D-25

 

 

キューピー事件: 東京高裁平成11(ネ)6345号.平成13年5月30日判決 (控訴棄却、一部認容)〔東京地裁判決についてはD−3参照〕

〔キーワード〕 
イラスト(平面)、小彫像〈原型〉(立体)、人形、本件著作物、創作性、二次的著作物、量産性、保護期間の起算、複製、翻案

 

〔主  文〕

 

1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人が別紙著作物目録記載の人形に係る著作物の著作権者であることを確認する。
3 当審における訴訟費用は、これを2分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
〔事  実〕
 本件は、控訴人が、別紙著作物目録記載の人形(以下「本件人形」という。)に係る著作物(以下「本件著作物」という。)の著作権者であり、被控訴人による別紙物件目録一記載のイラスト(以下「被控訴人イラスト」という。)及び同目録二記載の人形(以下「被控訴人人形」という。)の複製等が控訴人の本件著作物の我が国における著作権(以下「本件著作権」という。)の侵害に当たるとして、被控訴人に対し、これら行為の差止め等を求めるとともに、当審において請求を追加し、被控訴人に対し、控訴人が本件著作権の著作権者であることの確認を求める事案である。

 

〔判  断〕

 

1 被控訴人の本案前の主張について
(1) 記録に照らすと、控訴人の本件著作権に基づく差止め及び廃棄の請求の訴額が1億円であり、控訴人は、上記請求を棄却した原判決に対する控訴を提起するとともに、本件著作権の確認請求を当審で追加したことが明らかである。本件著作権に基づく差止め及び廃棄の請求と本件著作権確認の請求は、その訴えで主張する利益が各請求について共通であるから、両請求の訴額を合算せず、差止め及び廃棄の請求の価額であり、かつ、著作権確認請求の価額でもある1億円をもって、その訴額とすべきところ(民事訴訟費用等に関する法律4条1項、民事訴訟法9条1項ただし書)、控訴人は、この訴額に対応する62万6400円の手数料を納付しているから、この点において本件著作権確認請求に係る訴えを不適法とする余地はない。
(2) 控訴人は、被控訴人に対し、被控訴人イラスト等に係る差止め及び廃棄の請求をする本件訴えを提起したが、被控訴人は、原審において、本件著作権が発生せず、又はこれが消滅したと主張し、本件著作権が控訴人に移転した事実を争い、本件著作権の及ぶ範囲についても控訴人の主張を争っており、当審においてもこれらの主張を維持している。そうすると、控訴人と被控訴人間の本件紛争を解決するために、上記差止め及び廃棄の請求権の存否を確定することに加え、控訴人が本件著作権の著作権者であることの確認請求についても、控訴人に確認の利益が存在するというべきである。このような本件訴訟の経緯に照らすと、上記確認請求に係る訴えの被告適格を認めることができ、また、同請求を追加することにより被控訴人に不要な応訴の負担を生じさせるものでもないから、上記確認請求に係る訴えは適法である。
(3) したがって、被控訴人の本案前の主張は、採用することができない。
2 本件著作物の創作及び発行について
(1) 証拠によれば、以下の事実を認定することができる。
 ローズ・オニールは、1874年6月25日、アメリカ合衆国ペンシル バニア州で出生し、1889年ころから雑誌にイラストを寄稿するなどしてその画才が注目されていたところ、1896年ころから本格的にイラストレーターとして活動を始めた。ローズ・オニールは、1903年以降、従来西欧神話の天使であり双翼を有する幼児の姿をしたキューピッドのイラストに若干の修飾を加えた、Two Valentines イラ スト、1903年作品、1905年作品、1906年作品等を発表した後、「Ladies' Home Journal」1909年12月号に、従来のキューピッドのイラストと異なり、新たな空想上の存在を感得させる独創的なキューピーイラストが描写された本件イラスト著作物を発表した。
 ローズオニールは、そのころ、キューピーの人形を作ってほしいとの子供たちの手紙を受け取ったことから、戯れにキューピーイラストを立体的に表現して本件人形と同一の形態を有するキューピーの小さな彫像を彫ったところ、そのことを知った複数の玩具工場からキューピー人形を製造したいとの申出を受け、人形の複製を許諾する工場を選定した。1912年、ドイツでビスク製のキューピー人形が試作されることとなり、ローズ・オニールも渡独し、玩具工場において助言及び指導をした。また、ローズ・オニールは、当時イタリアで美術を学んでいた妹のカリスタにキューピー人形の制作につき助力を依頼し、カリスタは助手を務めるようになった。ドイツで制作された本件人形は、1913年、アメリカ合衆国において販売され、爆発的な人気を博した。
 ローズ・オニールは、1912年12月17日、アメリカ合衆国連邦特許商標庁に対し、キューピー人形の意匠について意匠特許登録の出願をし、その意匠は、1913年3月4日、登録第43680号意匠特許として 登録された。また、ローズ・オニールは、1913年11月20日、アメリカ合衆国著作権局に対し、キューピーの小さな彫像の著作物につき、自らを著作権者とする著作権の登録を申請し、登録番号H1040として登録がされた。
 控訴人の所持する本件人形は、上記登録意匠と同一の形態を有するが、そこには、「cROSE O'NEILL.1913」の著作権表示及び「REG U・S・PAT・OFF・DES・PAT・3.・4・1913」 の意匠特許表示がされ ている。
 控訴人は、遺産財団から本件人形に係る本件著作権の譲渡を受けたことについて、平成10年6月9日、著作権法77条1号に基 づく著作 権の登録を申請し、同年8月25日、その発行年月日を上記の1913年11月20日として登録がされた。
 上記認定の事実を総合すれば、ローズ・オニールは、1910年ないし1912年の間に、アメリカ合衆国で、本件人形と同一の形態を有するキューピーの小さな彫像を本件著作物として創作し、1913年にその複製物として本件人形を制作するとともに、本件著作物を発行したものと認めるのが相当である。
 なお、控訴人が所持し別紙著作物目録によって特定される本件人形(甲第2号証に撮影された人形)そのものは、その原型となった作品の複製物であることが形態等に照らして明らかである以上、それ自体について著作物性をいう余地はないから、弁論の全趣旨にかんがみれば、控訴人も、このことを前提とした上、本件著作物は、上記のとおり、ローズ・オニール自身が彫った、本件人形と同一の形態を有するキューピーの小さな彫像であり、また、本件著作権は、上記小彫像の著作者であるローズ・オニールに帰属した後に遺産財団を経て控訴人が譲り受けたとする本件著作物の我が国における著作権であるとの主張をしているものと解される。
