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イラスト広告事件:東京地裁平14(ワ)23479号平成15年11月12日判決(一認)

〔キーワード〕 
イラスト、著作財産権(複製権・翻案権)、著作者人格権(同一性保持権)、損害額、消滅時効
〔事  実〕
原告(元井進)は、別紙イラスト目録2記載のイラスト(被告イラスト)を作成し、これを使用して新聞紙上に広告を掲載した被告ら(株式会社武富士・株式会社電通)の行為は、別紙イラスト目録1記載のイラスト(原告イラスト)について原告が有する著作権(複製権,翻案権,同一性保持権)を侵害する行為であると主張し、被告らに対し、損害賠償、不当利得返還及び謝罪広告の掲載を求めた事案である。
 原告は平成5年頃、原告イラストを作成した。
 被告武富士は、被告電通に対し、自社広告の作成を委託した。電通は平成9年6月頃、原告イラストに依拠して、被告イラストを作成した。電通は、被告イラストを使用し、これに人物写真や文字等を組み合わせて新聞広告を作成した。被告の新聞広告には「無人契約機\enむすび」の標示が入った各種のものがあったが、いずれも被告イラストが人物写真の下部に配置されていた。そして、武富士は、別紙掲載一覧表(1)のとおり、新聞紙上に広告を掲載した。(請求1)
 また、武富士は、独自に別紙掲載一覧表(2)のとおり、新聞紙上に広告を掲載した。(請求2)
 そこで、争点は次のとおりである。
 (1) 原告イラストに著作物性があるか。
(2) 被告新聞広告の掲載は、原告イラストについての原告の著作権及び著作者人格権を侵害するか。
(3) 請求額1について
 1) 損害額はいくらか。
 2) 消滅時効は成立するか。
(4) 請求額2について
 1) 損害額又は不当利得はいくらか。
 2) 消滅時効は成立するか。
(5) 請求1についての謝罪広告は必要か。
  (被告各社の公式ホームページへの掲載)
[主  文]

 

1 被告らは、原告に対し、連帯して金611万円及び内金531万円に対する平成9年10月1日から、内金80万円に対する平成15年7月18日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。
2  被告武富士は、原告に対し、金534万5000円及び内金484万5000円に対する平成9年10月1日から、内金50万円に対する平成15年7月18日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。
3  原告のその余の請求を棄却する。
4  訴訟費用は、これを4分して、その3を原告の、その余を被告らの、各負担とする。
5  この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

 

