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イラスト事件: 東京地裁平成12(ワ)4632号.平成12年8月29日判決(棄却)〔民47〕

〔キーワード〕 
イラストレーション、著作物の複製・翻案

 

〔判示・認定事項〕 

  1. 本件著作物と被告図柄の間の共通点は少なく、全体として受ける印象もかなり異なっているから、両者に同一性を認めることはできないし、被告図柄から本件著作物の表現形式上の特徴を直接感得することもできない。
  2. 被告図柄は本件著作物を複製又は翻案したものということはできない。

 

〔事  実〕

 

一. 前提となる事実(認定事実には証拠を掲げる。)
1. 原告(土肥洋子)は、昭和47年ころから、カエルをモチーフにしたイラストレーションを描き始め、次のとおり、別紙(二)記号 (1)ないし(4)2.のイラストレーション(以下、各イラストレー ションを順に「本件著作物(1)」ないし「本件著作物(4)2.」といい、これらを併せて「本件著作物」という。)を制作した。
(一) 原告は昭和57年6月29日、本件著作物(1)を含む絵画を制作した。
(二) 原告は昭和57年12月14日、本件著作物(2)を含む絵画を制作 した。
(三) 原告は昭和62年2月12日、本件著作物(3)1.ないし6.を含む童話の原画を制作した。
(四) 原告は昭和62年2月22日、本件著作物(4)1.2.を含む絵画を制作した。
2. 被告(株式会社サンリオ)は昭和63年から被告図柄を制作し、これをケロケロケロッピの名称で、グリーティングカードを始めとするギフト商品に使用し、また、メーカー等に対して被告図柄を衣類、履物、菓子、寝具、台所用品、文房具等に使用することを許諾するなどしている。
二. 本件は、原告が、被告図柄は本件著作物を複製又は翻案したものであって、被告は被告図柄の使用によって、原告が本件著作物及び本件著作物の二次的著作物について有する複製権、翻案権、上演権、放送権、展示権、上映権、頒布権、貸与権を侵害しているほか、原告が本件著作物について有する同一性保持権、公表権、氏名表示権を侵害していると主張し、損害賠償を請求し、併せて原告が被告図柄の著作権を有することの確認等を求めた事案である。

 

〔判  断〕

 