(2) 被控訴人は、アメリカ合衆国著作権局に登録されたキューピーの小彫像が本件人形と同一の形態を有すると認めるべき根拠はないと主張する。しかしながら、上記認定のとおり、甲第2号証に撮影された人形には、ローズ・オニールがその人形の著作権者であるとする著作権表示とともに、ローズ・オニールが上記意匠特許権者である旨の意匠特許表示が付されているのであり、また、アメリカ合衆国連邦特許商標庁に登録された上記意匠特許の登録公報には、甲第2号証の人形と同一の意匠がローズ・オニールを創作者として登録されている。そして、本件著作物は、1909年にローズ・オニールが創作した本件イラスト著作物中に描かれたキューピーイラストを立体的に表現したものであって、これらの事実を総合すると、アメリカ合衆国著作権局に登録されたキューピーの小彫像が本件人形と同一形態のものであると認めるのに十分である。
 被控訴人は、さらに、本件人形について、ローズ・オニールの許諾を得ずに制作され、又はローズ・オニール自身が制作したものではなく、ジョゼフ・カラスら人形の制作者が大量生産した玩具であると主張するが、上記認定のとおり、本件人形は、ローズ・オニール自身が彫ったキューピーの小さな彫像でキューピーイラストを立体的に表現したものを複製して制作された人形であるところ、控訴人の主張する本件著作権は、ローズ・オニール自身が制作した上記キューピーの小さな彫像である本件著作物の我が国における著作権をいうものと解されることは前示のとおりであるから、甲第2号証の人形がローズ・オニールの許諾を得ずに制作され、又は玩具業者により生産されたとしても、これが上記小彫像の複製物である以上、ローズ・オニールが本件著作物の著作権者となったということの妨げにはならない。被控訴人は、本件人形に付された上記著作権表示及び意匠特許表示が、ローズ・オニールの許諾を得ずに制作された他のキューピー人形に付されたものと同一であるとも主張するが、一般にローズ・オニールの許諾を得ずに制作されたキューピー人形にどのような表示が付されていたかを認めるに足りる証拠はなく、また、仮に、甲第2号証の人形がローズ・オニールの許諾を得ずに制作されたものであったとしても、これが本件人形の複製物である以上、ローズ・オニールが本件著作物の著作権者となったということの妨げとはならないから、いずれの理由によっても、被控訴人の主張は採用することができない。
 次に、本件人形の制作者はジョゼフ・カラスであるとする被控訴人の上記主張に つい てみるに、「Kewpies-Dolls & Art」(乙83)には、これに沿う部分もあるが、上記認 定のとおり、ローズ・オニールは、早くから画才が注目され、イラストレーターとして活動しており、本件イラスト著作物を創作し、キューピーイラストを立体的に表現した本件著作物について、その複製を申し出た複数の玩具工場の中から、複製を許諾する工場を選定した上、自らドイツに赴いてキューピー人形の制作につき助言及び指導をし、キューピー人形の制作に際し妹のカリスタに助力を依頼し同人が助手を務めたこと、本件著作物の著作権及び本件人形の意匠特許権について、ローズ・オニールが著作権者及び意匠特許権者である旨の登録がアメリカ合衆国所管庁においてされていることに照らすと、乙第83号証中被控訴人主張に沿う部分は、採用することができない。
3 本件著作物の創作性について
(1) キューピーイラスト(本件イラスト著作物中のキューピーのイラスト)の形態は、1.裸で立っている、2.全身が三頭身である、3.掌を広げている、4.頭は丸い、5.髪の毛は中央部が突出して額にまで細く流れている、6.耳のそばにカールした髪がある、7.顔は頬がふっくらと丸い、8.目は丸くパッチリしている、9.眉毛は小さく目との間隔が広い、10鼻は小さく丸い、11口はほほ笑んでいる、12背中に小さな双翼がある、13腹が膨れている、14性別は判別できない、15陽気に笑っているか茶目っ気のある表情をしている、という特徴を有するものと認められ、その他の特徴を含め総合的に考察すると、キューピーイラストは、従来のキューピッドのイラストと異なり、新たな空想上の存在を感得させる独創的なものであって、従来、子供、天使、キューピッド等の題材を扱った作品におけるこれらの表現として不可避又は一般的なものにとどまらない創作性を有するものと認められる。
 また、本件著作物の複製物である本件人形を撮影した甲第2号証によれば、本件人形の形態は、キューピーイラストの有する上記表現上の特徴をすべて具備していることに加え、これを変形して立体的に表現したという点において新たな創作性が付与されたものと認められる。したがって、本件著作物は、ローズ・オニールがその制作に先立って創作したキューピーイラストの二次的著作物として創作性を有するというべきである。なお、1910年作品中のキューピーのイラストは、キューピーイラスト(本件イラスト著作物中のキューピーのイラスト)の複製物であって、その創作により新たな著作権が生ずるものではないから、本件著作物の原著作物であるということはできない。
(2) 被控訴人は、本件人形の表現上の特徴について、いずれも「かわいらしい幼児の天使の立像」の一般的特徴であり、他の著作物にも多く認められるものであると主張する。しかしながら、「かわいらしい幼児の天使の立像」自体、その表現が多種多様であり得るのであって、そのような立像に新たな創作性が付与されたものであれば、旧著作権法及び現行著作権法上の著作物というべきである。上記のとおり、キューピーイラストが従来の作品における子供、天使、キューピッド等の表現として不可避又は一般的な表現にとどまらず、むしろ、新たな空想上の存在を感得させる表現上の創作性を有する以上、これを立体的に表現した本件著作物もまた、その創作性を認めることができる。
(3) また、被控訴人は、ローズ・オニールの先行著作物が本件人形の特徴である、1.先のとがった頭髪、2.背に付された小さな双翼、3.ふっくらした幼児の体型等すべての特徴を備えており、本件人形がこれら作品の複製物にすぎないと主張するので、検討する。
ア Two Valentines イラスト(甲44)との対比
 Two Valentines イラストは、髪の毛が通常の幼児の量であり、 目の形も通常の幼児の大きさと比べて違和感がなく、頭部の突起が余り目立たないなど、全体的に受ける印象が人間の幼児に近いものである点で、空想上の存在である印象の強い本件人形と異なっている。また、上記イラストは、背部の双翼が目立つ点でも、本件人形と異なっている。
イ 1903年作品(甲80、乙14)との対比
 当審で提出された甲第80号証によれば、1903年作品は、毛髪及び眉毛が不明りょうで、口及び鼻がほぼ点で描かれ、双翼が比較的明りょうで、上目遣いで哀願するような悲しい表情をしているという点において、本件人形と異なっている。なお、原審で提出された乙第14号証は、全体的に不鮮明であって、このような比較は困難である。
ウ 1905年作品(甲45、乙17)との対比
