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テレビアニメ著作権帰属(宇宙艦マクロス)事件:東京地裁平13(ワ)6447号平成15年1月20日判決(一認)、東京高裁平成15(ネ)1107号平成15年9月25日判決(控訴棄却)

〔キーワード〕 
映画の著作物の著作者、映画制作者、映画の著作物の著作権、著作者人格権、著作権
〔事  実〕
 本件は、原告(株式会社竜の子プロダクション)と被告ら(株式会社スタジオぬえ,株式会社ビックウエスト)との間において、別紙目録記載1ないし36のアニメ映画について、原告が著作権(著作者人格権及び著作権)を有することの確認、および原告が本件テレビアニメを公に上映すること等の妨害行為の差止めを求めた事案である。
 主な争点は、次のとおり。
(1) 原告は、法15条1項により、本件テレビアニメの著作者人格権及び著作権を取得したか。
(2) 原告は、法29条1項により、本件テレビアニメの著作者人格権及び著作権を取得したか。

 

〔主  文〕

 

1 原告と被告らとの間において、別紙目録記載1ないし36のアニメーション映画につき、原告が著作権(著作者人格権を除く。)を有することを確認する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、10分し、その9を被告らの、その余を原告の、各負担とする。
〔判  断〕
  1 主位的主張について
 まず、主位的主張について、本件テレビアニメについて、その全体的形成に創作的に寄与した者が誰であるかを中心に検討する。
(1) 事実認定
 前記争いのない事実等に証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下のとおりの事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。
ア 本件企画の経緯
 被告スタジオぬえは、昭和55年ころ、巨大な宇宙艦の中に民間人を住まわせ、宇宙艦の内外で巨大宇宙人軍との宇宙戦争を行うことなどを内容とし、戦闘の主役となる戦闘機に、従来のものとは異なる変形メカを使用することなどを特徴とする新しいアニメ作品の制作を企画して、代表者であるT、並びに従業員であるS及びUらがチームを組んでその制作に着手した(以下、この企画を「本件企画」という。)。また、Sは、友人のV(以下S及びUと併せて「Sら3名」という。)が作成した人物キャラクターの作画に注目し、Vに、被告スタジオぬえと協力関係にあるアートランド在籍のまま、本件企画の実施を担当させた。
 被告スタジオぬえは、当初、第三者と共同で本件企画を実施することを考え、玩具メーカー等に協力を求めたが、採用されなかったため、その後は単独で本件企画の実施をすることとした。そして、昭和55年後半から、Sが、全体のストーリー案の作成及び戦闘機を中心とする登場メカの図柄等を、Uが、登場メカのうち宇宙艦や敵軍の図柄等を、Vが、登場人物の図柄等を、それぞれ作成して、本件企画のストーリー構成及び登場人物等の図柄の制作を開始した。
 昭和56年2、3月ころ、被告スタジオぬえは、本件企画について、被告ビックウエストの協力を得て、進めることになった。被告ビックウエストの当時の代表者であったOは、本件企画をテレビアニメ作品として放映することを考えた。Oは、本件企画を成功させるためには、テレビ放映開始と同時に関連するキャラクター製品や雑誌等を販売すること、さらに、ロボットに変形する玩具等の開発のために時間を要するため、早くから玩具メーカー等の協力を得ることが必要であると考えた。そして、Oは、昭和56年8月ころから、玩具メーカー及びプラモデルメーカーに対し、Sら3名が作成した登場メカの図柄や手作りの見本を示して、変形する玩具等の販売の可能性について打診して、テレビ放映時にスポンサーとなるよう要請したりし、また、幼児誌及び学年誌を発行する出版社に対して、テレビ放映開始と同時にマンガや小説の連載をすることができるよう交渉した。
