D-29

 

 

 

アニメ「宇宙戦艦ヤマト」事件:東京地裁平成11年(ワ)20820号著作権侵害差止等請求<棄却>、平成12年(ワ)14077号著作者人格権確認反訴請求<認容>、平成14年3月25日判決(民29)

〔キーワード〕 
映画の著作物の著作者、企画、寄与度、著作者人格権
〔事  実〕
 本訴請求の原告(松本零士こと松本晟)は、別紙作品目録記載の各作品(以下「本件各著作物」といい、同目録の番号1ないし8の各作品を「本件著作物1ないし8」という。)を著作し、本件各著作物について著作者人格権を有するが、本件各著作物を著作したのは被告であると述べた被告の行為は著作者人格権侵害又は名誉毀損行為に当たると主張して、被告に対して謝罪文の掲載等を求めた。
 反訴請求の被告(西崎弘文)は、本件各著作物を著作したと主張し、本訴原告に対して著作者人格権を有することの確認を求めた。
 この事件の本訴原告は、著名な漫画作家であり、昭和29年以降、現在に至るまで、「男おいどん」「銀河鉄道999」などの漫画、アニメーション(以下「アニメ」という場合がある。)ほか数多くの漫画、アニメ作品を著作、発表している。
また、本訴被告は、音楽、舞台・ショー製作、アニメ作品のプロデューサーであり、アニメ作品「山ねずみロッキーチャック」「ワンサくん」などをプロデュースした。
1.本件各著作物は、「宇宙戦艦ヤマト」の活躍をテーマとした一連のアニメ作品であって、本件著作物1、4及び7はテレビ用、本件著作物2、3、5、6及び8は劇場用の作品であり、いずれも「映画の著作物」に当たる。その製作年月日は、別紙作品目録記載のとおりである。
 本件著作物1は、昭和49年10月6日から同50年3月20日まで、各週全26話、全国ネットでテレビ放映された。放映当時は、視聴率の低迷が続いたが、その劇場版である本件著作物2は、昭和52年8月に劇場公開されて、観客動員数230万人の大ヒットとなり、その後も、本件著作物3は、観客動員数400万人、興行収入43億円を記録し、アニメ史上最高の記録を打ち立てた。以後のテレビシリーズも多くが平均視聴率が20パーセントを超え、劇場版もヒットして、人気アニメ作品となった(乙7)。
2.本件各著作物のあらすじ等
(1)本件著作物1
 全26話合計13時間(実写時間約9時間30分)に及ぶテレビ版である。
 そのあらすじは、以下のとおりである。西暦2199年、地球は宇宙の謎の星ガミラスから攻撃を受けて放射能に汚染され、絶滅の危機にあり、人類滅亡まで364日しか残されていなかった。火星にイスカンダル星のスターシャから、メッセージが届けられた。イスカンダル星まで、放射能除去装置を取りに来るようにという内容であった。そこで、戦艦大和を改造した「宇宙戦艦ヤマト」(以下「ヤマト」ということがある。)が建造され、沖田十三艦長、古代進らを乗せたヤマトは人類を絶滅から救うべく14万8000光年先のイスカンダルへと旅立つ。ヤマトは、ワープ航法を繰り返しながらイスカンダル星への航海を続け、ガミラス軍と戦闘を交え、度重なる窮地を乗り超えて、ようやくイスカンダル星へ到着し、放射能除去装置の部品と設計図を入手し、地球に帰還して、地球の平和を取り戻す(甲5の1、25の1ないし7、乙2、3、18ないし20)。
(2)本件著作物2
 本件著作物2は、テレビ版である本件著作物1を基に、2時間10分の劇場用に編集した劇場用映画である。ストーリーの基本的な部分は、本件著作物1と同じであるが、結末部分のみは変更が施されている(甲5の2、28、乙4の218頁、乙10の66ないし72頁、被告本人尋問の結果〔23頁〕)。
(3)本件著作物3
劇場用映画である。
 西暦2201年、地球はかつてのガミラスとの戦いの傷も癒え、大いなる繁栄への道を歩んでいた。地球を危機から救ったヤマトも、今や廃棄処分となり、乗組員だった古代、島らも第一線から離れていた。ところが、古代のもとへ、白色彗星帝国の脅威にさらされているテレザード星のテレサからSOSメッセージが届く。宇宙の平和を守るため、ヤマトは復活し、テレザード星を目指して発進し、最強の敵白色彗星帝国との戦いを繰り広げる。ヤマトは、白色彗星帝国との戦いに勝利を収めるが、古代進を乗せたまま、宇宙の彼方へと消えていく(甲5の3、29、乙4、10の82頁以降)。
(4)本件著作物4
 本件著作物4は、本件著作物3をテレビシリーズ(拡大版、全26話)にした作品である。その物語の基本的なストーリーは、本件著作物3と同じであるが、結末を変更し、超人類であるテレサによって、地球が救われ、ヤマトと主人公は生き続ける(甲26、乙5の164頁、乙6の6、7頁)。
(5)本件著作物5
劇場用映画である。
 西暦2201年、多大の犠牲を払い、白色彗星帝国との戦いに勝利を収めたヤマトが、地球でその修復を終えようとした。古代進らの宿敵であり良きライバルであるデスラーは、ガミラス帝国の再建と民族復興を懸け、母なる星ガミラス星へと向かったところ、イスカンダル星とガミラス星は、黒色星団帝国の船団に占領された。デスラーは敵艦隊と交戦するが、敵の一弾がガミラス星を破壊し、ガミラス星は宇宙から消え去り、ガミラス星の双子星であったイスカンダルもそのバランスを失って、軌道を外れ、宇宙を暴走し始める。ヤマトが、この危機を救うために発進し、黒色星団帝国と戦い、イスカンダルを守る(甲5の5、30、乙5の164頁ないし166頁)。
(6)本件著作物6
劇場用映画である。
 西暦2202年、巨大なミサイル状の謎の物体が大宇宙のかなたから太陽系に接近し、地球の首都郊外に軟着陸した。謎の物体の正体は、一発で全人類を滅亡させる能力のある重核子爆弾であった。その爆発を防ぎ、地球の危機を救うため、ヤマトは40万光年のかなたに存在する暗黒星雲、その中にある敵本星テザリアムへと向かい、戦いを繰り広げて、勝利を収める。主人公の1人である森雪は、ヤマトに同乗せず、地球に残るが、古代進と離れていても、2人が信じ合う姿が描かれる(甲5の6、31、乙6)。
(7)本件著作物7
テレビ用作品である。
 西暦2205年、銀河系の中心では、デスラー率いるガルマン・ガミラス帝国とボラー連邦による激しい戦争が行われていた。ガルマン側の放った惑星破壊ミサイルの流れ弾が、太陽を直撃し、太陽の核融合が異常増殖を始め、地球上の生物が生存できる期間はわずかに1年を残すだけとなる。ヤマトは、この危機を救うべく、人類が移住できる第2の地球を探す航海に出るが、ガミラスとボラー連邦の戦いに巻き込まれる。ヤマトはデスラーを助け、ボラー連邦との戦いに勝利を収めて、太陽増進を制御するハイドロコスモジェン砲を入手し、地球の危機を回避する(甲5の7、29の1ないし7)。
(8)本件著作物8
 劇場用映画である。35o版と75o版とがあるが、75o版は、75oの大画面、6チャンネルのステレオ音響が使用され、アンコール版として製作された。
 西暦2203年、銀河系では、異次元空間より突如出現した未知の銀河星雲が銀河星雲と激突した。銀河系中心部では、次々と恒星同士が衝突、崩壊を開始した。銀河系交叉のショックで、水の惑星アクエリアスがティンギル星を水没させてしまう。ティンギル星から脱出したティンギル艦隊は、アクエリアスをコントロールして、地球を水没させ征服しようと画策する。沖田艦長、古代らを乗せたヤマトはティンギル軍との戦いを繰り広げ、最後に、沖田艦長を乗せたヤマトが自爆して、ティンギル星による征服を阻止し、地球を救う(甲5の8、32、乙7)。
 ところで、本事件の争点は、次の2点であった。
(1)本件各著作物の著作者について(著16)
(2)著作者人格権侵害行為と名誉毀損行為の有無

 

〔判  断〕
1本件著作物1の著作者について
(1)被告の寄与の程度
ア 事実認定
 本件著作物1の製作について、被告の寄与の程度について検討する。
 証拠(甲18、19、34ないし38、41、45、乙1ないし3、9ないし20、23、25ないし29、31の1ないし3、32ないし35、原告、被告各本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められる。