 1905年作品は、髪の毛が通常の幼児の量であり、顔及び身体が写実的に描かれており、頭部の突起があるものの毛髪の量に比してさほど違和感がないなど、全体的に受ける印象が人間の幼児に近いものである点で、空想上の存在である印象の強い本件人形と異なっている。また、上記作品は、目を閉じて下を向き、表情が暗く、背部の双翼が目立つ点でも、本件人形と異なっている。
エ 1906年作品(乙18)との対比
 1906年作品は、側頭部において髪の毛が比較的明りょうであり、頭の突起があるものの毛髪の量に比してさほど違和感がないなど、全体的に受ける印象が人間の幼児に近いものである点で、空想上の存在である印象の強い本件人形と異なっている。他方、上記作品は、恥ずかしげな表情をしており、背部の双翼が目立つ点でも、本件人形と異なっている。
(4) 本件著作物は、これら先行著作物と異なり、キューピーイラストの表現上の特徴をすべて備えており、これを立体的に表現したという点においてのみ創作性を有すると認められることは上記のとおりであるから、本件著作物は、キューピーイラストを原著作物とし、これを立体的に表現したという点においてのみ創作性を有する二次的著作物であるというべきであって、被控訴人主張の先行著作物の二次的著作物ということはできない。
4 美術の著作物の該当性について
(1) 本件著作権は、日米著作権条約及び旧著作権法により我が国国内において生ずる著作権であるから、権利発生の実体的要件については、我が国の旧著作権法が適用されるべきである。上記のとおり、本件著作物は、キューピーイラストを原著作物とし、これを立体的に表現した二次的著作物であるところ、キューピーイラストは、美術の著作物に属するイラストとして著作物性を有し、本件著作物は、これを立体的に表現したという点において更に創作性が付加されているから、旧著作権法1条に規定する「美術ノ範囲ニ属スル著作物」として旧著作権法により保護されるということができる。なお、1903年アメリカ合衆国著作権法が保護の対象としていなかったものについては、日米著作権条約に規定する内国民待遇の射程が問題となる余地がないわけではないが、美術の著作物である本件著作物については、1903年アメリカ合衆国著作権法によっても保護されることは明らかであり、現に上記のとおり同国において著作権登録もされているから、この点でも、本件著作物が旧著作権法により保護を受けることに問題はない。
(2) 被控訴人は、本件人形が金型を用いて大量生産され、いわゆる応用美術に当たるから、原図又は原型を離れて独立した著作物として旧著作権法及び現行著作権法による保護を受けることはできないと主張する。しかしながら、上記認定のとおり、本件人形は、ローズ・オニール自身が戯れに彫ったキューピーの小さな彫像を複製して制作されたものであるところ、控訴人の主張する本件著作権は、玩具工場等において大量に複製されたキューピー人形そのものではなく、ローズ・オニール自身が彫った上記キューピーの小さな彫像(本件著作物)に係る著作権をいうものと解すべきであるから、甲第2号証に撮影された人形自体が金型を用いて大量生産されたものであるとしても、そのことは、本件著作物が美術の著作物であることを否定する理由とはならない。
(3) また、被控訴人は、本件人形が制作された1913年当時、意匠に係るものが意匠法で保護されるのは別として、工業上の利用を目的とする美術品及び工芸品に旧著作権法の適用はなかったと主張するが、上記認定のとおり、ローズ・オニール自身が戯れに彫った上記キューピーの小さな彫像(本件著作物)は、複数の玩具工場がキューピー人形の工業的大量生産を申し出た以前に、キューピーイラストを立体的に表現した美術の著作物として制作されたものということができる。なお、本件人形が、その後、玩具工場からの申出により大量に複製頒布されたとしても、このことによって本件著作物の著作物性が喪失すると解すべき理由はない。
(4) なお、万国条約特例法11条が本件人形に適用される余地はないとする被控訴人の主張は、本件著作物が美術の著作物に当たらないことを前提とするものであり、また、本件人形が大量生産品であり美の表現を追求して制作されたものとはいえないとする被控訴人の主張は、本件著作物の制作経緯に係る上記認定事実と異なる事実を前提とするものであり、いずれもその前提を欠き採用することができない。
5 著作権表示の要否について
(1) 本件著作物が発行された1913年当時、日米両国は、日米著作権条約により相互に内国民待遇を与えていたところ、アメリカ合衆国国民が同国内において創作、発行した著作物が日米著作権条約及び我が国著作権法により我が国において保護を受けるためには、我が国国民の著作物及び我が国において発行された著作物と同様、何らの方式を要せず、単に著作物を創作するだけで足り、発行に際して著作権表示を付すことを要しないと解するのが相当である。なぜならば、著作権保護における内国民待遇とは、締約国の国民の著作物又は締約国で第一発行された著作物が、他の締約国において当該国の著作物と同様の保護を受けることを意味するところ(万国条約3 条1、ベルヌ条約5条(1)参照)、当該国の著 作物と同様の保護とは 、著作権保護に一定の方式を要する当該国においては、その方式 を具備することを要し、上記方式を要しない当該国においては、その方式を要しないと解するのが「同様の保護」という内国民待遇の内容に沿うからである。また、このように解さなければ、無方式主義を採る国において発行された著作物と方式主義を採る国において発行された著作物との間において、合理性を欠く保護の不均衡を生ずるといわなければならない。
 そして、方式主義国と無方式主義国との調整を図る万国条約が、方式主義国における著作権保護のために当該方式国外において発行された著作物について著作権表示を要件とし(3条1)、無方式国における保護についてこれに対応する規定を設けていないのは、上記の趣旨に基づくものと解することができる。
 そうすると、日米両国が相互に内国民待遇を許与していた日米著作権条約の下において、アメリカ合衆国国民の創作した著作物が無方式主義を採る我が国旧著作権法の下において保護を受けるために、著作権表示を付することは不要であったというべきであるから、本件著作物がアメリカ合衆国において著作権表示を付さずに発行されたとしても、このことにより、我が国において旧著作権法による保護を受けることができなくなるものではない。
(2) 被控訴人は、ローズ・オニールが本件人形と同一形態の意匠について意匠特許登録をし、同意匠に係るアメリカ合衆国意匠特許公報が著作権表示を付さずに公刊されたことを主張するが、上記のとおり、アメリカ合衆国国民の創作した著作物が無方式主義を採る我が国において保護を受けるためには、著作権表示を付することは不要であったというべきであるから、上記意匠特許公報が公刊されたからといって、本件著作物が我が国において保護を受けることができなくなるものではない。