 Oは、昭和57年1月ころ、毎日放送の放送枠を同年10月以降確保できる見通しが立ち、また、そのころまでに、玩具、プラモデル、文具及び菓子のメーカー等から本件企画のスポンサーとなる承諾が得られ、放送費用を調達する目途が立ったことから、本件企画のテレビアニメ化を進めることを決定し、題名を「マクロス」とすることにした。
イ 本件テレビアニメの基になるストーリー及び原図柄の作成
 Sは、昭和56年11月ころまでに全39話分のおおまかなストーリーメモを作成し、昭和57年2月までに、このストーリーメモを基にストーリー構成表を作成した。その後、放送枠の決定に伴い、エピソードを減らすなどして26話のストーリー構成とし、これに基づいてTがシリーズ全体の構成を行った(なお、放映開始後に延長が決定され、最終的に全36話の構成となった。)。
 Sは、登場メカの図柄の作成も担当し、昭和56年以降、主人公らが使用する、「バルキリー」と呼ばれる変形可能な戦闘メカの図柄の作成作業を進め、同年12月ころまでに、飛行機の形態及びロボットの形態の「バルキリー」について、原図柄を作成した。飛行機とロボットの中間形態の「バルキリー」やその他のメカについても、昭和57年3月ころまでにその原図柄を作成した。また、玩具メーカー等から、同一の金型を使用して複数の玩具を製造したいとの要望があったことから、仕様や装備が異なる複数の「バルキリー」の図柄を作成し、同年4月には、玩具やプラモデルの製造に必要な三面図をメーカーに交付した。
 Uは、巨大宇宙艦「マクロス」やその他の登場メカの図柄及びマーク類について作成を担当し、同年3月ころまでにその原図柄を作成した。また、同年4月には、各種メカの図柄のサイズの対比表や「マクロス」等の三面図を作成して、メーカーに交付した。
 Vは、Sが作成したストーリー構成を基に、「一条輝」、「リン・ミンメイ」、「早瀬未沙」等の登場人物の図柄の作成を担当し、昭和56年12月ころまでにはそのラフ・スケッチを多数作成し、昭和57年1月ころまでに、「一条輝」を除く登場人物の原図柄を作成し、同年2月から3月にかけて、登場人物について様々な表情、姿勢、衣装を変えたラフ・スケッチを多数作成し、同じころ、人物像の設定やストーリーの設定を行うためのストーリー設定ボードのラフスケッチを多数作成した。
ウ 原告の本件テレビアニメ制作への参加
 被告スタジオぬえは、当初、本件企画のアニメーション化の作業を、協力関係にあるアートランドに委託することを予定していた。しかし、アートランドだけではアニメーターの数が足りないので、Oは、昭和56年12月末ころ、多数のアニメーターを擁する原告に対して協力方を打診し、昭和57年4月、アニメーション制作作業への参加を正式に依頼し、原告は、これを受けることにした。毎日放送は、制作スケジュールの把握や作業の督促などの観点から、アニメ制作の実績のある原告との制作契約を希望したため、本件テレビアニメの制作及び放送に関する契約は、原告と毎日放送とを当事者として締結されることになった(ただし、前記のとおり、正式に契約書を交わしたのは、同年9月30日である。)。
 原告は、毎日放送との前記契約に基づき、本件テレビアニメの担当プロデューサーとして、原告に所属していたPを選任し、原告の100パーセント子会社であるアニメフレンドに対し、アニメ化の作業を担当させることとした。原告と被告らとの最初の打合せは、昭和57年4月27日に行われ、アニメフレンドから担当プロデューサーとなるQがこれに出席し、T、U、S、Vらから、本件企画の内容やメカの特徴等についての説明を受けた。アニメフレンドは、同年5月以降、本件テレビアニメの制作を開始した。
エ 本件テレビアニメの制作の具体的な作業
(ア) アニメーション映画の制作作業は、具体的な設定(キャラクター設定、メカ設定、色彩設定、美術設定などの設定)やストーリー構成、これに基づくシナリオの作成、演出、絵コンテ作成、作画作業(原画、動画)、背景、仕上(セル画に色を塗る作業)、フィルムによる1コマ割撮影、フィルム編集、アフレコ、劇伴(ラッシュフィルムに音や音楽を合わせる作業)などから構成される。