[判  断]
  1 争点(1)(著作物性の有無)について
 著作権法の保護の対象となる著作物に当たるというためには、思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である。そして、創作的に表現したものとは、当該作品が、厳密な意味において、独創性の発揮されたものであることを要するのではなく、作成者の何らかの個性が発揮されたものであれば足りるものと解すべきである。
 証拠及び弁論の全趣旨によると、原告イラストは、現存する世界各地の名所旧跡等を選択し、左から右へ、エッフェル塔、ピサの斜塔、ピラミッド及びラクダ、ビッグベン及び2階建てバス、風車、椰子の木及びヨット、摩天楼、コロッセオを描いたものであり、@全体的に淡い色調を基調として、メルヘン的な雰囲気を醸し出すような表現がされていること、A個々の名所旧跡について、配色に計算が施されたり、グラデーションが用いられて、それぞれが強い個性を発揮しすぎないように抑制されていること、B実際には大きさの異なる各名所旧跡について、縮尺を変えて高さを揃えるようにされていること、C横に長く描かれ、作品のどの部分を切り取ったとしても、不自然さを与えず、バランスが保たれるように、その配列や重なり具合、向きなどにも工夫が凝らされていること等の点に原告イラストの特徴があることを認めることができる。
以上のとおり、原告イラストは、個々の名所旧跡のイメージを損なうことなく、全体として、見る者に、夢を与えるようなメルヘン的な独特の世界が表現されているということができ、原告の個性が発揮されたものとして、創作性を肯定することができる。
2 争点(2)(著作権侵害、著作者人格権侵害の有無)について
(1) 事実認定
 証拠によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 原告イラストと被告イラストとは、以下の点で共通する。
 両者とも、@横長のイラストであって、左から右へ順に、エッフェル塔、ピサの斜塔、ピラミッド及びラクダ、ビッグベン及び2階建てバス、風車、椰子の木、ヨット、摩天楼、コロッセオ及び椰子の木、と世界に現存する名所旧跡を、取捨選択して描いていること、Aピサの斜塔の傾きの方向、ピラミッドの方向とラクダの向き、2階建て バスの進行方向、ビッグベンの時計の指す時刻、ビッグベンとバスの位置関係、風車の羽の位置、風車の横の椰子の木の本数と枝の本数及び傾き、ヨットの進行方向、船舶の数(原告イラストがヨットであるのに対し、被告イラストはヨットと客船であるが、いずれも2艘である。)、コロッセオの方向(コロッセオの崩壊部分が同一である。)、コロッセオの前の椰子の木の本数及びその枝の数及び位置等において、細部に至るまで同一又は酷似していること、B個々の名所旧跡について、縮尺を変えて高さを揃えるように描かれていること等の点において、共通である。
イ これに対し、原告イラストと被告イラストとは、以下の相違がある。 
 原告イラストは、@「特徴に乏しい建物」、羽が小さく脚部が二本の風車が、それぞれ描かれ、A境界線を曖昧にして、にじみだすような筆致で、各名所旧跡をデフォルメして描かれているのに対して、被告イラストは、@パゴダ風の建物、イスラム風の建物、万里の長城、雲、羽が大きく脚部が台形状の風車が、それぞれ描かれ、Aシャープな描線が用いられ、個々の名所旧跡も写実的に表現されている点において、相違する。
(2) 著作権、著作者人格権侵害の有無についての判断
 以上認定した事実を基礎に、著作権、著作者人格権侵害の有無について判断する。
ア 著作権(複製権、翻案権)侵害の有無
 被告イラストは、原告イラストとは、その筆致を異にし、その表現対象について若干の違いはあるものの、個々の名所旧跡のイラストの配置やその一部を切り出しても独立のイラストとして使用することができることとする構成やイラスト化された個々の名所旧跡の形状が酷似しており、被告イラストは、原告イラストと実質的に同一であり、また、被告イラストは、原告イラストの創作性を有する本質的な特徴部分を直接感得し得るものであるということができる。
 したがって、被告イラストを作成し、これを使用して被告新聞広告に掲載した行為は、原告イラストについて原告が有する複製権又は翻案権を侵害したものであるということができる。
イ 著作者人格権(同一性保持権)侵害の有無
 原告は、原告イラストの作成に当たり、個々のイラストについて、すべての境界線が曖昧な、にじみだすような筆致で描き、メルヘン的な雰囲気を醸し出すことにより、主題を強調しようとしていることがうかがわれる。これに対し、被告らは、被告イラストを作成するに当たり、原告イラストの筆致を変更したり、個々のイラストの内容を一部変更するなどした。
 したがって、被告イラストを作成し、これを使用して被告新聞広告を掲載した行為は、原告イラストの表現に変更、切除その他の改変を加えているので、原告イラストについての原告が有する同一性保持権を侵害したものということができる。
3 争点(3) 1)(本件請求1に係る損害額)について
(1) 著作権(複製権、翻案権)の侵害による損害額
ア 証拠によると、以下の事実が認められる。
