D-14

 

キャンディ・キャンディ第4事件:東京地裁平成11年(ワ)20712号平成12年12月26日判決(認容)〔民46〕

 

〔キーワード〕

連載漫画、原著作物、二次的著作物、原画、依拠、共同不法行為、過失、使用料
〔事  実〕
 原告(名木田恵子)は、本件連載漫画を連載の各回毎にストーリーを創作し、小説形式にした原作原稿を作成し、これを被告(五十嵐優美子)に渡し、五十嵐が右原稿に基づいて漫画を作成するという手順で制作され、講談社発行の月刊少女漫画雑誌「なかよし」の各連載分には、その扉絵に、作者として、「いがらしゆみこ」というペンネームとともに「原作 水木杏子」という原告のペンネームが表示されていた。
 この事件の最大の争点は、被告が描いた本件連載漫画の登場人物の絵のみの使用許諾に基いて絵を利用する行為に対し、原告の本件連載漫画の原著作者としての権利が及ぶかどうかであった。
 また、原告の被った損害額も争点となり、原告は、財産的損害として著作権法114条1項及び114条2項による損害額を計上し、また精神的損害(慰謝料)と弁護士費用を請求した。
〔判  断〕
1 争点1(本件連載漫画の登場人物の絵のみを利用する行為に対し、原告の本件連載漫画の原著作者としての権利が及ぶかどうか)について
(一) 本件連載漫画の制作の経過によれば、本件連載漫画は、原告の創作した原作原稿を原著作物とする二次的著作物に該当すると認められる。
 著作権法28条は、「二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。」と規定するものであり、右規定によれば、原著作物の著作者は、二次的著作物の利用に関して、二次的著作物の著作者と同一の権利を有するものというべきである。
 同条は「同一の種類の権利」と規定するが、これは、二次的著作物の利用に関して、原著作物の著作者が二次的著作物の著作者と全く同一の内容の権利を有することを前提とした上で、二次的著作物においてその著作者の有する権利の内容が原著作物においてその著作者の有する権利の内容と種類を異にする場合であっても、そのような権利の種類の異同にかかわらず、二次的著作物においてその著作者に認められる権利であれば、これを原著作物の著作者が有することを明らかにしたものと解するのが、相当である。
 したがって、原著作物の著作者は、二次的著作物の一部の利用に関しても、それが原著作物の内容を覚知できる部分かどうかにかかわらず、二次的著作物の著作者と同様の権利を有するものである。
 けだし、二次的著作物は、原著作物を基礎としてこれに新たな創作的要素を付加して作成されるものであるから、その性質上当然に、原著作物の内容をそのまま引き継ぐ部分と、二次的著作物において新たに付与された創作的部分の双方を有するものであるところ、両者を区別することは実際上困難なことが多く、両者を区別して扱うこととすれば二次的著作物の利用をめぐる権利関係が著しく複雑となり、法的安定性を害する結果となること、また、二次的著作物における新たな創作的部分で あっても、原著作物の内容による制約の下で付与されるものであり、原著作物の創作性に全く依拠しないとはいえないことなどから、著作権法は、両者を区別しないで二次的著作物の利用全般について、原著作物の著作者が二次的著作物の著作者と全く同一の権利を有するものとしたと解するのが合理的だからである。この点に関して被告五十嵐らの引用する判例(最高裁昭和51年(オ)第923号同55年3月28日第三小法廷判決・民集34巻3号44頁)は、本件とは事案を異にするものであって、本件に適切でない。
 漫画は、ストーリー展開、登場人物の台詞、コマ割りの構成、登場人物や背景の絵などの諸要素が不可分一体として有機的に結合したものであり、言語的要素と絵画的要素が有機的に結語した著作物である。一般に、著作権者は、第三者が著作物の一部のみを複製する行為に対しても、著作権の侵害を理由として差止め等を求めることができるものであり、これを漫画についていえば、漫画の著作権者は、第三者が漫画を構成する要素の一部である絵画的要素のみを利用する行為、例えば漫画の登場人物の絵のみを複製する行為に対しても、著作権の侵害を理由として差止め等を求めることができる。そうであれば、ストーリー原稿を原著作物として漫画が作成されている場合においては、原著作物の著作者(原作者、著述家)は、二次的著作物の著作者(作画者、漫画家)と同様、当該漫画の登場人物の絵のみを複製する行為に対しても、著作権侵害を理由として差止め等を求めることができるというべきである。