6 意匠特許の取得について
(1) 内国民待遇とは上記のような意味を有し、したがって、日米著作権条約による内国民待遇とは、アメリカ合衆国国内において同国国民の発行した著作物に対し、旧著作権法の下において我が国の著作物が受けるのと同様の保護を与えることを意味する。我が国旧著作権法の下において、著作者が当該著作物と同一の形態の意匠について意匠権を取得しても、当該著作物について旧著作権法上の保護を受けることができなくなると解すべき根拠はないから、ローズ・オニールが本件人形と同一形態の意匠について意匠権を取得したことは、我が国における本件著作権の消滅事由とはならない。
(2) 被控訴人は、1913年当時のアメリカ合衆国法の下においては、著作者がある作品について意匠特許を申請し登録を得た場合には、著作権法上の保護を受けることはできないとされていた旨主張する。
 しかしながら、仮に、1913年当時のアメリカ合衆国が意匠特許の取得により同一形態の著作物の著作権が消滅するという法制度を採用していたとしても、日米著作権条約による内国民待遇が我が国において我が国旧著作権法による保護を意味する以上、上記のとおり、本件著作権が我が国において消滅したと解することはできない。また、ローズ・オニールがアメリカ合衆国において意匠特許を取得したとしても、当該意匠特許の効力は、同国国内に限られ、我が国には及ばないから、我が国において著作権と意匠権による二重の保護という事態は生じない。したがって、この点においても、本件著作権が我が国において保護を受けることができなくなるということはできず、被控訴人の主張は採用の限りではない。
7 著作権の保護期間について
(1) 明治39年5月11日に公布された日米著作権条約は、日米両国民 の内国民待遇を規定しており(1条)、その後、昭和27年4月28日に公布された平和条約7条(a)により日米著作権条約は廃棄されたが、アメリカ合衆国を本国とし、同国国民を著作者とする著作物に対し、平和条約12条(b)(1)(ii)及び外務省告示により、昭和27年4月28 日から4年間、引き続 き内国民待遇が与 えられるとともに、昭和31 年4月27日までの間、日米著作権条約が有 効であるとみなされた。 上記の著作物については、上 記4年間の経過と同時に、万国条約特例法11条に基づき、今日に至るまで引き続き内国民待遇が与えられていると解される。
 1910年ないし1912年の間に本件著作物を創作し1913年にこれをアメリカ合衆国において発行したローズ・オニールは、日米著作権条約及び旧著作権法により、我が国における本件著作権を取得し、その保護期間は、旧著作権法3条、52条1項により、著作者であるローズ・オニールの死後38年とされた。日米著作権条約は、平和条約7 条(a)により廃棄され たが、平和条約12 条(b)(1)(ii)、外務省告示 及び万国条約特例法11条により、内国民待遇が継続された。ローズ・オニールは、1944年4月6日 、アメリカ合衆国ミズーリ州にお いて死亡し、本件著作権の保護期間中である昭和46年1月1日に施行された現行著作権法51条により、本件著作権が著作権者であるローズ・オニールの死後50年間とされ、また、連合国特例法4条1項により、本件著作権の保護期間について3794日間の戦時加算がされる結果、2005年5月6日まで存続することとなるから、本件著作権は、現在も保護期間が満了していない。
(2) 被控訴人は、ベルヌ条約が万国条約及び万国条約特例法に優先するため、本件著作権についても、ベルヌ条約が適用され、万国条約特例法11条の適用が排除されると主張する。そして、1909年アメリカ合衆国著作権法は、著作権の保護期間は最初の発行後28年であり、この保護期間経過1年前までに連邦著作権局に対して更新の申請をして登録がされた場合には、更に28年の更新が認められる旨規定していたから、更新手続が執られたことの証拠のない本件著作物の同国における著作権は、1941年に保護期間が満了している。しかしながら、万国条約特例法は、万国条約の実施に伴い、著作権法の特例を定めることを目的とするところ(1条)、同法附則2項において、万国条約特例法施行前に発行された著作物については原則としてその適用がない旨を規定し、他方、同項括弧書により、同法11条については、同法施行前に発行された著作物についても適用される旨を規定している。また、同法11条は、平和条約25条に規定する連合国で同法施行の際万国条約締結国であるもの及びその国民を著作権者とし、平和条約12条の規定に基づいて旧著作権法による保護を受けている著作物について、引き続き同一の保護を受ける旨規定する。万国条約特例法11条が平和条約25条に規定する連合国及びその国民(以下「連合国国民」という。)の著作物であることを要件としているのは、連合国と我が国との間で効力を生じた条約が平和条約7条(a)により廃棄されたためである。万国条約特例法11条は、平和条約12条(b)(1)(ii)及び外務省告示により4年間に限り内国民待 遇が継続されたものの、平和条約の失効により、それまで内国民待遇を与えられていた連合国国民を著作者とする著作物の著作権が我が国において消滅することを避けるため、万国条約19条の趣旨及び既得権尊重という一般法理念に基づき、著作権法の特例として、上記著作物について特に内国民待遇を継続してその保護を図ったものと解される。そうすると、万国条約特例法が万国条約の実施のみを目的とする法律であるということはできず、同法11条は、平和条約12条及び外務省告示が失効した後において、既得権尊重という一般法理念及び国際信義の観点から、国際法上は保護義務を負わなくなる著作物を引き続き国内法上保護するものというべきであるから、このような万国条約特例法11条の趣旨に照らすと、同条は、連合国国民の著作物を特に保護する規定として、アメリカ合衆国のベルヌ条約加入の後も引き続き適用されるものと解するのが相当である。
 また、被控訴人は、同一当事国間においてベルヌ条約と万国条約の双方が有効な場合について、万国条約17条及び同条に関する附属宣言は、万国条約を排除し、ベルヌ条約を適用することを定めていることを主張する。しかしながら、現在、日米両国間の著作権保護について適用される条約はベルヌ条約であり万国条約は適用されないとしても、上記のとおり、万国条約特例法11条が、その趣旨に照らし、連合国国民の著作物を特に保護する規定としてアメリカ合衆国のベルヌ条約加入の後も引き続き適用されるものである以上、ベルヌ条約が万国条約に優先するからといって、我が国国内法である万国条約特例法11条の適用が排除されるべきものではない。また、ベルヌ条約は、同盟国間において内国民待遇等の著作権保護を定める条約であるが、同盟国がベルヌ条約の規定を超えて連合国国民の著作権を保護することを禁止するものと解すべき根拠はないから、アメリカ合衆国国民の著作物について内国民待遇を継続する万国条約特例法11条がベルヌ条約に反するものではない。