(ア)本件著作物1製作の契機及び本件企画書の作成
 被告は、昭和48年4月から同年9月まで、アニメ作品「ワンサくん」 を製作し、同作品はテレビ放映された。被告は、同作品の放映が終了した昭和48年9月ころから、山本暎一とともに、次のアニメ作品の準備を開始した。
 被告は、ハイラインの著作「地球脱出−メトセラの子ら」における、「地球の危機的状況から脱出して宇宙に移住の地を求める」話(SF版ノアの箱舟)に刺激されたこと、自らプロデューサーを担当したアニメ作品「ワンサくん」で、映像と音楽を融合させる試みをしたことなどから、次のアニメ作品について、映像、音楽及び人間ドラマを融合させた、宇宙を舞台にした冒険アクションSF娯楽大作を製作しようとした。被告は、SF「アステロイド6」の著者である豊田有恒の参加を得て、同人において、SFの設定やアイデアプロットを作成した。さらに、被告は、ブレーンスタッフとして、石津嵐(SF)、藤川桂介(脚本)、斉藤和明(イラスト)、槻間八郎(美術)らの参加を得て、被告を中心に、企画段階でのメインスタッフによるブレーン・ストーミングのための会議を開き、仮称「アステロイド・シップ」の企画作業を進行させた。
企画の具体的な進行について、被告は、すべての会議を主催して、自ら、骨格となる具体的な方針、ストーリー及びアイデア等を提示し、また、スタッフが着想したアイデアを取捨選択し、SF設定、SFアイデア、エピソード及び銀河系の模式図(ドラマの舞台となる銀河系宇宙の図を資料に基づいて描いたもの)などを具体化した。被告は、豊田の原案のうち、敵役を「コンピュータ」から「ラジェンドラ星人」(後のガミラス星人)に、作品の中心となる「アステロイド・シップ」を「戦艦大和」に由来する「宇宙戦艦ヤマト」に(なお、当初の段階では、宇宙戦艦「コスモ」とか「イカルス」とされていた。)、その乗組員を全員日本人に、変更した。
 被告らは、昭和49年3月ころ、このような作業を経て、本件企画書(乙1)を作成した。
なお、同月ころ、本件著作物1における登場人物の図柄を完成させるには至らなかった。すなわち、被告は、登場人物の図柄作成について、芳谷ケイジに協力を依頼したが、同人から断られたため、暫定的に山本暎一、斉藤和明及び槻間八郎が、図柄を描いていた。
被告は、本件企画書を持ち込んで、よみうりテレビと交渉した結果、同局において、昭和49年10月6日から、週1回全39回(39話)を放映することが決まった。
(イ)本件企画書の概要
本件企画書におけるストーリーの概要は、以下のとおりである。
 21世紀初頭、地球は地球への移住を意図した異星人(ラジェンドラ星人)からの攻撃により放射能で汚染され、人類は地下都市に避難して生活していた。地中の大気汚染が進み、異星人は地球への攻撃を止め、人類は一応安堵したが、地上の放射能が地下都市を浸蝕するまで1年を残すのみとなり、人類は滅亡の危機に瀕した。そのとき、宇宙の遙か彼方にあるイスカンダル星から、イスカンダル星には放射能除去装置が存在するとの情報がもたらされた。そこで人類は、地球滅亡までに残された1年以内に、地球から2万光年の彼方にあるイスカンダル星までの距離を往復し、放射能除去装置を入手するため、「宇宙戦艦ヤマト」を建造し、ヤマトに地球の運命を託した。そしてヤマトは、114人の乗組員を乗せて、地球から旅立った。地球滅亡まであと365日が残されていた。
ヤマトは、宇宙空間ではワープ航法によって1回に100光年を飛行する。1日に2回のワープ航法が可能なため、1日に200光年を進む。往復4万光年を飛行するのに200日、イスカンダル星での滞在、アクシデントの解決のための日数を加えて300日がヤマトの航行日数になった。
冥王星に置かれた異星人の無人観測所が、ヤマトの出航をキャッチし、ヤマト打倒の指示が発せられた。ヤマトは、執拗に攻撃する異星人と戦い続け、想像を絶する宇宙の難所や乗組員の内紛にも苦しめられ、乗組員の多くが戦死した。
絶望的に遅れたスケジュールで、ヤマトはようやくイスカンダル星にたどり着いた。放射能除去法を示す設計図だけを入手し、ヤマトの艦内で組み立てながら帰還することとした。
地球へ帰還しようとするヤマトにラジェンドラ星人が攻撃する。ヤマト側は、異星人は放射能がなければ生存できないことを突き止め、放射能除去装置を完成して、使用に成功した。364日目、ヤマトはようやく地球に帰還し、地球は熱狂した。生還したのは、主人公ただ一人であった。
本件企画書には、登場人物(キャラクター)の性格付け、人物像、図柄等が示されている他、企画意図、製作仕様、エピソード、ヤマトの詳細な説明等が記載されている。
(ウ)本件企画書と本件著作物1との比較
a 本件企画書と本件著作物1とは、基本的なテーマ設定について、「異星人からの攻撃により、地球は放射能で汚染され、人類滅亡まであと1年が残され、この危機を救うため、放射能除去装置を求めて、戦艦『大和』を改造した『宇宙戦艦ヤマト』が、遥か離れた星『イスカンダル』を目指して、若者を乗せて旅立つ」という点で共通する。
b 本件企画書と本件著作物1とは、ストーリー全体の流れ及び配されたエピソードについて、@異星人からの攻撃により、地球は放射能で汚染され、汚染が地下にまで浸透し、地下都市を築いて生き延びていた地球人の滅亡まであと1年を残すまでとなること、火星にイスカンダル星からの飛行物体が飛来し、イスカンダル星に放射能除去装置があるとの情報が伝えられたこと、地球人が、宇宙船(戦艦)ヤマトに乗り込み、ワープ航法を用いながら、遙かイスカンダル目指し旅立つということ等のプロットが配されていること、Aイスカンダル星で、放射能を消去する装置の設計図を入手し、帰途艦内で組み立てること、物欲に目がくらんだ一部乗組員が反乱を起こすこと、地球へと迫ったヤマトの前に、敵が最後に立ちふさがり、最後のクライマックスを迎えること、Bヤマトの女性乗組員が放射能消去装置が未完成であるのにかかわらず、身を挺して同装置を稼働させ、ヤマトは戦いに勝利を収めるが、女性乗組員も死亡する(本件著作物1では、後に蘇生する。)こと、C最後に地球が救われることなどの点で共通する。
c 本件企画書と本件著作物1とは、話題に盛り込まれたアイデアについて、@「ヤマトのワープ機能(光速を越えるための跳躍航法)」(4話)、Aヤマトの最終兵器、空間波動砲(波動砲)」(5話ほか)B「アステロイド・ベルト」(9話ほか)C「サルガッソー海」(15話)などが配されている点、D各回のテレビ放映の最後に、「人類滅亡まであと○○日」というテロップが流される点等で共通する。
(エ)製作体制の確立、スタッフの選定
 被告は、ジェネラル・プロデューサーに就任して、製作に関して決定権限を一元化する体制を整え、被告の企画方針を実現するためのスタッフを選定することにした。
 すなわち、@アニメ製作においては、シナリオ、絵コンテ、作画、撮影、編集、録音及び試写等の各製作パートに分担する必要があること、A本件著作物1は、視覚化された原作は存在しなかったこと、B本件著作物1は、各話完結でなく、全体として1つのストーリーからなり、しかも、ドラマ、映像及び音楽の3要素を融合させた作品を目指していたため、作品全体のイメージを統一する必要があったこと、C1週ごとに放映されるテレビシリーズであるため、作画部門を4班に分けて、同時進行させる体制を採る必要があったこと等の事情から、被告は、自身が製作のすべてに関与し、全体的な観点から具体的な指示、決定を行うべく、すべての決定権限を集中させる体制を採った。そして、被告は、練馬区桜台にスタジオを借り、常駐して製作を続けることにした。
被告は、ドラマ、映像、音楽の3要素の融合という企画方針を実現できるように、主要なスタッフの人選をした。すなわち、@ジェネラル・プロデューサー(スタッフタイトルは「企画・原案・原作・総指揮」とされた。)として被告自身を、A監督として山本暎一を、B映像に関しては、チーフディレクターとして石黒昇を、背景監督として槻間八郎を、作画監督として岡迫亘弘(総作画監督)、芦田豊雄、白土武、小泉謙三を、その下に作画作業班を置き、C音響に関しては、音響監督として田代敦巳を、音楽担当として宮川泰を、効果(効果音)担当として柏原満を、それぞれ起用した。
