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市営バス車体絵の写真使用事件: 東京地裁平成13(ワ)56号.平成13年7月25日民29判決(棄却)

〔キーワード〕 
バス車体の絵、バスの写真、屋外恒常的設置の美術著作物、商業的利用、氏名表示権

 

〔事  実〕

 

1. 原告(A)は、1970年代後半に、横浜市の東急東横桜木町駅のガード下に描いたアウトドアペインティングで注目をあびて以来、横浜市と米国サンディエゴ市を拠点に、創作活動をしている画家である。
 平成6年、横浜市内の関内,伊勢佐木町,元町及び中華街など同 市都心部のパシフィコ横浜循環バス路線(通称「Yループ」)を走る横浜市営バスの車体の左右両側面部,上面部及び後面部に、絵画を描いた。
2. 被告(N書店)は、平成10年、表紙及び本文14頁左上に、原告作品が車体に描かれたバス(「本件バス」という。)の写真を掲載した被告書籍を出版,販売した。被告書籍中には、原告作品の著作者氏名は表示されていなかった。
〔争  点〕
(1) 原告作品は美術の著作物か。(請求原因)
(2) 原告作品は、著作権法46条柱書所定の美術の著作物として自由利用ができるか。(抗弁)
(3) 原告作品は、著作権法46条4号所定の行為に当たるか。(再抗 弁)
(4) 氏名表示権の侵害に当たるか。
(5) 損害額

 

〔判  断〕

 

