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ファービー刑事事件:山形地裁平成13年9月26日判決, 平成13年10月10日判決(請求棄却);仙台高裁平成14年7月10日判決(控訴棄却)<無罪確定>

〔キーワード〕 
ぬいぐるみ,電子人形,美術の著作物,美術鑑賞性,純粋美術,応用美術,量産性,意匠
〔事  実〕
 電子玩具「ファービー」は、最初はわけのかわらないファービー語を喋り、馴れてくると次第に英語、または日本語を喋るという人形である。この人形は米国で誕生し、1998年10月に米国著作権局で著作権登録されたタイガー・エレクトロニクス社の著作物であり、わが国ではトミーが輸入して独占的に販売していた。平成11年7月頃、A社(大阪市平野区)の役員Xが、商品名「ポーピィ」という名前で「ファービー」の容貌姿態などを模した人形を中国で製造させ、B社に2400個を山形県内で販売し代金360万円を受け取ったが、この行為はタイガー・エレクトロニクス社の著作権を侵害したとして、山形地検が山形地裁に起訴した。山形地裁における最大の争点は、「ファービー」人形に著作物性が認められるか否かにあった。
 検察官は「ファービー」は使用者がこれを鑑賞することにより、ペットを飼っているかのような楽しみを感じさせることを意図して制作された玩具で、その容貌姿態は使用者の感情に訴えかけるという制作者の思想を具体的に表現したものであるから、「ファービー」のデザイン形態に著作物性は認められると主張した。

 

〔山形地裁の判決要旨〕

 

1.裁判所は「ファービー」人形について、まず次のように認定した。
(1)「ファービー」の外観は、電子回路やモーター等を内蔵したプラスチック製の本体を、毛の縫いぐるみで覆った動物型の玩具。「ファービー」の顔部は、本体と一体となっているプラスチック製の目やくちばしが縫いぐるみから露出しているほか、底部も縫いぐるみで覆われていない。
(2)「ファービー」は、体内に合計7個の各種センサーを内蔵し、これらが光や音、圧力、傾斜等外部からの刺激を感得すると、刺激の種類に応じて耳やまぶた、くちばし及び足が動き、内蔵のロムチップに記憶された音声を発する。
(3)「ファービー」は、使用当初はファービー語と称する言語に擬した音声を発するが、使用を継続して上記刺激が繰り返されるにつれて、単語(わが国で販売されたものについては日本語ないし英語)を発するようになり、最終的には単語を組み合わせた熟語を発する。
(4)「ファービー」は、使用者にあたかも成長するペットを飼っているかのような感情を抱かせる育成型の電子ペットというべき玩具。
 
2.裁判所は「ファービー」をこのように認定した上で、タイガー社は「ファービー」のデザイン形態について米国法上の著作権を取得していたが、わが国及び米国が加盟しているベルヌ条約の規定により、日本国内において著作物として保護されるか否かについては、結局わが国著作権法の解釈によることとなると説示し、本件「ファービー」のデザイン形態が、わが国の著作権法上の著作物に該当するか否かを検討した。
 わが国の著作権法において、美術は個々に製作された絵画など、専らそれ自体の鑑賞を目的とし実用性を有しない純粋美術と、実用品に美術の感覚技法を応用した応用美術とに分けられる。純粋美術は思想、感情の創作的表現として美術の著作物に該当するが、応用美術のうち、美術工芸品は美術の感覚や技法を手工的な一品製作に応用した美術の著作物に該当することは明らかだが、応用美術のうち「ファービー」のような工業的に量産される実用品に美術の感覚や技法を応用したものが、美術の著作物に該当するかどうかは条文上必ずしも明らかでないとした。
 しかし、工業的に量産される実用品のデザイン形態は、本来意匠法による保護の対象となるべきものであると山形地裁は判断した。また、現行著作権法の制定過程において意匠法との交錯範囲について検討されたが、その際に意匠法により保護される応用美術は、広く美術の著作物として著作権法でも保護するという見解は採用されなかったとし、さらに応用美術全般について著作権法による保護が及ぶとすると、両者の保護程度の差異(意匠法による保護は、著作権法の場合と異なり設定登録を要するし、保護期間も15年間で、著作権法の50年間と比較して短い。)から、意匠制度の存在意義を著しく減殺するから、工業的に量産される実用品のデザイン形態には、原則として著作権法の保護は及ばないと解するのが相当と判示した。
 もっとも、このような実用品のデザイン形態であっても、客観的に見て、実用面及び機能面を離れ独立して美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているものは、純粋美術としての性質を併有しているといえるから、美術の著作物として著作権法の保護が及ぶと解されると判示した。