(3) 万国条約特例法10条は、同法がベルヌ条約同盟国を本国とすル 著作物については適用されない旨規定するが、同条は、同法附則2 項により、万国条約特例法施行前に発行された著作物である本件著作物への適用が排除されているから、後にアメリカ合衆国がベルヌ条約に加入しても、本件著作物について同法10条が適用される余地はないと解するのが同法の文理に合致する。また、保護期間の相互主義を定める著作権法58条(ベルヌ条約7条(8)の許容するところである。)は、同法2章4節に規定されているところ、同法附則7条は 、同法施行前に公表された著作物の著作権の存続期間について、同法2章4節の定める期間より旧著作権法による著作権の存続期間の方が長いときはなお従前の例によると規定しており、著作権法2章4節の規定により旧著作権法の定める保護期間が短縮されることを想定していない。旧著作権法において、ベルヌ条約同盟国を本国とする著作物について著作権の保護期間の相互主義を定めた規定はないから、ベルヌ条約には遡及効がある(同条約18条(1))からとい って 、アメリカ合衆国が同条約に加入したことに伴い著作権法58条の 遡及的適用により本件著作権の保護期間が短縮又は消 滅すると解することは、同法附則7条の趣旨にも反するというべきである。
 また、アメリカ合衆国がベルヌ条約に加入したことに伴い著作権の保護期間について相互主義が遡及的に適用されると解することは、既に生じた私権について後の法改正により遡及的にこれを消滅させることとなるが、このような法改正は、私権保護及び法的安定性の観点から是認することができず、特に法令に明文の規定を欠く以上、解釈によりそのような結果を招来させるためには、そのような解釈を正当とする十分な根拠を要するというべきである。しかしながら、そのような遡及適用を肯定する解釈は、上記のとおり、万国条約特例法附則2項及び著作権法附則7条の文理及び法の趣旨に反する上、現行著作権法制とも整合しない。すなわち、著作権法は、その施行に際し、特に附則26条において、万国条約特例法11条の「著作権法」を「旧著作権法(明治三十二年法律第三十九号)」に改め、「その保護」の下に「(著作権法の施行の際当該保護を受けている著作物については、同法の保護)」を加える改正を行い、万国条約特例法11条により保護を受けている著作物が現行著作権法の下において引き続き保護される旨を明記する法改正をしながら、同条に規定する内国民待遇と著作権法58条に規定するベルヌ条約同盟国間における保護期間の相互主義との関係について、特段の規定を置いておらず、そのほか、著作権法の施行及びアメリカ合衆国のベルヌ条約加入に際し、上記内国民待遇とベルヌ条約同盟国間における保護期間の相互主義の調整を図るために特段の立法もされていない。そうすると、私権保護及び法的安定性を犠牲にし、あえて内国民待遇に優先して保護期間の相互主義を遡及適用すべき法令上の根拠も、そのような法解釈を採るべき合理的理由も見いだすことができない。したがって、アメリカ合衆国のベルヌ条約加入により著作権法58条を遡及的に適用すべきであるとする被控訴人の主張は、採用することができない。
(4) なお、付言すると、以上のとおり、本件著作物は、本国であるアメリカ合衆国において1941年に保護期間が満了したにもかかわらず、我が国においては、その後60年を経過した今日において、なお本件著作権が存続していることとなるが、このような結論に対しては、一見したところ、不自然な感を受けないわけではない。しかしながら、ベルヌ条約及び万国条約は、いずれも内国民待遇の原則に則っているが、本質的には抵触法条約であって、超国家的な実体法のまとまったシステムを課しているわけではないから、加盟国の国内実体法同士がかなりの程度に異なっている場合には、著作物の保護の程度にも差異を来し、最初に発行された国では保護を受けないような著作物でも、他の加盟国では保護を受けるという事態も生じ得るところである。本件において、こうした事態を招いた第一の理由は、本件人形の創作当時、アメリカ合衆国著作権法が創作から28年間の保護期間を定めていたのに対し、我が国の旧著作権法が著作者の死後38年の保護期間を定めていたことにある。当時のアメリカ合衆国著作権法は、著作権の更新の制度を有し、更新の有無及び著作者の死亡時期によっては、必ずしも我が国旧著作権法による保護期間の方が長期であるとは限らなかった。また、内国民待遇とは、条約締結国国民の著作物を我が国国民の著作物と同様に保護することを意味し、我が国国民の著作物に優先して保護するものではない。日米著作権条約及び旧著作権法により、我が国国民の著作物とアメリカ合衆国国民の著作物は、その保護期間を含め、完全に平等に保護されていたのである。平和条約、外務省告示及び万国条約特例法が内国民待遇を継続したということは、このような内外国人平等の保護を継続したということを意味し、それ以上の意味はない。
 本件著作物に対し、当時の我が国国民の著作物と比べより長期の保護期間が与えられたのは、連合国特例法4条1項により、アメリカ合衆国国民の著作物に対し保護期間を10年以上加算したことによるものであって、確かに、同項が施行されていなかったならば、本件著作権は既に保護期間が満了していたこととなる。しかしながら、大戦の敗戦国において、このような措置を採ったのが我が国のみであったとしても、我が国が独自の判断によりこのような措置を採ったことは、大戦後の特殊な諸般の状況に照らし、立法政策上、合理性を認めることができるから、本件著作権の保護期間を判断するに当たり、連合国特例法4条1項による約10年の戦時加算をすべきことは当然であり、これによって導かれる保護期間を他の法令の解釈により調整することは、法解釈として正当なものということはできない。
8 本件著作権の控訴人に対する譲渡について
(1) 相続人が、その相続に係る不動産持分について、第三者に対してした処分に権利移転の効果が生ずるかどうかという問題に適用されるべき法律は、法例10条2項により、その 原因である事実の完成 した当時における目的物の所在地法であって、相続の準拠法では ないことは、判例とするところであるから(最高裁平成6年3月8日第 三小法廷判決・民集48巻3号835頁)、本件著作権の譲渡は、アメリカ合衆国国民であり同国ミズーリ州において死亡した亡ローズ・オニールの相続財産の処分ではあるけれども、本件著作権の譲渡について適用されるべき準拠法は、相続の準拠法として同州法とされるべきでないことは、上記判例の趣旨からも明らかである。
 そして、著作権の譲渡について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては、譲渡の原因関係である契約等の債権行為と、目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し、それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。