1 争点(1)について
(1) 市営バスの車体に描いた原告作品が,「美術の著作物」に当たるか否かについて判断する。
 法2条1項1号は,「著作物」について,「思想又は感情を創作的 に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定する。「著作物」として保護されるためには,思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要であるが,創作性の程度については,制作者の独創性が発揮されたものであることまでは必要でなく,制作者の何らかの個性が表現されたものでありさえすれば足りると解すべきである。また,同号の「美術」につき,これを厳密に定義することには困難が伴うが,「空間又は物の形状,模様又は色彩を創出又は利用することによって,人の視覚を通じた美的な価値を追求する表現技術又は活動」を指すというべきである。
 そこで,「美術の著作物」として保護されるためには,「思想又は感情を創作的に表現したものであり,かつ,空間又は物の形状,模様又は色彩を創出又は利用することによる,人の視覚を通じた美的な価値を追求する表現物」であることが必要である。
(2) この観点から,以下検討する。
 前提となる事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
 原告は,平成6年,横浜市の各商店街団体が,同市のみなとみら い21地区や関内など同市中心部の活性化を図る一環として,同地区内の路線を循環する横浜市営バスの車体に横浜市街の特色を前面に打ち出したデザインを施すことを企画したのを受けて,市営バス1台の車体の両側面部,上面部及び後面部(合計4面)に,原告作品を描いた。原告作品は,別紙作品目録添付の原告作品写真のとおり,赤,青,黄及び緑の原色を用いて,人の顔,花びら,三日月,目,星,馬車,動物,建物,渦巻き,円,三角形など様々な図形を,太い刷毛を使用した独特のタッチにより,躍動感をもって,関内や馬車道をイメージして,描かれた美術作品である。
 確かに,原告作品は,市営バスの車体に描かれたものであるが,前記のとおり,原告作品を制作するに至った経緯,制作の目的,独特の表現手法に照らすならば,原告作品が,原告の個性が発揮された美術の著作物であることは疑う余地がない。
 この点について,被告は,原告作品はバスが目立つように配色し図形を描いただけの単なる装飾にすぎない旨主張するが,前記認定及び判断に照らして,同主張は採用の限りでない。
2 争点(2)について
(1) 原告作品が,「その原作品が街路,公園その他の一般公衆に開放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所」に「恒常的に設置されているもの」といえるか否かについて判断する。
 法46条柱書は,美術の著作物で「その原作品が街路,公園その他の一般公衆に開放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所」に「恒常的に設置されているもの」は,所定の場合を除き,いずれの方法によるかを問わず,利用することができる旨を規定し,屋外の場所に恒常的に設置された美術の著作物について,一定の例外事由に当たらない限り公衆による自由利用を認めている。同規定の趣旨は,美術の著作物の原作品が,不特定多数の者が自由に見ることができるような屋外の場所に恒常的に設置された場合,仮に,当該著作物の利用に対して著作権に基づく権利主張を何らの制限なく認めることになると,一般人の行動の自由を過度に抑制することになって好ましくないこと,このような場合には,一般人による自由利用を許すのが社会的慣行に合致していること,さらに,多くは著作者の意思にも沿うと解して差し支えないこと等の点を総合考慮して,屋外の場所に恒常的に設置された美術の著作物については,一般人による利用を原則的に自由としたものといえる。
(2) そこで,上記の観点から,この点を検討する。
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告作品が車体に描かれた本件バスは,横浜市営バスの中の1台であり,横浜市内の関内,伊勢佐木町,元町及び中華街など同市中心部を結ぶパシフィコ横浜循環バス路線(Yループ)を運行していること,運行時間帯及び運行間隔の詳細は必ずしも明らかでないが,毎日定期的に繰り返し循環していること,路線運行中は,不特定多数の者が,本件バスを見ることができること,夜間は,横浜市営バス専用の駐車施設内に駐車され,その間は,不特定多数の者が見ることはできないこと等の事実が認められる。
イ 上記認定事実を前提に,法46条柱書への該当性について,順にみてみる。
 まず,「屋外の場所」とは、同条所定の「一般公衆に開放されている屋外の場所」又は「一般公衆の見やすい屋外の場所」とは,不特定多数の者が見ようとすれば自由に見ることができる広く開放された場所を指すと解するのが相当である。原告作品が車体に描かれた本件バスは,市営バスとして,一般公衆に開放されている屋外の場所である公道を運行するのであるから,原告作品もまた,「一般公衆に開放されている屋外の場所」又は「一般公衆の見やすい屋外の場所」にあるというべきである。