(二) また、被告五十嵐及び被告アイプロは、本件においては、原告から被告五十嵐に本件連載漫画の第1回連載分の原作原稿が交付される前に、被告五十嵐によりキャンディ原画及びキャンディ予告原画が作成されていたから、本件連載漫画における主人公キャンディの絵は、原告作成の原作原稿に依拠することなく作成されたものであり、キャンディ原画ないしキャンディ予告原画の吹く生物ないし翻案物であって、原作原稿を原著作物とする二次的著作物に該当しないと主張する。
 なるほど、漫画の登場人物の絵として、既存の別個の漫画の登場人物の絵を使用した場合(例えば、手塚治虫の漫画においては、複数の作品を通じて、「ヒゲオヤジ」「ランプ」「ヒョウタンツギ」などの人物が脇役として登場している。)、既存のオリジナルキャラクター(例えば、「ハロー・キティ」など)を使用した場合や、漫画以外の既存の著作物における絵を使用した場合(例えば、漫画「ポケットモンスター」においては、先行して発売された同名の携帯液晶ゲーム機用ソフトに登場する様々なモンスターが登場している。)は、漫画における当該登場人物の絵は、既存の他の著作物における絵の複製であり、当該漫画の作画を担当した漫画家は当該登場人物の絵について著作権を有しないものであるから、当該漫画につきそのストーリー原稿を作成した者(著述家)がいたとしても、その者は、当該登場人物の絵については、原著作物の著作者としての権利を有しないこととなる。
 しかし、本件においては、証拠及び弁論の全趣旨によれば、1.昭和49年秋、「なかよし」編集部は、当時「なかよし」に連載中の被告五十嵐の著作に係る漫画「ひとりぼっちの太陽」の連載終了後に、同被告による新たな連載漫画を「なかよし」に連載することを企画し、被告五十嵐の担当編集者であった清水が同被告との間で新たな連載漫画の構想を話し合うなかで、新連載漫画については、「なかよし」昭和50年4月号から連載を 開始し、ストーリーの作成を原告が担当し、作画を被告五十嵐が担当することが決まり、昭和49年11月までの間に、清水は、被告五十嵐及び原告とそれぞれ個別に打合せを行って、新連載漫画につき、舞台を外国として、主人公である孤児の少女が逆境に負けずに明るく生きていく姿を描くなどの、漫画の舞台設定、主人公の性格や基本的筋立て等の基本的構想を決定したこと、2.右に引き続いて、同年11月、原告と被告五十嵐は、清水を交えて初めての打合せを行い、「なかよし」昭和50年4月号 に掲載する連載第一回分の筋立てのほか、「なかよし」同年3月号に同漫画の予告を掲載するために必要な、漫画の題名、 主人公の名前、キャラクター等について各自の意見を交換したが、その際、被告五十嵐は、携帯していたB5判の無地のレポート用紙綴りに、主人公のラフスケッチ(キャンディ原画)を描いたこと、3.右打合せの結果を踏まえて、原告は、本件連載漫画の連載第一回分の原作原稿を執筆していたところ、これと並行して、被告五十嵐は、清水からの依頼に基づき、「なかよし」3月号に掲載する本件連載漫画の予告用の主人公キャンディのカット画(キャンディ予告原画)を作成して、昭和50年1月8日ころまでに清水に渡したこと、4.その後、同年1月中旬 に、被告五十嵐は、原告の作成した連載第一回分の原作原稿を、清水から受領したこと、が認められる。
 右事実関係に照らせば、キャンディ原画は、原告、被告五十嵐と編集者との間で本件連載漫画の基本構想が決まった後に、三者で主人公の名前、キャラクターについての意見を交換している際に、被告五十嵐が主人公の少女の容貌についての一案を提示する目的でその場で描いたものであって、本件連載漫画における主人公キャンディの絵との関係でいえば、下書きないし習作というべきものであり、キャンディ予告原画も、本件連載漫画の予告掲載のため、昭和50年1月初めに、三者の右打合せの結果を踏まえて主人公キャンディの暫定的な予定画として作成されたものであって、いずれも、原作原稿において予定されていた主人公の性格等の特徴に合致するように、本件連載漫画の制作作業の一環として作成されたものである。右によれば、キャンディ原画及びキャンディ予告原画は、いずれも、本件連載漫画のストーリーと無関係に独立して作成されたものということができず、本件連載漫画の制作経過を全体としてみれば、キャンディ原画及びキャンディ予告原画は、本件連載漫画における主人公キャンディの絵と一体として、原告作成の原作原稿に依拠して作成されたものというべきである。したがって、結果的に、本件連載漫画において描かれた主人公キャンディの絵がキャンディ原画ないしキャンディ予告原画と同一ないし類似するものであったとしても、本件連載漫画の絵が、これらに依拠して作成されたということはできず、これらの複製ないし翻案に当たるということはできない。被告五十嵐らの前記主張は、採用することができない。