 本件テレビアニメの制作は、プロデューサーのP、現場プロデューサーのQ、総監督のR、シリーズ構成者のT、キャラクターデザイナー兼キャラ作画監督のV、メカニックデザイナーのS及びU、音響監督のW、メカ作画監督のZらが担当することになった。実際の具体的担当内容は、以下のとおりである。
(イ) 本件テレビアニメにおいては、Sが作成したストーリー構成に基づいて脚本及び絵コンテを作成する作業、並びに登場メカや登場人物の原図柄に基づいて設定画を作り、設定画を基に原画及び動画を描く作画作業その他の作業が行われることになったが、各回の制作が並列的に進められたため、脚本、絵コンテ、演出等の担当者は放映回によって異なった。脚本は、脚本家とQ、R、Tらが打ち合わせをして決定稿を作成した。絵コンテは、担当者が作成したものをRがチェックして確定した。基本となる設定画の作成作業については、以下のとおり、Sら3名が自ら担当するか又はSら3名の指揮監督を受けたアニメーターが担当した。すなわち、@戦闘機「バルキリー」等の登場メカの設定画については、Sが、前記のとおり作成した原図柄に基づいて、自ら又はSの指揮監督を受けたアニメーターがこれを完成させ、A主役メカである巨大宇宙艦「マクロス」等の設定画については、Uが、前記のとおり作成した原図柄に基づいて、自ら又はUの指揮監督を受けたアニメーターがこれを完成させ、B登場人物の設定画については、Vが、前記のとおり作成した原図柄に基づいて、V自身がすべて完成させた。
(ウ) 上記設定画を基に原画及び動画を描く作画作業は、主としてアートランド及びアニメフレンドにおいて行われ、本件テレビアニメのアニメーション部分が作成された。また、Vらは、作画作業等を行うスタッフらの間に齟齬が生じないよう、登場人物の人物像や登場人物相互の関係等を説明するストーリー設定ボードを多数作成して、作業を進めた。作画については、メカニックや戦闘シーンのカットは、Rが自ら、又は同人から指示されたSが最終的な決定をし、その他のカットは、Rが最終的な決定をした。
(エ) 撮影後のラッシュフィルムのチェックやフィルム編集は、Rが最終的なチェックをして決定し、アフレコは、R、Q、Tらが立会った上、決定した。
(オ) プロデューサーであるP及び現場プロデューサーであるQは、主として、スポンサー、テレビ局、広告代理店との交渉等を担当して、制作の具体的な内容について指示を与えたことはなかった。
オ 制作費の支払及び利益の配分
(ア) 被告ビックウエストは、昭和57年9月、毎日放送と本件テレビアニメの放映料に関する覚書を締結した。被告ビックウエストは、この覚書に基づき、本件テレビアニメのスポンサーである玩具、プラモデル、文具及び菓子のメーカー等から広告料の支払を受け、本件テレビアニメの放映期間中、放送の翌月末日に、毎日放送に対し、月額4800万円(制作費2405万円、電波料2244万5000円、マイクロ費150万5000円。ただし被告ビックウエストの手数料524万2600円を控除する。)の放映料を支払い、また、毎日放送に対し、支払の保証として5000万円を預託した。
 原告と毎日放送との間で締結された本件テレビアニメの制作及び放送に関する契約によれば、毎日放送は、最終話の放送終了から2年を経過するまでの間、本件テレビアニメの独占的放送権を取得すること、毎日放送は、原告に対し、本件テレビアニメの制作費として1話につき550万円ずつを納品の翌月に支払う義務を負うことが合意された。
(イ) 原告は、本件テレビアニメの制作に参加した昭和57年5月以降、アニメフレンド、被告スタジオぬえ、アートランド等に対して、制作作業に対する報酬を支払っていた(アニメフレンド以外は、アニメフレンドを通じて支払っていた。)が、本件テレビアニメの放映開始前ころ、被告ビックウエストに対して、当初の予定よりも制作費用が嵩み、毎日放送を通して支払われる前記放映料分(その原資は、被告ビックウエストが広告主等から受け取る広告料)では不十分である旨を訴えた。
