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イラスト事件: 東京地裁平成10(ワ)29546号.平成11年7月23日判決 (棄却)〔民47〕 |
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| 〔キーワード〕 | |||
| イラストレーション、著作物の複製 | |||
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〔判示・認定事項〕 |
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〔事 実〕 | ||
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1. 原告(鈴木潤)はイラストレーターであり、被告は映画,放送番組,広告の企画・制作,広告代理業及びイベントのプロデュース等を業とする会社である。 2. 原告は、女優坂井真紀の人物画である別紙目録(一)のイラス トレーション(以下、「本件著作物」という。)を含む映画宣伝用のチラシを著作した。 3. 被告(株式会社東京優勝)は、TVLIFE誌平成10年9月25日号の 124頁に、別紙目録(二)のイラストレーション(以下「被告イラストレーション」という。)を使用したタレント等の新人オーディションの広告を掲載した。 4. 本件は、原告が、「被告イラストレーションは本件著作物の複製権を侵害している。」と主張し、右複製権に基づく被告イラストレーションの使用差止めを求めた事案であり、争点は、被告イラストレーションが本件著作物の複製かどうかである。 |
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〔判 断〕 | ||
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一 被告イラストレーションが本件著作物を複製したものかどう かについて判断する。 1.著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるもの、すなわち、実質的に同一のものを再製することをいう。 2.そこで、本件著作物と被告イラストレーションを対比すると、次のようにいうことができる。 (一) 顔の輪郭 本件著作物の顔の輪郭は、上半部は、ほぼ半円であるが、下半部は、やや小さく、縦長なだ円の円弧状であるため、頬から顎にかけた付近がやや尖った印象を与え、全体としても縦に長い顔に見えるのに対し、被告イラストレーションの輪郭は真円に近く、全体として横に広い顔に見える。 (二) 目・眉 本件著作物の目と被告イラストレーションの目とを対比すると、目の形状が銀杏の実のような形状で、瞳が大きく描かれていることは共通するが、目の上半部の輪郭は、本件著作物と被告イラストレーションとでは異なっており、瞳の色も本件著作物が茶色であるのに対し、被告イラストレーションでは紫に近い色になっている。また、被告イラストレーションの目は、本件著作物よりも顔に占める面積が大きく、本件著作物ほど両目が離れていない。さらに、睫の形状・本数、眉の長さ・太さ、眉と目との位置関係のいずれにおいても、本件著作物と被告イラストレーションとでは違いがある。 (三) 鼻 本件著作物の鼻と被告イラストレーションの鼻とを対比すると、口に近い位置に配置されている点は共通するが、本件著作物の鼻は、立体的で、鼻の穴がやや見えるような形状であるのに対し、被告イラストレーションの鼻は、鼻の穴が見えるようには表現されておらず、全体の形状も異なる。 (四) 口・唇 本件著作物と被告イラストレーションでは、口の形状が明らかに異なり、上下唇の合った線も、本件著作物ではほぼ直線であるのに対し、被告イラストレーションでは円弧状になっている。 (五) 頬 本件著作物の頬はピンク色で、ハイライトが存在するが、被告イラストレーションの頬は濃い赤色で、ハイライトはない。 (六) 耳 本件著作物は耳が描かれていないが、被告イラストレーションは比較的大きな耳が描かれている。 (七) 髪型 本件著作物の髪型がショートへアであるのに対し、被告イラストレーションの髪型はロングヘアで、形状も全く異なる。 (八) 手・腕・足 本件著作物と被告イラストレーションでは、片手を前、もう一方の手を後ろにし、足はこれと左右逆であることは共通するが、腕の振り方・角度、足の開き加減、前になった足の膝の角度、後ろの足の膝下の跳ね上げ方が異なる。 (九) バッグ 本件著作物のバッグと被告イラストレーションのバッグとを対比すると、バッグを肩から後ろへ向かって掛けていることは、共通するが、バッグの色、形、肩ひもの形状は異なる。 3. 右2認定の事実によると、被告イラストレーションは、本件著作物とは、顔の輪郭の上半部が円形であること、目の形状が銀杏の実のような形状で、瞳が大きく描かれていること、鼻が口に近い位置に配置されていること、片手を前、もう一方の手を後ろにし、足はこれと左右逆であること、バッグを肩から後ろへ向かって掛けていることが共通する。 しかし、本件著作物と被告イラストレーションとでは、顔のうち、その同一性を左右する主要な部分について右2(一)ないし(七)認定のとおり違いがあるから、右のような共通する点があるとしても、顔について同一性を認めることはできず、また顔以外の部分にも、右2(八)、(九)認定のとおり違いがある。したがって、本件著作物と被告イラストレーションの同一性を認めることはできない。 よって、その余の点について判断するまでもなく、被告イラストレーションが本件著作物の複製であるとは認められない。 |
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| 〔研 究〕 | |||
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この事件は、イラストレーションに関する著作権侵害において「複製」とは何かが争われた初歩的な事案である。 イラストレーションも美術の著作物に属する作品であるが、この両者のイラストを対比して見ると、顔の表情や身体の走っているイメージには共通性が存し、被告は原告の絵を見て、そのイメージを利用して別紙目録(二)の絵を描いたかも知れないと思われる。しか し、それだけでは著作物の複製とはならない。換言すれば、被告の絵には原告の絵からのアイディアないしイメージの借用はあっても、それだけでは複製とはいえない。わが国著作権法2条1項15号本文は、複製物とは、「印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいい」と規定するから、判示されているように「実質的に同一のもの」と認識されるものでない以上、複製権の侵害とはならない。妥当な判決である。 |
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[牛木理一] |
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