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プログラム複製翻案事件: 広島地裁平成9(ワ)1716号.平成12年10月 11日判決(認容)

〔キーワード〕 
プログラムの著作物、複製、翻案、実質的類似性(同一性)、弁・護士費用

 

〔事  実〕

 

 本件は、原告が、被告らに対し、電子計算機(以下「コンピュータ」という。)のプログラム著作権の侵害を主張して損害賠償を請求した事案である。
1 当事者
 原告は、コンピュータプログラムや情報処理システムの開発等を目的とする会社であり、被告J社(以下「被告会社」という。)は、平成7年8月15日にN社、平成10年1月16日に現行の商号に それぞれ商号変更し、かつては不動産業を行っていたが、平成9 年4月1日目的変更後は、コンピュータソフトの開発、販売等を目的としている会社で、被告THは、被告会社の代表者である。被告会社及び被告THを除く被告ら(以下「被告従業員ら」という。)は、いずれも原告の従業員だった者で、被告TT及び同YKはシステム開発、同KY及び同SMは営業、同YKはシステムサービスを担当し、原告退社後、いずれも被告会社の従業員となっている。
2 本件原告プログラム
 原告は、昭和62年から、開発言語としてCOBOLを利用した地方 公共団体の土木工事等の設計積算業務システム(以下、「本件積算システム」という。)のプログラム(以下「原告当初プログラム」という。)を開発、販売していたが、基本ソフトOSを MS-DOSとし、日本語変換システムのFEPとしてJS社(以下 「JS」という。)が著作権を有するATOK7を利用し、開発言語 をCOBOLからMSE社及びW社(以下、「W」という。)が著作権を有するdbMAGICに変更したプログラムの開発を始め、平成5年1月5日、原告からAID社(以下「A」という。)に、Aから H社(以下「H」という。)に、それぞれ右プログラムの開発業務を委託する開発委託契約(以下「本件各委託契約」という。)が締結され、dbMAGIC4.3版を利用したプログラムが開発されて原告により販売された。本件各委託契約では、ソフトウェアに関する一切の権利は、HとA間ではAに、Aと原告間では原告に帰属する旨の約定(以下「本件権利帰属条項」という。)が存在する。原告は、その後、dbMAGIC5.6版を利用したプログラム(以下「本件原告プログラム」という。)を開発販売していたが、右 dbMAGICを利用したプログラムの販売に当たって、メモリーの限界からFEPとしてATOK7を使用しなければならず、JSの許諾を得ずにこれをハードウェアにインストールして、本件原告プログラム等を販売していた。
3 本件複製行為
 被告従業員らは、平成7年4月ころから、原告を退社して別会社でコンピュータソフトの開発販売事業を行うことを計画し、これに利用するため、被告TT及び被告YKが、同年7月22日、本件原告プログラムを原告に無断で複製した(以下「本件複製行為」という。)。
4 本件被告プログラム及び本件各販売行為
 被告会社を除く被告らは、被告会社の業務として、OSをウィンドウズ95とし、dbMAGIC6.0版を利用した本件積算システムのプログラム(以下「本件被告プログラム」という。)を作成し、これを契約日欄記載の日に、納入先欄記載の納入先に納入して、金額欄記載の代金額で、販売先欄記載の相手方に販売した(以下 「本件各販売行為」という。)。本件被告プログラムが本件原告プログラムの原告の著作権を侵害するものであるならば、被告会社を除く被告らが民法709条、719条により、被告会社が同法 715条により、本件各販売行為による損害賠償責任を負うことは 争いがない。
5 証拠保全及び刑事事件
 原告は、被告会社を相手方として、証拠保全を申し立て、右決定により、平成8年6月14日、本件被告プログラムの検証が行われ、これをフロッピーに複製したものが提出された。そして、平成9年10月、著作権法違反事件で被告従業員らが逮捕勾留され、被告従業員らに対し、本件複製行為による著作権法違反の事実で略・式命令が出されたが、被告従業員らが正式裁判を申し立て、平成11年3月24日、被告従業員らを有罪とする一審判決が宣告され、被告従業員らからの控訴及び上告はいずれも棄却され、右一審判・決が確定した。

 

〔判  断〕

 