 次に,「恒常的に設置する」とは、同条所定の「恒常的に設置する」とは,社会通念上,ある程度の長期にわたり継続して,不特定多数の者の観覧に供する状態に置くことを指すと解するのが相当である。原告作品が車体に描かれた本件バスは,特定のイベントのために,ごく短期間のみ運行されるのではなく,他の一般の市営バスと全く同様に,継続的に運行されているのであるから,原告が,公道を定期的に運行することが予定された市営バスの車体に原告作品を描いたことは,正に,美術の著作物を「恒常的に設置した」というべきである。
 この点,原告は,本件バスが,夜間,車庫内に駐車されるため,恒常的とはいえない旨主張する。しかし,広く,美術の著作物一般について,保安上等の理由から,夜間,一般人の入場や観覧を禁止することは通常あり得るのであって,このような観覧に対する制限を設けたからといって,恒常性の要請に反するとして同規定の適用を排斥する合理性はない。結局,原告のこの点の主張は理由がない。
 また,原告は,「設置する」とは,美術の著作物が,土地や建物等の不動産に固着され,また,一定の場所に固定されていなければならないと解すべきところ,本件バスは移動するので,本件バスに絵画を描くことは,設置に当たらないと主張する。確かに,同規定が適用されるものとしては,公園や公道に置かれた銅像等が典型的な例といえる。しかし,不特定多数の者が自由に見ることができる屋外に置かれた美術の著作物については,広く公衆が自由に利用できるとするのが,一般人の行動の自由の観点から好ましいなどの同規定の前記趣旨に照らすならば,「設置」の意義について,不動産に固着されたもの,あるいは一定の場所に固定されたもののような典型的な例に限定して解する合理性はないというべきである。原告のこの点の主張も理由がない。
3 争点(3)について
(1) 原告作品が車体に描かれた本件バスを撮影した写真を被告書籍に掲載して,これを販売したことが,法46条4号所定の 場合に当た るか否かについて判断する。
 法46条4号は,「専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として 複製し,又はその複製物を販売する場合」には,一般人が当該美術の著作物を自由に利用することはできない旨規定する。同規定は,法46条柱書が,前記のとおり,一般人の行動に対する過度の制約の回避,社会的慣行の尊重及び著作者の合理的意思等を考慮して,一般人の著作物の利用を自由としたことに対して,仮に,専ら複製物の販売を目的として複製する行為についてまで,著作物の利用を自由にした場合には,著作権者に対する著しい経済的不利益を与えることになりかねないため,法46条柱書の原則に対する例外を設けたものである。
 そうすると,法46条4号に該当するか否かについては,著作物を 利用した書籍等の体裁及び内容,著作物の利用態様,利用目的などを客観的に考慮して,「専ら」美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し,又はその複製物を販売する例外的な場合に当たるといえるか否か検討すべきことになる。
(2) そこで,上記観点から,この点を検討する。
(ア) 被告書籍の体裁及び内容
被告書籍は,別紙書籍目録添付の写しのとおり,全46頁からなり,縦14.8cm,横14.8cmの比較的小さなサイズの本である。表紙には,左上部に小さく「なかよし絵本シリーズ5.」と,その下に大きく「まちをはしるーはたらくじどうしゃ」と表題が付されている。
 被告書籍は,写真やイラストを用いて,町を走る各種の自動車を,幼児向けにわかりやすく解説したものであり,裏表紙には,監修者の言葉として,「新幹線や自動車など,しょっ中見ているようですが,子どもは,意外に正確な絵がかけません。お父さま,お母さまがごいっしょに,形や位置など見るポイントを,楽しく指導してあげてください。・・・」と記載さ れている。
 その内容は,パトロールカー,救急車,消防車,ブレイクスクワート車,郵便車,清掃車,バス,タクシー,キャリアカー,レスキュー車,除雪車,移動販売車,野菜直売車,穴掘り建柱車,ホイルローダー,ダンプカー,クレーン車,コンクリートミキサー車,高所作業車,テレビカー,トイレカー,テレビ中継車,タラップ車,フードローダーなど24種の自動車について,それぞれ見開き2頁を1単位として,各種の自動車の写真と簡単な説明文によって,説明がされている。
 例えば,本文1,2頁には「パトロールカー」の紹介がされ,両頁にパトカーの大きな写真が,2頁目の左上に「ふくめん パトロール カー」の小さな写真が,それぞれ掲載され,さらに,子供向けの説明文「まちをはしってみんながあんぜんで いられるようにパトロール」,父兄向けの説明文「町の中を走り,人々の安全な生活を守る警らパトカーと,見かけは一般車両ですが,緊急時にはパトカーに変わる覆面パトカーがあります。」が,それぞれ記載されている。また,本文3,4頁には「救急車」の紹介がされ,両頁に救急車の大きな写真が,4頁目の左上に「内部の様子」の小さな写真が,左下 に「血液輸送車」の小さな写真がそれぞれ掲載され,さらに,子供向けの説明文「いそげいそげきゅうびょうにんやけがにんをすばやくびょういんへはこぶんだ」,父兄向けの説明文「病人やけが人を病院まで運びます。車内は看護ができるようになっていて,救急救命士などの救命処置で生命の助かることが多くなっています。」が,それぞれ記載されている。
(イ) 原告作品の利用態様等
 表紙の掲載態様は,表紙には,前記のとおり,左上部に小さく「なかよし絵本シリーズ5.」と,その下に大きく「まちをはしるーはたらくじどうしゃ」と表題が付され,その下に,原告作品が車体に描かれた本件バスの写真が,大きく(縦約8cm,横約14cmの大きさ で)掲載されている。なお,バスの後部は,若干切れている。
