、原告写真を複製した被告写真を使用した本件チラシ等の配布と被告の住宅建築数の増加との間に因果関係があることを認めるに足りる証拠はない。
 原告は、原告主張の寄与率(被告の住宅建築数の増加における被告写真の寄与率)が証拠によって認められないとすれば、著作権法114条の4の規定により相当な損害額を認定すべきである旨主張するが、上記のとおり、そもそも、被告による原告写真の複製という著作権侵害行為と被告の住宅建築数の増加との間の因果関係の立証がないのであり、原告主張のごとき損害の発生自体が認められず、一方で、後記のように別の算定方法による損害の立証が可能であるから、著作権法の上記規定を適用すべき場合には当たらない。
ウ 次に、原告は、著作権法114条2項により、「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」を損害の額として請求するので検討するに、当事者間に争いのない事実(上記第2、1、(4)及び(5))と証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 被告は、平成14年4月23日、同月24日に長野県松本市内の松本女鳥羽会場(完成現場)、松本県(あがた)会場(構造現場)で開催された見学会に来訪させるため、本件チラシ5万部を新聞に折り込む形で配布した。また、同年6月22日、長野県松本市等21市町村において6万6400部を発行する「市民タイムス」に、被告写真を使用した本件新聞広告(5段以内)を掲載した。本件チラシ、本件新聞広告とも、中央部に被告写真が大きいスペースで掲載されている。
(イ) 写真を広告に使用する際の基本料金として、チラシ1頁以内表紙カットの場合は5万円、新聞広告(地方紙)5段以内の場合5万円としているところがある。なお、被告は、折込チラシ1枚における写真使用料相当額を1枚2、3円の限度で自認している。
 著作権法114条2項の「受けるべき金銭の額に相当する額」は、侵害行為の対象となった著作物の性質、内容、価値、取引の実情のほか、侵害行為の性質、内容、侵害行為によって侵害者が得た利益、当事者の関係その他の当事者間の具体的な事情をも参酌して認定すべきものと解されるところ、上記(ア)、(イ)の事実のほか、上記(1)、(2)で認定した事実も勘案すると、原告が、原告写真を複製されたことにより、被告から受けるべき金銭の額に相当する額は、本件チラシに関しては20万円、本件新聞広告に関しては10万円と認めるのが相当である。
エ 第2事件に関する弁護士費用相当損害金としては、事案の内容、訴訟の経過、認容の程度等を勘案すると、10万円が相当である。
オ よって、第2事件に関して原告に生じた損害は、40万円であると認められる。
(4) 以上によれば、第2事件については、被告写真は「写真の著作物」である原告写真の複製であると認められるから、原告写真の著作権に基づく被告写真の使用の差止め、被告写真、そのデータ及びこれを使用したチラシ等の廃棄を求める請求はいずれも理由があり、また損害賠償請求に関しては、上記(3)記載のとおり40万円及びこれに対する不法行為の後であって第2事件訴状送達の日であることが記録上明らかな平成14年7月3日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告の請求は理由がある。
3 よって、原告の第1事件の請求は、いずれも理由がないから棄却し、原告の第2事件の請求は、主文第1ないし第4項記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却する。
[論  説]
1.この事件は、(1)住宅の著作物性が争われた建築の著作物をめぐる著作権侵害事件と、(2)住宅の写真の著作物をめぐる著作権侵害事件と、(3)住宅デザインの模倣が商品形態の模倣となるかをめぐる不正競争防止法事件の、3つの問題が争点となっている。このうち、(1)(3)が第1事件、(2)が第2事件である。そして、裁判所は、第1事件についてはいずれも請求を棄却したが、第2事件については、差止め請求と損害賠償の請求を認容した。