3.そこで裁判所は、これを本件「ファービー」についてみると、使用者にあたかも成長するペットを飼っているかのような感情を抱かせる玩具であり、その容貌姿態が愛玩性を高める要素となっていることは否定できないが、全身を覆う毛の縫いぐるみから、動物とは明らかに質感の異なるプラスチック製の目や嘴等が露出しているなど、玩具としての実用性及び機能性を離れ独立して美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているとは認め難いと判断した。本件「ファービー」のデザイン形態がわが国著作権法の保護対象たる美術の著作物ということはできないと認定した。
 
4.一方、検察官は、本件のような事案においては、広く著作権の成立を認め、これを保護するのが社会的要請であり、また国際的要請でもあると主張した。
 これについて裁判所は、検察官の主張するように、他人の創造的所産である商品を模倣することにより利益を横取りしようとする行為が社会的に不当であることは論を待たない。しかし、本判決と同様の立場をとる従来の裁判例がベルヌ条約の趣旨に反するとして国際的な批判を受けているといった事情は認められないから、本件のような事案において、広く著作権の成立を認めてこれを保護するのが国際的要請であると断じることもできないと判断した。
 したがって、わが国の著作権法上、本件「ファービー」のデザイン形態については著作権が成立せず、本件公訴事実については罪とならないものというべきであると判断した。
 その結果、平成13年9月26日、被告人A社と役員Xに対していずれも無罪の判決が言い渡された。
 また、別に行われた同様の事件の被告人B社と役員Yに対しても、平成13年10月10日、いずれも無罪の判決が言い渡された。
〔仙台高裁の判決要旨〕
  1.控訴審においても、「ファービー」が著作権法で保護される美術工芸品に当たるか否かが争点となった。実は、筆者は、一審判決後、日本商品化権協会経由で山形地検からの依頼により、一審判決を批判する“見解書”を提出した。   
 その中で、わが国では民事訴訟事件ではあるが、すでに博多人形「赤とんぼ」事件の決定やぬいぐるみ「たいやきくん」事件の判決の事例を引用した。即ち、前者は、最初から人形に量産することを目的として製作されたものであっても、美術工芸的価値のある美術性も備わっているから、意匠登録の可能性をもって著作権法の保護を排除すべきではないと判示しているし、後者は、原画があるからそれをぬいぐるみに転用して量産したとしても、著作物の翻案(変形)と判示していることを引用した。
 また、一つのキャラクター人形の保護は、著作権法と意匠法とによる重複的保護は国際的趨勢であるとして、国際会議の決議なども紹介した。
 
2.しかし、仙台高裁は、無罪判決を言い渡した山形地裁の考え方を基本的に採用し、次のように言明している。
 同高裁はまず、この事案は、いわゆる「応用美術」の保護をわが国がどう扱っているかの問題ととらえ、わが国の現行著作権法の制定経過を精査し、実用に供され産業上利用されることを目的として制作される応用美術品は、一品制作の美術工芸品を除いて、意匠法等工業所有権法による保護に委ねられていると解した。ただ、そうした応用美術のうちでも、純粋美術と同視できる程度に美術鑑賞の対象となり得る審美性を備えている必要はあるが、本件で問題となっている実用品のデザイン形態についても、その外観が前記のような審美性を備えているかどうかの問題だとした。

3.そこで、「ファービー」の誕生経過を見ると、その人形のデザイン形態は、当初から工業的に量産される電子玩具として創作されたもので、「ファービー」の最大の特徴は、あたかもペットを飼育しているかのような感情を抱かせることを目的に、各種の刺激に反応して各種の動作をするとともに言葉を発することにあり、そのため、そうした特徴を有効に発揮させるための形状、外観が見られる。
 額に光センサーと赤外線センサーのための扇形の窓が設置され、額から眼球周辺および口周辺にかけては、一体成型のための平板な作りとなっており、目、口は球状のものが三角形上に3つ配置され、眼球及び口が動くため、その周囲が丸くくりぬかれて隙間があり、左右の眼球を連結する軸を隠すように、両目の間に半円形に降起した部分があり、美感上重要な顔面部分に玩具としての実用性および機能性保持のための形状、外観が見られ、また、刺激に反応して目、口、耳が動くことを感得させるため、それらが大きくされていることが認められる。
 このように、「ファービー」に見られる形態には、電子玩具としての実用性および機能性保持のための要請が濃く表れているのであり、これは美感をそぐものであり、「ファービー」の形態は、全体として美術鑑賞の対象となるだけの審美性が備わっているとは認められず、純粋美術と同視できるものではないと認定された。
 また検察は、美術の意味を「美しい」もののみならず、見る者に驚きや感動を与え、あるいは愛らしさや親しみを与えるなど、鑑賞の対象となり得るものであれば、広い範囲のものが含まれるから、その意味での美的特性を備えていると主張した。しかし、裁判所は、使用者にかわいらしさを感じさせるのは、その大きな特徴であるペットと同じような反応や技能をすることが大きく影響しているのであり、それを抜きにして、その容貌姿態のみで美的鑑賞の対象となると認めるには無理があると説示した。
 さらに、検察は、「赤とんぼ」でも判示されていたように、著作権法と意匠法との重畳的保護があってもよいと主張した。これに対し裁判所は、工業的に量産される実用品のデザイン形態については、意匠法の存在を考慮すれば、著作権法の適用を拡大するのが妥当かどうかは、慎重に検討すべきであり、特に刑事罰の適用にはより慎重であるべきだと判示した。