 そこで、原告と被告らは、昭和57年10月1日、制作費の不足分を補うために、本件テレビアニメについて商品化事業の利益の一部並びに海外における番組販売権及び商品化権を原告に与えることなどを内容とする覚書を締結した。すなわち、上記覚書によれば、@キャラクター等の商品化権及び国内再放送のための番組販売については被告ビックウエストが、小学6年生までを対象とする出版物、音楽並びに海外における番組販売権及び一般商品化権については原告が、中学生以上を対象とする出版物については被告スタジオぬえが、それぞれ窓口となって権利行使をすること、また、A対象ごとに、原告と被告らの間で利益を配分する比率を定めること(国内の商品化権については毎日放送にも利益が配分され、海外における商品化権行使等による利益は、原告がすべて取得した。)とされた。
カ 著作権等の表示
(ア) 本件テレビアニメ放映前の昭和57年7月から同年10月にかけて、本件テレビアニメの内容等を紹介する記事が学習雑誌等に掲載されたが、これらすべてに、被告スタジオぬえと原告連名の著作権表示(表示)がある。
(イ) 本件テレビアニメ放映時のオープニングクレジットでは、企画はO、原作は被告スタジオぬえ、キャラクター・デザインはV、メカニック・デザインはU及びSであることなど、企画、原作、原作協力、シリーズ構成、チーフディレクター、設定監修については、被告ら及びアートランドの担当者名が表示され、プロデューサーとして、P及びQが表示されている。また、オープニングクレジット及びエンドクレジットの双方において、製作は、毎日放送、原告及びアニメフレンドであることが表示されている。
(ウ) 昭和58年8月から同年10月にかけて、本件テレビアニメの制作時の資料やスタッフの回想等を集めた書籍が発行され、そのすべてに、被告ビックウエストと毎日放送の連名の著作権表示(表示)がある。また、本文中には、被告スタジオぬえが原作を担当したこと、シリーズ構成はT、キャラクターデザインはVであることなどが記載されている。
(エ) 平成5年4月に、原告の30周年記念全集が発行された。同書中、原告が制作した他のテレビアニメを取り上げた部分には、著作権表示は存しないが、本件テレビアニメを取り上げた部分には、被告ビックウエストの著作権表示(表示)がある。また、本文中には、被告スタジオぬえによる独創的な物語であること、Vがキャラクターデザインを担当したこと、メカニックデザインはU、Sが担当したこと、Sは、演出、脚本にも参加したことなどが記載されている。
(オ) 平成10年2月に発行された原告監修に係る原告のアニメ大全史は、アニメ作品を年代順に整理した部分、一連のギャグ・アニメシリーズを取り上げた部分、及びそれ以外の作品を集めた部分に大別され、前2者に収録された作品には、すべて、単独又は連名で原告の著作権表示があるのに対し、後者に属する作品は、原告の著作権表示のないものが大部分である。本件テレビアニメは後者に分類され、被告ビックウエストの著作権表示(表示)のみがある。また、本文中には、被告スタジオぬえ原作による初のオリジナル作品であること、メカニックデザインのSは演出や脚本にも加わったこと、キャラクターデザインのVその他若手が活躍したことなどが記載されている。
(2) 判断
ア 上記認定した事実に基づいて、原告の主位的主張の当否を判断する。
 原告は、P及びQが、本件テレビアニメの全体的形成に創作的に寄与した者であり、同人らは、原告の業務に従事する者として、本件テレビアニメを職務上作成したのであるから、原告が、本件テレビアニメについて著作者人格権及び著作権を取得すると主張する。
 しかし、原告の主張は、以下のとおり理由がない。