(オ)原告の起用
 製作を開始した後の昭和49年4月ころ、宇宙空間などの色彩を的確に表現できるスタッフが必要となった。被告は、@原告の「アナクロ的なメカニックデザイン(アナログ的計器類)」や「女性像」が本件著作物1のイメージに合致すること、A野崎欣宏が原告を推薦したことから、原告に対して、メカニックデザインやキャラクター設定をはじめとする「美術・設定デザイン」の担当を依頼し、原告はこれを承諾した。
 昭和49年6月末以降、監督の山本暎一が海外ロケに出かけるため、本件著作物1の製作に関与できなくなった。山本は、既に、「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」等のテレビアニメを製作し、アニメ界で実績があったため、山本が欠けることはテレビ局との関係でも支障が生じた。被告は、原告が、アニメ製作についての実績はないが、有名な漫画家であり、作品に話題性を与える効果が期待されたため、原告に対して、監督の就任を依頼した。原告は、連載漫画を多数引き受けていたことや、アニメへの初参加で監督を務めるのは能力を超えることを理由に固辞したが、被告や山本暎一からの説得を受けて監督を引き受けた。このような事情から、被告は、実際には、プロデューサー兼監督として、自ら指揮して、本件著作物の製作を進めることにした。
(カ)基本設定書等の作成
 被告は、一連のストーリーを大別し、「ヤマト出発シリーズ」「太陽圏突破シリーズ」「銀河突破シリーズ」「バラン植民地解放シリーズ」「マゼラン基地撃破シリーズ」「イスカンダル発見シリーズ」「ガミラス攻略シリーズ」「イスカンダル到達シリーズ」及び「地球帰還」の9つに分け、山本暎一、藤川桂介の協力を得て、「宇宙戦艦ヤマト自体チャームポイント」「宇宙戦艦ヤマト戦闘史」「ガミラスの指揮官」「宇宙戦艦ヤマトの航海予定」「宇宙戦艦ヤマト艦長の病状と艦内の空気」「古代進の境遇」及び「島大介の境遇」に関する設定対比表を作成した(乙3の620ないし623頁)。
また、被告は、山本暎一の協力を得て、ドラマ全体の起承転結を明確にし、各話におけるプロットを盛り込んだ「各話別基本設定書」を作成した(乙3の624ないし636頁)。
被告は、同設定書を基礎に、被告のアイデアを説明した上、脚本、設定、デザイン、美術等の担当者に具体的な作業内容を指示した。
(キ)シナリオの作成
 被告は、シリーズ全体のシナリオ作成に当たり、脚本家、SF作家等との間でブレーンストーミングを行い、「銀河系の中心に行くのではなく、銀河系の外に旅立つ、壮大な話にしたい」「相手方のラジェンドラ(イスカンダル)は二重連星とする」「異星人側もヒューマノイドタイプとする」「敵、大敵は、ナチスドイツを想定し、かつ、第二次世界大戦の連合軍ヨーロッパ侵攻作戦を下敷きに考える」「戦略、戦闘に太平洋戦争、ミッドウェイ、レイテ等の海戦の戦略を参考にする」など具体的な指示を出して、シナリオ作成作業を進めた。そして、被告の作成した前記「各話別基本設定書」を踏まえて、藤川桂介において、「宇宙戦艦ヤマト設定ストーリー(全3稿)」(乙31の1ないし3)を作成し、これらに基づいて、藤川、田村丸及び山本が脚本を作成することとした。被告は、シナリオ作成を依頼するに当たって、「主人公たちの成長」や「ライバル関係」や「食事をするといった日常的な情景」をドラマに入れて、視聴者が登場人物に共感を持つような作品にするよう、留意事項を挙げ、できあがったシナリオについて何回か修正を加えた上、被告においてシナリオを確定した。
(ク)設定デザイン、美術、キャラクターデザイン
 被告は、絵コンテ作業の前提となる、設定デザイン、美術、キャラクターデザインの作成作業について、詳細な具体的指示を与え、被告においてデザイン等を確定した。
a 設定デザイン
 「設定デザイン」のうちには、主要なものとして「場の設定」がある。すなわち、舞台となる惑星の「場の設定」として、「惑星全景」「惑星4分の1」「列島レベル」「都市レベル」「主要な都市建造物」「基地」「メカニック」、「基地の内部」がある。
 設定デザインは、従来は美術監督の担当分野であったが、被告は、設定デザイン部門を独立させ、設定したデザインを美術部門の「カラーボード」(通称「美術ボード」と呼ばれた。)「背景」の原図としてそのまま活用できるように組織編成をした。
 被告は、デザイン担当と入念に打ち合わせをした上で、各場面の「設定デザイン」「その切り返し」「三面図」等のラフを仕上げ、被告において原案を確定した。
b 美術等
美術スタッフが打合せを行い、場面設定の要所を指定した上で色彩を施して、ミニボードを作成する作業がある。被告は、担当者に対して、シーンの色彩イメージについての指示を出し、最終的に確定した。原告は、登場人物、メカの色彩の指定を行ったが、いずれも最終的には、被告が決定した。
 また、様々なドラマが展開される「大場設」(大きな場面設定)、「宇宙空間各種」「敵方の惑星」「大要塞」等については、被告の指示に基づいて大きな「美術ボード」が作成され、これを美術スタッフ全員で見てイメージを統一するという方法が採られた。
 このように、美術については、被告の発想とデザインコンセプトに従ってラフを起こし、被告が最終的に決定した。
c 登場人物、メカニック
 登場人物については、被告と総作画監督である岡迫亘弘が、登場人物の性格付け(キャラクター設定)を行い、これに基づいて、岡迫が「古代進」「真田志郎」「古代守」「デスラー総統」を、岡迫と芦田豊雄が共同で「島大介」を、原告、岡迫及び芦田が共同して、「沖田十三」「森雪」を、原告が「スターシャ」「アナライザー」及び「佐渡酒造」を、それぞれデザインし、クリーンアップ作業を経て完成した後、被告が原案を確定した。
また、「宇宙戦艦ヤマト」本体のデザインについては、原告が担当した。被告は、原告に対して、@実物の戦艦大和を基礎に、原形を崩さずに使用すること、A横向きのシルエットについては、艦橋、砲塔、イカリ及びカタパルトに至るまで、実物の戦艦大和と同型とすること、B本件企画書にある断面図におけるイラストを出来る限り使用すること等のデザインコンセプトを明確に指示し、被告が原案を確定した。
(ケ)絵コンテ
 前記の確定したシナリオに基づいて、映像化するための絵コンテ作業について、被告は、単独で、あるいは舛田利雄映画監督や山本暎一らと共に、絵コンテ担当者に対し、個別に指示説明をして、作成させた。その際、1つの絵コンテについて複数の絵コンテ案を作成させ、一番良いものを採用するという方法を採った。
 絵コンテ作業は、演出、カメラワーク、カット割り、それぞれのカットの秒数(尺数)の決定(秒割り)、音楽の入る位置、全体尺(長さ)を考慮に入れなければならず、何度も変更(リテーク)の指示を出した上で、被告において、最終的に絵コンテを決定した。
(コ)作画
 作画作業は、@アニメーター(作画担当者)による、カットの基本となる画面の構成(レイアウト)、登場人物等のポーズや表情の描画(原画)、原画と原画の間をつなぐ絵の描画(動画)、A背景美術の担当者(背景マン)による背景の描画、Bこれらの全体が絵コンテの演出方針どおりであるかのチェック(演出チェック)、C完成された動画を透明なセル板にトレースして、指定された色を塗られる作業(セル画)の各作業からなる。
 被告は、チーフアニメーションディレクターと演出方針の打合せ、及び総作画監督、作画監督、主原画家、美術監督、美術設定デザイナー等の担当者と打合せを行った後に、各スタッフが打合せの結果に基づいて作画作業を行った。また、被告は、原画担当スタッフとチーフディレクターとの間で行われる「作画打合せ」にも必ず立ち会い、ドラマ上の重要なカット、「心情芝居」「人情」「男女の機微」「戦闘」「戦略」「戦術」の設定など重要なカットやシーンについては、自ら直接、担当者に対して指示をした。さらに、被告は、各アニメーターが分担した各部分の相互の関連などについて、アニメーターに説明し、詳細な指示を与えた。被告は、仕上がった背景やセル画のうち、重要なものについて、自らチェックし、作画を確定した。