 原告イラストの使用料については、平成9年当時、原則として、使用企業、媒体、使用エリア、使用期間等を考慮して、1社、1号、1版、1種を単位として、1回当たりの使用料が算定されていたこと、原告イラストの1回当たりの使用料については、4万5000円と規定されているが、その広告の大きさに応じて3万円から10万円くらいで推移していたこと、原告イラストについて、1回当たり使用料を4万円として使用許諾(1次使用)された例があったこと、C原告は、半年以内の期間において、同一広告を多数回使用する場合、2次使用料を1次使用料の70パーセント、3次使用を1次使用料の50パーセントの各割合で使用することを認めていたこと等の事実を認めることができる。
 これらの事実及び被告新聞広告における被告イラストの掲載態様(下方部分に背景として、小さく使用されている。)、被告新聞広告の掲載回数等、一切の事情を総合考慮すると、被告らによる被告新聞広告の掲載に伴う原告イラストの使用による損害額としては、原告の定めた使用料のおおむね3分の1である1回当たり1万5000円とするのが相当である。
 そうすると、被告らによる著作権(複製権、翻案権)の侵害による損害の額は、531万円(1万5000円×354回)であると認めることができる。
イ この点について、被告らは、本件のように多数回使用する場合、通常、その使用料は、使用回数に比例することはないので、損害額の算定に当たっても、一定の限度にとどめるべきであると主張する。確かに、前記のとおり、短期間に多数回にわたって、原告作成のイラストを使用するような場合、1回当たりの使用料に使用回数を乗じる方式ではなく、より低廉な使用料を算定して合意した例も存在する。
 しかし、そもそも、著作者は、イラストの使用料について、1回当たりの使用料に使用回数を乗じる方式によるか、一定期間の使用料を包括的に決める方式によるかは自由に選択することができるはずであること、上記のような料金設定をするのは、著作者が、原告イラストを使用しようと希望する者に対して、インセンティブを高める等の理由によるものであると考えられること、原告は、銀行や信販会社との関係で消費者金融業者に対しては、原則として許諾を与えない方針を有していたこと(甲9、10、12)等の点を考慮すれば、本件のような著作権侵害における損害額の算定に当たっては、そのような合意がされた場合の逓減的な算定方式によることは合理的でないというべきである。この点の原告の主張は採用できない。
(2) 著作者人格権(同一性保持権)の侵害による損害額
 前記認定のとおり、被告イラストを作成し、これを使用して被告新聞広告を掲載した行為は、原告イラストの表現に変更、切除その他の改変を加えた行為であり、原告は、右改変行為によって精神的な損害を被ったということができる。そして、右改変の状況及び本件に現れた諸事情を考慮すると、原告の被った精神的な損害に対する慰謝料としては、30万円が相当であると認められる。
(3) 弁護士費用
 本件事案の内容等、諸般の事情を考慮すると、右被告らによる本件利用行為と相当因果関係のある損害としての弁護士費用は、50万円が相当である。
(4) 小括
したがって、原告は、被告らによる著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害により、611万円の損害を被ったということができる。
 なお、被告らによる著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害態様等にかんがみると、被告らに過失を認めることができる。
4 争点(3) 2)(本件請求1についての消滅時効の成否)について
(1) 事実認定
 証拠(平成15年3月7日付調査嘱託の結果、同年5月6日付調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
ア アートバンクの代表者であるKは、平成9年8月ころ、本件広告が同年8月28日付北海道新聞その他のいくつかの新聞に掲載されていることを発見した。なお、この時点においては、Kは、本件広告のスポンサーが武富士であるということしか知らず、誰が被告イラストを作成し、掲載したかについては知らなかった。
イ Kは、その後の平成14年6月ころ、被告新聞広告が複数の新聞に多数回にわたって掲載されていることを知った。そこで、アートバンクは、同月5日、原告に対して、これらの事実関係を通知し、通知を受けた原告は、さらに詳細な調査を依頼するとともに、原告代理人にその法的対処を依頼した。原告は、その後の調査により、最終的に、被告らが「別紙掲載一覧表」(1)のとおり新聞紙上に被告新聞広告を掲載したこと、及び被告武富士が「別紙掲載一覧表」(2)のとおり、新聞紙上に被告新聞広告を掲載したことを了知した。
ウ 原告代理人が、被告新聞広告のスポンサーである被告武富士に照会の書面を送付したところ、平成14年7月24日、被告電通の担当者が原告代理人事務所を訪れ、被告新聞広告を作成したのは電通の子会社である電通テックであることを明らかにし、本件については電通が責任をもって交渉する旨を説明した。
エ その後、原告と被告との間で、本件について話合いの機会がもたれたが、被告らが原告に対して支払うべき金銭の額について折り合いがつかず、原告は、本訴を提訴した。