(2) まず、著作権の譲渡の原因である債権行為に適用されるべき準拠法について判断する。いわゆる国際仲裁における仲裁契約の成立及び効力については、法例7条1項により、第一次的には当事者の意思に従ってその準拠法が定められるべきものと解するのが相当であり、仲裁契約中で上記準拠法について明示の合意がされていない場合であっても、主たる契約の内容その他諸般の事情に照らし、当事者による黙示の準拠法の合意があると認められるときには、これによるべきものとされている(最高裁平成9年9月4日第一小法廷判決 ・民集51巻8号3657頁)。著作権移転の原因行為である譲渡契約の 成立及び効力について適用されるべき準拠法は、法律行為の準拠法一般について規定する法例7条1項により、第一次的には当事者の意思に従うべきところ、著作権譲渡契約中でその準拠法について明示の合意がされていない場合であっても、契約の内容、当事者、目的物その他諸般の事情に照らし、当事者による黙示の準拠法の合意があると認められるときには、これによるべきである。控訴人の主張する本件著作権の譲渡契約は、アメリカ合衆国ミズーリ州法に基づいて設立された遺産財団が、我が国国民である控訴人に対し、我が国国内において効力を有する本件著作権を譲渡するというものであるから、同契約中で準拠法について明示の合意がされたことが明らかでない本件においては、我が国の法令を準拠法とする旨の黙示の合意が成立したものと推認するのが相当である。
(3) 証拠によれば、以下の事実が認められる。
 本件著作権は、ローズ・オニールの死後、同人の遺産を管理する遺産財団に承継され、ミズーリ州タニー郡巡回裁判所により、ポール・オニールが遺産財団管財人に選任された。ポール・オニールは、1964年3月18日、同裁判所の命令を受けて任務 を終了したものの 、1997年7月14日、ローズ・オニールの新たな財産が発見されたと して、デビッド・オ ニールから同裁判 所に対し遺産財団管財人選任の申立てがされ、同裁判所は、同月15日 、デビッド・オニールを遺産財団管財人に選任した(甲4、5)。
 控訴人は、平成10年5月1日、遺産財団から、本件著作権を含むローズ・オニールが創作したすべてのキューピー作品に係る我が国著作権等を、頭金として15,000アメリカドル、ランニング・ロイヤリティとしてキューピー製品及び物品に係る控訴人自身の純収入の2%を支払うほか、キューピー作品に関して第三者から受領した金額の2分の1を対価として支払う旨の約定により譲り受けた(甲105)。
 被控訴人は、控訴人が本件著作権等の対価を当審口頭弁論終結日まで明らかにしなかったことを理由に控訴人主張の譲渡が虚構である旨主張し、確かに、この点に係る控訴人の訴訟遂行は問題なしとしないが、このことから直ちに、上記著作権譲渡契約の存在を否定することはできず、他に上記の認定を左右するに足りる証拠はない。
 したがって、控訴人と遺産財団とは、本件著作権について、上記譲渡契約を有効に締結したということができる。
(4) 次に、著作権の物権類似の支配関係の変動について適用される べき準拠法について 判断する。一般に、物権の内容、効 力、得喪 の要件等は、目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされ、法例10条は、その趣旨に基づくものであるが、 その理由は、物 権が物の直接的利用に関する権利であり、第三者に対する排他的効力を有することから、そのような権利関係については、目的物の所在地の法令を適用することが最も自然であり、権利の目的の達成及び第三者の利益保護という要請に最も適合することにあると解される。著作権は、その権利の内容及び効力がこれを保護する国(以下「保護国」という。)の法令によって定められ、また、著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有するから、物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様の理由により、著作権という物権類似の支配関係の変動については、保護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当である。
(5) そうすると、本件著作権の物権類似の支配関係の変動については、保護国である我が国の法令が準拠法となるから、著作権の移転の効力が原因となる譲渡契約の締結により直ちに生ずるとされている我が国の法令の下においては、上記の本件著作権譲渡契約が締結されたことにより、本件著作権は遺産財団から控訴人に移転したものというべきである。
9 本件著作権の第三者への譲渡について
(1) 被控訴人は、遺産財団管財人ポール・オニールが遅くとも1948年6月5日までに本件著作権を含むキューピー作品に係る著作権をジョゼフ・カラスに譲渡したと主張する。
(2) しかしながら、仮に、遺産財団管財人ポール・オニールがジョゼフ・カラスに対し本件著作権を譲渡し、この譲渡契約が有効であるとしても、上記のとおり、遺産財団から控訴人に対する本件著作権譲渡による物権類似の支配関係の変動については、本件著作権の保護国である我が国の法令が準拠法となるから、本件著作権について、ジョゼフ・カラスに対する譲渡と控訴人に対する譲渡とが二重譲渡の関係に立つにすぎず、控訴人に対する本件著作権の移転が効力を失うものではない。
 我が国著作権法上、被控訴人は、本件著作権について、譲渡を受け、又は利用許諾を受けるなど、控訴人が本件著作権譲渡の対抗要件を欠くことを主張し得る法律上の利害関係を有しないから、控訴人は、被控訴人に対し、対抗要件の具備を問うまでもなく、本件著作権を行使することができる。なお、本件著作権譲渡の法律効果について我が国著作権法が適用されるということは、著作権譲渡の対抗要件についても同様であることを意味するところ、控訴人は、遺産財団から本件著作権の譲渡を受けたことについて、我が国著作権法77条1号に基づく著作権の登録申請手続を行い、平成10年8月25日に登録を受けた結果、上記対抗要件を具備していることは上記2(1)認定のとおりであるから、この点において も、被控訴人の主張は 理由がない。
10 訴訟信託について
(1) 上記のとおり、本件著作権譲渡契約の有効性については、我が国の法令が準拠法となるところ、我が国の法令上、遺産財団から控訴人に対する本件著作権の譲渡が訴訟行為をさせることを主たる目的とする訴訟信託に当たると認めるに足りる証拠はない。
(2) 被控訴人は、控訴人が本件著作権の譲渡を受けて間もなく本件訴訟を提起したことを主張するが、このことから直ちに訴訟信託が推認されるものではない上、控訴人は、上記認定のとおり、遺産財団に対して相当額の対価の支払を約し、また、本件訴訟の遂行を弁護士である訴訟代理人に委任し、同代理人が原審及び当審の口頭弁論期日に出頭して訴訟を遂行していることは訴訟上明らかであるから、この点においても、本件著作権の譲渡が訴訟信託であるとは認め難い。