一. 被告図柄が本件著作物を複製又は翻案したものといえるかどうかについて、以下判断する。
1. 被告図柄と本件著作物を対比すると、次の事実が認められる。
(一) 顔の輪郭
 本件著作物と被告図柄は、いずれも横長の楕円とそれに交差する目を表す二つの真円で顔の輪郭を形作っている。しかし、本件著作物では目を表す二つの真円が離れており、その間にも顔の輪郭線が描かれているのに対し、被告図柄では二つの円が隙間なく接している。
(二) 鼻
 本件著作物は顔の中央部に二つの点からなる鼻が描かれているのに対し、被告図柄には鼻が描かれていない。
(三) 目
 本件著作物の目は三重の真円で描かれ、最も内側の円と内側から二番目の円の間(黒目に相当する部分)が青又は青紫色に彩色され、最も内側の円の内部(瞳孔に相当する部分)が白く描かれているもの(本件著作物(1)、(2)、(3)1.ないし4.、(4)1.2.)と、逆U字型のもの(本件著作物(3)5.6.)がある。こ れに対し、被告図柄の目は二重の真円で描かれ、黒目に相当する中央の円が黒く塗りつぶされているもの(被告図柄1.の左目、2.3.5.7.8.)、逆くの字型のもの(被告図柄1.の右目)、逆U字型のもの(被告図柄4.)、目が三重の真円で描かれ、最も内側の円と内側から二番目の円の間が黒色に彩色され、最も内側の円の内部が白く描かれているもの(被告図柄6.)、渦巻き状のもの(被告図柄9.)、二重の楕円で描かれ、黒目に相当する中央の円が黒く塗りつぶされているもの(被告図柄10)がある。
 右の被告図柄1.ないし3.、5.、7.ないし10の目が本件著作物の目と異なることは明らかである。
 右の被告図柄6.の目は、目が三重の真円で描かれ、最も内側の円と内側から二番目の円の間が彩色され、最も内側の円の内部が白く描かれている点において、本件著作物の目と共通するが、本件著作物の目が青又は青紫色に彩色されているのに対し、被告図柄6.の目は黒色に採色されているうえ、最も外側の円の中における内側の二つの円の大きさや配置が、本件著作物の目とは異なっている。また、被告図柄6.の目には最も外側の円に左右二本ずつの睫毛が描かれているが、本件著作物には睫毛がなく、この点でも異なる。
 右の被告図柄4.の目は逆U字型である点において、本件著作物の目と共通するが、目の細かい形や配置は本件著作物の目とは異なる。
(四) 頬
 被告図柄は左右の頬の部分にピンク色又は赤色に彩色された真円が描かれているもの(被告図柄1.、4.ないし7.、9.10)があるが、本件著作物にはこれに相当するものはない。
(五) 口
(1) 本件著作物の口は閉じている場合にはU字型(本件著作物(2)、(4)1.2.)又は逆U字型(本件著作物(1))に輪郭線で 描かれており、U字型の場合は口の両端が線で止められている。これに対し、被告図柄の口は輪郭線で描かれており、 V字型に描かれているもの(被告図柄1.3.5.6.9.)、U字型に描かれているもの(被告図柄2.4.10)、波線で描かれているもの(被告図柄7.)、横に直線で描かれているもの(被告図柄8.)がある。
 右の被告図柄1.3.5.ないし9.の口が、本件著作物の閉じている口と異なることは明らかである。
 右の被告図柄3.4.10の口はU字型に輪郭線で描かれているが、口の両端を止める線はなく、U字の形も本件著作物とは異なる。
(2) 本件著作物の口の中には大きく開かれているものがあり(本件著作物(3)2.ないし6.)、開いた口の中央にはすべて 濃いピンク色に彩色された小さなハート型が描かれている。また、正面を向いている図柄の場合、口は横方向に顔いっぱいに大きく開かれ、その形はひょうたん型で、内部が薄いピンク色に彩色されている(本件著作物(3)3.5.6.)。これに 対し、被告図柄の口は閉じられている。
 なお、〈証拠〉によると、ケロケロケロッピと称されるキャラクターの一部には、口を開けたものも存するが、その場合の口は縦長又は横長の小さな楕円であり、最も大きい場合でも片目の円より小さく描かれ、口の内部には何も描かれていないことが認められる。
(六) 手
 本件著作物の手は腕に相当する細い部分があり、その先端に二又の手袋状の手が描かれているのに対し、被告図柄の手は腕に相当する部分がなく、胴体から直接、三又の手が出ているように描かれている。
(七) 足
 本件著作物の足は脚に相当する細長い部分があり、その先端にピンク色の靴を履いているのに対し、被告図柄の足は脚に相当する部分がなく、胴体から直接、三又の足が出ているように描かれている。また、被告図柄の足は短く靴も履いていない。
(八) 頭と身体のバランス
 本件著作物は頭(顔)部分よりも身体部分の方が長く、〈証拠〉によると、その割合は必ずしも一定しておらず、平均すると約2頭身になるものと認められる。これに対し、被告図柄は頭(顔)部分が身体部分より長く、被告図柄10を除いて、その割合はほぼ一定しており、約1.5頭身であると認められる。
(九) 色
 本件著作物は顔、腕、手及び脚が青緑色(本件著作物(1)(2))又は緑色(本件著作物(3)1.ないし6.、(4)1.2.)に彩色されているのに対し、被告図柄は顔、手及び足が薄い黄緑色(被告図柄1.ないし5.、7.)、薄い緑色(被告図柄6.10)又は黄緑色(被告図柄8.9.)に彩色されている。
2. 右1認定の事実によると、本件著作物と被告図柄の間には、顔顔の輪郭が横長の楕円とそれに交差する目を表す二つの真円で形作られているという共通点があるが、顔の輪郭について右1(一) 認定の、顔を構成する主要な要素である鼻、目、頬及び口について右1(二)ないし(五)認定の、手,足及び頭と身体のバランスについて右1(六)ないし(八)認定の、色について右1(九)認定の各相違 点が存することが認められる。
 なお、右1認定の事実によると、本件著作物の各著作物と被告図柄の各図柄を個々に比べた場合には、目及び口について部分的に共通する点があるが、その場合でも、共通する部分の細部は異なっているし、共通する部分以外の部分には大きな相違が存することが認められる。
 したがって、本件著作物と被告図柄の間の共通点は少なく、全体として受ける印象もかなり異なっているということができるから、本件著作物と被告図柄の同一性を認めることはできないし、被告図柄から本件著作物の表現形式上の特徴を直接感得することもできない。
3. よって、その余の点について判断するまでもなく、被告図柄が本件著作物を複製又は翻案したものということはできない。
〔研  究〕
1. この事件は、平面的なイラストレーション(絵)が立体的なぬいぐるみのような人形に商品化されることが、著作物の複製又は翻案といえるかという法律問題が問われるはずであったが、内容的には、両者の実質的同一性の有無が争われて終わった事案である。
 このような平面作品対立体作品の関係は、著作権法上は「複製」と解釈するよりも、「翻案(変形)」と解釈するのが妥当であるが、ただ翻案の場合は、二次的著作物としての翻案行為に創作性が存することが条件であるから、創作性の有無を確認する必要がある(著27条、2条1項11号)。これに対し、「複製」に創作性の要求はなく、単に「有形的に再製」したことが明確になればよい。
 したがって、判決においては、この2つの概念を単純に同列に使用することは矛盾となるから、誤解を与えないように注意すべきである。
2. 本件において、被告は人形のデザインを創作するに際し、原告の絵を見てそこからアイディアないしイメージを借用したとしても、それだけでは複製にも翻案(変形)にもならないから、複製権又は翻案権の侵害とならないと判断した判決は妥当である。

[牛木理一]