 また、本件連載漫画におけるキャンディ以外の登場人物の絵については、原告による原作原稿作成以前に被告五十嵐によりこれらの絵の原画が作成されていたことを認めるに足りる証拠はないから、被告五十嵐らの主張はその前提を欠くものであって、これ以上の検討を要するまでもなく、失当である。
(三) 以上によれば、本件連載漫画の登場人物の絵のみを利用する行為に対しても、原告は、本件連載漫画の原著作物の著作者として、著作権を行使し得るものというべきである。
2 争点2(本件商品の販売について、被告アドワーク及び被告朝井が責任を負うかどうか)について
 証拠及び弁論の全趣旨によれば、1.被告アドワークは、被告五十嵐及び同被告の委任を受けて本件連載漫画について同被告の有する著作権を管理する被告アイプロの許諾を得て、本件連載漫画のキャラクターの商品化事業を遂行していたものであり、被告アドワークの専務取締役職にあった被告朝井は、右商品化事業の担当者としてこれに中心的に関与したこと、2.被告アドワークは、被告五十嵐と共に、原告から提起された先行訴訟の相手方となっていたが、被告朝井始めとする被告アドワークの担当者は、右訴訟の対応において、被告五十嵐の当時の代理人弁護士から、原告は本件連載漫画作成の際に参考資料等の提供をしただけであって、本件連載漫画について著作権を有するのは被告五十嵐のみである旨及び仮に原告に何らかの権利があったとしても、本件連載漫画のストーリーを用いないで登場人物の絵を使用するだけであれば著作権法上の問題を生じない旨の説明を受けていたこと、3.被告アドワークは、平成10年4月ころ、被告五十嵐の当時の代理人 弁護士が作成した、本件連載漫画について著作権を有するのは被告五十嵐のみである旨及び仮に原告に何らかの権利があったとしても、本件連載漫画のストーリーを用いないで登場人物の絵を使用するだけであれば、著作権法上の問題を生じない旨を説明した書面の交付を受けていたことが認められる。
 右認定事実によれば、被告らは、本件連載漫画について著作権を有するのは被告五十嵐のみである旨及び仮に原告に何らかの権利があったとしても、本件連載漫画のストーリーを用いないで登場人物の絵を使用するだけであれば著作権法上の問題を生じない旨の共通認識の下で、共同して、本件連載漫画のキャラクターの商品化事業として、被告アドワークによる本件商品の製造販売を遂行したものと認められるから、本件商品の製造販売による原告の著作権の侵害については、各自、共同不法行為者として責任を負担するものというべきである。
 被告アドワーク及び被告朝井は、自己の過失を争うが、右被告らは、本件連載漫画の登場人物の絵の使用について著作権法上の問題を生じないかどうかを、それぞれの事業の遂行に当たり、各自、自己の責任により判断すべきものであるところ、前記認定事実に加えて、「なかよし」における本件連載漫画の各連載分に 「原作 水木杏子」という形で原告のペンネームが表示されていたことに照らせば、本件連載漫画の登場人物の絵の使用につき、原告が何らかの権利を有することは容易に知り得べきものであったから、被告五十嵐ないし同被告の当時の代理人弁護士の説明を軽信して、本件商品の製造販売に関与した被告アドワーク及び被告カバヤに、過失があったことは明らかである。
3 争点3(原告の被った損害の額)について
(一) 著作権法114条1項に基づく損害額の主張の許否について
(1) 著作権法114条1項は、民法709条の特別規定であり、損害額についての権利者の立証責任を軽減するものである。すなわち、権利者としては、民法709条に基づいて損害賠償を請 求するためには、1.故意・過失、2.他人の権利の侵害(違法性)、3.損害の発生、4.侵害と損害との因果関係、5.損害の額を主張立証しなければならないところ、右のうち4.(損害と侵害との因果関係)及び5.(損害の額)については、一般にその立証に困難を伴うことから、権利者の権利行使を容易にするため、これについての推定規定を設けたものであって、特許法102条2項、実用新案法29条2項、意匠法39条2項及び商標法38条2項と同趣旨の規定である。