一 本件プログラムの原告の著作権について
1 本件各委託契約における著作権の帰属について
 本件権利帰属条項は、当事者の合理的意思解釈によれば、仮にHに著作権が発生するならば、HからAに、Aから原告に著作権が譲渡されることを合意したものと解される。したがって、本件原告プログラムについて、原告の著作権を認めることができる。
 被告らは、本件権利帰属条項が、原始的に原告に著作権が発生することを定めた強行規定に違反する無効なものと主張するが、本件権利帰属条項は、著作権等の権利が原告に帰属することを定めるのみで、原告が原始的に著作権を取得することを規定したものではなく(証拠)、右主張を採用することはできない。
2 dbMAGIC著作権侵害と原告の著作権について
 原告は、本件原告プログラム開発の際、複製したdbMAGICを複数のコンピュータに組み込み使用ており、ワコム等では、 dbMAGICは1製品1ユーザの利用を前提とした製品で、1台のコンピュータシステムに使用する使用権を与えるもので、それを超える形態での利用を許諾したことがないことが認められることからは、原告が、dbMAGICを違法に複製して使用していたというべきである。この点、原告は、W等から許諾を得ていた旨主張するが、右許諾があったことを認めるに足りる証拠はない。
 右によれば、W等には、著作権の侵害行為により作成された本件原告プログラムの廃棄請求権等が発生することが認められるが、だからといって、直ちに本件原告プログラムの著作権が否定されるものではない。違法複製の点は、事後的に使用許諾を得て解消することも可能なのであって、廃棄請求権が行使されて確定し、著作物たる本件原告プログラムの存在自体が対世的に否定されるような場合は格別、現に存在する著作物の著作権が対世的に否定されるものではなく、著作権侵害行為の当事者でない第三者がその作成過程の違法を主張して著作権を否定することはできないと解すべきである。
 更に、被告らは、原告の著作権が公序良俗に反する無効なもので、著作権に基づく請求が権利の濫用であると主張するが、著作権侵害行為が極めて悪質な場合に、その行為により作成された著作物の著作権に基づく請求が権利濫用等により許されない場合があることは考えられるにしても、本件においては、原告は、正規に購入したdbMAGICも使用しており、これまでW等から廃棄等を請求されたことはないことからすれば(証拠)、原告の著作権の発生やこれに基づく請求を無効又は権利濫用と言うことはできず、被告らの主張を採用することはできない。
3 ATOK7著作権侵害と原告の著作権について
ATOK7はFEPで、本件原告プログラムから独立した存在であり、ATOK7の違法複製が本件原告プログラムの原告の著作権を否定するものではない。更に、原告は、事後的にJSから許諾を受けたことが認められ(証拠)、ATOK7の違法複製を理由に原告の著作権を否定する被告らの主張を採用することはできない。