4.この結果、「ファービー」のデザイン形態は、著作権法に規定する「著作物」には該当しないと判断され、控訴は棄却されたのである。
  〔研  究〕
1.人形自体が電子的機能を発揮させるためのメカニズムを内蔵した実用目的のものであるとしても、人形の外観形態は、特に子供にとっては美的鑑賞の対象となる愛玩具であるといえる。その意味で本件「ファービー」は美術の範囲に属する著作物性を有するものと解することができる。
 また、本件「ファービー」人形にあっても、最初から人形が製作されたというよりは、最初は作者によるイメージの結集であるイラストが創作されたはずであり、このイラストに基いて製作された人形は、平面物から立体物に変形した二次的著作物であるし、他人が無断でこの人形を複製することは、二次的著作権の侵害ということになる。
 テレビゲームの「パックマン」事件の東京地裁昭和59年9月28日判決においては、創作された対象が「芸術作品として鑑賞されようと、娯楽目的で利用されようと、実用目的で利用されようと」著作物性の認定は左右されないと判示されており、著作物の創作の目的は、わが国著作権法では問われないことはすでに明言されているといえる。
 また人形は、意匠法の保護対象として意匠登録が可能であるからといっても、もともと意匠と美術の著作物との境界線は微妙である。両法による保護を認めることができると解すべきであると判示した「博多人形」事件における長崎地裁佐世保支部昭和48年2月7日決定の考え方が、今日ではもっとも妥当というべきだろう。要は、被告人人形が、原著作物である「ファービー」人形に依拠してその本質的特徴を直接感得することができるほどに実質的同一性を有するか否かにある。 

2.わが国は、著作権の保護に関するベルヌ条約の加盟国であるが、その中に
は、応用美術について、応用美術を保護する場合は最短25年間の保護期間を
与えるとする規定と、国によっては応用美術を意匠として意匠法によって保護する場合は、その国内法にしたがうとする規定がある。高裁判決は、この条約の趣旨にしたがって、わが国では応用美術は専ら意匠として保護するものと解し、著作権法による保護を排除したのである。
 その限りでは、裁判所の解釈も判断も間違っていないと思われるが、先に例示したように、「赤とんぼ」事件や「たいやきくん」事件の各地裁レベルの裁判例では、いずれも量産品の応用美術に属する作品であったが、意匠法上の意匠ではなく、著作権法上の美術の著作物であると認めたのである。これらの事案も、作品自体が美術鑑賞の対象として審美性を有していると一応認定されたものであるが、「たいやきくん」の原画やぬいぐるみが、美術鑑賞に耐え得るような審美性を具備しているとは思われない。同様のことは、各種のマンガについてもいえるから、美術鑑賞性が著作物と認定できる基準であるとすることには、抵抗がある。したがって、美術の著作物と認定するためには、美術鑑賞性という条件は取下げられるべきである。
 
3.いずれにせよ、仙台高裁の考え方は、応用美術の保護に関する従来の立法者のワクをはみ出ない固有の解釈といえるが、裁判所としては、たとえ意匠法の保護対象となる作品であっても、そこに何らかの審美性が認められるものであれば、同一作品について重複的保護の解釈をとることには妥当性があるといえる。
 しかし、裁判所は「ファービー」は最初から電子玩具として創作されたもので、人形内部に設けられた7種の各種センサーの感応によって耳、目、口、足が作動するなどするという、きわめて実用的機能性の高い人形(ぬいぐるみ)であったことから、何の機能性もないただのぬいぐるみとは区別したのだろう。

4.これは、刑事事件であった。すると、裁判所の立場としては、著作権法と意匠法との従来からの境界を越えての重複的保護の解釈をとることは、罪刑法定主義の原則からは慎重にならざるを得なかったのだろう。その意味では、この刑事事件において無罪の判決の言い渡しは、やむを得なかったといえるだろう。この控訴判決に対して、検察は上告を断念したと報じられている。
 なお、「ファービー」人形は、著作権侵害に基く起訴後に、意匠権も確立したが、検察は意匠権侵害の問題については立件していない。

[牛木理一]