11 本件著作権の放棄について
(1) 元来、著作権は、各国ごとに成立要件、効力、保護期間等を異にするものであること、ローズ・オニール又はその承継人が本件著作権について明示的に放棄の意思表示をしたことを認めるに足りる証拠はないことに照らすと、ローズ・オニールがアメリカ合衆国法上本件著作権について更新手続を執らなかったことをもって、我が国における本件著作権を放棄したと評価することはできない。
(2) 被控訴人は、ローズ・オニールが同人の許諾を得ていない日本製のキューピー人形の存在を知っていたこと、ローズ・オニールは更新手続を執らないことによりアメリカ合衆国国内における本件著作権が消滅することを熟知していたこと、本件著作権の権利者が本件訴訟提起まで許諾を得ない日本製キューピー人形の製造者等に対し本件著作権等の権利行使をしなかったことなどを主張するが、これらの事実をもってしても、上記認定が左右されるものではなく、他に、我が国における本件著作権の放棄がされたことを認めるに足りる証拠はない。
12 権利の失効について
(1) 権利を有する者が久しきにわたりこれを行使せず、相手方においてその権利はもはや行使されないものと信頼すべき正当の事由を有するに至ったため、その後にこれを行使することが信義誠実に反すると認められるような特段の事由がある場合には、上記権利の行使は許されないとして、いわゆる失効の原則が適用される場合のあることは、判例とするところである(最高裁昭和30年11月22日第三小法廷判決・民集9巻12号1781頁、同昭和40 年4月6日第三小法廷判 決・民集19巻3号564頁)。
(2) しかしながら、本件において、被控訴人は、被控訴人が現在に至るまで70年以上にわたり被控訴人商標等を使用し続けてきたこと、ローズ・オニール及びその承継人が、その間、本件著作権の行使をしなかったことなどを主張するが、それだけでは、上記法理の適用により本件著作権の権利行使の不許ないし権利の消滅を根拠付けるに足りる事情ということはできないから、被控訴人の主張は採用の限りではない。
 なお、被控訴人は、権利の失効について権利濫用を基礎付ける事情としても主張するが、本件においては、後記のとおり、被控訴人が本件著作物の複製又は翻案をしたものとは認められないから、権利濫用の成否については判断しない。
13 以上のとおりであるから、控訴人は、本件著作権の著作権者 であるというべきである。
14 複製又は翻案について
(1) 二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分についてのみ生じ、原著作物と共通し、その実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である(最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁 )。これを本件に ついてみると、上記のとおり、本件著作物は、本件イラスト著作物中に描かれたキュー ピーイラストを原 著作物とする二次的著作物であり、また、原著作物であるキューピー イラストを立体的に表現した点においてのみ創作性を有するから、立体的に表現したという点を除く部分については、キューピーイラストと共通しその実質を同じくするものとして、本件著作権の効力は及ばないというべきである。
(2) そこで、この見地から控訴人主張の複製又は翻案の成否について判断すると、本件著作物それ自体が証拠として提出されていない本件においては、その複製物である本件人形と被控訴人イラスト等を対比検討するのが相当である。
ア まず、被控訴人人形を本件人形と対比すると、両者とも、裸の中性的なふっくらとした乳幼児の体型をした人形であり、頭部が全身と比較して大きく、後頭部の中心が突き出したように張り出ている点、頭の中央部分及び左右の部分にとがった形状の特徴的な髪の毛が生え、中央部分の毛は前に垂れ、その余の部分には髪の毛がなく、後頭部ないし両肩部に小さな双翼を備えているなどの点で共通した特徴がある。しかしながら、立体的な表現という観点も踏まえ、更に検討すると、以下のとおりの差異が認められる。すなわち、被控訴人人形は、眉が円弧状にやや厚みをもって描かれているのに対し、本件人形は、眉が点のように描かれている。被控訴人人形は、口の両端が膨れた頬に埋まるかのように厚みをもって表現され、長さは両目の間とほぼ同距離であり、わずかに開き、ほぼ直線であるのに対し、本件人形では、口が下向きの単純な円弧の線として表現され、左右の目の中央部付近にまで広がっている。被控訴人人形は、鼻が二つの穴まで表現されているのに対し、本件人形は、鼻がわずかな膨らみで表現され二つの穴はない。被控訴人人形は、頬が膨らみ少し下方に垂れているのに対し、本件人形は、頬が下方に垂れていない。被控訴人人形は、双翼が両肩部に付けられ貝殻状をしているのに対し、本件人形は、双翼が後頭部から首の後方部左右に付けられている。被控訴人人形は、胴体は尻の部分が最も太いのに対し、本件人形は、胴中央部が最も太い。被控訴人人形は、膝が上下に溝を付けることで表現されているのに対し、本件人形は、膝には溝がない。被控訴人人形は、手の甲及び指の根本にくぼみが表現されているのに対し、本件人形は、その表現がない。被控訴人人形は、尻が背中部分に比べ後方に突き出しているのに対し、本件人形は、背中から尻にかけて突き出すことなく連続して、下方に向けて狭まっている。
イ 次に、被控訴人イラストは、平面的な著作物であるから、立体的な本件著作物の創作的な表現が再生されているというためには、被控訴人イラストから立体的な表現を看取することができるか、看取された立体的表現が本件人形の内容及び形式を覚知させるか、又は本件著作物の本質的な特徴を直接感得させるものであることを要するというべきである。この観点から被控訴人イラストを見ると、その表現は平面的であって、人形が描かれているという点においてのみわずかに立体的表現が看取されるというにとどまり、本件著作物の内容及び形式、本質的な特徴のいずれも感得させるものとはいい難い。さらに、表現の細部について被控訴人イラストを本件人形と対比すると、以下のとおりである。すなわち、被控訴人イラストは、頭頂部のみに髪の毛があるのに対し、本件人形は、頭部の中央及び左右にわずかに髪の毛が生えている。被控訴人イラストは眉が無いのに対し、本件人形は眉がある。被控訴人イラストは、はっきりと大きく丸みを帯びた耳が描かれているのに対し、本件人形は、耳の存在が不明りょうである。被控訴人イラストは、口を短く描き、黒目が左下方を向いているのに対し、本件人形は、口が左右に細長く、黒目が左方を向いている。被控訴人イラストは、へそが黒く塗りつぶした円で強調して表現されているのに対し、本件人形は、このように強調した表現がされていない。被控訴人イラストは、胴から両足の部分について輪郭線が円弧状に連続的に描かれているのに対し、本件人形は、Y字状のくびれが表現されている。被控訴人イラストは、双翼が両腕の上からはっきりと視認し得るのに対し、本件人形は、正面からはこれが明確には視認し得ない。被控訴人イラストは、膝が表現されていないのに対し、本件人形は、膝小僧が表現されている。