二 本件被告プログラムの著作権侵害について
 E作成の報告書及び供述調書によれば、本件被告プログラムは、本件原告プログラムと比較して、名称、属性及び記述順まで一致する一致箇所や、名称の違いだけで記述順やコマンドによる制御などが一致している酷似箇所が相当数認められ、本件原告プログラムをベースとして改造、機能アップ、整理による統廃合が行われたものと推察されること、U作成の回答書及びKの供述調書によれば、本件原告プログラムと本件被告プログラムのソースコードを比較した結果、データ構造が全般にわたりほぼ同一であり、処理部分について、機能の分割方法は、一般にシステムの設計段階において決定され、同一というのはまずあり得ず、更に、その記述内容が数頁にわたりほぼ同一となることはまずあり得ないことながら、分割方法及び内容がほぼ同一であり、本件被告プログラムは、本件原告プログラムをベースに改良したものと推察されること、捜査状況報告書によれば、本件被告プログラム中に、被告従業員らが原告を退職する平成7年6月以前の更新日時が記録されたファイルが確認されたことがそれぞれ認められる。
更に、被告らが、本件複製行為により本件原告プログラムを入手しており、被告従業員らの供述調書及び被告TT本人尋問の結果によれば、被告従業員らが、新たにプログラムを作成していたのでは平成7年中のデモに間に合わないため、本件原告プログラ ムを複製して利用することにし、複製した本件原告プログラムをウィンドウズ95及びdbMAGIC6.0で正常に動作するように修正を加えていったことが認められ、これらの点を総合すれば、本件被告プログラムは、本件原告プログラムを翻案して機能を改良したもので、本件原告プログラムと実質的類似性(同一性)を有し、その著作権を侵害するものと認められる。 被告らは、本件被告プログラムは、被告会社により独自に開発したもので、一部本件原告プログラムの内容を参考にしたり複写して利用した部分はあるものの、本件原告プログラムと同一性を有するものではないと主張し、被告TTはその旨供述するが、OSをウィンドウズ95とし、dbMAGIC6.0ベータ版を利用して開発したことで実質的類似性が否定されるものではなく、前記本件原告プログラムと本件被告プログラムの一致及び類似点は、独自に開発した場合、被告TTらが原告において本件原告プログラムの開発等に関与していたことで説明できるものとは言い難いこと、デモ用のプログラムが、本件原告プログラムに修正を加え平成 7年12月ころ完成したが、その際は印刷機能については完成して おらず、平成8年2月1日、一部の印刷機能が完成したプログラム を玉野市に納入し、同年4月以降完成した本件被告プログラムを 納入していることに照らせば、本件被告プログラムは本件原告プログラムに徐々に修正を加えて完成させていったもので、これとは別個に独自にプログラム開発を行う時間的余裕はなかったと考えられること、証拠保全の際、被告らが、本件被告プログラム中に残っている本件原告プログラムの一部が発覚することを恐れ、dbMAGICのパスワードを明らかにするのを拒否していること等の 事実に照らせば、右被告TTの供述を採用することはできず、他に、本件被告プログラムが本件原告プログラムと実質的類似性を有し、その著作権を侵害するものであるとの認定を覆すに足りる証拠はない。
三 損害額について
1 著作権法114条1項に基づく損害額について
 原告は、同項に規定する利益額について、被告会社の平成7年4月1日から平成11年3月31日までの粗利益又は差引利益を主張す るが、右利益の基礎となる右期間中の売上には、ドッドウエルビーに対するプログラム譲渡代金等本件各販売行為以外の売上が含まれているところ、原告が本件で主張する被告らの著作権侵害行為は、本件複製行為及び本件各販売行為であり、右本件各販売行為以外の売上の内容は明らかではなく、被告らによる著作権侵害行為との因果関係も認めることはできない。ドッドウエルビーに対するプログラム譲渡代金等についても、右プログラムが本件被告プログラムと認めるに足りる証拠はない。結局、本件で原告が主張する著作権侵害行為による被告らの利益額を算定する前提としての売上としては、本件各販売行為の代金合計7140万3480円と認められ、右を超える売上を認めることはできない。
 右売上から控除すべき経費につき、これを原告において明らかにすることは困難で、被告らが、本件各販売行為の売上原価計算を明らかにする旨釈明しながら、結局、明らかにしていないこと、被告会社の決算報告書記載の売上原価としての仕入の内容も明らかでなく、本件各販売行為の経費と認めるに足りる証拠がないこと、同じく一般管理費のうちの給与手当や役員報酬には、被告従業員ら及び被告THの著作権侵害行為に対する対価が含まれるもので、これを経費と認めることはできないこと、その余の一般管理費等も、その内容が不明で本件各販売行為の経費と認められないことに照らせば、結局、本件各販売行為の経費として控除すべきものはなく、原告の損害と推定すべき被告らの利益額を7140万3480円と認めるのが相当である。
 被告らは、利益額について純利益を主張するが、売上及び経費のいずれも右主張を採用できないことは、前述のとおりである。
2 著作権法114条2項に基づく損害額について
 著作権法114条2項の規定は、同条項3項にこれを超える損害に 関する規定があるように、著作権者による損害の立証が困難な場合が存在することにかんがみ、最低限として使用料相当額の損害賠償を認めた趣旨であり、当該著作物について使用権を与える場合に通常受けるであろう使用料相当額をいうものと解される。原告は、本件各販売行為を本件原告プログラムに置き換えた場合の販売価格を右相当額として主張するが、これは、被告らによる第三者に対する本件各販売行為について、その全てを原告が第三者に販売できたとみなして損害を主張するものに他ならず、被告らに対する使用権付与の対価とはいえない。原告の右主張を採用することはできず、他に、本件原告プログラムの使用料相当額を認める証拠はない。
3 実損害額について
 原告は、本件各販売行為代金額を超える得べかりし利益として実損害額を主張するが、本件被告プログラムは、本件原告プログラムの機能を改良したものであり、原告が、本件各販売行為の相手方に本件原告プログラムを販売できたことを認める証拠はなく、右金額を超える原告の実損害を認めることはできない。
4 弁護士費用について
以上により認められる原告の損害額7140万3480円に対し、これとは別個に弁護士費用として700万円を認めるのが相当である。
〔研  究〕
1. 被告プログラムは原告プログラムの著作権を侵害したものであることは、前記諸般の事情から認定されたが、その理由は原告プログラムを一ど複製した後、これを正常に動作するように修正を加えたことは、翻案権の侵害に当たると判断された。原著作物からの翻案に際しては、何らかの創作性の付加があり、それは二次的著作物と呼ばれることになるが、しかし原著作物に基づいて、これを利用して改変していることに変わりないから、実質的同一性ありと判断されたのである。(実質的類似性という概念はおかしい。)
 その意味で、翻案は複製とは違うから、翻案の保護は、著作権法が原著作物の有する創作性(内的表現形式)を保護対象としているものと解することができる。
2. 損害額の算定方法には、(1)著作権法114条1項に基づく場合、(2)同法114条2項に基づく場合とがあるが、売上額を基準に粗利益額を71,403,480円と算定し、これに弁護士費用を7,000,000円 を加算し、合計78,403,480円を損害額と算定し、これを被告の会社と個人6名に対し連帯して支払うよう命令をしたが、損害賠償金額として大きい方になるし、特に弁護士費用800万円の請求を ほぼ満額近く認めたことは注目される。

[牛木理一]