(サ)撮影・現像・オールラッシュ試写
作画段階で描かれた「背景」に「セル画」を重ねて、1コマごと撮影して、 これを現像・プリントして「フィルム」(ラッシュフィルム)を作成し、これを絵コンテに従ってカット順に並べ換えて、棒つなぎにして「オールラッュ」を完成させて、各製作パートの責任者が参加してオールラッシュ試写を行い、各作業の出来具合をチェックする。 被告は、試写に欠かさず立ち会って、自己が指示したとおりにオールラッシュが仕上がっているか否かを確認し、自己の感性やイメージに沿わない部分については修正させた。
(シ)編集
オールラッシュ試写後の作業として編集がある。編集作業は、映像の流れにメリハリやテンポをつけたり、各登場人物等の動きとセリフや効果音・音楽との調整を図ったり、オールラッシュフィルムを放映時間の長さに合わせたりする目的で、カットを削除、付加したり、また、オープニング、エンディングを付けたり、CMを挿入する場所を指定したりする作業である。被告は、編集作業について、具体的な指示を出し、放映用の作品の映像部分を完成させた。
(ス)音楽、録音(アフレコ)
まず、オープニング及びエンディングに流される主題歌の作詞作曲は、絵コンテの作業と並行して行われた。
被告は、企画意図や作品のイメージを具体的詳細に伝えた上で、阿久悠に作詞を、宮川泰に作曲を依頼した。
例えば、主題歌の作曲について、被告は、あらかじめ宮川に脚本を示し、作品の製作意図を理解してもらい、被告の音楽設計に関する基本方針を示した上で、これらに基づいて主題曲の作曲を依頼した。そして、被告は、絵コンテ作業の進行にあわせて、各場面における情景や登場人物の心情等を、美術ボードを示すなどしながら、ストーリーを丁寧に説明し、これから完成する映像の最終イメージを伝えて、主題曲の作曲を完成させた。
編集によって映像部分を完成させた後の製作作業として、音楽、声優のセリフ及び効果音を加えてミックスダビングを行う作業がある。
録音作業は、63人からなるシンフォニックオーケストラの演奏によって各種パターンを録音したが、被告は、自ら録音作業にも関与した。
BGM(背景音楽)について、被告は、音響監督である田代敦巳と打合せを行って、弦楽器を多く取り入れたシンフォニックでスケール感のある曲を用いることとした。そして、このような方針に沿って、宮川が、各場面でどのような曲が必要かについて、被告からの詳細な注文を受けて、100曲を超える曲を作曲し、田代において、これらを整理して保管し、アフレコの過程で、これらの曲から選定して使用した。
このように、音響作業については、形式的には、田代が決定権限を有していたが、実際には、被告は、自らの感性に沿って、意見を出したり、決定したりする例が数多くあった。
イ被告の寄与に関する結論
以上の事実を総合すると、被告は、本件著作物1について、本件企画書の作成から、映画の完成に至るまでの全製作過程に関与し、具体的かつ詳細な指示をして、最終決定をしているのであって、本件著作物の全体的形成に創作的に寄与したといえる。
(2)原告の寄与の程度
ア 事実認定
 本件著作物1の製作について、原告の寄与の有無及び程度について検討する。
前掲各証拠及び甲2、14、17、35ないし38、41、45、52、56、57、59並びに弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
(ア)原告の参加の時期
 本件著作物1の本件企画書を作成していた段階では、原告は製作に全く関与していなかった。被告は、製作を開始した後、著名な漫画家である原告に対して「美術・設定デザイン」の担当を依頼した。その後、当初監督に就任していた山本暎一が、海外ロケーション等の日程の都合上、製作に関与できなくなったため、作品の話題性を高めるために、原告に対して監督を依頼したが、実質的な監督は、被告が担当した。
(イ)原告の関与の程度
原告は、第1話から第3話までについては、時間的な余裕があったため、構成シナリオ、設定の打合せ等に参加したが、その後は、各話の設定デザインの作業等に追われて、スタジオでの打合せにはほとんど参加しなくなった。
原告は、本件著作物1の製作に関与した昭和49年4月ころから最終回の放映された昭和50年3月30日までの間、各月ないし隔週で、20を超える漫画作品の連載を担当していたため、本件著作物1の製作に関して、スタジオに赴き、他のスタッフに詳細な指示を与えることはなかった。原告は、26話での打ち切りが決まった時期以降は、スタジオに赴くこともなく、専ら、自宅において設定デザインに関する作業をすることが多くなった(乙15、23)。
(ウ)設定デザイン、美術、キャラクターデザイン
設定デザインについては、原告が、その一部(背景、敵方の異星人の居住する星及び基地、メカニック等のデザイン)を担当した。しかし、原告が作成したデザインは、すべて、被告が作成した「設定対比表」「各話別基本設定書」に基づいて行い、かつ、被告が最終的なデザインを決定した。
 原告がデザインした登場人物のうち、被告がそのまま採用したのは、「スターシャ」「アナライザー」及び「佐渡酒造」のみであった。その他の登場人物、すなわち「森雪」や「沖田十三艦長」などについては、原告が原案を作成したが、ドラマ全体のイメージに沿った劇画的なものにするべく、岡迫総作画監督がリライトの指示を出し、被告が最終的に決定した。
原告は「宇宙戦艦ヤマト」本体のデザインを担当したが、「デザインコンセプト」は被告の指示に基づいて行い、かつ、被告が最終的な決定をした。
原告は、登場人物、機械的構造物の色彩指定などをしたが、いずれも被告の決定を経ていた。
(エ)絵コンテ
絵コンテについて、原告は、戦闘シーン等や第1話の絵コンテの中の一部のみを担当し、演出の石黒昇が修正するという共同作業で進められた。しかも、このような形式で、原告が絵コンテに関与したのは全26話中8話だけであった。
(オ)音楽
作曲について、原告は、宮川泰に主題曲に関する意見を述べたこともあったが、ドラマの基本的なイメージを伝えて、指示をしたのは被告であり、最終的に決定したのも被告であった。
第3話の最終場面、すなわち、宇宙戦艦ヤマトが主砲で、超大型ミサイルを撃破した後、黒煙と炎の中からヤマトが出現し、一気に上昇するシーンで、被告と田代敦巳音響監督が、宮川泰の作曲したエレクトリックギターを多用したBGMを用いる方針を立てたことに対し、原告が「トッテンチャカポコは困る」として、エレクトリックギターの使用に異議を唱えたが、結局、被告は、自らの意見に沿って、同曲を採用した(乙12)。
また、被告は「軍艦マーチ」を用いることを発案した際、原告を含めた多数のスタッフから異議が述べられたため、第1話では採用を見送ったが、結局、第2話で、被告は同曲を採用した。
(カ)その他
原告は、作画打合せ、オールラッシュ試写、編集作業には関与していない(乙9及び15)。その他の製作過程について、原告が積極的に関与したことはない。
(カ)事後の事情
後記2に認定するとおり、原告は、本件著作物2の製作には一切関与していないが、本件著作物2が大ヒットしたため、原告は、被告に対して本件著作物2についても権利を主張した。昭和52年8月17日、原告と被告とは、本件著作物2は、本件著作物1のフィルムを基にして新たに製作された作品である旨、原告は「設定・デザイン」を担当したメインスタッフとして、本件著作物1により発生している本件著作物2についての二次使用料1000万円(構成料・デザイン料等)を被告から受ける旨合意した(乙10、32、被告本人尋問の結果)。しかし、同契約は、本件著作物1について、原告が著作者であることを認めて、その二次使用料の支払を受けるという趣旨を合意したものでないことは明らかである。
イ 原告の寄与に関する結論