 なお、本件全証拠によるも、原告は、アートバンクに対して、原告イラストに係る原告の著作権の行使について、代理権等を付与した事実を認めることはできない。
(2) 判断
民法724条にいう「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは、被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度にこれらを知ったときを意味し、具体的には、被害者が損害の発生を現実に了した時をいうと解すべきである。
 前記(1)認定の事実によると、アートバンクの代表者Kは、平成9年8月ころ、別紙掲載一覧表(1)記載の掲載行為のうちのいくつかについては、その掲載行為を知ったものということができるが、原告が、加害者及び損害の発生を現実に了した事実を認めることはできない。のみならず、アートバンクは、原告イラストの著作権の行使について委任を受けた者ではないから、アートバンクが知ったからといって、原告が、損害及び加害者を知ったとみなすこともできない。
 したがって、前記(1)認定の事実によると、原告は、著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害行為について、平成14年6月5日に被告武富士が加害者であること及び損害が発生したことを現実に了し、また、同年7月23日に被告電通が加害者であることを現実に了したものということができるから、民法724条に基づく消滅時効は、被告武富士については同年6月6日から、被告電通については同年7月24日から、それぞれ進行するものと解することができる。
 以上によれば、原告の被告武富士に対する著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害を理由とする損害賠償請求権について民法第724条による消滅時効が成立したということはできない。
5 争点(4) 1)(本件請求2についての損害額)について
(1) 前記3(1)のとおり、被告武富士の著作権(複製権、翻案権)侵害によって原告の受けた損害額については、1回の掲載行為につき1万5000円の額をもって算定するのが相当である。
 したがって、被告武富士の著作権(複製権、翻案権)侵害によって原告の受けた損害額は、484万5000円(1万5000円×323回)である(なお、著作者人格権侵害に基づく損害に係る主張はされていない。)。
(2) 本件事案の内容等、諸般の事情を考慮すると、右被告武富士による著作権(複製権、翻案権)の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は、50万円が相当である。
(3) したがって、原告は、被告武富士の著作権(複製権、翻案権)侵害により、534万5000円の損害を被ったということができる。
 なお、被告武富士による著作権(複製権、翻案権)の侵害態様等にかんがみると、被告武富士に過失を認めることができる。
6 争点(4) 2)(請求2についての消滅時効の成否)について
 前記4(1)認定の事実によると、被告武富士の著作権(複製権、翻案権)侵害について、原告は、平成14年6月5日以降に被告武富士が加害者であること及び損害が発生したことを現実に了したものということができるから、民法724条に基づく消滅時効は、被告武富士については平成14年6月6日から進行する。
 以上によれば、原告の被告武富士に対する著作権(複製権、翻案権)侵害を理由とする損害賠償請求権について、民法724条による消滅時効が成立したということはできない。
7 争点(5)(請求1についての謝罪広告の必要性)について
 著作者は、故意又は過失によりその著作者人格権を侵害した者に対し、著作者の名誉若しくは声望を回復するために、謝罪広告の掲載等の適当な措置を請求することができるとされている(著作権法115条)が、この「名誉若しくは声望」とは、著作者がその名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉声望を指すものであって、人が自分自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情を含むものではないと解される。
 そうすると、被告イラストを使用した被告新聞広告が新聞紙上に掲載されたことによって原告に対する社会的な名誉が毀損されたことをうかがわせる証拠はないから、その名誉声望を回復するために、謝罪広告を掲載することが必要であるとは認められない。
第4 結論
 原告の請求1については、金611万円及び内金531万円に対する平成9年10月1日から、内金80万円に対する平成15年7月18日から支払済みまで年5分の割合による各金員の支払を求める限度で、原告の請求2については、金534万5000円及び内金484万5000円に対する平成9年10月1日から、内金50万円に対する平成15年7月18日から支払済みまで年5分の割合による各金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求については、いずれも理由がないからこれを棄却する。