 すなわち、前記認定のとおり、本件テレビアニメの制作に関与した主なスタッフは、プロデューサーのP、現場プロデューサーのQ、総監督のR、シリーズ構成者のT、キャラクターデザイナー兼キャラ作画監督のV、メカニックデザイナーのS・U、音響監督のW、メカ作画監督のZらであった。このうち、シナリオの作成からアフレコ、フィルム編集に至るまで本件テレビアニメの現場での制作作業全般に関わり、その出来映えについて最終的な責任を負い、実際にも、動画の作成、戦闘シーン等のカットに関する最終的な決定、撮影後のラッシュフィルムのチェック、フィルム編集等に関する最終的な決定を行っていたのは、総監督のRであるから、同人は、監督として本件テレビアニメの「全体的形成に創作的に寄与した者」に当たると認められる。これに対して、プロデューサーであるP及び現場プロデューサーであるQは、主として、スポンサー、テレビ局、広告代理店との交渉等を担当しており、創作面での具体的な関与はなく、スタッフに対して指示を与えたこともなかった。
イ 以上のとおり、P及びQは、本件テレビアニメの全体的な創作に寄与したものということができないから、原告の主張は、その前提を欠く。したがって、原告は、法15条1項の規定により、本件テレビアニメについての著作者人格権及び著作権を取得したとはいえない。
2 予備的主張について
 次に、予備的主張について、本件テレビアニメの映画製作者が誰であるかを中心に検討する。
(1) 事実認定
1の(1)のとおりである。
(2) 判断
ア 本件テレビアニメの映画製作者について
(ア) 本件テレビアニメは、もともと被告スタジオぬえが企画したものを、被告ビックウエストのOがスポンサーの確保やテレビ局での放送枠の確保に努力し、毎日放送でのテレビ放送が決まった段階で、毎日放送の要望によりアニメ制作に実績のある原告に対し制作が依頼された。同依頼を受けて、原告は、昭和57年4月、毎日放送との間で、本件テレビアニメを制作する旨の契約を締結し(契約書を締結したのは同年9月)、子会社のアニメフレンドをして同年5月からアニメ制作作業を開始させた。実際の制作作業は、アニメフレンド、被告スタジオぬえ、アートランドらのスタッフが行ったが、原告が制作に関与するようになった後は、制作費用はすべて原告が支払った。原告は、毎日放送との間で締結した上記契約により、同契約で合意された納品スケジュールに沿って、本件テレビアニメを制作し、納品する義務を負い(一方、被告らは毎日放送に対して、そのような義務を負担しない。)、本件テレビアニメの制作の進行管理及び完成について責任を負うことになった。
 以上によれば、原告は、毎日放送と上記制作契約を締結することにより本件テレビアニメの制作意思を有するに至ったものであり、また、自ら制作費用を負担して自己の計算により本件テレビアニメの制作を行い、本件テレビアニメの制作の発注者である毎日放送に対して、その制作の進行管理及び完成についての責任を負っていたのであるから、原告は、本件テレビアニメの製作に発意と責任を有する者であるということができる。
 以上のとおり、本件テレビアニメの映画製作者は原告であると認められる。
(イ) これに対し、被告らは、@本件テレビアニメを企画したのは被告スタジオぬえであり、被告ビックウエストのOがこれを完成させようとしたのであるから、本件テレビアニメの製作を「発意」したのは被告らである、A毎日放送から原告に支払われた1話550万円の制作費は、被告ビックウエストが毎日放送に支払った放映料月額4800万円から支払われ、放映料の支払責任は被告ビックウエストが負っていたから、本件テレビアニメの製作に責任を有するのは被告ビックウエストである、と主張する。
 しかし、被告らの主張は、以下のとおり、いずれも理由がない。
 まず、映画の製作に「発意」を有するとは、必ずしも最初にその映画の企画を立案することを要するものではなく、第三者からの働きかけによりその映画を製作する意思を有するに至った場合をも含むものと解すべきであり、原告は、前記のとおり、毎日放送との上記制作契約によって、本件テレビアニメを製作する意思を有するに至ったものと認められる。したがって、被告らの@に関する主張は採用できない。