以上認定した事実によれば、原告は、本件著作物1の製作について、設定デザイン、美術、キャラクターデザインの一部の作成に関与したけれども、原告の関与は、被告の製作意図を忠実に反映したものであって、本件著作物の製作過程を統轄し、細部に亘って製作スタッフに対し指示や指導をしたというものではないから、原告は、本件著作物1の全体的形成に創作的に寄与したということはできない。
ウ 原告の主張に対する判断
(ア)原告は、本件著作物1の製作過程において、@原告が、アニメ映画製作に おいて最も重要な作業というべき設定デザインを担当したこと、A原告が、機械的構造物、宇宙空間を海にたとえた自然現象の表現、色彩の指定、宇宙キロ、宇宙ノット、次元波動理論、宇宙波動理論、波動砲、波動エンジン等のアイデアを提供したこと、B原告が、波動理論や登場人物を創作したこと、Cこれらが本件著作物1の特徴となっていることなどを根拠に、原告が全体的形成に創作的に寄与した者である旨主張する。
 しかし、前記(2)において認定したとおり、原告の関与した作業内容は、美術及び設定デザインの一部であって、ドラマ、映像及び音楽から構成される本件著作物1の全体からみれば、部分的な行為にすぎないといえるから、原告がこれらの作業を担当したことによって、全体的形成に創作的に寄与したということはできない。
確かに、アニメ映画においては、映像が作品の重要な特徴として認識される面があることは否定できず、原告が、美術・設定デザインを担当し、「宇宙戦艦ヤマト」や主要な登場人物のデザインを作成したために、本件著作物1の映像や画面構成に原告の個性が発揮されているのは当然であるといえるが、そのことのゆえに、映画の著作物である本件著作物1を原告が著作したとはいえない。
(イ)原告は、創作ノートに基づく本番用企画書と題する書面等(甲17、50(15)及び51(16))を作成したことに照らすならば、原告が本件著作物1の全体的形成に創作的に寄与したと解すべきである旨主張する。
しかし、原作の上記主張は、以下のとおり失当である。
原告が記載した甲17、50(15)及び51(16)と本件著作物1の製作への寄与との関連は必ずしも明らかでない。
まず、甲50(15)については、@原告が本件著作物1の製作に関与したのは昭和49年4月ころであること、A甲50の1頁目には、5月21日と日付が記載されているので、甲50のその他の部分が書かれたのは、同年5月21日以降であると推認されること、A甲50は、原告が個人的に所有するノートに、覚書の体裁で箇条書きで記載されたものであること、B甲50の内容は、被告が既に作成し、原告に示した本件企画書(乙1)に記されているエピソードやアイデアがそのまま書かれていること(乙11、23及び原告本人尋問の結果)等の事実を総合すれば、甲50は、原告が自己の担当する設定・デザイン作業を進めるに当たって、本件企画書に示されている企画方針を自分なりに咀嚼するため、あるいはアイデアをまとめるため、個人的なメモとして記載したものと推認される。
また、甲17については、@昭和49年9月27日付けで決定されたと記載されており、本件著作物1の第1回目の放映は同年10月6日であり、番組放映の直前に原作が決定するとはおよそ考え難いこと、A甲17は、放映予定として、「10月6日から日曜(よる)7:30」などと記載され(3丁)、体裁や内容からテレビ放送の宣伝のための広告媒体として作成されたものと推認されること(乙17)、B甲17には、本件著作物1には採用されなかったデザインや登場人物のラフデザインが混在し、同年9月27日における決定稿としては不自然であること等の事実に照らすならば、甲17は、原告が本件著作物1の製作に寄与したことを根拠付けるものとはいえない。
さらに、甲51(16)については、大航路図、作戦区図標、ガミラス星人脈図、外宇宙自然設定原図やキャラクターのラフデザインなどの設定・デザインの一部と絵コンテの一部が記載されているが、甲51には、1974.9.27と記載され、昭和49年9月27日ころ作成されたものと推認されることから、本件著作物1の前記製作経緯に照らして、甲51は、原告が本件著作物1の製作に寄与したことを根拠付けるものとはいえない。
 以上のとおりであり、甲17、50(15)及び51(16)は、いずれも、これらに基づいて、本件著作物1の製作が行われたものではないから(被告本人尋問の結果)から、原告がこれらの書面を作成したことにより、本件著作物1の全体的形成に創作的に寄与したということにはならない。
(ウ)原告は、昭和47年初めころ、原告は、被告が作成した企画書(甲18ないし22)を示されたが、その内容はストーリー設定の体裁をなしていない不十分なものであったため、原告の作成した甲17、50及び51を作成したと主張する。
しかし、原告の主張は、以下のとおり採用できない。
a 前記(1)認定の事実によれば、@被告は、昭和47年から昭和48年にかけて、アニメ「海のトリトン」及び「ワンサくん」の製作に関与しており、そのころに、原告に本件著作物1の製作監督を申し入れたことはあり得ないこと(乙23)、A原告が本件著作物1の製作企画に関与したのが、同年4月ころであること等の事実からすれば、原告の主張を採用することはできない。また、上記認定の事実からすれば、被告が参加を要請するに当たり、原告に示した企画のための書面は、甲18ないし22ではなく、本件企画書(乙1)であったと認められる。
b 甲18は、本件企画書(乙1)を完成する以前に、被告らが、企画の検討をしていたころ、藤川桂介によって書かれた検討用の資料であり(乙23)、甲19は、「略台本の表紙」と登場キャラクターの名前だけが記載された資料であり(乙23)、甲20の「宇宙船艦イカルス(略台本)〜宇宙の墓場サルガッソの恐怖」は、本件企画の初期の段階に藤川桂介が習作として書いたもの(そのために、題名も「宇宙船艦イカルス」とされたもの。なお、乙1の本件企画書の最後に付録として綴じ込まれた「宇宙船艦ヤマト(略台本)〜宇宙の墓場サルガッソの恐怖」と同一の内容である。)である。また、甲22は、その21頁に宇宙戦艦ヤマトの本番用のデザインが描かれていること、23頁に美術担当スタッフとして原告の名前が記載されていることからすると、原告が参加した以後に作成されたものと推認される。
 したがって、これらの資料は、その体裁、内容に照らすと、被告が原告に対して「美術・設定デザイン」の担当を依頼する際に、提示したものとは考えられない。なお、甲21は、本件企画書(乙1)の前半部分の「(1)企画意図」から「(5)エピソード」までと同一のものであって、原告の著作物でないことは明らかである。
(エ)原告は、原告の作成した甲46ないし48が、本件著作物1の原作に当たるから、本件著作物1は、原告が本件著作物1の全体的形成に創作的に寄与した者であると主張する。
 しかし、以下のとおり、原告の主張は採用できない。すなわち、甲46ないし48は、「この作品(本件著作物1)をTV番組化すると同時に、マンガ雑誌にも連載したい」との本件著作物1の企画方針(乙1)を受けて、原告が本件著作物1の製作と並行し、あるいはそれ以後に連載したものであり、その内容もダイジェスト版にすぎないこと(甲46、47)に照らすならば、本件著作物1の原作に当たると解する余地はない。
また、原告は、本件著作物1は、昭和36年(1961年)に原告が著作公表した「電光オズマ」における「大和作品」を発展、昇華させたもので、同作品における物語の基本構成、場所的・空間的設定、機械構造物及び主要登場人物の各点において本件著作物1と共通する旨主張する。
 しかし、両作品の全体のストーリーは全く異なり、アイデアに共通性があるだけであるから、そのことをもって、原告を本件著作物1の全体的形成に創作的に寄与した者であるということはできない。
(3) 結論
以上によれば、本件著作物1の全体的形成に創作的に寄与したのは、専ら被告であって、原告は部分的に関与したにすぎないから、本件著作物1の著作者は、被告であって、原告ではない。
2本件著作物2の著作者について
(1)事実認定
証拠(乙9、10)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