 また,本文14頁の掲載態様は,本文13,14頁には「いろいろなバス」の紹介がされ,両頁に「幼稚園バス」の大きな写真が,14頁目の左欄に「路線バス」と「都営2階建てバス」及び「運転席の様子」の小さな写真が,それぞれ掲載され,さらに,子供向けの説明文「きょうもみんなのおくりむかえ」,父兄向けの説明文「幼稚園バスは,園児の送迎専用バスです。路線バスは,パシフィコ横浜循環バスです。都営2階建てバスは,葛西臨海公園より走っています。」が,それぞれ記載されている。このうち,原告作品が車体に描かれた本件バスの写真は,「路線バス」として,小さく(縦約3cm, 横約7cmの 大きさで)掲載されている。
(3) 以上認定した事実によれば,確かに,被告書籍には,原告作品を車体に描いた本件バスの写真が,表紙の中央に大きく,また,本文14頁の左上に小さく,いずれも,原告作品の特徴が感得されるような態様で掲載されているが,他方,被告書籍は,幼児向けに,写真を用いて,町を走る各種自動車を解説する目的で作られた書籍であり,合計24種類の自動車について,その外観及び役割などが説明されていること,各種自動車の写真を幼児が見ることを通じて,観察力を養い,勉強の基礎になる好奇心を高めるとの幼児教育的観点から監修されていると解されること,表紙及び本文14頁の掲載方法は,右の目的に照らして,格別不自然な態様とはいえないので,本件書籍を見る者は,本文で紹介されている各種自動車の一例として,本件バスが掲載されているとの印象を受けると考えられること等の事情を総合すると,原告作品が描かれた本件バスの写真を被告書籍に掲載し,これを販売することは,「専ら」美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し,又はその複製物を販売する行為には,該当しないというべきである。原告のこの点の主張は理由がない。
4 以上の次第であるから,原告の請求は理由がない。
 なお,被告書籍中に,原告作品の著作者氏名の表示はされていない。しかし,前記のとおり,被告書籍における著作物の利用の目的及び態様に照らし,著作者氏名を表示しないことにつき,その利益を害するおそれがないと認められる。したがって,被告の行為は,原告の有する著作者人格権侵害を構成しない。
〔研  究〕
1. 判決はまず、市営バスの車体に描いた原告作品が「美術の著作物」に該当するか否かについて検討し、次の理由によって肯定したが、妥当といえよう。
1.1 「著作物」として保護されるためには、思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要であるとしても、その創作性の程度については、「制作者の独創性が発揮されたものであることまでは必要でなく、制作者の何らかの個性が表現されたものでありさえすれば足りると解すべきである。」と判示した。
 「美術」については、「空間又は物の形状,模様又は色彩を創出又は利用することによって、人の視覚を通じた美的な価値を追及する表現技術又は活動」を指すと解した。
 ただここに、「空間」は「創出又は利用する」にかかるとすれば、絵画にあっては紙や布という無地の表面空間に思想又は感情を創作的に表現することを意味し、彫刻彫塑にあっては、立体空間に創作的に表現することを意味すると解されるが、「利用」するとは何を意味するのか不明である。
 また、「物の形状,模様又は色彩」も「創出又は利用する」にかかるとすれば、先の「空間」の場合とどこが違うのか不明であるし、意匠法にいう「意匠」の定義規定(2条1項)の前半とほぼ同一のものといえるし、「人の視覚を通じた美的な価値を追及する表現技術又は活動」とは、意匠法にいう「意匠」の定義規定の後半に酷似しているものといえる。
 したがって、「美術の著作物」とは、このような表現物をいうと判示した後、市営バス1台の車体の両側面部、上面部及び後面部(計4面)に、赤,青,黄及び緑の原色を用いて、人の顔,花びら,三日月,目,星,馬車,動物,建物,渦巻き,円,三角形などの形状を、太い刷毛を使って独特のタッチによって躍動感をもって、関内や馬車道をイメージして描いた美術作品であるから、これは原告の個性が発揮された美術の著作物であると認定し、争点(1)は解決 された。即ち、表現する場が自動車の車体面であろうと、それはキャンバスに絵を表現することと変わりないものであることが確認されたといえる。
1.2 ところで、本件絵バスの場合は、市営の運行バスの車体面をキャンバス代わりに、作者が自分の思想・感情を創作的に表現した美術作品といえるから、作者自身は屋外に恒常的に設置する絵画を自分は描いているという認識はなかったはずである。画家にとっては、キャンバスだけが自分の美を表現する媒体ではないのである。
 例えば、「カリフォルニアTシャツ」事件(東京地昭和56年4月20日判)は、Tシャツの胸部分に描かれたサーフィン姿 の絵を裁判 所は純粋美術に準ずる応用美術作品と認めたが、この絵は最初からTシャツ用に創作されたものであった。
 したがって、後記するように、第三者が撮影した“絵バス”の写真を作者に無断で自社発行の幼児用絵本に掲載し、しかも“絵バス”の作者の名前も表示しないで出版したことは、著作権(複製権)と著作者人格権の侵害となるといえるだろう。