 そして、右規定により推定されるのは前記不法行為の要件事実中の4.(損害と侵害との因果関係)及び5.(損害の額)についてであって、3.(損害の発生)までが推定されるものではないから、著作権法114条1項に基づく損害を主張してその損害を求める者は、損害の発生を主張立証しなければならない。
 しかし、著作権者は著作物を利用する権利を専有するものであって(著作権法21条ないし27条)、市場において当該著作物の利用を通じて独占的に利益を得る地位を法的に保証されていることに照らせば、侵害者が著作権を侵害する物を販売等する行為は、市場において侵害品の数量に対応する真正品の需要を奪うことを意味するものであり、著作権者は、侵害者の右行為により、現在又は将来市場においてこれに対応する数量の真正品を販売等する機会を喪失することで、右販売等により得られるはずの利益を失うことによる損害を被ると解するのが相当である。すなわち、侵害者が侵害品の販売等を行った時期に著作権者が実際に著作物の利用行為を行っていなかったとしても、著作権者において著作権の保護期間が満了するまでの間に当該著作物を利用する可能性を有していたのであれば、侵害者の行為により著作権者に損害を生じたということができる。
 そうすると、著作権者は、侵害行為が行われた時点において著作物を具体的に利用する行為を行っていないとしても、特段の事情がない限り、著作権の保護期間の満了までの間に著作物を利用する可能性を有するものであるから、侵害者に対して、著作権法114条1項の規定に基づく損害額の賠償を求めることができるというべきである。
(2) 右のとおり、著作権者が著作権法114条1項に基づく損害額を主張してその賠償を求めるためには、著作権者が著作物を利用する行為を行っていることを要するものではない。
 しかし、著作権者が著作権法114条1項に基づく損害額を主張することができるのは、著作権者が、著作物を専有し、自らの権原のみに基づいて著作物を利用することが可能であり、他方、侵害者により販売等のされる侵害品が真正品と同内容の物として互いに排他的な競争関係に立つことから、損害品の販売等による利益をもって著作権者が真正品の販売等により得ることのできたはずの利益と等価関係に立つという擬制が可能なことによるものというべきであるから、このような前提が存在しないことが明らかな場合には、著作権法114 条1項に基づく損害額を主張することは許されないというべ きである。
 そうすると、著作権者の原著作物として二次的著作物が作成されている場合において、侵害者が二次的著作物の著作権を侵害する物を販売等している場合や、著作権者の著作物を原著作物として、侵害者が無許諾で二次的著作物を作成してこれを販売等している場合には、著作権者(原著作物の著作権者)は、著作権法114条1項に基づく損害額を主張することは許されないと解するのが相当である。けだし、二次的著作物は原著作物に依拠してこれを翻案したものであるといっても、原著作物に新たな創作的要素を付加したものとして、原著作物から独立した別個の著作物として著作権法上の保護を受けるものであって、原著作物の著作権者であっても二次的著作物の著作権者の許諾なくしては二次的著作物の利用を行うことができず、また、二次的著作物の販売等により得られた利益には二次的著作物において新たに付加された創作的部分の対価に相当する部分が含まれているからである。即ち、右のような場合には、原著作物の著作権者は自らの権原のみでは二次的著作物を利用することができず、また、侵害者が二次的著作物を販売等したことにより得た利益をもって原著作物の著作権者の得べかりし利益と等価関係に立つということもできないから、原著作物の著作権者は、著作権法114条 1項に基づく損害額の賠償を求めることができない。
(3) したがって、本件において、原告は、本件連載漫画につき原著作物の著作権者としての権利を有するにすぎないから、二次的著作物である本件連載漫画の複製権を侵害する物品の販売に対し、原告が著作権法114条1項に基づく損害額の賠償を求める点は失当である。
(二) 著作権法114条2項に基づく損害額について