本件著作物1のテレビ放映は、昭和49年10月6日から開始された。当初全39話の予定であったが、被告らの期待に反して視聴率は低迷し、テレビ放映は、全26話で打ち切られ、昭和50年3月に放映を終了した。
被告としては、精魂込めて製作した「宇宙戦艦ヤマト」を不本意な形で終了したことがあきらめられず、本件著作物1を劇場上映することを企画して、本件著作物2の製作を開始することにした。
そこで、昭和50年春から昭和52年春までの2年間、被告は、舛田利雄及び山本暎一らの協力を得て、本件著作物1を編集し直し、結末について新たな創作部分を加えて本件著作物2を完成させた。
原告は、本件著作物2の製作には一切関与しなかった(当事者間に争いがない。)。
(2) 判断
以上によれば、本件著作物1の全体的形成に創作的に寄与したのは、被告であり、原告は一切関与していないから、本件著作物2の著作者は被告であって、原告ではないということができる。
原告は、本件著作物2は本件著作物1の「焼き直し」であるから、本件著作物1の著作者である原告は当然に本件著作物2の著作者であるかのような主張する。しかし、前記認定のとおり、本件著作物1の著作者は、被告である以上、原告の主張は前提において失当である。
3 本件著作物3の著作者について
(1) 事実認定
証拠(甲5の3、29、乙4、5、10)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 被告の寄与の程度
本件著作物の製作について、被告は、企画、原案、制作(製作)及び総指揮を担当した。
被告は、製作の全過程にわたって関与し、製作を指揮した場合には、「総指揮」のスタッフタイトルを付すことにしていた(この点は、本件著作物1、2、5、6及び8も同様である。)
被告は、そのラストシーンにおいて、宇宙戦艦ヤマトが主人公の古代進とともに、宇宙の彼方へと消えていくヤマトの最後を描くことを企画方針とした。そこで、そのラストシーンから逆にドラマ全体のストーリーを作り上げ、これに合わせて作品全体の基本テーマ、危機的状況の設定、音楽表現等を決めることとした。
被告は、作品全体の基本的なテーマについて、主人公である古代進が愛に生きようとしたことを契機に人類愛に目覚め、その愛に身を殉じさせるというストーリーにより、「宇宙の愛」及び「人間の愛」を描き、人は他人のために命を賭けられるか、というテーマを設定した。
被告は、「危機的状況」、「大敵」等については、@ハレー彗星からヒントを得て、「地球に彗星が衝突した」という仮定から発想を展開して、人為的な「白色彗星」を設定し、ASFの名作の1つである「宇宙都市シリーズ」中のイラストである、ニューヨークの高層ビル街が宇宙に浮上するというイメージから、白色彗星の中に「都市帝国」が存在するという設定をし、これを基に、設定デザインにおいて、「都市帝国」、「巨大な内部構造」、「戦闘機能」及び大敵としての「白色彗星帝国」を設定、創作した。被告は、ストーリーについて、白色彗星帝国がもたらす危機を地球の危機だけとして捉えず、宇宙の危機として捉えて、ヤマトが旅立つというものにした。
被告は、音楽設計について、本件著作物1では、大編成のシンフォニックオーケストラによるサウンドが採用されたのと趣向を変えて、パイプオルガンで大敵を表現するなどの音楽表現上の工夫を凝らした。
そして、被告は、監督、脚本家、SF等アイデアブレーン、設定デザイナーらと頻繁に打合せをして、前記基本方針を伝え、構成、脚本、設定デザイン、美術、絵コンテ、作画、撮影、現像、オールラッシュ試写、編集、録音(アフレコ)、ミックスダビングの各作業を順に進め、被告は、それぞれの作業結果について、最終的に決定をした。これらの作業の手順は、本件著作物1の場合と同様である。
本件著作物3の製作には、300名(延べ人数900名)に及ぶ多数のスタッフが参加した。被告は、スタッフの間で齟齬が生じないように、主要なパートに配置するスタッフの選定を気を配り、また、自らも、定期的にスタジオに入り、常に状況を把握して、作業の各段階ごとに、指示、修正を出して、製作の全過程で総指揮を執った。このように、被告は、本件著作物3の製作過程のすべてに関わっていたため、スタッフタイトルも「製作・総指揮」とした。
イ 原告の寄与の程度
原告は、監督、総設定及び原案を担当した(なお、舛田利雄も監督を担当した。)。
原告は、本件著作物3の具体的ストーリー、シナリオが形成されていく過程で、独自のSF的アイデアを盛り込んで執筆したシナリオ風のシノプシス(Mプロット)を作成し、これが、その後のSF総設定案、戦闘戦略プランの基礎とされた。
設定デザインについては、原告がラフ・アイデアを出し、これを受けて辻忠直が地球、彗星及びテレザード星の舞台美術デザインを、湖川滋が主要登場人物のキャラクターデザインを、スタジオぬえが地球防衛軍の艦隊メカデザインを、原告自身が、敵側超巨大戦艦などのデザインを担当した。これらは、いずれも、企画会議でまとめられた基本設定の方針に沿ってされた。
また、戦闘・戦略演出案については、超一流のSFアクション映画を提供するという被告の意思に沿って、原告、勝間田道治、石黒昇、棚橋一徳らの演出担当スタッフが作成した。もっとも、被告の要求が厳しすぎて、アニメーションとしての表現の限界を超えるという部分については、簡略化が図られた部分も存在する。
本件著作物3の結末に関しては、原告は、主人公の古代進を生かすべきであるとの意見を述べたが、被告は了承せず、結局、被告の企画方針、基本テーマに基づき、主人公を死なせるストーリーとされた。
原告は、製作の過程で行われたスタッフミーティング、ブレーンストーミング、全体会議などにある程度は出席していたが、すべてに出席したのではない。
原告が本件著作物3のその他の製作過程(シナリオ及び絵コンテの作成、作画作業、撮影・現像・オールラッシュ試写、編集及び録音)に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
(2) 結論
以上認定した事実によれば、本件著作物3の全体的形成に関与したのは被告であり、原告の関与は部分的なものにすぎないというべきである。本件著作物3の著作者は被告であって、原告ではない。
4 本件著作物4の著作者について
(1) 事実認定
証拠(甲5の5、30、乙5ないし7、被告本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
本件著作物4は本件著作物3の拡大版テレビシーズであり、全26話からなる。
本件著作物4における被告のスタッフタイトルは、企画、原案、製作とされ、総指揮とされていない。しかし、本件著作物4は、本件著作物3において、既に創作されたストーリープロットを用い、そのフィルムを一部利用して製作を進めた経緯がある。また、本件著作物3の上映は、昭和53年8月5日であり、本件著作物4の放映時期は同年10月14日ないし昭和54年4月7日であって、両著作物がほぼ並行して製作され、本件著作物3の著作者としての被告の企画及び基本的なテーマは、そのまま本件著作物4に反映されていた。
ところで、本件著作物4のストーリーについては、被告は、当初、本件著作物3の結末と同様主人公を死なせるという結末を考えていた。しかし、その放映が進むにつれ、視聴者から、主人公である古代進、森雪及び宇宙戦艦ヤマトを生かすようにとの強い意見が寄せられた。被告は、視聴者の意見にも十分配慮し、原告とも相談の上、「超人類であるテレサによって、ヤマト、ひいては地球が救われる」という結末を取り入れることを決定した。
他方、本件著作物4における原告のスタッフタイトルは、原案、原作、総設定、監督であったが、本件著作物4の製作に独自に関与したことはなく、監修的に関与したにすぎない。その他、本件著作物4の製作において、原告が具体的な関与をしたことはない。
(2) 結論
以上の事実によれば、本件著作物3における被告の関与の程度、本件著作物4の製作意図に照らすと、本件著作物4の全体的形成に関与したのは被告であって、原告ではないと解すべきである。