 また、原告が毎日放送から制作費の支払を受けたのは、昭和57年10月以降であること、前記認定のとおり、原告は、同年5月に本件テレビアニメの制作を始めた直後から、制作作業に従事したスタッフに対し報酬を支払っているのであるから、約5か月間、原告の制作費用の支払が先行していること、毎日放送の制作費の支払は、後払いであるから、本件テレビアニメの制作については、常に原告の支払が先行していること、原告が毎日放送を通じて受け取る放映料分(その原資は、被告ビックウエストが広告主等から支払を受ける広告料)だけでは、原告が負担する制作費用として十分でないため、原告は被告らとの間で前記商品化権等に関する覚書を締結し、制作費用の回収を図ろうとしていること等の事実に照らすならば、本件テレビアニメの制作に関して経済的な危険を負担しているのは原告であると判断するのが相当である。したがって、被告らの上記Aの主張も採用できない。
イ 参加の約束について
 前記認定のとおり、本件テレビアニメの制作は、プロデューサーのP、現場プロデューサーのQ、総監督のR、シリーズ構成者のT、キャラクターデザイナー兼キャラ作画監督のV、メカニックデザイナーのS及びU、音響監督のW、メカ作画監督のZらが担当しているが、本件テレビアニメの全体的形成に創作的に寄与したのは、総監督を担当したRであるというべきところ、Rは、原告が毎日放送との制作契約に基づいて本件テレビアニメを制作することを知った上で、総監督として本件テレビアニメの製作に参加しており、制作作業に対する報酬も原告からアニメフレンドを通じて受け取っていたのであるから、これらの事実によれば、Rは、映画製作者である原告に対し、本件テレビアニメの製作に参加することを約束していたものと認定するのが相当である。
ウ 小括
 以上のとおり、原告は、法29条1項の規定により、本件テレビアニメについての著作権を取得したといえる。なお、被告らは、法14条所定の著作者の推定を云々するが、前記認定に照らして採用できない。
3 妨害排除請求権の当否
 原告は、「原告が別紙目録記載1ないし36のアニメーション映画を公に上映し、その複製物により頒布することを妨害する」ことの差止めを求め、その理由として、被告らが、原告に対して、本件テレビアニメの基礎となった図柄に係る著作権が被告らに帰属する旨の訴訟を提起した行為が妨害行為に該当する旨主張する。
 しかし、図柄に係る著作権が被告らに帰属する旨を求めて訴訟提起する被告らの行為が、本件テレビアニメに係る原告の著作権の行使を妨害する行為であると評価することはできないから、原告のこの点の主張は理由がない。
4 結論
 以上のとおり、本件テレビアニメに係る著作権(著作者人格権を除く。)は原告に帰属する。よって、原告の請求は、著作権(著作者人格権を除く。)の確認を求める限度で理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととする。
  〔論  説〕
1.「アニメーション(animation)」というと、「アニメーション映画」ともいわれるから、いわゆる「映画の著作物」の一種と考えられ勝ちであるが、その制作方法を見れば、異質の表現形式から成るものである。
 即ち、「映画」といえば、現実の具体的対象の写真的映像によって成立するものであるのに対し、「アニメ」は動作や形の異なる多数の絵を表現したコマ単位の造形が映写によって総合され、絵が連続して動いて見えるようにするものである。
 しかし、「映画の著作物」について、著作権法は、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。」(著2条1項3号)と規定しているから、「アニメ」も映画の著作物に含まれるものと解することが通説である。