(1) そこで、原告の著作権法114条2項に基づく損害額について検討する。
 証拠及び弁論の全趣旨によれば、1.被告五十嵐・被告アイプロと被告アドワークとの間では、本件連載漫画の商品化事業に関して、本件商標のロイヤリティにつき、通信販売では定価で計算した売上額から配送料を控除した額の5%、展示 会等における販売では定価で計算した売上額の5%とする旨 を合意したこと、2.被告アドワークは、定価計算で合計 1648万円分の本件複製現場を通信販売により販売し、被告五十嵐・被告アイプロに対して、右額から配送料21万8400円を控除した残額1626万1600円の5%に当たる81万3080円の使用 料の支払い義務を負担すること、3.被告アドワークは、定価計算で合計796万7400円分の本件関連商品を展示会等におい て販売し、被告五十嵐・被告アイプロに対して、右額の5% に当たる39万8370円の使用料の支払い義務を負担すること、が認められる。
 右事実関係に照らせば、被告五十嵐・被告アイプロと被告アドワークとの間における本件商品のロイヤリティに関する合意は、被告五十嵐が本件連載漫画の登場人物の絵の使用についてのすべての権利を有することを前提として、商品化契約としての通常の交渉の結果合意された額と認めることができるから、右合意により定められた使用料をもって、本件連載漫画の登場人物の絵を商品化した場合に第三者から支払われるべき通常の使用料と認めるのが相当である。
(2) 本件連載漫画については、原告は原著作物の著作者として、被告五十嵐は二次的著作物の著作者としてそれぞれ権利を有するものであるところ、商品化事業により第三者から支払われる使用料の両者の間での分配割合は、特段の事情のない限り各2分の1というべきであり、通常のキャラクター商品においては各2分の1の割合により分配すべきものであるが、当該商品の性質に照らし一方の寄与度が他方のそれを大きく上回るようなものについては、右割合によらず当該商品の性質に応じた合理的な割合により分配すべきものである。
 これを本件についてみると、本件関連商品については、通常のキャラクター商品として、原告と被告五十嵐とがそれぞれ2分の1の割合により使用料を分配すべきものであるが、本件複製原画については、1.商品化事業に当たり、被告五十嵐が構図を決めて下絵を作成するなどの新たな作業を行ったものであって、このような被告五十嵐の作業が本件複製原画の完成に果たした役割は小さくないこと、2.本件複製原画の購入者は、室内装飾に用いるなど絵画としてこれを鑑賞することを主たる目的として購入するものと考えられること、などの点を考慮すると、通常のキャラクター商品と異なり作画者である被告五十嵐の寄与の度合いが原告のそれを大きく上回るから、原告と被告五十嵐が1対4の割合により使用料を分配すべきものと認めるのが相当である。
 この点につき、被告アドワーク及び被告朝井は、原告と被告五十嵐との間に本件連載漫画の二次的利用に関する契約 (平成7年11月15日付け)が存在し、右契約においては本件 連載漫画の絵のみを表現手段とする利用によって生じた利益につき原告20%被告五十嵐80%の割合で分配する旨合意されていることを理由に、本件における著作権法114条2項に基づく損害額の算定においても、本件関連商品を含めた本件商品全部について原告の取得すべき漠を右割合に基づいて算定すべきであると主張する。しかし、右契約についてはこれが締結された経緯が明らかでない上(証拠に照らしても、被告アドワークらの主張するように、個々の商品化事業における利用形態の違いによる原著作者の創作性の影響の差異を考慮に入れて合理的な分配割合として合意されたものであると直ちに認めることはできない。)、右契約にいう「漫画の絵のみを表現手段とする利用」というのが具体的にどのような利用形態を想定したものかに明らかでなく、また、被告五十嵐及び被告アイプロにおいて右契約は、既に平成9年7月4日に解 除されたものとしてその効力を否定していることなどを考慮すれば、右契約の存在を理由として直ちに、本件商品全部について使用料を原告と被告五十嵐との間で1対4の割合で分配すべきものと認めることはできない。
 そうすると、原告が著作権法114条2項に基づいて主張することのできる損害の額は、被告アドワークが被告五十嵐・被告アイプロに対して負担する、本件複製原画についての使用料81万3080円の5分の1に当たる16万2616円と、本件関連商品についての使用料39万8370円の2分の1に当たる19万9185円の合計額36万1801円と認められる。