2.原告はまず第1事件の争点(1)について、原告建物が「Gマーク」の対象である平成10年度のグッドデザイン賞の受賞作品であることを理由に、著作権法2条1項5号に規定する「建築の著作物」であることを主張し、被告建物は原告著作物の著作権を侵害すると主張した。ただし、前記受賞の対象は、原告建物の「グルニエ・ダインシリーズUX、NEO、JX」の3種の「工業化住宅」に対するものであった。
そこで、判決は、著作権法によって保護される「建築の著作物」とは著作物の定義に照らし、「美的な表現における創作性を有するものであることは当然である。」と説示するが、そのあとで、一般住宅が同法10条1項5号の「建築の著作物」であるということができるのは、「一般人をして、一般住宅において通常加味される程度の美的要素を超えて、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような芸術性ないし美術性を備えた場合、すなわち、いわゆる建築芸術といい得るような創作性を備えた場合であると解するのが相当である。」とも説示する。
しかし、判決は、原告の本件建物について、和風建築において、洋風建築の要素を採り入れ、「実用性や機能性のみならず、美的な面でそれなりの創作性を有する建築物となっていることは否定できない。」としながら、「本件のように、建築会社がシリーズとして企画し、モデルハウスによって、一般人向けに多数の同種の設計による一般住宅を建築する場合、当該モデルハウスの建築物が、一般人をして、一般住宅が備える程度の美的な創作性を感得させることはあっても、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得させ、美術性や芸術性を認識させることは、一般的に、極めてまれなことといわざるを得ない。」と説示する。そして、「原告建物は、前記認定によれば、通常の一般住宅が備える美的要素を超える美的な創作性を有し、建築芸術といえるような美術性・芸術性を有するとはいえないから、著作権法上の『建築の著作物』に該当するということはできない。」と判示する。
原告は、本件建物に審美性と芸術性があることの裏付けとして、グッドデザイン賞の受賞をあげたが、その選定に当たっては、美しさ、新規性、独自性などの視点から審査がなされ、従来の建築様式との対比の点において、本件建物のデザインには和風でも洋風でもない独自の要素があることを、判決も認めた。 
しかし、判決は同時に、工業製品としての機能性や量産性という再現性の視点も考慮し、受賞の対象は、JXだけではなく、UX、NEOという形態の異なる住宅を含むグルニエダインシリーズに与えられたものであり、共通点はあっても建物の形態としては基本的な部分が大きく異なることから、Gマーク受賞は機能面が重視されたと推認し、単にGマーク受賞の事実から、本件建物に美術性、芸術性が具備されていることについては否認した。
原告は、大学教授の鑑定書を提出し、本件建物の特徴として、「和的なるものと現代性の共存」あるいは「新しい生活感覚をもった和的な生活感情と現代的な生活の融合」であり、「日本的な印象を作り出しているデザインだが、それは決して単なる和風住宅のデザインとはことなり、デティールや素材にわたってモダンな要素デザインを融合させ、両者は不釣合いにぶつかることなく見事にバランスされている点で、優れた審美性をみたしたデザインであると言える。」と述べていることを主張した。
しかし、裁判所は、「従来の住宅建築においても、バランスを考慮して、これらの要素を見栄えよく配置するためのデザインには意が払われてきたものである。原告建物におけるこれらの要素の組合せ方は、それと全く同じものが過去に存在しなかったとしても、従前の住宅建築に比して特段変わったものということはできず、むしろ、過去の通常の住宅建築の延長上にあるものというべきである。また、西洋的なものと和風のものを統合したという点についても、前掲の証拠によれば、我が国の最近の住宅建築においては、純粋に和風又は洋風の建築はむしろ少なく、両者の様式を折衷しているものが少なくないことが認められるから、その点を考慮しても、原告建物に美術性、芸術性があるものとは認めることができない。」と判示した。
また、裁判所は、「証拠によれば、完成した原告建物を既存の通常の住宅建築と比較した場合、原告建物にそれらとは異なって美術性、芸術性が備わっているものとは認められないから、原告建物の設計において上記のような考慮がされているとしても、その故に、原告建物に美術性、芸術性が備えられていると認めることはできない。」と判示した。
つまり、裁判所は、意匠権侵害訴訟で通常なされる登録意匠の出願前公知の意匠との対比による新規性(客観的創作性)の程度の認定と、それにより類似範囲の狭さを把握したのちに行う類否判断の論法を、この著作権侵害訴訟事件においても導入しているが、どうかと思う。建築の著作物に係る著作権の効力範囲を考えるのに、新規性などの客観的評価は無関係なものである。必要なことは、原告の建物を被告が知っていたか否かであり、もし現物や写真等で知っていたのであれば、故意が認められることになるから、その限りでは著作権侵害は成立することになる。しかし、当該原告建物が、著作権法が保護対象とする建築の著作物といえるか否かを考えるときに、前記の新規性を基準としたり、新規性を美術性、芸術性に置き換えて考えることは誤りである。けだし、著作物と意匠との違いを考えることは別次元の問題であるからである。

3.第1事件の争点(2)について、原告は、商品の一部の形態であっても、意匠の要部のように商品形態を特徴づける重要な役割を果しているときは、当該部分の形態をもって「商品の形態」と評価できると主張した。
しかし、裁判所は、原告建物と被告建物の玄関側(正面)外観は、下屋屋根のスペース、窓の配色や大きさ、玄関の位置、壁面の出入の具合、軒の深さ、テラスの有無等の違いがあり、印象も異なると認定し、両建物は、「それぞれの玄関側(正面)の外観においても実質的に同一であるとはいえないから」、模倣商品とは認められないと判示した。
しかし、両建物を比較したとき、被告建物は玄関の位置を、原告建物とは正背面の逆位置に配置しただけの違いでしかないように見えるから、建物を商品とすれば、その全体としては同一の形態を有するとは認められないことになる。

4.第2事件の争点(4)について
裁判所は、原告の木造住宅についての写真は、「被写体の選定、撮影の構図、配置、光線の照射方法、撮影後の処理等において創作性があるものと認められ、原告の思想又は感情を創作的に表現したものとして、著作物性を有するものというべきである。」と認定した。
そして、この写真を原告は、カタログ等に掲載したことから、「被告写真は原告写真に依拠して原告写真を複製して作成されたものであると認められる。」と判示した。
また、被告の相違点の指摘について、判決は、「些細な、格別に意味のない相違にすぎず、しかも、これらの相違点から被告独自の思想又は感情を感得できるようなものではないから、上記認定を覆すものではない。」と判示した。
 しかし、もし被告写真が原告写真の複製物ではなく、著作物性の有無にかかわらず、独自に建築した建物を撮影した写真であったならば、被告自身は写真の著作物については独自の著作権を有することになるから、写真の著作権侵害問題は起らない。

5.第2事件の争点(5)の原告の損害額について裁判所は、著作権法114条2項により原告が「受けるべき金銭の額に相当する額」として、次のように認定した。
「侵害行為の対象となった著作物の性質、内容、価値、取引の実情のほか、侵害行為の性質、内容、侵害行為によって侵害者が得た利益、当事者の関係その他の当事者間の具体的な事情をも参酌して認定すべきものと解されるところ、認定した事実を勘案すると、原告が、原告写真を複製されたことにより、被告から受けるべき金銭の額に相当する額は、本件チラシに関しては20万円、本件新聞広告に関しては10万円と認めるのが相当である。また、第2事件に関する弁護士費用相当損害金としては、事案の内容、訴訟の経過、認容の程度等を勘案すると、10万円が相当である。
よって、第2事件に関して原告に生じた損害は、40万円であると認められる。」
しかし、これらの金額は、裁判所の立場で算定したきわめて曖昧なものであり、合理的根拠のあるものではないが、それぞれゼロでないという意味はある。

[牛木理一]