5 本件著作物5の著作者について
(1) 事実認定
証拠(甲5の5、30、乙5ないし7、10)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
被告は、企画、原案、製作、総指揮を担当するとともに、初めて監督を務めた。
被告は、@本件著作物4がテレビ放映されたことを契機として、劇場版第3作を製作するようファンからの強い要望が出されたこと、A本件著作物4において、本件著作物3とストーリーの結末を変えたために、「ヤマト」のテーマ性が希薄になったと考え、本来の人間ドラマに戻したいと臨んだこと等の理由から、劇場版第3作を製作することを決意した。しかし、本件著作物3と本件著作物4の結末が異なるため、この点の統一を図らずに、劇場版第3作を製作するとファンの期待を裏切ることが予想されたので、本件著作物4のストーリーを受け継ぎながら、新たな展開と整合を図るべく、劇場版第3作への足掛かりとなる作品を製作しようとした。被告は、このような意図で本件著作物5を製作することにし、その基本テーマを、より身近な愛を描くという観点から、デスラーのスターシャに寄せる愛、民族の存亡を懸けて闘う愛を基本テーマとした。
本件著作物5に関する製作の状況、被告の関与の程度は、本件著作物3の場合と同様である。
本件著作物5のストーリー構成については、被告が口頭で話した内容に沿って、山本英明が豊田有恒との打合せをしながらフィーチャープロットを作成し、舛田利雄が山本暎一と相談して、構成案をまとめた。また、被告は、大敵として「暗黒星団帝国」及び「巨大戦艦ゴルバ」の設定、敵方キャラクターの設定、スターシャの娘「サーシャ」の誕生等のストーリーを設定し、本件著作物5の原案を創作した。
他方、原告は、形式的には、原作、設定及び監修を担当したが、当時、原告自身が関与したアニメ作品「銀河鉄道999」の製作に携わり、本件著作物5の製作への参加は十分にできなかった。
(2) 結論
以上の事実によれば、本件著作物5の全体的形成に関与したのは被告であって、原告ではないと解すべきである。
6 本件著作物6の著作者について
(1) 事実認定
証拠(甲5の6、31、乙5ないし7、10)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 被告の寄与の程度
被告は、企画、原作、製作、総指揮を担当した。
前記のとおり、本件著作物4は、本件著作物3と異なる結末を採用したために、人間ドラマを旨とする宇宙戦艦ヤマトシリーズ本来のテーマ性が希薄になったこともあって、被告は、その反省を込めて、本件著作物6については、本件著作物1の原点である人間ドラマに戻すという企画方針を決めた。そこで、被告は、本件著作物6においては、愛をより具体的に語るという方針の下、地球の危機に対して人類愛を強く全面に押し出し、愛がいかに大切であるかを基本テーマに据えた。
本件著作物6は、原告が設定した「二重銀河」のビジュアルイメージから、ドラマの構成に進んだ点において特殊性があり、本件著作物1ないし5が、ドラマ構成の設定をした後に、作画を設定したのと製作過程が異なる。しかし、本件著作物6に関する製作の状況、被告の関与の程度については、本件著作物3及び5と同様である。
被告は、基本テーマに基づき、初めて、主人公森雪が古代進と共に宇宙戦艦ヤマトに乗り込まないというドラマの構成を打ち出し、二重銀河の遙か彼方にいる「宇宙戦艦ヤマト」と地球にいる「森雪」のドラマをカットバックさせることで、2人の関係を描き、出来事を通して、「愛することは信じ合うことである」という愛をテーマにしたドラマを構成した。また、原告が被告に対して、設定原案を作らせてほしいと申し入れたことを受けて、被告と原告の共同原作という形にし、原告が提出した設定原案に、被告が手を加えて1本の構成案にまとめ上げた。さらに、本件著作物5で登場した「サーシャ」を主役として、「暗黒星団帝国」「敵方のキャラクター」「メカニック」「人物」等を大敵として設定した。デザインの色指定は、被告がほとんど一人でした。本件著作物6は、日本映画史上、初めて、映画上映の途中に、ビスタビジョンからシネマスコープの画面のサイズを拡大したり、未知なる銀河の場面を画面サイズを変化させて表現したり、敵方惑星が滅亡する場面において、若い美しい女性の顔を一瞬にして老婆の顔に変化させ、溶けて消滅する象徴的なシーンを挿入するなど映像表現に創意工夫を凝らした。
イ 原告の寄与の程度
原告は、監督、原作、総設定を担当した。
原告は、本件著作物6では、初めて原案設定を担当したが、被告との共同原作の形がとられ、最終的に被告の手が加わっている(この原告の構成原案〔設定原案〕をもとに舛田利雄が作成し、さらに、これに被告が手を加えたものが、「舛田利雄・N構成原案」であり、本件著作物6のストーリー展開の基礎となったものである。)。
設定デザインについては、原告がラフスケッチを出して、これに基づいて、設定担当スタッフが設定作業を進めた。
原告は、製作の過程で行われた会議などについては、わずかの回数ではあるが、出席していた。
原告が本件著作物6のその他の製作過程(シナリオ、絵コンテの作成、作画、撮影・現像・オールラッシュ試写、編集及び録音)に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
(2) 結論
以上認定した事実によれば、本件著作物6の全体的形成に創作的に寄与したのは被告であり、原告ではないと解すべきである。本件著作物6の著作者は被告であって、原告であるということはできない。
7本件著作物7の著作者について
(1) 事実認定
証拠(甲5の7、27の7、68の1ないし3、乙5ないし7、10)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 被告の寄与の程度
被告のスタッフタイトルは、企画、原案、製作、総指揮であった。
前記のとおり、被告は、製作の全過程にわたって関与し、製作を指揮した場合に、総指揮のスタッフタイトルを付すことにしていた。
被告は、本件著作物4のテレビ放映後、劇場版第3作の製作に向けての構想を練っていた。原告が提供したアイデアを劇場版第3作のために用いることにし、被告が構想を練った原案に原告のアイデアを入れて、本件著作物7を製作することとした。
本件著作物7について、被告は、身近な人々が危険にさらされたとき、ガンジーが採った人類愛と無抵抗主義で対処することができるかという問題を基本のテーマに据えた。
本件著作物1などと同様に、被告が発想したイメージに基づいて、設定担当者に対して詳細な指示を与えたり、決定をした。
イ 原告の寄与の程度
他方、原告のスタッフタイトルは、原案、原作、監督及び総設定である(なお、山本暎一も監督であった。)。
原告の本件著作物7に対する関与の程度は、必ずしも明らかではないが、製作後に、原告が「パート3では、ヤマトが私の手の中から飛び立ってしまい、スタッフの皆さんにおまかせした部分が多くて、」とか「でも、もし次を作る事になるなら、私の自由にやらせてくれるということでなければ、参加したくないです。そうでなければヤマトは、私の作品ではなくなってしまうと思うからです。」との発言内容に照らすならば、原告は本件著作物7の製作過程にはほとんど関与していなかったと推認される。その他、原告が本件著作物7の製作過程に具体的に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
(2) 結論
上記認定した事実、及び、被告がこれまでの宇宙戦艦ヤマトシリーズにおいて各作品を製作した経緯とをあわせ考慮すると、本件著作物7の全体的形成に寄与したのは被告であって、原告ではないと解される。
8 本件著作物8の著作者について
(1) 事実認定
証拠(甲5の8、32、乙7、10)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 被告の寄与の程度
被告は、企画、原作、脚本、製作、総指揮及び監督を担当した。