(三) 精神的損害(慰謝料)について
 本件において侵害された原告の権利は、財産権である著作権(複製権)であり、原告の人格的利益が著しく侵害されたとまでは認められず、被告らの不法行為により原告の生じた損害については、右の財産的損害の賠償により回復されることに照らせば、これに加えて慰謝料請求を認める必要があるとはいえない。
(四) 弁護士費用について
 本件における原告の請求の内容、本件事案の性質、本件訴訟の審理経過その他の事情を総合考慮すれば、被告らによる著作権の侵害行為と相当因果関係あるものとして被告らに負担させるべき弁護士費用としては、50万円をもって相当と認める。
(五) 損害額合計
 右によれば、原告は、被告らに対して、86万1801円の連帯支払を求めることができる。

 

〔研  究〕

 

1. 第1の争点についての地裁判決の論理構成を見ると、連載漫画「キャンディ・キャンディ」の主人公の「キャンディ」が「なかよし」に登場してストーリーが始まる前に、すでに「キャンディ」の原画は五十嵐優美子(被告)によって完成していた。
 新たに連載する漫画の構想は、担当編集者とストーリー作家と漫画家の三者が話し合って決めたが、その時、主人公の性格や基本的筋立てなどの基本的構想を決定したという。また、三者で キャラクターについての意見交換をし、五十嵐は連載漫画の予告掲載のためのキャンディの予告原画を作成したが、これは、原作原稿に予定されていた「主人公の性格等の特徴に合致するように」、本件連載漫画の制作作業の一環として作成されたという。
 このような考え方から判決は、五十嵐が作成した前記「キャンディ」の原画や予告原画は、いずれも原告作成の原作原稿に依拠して作成されたものというべきである」と認定した。しかし、この認定のために判決は、「本件連載漫画における主人公キャン ディの絵と一体として」というが、この意味は不明である。五十嵐が「キャンディ」の原画や予告原画を創作した時点では、まだ名木田による原作原稿なるものは存在していなかったのであるから、判決の前記のような前提解釈はおかしいといえる。
 五十嵐が依拠した「キャンディ」の絵は、自らが創作した原画や予告原画であって、その後に渡される名木田の原作原稿に依拠したものではない。また、原作原稿には主人公の言動についてのストーリーは書いてあっても、主人公の絵自体は何にも書かれていない。判決は、五十嵐の作成した本件連載漫画の絵が、その原画や予告原画に依拠して作成されたということはできないと認定するが、この認定は最初の原画や予告原画の存在という原因を無視ないし忘却し、その後のストーリーについて見ている考え方である。
 したがって、判決が原因の存在を直視したならば、五十嵐の描いた主人公の絵はその原画や予告原画に依拠した複製であり、名木田の原作原稿に依拠して作成されたものではないといえるから、前記のような認定と反対の認定ができたはずである。
2. ところで、この地裁判決を読むと、キャラクター自体の存在をその絵を離れて想定しているふしが十分うかがえる。ということは、主人公の絵を作成した五十嵐に対しても、商品化事業を行った被告フジサンケイアドワークに対しても、原告のどのキャラクターを複製ないし翻案したのかについての特定と具体的な対比を
全くしておらず、単に原告の原作原稿を根拠にしているだけである。
 しかし、このような考え方は、かつての「サザエさん」事件 (D−8.東京地裁昭和51.5.26判決)を想起するのみならず、 それ以上に論理の飛躍が見られるといえる。
 被告五十嵐が依拠したと認定された原告の原作原稿は、ストーリーという観念の世界を展開しているものであるのに対し、被告五十嵐の漫画自体は絵という具体的表現物であり、両者は別次元の作品であるから、後者は前者に依拠したものとはいえない。
 「サザエさん」判決では、「話題や筋がどのようなものであっても、そこに登場する人物がサザエ、カツオ、ワカメであると認められれば、漫画『サザエさん』である。」と認定している。とすれば、「話題や筋がどのようなものであっても、そこに登場する人物がキャンディであると認められれば、漫画『キャンディ・キャンディ』である。」と認定することができるのである。

[牛木理一]