2. 次に、原告作品について、著作権法46条柱書が適用されるか否かを検討したが、同規定の趣旨は、美術の著作物の原作品が、不特定多数の者が自由に見ることができるような屋外の場所に恒常的に設置された場合は、当該著作物の利用に対し著作権に基づく権利主張を制限なく認めると、1.一般人の行動の自由を適度に抑制することになって好ましくなく、2.このような場合には、一般人による自由利用を許すのが社会的慣行に合致しているし、3.多くは著作者の意思にも沿うと解して差し支えない等の点を総合考慮し、屋外の場所に恒常的に設置された美術の著作物については、一般人による利用を原則的に自由としたものと判示した。
 すると、次のような場合には同条規定の適用はないと解すべきである。1.「一般人」とはどの範囲の者をいうのか明らかでないが、ここでは善良な一般市民のことを意味するならば、常に利益の追求を考えている商業人は含まれないことになり、2.善良な一般市民の自由利用を許すことが社会的慣行であるとするならば、商業人が自由利用することは決して社会的慣行であるとはいい得ないし、3.商業人が商業的に自由利用することは、著作者の意思に沿うものでないことを考えるならば、屋外の場所に恒常的に設置された美術作品であっても、それを商業的目的に商業人が利用するような場合には、著作権法46条柱書の適用はないと解される。商業人がそのような作品を商業的に利用するのは、その作品のパブリシティ・バリュウ、即ち、顧客吸引力を借用したいからであろう。
 このような解釈を妥当とするものとして、46条1号乃至4号に規定する除外例がある。これらの場合は、いずれも商業的目的が明らかに存するからである。
 筆者が、なぜ46条柱書の適用の有無にこだわるかというと、そのような美術の著作物又は建築の著作物を借景として商品の宣伝広告用の写真をとって使用することは、商業的目的をもった利用であるといえるから、同条の除外例規定を類推適用することができると考えるからである。そして、このように解しても、文化的所産の公正な利用を図る著作権法の目的に反することにはならないからである。
3. 判決が、本件のような毎日定期的にバス路線を運行し、夜間は専用駐車場に駐車される市営バスの場合も、一般公衆に解放されている屋外の場所である公道を運行するのだから、原告作品は、「一般公衆に解放されている屋外の場所」又は「一般公衆の見やすい屋外の場所」にあると解したことは妥当だろう。しかし、原告が行動を定期的に運行することが予定された市営バスの車体に描いた原告作品を、屋外の場所に「恒常的に設置したもの」と解したことは疑問である。
 「恒常的設置」の意義について判決は、不動産に固着されたものや一定の場所に固定されたもののような典型的例に限定して解さなければならない合理性はないと判示しているが、ここは著作権の効力を制限する例外規定である以上、屋外に設置されているロダンの「考える人」のような彫刻彫塑作品や建物の外壁面に表現された彫刻作品のような典型的事例に限定して解すべきであり、かく解するのが合理的というべきである。
 まして、定期運行バスは一日に屋外を走る時間は限られているし、夜間は人目に触れない屋内にいるものであるから、文言上も、屋外に恒常的に設置されている美術作品とはいえないし、当該絵バスは、横浜市営バスのうちのただの1台にすぎず、この1台のバスもいずれ将来は塗り変えられてしまう運命にある時限的な美術作品であることを考えるならば、前記ロダンの「考える人」と同列に論ずることはできないのである。
 現に、神奈川県においては例えば相模鉄道の一部の車輛には、車体の左右両側面部に池田満寿夫氏のモダンアートが展開された絵が描かれていたし、江ノ島電鉄の一部の電車の車体の左右両側面部には商品の広告表示が描かれているが、これらは一時的な現象ではあり、社会通念上の恒常的設置作品といい難いものである。
4. 原告作品が車体に描かれた本件バスを撮影した写真を、被告書籍に掲載して販売したことは、著作権法46条4号に規定 する場合に 該当するか否かについて、同規定は、一般人の著作物の利用を自由としたことに対し、著作権者に与える著し い経済的不利益とのバランスを考慮したものであるから、判決は、この観点から本件の場合について考えた。
 そこで、判決は、被告書籍が、幼児向けに写真を用いて町を走る各種自動車を解説する目的で作られた書籍で、各種自動車の写真を幼児が見ることを通じて観察力を養い、勉強の基礎になる好奇心を高めるとの幼児教育的観点から監修されていると解し、表紙及び本文14頁の掲載方法は格別不自然な態様といえないから、原告作品が描かれた本件バスの写真を被告書籍に掲載して販売することは、「専ら」美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又は複製物を販売する行為には該当しないと認定した。
 しかし、なるほど前記のような目的をもって原告作品の写真(複製物)を掲載した被告書籍ではあっても、その写真を他のバスの写真とともに掲載して絵本シリーズの一巻として販売しているのだから、幼児教育の目的の絵本であったとしても、商業的に利用して商業的利益をあげている以上、一般人が撮影した個人用の記念写真の場合とは違うというべきである。
 ただ、46条4号は「専ら」と条件をつけているから、美術館など が発行する絵葉書の販売の場合だけを予想しているとすれば、「専ら」とはいえないかも知れないが、各種の運行バスの絵葉書(写真)を集めて掲載している本と考えるならば、実質的には「美術の著作物の複製物の販売を目的として複製する場合」に該当すると認定することは可能である。
 そう解すると、著作者(原告)の氏名を被告絵本の該当掲載箇所に表示しなかったことに対しては、19条1項の規定(氏 名表示権) に違反すると解することは可能である。

[牛木理一]