前記のとおり、被告は、製作の全過程にわたって関与し、製作を指揮した場合に、被告は総指揮のスタッフタイトルを付すことにしていた。
被告は、宇宙戦艦ヤマトが10周年を迎えるに当たって、一連のシリーズの完結編を作り、その中でヤマトの最期及び主人公である古代進と森雪の結末を描くこと、ヤマトの最期の航海において、「艦であるヤマトが艦長によって司られ航海する」という本来の姿に戻すべく、沖田十三艦長を復活させることなどを基本的な企画方針として、製作することとした。
本件著作物8の製作の進行状況と被告の関与の程度は、本件著作物3の場合と全く変わりがない。
被告は、地球に壊滅的な危機状況を起こす大敵「都市衛星ウルク」の設定、宇宙の生命の誕生にまつわる、水の惑星「アクエリアス」伝説の設定をした。被告は、本件著作物8における出来事の展開が一覧できるような構成年表を作成し、また、山本英明が作成した粗いストーリー、諸設定、音響及び音楽の方針などに基づき「N構成プロット」を作成し、シナリオ作成を進めた。
主人公である古代進と森雪のラブシーンを描くこと及び本件著作物1で死亡した沖田十三艦長を復活させることについては、被告とスタッフとの間で意見が分かれたが、最終的に、被告が、これらのシーンを用いることを決定した。また、被告は、撮影について、特殊撮影の手法を効果的に取り入れた。
ア 原告の寄与の程度
原告のスタッフタイトルは、原作、設定及び監修であったが、本件著作物8の製作当時、原告はアニメ映画「1000年の女王」の製作に関与し、その後さらに、アニメ映画「わが青春のアルカディア」の製作を控えて、多忙な時期であり、本件著作物8の製作には関与できなかった。 原告は、ヤマトの最期をどのように描くかについて、実物の戦艦ヤマトが沈んでいる九州坊ヶ崎沖を選択したいとの意見を述べたが、被告は同意見を採用しなかった。
(2) 結論
以上の事実によれば、本件著作物8の全体的形成に関与したのは被告であって、原告ではないと解される。
9著作者人格権侵害行為及び名誉毀損行為の有無について
ア前記1ないし8認定の事実によれば、本件各著作物の著作者は被告であり、 原告ではない。その余の点を判断するまでもなく、前記1(3)記載の被告の行為等が、著作者人格権侵害及び名誉毀損を構成することはない。
イ のみならず、証拠(乙9、10)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、同事実を前提としても、原告の名誉を毀損する不法行為に該当するとはいえない。すなわち、
(ア)被告はその経営する事業に失敗し、平成9年破産宣告を受け、次いで、覚せい剤取締法違反、銃砲刀剣類等所持法違反で逮捕され、東京拘置所に収容された。平成11年には、被告は、下肢麻痺に罹患し、体調を悪化させている。
(イ)原告は、本件各著作物が製作されてから、平成10年に至るまでの間、本件各著作物について、自らが著作者であることを主張したことはなかった。ところが、平成10年に至って、原告は、「新潮WEB」「サンケイWEB」上で、「ヤマトのファンの皆さんご安心下さい。『破産』『逮捕』のNは『ヤマト』とは無関係であり、すべての権利は、私−−M−が持っておりますから−」という趣旨のコメントを述べた。また、雑誌やその他のマスメディアにおいて、「ヤマト」について原告が原作者であり、かつ、すべて原告が創作、設定したものであるとの趣旨を述べ、平成12年には「新ヤマト」を製作公開すると発表した。
(ウ)これに対し、被告は、山本暎一に宛てて、「MRが、原作、著作を名乗るなど、恥を知るものの振る舞い、とはとても考えられません。今、ここを先途と対外的に語られ、2001年にヤマト、復活編を造る、自分に著作権がある、とは何を指して云われているのでしょう・・・原作云々等と言っている時点では、可愛い冗談で済ませても、著作権、つまり、ヤマトを製作する権利を含めて、著作権があるという事は絶対許せない事です。これは私が許せない、という事だけではなく、参加した、スタッフの一員としても許せぬ話しであります・・・企画書は私に帰属するものであり、これがすべての宇宙戦艦ヤマトの源著作物、著作権のすべてはNに帰属している」との手記を送った(同手記が掲載を前提としたものか否かは明らかでない。)。
(エ)なお、被告は、被告本人尋問において、「私自身の不祥事によって『宇宙戦艦ヤマト』のイメージを傷つけたことに関して、この法廷の場を借りて、「ヤマト」のファンの方もおられるでしょうし、またMさんもそうでしょうし、そういったことに関して深くおわび申し上げたいと。それと、もう1つは、「ヤマト」のファンは決してこのような訴訟は好まないでしょう。早くきちんとした形をもって、まあ、私自身も罪を償い、「ヤマト」のイメージのいい作品を作って、将来またMさんと仕事ができる機会があればいいなというふうに思っています。それが私のメッセージです。」と供述している。
以上認定した事実によれば、被告が山本暎一に宛てて手記を送付したことについて、その背景事実、経緯、記載内容、記載の動機等に鑑みると、被告の同行為が社会通念上、原告の名誉を毀損する不法行為に該当すると解することはできない。
〔研  究〕
1.本事件は、被告(反訴原告)が、雑誌「財界展望」(平成11年5月号)に「『宇宙戦艦ヤマト』の著作権は誰のものか」と題する記事において、訴外山本暎一氏(監督)に宛てた以下の手記が掲載されたことが契機となったようである。「松本零士が、原作、著作を名乗るなど、恥を知るものの振る舞い、とはとても考えられません。今、ここを先途と対外的に語られ、2001年にヤマト、復活編を造る、自分に著作権がある、とは何を指して云われているのでしょう・・・原作云々等と言っている時点では、可愛い冗談で済ませても、著作権、つまり、ヤマトを製作する権利を含めて、著作権があるという事は絶対許せない事です。これは私が許せない、という事だけではなく、参加した、スタッフの一員としても許せぬ話しであります・・・企画書は私に帰属するものであり、これがすべての宇宙戦艦ヤマトの原著作物、著作権のすべては西崎に帰属している・・・」(甲3,明らかな誤字も含めて原文のままである。)。
 被告は,インターネット上でホームページを開設している。同ホームページには,以下のコメントが掲載されている(甲23)。
 「私のようなタイプの制作(舞台,音楽含)現場出身の製作者(Executive Producer)は例が少なく,多くのプロデューサーは原作を映像化している例が大半であります。私はこれを否定するものではなく,私の原作ありてという例は作品歴にございます。しかし,どうやって自分の持ち味を出していくのか!ということで,その都度自分の体験で身につけたオリジナリティーを追求しました。宇宙戦艦ヤマトは,その自分の20代〜30代までの集大成であります。」
 これによって、被告は原告に対して、著作者人格権の確認を求めた反訴を起したのである。

2.裁判所は、アニメ映画の企画から制作の過程について全部解明し、「作品の全体的形成に創作的に寄与した」者は誰かを検討した結果、それは制作者である被告であり、著作者であると認定したのである。
 問題となったアニメ作品は9件あったが、これらの各作品に対する被告と原告との寄与度ないし関与度をはかったところ、それは圧倒的に被告であると認定し、原告については部分的な関与か又は全く関与はなかったと認定したのである。
 アニメ作品の全体を構成するものに、具体的にどういう要素があるかは、判決本文を読んでいただければ明らかであるが、それぞれの要素とそれを作品全体にまとめ上げることに大きな功績があった者は、被告であることを認めたのである。
 原告は、漫画家としては著名であり、「宇宙戦艦ヤマト」の漫画原作は創作しているが、前記の各アニメ作品を企画し完成した者ではなかったから、二次的著作物としてのアニメ作品に関する著作権の帰属については、当然の結果というべきであろう。

3.その後、本件について当事者は和解し、それぞれの訴訟を取下げたのである(平成15年7月8日)。

[牛木理一]