(3) そうすると、本件著作物が原著作物であるキューピーイラストを立体的に表現した点においてのみ創作性を有し、その余の部分に本件著作権は及ばず、他方、被控訴人イラスト等が上記の諸点において本件人形と相違し、全体的に考察しても受ける印象が本件人形と異なることに照らすと、本件著作物において先行著作物に新たに付加された創作的部分は、被控訴人イラスト等において感得されないから、被控訴人イラスト等は、本件著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものでもなく、また、本件著作物の本質的な特徴を直接感得させるものでもないから、本件著作物の複製物又は翻案物に当たらないことは明白である。
(4) 控訴人は、本件著作物の原著作物であるキューピーイラストについて我が国における保護期間が満了していないことを理由として、本件著作権の効力が原著作物に新たに付加された創作的部分についてのみならず本件著作物全体に及んでいると主張する。
 しかしながら、二次的著作物の著作権が原著作物に新たに付加された創作的部分についてのみ生ずることは、二次的著作物の著作権者が原著作物について著作権を有していることによって影響を受けないと解するのが相当である。なぜならば、二次的著作物が原著作物から独立した別個の著作物として著作権法上の保護を受けるのは、原著作物に新たな創作的要素が付加されているためであって、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分は、何ら新たな創作的要素を含むものではなく、別個の著作物として保護すべき理由がないところ(上記最高裁判決)、我が国において原著作物の著作権について保護期間が満了しておらず、かつ、二次的著作物の著作権者が原著作物の著作権者であるからといって、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分について別個の著作物として保護すべき理由がないという点では、二次的著作物の著作権者が原著作物の著作権者でない場合と何ら異なるところはないからである。
 したがって、キューピーイラストの著作権について我が国における保護期間が満了しておらず、かつ、控訴人がその著作権者であるということは、本件著作権の権利範囲に影響を及ぼさないというべきであり、控訴人の主張は、採用することができない。
(5) また、控訴人は、原審第4回口頭弁論期日において、本件イラスト著作物について著作権の保護を求める著作物として主張する趣旨ではないし、今後もそのような趣旨の主張をするつもりはないと述べているとおり、本件において、上記原著作権に基づく請求をしていない以上、原著作物の著作権について保護期間が満了しておらず、控訴人が原著作権の著作権者であるということは、本件訴訟の結論に影響を及ぼさない。
15 したがって、被控訴人イラスト等が本件著作物の複製物又は翻案物であるということはできないから、控訴人の本件著作権に基づく差止め及び廃棄の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
16 以上のとおり、控訴人の差止め及び廃棄の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がなく、控訴人が当審において追加した著作権確認請求は理由がある。
〔研  究〕
1. この高裁判決が地裁判決と違う点は、地裁では争点を、人形の類似性、不正競争、及び権利の濫用の3点にしぼって判示したのに対し、高裁の争点は、本件著作物の特定、本件著作物の創作性、美術の著作物性、著作権表示の要否、保護期間などであった。
 これに加えて、控訴審で原告から新たに追加された本件著作権の著作権者の確認請求があったが、これについては、控訴人に確認の利益があるから、その訴えは適法である、と判示した。
2. そこで、注目されるのは、保護されるべき本件著作物について、イラストではなく、イラストによって同一人が彫った「小さい彫像」と認定したことである。しかし、この彫像自体は証拠として提出されておらず、ただUSPOで登録された意匠特許の公報中に意匠として表現された彫像をもって、これを本件人形と同一の形態を有するものと認定しているのである。このような間接的な証拠であっても、本件著作物と推定したことはやむを得ないかも知れない。
 したがって、判決は、「本件著作物の創作性について」の認定において、「本件著作物は、ローズ・オニールがその制作に先立って創作したキューピーイラスの二次的著作物として創作性を有する」と説示していることは、著作権の保護を求めている本件著作権は、二次的著作物の著作権であることになる。しかし、この二次的著作物は原著作物(イラスト)を立体に表現しただけで創作性が認められたのであり、変形という翻案の一形式と認定したのであろうが、この間に実質的同一性があるのであれば、「複製」(有形的再製.著2条1項15号)と認定することもできたはずである。
3. 判決は、「美術の著作物の該当性について」の認定において、著作権法の保護を求めた本件人形については「キューピーの小さな彫像を複製して制作されたもの」と説示していることは、彫像はイラストの翻案物(二次的著作物)であっても、本件人形はこれを同一次元に複製したものと解したことになり、控訴人が保護を求めている本件著作権は、この二次的著作物の著作権であったことになる。ということは、量産された人形自体に著作権が存すると認定したのではない。
 このように、二次的著作物にも認められた美術の著作物性を有する著作権に基づいて権利行使をすることは、その限りにおいて妥当であろう。(権利濫用の点については、何にも判示していない。)
4. 前記したとおり、本件著作物(小彫像)は、証拠として提出されていないにもかかわらず、判決は、本件人形を本件著作物の複製物と認定したが、これには問題ないのだろうか。判決は、唯一の根拠をUSPOの意匠特許公報上の意匠においたことにより、問題を回避できたと考えたようであるが、妥当だろうか。
 にもかかわらず、判決は、複製物である本件人形と被控訴人のイラストとを対比し、その結果、被控訴人イラスト等は、本件著作物の内容及び形式を覚知させるに足りず、本件著作物の本質的な特徴を直接感得させるものでもないから、本件著作物の複製物又は翻案物に当たらないと判示した。
 しかし、そのような認定による判示は妥当といえるかどうかについて、控訴人にとっても被控訴人にとっても、それぞれ十分納得することができないもやもやした気分になっているのではなかろうか。上告判決が注目される。

[牛木理一]