[論  説]

1.この事件は、被告二社に対する請求1と被告武富士だけへの請求2とがあったが、前者は広告代理店の電通を介して各紙に広告を掲載し、後者は武富士独自で各紙に広告を掲載したものと思われ、被告イラストはいずれの場合でも同一のものであった。
 被告電通は武富士からの依頼により、子会社の電通テックに広告作成を発注したが、この子会社は原告イラストに“依拠”して被告イラストを作成したことを被告らは認めたから、被告イラストは原告イラストを複製又は翻案したものであるかどうかに争点があった。

2.この点について、判決は、両イラストの筆跡の違いと表現対象に若干の違いのあることを認めた上で、個々の名所旧跡のイラストの配置や一部を切り出しても独立のイラストとして使用できるとする構成やイラスト化された個々の名所旧跡の形状が酷似し、被告イラストは原告イラストと実質的に同一であり、被告イラストは原告イラストの創作性を有する本質的特徴部分を直接感得できるものであると認定した。
 したがって、被告イラストの新聞広告への掲載行為は、原告イラストの著作権者である原告の複製権又は翻案権を侵害したものと判断した。
 ただ判決の考え方としては、複製権と翻案権とを同列に置いて、いずれか一方を侵害したものとすると考えたようであるが、著作権法上、「複製」とは「印刷,写真,複写・・・・その他の方法により有形的に再製することをいい」(著2条1項15号)、「翻案」とは「著作物を翻訳し,編曲し,変形し,又は脚色し,映画化し,その他翻案する」(著27条)ことをいうと区別していることを考慮すると、本件両イラストの関係を認定する場合に、複製と翻案とを同列に置いて適用することは疑問である。
 被告イラストは、原告イラストの創作性を有する本質的な特徴部分を直接感得することができるほどに実質的に同一のものと認定できる以上、これをもって複製と判断してよいのであり、翻案の出る幕はないと解すべきであろう。
 被告イラストに、原告イラストとの間にアイディア(着想)の共通性はもちろんのこと、その具体的な表現形式の一致が認められるから、複製といえるのである。

3. 次に、判決は、被告イラストの作成に際し、原告イラストの表現に対して変更,切除その他の改変を加えていることを、原告が有する同一性保持権(著20条1項)を侵害したものと判断したが、これは著作財産権である前記複製権・翻案権の侵害事実を認めた以上、被告イラストの場合は原告の有する著作者人格権である同一性保持権の侵害となると判断したのは当然の事理である。

4. 損害賠償額について、判決は次のように分けて計算した。
4.1 請求1について、被告両社による損害額を著作財産権と著作者人格権とについて、前者は原告の定めた使用料のおおむね3分の1である1回15,000円を相当とし、これに広告の354回を乗じて531万円と認定し、後者は改変による精神的損害に対する慰謝料として30万円が相当と認定した。これに弁護士費用として50万円を相当とした。
 その結果、計611万円を損害額として認定した。
4.2 請求2については、被告武富士による著作財産権に対する原告の損害額として、1回15,000円を相当とし、これに広告の323回を乗じた484万5000円と認定したが、著作者人格権の侵害に基く損害についての主張はなされていなかった。これに弁護士費用の50万円を加算し、計534万5000円を損害額として認定した。

5. 謝罪広告の必要性について、判決は、これを認めなかった。その理由として、判決は、著作権法115条が規定する著作者の「名誉若しくは声望」の回復とは、著作者の人格的価値について社会から受けた客観的な評価(社会的名誉声望)を指すもので、人が自分自身の人格的価値について有する主観的な評価(名誉感情)を含むものではないと解した。

6. 以上のように認定し判断したこの東京地裁の判決は、総じて妥当なものであるといえる。
 

[牛木理一]