 なお、「漫画」と「アニメ」とはその表現形式が違うが、前者は後者の原作となる場合も多い。しかし、そこに登場するキャラクターは、「漫画の著作物」と「アニメの著作物」とでは、その保護期間が著作権法では異なっているから、保護を主張する場合、各著作者は注意を要することになる(著51条2項、54条1項)。
2.さて、本件は、原告の主意的主張については著作権法16条(映画の著作物の著作者)が、予備的主張については29条(映画の著作物の著作権の帰属)の2か条が問題になった。
(1) 主位的主張について判決は、本件テレビアニメの「全体的形成に創作的に寄与した者」について、総監督のRであると認定した。けだし、Rは、シナリオの作成からアフレコ、フィルム編集に至るまで現場での制作作業の全般に関わり、動画の作成、戦闘シーン等のカットに関する最終的決定、撮影後のラッシュフィルムのチェック、フィルム編集等の最終的決定を行なったから、「全体的形成に創作的に寄与した者」に当たるからである。プロジューサーPや現場プロジューサーQは、創作面での具体的な関与はなく、スタッフに対し指示を与えたこともなかったと認定した。
 なお、判決は著作権法15条1項と記述しているが、15条とは「職務著作」に関する規定であるから、ここは映画の著作物の著作権の帰属が問題なのであるから、16条とすべきであろう。
(2) 予備的主張について判決は、原告は、本件テレビアニメの製作に発意と責任を有する者であることから、映画制作者であると認定した。
 それは、前記総監督のRは、原告が毎日放送との制作契約に基づいて本件テレビアニメを制作することを知った上で、総監督として本件制作に参加し、報酬は原告からアニメフレンドを通じて受取っていたから、Rは原告に対し、本件テレビアニメの製作に参加することを約束していたものと認定した。そして、判決は法29条1項の規定から、本件テレビアニメの著作権は、Rが取得したものと認定した。
 判決の理由は、緻密な論理作業の結果であり、妥当といえる。
3.ところで、余談であるが、原告の「竜の子プロダクション」は、アニメの制作会社が集中しているJR中央線沿線で国分寺駅近くにあるが、なぜ中央線の新宿以西に集中しているかについては、1948年に西武池袋線の大泉学園に東映動画(現在・東映アニメーション)ができ、1961年に同線の富士見台に手塚治虫の虫プロダクションができ、各社の出身者が、その近くに新会社を設立したので増えていったという。
 朝日新聞夕刊2003年11月22日10頁には、「ハリウッドから国分寺へ来た男と、国分寺からハリウッドへ行った男がいる。」という書き出しの記事の中で、次のように紹介している(文・小原篤)。
 「タツノコは、虫プロを追うようにマンガ家の故・吉田竜夫さんが2人の弟、健二さんと九里一平(本名・吉田豊治)さんと62年に作った。京都出身のマンガ家3兄弟は浅草、小岩を経て、国分寺に竜夫が建てたばかりの自宅を仕事場にしていた。
  『静かで安い土地を探して中央線を奥へ奥へ。国分寺は周りを林に囲まれて、いい環境でしたね』と九里さん。現在、タツノコの社長を務める。
  国産初のテレビアニメシリーズ『鉄腕アトム』が、翌年の放映に向け準備されていた。吉田兄弟もアニメ作りに乗り出し、裏庭にスタジオを建て、スタッフを集め、さらに近郊にスタジオを増やした。65年に最初の作品『宇宙エース』を放映。仕事の中心はマンガからアニメへ移り、『マッハGoGoGo』『みなしごハッチ』『ガッチャマン』『タイムボカン』などヒット作を連発した。
  『兄貴(竜夫)は、カリスマ的な魅力があった。タツノコは、兄貴のためなら何でもする、という人たちが集まって支えられていましたね。』
  『ガッチャマン』に代表されるリアルなアクションは、京都時代に兄弟で回し読みしたアメコミ(アメリカン・コミック)が源という。『進駐軍の残した雑誌が、縁日でたくさん売られていた。たくましいヒーローにひかれたものです。』米国文化へのあこがれを込めた『マッハ』には、海外で売る狙いもあった。期待通り米国でも放映され、映画化権はハリウッド大手のワーナーが持っている。国分寺とハリウッドはここでもつながっていた。」
 

[牛木理一]